●リプレイ本文
●精霊との邂逅
──パリ・王宮図書館
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ」
額から流れる汗を拭いつつ、ディーネ・ノート(ea1542)は様々な石版や石碑の解読を行なっている所である。
だが、それらの殆どはかなり難しい言葉を使っているし、古代魔法語や精霊碑といった難攻不落な文字まで並ぶと、ディーネの思考は限界到達。
「さて。それじゃあ私の出番ですね?」
と告げて、クレア・エルスハイマー(ea2884)が古代魔法語の解読を開始。
その横では、一つ一つの資料を整理しているシャルル・ノワール(ec4047)とタチアナ・ルイシコフ(ec6513)の姿もあった。
その側では、鳳美夕(ec0583)もまた古代魔法語を解読していた。
「ふぅ‥‥このノルマンでの精霊に関する武具はあまり見当たらないですねぇ‥‥」
と溜め息を付きながら告げる美夕。
確かに、このノルマンよりもイギリスの方が精霊に関する資料や伝承は多い。
ノルマンではむしろ、北欧系神話と呼ばれるものの方が多い。
それらは全て異教徒であり異形の神々でもある。
精霊との結び付きもあるものの、パリよりもむしろドレスタッドの方がそれらについての資料はあるのかもしれない。
その頃、別の場所を占拠して精霊碑を専門に解読しているのは八代樹(eb2174)とラルフィリア・ラドリィ(eb5357)の二人。
精霊碑のみに重点を置いた解読を行なっているらしく、次々と写本や石碑の解読を行なっている。
ここでおもしろい説明をしよう。
古代魔法語の解読には解読者のセンスも重要になってくる。
何故なら、古代魔法語の場合、文字配列なども重要になり、謎解きのような部分も数多く存在する。
だが、精霊碑はそれというものはなく、知識を持っているものならば、それらを紐解くのは容易である。
もっとも、付け焼き刃の知識よりはそれなりの知識を持っていた方が、より正しい解読を行うことができる。
八代とラルフィリアの場合、同じものを二人で次々と解読し、それらを全て羊皮紙にまとめている。
最後に二人でそれらを突き合わせ、完全な解読を行なおうという事であろう。
より確かな解読をしているということである。
その証拠に、二人は殆ど無言で解読を続けている。
やはり知識をもつ者は凄いという事であろう。
──パリ・王城外れの舘
「ふぇぇぇぇぇぇぇぇ」
さめざめと無いているのはクリス・ラインハルト(ea2004)。
アンリエットの全身に奇妙な紋様が浮かび上がり、ずっと意識が戻らない状態が続いているらしいのである。
「泣いていても仕方ないだろう。この紋様を解除する方法は俺達がなんとか頑張っている。だから、クリスは今、自分の出来る事をしっかりと頼む」
秋夜がクリスの肩を抱きしめつつ、そう告げる。
「グスッグスッ‥‥判りました」
と告げると、クリスはアンリの紋様に自分の掌をかざす。
──ザワワッ‥‥
と、かざした部分の紋様が蠢き、その場所から離れるようにズレていく。
「はわわわわわわわわわわわ‥‥」
その動きに驚くクリス。
だが、手を離すと再び紋様は元の位置へと移動していく。
「こ‥‥これはひょっとして‥‥」
クリスの中の仮説。
精霊の力による悪魔の除去、以前サクラのつげていた事の縮図が、この瞬間成立している。
「アンリちゃん。かならず助けてあげるから待っていてね‥‥」
そう切なそうに告げるクリス。
そして、クリスは秋夜から闇オークションの管理人についての情報を得ると、そのまま仲間たちと合流し、その場所へと向かっていった。
──パリ・冒険者酒場マスカレード
「随分と懐かしい名前ねぇ‥‥」
カウンターの中でにこやかに告げているのは情報屋兼酒場のオーナーであるミストルディン。
「ああ、あんたなら色々と知って居るだろうさ。『シックスフォース・エレメンタラーズ・ソード』、その在処がどこに在るのか」
そう問い掛けると、ミストルディンは一言待っているようにラシュディア・バルトン(ea4107)に告げると、一旦席を外して二階へと向かっていった。
それから半刻ほどして、ミストルディンは様々な資料を手に二階から戻ってきた。
「ほう。大抵の情報は頭のなかに入っているんじゃなかったのか?」
そうにこやかに告げるラシュディアに対して、ミストルディンは抱えてきた資料を全て手渡す。
