●リプレイ本文
●まずはご挨拶〜おやおや‥‥〜
小さな森の中にある、湖に面した小さな古城。
その地方領主の屋敷である古城周辺には、小さな城下町のようなたたずまいが広がっていた。
ここ数日の間は、領主の10人の娘の一人が結婚を執り行うということで、村全体は又しても派手な飾り付けが行われていた。
──領主の古城・応接間
そこは小さな応接間。
今回の結婚式の総合演出を受けた冒険者達が案内され、そこで件の領主と、今回の主役である花嫁と御対面。
「まずは、今回の依頼を受けていただいて感謝する」
そう切り出したのは領主。
「この子にとって最高に素晴らしい演出を愉しみにしている。結婚式には、様々な土地から大勢の人がやってくる。そこの所を忘れずに、頑張っていただきたい」
そう告げると、領主と花嫁は深々と頭を下げた。
「判りました。精一杯頑張らせて戴きます」
それはアンジェリーヌ・ピアーズ(ea1545)。
流暢なゲルマン語で、丁寧に返事を返した。
「ん? おお、シャクリローゼ殿とマイ殿ではないか。今回もよろしく頼みますぞ。うむうむ」
領主は、今回の依頼を受けた冒険者の中に顔見知りがいるのを見て、どうやら安心したようである。
ちなみにシャクリローゼ・ライラ(ea2762)は古城の地下室掃除で、マイは領主のバースデーパーティでこの古城を訪れたことがある。
二人は領主の言葉に静かに頭を下げて、軽く挨拶を交わした。
──メイドルーム
さて、領主との謁見を終えた一行を待っていたのは、俗に言う『お着替えターイム!!』である。
そのままメイドルームに向かうと、メイド全体の監督である執事長に挨拶。
「ご苦労様です。では、みなさん着替えてからそれぞれ配置について仕事をして下さい。時間も余り無いので、どうぞよろしく御願いします」
ちょっとキツめの『ナイス・ミセス』。
その表現がよく似合いそうな執事長から、今回の依頼に付いての詳しい内容について、説明を受ける。
その執事長の説明を受けた後、一行はドレスルームへと案内された。
──ドレスルーム
普段からメイド服を着慣れていない冒険者達には、ここでメイド服を各自支給され、着付まで徹底して教えられた。
彼女達に与えられた制服は、他のメイド達のものとは少し違うデザイン。
ここのメイド達と『冒険者』とをはっきりと区別するために用意されたものであるらしく、恐らくは特注品であろう。
領主付きメイド達の制服は、すごくシンプルなスタイル。紺色のフレアスカートのワンピースにカチューシャ、そして純白のエプロンが付いている。
前回に引き続き、今回も冒険者達に支給されたメイドスーツは、ワインレッド色のセパレートタイプドレスである。
動きやすいようにスカートと肩がフワリとしているのが特徴らしいが、それでも他のメイドとははっきりと区別がつく。
パーラーメイド達にはロングエプロンとカチューシャ、胸許には赤いリボンが付いている。
キッチンメイド達にはロングエプロンと、胸許には青いリボン。
コックには当然ながらコックコートと呼ばれる純白のコートが支給されていた。
そして、ウェディングプロデューサーには、メイドスーツではなく、ボルドーレッドに染められたプレーンドレス。
ロングエプロンもカチューシャもない。
但し、その胸許には純白のリボンが付けられていた。
「それではよろしく御願いします。私は、結婚式に参加しないメイド達の監督業務もありますので失礼しますが、何かありましたらいつでもおっしゃってください」
「判りました。それではよろしく御願いします」
皇荊姫(ea1685)が丁寧に挨拶をすると、一行はまずは細かい打ち合わせのために、結婚式の会場に集合した。
●結婚式会場〜これは、中々良い感じ?〜
そこは広々とした空間。
恐らくは昔、ここは教会だったのではないだろうか。
天井は果てしなく高く、窓には『セーラ神』を思わせるデザインの綺麗なステンドグラスが張付けられている。
「それでは役割分担を決めましょうね‥‥といっても、ここに来るまでに、大体の打ち合わせは終っていますので、あとは、各チームに分かれて作業を行ないましょう」
