【精霊の宴】門の向こうに

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:15人

サポート参加人数:8人

冒険期間:07月13日〜07月23日

リプレイ公開日:2009年07月22日

●オープニング

──事件の冒頭
「これが王の棺か‥‥」
 そこはエジプトのとあるピラミット。
 そこにあった、砂に埋もれた未知のピラミットを発見したミハイルが、感極まりつつそう呟いていた。
 通常のピラミットをひっくり返したような形のピラミット。
 そこの底辺部分から内部に入っていったミハイル教授たちは、その不思議な作りに動揺していた。
 さらに見た事のない未知の生命体、謎のトラップなどをくぐりぬけて、ミハイル教授たちは王の間と思われる玄室にやってきていた。
 そして注意深く室内の壁画を写しおえると、いよいよ棺に手をかけていた。
──ゴトッ
 と、突然、壁の一部が崩れ、奥からマミーと呼ばれるアンデット達が次々と玄室に侵入してくる。
「き、教授、これは一体‥‥」
「アトランティスからきたジョジョには判らぬぢゃろう。これはマミーといってな」
「マミーだか何か知りませんけれど、早く調査を終えて戻りましょう‥‥」
 と、助手のジョディ・ジョーカーが呟く。
「そうぢゃな‥‥では‥‥」
 と告げて、棺に納められていた『パピルスの巻き物』を手に取ると、そのままミハイル教授はピラミットから脱出した。
 これがつい、先日の話。
 
──そして現在
「み、ミハイル教授‥‥ここはどこなのですか?」
 オアシスの外れで、ジョジョがそうミハイル教授に問い掛ける。
 ピラミットから逃げてきたものの、途中で砂嵐に巻き込まれてしまい、完全に方向を見失ったミハイル教授たち。
 どうにかオアシスまでやってきたものの、地図にも乗っていないオアシスだった為、どうしていいのか途方に暮れてしまっていた。
「ふむ。全く判らぬ。が、ちょうどよいことに、あちらから砂煙が上がっておる。どうやらキャラバンのようぢゃから、彼等に話を聞いてみることにしよう‥‥」
 と、遠くから大量の馬に跨がり、手にシミターを構えた『人相の悪い盗賊集団』に向かって、愉しげに手を振るミハイル。
 果たして、教授たちの運命は?
 っていうか、とっととパリに戻ってこい!!

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea2004 クリス・ラインハルト(28歳・♀・バード・人間・ロシア王国)
 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea4107 ラシュディア・バルトン(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea6536 リスター・ストーム(40歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb2174 八代 樹(50歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5357 ラルフィリア・ラドリィ(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb8226 レア・クラウス(19歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ec0170 シェセル・シェヌウ(36歳・♂・レンジャー・人間・エジプト)
 ec0583 鳳 美夕(30歳・♀・パラディン・人間・ジャパン)
 ec0713 シャロン・オブライエン(23歳・♀・パラディン・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4047 シャルル・ノワール(23歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec6513 タチアナ・ルイシコフ(21歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)

●サポート参加者

イフェリア・アイランズ(ea2890)/ マミ・キスリング(ea7468)/ エメラルド・シルフィユ(eb7983)/ レイア・アローネ(eb8106)/ セイル・ファースト(eb8642)/ リスティア・バルテス(ec1713)/ イクス・グランデール(ec5006)/ ソラ・オオトリ(ec5489

