【精霊の宴】盟約するのは誰?

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月25日〜05月05日

リプレイ公開日:2009年05月03日

●オープニング

──事件の冒頭
「精霊の加護を受けたいのか‥‥」
 一杯目のハーブティーを飲み干した後、プロスト卿は静かに目の前の来客に話し掛ける。
「はい。精霊さん達の加護を得る為に。そのために、精霊さんたちの探索に向かおうかと思っています」
 そうニコリと微笑みながら告げるのは、来客であるサクラ・フリューゲル(eb8317)。
「そのために、この剣が必要という事ですか。いいでしょう。出発する時期とメンバーが決まったら、1度全員でここにやってきて下さい」
 そう告げられて、サクラは満面の笑みでお礼を告げると、そのままその場を後にした。

‥‥‥‥
‥‥‥
‥‥


「で、レナード。あの子達の探す精霊について、何か心当りがあるのか?」
「そうですねぇ‥‥。おおまかには。で、ミハイル、貴方のそれで、彼女達のさがしものは判りますか?」
 そう問い掛けられて、ミハイルはカバンの中から一つの帽子を取り出すと、それを頭にかぶった。
──ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥツ
 ミハイルの中に、膨大な知識が流れ込んでくる。
「盟約を結ぶ相手はミドルヒドラ、アドゥール、ダンディドッグ、ウェールズ、ホルス、ルームの6つか。さてさて、どうなるか愉しみぢゃのう」
 にこやかにそう告げるミハイル。
「知識の帽子ですか。精霊武具の一つ、知識の額冠の対となる帽子。額冠を失ったので、そちらを引っ張り出したと言うことですか?」
「まあな。こいつが倉庫に眠っているのをすっかり忘れておったわ。以前使っていた精霊武具は全て失ったので、あの立体迷宮から一式回収してきたわ‥‥」
 そう告げると、帽子をバックに仕舞い込むミハイル。
「で、助力はしてあげるのですか?」
「試行錯誤の上、息詰まったときにはな。何も考えずに頼ってくるのなら、ワシはなにもしらん。若いうちは、苦労は努力して買えぢゃよ」
「まあ、そうでしょうねぇ‥‥で、貴方はこれからどうするのですか?」
 そうプロスト卿か近くの壁に立っている人物に問い掛ける。
「新しい依巫が必要だな‥‥この肉体はオレを拒絶しているから‥‥」
「とはいえ、魂の分離など、そうそう出来るものではありませんよ? そもそもデビノマニなど、異端審問官が腰をあげたら抹殺対象ですから‥‥」
「そうだな。ま、幸いにも、この本体を好いてくれているものがその方法を模索している。肉体の消滅の前に、早くなんとかしてほしいというのが心情だ‥‥」
 と静かに呟く。
「御目付役は本日はどこに?」
「外で待機している。ここにくるのは、正式な手続きを行なったうえで、ヨハネス執務官の許可を貰ってきている。あいつは、オレの知識を必要としているからなぁ‥‥それじゃあ」
 と告げて、その『少女』は静かにその場をあとにした。
「さて、どうしますか?」
「まあ、あいつのことは皆にまかしておこう。それに、今は精霊達の件で忙しいからのう‥‥」
 と告げつつ、おかわりのハーブティーを頼むミハイルであった。