荊姫がそう告げると、一同は静かにうなずいた。
──厨房
そこは巨大な厨房。
大勢の料理人が、まるで戦場で戦っているかの如く仕事を行なっている。
「じゃーん」
前回とは違い、今回は厨房のど真ん中を確保した一行。
そのデシャップ(盛付台)に今回のメニューを書いた羊皮紙を広げるのはエリック・プラン(ea5589)。
ちなみにメニューはこんな感じ。
・前菜
裏ごししたそら豆の濾し汁
湖と森の幸を使った前菜
・メイン
香草を添えた兎肉のロースト
大きなキジ丸ごと一羽
果実や香草の詰め物をした子豚
・焼きパン
果物の甘露煮を添えたパイ
挽肉や肝臓のパイ
香草とスモークサーモンのキッシュ
・縁起を担いだ長ーいパン
・デザート
花梨の実の野サラダ
糖菓
肉桂入り甘葡萄酒
「‥‥これを、私達で作るのですか?」
アンジェリーヌがそう告げる。
「まさかぁ。私達だけでは、作れる訳ないよ。当然ながら、ここの料理人さん達にも手伝ってもらうよ」
マイ・グリン(ea5380)がそう言いながら、後ろに控えている一人の人物を紹介した。
「という事で、今回手伝いしていただくコック長兼シェフの『リン・クジョー』さんです」
そのマイの言葉に、コック長が帽子を取って挨拶。
「それでは、これを見て的確な意見を御願いします」
インヒ・ムン(ea1656)がそう言いながら、メニュー表を手渡す。
「ふむふむ‥‥ふむ? ふーーむふむふむ‥‥いいんでない?」
あら、あっさり。
「それで、足りない食材や人手は、お借りできるのですか?」
カオル・ヴァールハイト(ea3548)がそう問い掛ける。
「こちらの料理人も手が空いているからねぇ。まあ、好きな人にいつでも声を掛けてくれればいいよ。食材は、食糧庫の全てを使っていいから」
そう呟くと、リン・クジョーは小さな帽子を二つ、マイとエリックの頭の上にチョコンと乗せた。
それはシフールサイズのコック帽。
「シェフ殿と同じでは?」
エリックがそう問い掛けるが、リン・クジョーはにんまりと笑う。
「この期間は君達がシェフだよ。よろしく頼むね」
そう告げると、一旦持ち場に戻って指示を飛ばすリン・クジョー。
「さてと、各料理に必要なものはと‥‥」
マイが次々と必要な食材をかき出す。
それを元に、マイは下拵えを開始。足りない食材についてはキッチンメイド達に指示を出し、狩りに向かってもらう。
そしてエリックは‥‥
「はい、それではこのメニューの方から行きます!! 真心を込めてヨロシクねー。そちらではこっちの下拵えを御願いします。愛情いっぱいの料理を御願いします」
次々と指示を飛ばして下っ端コックを使うエリック。
なお、今回の一件で、エリックはここのコック達から『厨房という戦場の真ん中で愛を叫ぶシフール』と呼ばれる事になったとか。
──湖畔の森
食材調達任務についたキッチンメイド一行。
それぞれが持ち前の知識をフル動員して、足りない食材の調達を行なっていた模様。
「大体はここでそろいそうですね‥‥」
背中に籠を背負ったメイド、アンジェリーヌがそう言いながらハーブ採取を続ける。
この森は幸いなことに、自生している香草が彼方此方に点在している。
様々な環境の整った良い場所だと、アンジェリーヌは心から思った。
「湖畔の静かな森。その向うにはなだらかな丘陵と古城。そして小さな城下町と田園風景‥‥」
良い環境がこの香草たちを育てているんだなと、アンジェリーヌは理解した。
「あら、ここに居ましたか」
同じく背中に籠を背負っていたインヒが、アンジェリーヌの元に合流。
その籠には、彼女がムーンアローで落とした鳥たちが入っている。
羽根を傷つけただけで、まだ生きている模様。
「ええ。そちらはどうですか?」
「良い大きさのキジがなんとか。もう少し頑張らないと、数が足りなくなりますね」
そのままアンジェリーヌとインヒは採取続行。
その頃、カオルはと言うと‥‥
「ゼイゼイ‥‥」
返り血で全身を紅色に染めるカオル。
「騎士としての嗜み‥‥少し、ブランクがあったか?」