「確かこのなかにそれらしい記述が在った筈だから、そっちのテーブルで調べてみて頂戴」
と告げる。
「情報屋なら、パッパッと調べて教えてくれても‥‥」
「なら、今までの情報料、まとめて戴いてもいいのね? それならパッパッと調べてあげるけれど?」
ニィッと笑いつつ告げるミストルディン。
「まあ、金額にもよるが、今の全財産で支払えるのなら‥‥」
と呟くラシュディアの耳元で、ミストルディンが呟いた言葉。
その刹那、サーッとラシュディアの表情が真っ青になる。
「い、いや‥‥自分で調べる事にしよう‥‥そんな金額、一生掛けて支払わないとまずいだろう?」
と告げて、すごすごと店の奥へと移動。
「まあそうよねぇ‥‥がんばってねぇ」
ということで、ラシュディアに合掌。
●見えてきた道の一つ
──プロスト領城下街・とある建物
「あの時はお世話になりました‥‥」
サクラ・フリューゲル(eb8317)とシャロン・オブライエン(ec0713)、星宮綾葉(eb9531)の3名は、以前サクラが助けた事のある竜の民の末裔の少年の住まう家にやってきていた。
ちょっとお腹の大きいシャルロッテが、3人を家の中に案内する。
どうやら夫であるあの青年は仕事に出ているらしく、今は家に居ないらしい。
「じつは、旦那さんにちょつと御話を聞きたかったのですが‥‥」
そう話を始めると、サクラは今現在自分達に起こっている出来事と事情を全て説明した。
「そうでしたか‥‥。では、ひょっとしたら、少しはお力になれるかもしれません‥‥」
そう告げると、シャルロッテは静かに話を始める。
「実は、つい数日前。主人の元にこのようなものが届けられたのです‥‥」
と告げて、シャルロッテは大きな袋を持ってくる。
そして中から、鎧一式と折れた剣、そして見た事のない杖を一振り取出した。
ぼろぼろの鎧、サイズや大きさなどから女性用のものであろうと思われる。
その胸部には竜の紋章が刻まれており、恐らくはサクラが以前洞窟の最下層で見た、台座に乗っていた鎧の片割れと思われる。
「何方が送ってきたのでしょうか?」
「それがまったく解らなくて。それで、プロスト卿にその事を告げると、この杖だけは教えてくれました。『精霊の鍵杖』と呼ばれている杖だそうで、何かを導くものということだけを教えてくれました‥‥」
そう告げられると、星宮がその杖を借り受ける。
そして静かに瞳を閉じると、なにか見た事のない風景が頭の中をよぎっていった‥‥。
「こ‥‥この杖は一体?」
そう告げて、星宮はそれをサクラに手渡す。
と、サクラも静かに瞳を閉じて、意識を集中する。
脳裏に浮かんだのは、以前訪れた精霊界らしい風景。
その世界を旅している一人の少女。
黒いフードに身を包み、その素顔ははっきりと判らない。
だが、サクラは以前、どこかでその少女を見た事があるように思えてきた。
だが、それが何処でだったか、まったく判らない。
「あ、あの‥‥この杖、お借りしても宜しいでしょうか?」
そう問い掛けるサクラだが、シャルロッテは主人のものであるからということで、後日改めて来てくださいと告げた。
その言葉に対してお礼を告げると、サクラたちは一旦仲間たちの元へと合流することにした。
●精霊達に会う
──シャルトル・プロスト城
精霊達の住まう世界。
そこに向かう前に、まず一行は様々な場所へと赴き、情報を得ようとしていた。
リル・リル(ea1585)とマナウス・ドラッケン(ea0021)もまた、プロスト城地下立体迷迷宮へと赴き、そこに住まう精霊達に色々と話を聞こうとやってきていたのだが。
炎の精霊とは話が全く噛み合わず。
水の精霊は、恋しい人が最近姿を見せてくれないと呟き、へそを曲げてしまったらしく取り合ってくれない。
風と地の精霊もまた、まったく話が噛み合わず断念。
陽精霊は姿さえ見えない。
唯一話を聞く事が出来たのは、月の精霊のみである。
「ねーねー。アルティラさん、アナイン・シーさんが言う精霊界の小さな村ってどんな所で、大体どんな精霊さんが住んでるの〜?」
そう無邪気に問い掛けるリル・リル。
「どんなって‥‥小さい精霊達の住まう村ですよ?」
「へーーーー。そうなんだぁ‥‥」
とにこやかに告げるリル・リル。
「それじゃあさ、精霊魔法やオーラを習得しなくても、精霊の力を感じ取る事って可能なのかな〜?」
「どうでしょうね。私達の力を感じることができるのは、精霊をより知っていること、精霊との契約を行なっている人ですから。まあ、精霊に関する何かを持っていれば、私達の力を感じることはできるとおもいますわ」