●リプレイ本文

●精霊の宴
──パリ冒険者街・薬師ラビィの家
「おやおや、珍しいお客さんだねぇ‥‥」
 にこやかにそう告げつつ、ラビィは客人であるクリス・ラインハルト(ea2004)とリスター・ストーム(ea6536)、ラシュディア・バルトン(ea4107)の三人にハーブティーを差し出す。
「実はですね‥‥」
 と、クリスはアンリの容態と体の紋様、クリス自身の掌の紋章と反応を話した。
「なるほどねぇ‥‥デビルの力で身体に紋様がねぇ‥‥それは可哀想に‥‥」
 と告げるラビィ。
「で、俺はプロスト卿やミハイル教授から色々な事を学んできた。が、こと魔法陣となると、どうにも勝手が違っていて‥‥」
 と補足を続けるラシュディア。
 その後ろでは、リスターが愉しそうに棚に置かれている薬品をじっと眺めている。
(これとこれは‥‥何かいい感じだなぁ‥‥こっちは香料で、こういうのはと‥‥ふむふむ。いいねぇいいねぇ‥‥)
 あ、何か悪巧みをしている模様。
「まあ、結論から告げるとだねぇ‥‥クリスの掌の紋章『精霊の契約印』とアンリの背中の『悪魔の紋章印』は共鳴しないわよ。きっとクリスのアンリを思う気持ちが一瞬だけ共鳴作用を起こしただけね。だから、普通の精霊印ではアンリの紋章は消すことは出来ないのよ」
 その言葉に、クリスは意気消沈。
「いま、普通の‥‥といったよな? つまり別の『普通でない紋章印』ならば、アンリの印をどうにかできるのか?」
 そのラシュディアの言葉に、ラビィは静かに肯く。
「ええ、そういうことになるわね‥‥でも、その為にはまず、魔法陣がどういう物なのか、それを知る必要があるわね‥‥」
 ということで、ラビィはクリスとラシュディア、そしてリスターの三名に魔法陣とは何かという事を話しはじめた。
「そもそも魔法とはどういうものかは、みなさん御存知よね?」
「はい。自身が精霊と契約を行ない、印と詠唱をもちいることによって発動させることができる精霊の力の片鱗です‥‥」
「知識と経験、それを媒体に、精霊との魔法契約を完了させる。その結果精霊より知らされた印と詠唱文を用いる事で、以下はクリスと一緒だな」
「精霊の力を借りるだけだな」
 とまあ、3人ともばらばらだが、根底は一つ。最後に告げたリスターの意見である。
「では、そのような魔法の力がない人が、魔法を使う為には?」
 とさらにラビィが問い掛ける。
「精霊碑と呼ばれる特殊な文字媒体を使用することで、簡易ではあるが近くに存在する精霊と契約し、その力を行使する‥‥ってところだな」
 とリスターがあっさりと告げる。
「ご名答ね‥‥レンジャーならではのご意見ですけれど、それで正解といってもいいでしょう。では魔法陣とは?」
 と問い掛けられると、誰も答えがだせない。
「では簡単に説明するとねぇ‥‥魔法陣は、通常では不可能な高位魔術の行使や、中位、下位魔術の強化につかわれることが多いわね。今だ解読の終っていない古代魔法とかは前者、後者は強大な魔法陣とかにもあるし、スクロールだって、魔法陣の姿を取っていない魔法陣という見方もできるわね‥‥の」
 と説明しつつ、床にチョークで魔法陣を描くラビィ。
「魔法陣の大きさや文字記号の数と配置は、それらの行使するための魔法の大きさ、強度に比例するわ。簡単な魔術の強化ならこの程度で十分ね」
 と完成した魔法陣をじっと見る。
「ふぅん‥‥」
 と腕をくんで納得しているリスターに、クリスが一言。
「リスターさん、これが判るのですか?」
「いーや全然。精霊碑なんて学んだこともないけれど‥‥ニュアンスで、これがなんなのかは理解できる」
 それってどうよ?
「ちょっと失礼して‥‥これは、何かの送還か召喚用かな?」
 ラシュディアは今までに学んだ魔術や知識、見た事のある魔法陣等からそう答えをだす。
「ええそうね。この外の縁が召喚用のワード、内部の縁が発動用の印と式。中央の円の中は発動の為に必要な代償ね‥‥」
 と告げて、中央に花を一輪かざす。
「それで‥‥どうするのですか?」
 と告げるクリスに、ラビィが静かに手を併せてみせる。そして掌を魔法陣にかざしたとき、その中央に小さなエレメンタルフェアリィがポンッと姿を現わした。
「ね。コツと知識さえあれば簡単なのよ。あとはタイミングね‥‥」
 と告げる。
「そこでクリスに対する答えとしては、最上位である地の精霊との契約の行使、彼から『魔法中和の式と印』を学んで、それらをアンリの背中に施すだけ。そうすればいいと思うけれど‥‥これも絶対ではないわよ」
「それでもいいのです。可能性はあるのですよね?」
「確率的には‥‥8割は固いわ」
 パアッとクリスの表情が明るくなる。
「んーーーと。っていうことは、今、魔法中和の魔術を持っている魔法使いとラビィさんが協力して、一時的にでもアンリの容体を中和もしくは停滞させる魔法陣が書けるって言うことか?」
 今日は頭の回転が早いリスター。
「ええ。連れてきてくれれば協力するわよ」
「なら、6日あればなんとかなるか‥‥プロスト卿は今は賢者だろ? 中和の印なら知って居るはずだな」
「そうと判れば早速!! 色々とありがとうございました!!」
 と告げて、ラシュディアとクリスの二人は一旦王城へと移動。
 残されたリスターは、そのままラビィと話を続けていた。
 その内容がなんともまあ‥‥『精霊に効く薬ってあるのか』とか‥‥。