●今回の参加者

 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1585 リル・リル(17歳・♀・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea2004 クリス・ラインハルト(28歳・♀・バード・人間・ロシア王国)
 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea4107 ラシュディア・バルトン(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb2174 八代 樹(50歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb8226 レア・クラウス(19歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ec0583 鳳 美夕(30歳・♀・パラディン・人間・ジャパン)
 ec0713 シャロン・オブライエン(23歳・♀・パラディン・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●精霊は留まることなく、絶えず彷徨う
──パリ・王宮図書館
 パリ王城、王宮図書館。
 精霊と盟約を結ぶ為、その為の手掛りを求めてサクラ・フリューゲル(eb8317)とディーネ・ノート(ea1542)、八代樹(eb2174)の3名は、ここ王宮図書館へとやってきていた。
 少しでもいい、どんな手がかりでも構わない。
 その思いが、彼女達の中にみちあふれていた。
「‥‥これでいくつめでしょうか?」
 大量に置かれている写本やスクロールを前に、サクラが静かにそう呟く。
「100以上であることは確かですね。でも参りましたわ。多少知識はあるので、それほど難しくないと思っていましたのに‥‥」
 八代が疲れたようにそう告げる。
 4大精霊ならば、どのような場所に姿を見せるのか、どのような場所に存在するのかというのはおおよそ予測はできた。
 だが残りの月と陽精霊については、まったくといってよいほど見当がつかない。
 なにより、八代にはゲルマン語で記された専門書を読みとく力がなかった。
 それらの文献はサクラやディーネに任せたのだが、普通の書物ならいざ知らず、専門書ともなると、記されている文字はゲルマン語ではなく古代魔法語や精霊碑。
 そうなると、流石のディーネでもお手上げ状態。
「これで最後‥‥と」
 静かに読み終えたスクロールを巻もどしつつ、ディーネがそう呟く。
 3人で調べたスクロールの数は185、写本95、石碑・粘土版41。
 それらにはヒントは全く隠されていない。
 そして問題なのは、調べおえた数の倍以上の専門書がまだ残っているということ。
「‥‥これは後日、ラシュディアさんかだれかに御願いするしかありませんね‥‥」
 サクラも静かにそう告げると、一行は1度この場所を後にした。
 

──吟遊詩人ギルド
「あれ? 『ザンク!!』さんはー?」
 場所は変わって吟遊詩人ギルド。
 ここを訪れたリル・リル(ea1585)は、ギルド員に『ザンク!!』さんの居場所を訪ねていた。
「さあねぇ。どこかまたフラッと旅をしているんじゃないかなー。いつもみたいに、優秀な吟遊詩人をスカウトしてあるいていると思うけれど?」
 と告げるギルド員。
「そうですかー。少し上の書庫、見てきて構いませんか?」
「ああ構わないね。登録ギルドメンバーならべつに自由に見てきて構わないよ」
 と告げられて、クリス・ラインハルト(ea2004)とリルの二人は二階の書庫へと向かう。
 静かに竪琴の音が鳴り響く室内。
 そこに置かれている様々な伝承や文献から、二人は精霊にまつわるものを捜していた。
「あったぁ!! これですよ!!」
 クリスがそう叫んで、ここ最近のものらしいスクロールを引っ張り出す。
 一つのスクロールに記されているタイトルは、『6つの精霊との約束』。
「それですよ! おめでと♪〜」
 愉しそうにそう告げるリル。
 そして二人はテーブルの上で、スクロールを開くと、ゆっくりと内容を確認した。
 そこには、ミハイル・ジョーンズが精霊達の元を訪れ、6つの精霊武具を手に入れたときの物語が書き記されていた。
「‥‥あははははぁぁぁぁっ」
「ミハイルじーちゃんだったーーーーー」
 一気に笑い始める二人。
「でも、この最初の部分、これってヒントですよねー?」
 そう呟きつつ、クリスが物語の第一章を読みはじめる。
 そこには、『精霊と盟約を結ぶ為の試練』について記されている。
 精霊武具を得、そして盟約を結ぶ。
 精霊武具が道標となり、それを得たものが盟約を結べる。
 ただし、これは本来の方法ではない。
 ミハイルはその本来の方法を『行う事が出来なかった』為、この方法を用いたと記されている。
「ふむふむ‥‥」
「いよいよ核心部分だぁぁぁぁぁ」
 と、いつでも二人はクライマックス状態。
 そして先を読もうとした刹那。
──ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン
 その部分が虫食い状態。
「こんなオチなんていらないぃぃぃぃぃ」
「じっちゃぁぁぁぁぁぁぁん」
 書庫で絶叫する二人であったとさ。
 さらに別スクロールなどから、同じ様な経験をした人を探す二人。
 