ふらふらとした脚でゆっくりと立上がると、カオルは剣に突いた血を振り拭う。
彼女の目の前には、巨大な豚が1頭。
そしてその周囲に、子豚達が6頭、母豚の周囲をうろうろしている。
まさか、こんな豚如きに手間取るとは思っていなかったのかもしれない。
母は強しを、体で味わったカオルである。
「さて、急いで処理しないと。獣肉は臭みがあるって言ってたからな」
そう呟くと、カオルは再び立上がると、次々と子豚を瞬殺。
そして急いで血抜きをすると、そのまま借りてきた台車に放り込み、自分の愛馬にまたがって城へと走り出した。
●ホールは大慌て〜飾り付けが大変で〜
──結婚式会場
そこでは大勢のメイド達が走りまわっていた。
ここまで2日、結婚式の準備に2日、式当日、そして帰路2日と、冒険者達のタイムスケジュールはぎっちりである。
「これでフラワーシャワー用の花の調達はOKね」
それは荊姫。
プロデューサーともなれば、各部署のチェックを行なったり指示を飛ばすという仕事がある。
それを行ないながらも演出を決定し、必要な人材や材料を調達するなど、彼女の仕事は他のセクションのそれよりも多い。
「ここのリボンは、これで大丈夫でしょうか?」
天井でそう告げるのはシャクリローゼ。
会場の飾り付けで、人の手の届かないところはシフールの彼女の出番である。
「ええ。そうですね。もう少し右‥‥そう、そのま真っ直ぐ真っ直ぐ‥‥」
ホールでシャクリローゼに指示を飛ばしているのはティーナ・ラスティア(ea4662)。
「ここで本当に大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。良い感じに飾り付けられましたよ」
そのまま二人一組で作業を続けるティーナとシャクリローゼ。
──ガチャッ
「‥‥ふう。やっと戻りましたぁ」
そう話ながらドアを開いたのはリュリュ・アルビレオ(ea4167)。
彼女は準備期間中は各部所の手伝いを、そして式当日は総合司会を担当。
色々と必要なものが出てくると、それを買い出しに走るのも彼女の仕事らしい。
今回は『ミラベル』の調達の為に、城下街を走りまわっていたようだ。
その結果、街の中央にある商人ギルドに出向いて、そこで直接『果物売り』の商人と交渉に入ったらしい。
彼女も商人としての知識をある程度は学んでいたらしく、交渉は以外とスムーズに進んだ。
「お待たせしましたぁ。これで何とか間に合いますぅ?」
リュリュが荊姫にそう話し掛ける。
「あら、良い香りね。これならいい感じに仕上がりますね」
荊姫、満足。
ついさっきまでは、メイド達に色々と指示を飛ばしていた挙げ句、一人のメイドがドジを踏んでしまったため、やれやれと困り果てていたのである。
が、それもエレンディラのフォローでなんとかなった模様。
「さて、困りましたわねぇ」
腕を組みながら考え込んでいたのはエレンディラ・エアレンディル(ea2860)。
つい先程、エレンディラは新郎新婦の元に出向き、二人の馴れ初めなど、様々な事を聞いていた。
彼女はノルマン語を話せないため、ここに来る前に冒険者ギルドに出向くと、そこで通訳のシフールを紹介してもらった。
が、その報酬額が破格に高かったため、やむなく断念。
ちなみにお値段はというと、今回の依頼期間全ての通訳で、なんと10G。
まあ、プロの通訳なのでそれ位は当たり前なのかもしれないが。
やむなくエレンディラは、メイドの中でシフール共通語の話せるものを捜しては、たどたどしいシフール共通語で会話を行なっていた。
なお、新郎新婦との会話の際は、新郎がシフール共通語を使えたので、彼に通訳を頼んだということ。
で、今困っているのは、その原稿がうまく纏まらないからである。
手伝って貰うにも、会話が殆ど成立しない以上、自分で全てを成し遂げなくてはならない。
その間にも、会場設営や接待の講習なども入ってくる。
果たして間に合うか、エレンディラ。
●式当日〜ハプニング発生しました〜
──パーティー会場
そんなこんなで当日の朝。
すでにコックチームは出勤し、最後の打ち合わせを行なっている。