とニコリと告げるアルティラ。
「そっかー。ちょっと難しいんだねー」
「ええ。でも、精霊とお友達になれれば、きっと判るかもしれませんね?」
「だよねー。御友達なら判るよねー」
と愉しそうにつげるリル・リル。
「そ、そんなに簡単なのか‥‥」
と、側で仏頂面で座っているマナウスが呟く。
「ええ。まあ、友達になれればですけれどね‥‥」
と告げるアルティラ。
と、マナウスはゆっくりと重い腰を上げると、地下に向かう階段へと歩きはじめた。
「あっれー? どこにいくの?」
「そろそろモンタの解凍が終る頃だ。ちょっと話を付けてくる」
と告げて、階段をゆっくりと降りていった。
「‥‥モンタ君、上だよねー? マナウスって、方向音痴?」
と頭を傾げるリル・リル。
まあ、まったくその通りで。
マナウスが無事にモンタの元までたどり着けたのは、それからさらに4時間後の事であった。
──ということで水の精霊宮
椅子に座って静かにしているのはモンタ。
以前までの暴走モンタではなく、静かにマナウスと話をしている。
どうやら、ようやく暗黒面から解放されたようである。
「竜の民の伝承か‥‥懐かしいね」
と告げつつ、モンタは自分の知って居る伝承を一つ一つマナウスに告げる。
それらの中で、マナウスが気付いたこと。
竜の民と精霊の民は、昔は交流があったということ。
彼等の伝承によると、かつて、竜と精霊は一つの世界で友として存在していたらしい。
この世界を訪れた竜と精霊は、それぞれが世界をよいものにしようと頑張ったらしいが、この世界の神々はそれをよしとせず、二人を世界の各地に封印しようとしたらしい。
精霊はそれでも、世界に溶けこもうとしたが、竜は神々に牙を向いたという。
竜は神々から悪しき存在として粛正対象となり、虐待をしいられたという。
「ボクには資格がないけれど‥‥竜騎士伝承、カリバーンは精霊と竜の二つの仲介であったっていう話があるんだ。彼等の使う武具は、竜の民には『竜騎士カリバーンの武具』と伝えられているけれど、精霊の民には『精霊騎士の武具』って伝えられていてね‥‥彼らの使う武具は『シックスフォースエレメンタルウェポン』って伝えられていて、今でも、それは竜の洞窟の最深部に眠っているって言う噂なんだ‥‥」
そう告げると、モンタは静かになる。
「竜と精霊の調和‥‥か」
「うん。かつて、竜と精霊は力を合わせて悪しきものと戦ったって言う話が残っているんだ。ボクはその話を殆ど憶えていないけれど‥‥語り部だったら判っていた筈‥‥」
その言葉で、マナウスは一つ確信する。
精霊の力は、悪しきもの、すなわち悪魔とも戦うことができる。
そして、竜の力も又、悪魔との戦いには必要であるかもしれないと。
「貴重な話をありがとう。それじゃあな‥‥困った事が会ったら、いつでもパリに来るといい」
とだけ告げて、マナウスは地上へと向かっていく。
その途中で、リル・リルと合流、正しい道をゆっくりと戻っていった。
●知識の宝庫
──ノルマン江戸村・冒険者酒場ノルマン亭
一通りの情報収集、解読を終えた一行は、この先精霊界へと向かう為の準備の為に、1度この村に集まっていた。
ここからなら、件の谷へもそれほど遠くはない。
そこで意見を話し合う。
クレア達が図書館で得た情報については、精霊杖については『忌まわしき精霊の民』がそれらを納めているという情報を得た。
さらに精霊騎士についても、かつては精霊の民がそのひとりであったという説話も確認。
「精霊の杖は、精霊の民に伝えられるです。それは4つあり、それぞれがサーベル、剣、斧、弓に姿変えているです。ほかにも、あしきものからの力を遮断する精霊の鎧あります。けれど、竜の結界でまもられているあります」
たどたどしいゲルマン語でそう説明するラルフィリア。
「精霊武具ではないのですけれど、精霊に関する物品が近いうちに闇オークションに出展するそうです。詳しい日時までは聞き出せませんでしたけれど‥‥」
「期日が近づいたらボク達の所にも参加の許可証が届きます‥‥、」
と説明するのはレア・クラウス(eb8226)とクリスの二人。
クリスと共に闇オークション主催者と接触し、それらの情報を入手。
残念ながらそれらについてそれ以上の情報を得ることは出来なかったものの、同日の参加許可までこぎつけたのはすごい。