──一方その頃
 場所は変わってプロスト卿の自宅。
 その居間には、大勢の冒険者達が集まっている。
「ええっと、質問宜しいでしょうか?」
 そう問い掛けているのはディーネ・ノート(ea1542)。
「ええ、構いませんよ‥‥」
 とハーブティーを飲みつつ告げるプロスト卿。
「私はですね。アトランティスに住み暮らすシェルドラゴンとの友人契約をしているのですけれど‥‥例えばだけど。シェルドラゴンの心を解かすキッカケになるとか、話だけでも聞いてくれる様になるとか可能かしら? なんか堅く心を閉ざしてるみたいだから、少しでも私に親近感を持ってくれると接しやすいかな、と思って♪」
 と告げる。
「アトランティスですか‥‥実際にあの世界からやって来た方で‥‥ふむふむ。アトランティスは確か『竜と精霊の住まう世界』ですから、不可能ではないと思いますよ。ただ、貴方の知人であるシェルドラゴンのことを知って居る方でしたら‥‥」
 と返答を返す。
「誠意を以って接するというところですね」
 と告げられて、ディーネは嬉しそうに肯いた。


●精霊の言葉は
──プロスト城地下立体迷宮
「‥‥相変わらず姿がみえないのね」
 そこは『地の精霊』のすまう階層。
 そこにやってきたのはマナウス・ドラッケン(ea0021)とラルフィリア・ラドリィ(eb5357)とタチアナ・ルイシコフ(ec6513)の3名。
 ここの階層にくる途中にいるモンタに用事があったマナウスだが、すでにモンタはこの立体迷宮には居なかったという。
 残念。
 そのため、さらに下層にいる地の精霊と話をするために、3名はそのまま下へ下へと降りていった。
 そして地の精霊の住まう洞窟のような階層にやってきたのだが、相変わらず地の精霊である『フィルボルグス』の姿が見えない。
「‥‥フィルボルクスに会いに来たのかい?」
 と、一行に話し掛けてくるローブの女性が一人。
「ああ、そうなんだが、あんたは?」
 とマナウスが問い掛けると、その女性は静かに頭を下げる。
「自己紹介遅れました。領主の命でこの地下迷宮の管理を行っています『セピア・ティラル』と申します。プロスト卿の弟子で、精霊について学んでいました」
 と丁寧に挨拶を行う。
「それはどうもご丁寧にありがとうございます。では、ここのフィルボルクスさんはどちらにいらっしゃいますか?」
 とタチアナが問い掛ける。
「この奥の洞窟に眠っています‥‥」
「色々と御話しが聞きたかったのですけれど‥‥例えば、あたし達の精霊力を行使する技量で盟約が可能なのかどうかとか‥‥」
 と告げる。
「盟約を結ぶには、それなりの知識と経験、その身に眠る潜在的な精霊力というものも関って来ます。貴方にその技量があるかどうかは私には計りかねます。けれど、精霊界に向かい、『精霊の鏡』に問い掛けてみれば、答えは聞けるかとおもわれます」
 と告げるセピア。
「その鏡はなんですか?」
 ラルフィリアがそう問い掛けると、セピアが静かに告げる。
「精霊界にあると伝えられている『知識の鏡』ですね。知りたい事を教えてくれるのですが、それ相応の力がないと、鏡は答えてくれません‥‥」
 と告げる。
──ズシィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンズシィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイン
 と、突然奥から地響きのような音が聞こえてくる。
 そして全長7mほどの巨大なフィルボルクスが姿を現わした。
「フィィルボルクス‥‥教えて欲しいのです。私達は精霊と盟約を結ぶことができるのでしょうか‥‥」
 と問い掛けるラルフィリア。
「‥‥可能性は、だれでもある‥‥」
 と告げて、そのままその場に転がると、再び眠りについていくフィルボルク。
「‥‥だそうです」
 そのまま一行は納得すると、一旦地上へと向かっていくことにした。