 そして夜中。

「これです!! この伝承ですっ!!」
 クリスが見付けたのは、殆ど朽ちかけている一枚のスクロール。
 そこには、『精霊騎士』の文字が記されている。
 内容はほとんど読めない。
 だが、読める部分を紐解いていくと、はるかな昔、精霊と心を通わせた騎士が、精霊達の力を借りて悪しき魔竜を対峙したという物語が記されていた。
 その時の精霊騎士の持っていた剣が『精霊剣フェアリィサークル』。
 そして騎士は精霊達との盟約を結ぶ為、いくつもの試練を越えてきたという。
 伝承に伝えられる精霊の住まう土地に向かい、数多くの精霊と触れ合い、そして信頼を得た。
 その土地はこのノルマンに位置する。
 それらの土地については、遥かなる海にある孤島や、深い深い地下の奥、風の吹きぬける谷など、どれも抽象的な事しか記されていない。
 けれど、それはあきらかに道標となっていた。
「これよ!! これこそが精霊達に出会う場所ょっ!!」
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
 愉しそうにそう叫ぶ二人。
 後は仲間たちにこの事を告げて、それぞれが道を探しに向かう必要があった。


●やがて、疲れた精霊達は癒しを求め、静かなる地にて眠りにつく。
──パリ・魔術師ギルド
「おや、どこの何方かと思いましたら、ラシュディアさん。一体本日はどんな御用で?」
 パリのとある場所に位置する魔術師ギルド。
 そこの受付で、ラシュディア・バルトン(ea4107)は受け付けの青年にそう告げられる。
「ええっと‥‥何方でしたか?」
「ああ、御忘れのようで。まあ、いいでしょう。で、本日はどのようなご用件で?」
 そう告げられると気になってしょうがない。
「以前お会いしたことがありましたか?」
「ええ。色々とねぇ‥‥で、本日はどのようなご用件で?」
 という感じで、会話が噛み合わない。
「すいません。精霊についていろいろと調べたい事がありましたので、書庫の使用許可を御願いします」
 そう告げるのは同行しているクレア・エルスハイマー(ea2884)。
「あ、書庫の使用申請ですか。ギルドの紋章はお持ちで?」
 そう告げられると、クレアは懐から『イスパニア王国公認魔術師証』を取出すと、それを見せる。
「ほほーう。これは。久しぶりに高位魔術師の証明がみれるとは。では、書庫のほうをご自由に。封印書庫は入室禁止ですので‥‥」
 と告げられ、鍵束を受け取るクレア。
「‥‥俺の方は‥‥。と」
 ラシュディアはプロスト卿から受け取っていた『プロスト辺境伯付魔導師の証』を取出し、それを見せる。
「プロスト卿の弟子でもありますよね。フリーパスですので、奥へどうぞ」
 とあっさり入室可能。
 そのまま奥に向かうと、書庫に入室。
 司書官立ち会いの元で、調べものを開始することとなった。

「‥‥つまり、ここ最近は上位精霊はこのノルマンに殆ど姿を表わしていないということですか?」
 一通りの調査ののち、クレアはギルドの研究員に精霊について話を伺っていた。
「ええ。ドレスタット方面でヴァルキューレが確認された以外、上位精霊の確認報告というのは記録に残っていませんね」
「では、中位及び下位クラスの精霊ではいかがでしょうか?」
 そのクレアの問いには、ギルド員も困った顔をしている。
「ここ最近ですが、下位精霊はかなりの数が確認されています。冒険者達が手懐けたり飼っていたりするものが殆どですが。ですが、中位クラスとなると数はかなり激減していますね‥‥普通に確認できる場所でしたら、プロスト城地下立体迷宮、アビス地下迷宮では確認が報告されています。それ以外ですと、シャルトル地方に古くから住まう『精霊の民』という者たちが、精霊信仰を続けていると伝えられています」
 その報告を聞きつつ、ラシュディアは静かに何かを考えている。
「精霊の民か‥‥」
 ふと思い出す。
 今は存在しない古き民。
 シャルトル南方動乱の際に、彼等は全て滅ぼされてしまっていた。
「精霊の民は、もうこの世には残っていない筈だ‥‥」
 そのラシュディアの言葉を聞いて、クレアは頭を捻る。
「手掛りは、プロスト辺境伯のとこだけか‥‥邪魔したな」
 そう告げて、ラシュディアは静かに外に出ていった。
「ちょっと、待って下さい!!」
 と、クレアも慌ててラシュディアのあとを追いかけて行った。