この二人、ただ者ではないかもしれない。
そしてサクラの得た『精霊の鍵杖』の情報、そしてとどめといわんばかりのマナウスの精霊の武器についての情報、これで大体の鍵はととのった。
あとはそれらを回収し、精霊界へと向かうだけである。
「そうと決まったら、あとは武具の回収に向かうだけか‥‥」
と告げるのはラシュディア。
「‥‥まあそうだが。ラシュ、お前は何か情報を得る事がで来たのか?」
そう突っ込みを入れるシャロンに、ラシュは静かに説明を開始。
「まあ‥‥具体的な情報はないのだが。月齢とアイテムがあれば、俺、精霊界への扉開けるようになった‥‥」
それってとんでもないぞ。
「ということは、いつでもどこででもということか」
とマナウスが問い掛けるが、その言葉に対しては頭を左右に振る。
「いつでもという事ではないな。ムーンロードのように月齢が関与している。何処ででもということもない。6大精霊の力を集めることのできる場所がいる。なにもなくてもということもない。精霊界への扉を開く『鍵』が必要らしい」
と告げられて、サクラは納得。
「なら、その鍵っていうのが『精霊の鍵杖』で、6大精霊の力を集められるのが『精霊武具』ということで?」
そう問い掛けるサクラに、ラシュディアは静かに肯く。
「つまり、大体のお膳立ては整ったということだ。とりあえず、その洞窟地下の武具の回収に向かってみよう」
ということで、一行は1度準備を行なってから、武具の回収の為に『竜の住まう洞窟』へと向かっていった。
●導く為の竜の剣
──シャルトル辺境・竜の民の村
かつて、ここには竜の民と呼ばれる者たちが住んでいた。
今はそこにはかつての面影はなく、荒れ果てた村を被いつくすかのように草木が生えている。
そこから湖岸に立ち、湖の真ん中に位置する小島を見ている冒険者一行。
どうにか小島へと向かう方法を探し出すと、一行は次々と洞窟の入り口へと向かっていく。
「さて、ここからが正念場です。内部には数多くのアンデットも徘徊していました。まあ、私は以前来た事が有りますので、道案内は私が‥‥」
と告げてサクラが先頭に達、一歩踏み出した刹那。
──ビタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン
と見えない壁に阻まれてしまう。
「??????????」
その壁を叩きつつ、サクラが頭を捻る。
「こ、これは一体‥‥以前はこんなものはなかったのですよ?」
と告げるサクラ。
「あーーーーー」
ポン、と手を叩き、クリスが洞窟の外れの壁際に移動。
「ここにある台座に、3つの竜の彫像を置かないと結界は開かないですよ」
ナイス、クリス。
「彫像ですか‥‥それはどこにありますか?」
クレアがそう問い掛けると、サクラは一つだけ思い当たる。
「そういえば、以前助けた男性が持っていましたけれど。一つだけですね」
「確かモンタも一つ持っている。残りは一つだな」
マナウスもそう告げる。
でも、残り一個の情報がない。
このまま何の収穫もないまま精霊界に向かっても、ただやみくもに動くだけになる。
どうするか思案していると、ふとサクラが思い出す。
「あの‥‥以前ここに来たとき、そこの台座にはなにも乗っていなかったような記憶もあるのですよ‥‥」
「ということは、なくても結界を開く方法があるということですよね?」
そう告げるタチアナに、サクラは静かに肯く。
「そのときの情況とか、思い出してくれませんか?」
そうディーネに告げられて、サクラは当時の記憶を思い出しつつ話を始める。
そして全てが終ったとき、全員共通の意見が出た。
「竜の民の末裔‥‥彼が結界を消したということだな‥‥」
と告げるラシュディア。
一行もまたその意見に同意。
1度プロスト領城下街まで戻り、彼を連れてくるまでは時間があまりない。
とりあえずはここまでの情況でもよしということだろう。
一向はこのまま、精霊界への道を開く谷へと向かっていった。
●開くのは道
──シャルトル・月夜谷遺跡
いつもの魔法陣。
そこに全員が立ち、静かに瞑想を開始。
だが、以前の開く方法とは少し違う。
今回は、中央にクリスがたち、静かに歌を奏でている。
♪〜
精霊は留まることなく、絶えず彷徨う
やがて、疲れた精霊達は癒しを求め
静かなる地にて眠りにつく
眠りをほどくのは、一つの歌、一つの剣、一つの魂
静かに祈りなさい。ほら、聞こえてくるでしょう?