キッチンメイド達は料理の説明と、それを出す順番、今回の来客の嗜好などを一つ一つコック長から説明を受けている。
その間にも、パーラーメイド達はギリギリまで設営スタンバイ。
「もう一度タイムスケジュールを確認してくださいね。あの塔の日時計を参考にして、全ての時間をきっちりと‥‥」
荊姫が、窓の外に見える時計塔を指差しながらそう説明する。
時計塔には巨大な日時計が設置されており、農作業を行なっている者たちからもはっきりと見えるような場所に立っていた。
この土地では、あの日時計で全ての人が時間を知ることが出来ていたのである。
「では、一つ一つ確認しますね‥‥」
荊姫がそう言いながら、スケジュールとそれに必要なものの確認を取っている。
「披露宴はお昼過ぎ‥‥この時間にキッチンメイドさん達が料理の取り分けを行ないます。皆さんは、飲み物を確認し、的確にそれらを給仕して下さい」
そして次々と確認が続いた。
披露宴の前の衣裳合わせ、着替えやメーキャップなどはエレンディラが担当。新婦が中座した際にも、彼女はそのまま新婦のメーキャップを担当する。
「美しく見せる為に、精一杯頑張らせて戴きますわ」
そしてケーキの手配、その後のファーストバイトの演出など、確認項目が次々と増えていく。
「私の出番はその辺りですね」
「私もですね。とにかく愉しい時間を作れるようにします」
シャクリローゼとティーナは接客を中心に行動する予定。
その後のドラジェと呼ばれる婚礼菓子のサービス、そして待ってましたの余興ター──イム。
今回、余興タイムに参加するのはインヒとカオルの二人である。
果たして何を見せてくれるのか‥‥。
「フラワーシャワーの準備は出来ていますし、あとはこのダブリリースの設定だけですね‥‥」
そう呟きながら、ダブリリース用に用意してあった鳩の入っている籠をトントンと叩く。
が、中からは何も音が聞こえない。
──ケーン、ケーン!!
あ、キジが入っている模様です‥‥って?
「‥‥嫌な感じね‥‥」
荊姫がそう告げながら籠の中身を確認する。
はい、中にはキジが入っていました。
それも数十羽。
「鳩は? 私の用意した鳩がいないわ!!」
取り敢えず、他の確認を優先して作業を続ける。
そして終了後、メイド達は全員で一斉に鳩捜しを始めた。
──その頃の厨房
「あれ? 鳩料理なんて‥‥って‥‥うわぁぁぁぁぁ」
マイが、コックの捌いている鳩を見て絶叫する。
「キジはどうしたの? キジは‥‥」
そのマイの声に、コック、慌ててメニューの確認。
「うぇぇぇぇぃ。間違えたぁぁぁ」
既に時遅し。
鳩は完全にバラされていました。
この後、鳩をバラしたコックは、コック長に連れ出されてこってりと絞られたことは、言うまでもない‥‥。
そして荊姫が厨房に辿りついた時は、既に鳩は美味しい料理に変えられてしまいましたとさ。
「仕方ないわ。ダブリリースはパス。そのままブーケトスの後、新郎新婦の退場、送賓と‥‥」
急遽予定の変更。
そしてそれらの打ち合わせが終ったとき、すでに開場1時間前。
●そして結婚式〜夢のような出来事でした〜
──結婚式会場
盛大な拍手が会場に響き渡る。
いよいよ披露宴がスタートする。
会場であるパーティールームには、大勢の貴族達が集まり、皆テーブルに付いている。
「それでは、新郎新婦の入場です。皆様、盛大な拍手でお迎えください!!」
司会進行であるリュリュが、満面の笑みを浮かべてそう叫ぶ。
会場が広いため、良く声が通るように腹に力をいれて叫ぶようにして話しているのである。
それでいて叫び声にはならないように、トーンを変えてみたりしているのは、司会としての務めであろう。
「さあ、出番ですわ。皆様にも幸せを分け与えてくださいね」
エレンディラが、外の戸口で新郎新婦に告げる。
と、二人はにっこりと笑みを浮かべて、ゆっくりと、そして力強く肯いたのである。
──ガチャッ
扉が開き、今一度盛大な拍手が響く。
そして楽団の演奏と同時に、二人はゆっくりと深紅の絨毯を歩きはじめた。
(うわ‥‥始まる始まる)
(失敗しませんように‥‥)