●眠りをほどくのは、一つの歌、一つの剣、一つの魂
──シャルトル・ノルマン江戸村・冒険者酒場『のるまん亭』
「六大の精霊力、それぞれに対応する精霊ね‥‥」
 静かにテーブルの上に広げられている羊皮紙を見つめつつ、レア・クラウス(eb8226)はそう呟く。
 既に他のメンバー達は、あちこちで情報収集を行なってきた。
 当のレアもまた、自分の知識をフル動員し、残った情報は図書館などで調べてきたらしい。
 ちなみに、ディーネや八代、サクラから貰った図書館の情報をたよりに、レアも調査を行なってみたらしいが、やはりネックは古代魔法語と精霊碑の二つ。
「まあ、精霊達の性格などから考えた上で、おおよそどのへんにいるかというところは予測が付きました‥‥」
 レアのその言葉に、一同は静かに話を聞いている。
「最上位精霊が私達の住まう世界に姿をあらわしたことは、過去の事例などからほぼ0ですね。つまり、精霊達にあう為には、もう一度『精霊界』へと向かう必要があるということです」
 そう告げると、ダウジングペンデュラムを取出し、ノルマンの地図の上に掲げる。
「ほら。ペンデュラムはどこでも反応がありませんね?」
 そう告げつつ地図の上でペンデュラムを動かすレア。
──スッ‥‥
 だが、一ヶ所だけ、ペンデュラムが反応を示した。
「その場所は?」
 そう鳳美夕(ec0583)が問い掛ける。
「月夜谷の遺跡群。かつて、じいさんがアトランティスに向かう道を開いた場所だな」
 当時、ラシュディアはそこにいけなかったが、話しは聞いている。
「ということは、そこから『精霊界』へと向かえと言うことなのか?」
 シャロン・オブライエン(ec0713)もそう問い掛けるが、それにたいしての答えはでてこない。
「かも知れないが‥‥まあ、まだなんともいえないか」
 と、切れ味の悪い返事をしつつ、ラシュディアもまた何かを思考している。
「そういえば美夕、阿修羅寺院はどうだったの?」
 クリスがそう美夕に問い掛ける。
「フィーム様には許可を戴いています。精霊との盟約に付いても、戒律には違反しないということですから」
 とにこやかに告げる美夕。
「オレも、冒険者ギルドで色々と調べてきたのだが‥‥ノルマンでは、上位精霊の出現についての報告書は確認できなかった‥‥つまり、前例はまったくなく、それらについての情報も皆無ということだった‥‥」
 ばつが悪そうに頭を掻きつつそう告げるシャロン。
「まあ、とりあえず精霊剣はオレが預かっていいんだな?」
 とシャロンが告げると、クリスが静かに肯く。
「よろしくおねがいしますね。それじゃあ、これから何処に向かいますか?」
 そうクリスが全員に問い掛けると、レアが地図を指差して一言。
「月夜谷遺跡に決定!!」
 ということで、メンバー全員が出発の準備を開始した。



