古城の地下室掃除2〜第三階層アタック〜

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 44 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月27日〜09月03日

リプレイ公開日:2004年08月31日

●オープニング

──事件の冒頭
 そこはいつもの冒険者ギルド。
 風が心地好く駆け抜ける夕刻。
 仕事を終えた人たちは帰路につき、酒場はこれからが忙しくなるだろうという時間。
 その日は、酒場ではなくギルドから、いつものように明るい笑い声ではなく、どんよりとした声が聞こえてきた。

「‥‥いや、ちょっと‥‥」
 いつになく神妙な表情で受付けに依頼を持ってきているのは、御存知南ノルマンの地方領主のボンボン。
 いつものような『あーーーーっはっはっは』という高笑いではなく、その日はドヨーンと暗い表情である。
「えーっと、つまり、この前の依頼の続きという事になりますね? 今回は地下3層部分のモンスター制圧及び迷宮地図の作成ということで?」
 受付嬢がそう訪ねる。
「いや、もう一つ、今回の制圧には、この僕も同行することになった。親父からは、この手紙を預かってきた」
 そう告げると、一通の手紙を受付けに手渡す。
「ふむふむ。判りました。 先程との内容に加えて『おぼっちゃまを立派な騎士にするために鍛えてほしい』ということですね」
 どうやら、今までのように『ボンボン』で居られなくなったようである。
 貴族の家に生まれた以上、礼節やマナーなどを学ぶために『騎士としての修練』を受けるというのはよくある事。
 とうとうおぼっちゃまにも、その時期がやってきたようである。

──ということで
「では、依頼は張付けておきますので。また何かありましたらいつでもどうぞ‥‥」
「よろしく頼むよ‥‥じゃあ‥‥」
 がっくりと肩を落として帰っていくボンボン。
 それを見送った後、ギルド員は依頼書を掲示板に張付けた。
「クスクス‥‥とうとう修練の時期ですか。さて、今まで権力と金だけで生きてきたお坊ちゃまにはいい薬ですわ‥‥でも、第3層ということは、かなりの覚悟がないと‥‥」
 ギルド員はそう呟きながら。、掲示板に依頼書を張付けた。

●今回の参加者

 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea2022 岬 芳紀(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3397 セイクリッド・フィルヴォルグ(32歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea4677 ガブリエル・アシュロック(38歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4757 レイル・ステディア(24歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea5415 アルビカンス・アーエール(35歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●またまた来ました〜既におなじみ領主の古城〜
──領主の古城・応接間
 そこは小さな応接間。
 今回の依頼を受けた冒険者達が案内され、そこで件の領主と御体面とあいなった。
 側には、貴族らしく派手な装飾を付けている『ボンボン』が立っている。
「実は、依頼を始める前に、少し聞きたいことがあるのですが‥‥」
 それはガブリエル・アシュロック(ea4677)。
 ちょっと丁寧な口調で、そう領主に問い掛ける。
「構いませんよ」
 ようやくドラ息子が騎士としての第一歩を踏み出す事に満足してか、領主はいつもよりも笑顔である。
「では。先日、ここの地下室を掃除したときに出てきた『ペンダント』ですが。あれは一体何なのですか? 領主様はあれを見て、かなり驚いていたようですが」
「もし宜しければ、見せて頂きたいのですが。私は精霊の理を知るものです。ひょっとしたら、何か記されているかも知れませんので」
 それはゼルス・ウィンディ(ea1661)。
「ああ、構いませんよ。ちょっと待っていてください」
 そのままメイドにペンダントを取りに行かせる領主。
「中々珍しいペンダントでして。あのような物、が、此処の地下室にあったとは、私もかなり驚いてしまいましたよ」
 そしてペンダントが届くと、領主はそれを箱から取り出してゼルスに手渡す。
「では、お借りします」
 そのままペンダントの装飾をじっと見つめるゼルス。
(え? 6大精霊のルーン‥‥それと竜の刻印? 魔法的な力は無いけれど‥‥何かの鍵なのでしょうか)
 もし、考古学者のミハイル・ジョーンズ教授がここにいたら、恐らくは飛び付いていたのかも知れない。
 ゼルスはレイルの方を見てボソリと告げる。
「古代魔法王国‥‥」
 レイルは、その単語のみで全てを理解。
(ミハイル爺の専門か‥‥)
 レイル・ステディア(ea4757)は心の中でそう呟く。
「ゼルスさん、何か判ったのかな?」
 レム・ハーティ(ea1652)がそう問い掛ける。
 と、ゼルスはレム・ハーティ(ea1652)に軽くウィンク。
 そしてペンダントを領主の元に戻す。
「どうです? これだけ珍しい装飾のペンダントだと、かなりの価値があるのではないですか?」
 その領主の言葉に、一行は一つの結論に達した。
 領主は、あのペンダントを『珍しい装飾品』としか捉えていない。
「ちょっと私では判りかねます。申し訳ございません」
「そうですか。まあ、近々始まるパーティーには、大勢の好事家や鑑定士もやってきますので。その時に見てもらう事にしましょう」
 そう話すと、領主はペンダントをメイドに渡す。
 そして一行も再び挨拶を行うと、自分達にあてがわれた部屋へと向かった。