貴方にとって必要な力、精霊達の囁く声が‥‥
♪〜
クリスの歌声が谷に響く。
やがて歌に呼応するかのように、魔法陣がゆっくりと光り輝きはじめる。
そしてクリスが最後の部分を歌う。
♪〜
さあ、願いなさい。新たなる力、伝説の‥‥
伝説の‥‥
伝説の‥‥何?
♪〜
──ドシューーーーーーーーーーーーーーーーーツ
最後の部分までラシュディアは解読を終えていなかったらしい。
クリスはそこでラシュディアに問い掛けた刹那、魔法陣が起動した。
そして一行は、ふたたび以前見た神殿へと転移してしまった‥‥。
──場所は変わって、精霊界?
静かな風景。
最近良く見た神殿。
今日はそこには誰も居ない。
そこからは、強い力は感じられない。
「クーーーリーーーースーーーーー」
静かにそう告げる一行。
「だ、だってぇ。最後の一文、解読していないのはラシュディアさんでしょう?」
そう告げると、皆の視線がラシュディアに‥‥って、ラシュディアがいない。
そこにはラシュディアのような少年が立っている。
衣服はぶかぶかで、どうみてもラュディアの衣裳である。
「ラ、ラシュディア?」
恐る恐るといかける八代に、ラシュディアはコクリと肯く。
「あーーーーーーーーーーーーーっ。最後で何かが狂ったかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
絶叫するラュディアに、その場は笑いの渦が巻き起こった。
「ま、まあ、元の世界にもどれたら元に戻るのでしょう?」
と八代が問い掛けると、横でボソッとシャロンが一言。
「一生そのままでもいいかもな‥‥」
そして再び大爆笑。
そしてようやく落ち着きを取り戻したとき、一行は近くの台座付近に、ローブを深々と被った少女が立っているのに気が付いた。
「誰だ?」
マナウスがそう問い掛けると、少女は一行に背をむけてスッと消えていく。
ただ、消える刹那、静かに一言呟いた言葉が印象的であった。
『ことわりをただしなさい‥‥』
その言葉の直後、一行の姿が突然消えはじめる。
そして全てが輝いた瞬間、全員が精霊界から再び元の世界へと戻されてしまった‥‥。
●道の開く感覚
──パリ・冒険者酒場マスカレード
無事にもとの世界に戻ってきた一行。
ラシュディアの姿も元に戻っていたのでとりあえずはパリへとそのまま帰還。
そこで一行は、今後の動きについて色々と議論をしていた。
どうすればいいいか?
竜の民の末裔も連れていく必要が有るか?
洞窟最下層の武具の回収については?
様々な論議が繰り返されている中で、ラシュディアが一つ重大なことを告げる。
「あの月夜谷の魔法陣で精霊界に迎えるのは、あと1、2回ぐらいだろう。月齢とあの地の精霊力に偏りが出はじめている。そこの所を考慮して、次に向かうときはそれなりの覚悟をしていったほうがいい」
と告げる。
「それは、間もなく月夜谷の魔法陣が使えなくなるって言うことですか?」
そう問い掛けるシャルルに、ラシュディアは頭を左右に振る。
「精霊界から戻れなくなる可能性があるって言うことだ。それもかなりの確率で‥‥」
「まあ、その場合でも、ラシュディアが別の場所で精霊界への道を開ければ、無事に戻ってこれるという事だよね?」
そう問い掛けるディーネに、クレアが一言。
「ラシュディアが開けるのは、恐らく片道のみでしょう? こちらに戻ってくる場合、向こうの世界でこちらの世界と繋がる場所を探す必要があるのね?」
と、かなりの自信で告げるクレア。
「ご名答。ということだ次からは覚悟してくれや」
とにこやかに告げる。
そして再び作戦会議は続いた。
こんどが最後、それぐらいの覚悟は必要という事だろう。
もう精霊界への道筋、盟約は目の前までやってきている‥‥。
──Fin