──再びプロスト卿のおうち
「‥‥で、貴方は何が知りたいのですか?」
 そう告げられて、レア・クラウス(eb8226)はゆっくりと口を開く。
「‥‥プロスト伯はサクラが精霊の友として認められなかった理由、見当がついているのよね?」
「ええ。大体は。けれど、それを告げる事は出来ませんので‥‥」
 と呟く。
「それも理解しています。つまり『自ら答えを見付けなければならず、他の人の助力も好ましくない』ということですね」
 そう告げられて、プロスト卿はパチーーンと指を鳴らす。
「惜しい。別に他人の助力がだめとはいいません。一人で解決できるほど、この問題は甘くありませんから。ただ、私は立場上、告げる事が出来ないだけですから‥‥」
 その言葉で、レアは悟った。
「プロスト卿が告げると、それが答えになるということで?」
「ええ。そうですね‥‥まあ、これについては、サクラさんには‥‥とここまで」
 持ったい付けたように呟くが、慌てて口を閉ざすプロスト卿。
「いえいえ。そこまでで十分です。ご助力ありがとうございました」 
 と丁寧につげるレアであったとさ。
「では、これから立体迷宮に?」
 レアの横に座っていた鳳美夕(ec0583)が、そうレアに問い掛ける。
「そうですね。そのあとで、皆のところに合流しましょう」
 ということでしたとさ。
 めでたしめでたし。



●急変
──シャルトル・プロスト領城下街
 事態は大きく変わっていた。
 サクラ・フリューゲル(eb8317)とシャロン・オブライエン(ec0713)がプロスト領の城下街にたどり着いたとき、とある建物が一つ、騎士団によって包囲されていた。
「い、一体なにがあったのですか?」
 そう近くの人に問い掛けるサクラだが、その人は静かに一言。
「異教徒だってさ‥‥優しそうな人だったのに‥‥人は見かけによらないものだねぇ‥‥」
 と頭を振りつつ呟く。
 やがて建物から出てきた人物は、頭から袋を被せられ、両手を枷で固定されていた。
 そのまま縄で縛られ、引きずるように連れていかれ男女。
 その人物こそ。
 サクラが今回、武具を借りようとした女性とその夫であった。
「ち、ちょっと待って下さい!! 何かの間違いではないですか!!」
「話を聞かせて貰いたい!!」
 二人はそう叫びつつ、先頭を歩いている異端審問官に食い掛かる。
「内偵の結果、二人が『異端信仰者』であるという結果がでた。教会で異端審問裁判を行う事が決まった。ではそういうことで」 
 とつげるアザートゥス異端審問官。
「これよりシャルトル南方の『エヴァンジル教会』に送り、裁判を執り行う。この件については、ノルマン施政官のアンブル卿のサインの入った書面も正式に発行されている‥‥では失礼する」
 そのままサクラを無視して進んでいく一行。
 サクラは、連れられていく二人をどうする事も出来なかった‥‥。
「チッ‥‥国の発行した書面かよっ‥‥」
 そう吐き棄てるようにつげるシャロン。
 立場上は今だパラディン候補生なれど、国事や政治に干渉できない立場であることには変わりがない。
「‥‥クスッ‥‥」
 と、シャロンはその連れられていく二人を見て笑っていた女性の姿を確認した。
「?」
 そのまま二人は、その場を離れることにした‥‥。