──部屋
「やっぱり、あれは古代魔法王国が関与しているのか」
 レイルがそう口を開く。
「ええ。6大精霊と竜の刻印というアンバランスな組み合わせは、古代魔法王国以外はありませんね。精霊だけなら精霊信仰、竜だけなら竜信仰に結び付けることも出来ましたけれど」
 ゼルスの言葉に、レイルも肯く。
「問題は、それがあの迷宮に何故あったのか」
 ガブリエル・アシュロック(ea4677)が口を開くと、一行に問い掛けるようにそう告げた。
「あそこの迷宮の封印は新しいものではない。少なくとも、100年以上は経過している代物だと私は見た」
 それはセイクリッド・フィルヴォルグ(ea3397)
「そもそも、ここの迷宮自体、かなり危険な所ではないのですか? 今までにも各階層ごとに封印が施されていましたし」
 ルイス・マリスカル(ea3063)がそう話す。
 ちなみにセイクリッド、ルイス、ガブリエルは、此処の地下迷宮の掃除を第一階層からここまで全て行なっている強者。
 レイル、アルビカンスの二人も、途中から合流していたため、ある程度は構造を知っている。
「ここの封印だけど、効果は確か一方通行だったな‥‥地上から地下へは開けられるが、地下からは絶対に出ることができない‥‥つまり、地下の何かを封印してあるということには間違いはない。ということは、地下の何かを封印している際に襲われて、逃げ延びた者があそこで死んでいたというのが最も自然な発想か‥‥」
 アルビカンス・アーエール(ea5415)、冴えている。
 流石に、伝説・魔導関係が絡みはじめると頭脳がフル回転するようである。
──ガチャッ
 突然扉が開かれる。
 と、そこにはボンボンが立っていた。
「あ、ボンボンだ‥‥失礼!!」
 レム、思わずそう呟く。
「誰がボンボンだ。俺にはちゃんと『アルフレッド・プロスト』という名前がある!! 通称はアル。疾風迅雷のアルとでも呼んでくれ!!」
 何を言っているのか、このボンボン。
 そんな表情で、一行はボンボンを見ている。
「アルですね。了解しました。でも、まさか本当に一緒に冒険できるようになるなんて思ってもいませんでしたよ〜」
 にこやかに挨拶をするゼルス。
 そしてゼルスは、他の仲間たちをずらりと並べ、再び口を開いた。
「ほら、あなたを立派な騎士にするために、皆さん張り切ってますよ」
 教育係を申し出ている厳しい先生達を紹介するゼルス。
「まあ、私は志士ゆえ、御子息殿が武士について興味がおありなら、少しばかり教えてしんぜよう」
 それは岬芳紀(ea2022)。
「取り敢えず、アル殿にはレムの護衛を御願いする。もし余力があった場合は、戦闘員として前にも出てもらう」
 ガブリエルがそう提言。
「俺の故郷では、健康な体を持つ男子は大抵、親元から離されて幼いうちから他家に里子に出される、そこで礼節や剣の基本なんかを叩き込まれるんだ。今回のこれも。その一つと思って頑張ってくれ」
 それはレイルなりの励ましであろう。
「取り敢えず、地下迷宮に行くのだから、それらしい服装に着替えてこい‥‥まさか、その派手な衣服で、しかも手ぶらで行く気ではないだろうな」
 そのセイクリッドの言葉に、アルは慌てて着替えに走った。
「やれやれ。今回の依頼、かなり難しくなるな‥‥」
 そのセイクリッドの言葉に、一同納得。