その光景を、壁際で見ているシャクリローゼとティーナは心臓が爆発しそうである。
「給仕始まりますわよ」
そう伝言が二人に伝えられ、横の小さい扉から、様々な飲み物の乗せられたワゴンが到着する。
「では、張り切って始めましょう」
「スマイルスマイル‥‥」
二人はそこからワインやジュースを取り出すと、テーブルを順番に回りはじめた。
そのタイミングで、エレンディラの用意した原稿を静かに読み上げるリュリュ。
二人の生い立ちから出会い、恋の物語と、甘く、そしてちょっぴり笑える物語が次々と披露されていく。
「料理いきます」
その反対側、ちょうど厨房の近くに作られているドアから、マイが中を覗きこんでいる。
料理を出すタイミングをじっと見ているようであった。
そして飲み物が全員に行き渡ると、いよいよパーティー料理の登場である。
キッチンメイド達がワゴンを押しながらそれぞれのテーブルに付く。
「こちらは前菜でございます」
アンジェリーヌが丁寧に説明を開始。
「こちらは新鮮なそら豆を使って作ったスープでございます」
その横では、インヒが料理についての説明を開始。
カオルはというと‥‥
(落ち着け‥‥落ち着け私)
少し落ち着けないカオル。
この後、余興の時にカオルは、この大勢の人の前で『舞』を舞うのである。
その為の衣裳を用意するために、カオルはある踊り子を捜していた。
だが、彼女は気まぐれ。
自分の踊りを大勢の人に見てもらうために、今でもこのノルマンの何処かを旅しているのであろう。
幸いなことに、その踊り子とはシャクリローゼも面識があったため、二人の知恵を振り絞って踊り子の衣裳を作り上げた。
「次は、こちらの料理になります‥‥」
動揺をお客様に知られぬよう、カオルは必死に説明を続けていた。
そして一人ずつ丁寧に挨拶すると、料理を取り分けはじめた。
そして始まったケーキカット。
巨大なケーキが会場に持ち込まれる。
一昔前までは、ケーキカットといえば小さいビスケットを砕いて、花嫁に掛けるというものであった。
いつの頃からか、このように巨大なケーキを作り出し、それを新郎新婦がカット。
来賓にサービスするようになったのである。
いずれにしても、『新婚の二人から幸せのおすそ分け』という意味は変わらない。
「ここからは愉しい一時を過ごしてください。シェフ自慢の料理も次々と運びこまれます。お飲み物が足りない時は、どうぞお近くのメイドにお申し付けください」
これでリュリュの前半の仕事は終了。
そしてしばし愉しい一時が過ぎて‥‥。
──余興
一旦新郎新婦が中座した。
衣裳を着替えるためである。
そして次の衣裳を着替えてきたとき、パーティーは更に華やかさを増していった。
ドラジェサービスも無事に終え、そしていよいよ余興が始まる。
楽団が奏でるセレナーデ。
まるで月から舞い降りた天使のようないでたちで、カオルが静かに舞い始める。
そのあとは、インヒが琵琶を鳴らしながらの弾き語り。
愉しい物語が次々と披露され、会場は瞬く間に笑顔で埋めつくされた。
そのあとはお決まりの挙式。
そしてフラワーシャワー、ブーケトスと、華やかさはいよいよクライマックスに達した。
花嫁のブーケを手にしたのは、この領主の末娘。
笑顔を見せつつ、なにやら困った様子である。
まあ、これはまた別の話。
──そして終宴
最後の客が会場を後にする。
それを見送り、扉が静かに閉じられた直後、荊姫はそのまま意識を失ってしまった。
達成感と疲労が同時に襲いかかってきたのであるから、無理もないであろう。
そして後片付けは城のメイド達の仕事であるため、一行はそのまま着替えて一休み。
「この度は、本当にありがとうございます」
疲れきった体に活力を与えてくれたのは、冒険者達の元を訪れた新郎新婦の笑顔であった。
報酬なんてどうでもいい。
この笑顔が見たかったと、一行は心の中で思ったであろう。
パリに戻るための馬車が用意され、冒険者達は城下街を後にした。
この経験は、きっとこれから先も、大勢の人多々に幸せを与えるために役立つだろうと。
そんな想いを胸に秘めて。
〜FIN〜