──も一度プロスト卿のおうち
「ふーむ。どうでしょうねぇ‥‥」
 腕を組んでじっと呟くプロスト卿。
 その前には、シェセル・シェヌウ(ec0170)が座っている。
 彼は、彼自身が皆と一緒に同行するのは、問題があるのではないかという懸念が在った為、一人でプロスト卿に聞きにやってきていたのである。
「俺は、以前より精霊界への探索行には関心を抱いていたのです。また、現在、ウィザードへの転職試験中でもあり、精霊の理を実地で学ぶ好機とも捉えて今回の探索行への参加を希望しました」
 そう熱弁を振るうシェセル。
「冒険者諸兄の中にも熟達の術士も多くおられるので、彼らからも多くを学ばんと考えている。
 ただ、アモンの道を求める自分の存在が、異物として精霊界への旅の阻害とならないかとの懸念がある。阿修羅教では問題ないとの事でしたが‥‥どうでしょうか‥‥」
 という問いであったらしい。
「神聖騎士も同行していると聞いています。なら、別に構わないのでは? 私はアモンへの道について。それが酷く困難であることは理解しています。少なくとも、エジプトへと旅立ったミハイルからの連絡がないので確かなことは言えませんが‥‥」
 という答えをつげる。
「では‥‥私も精霊界へと向かって見ることにします‥‥」
 と告げると、シェセルは静かに席を立っていった。


●精霊界へと
──月夜谷遺跡
 王城からまっすぐに戻ってきたクリスとラシュディア。
 アンリに対して魔法陣を施そうにも、それに有効な術式が判らない。
 今はまだ命に別状がなかったので、悪鬼に彼女をまかせて、ふたりは再び精霊界へと向かうゲートを開きにやってきていた。
 すでに、この地に残されている魔力はほんどない。
 その為、ラシュディアは先程ラビィから学んだ魔法陣知識をフル活用して、独自に巨大魔法陣を形成していく。
 一人、また一人と仲間たちが月夜谷遺跡に集まってくる。
 そして全員が集まると、ラシュディアは早速儀式を開始した‥‥。

「竜と精霊の名の元に、月の精霊よ、我等を精霊の住まう大地へと誘い賜え‥‥」

 その詠唱ののち、魔法陣が月明かりに輝く。
 そして一行の姿は光の中へととけていった‥‥


●盟約の一つ
──精霊界‥‥炎渦巻く火山
 そこは炎吹き荒れる火山。
 その場に立っているのはマナウスとクレア・エルスハイマー(ea2884)、美夕の三人。
 ラシュディアの作った精霊魔法陣により、三人だけこの地に飛んできたらしい。
「‥‥さて、どうしたものか‥‥」
 竜の武具を手にしたマナウスが、そうクレアらに問い掛ける。
「ここにいるのは、私達だけのようですね‥‥」
 と美夕も呟く。
「ここが恐らく『炎の精霊』の住まう場所‥‥なら」
 と告げて、クレアは声を上げる!!
「火の最上位であるスルトス様にお会いできて光栄です。出来ますれば、スルトス様と盟約が結べたらと思いここに参りました」
──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
 と、突然大地からマグマが噴出する。
 そして炎の魔人が、静かにその場に立っていた。
「人よ‥‥一体我にどのような用があって参った‥‥」
 スルトスが静かに問い掛ける。
「実は‥‥」
 とクレアが、今までに起こった出来事をスルトスに告げる。
 だが、スルトスは頭を縦に振ろうとはしない。
「弱きものよ。我は貴殿らの頼み、聞き届けることは出来ぬ。わが従属するものを従えよ。炎の妖犬、これを貴殿らの世界で求めよ‥‥」
 そう告げられたとき、二人の掌に新たなる紋章が浮かび上がる。
「盟約は、貴殿らの地にて執り行おう。ダンディドックを探せ。それを見付けたとき、我は二度貴殿らの前に姿をあらわそう。それが出来たとき、我は貴殿らと盟約を結ぼう‥‥」
 そう告げられた直後、三人の姿が精霊界から消えていった‥‥。

 
──精霊界‥‥遥かなる海原・小さな島
 ディーネとシェセルは、小さな小島でポツンとしていた。
 島の直径は大体18mほど。
 なにもないその場所で、二人はどうしていいか困っていた。
「シェルドラゴン様‥‥どうか私達の前に姿を表わしてください‥‥」
 ディーネがそう切に願う。
「祈りか‥‥」
 シェセルもまた、真剣な表情で祈りを始める。
──ザザザザザザザザザザザザザザザザッ 
と、突然前方の海が盛り上がると、巨大な竜の頭が姿を表わす。
「わが甲羅の上にノリし人よ、一体なんの用事があってやってきた‥‥」
 と力強く問い掛ける。
「実はですね‥‥」
 と、ディーネがこれまでのいきさつを説明する。
「なーるーほーどー。だが、まだ盟約を結ぶこと叶わず。汝らの世界にて、我を探すがよい。我は遥かなる生みの彼方、海底の神殿にて待つ‥‥」
 そう告げられた直後、二人の姿が精霊界から消えていった‥‥。