●では、まずは準備から〜この成り金がぁぁぁぁ〜
──待合室
 アルが支度をするために部屋を出てから1時間。
 その間、一行はこれからの打ち合わせ、詳細の確認を行なっていた。
──ガチャッ
 静かに扉が開かれると、アルが支度を終えて入ってきた。
「中々様になっているな」
 そのアルの姿を見て、アルビカンスがそう話し掛ける。
 アルのスタイルは『駆け出しの騎士見習い』といった所であろう。
 綺麗な装飾の施されたノーマルソードと、同じく白を基調とした綺麗なレザーアーマー。
 レザーヘルムと御揃いのデザインなのが、また恰好良い。
 左腕には真ん中に綺麗な十字の記されたライトシールド、そして背中には真新しいバックパック。
「さて、出発する前にと。アル、今お金どれぐらい持っている?」
 セイクリッドが問い掛ける。
「40G位しか持っていないなぁ‥‥何か?」
 あっけらからーんとそう告げるアル。
「その鎧から楯、はては武器に至るまで。普通のものではないだろう?」
 セイクリッドが拳を振るわせながらそう呟く。
「ん‥‥ああ。初めての冒険だからねぇ。親父のコレクションから凄い奴を少し失敬して‥‥でないと、ダンジョンに入って即死亡。なんて事に‥‥あれ?」
 その言葉の途中で、アルはバックパックを取り上げられた。
「やっぱりねぇ。ヒーリングポーションとリカバーポーションが山のように入っていますね。最低限必要なものはと‥‥あれ? バックの中、ポーションしかない‥‥」
 ルイスが受け取ったバックの中身を確認した。
 と、ゼルスがやれやれといった表情で、さらさらとメモを取る。
 そしてそれをセイクリッドに手渡すと、セイクリッドが口を開いた。
「その派手な鎧を脱いで、城下街でこれを買って付けてこい!! この馬鹿者がぁぁぁ」
 あ、ついにセイクリッド、切れた。
 その声に慌ててアルは駆け足ダッシュ!!
 無事に戻ってきたのはさらに1時間後。
 其の日のスケジュールを調整して、一行はようやく地下迷宮へと足を踏みいれた。


●初日・地下第三階層〜根性無し、がむばる〜
──入り口
 地下第二階層の奥。
 第三階層へと続く石扉の手前で、一行は最終チェックを行なっていた。
「アル殿はレムさんの護衛で御願いします」
 ルイスが丁寧にそう告げる。
「レムさん‥‥と、まあ、大船に乗った気分で居たまえ。ハッハッハッ」
 出ました豪快な笑い声。
──スパゥァァァァァァァン
 と、突然アルの後頭部を、ゼルスが不思議な物体で引っぱたいた。
 出ました、お約束のハリセンチョップ。
 先日、この不可思議なアイテムがノルマンのとある商人の元に入荷したらしい。
 当然ながら、このようなアイテムをここの領主が見逃すはずも無い。
 入荷直売り切れ、次回入荷未定。つまり殆ど買い占め。売った商人は大儲けという状態らしい。
「そ、それは親父のコレクションナンバー102。何故?」
「もし貴方が何かした場合に使って欲しいと言われまして。預かってきました」
 にっこりと微笑むゼルス。
 でも、其の手にはハリセン。
「さて、ここから先は冗談抜き。真剣勝負だ‥‥覚悟はいいか?」
 ガブリエルがアルに真剣な表情で告げる。
「えーっと、了解。準備出来ています」
 流石に真剣に話し掛けると、ボンボンと言えどもギャグは無し。
「その表情だ。行くぞ」
 アルの頭をトン、と叩くと、アルビカンスが封印を解放した。