●静かに祈りなさい。ほら、聞こえてくるでしょう?
──シャルトル・月夜谷遺跡
 静かな深夜。
 月明かりに照らされている遺跡群。
 その中央に、件のサークルが存在する。
 ヘキサグラムと円、そして様々な見知らぬ文字配列によって作られた巨大魔法陣。
 ヘキサグラムの頂点の台座と、その中央の魔法陣によって、ミハイル・ジョーンズはアトランティスへと旅立つことができた。
「ここから向かうのですか?」
 クリスが不安げにそう問い掛けると、ラシュディアが静かに肯く。
「ここの文字配列とかは、ミハイルじーさんの所で見たことがあるから。起動も出来るがどうする?」
 そう問い掛けるラシュディアに、クレアが一言。
「ここまできた以上は、先に進むしかないわよね。で、どうするのかしら?」
 そう告げられると、ラシュディアはヘキサグラムの頂点を一つ一つ指差し、そしてひとりずつ名前を呼ぶ。
「その頂点には炎‥‥クレア、そこに立ってくれ。その下が下位だから地‥‥ここはいないから、その下位で風‥‥俺か」
 と一つ一つの配列を指示。
「風の次は水なのでディーネで。で、こっちの頂点は月でリル、対角のこっちは陽だから八代が立っていてくれ。中央はレアとクリスの二人で。美夕とシャロンも一緒に中央。しかし参った。地がいないのか」
 やれやれという表情のラシュディア。
「6つ全ていないと不味いのですか?」
 そうレアが問い掛けると、ラシュディアは肯く。
「まあ‥‥なんとかするか」 
 と、手近に落ちている石をひょいと拾い上げると、ラシュディアはそれを地の台座の上に置く。
「こいつで代用するか‥‥それじゃあ、全員自分の属性魔力を高めてくれ」
 そうラシュディアが告げると同時に、全員が印を組み韻を紡ぐ。
 やがて、ラシュディアが古代魔法語による儀式詠唱を開始、すると中央に光の柱が輝いた。
「ムーンロード?」
 クリスがそう呟くと、ラシュディアが一言。
「いいや、ムーンゲート。光の門って奴。儀式魔法によってのみ開かれる異世界の扉。じいさんの所の資料と俺達の魔力でのみ開かれたって言うところだな。ほら、とっとと飛込んでくれ‥‥」 
 そう告げられて、全員が次々と光の中に飛込んでいった‥‥。