──精霊界‥‥遥かなる山頂の神殿
「‥‥また貴殿らか。今度はどんな用だ?」
 最初に一行が訪れた神殿。
 そこにリスターとラシュディア、八代樹(eb2174)、レア、シャルル・ノワール(ec4047)の5名が立っていた。
「‥‥うーーーーん。これは参った」 
 と、腕を組んで唸るリスター。
「ど、どうした?」
 と心配そうに呟くラシュディアに、リスターが一言。
「顔といいプロポーションといい、実にオレサマごのみ。このまま押し倒してしまいたいのだが‥‥どうして空を飛んでいるんだァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
 上空で飛んでいるヴァルキューレにそう叫ぶリスター。
──スパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン
 一斉に突っ込みハリセンで突っ込みを入れる。
「まあいいか。そこの可愛い子ちゃん。俺と愛人契約‥‥いやいや、契約しようぜ‥‥」
 と呟く。
「仲間が失礼な事を告げて済まない‥‥ヴァルキューレよ、約束の剣は持ってきた。人や自然‥‥この世界に生きるものを護る為に力を貸してほしい」
 その二人の言葉に、残った3名はじっと耳を傾けていた。
 八代とレアの盟約を結びたい対象は陽精霊、そしてシャルルの盟約対象はまさに目の前のヴァルキューレであった。
「ではラシュディア、盟約の儀を後日執り行おう。場所は風の塔。そこで私は待つ。古き盟約を持つストーム家のものよ。我は汝の血筋に基づき義務を果たそう‥‥」
 そう告げると、ヴァルキューレはスウッと舞い上がる。
「待ってください。風のヴァルキューレよ。私とも盟約を‥‥」
 と叫ぶシャルル。
「新たなる剣を求めなさい。それと陽精霊を求める者たちよ、彼等は今、この世界にはあらず、汝らの世界、太陽の加護に護られた場所にあり‥‥」
 そう告げられた直後、その場の全員の姿が精霊界から消えていった‥‥。


──精霊界‥‥小さな村
 クリスとラルフィリア、サクラ、シャロン、タチアナの5名は、小さな精霊の村にやってきた。
 そこには普通に人々が住んでおり、自分達のいた世界とまったくといっていいほど変わっていない。
 その中央広場では、旅の吟遊詩人が愉しそうに歌を歌い楽器を奏でている。
「あ、あの‥‥まだ『一つの歌』は得ていません‥‥」
 そうクリスがはなしかけた吟遊詩人が、アナインシーそのものであった。
「そうですか‥‥」
 と哀しそうに告げるアナインシー。
「御願いします。無茶な事も判っています。盟約への道標を示してください‥‥」
 と頭を下げる。
 と、クリスの横にサクラもやってくると、同じ様に頭を下げる。
「私にも、盟約への道を示してください‥‥」
 その言葉に、アナインシーはゆっくりと歌を紡ぐ。
 だが、その歌詞は全く聞こえてこない。
「私がいま歌った歌。その歌詞を探してください。貴方たちの世界に必ず有る筈ですから‥‥」
 と告げる。
「教えてください。地のティアマットは今、どこにいるのでしょうか‥‥」
 とラルフィリアが問い掛ける。
「私達はティアマットと盟約を結びたいのです‥‥どうか教えてください」
「俺からも頼む。俺はパラディン候補生だが、戦う手段は欲しい。敬意ある精霊の力を俺も身につけたい‥‥」
 その言葉に、アナインシーは静かに肯く。
「ティアマットは、私達の足元にいつもいます。そして彼は、貴方たちをいつも見ています。大地と心通わせる場所に向かいなさい。そこで直接盟約の儀について問い掛けるとよいでしょう。貴方たちの世界に、その場所はありますから‥‥」
 そう告げられた直後、その場の全員の姿が精霊界から消えていった‥‥。


 そして全員が、月夜谷遺跡に立っていた。
 そこにはもう精霊力も魔力も感じられない。
 ラシュディアがいるので、ゲートを開くことは可能かもしれない。
 が、まだこちらの世界で、やらなければならないことも色々とある。
 それを思い出して、一行はパリへと帰還していった。

──Fin