●貴方にとって必要な力、精霊達の囁く声が‥‥
──場所不明・どこかの神殿
 そこは以前訪れた神殿。
 目の前に広がる光景。
 果てしなく続く緑の大地。
 湖と巨大な河、火を吹く山脈。
 風が優しく流れ、そして空には太陽が輝く。
「またここですか‥‥」
 サクラが周囲を見渡す。
 そして前回と同じく、精霊魔法を修めている者は、自らの体内に眠る力が活性しているのが判る。
 この世界には、精霊の力が充満している。
「で、今回訪れたのは、一体どういうことかな?」
 そう一行に向かって問い掛けてくる声が一つ。
『あ‥‥ああ‥‥』
 リルとクリスの声が震える。
 目の前に立つ女性こそ、二人がもっとも出会いたかった月精霊最上位の『アナイン・シー』である。
「はっ、はじめまして」
「おぉぉっぉっぉっぉっぉっぉっぉッアイッデッキッテッコッウッエッイッデッスッッッッッ」
 あ、リルが壊れた。
 そんな二人を他所に、サクラが静かに話を始めた。
「私達は精霊と盟約を結ぶ為にやって来ました‥‥彼女達は月精霊の魔導師です。どうか盟約を御願いします」
 そう告げるサクラだが。
「それはならぬな‥‥私はここで門の監視をしている故、私と盟約を結ぶことならぬ。別のアナイン・シーを探すがよい」
 そう告げられるサクラ。
 そしてようやく正気を取り戻したクリスが、アナイン・シーに向かって話し掛けた。
「月精霊さんには、ボクの心は丸裸ですよね? 大きな力を得ることは、怖いことです。でも狡猾な悪魔の力に抗するには心を司る月の力は強い助けです」
 そこまで告げて、クリスは一息。
「そしてボクが識り‥‥出合った少女達‥‥悪魔の企てに組み込まれた彼女達が流した涙‥‥その重い一雫を掬い上げるためにも精霊さん絆を結びたいです。どうかお願いしますっ!」
 そう真剣に叫ぶクリス。
「そこまでいうのなら‥‥このガケを下りた先に、小さな村がある。そこで私から話を聞いてきたと告げれば、道は見えてくるでしょう‥‥」
 そう返事を返されたクリスだが。
「誠に申し訳ありません。私達は、この世界ではほんのわずかの時間しか滞在する事が出来ません‥‥」
 とレアが告げる。
「ふぅん‥‥ならば‥‥」
 とアナイン・シーが静かに手を開く。
「皆、手を開きなさい‥‥」
 そうアナイン・シーに告げられて、全員が掌を開いてさし出す。
 そこにアナイン・シーが指で何かを書込んだ。
 と、サクラを除く全員の心の中に何かが刻まれていく感じがした。
「これで皆さんは私達精霊の友となりました‥‥その掌の紋章がある限り、この世界では自由に活動することができるでしょう。但し、活動できる時間は人間たちの時間で3日間のみですから‥‥」
 と告げられる。
そして一行は自分の掌をじっと見るが、紋章らしきものは目に見えない。
「待ってください!! 私にはなにも感じられません‥‥」 
 そう告げるサクラに、アナイン・シーが静かに一言。
「あなたには、なにかが足りないのです‥‥それを見付けてきてください」
 と告げられた。
「とりあえず、これでこの世界に留まる事が出来た。あとは、盟約を結べる精霊達と話をするだけだな」
 シャロンがそう呟くと、一行は静かに肯く。
「一つ教えてください。精霊達との盟約には、一体なにが必要なのでしょうか?」
 そう問い掛ける美夕。
「そうね‥‥その掌の紋章を相手に見せてごらんなさい? あとは貴方たちの行動次第。なにもできないのではなく、何かを成すことができるようになったのですから‥‥」
 そう告げられる美夕。
 と、クレアもまた、一歩前に進み出ると、アナイン・シーに問い掛けた。
「私は、火の最高位精霊様と盟約を結びたい。その方は、この世界のどこにいるのですか?」
 その言葉に、アナイン・シーもニィッと笑みを浮かべる。
「遥か先、炎渦巻く火山。そこにスルトスは居ます。ですが彼は、弱きものには力を貸さないでしょう‥‥」
 その言葉だけで、クレアは満足であった。
「私は水の精霊と友達になりたいのです!!」
 ディーネも一歩前に進み出で叫ぶ。
「遥かなる海原。そこでシェルドラゴンはきつと貴方を待っています。心から説き伏せなさい‥‥彼が心を閉ざす前に‥‥」
 ディーネもそれで満足。
「風の精霊は‥‥どこにいる?」
 ラシュディアはそうアナイン・シーに問い掛ける。
 と、アナイン・シーは静かに上を指差す。
 そこには、風を身に纏い、白銀に輝く鎧を身につけた美しい女性が空を飛んでいた。
「‥‥どっかの、おっかない奥さんみたいだなぁ‥‥」
 ラシュ、それは禁句っす!!
「まあ‥‥風の精霊ヴァルキューレよ。俺の話を聞いてくれ!!」
 空に向かって叫ぶラシュディア。
 と、その声が届いたのか、ヴァルキューレは上空でスッと立ち止まると、そのまま眼下に立っているラシュディアを見下ろしている。
「‥‥地獄は酷い所だった。悪魔が地上を制圧すれば、同じように大地も空も風も汚される。皆の血や涙や怨嗟の声が風に混じる事になる。
 俺は、絶対にそれを許したくない。だから、この地のすべてを悪魔達から守る力が欲しい。その為に、貴方の力を借りたいんだ!!」
 その問い掛けに、ヴァルキューレが一言。
「ならば探しなさい。6つの精霊によって護られし剣『シックスフォース・エレメンタラーズ・ソード』を‥‥ならば、私は貴方と共に戦いましょう‥‥」
 と告げられて、風の如く飛びさっていった‥‥。
「シ、シックスフォースだと?」
 震える声でそう告げるラシュディア。
 風の噂には聞いた事が有る。
 精霊球と呼ばれる、精霊力を封じてあるオーブの填められた杖を。
 世界最高の精霊魔道具でもあり、それは通称『セブンフォース・エレメンタラーズ・スタッフ』と呼ばれている。
 そして今、ラシュディアが告げられたのは、それの一つ下のランクの精霊魔道具。
 それでも世界には6本しか存在せず、そのうちの一つであるらしい。
 全長は2mを優に越えるツーハンドソード。
 その刀身の峰の部分に、精霊球が6つはめ込まれている。
 通称『6大精霊剣』とも『シックスフォースソード』とも呼ばれている代物であり、実在したという記述はどこにも見当たらない。
 それを探してこいと告げられて、困惑するラシュディア。
「天照よ。陽の精霊力が強く存在する、ここから一番近い場所はどこでしょうか‥‥」
 八代がサンワードで問い掛ける。

『タイヨウノヒカリフリソソグスベテノバショ』

 と答えが聞こえてくる。
 ならばと、さらに八代がサンワードを発動。
「一番近くにある、陽の精霊と盟約を結ぶ為に必要な物の場所は?」
 そう問い掛けたとき、答えが返ってこない。
「どういうことでしょう?」
 頭を捻る八代だが、答えは見つからなかった。
「この前、ここでバハムートと出会ったのよね?」
 そうレアが八代に問い掛ける。
「ええ。ちょうどあの辺りから、ファサッと‥‥」
 と空を指差した刹那、バハムートが高速で上空を横切っていった!!
 そしてレアは素早くテレパシーリングに意思を込める。
『はじめまして。デビルの脅威と闘う為には貴方方と私達が手を組む必要があると思うの。誤解を恐れずに言えば対等な立場で。更に言えばこんな事を思いついた私の友人は貴方方達とデビルの脅威などなくても手を取り合う友人でありたいと願ってる、私個人の意思、そして友人の願いに応える意味でも盟約を結ばせて欲しいわ。お願い力を貸して』
 そう上空を飛びさっていったバハムートにテレパシーを飛ばす。
 だが、バハムートからの返答はなかった‥‥。
「どうして‥‥答えが、言葉が返って来ないなんて‥‥」
 そう落胆するレア。
「諦めなければ大丈夫よ‥‥」
 八代もまたそう告げると、1度皆の立っている場所へと戻っていった。
 そして全員が再び元の位置に戻ったとき、サクラの姿が徐々にゆがみはじめた。
「サクラさんだけ時間が!!」
 そう叫ぶディーネ。
「とりあえず全員もどるぞ!! ここにはもういつでも来ることができる!!」
 そうラシュディアが告げると同時に、全員で再び光の門の中に飛込んでいった。



●さあ、願いなさい。新たなる力、伝説の‥‥
──ノルマン江戸村・冒険者酒場ノルマン亭
 精霊界から戻ってきた一行。
 とりあえずあの世界に留まることができるようにはなった。
 だが、サクラだけ、今だそれを許されてはいない。
「どうして? 何故‥‥」
 その答えは極めて簡単。
 だが、サクラ自身がそれに気付くかどうか。
「ほほう。とりあえず精霊剣は預かっとくぞ」
 そう告げて、ミハイルが精霊剣を回収する。
「ミハイルおじいちゃん!! おじいちゃんも友達の紋章もっているの?」
 リルがミハイルにそう問い掛ける。
「おーおー。ほら、これのことぢゃな」
 と掌をリルに見せる。
 そこにはなにも記されてはいないが、そこから数多くの精霊の力を感じ取る事が出来た。
「で、これからどうするのかな?」
 酒場で待っていたプロスト卿が一行に問い掛ける。
「1度出直してきて、それから精霊界を探索してみますね‥‥」
 そう告げるクレアに、プロスト卿は一言。
「精霊杖を探してみなさい。出来るだけ上位のモノを。あれは精霊と人間の心の掛け橋になるからな」
 とだけ告げられた。
「プロスト卿、私はどうしたら‥‥」
 サクラがそう問い掛けるが、プロスト卿は静かに一言。
「心を開いて。そうすれば、目に見えなかった何かが判ってくるからね‥‥」
 とだけ告げられた。

 精霊との盟約。
 はたしてどうなることか。

──Fin