──そして
「いいか、アル。今から俺たちはお前の神となる、俺がカラスが白いといったら白!わかったな?!いや、わかれ!」
 また理不尽な事を言うアルビカンス。
「カラスは黒じゃあ‥‥」
「この俺が白いと言っている!! 何色だ!!」
 アルの意見を無視してそう叫ぶアルビカンス。
「黒です!!」
 あ、既に感化。
 そんな事を呟きつつも、隊列を整えて回廊を進む一行。
 いつもの通りならば、回廊の先には、その階層特有の迷宮が待っている。
 そして一行のたどり着いた場所。
 そこは広いフロアであった。
 巨大なフロア。
 ランタンの光さえ届かぬ危険な世界。
「この流れですか‥‥」
 ガブリエルが静かにそう呟く。
 第一階層はまさに迷宮。
 第二階層は広いエリアと迷宮の二つの構造。
 そしてこの第三階層と、少しずつ形状が変化してきた。
「さて、来客の御出ましたな」
 スッ、と岬が刀の柄に手を添えて半歩引く。
「アルはレムのガードに。あとは各員の判断に任せる!!」
 その言葉と同時に、暗闇よりズゥンビが姿を現わした。
 その数、実に15体。
 ボロボロに崩れた衣服を纏い、生者を求めて彷徨う亡霊。
 それが一斉に襲いかかってきたのであるから堪らない。
「間合を取ります。このままでは潰されてしまう」
 ルイスがそう叫ぶと、皆が戦いやすいような布陣を取り直す。
「風よ‥‥」
 ゼルスは魔法詠唱開始。
 そしてレムもアルに対してリカバーの詠唱を開始する。
「数が多すぎる‥‥」
 後衛待機だった岬も進んで戦闘に参加。
 全員でゼルスを囲み、ガードする形を取る。

──しばし戦闘は続く。

 かなりの混戦状態。
 ガブリエルとレイルはブラックホーリーを連射。だが、あまりにも数が多かったため、殲滅速度重視で武器攻撃に変更。
「アルは一体のみに集中しろ。他の奴は引き受ける」
──ズッバァァァァァン
 セイクリッドがそう叫びながら、アルに向かった一体に止めの一撃。
「うっひゃぁぁぁぁぁぁぁ」
 既にアルは意気消沈、戦闘士気低下状態。
 ロングソードを構えているものの、それをただブンブンと振回しているだけである。
「‥‥大丈夫かなぁ」
 レムはズゥンビの攻撃の届かない天井際まで飛翔。
 既にアルに唱えたリカバーの数は5回。
「まさか、この俺まで戦うことになるとはな‥‥」 
 アルビカンスもショートソードを抜いて応戦中。近接戦闘に慣れていないウィザードでも、ズゥンビ相手にはこちらの方が早いと判断。

──チン
 岬の刀の音が響く。
 ブラインドアタックによる一撃は、ズゥンビを確実に分断していった。
「あと何体だ?」
 上空で囮になっているレムに問い掛ける岬。
「あと4体!!」
 そのレムの叫びとほぼ同時に、ガブリエルが目の前の一体に止めの一撃を叩き込む。
──ズッバァァァン
「あと3体だな」
 ブン、血糊を振り拭うガブリエル。
──ドゴォォォン
 その横では。
 レイルの放ったディストロイの直撃を受け、崩れ落ちるズゥンビ。
「あと2体に修整か‥‥」

──ブゥンブゥゥゥゥゥン
 次々と襲いかかる風の刃。
 ゼルスとアルビカンス、二人同時のウィンドスラッシュがズゥンビの肉体を切り裂いた。
「まだ死なないのですかっ!!」
「あと少し!!」
 そして止めにルイスが渾身の一撃を叩き込む!!
──ズッバァァァァァン
「これで、あと1体ですね‥‥」
 正に必殺の一撃。
 横一線に振りぬいたソードが、ズゥンビを分断。
 そして最後の一体はというと。
「はぁはぁはぁはぁ」
 シールドを正面に構え、剣は右腕で後方へ。
 全身が血まみれ状態のアルが、その気力の全てを振り絞って止めの一撃を‥‥。
──ボゴォォォォン
 受けた。

 そのまま後方に倒れていくアル。
「御免‥‥でも、俺は頑張ったよ‥‥」
「いや、まだ謝るには早いな」
 そう呟きつつ、後で倒れないように押さえるセイクリッド。
 さらに、いつのまにやらレムのリカバーが発動。
 今受けた一撃を回復。
「ほれ、もう一度行ってこい」
 トン、と背中を押されて前に出るアル。
「そんなぁ‥‥もう限界ですよぉ。相手は死んでいるんですよ」
 弱気になったアル。
 だが、ここの先生達は容赦無い。
「己の力を過信する事も危険だが、だからといって過小評価することもない‥‥いいからあたって砕けて来い」
 レイル、結構鬼。
 そして1時間後、最後のズゥンビは音も無く崩れ墜ちた。
 だが、この一回目の戦闘のみで、レムは魔力が尽きてしまう。
「一旦戻りますか。要のレムが魔力切れでは、この先、アル殿を守りきれるかどうか」
 ルイスの提案より、掃除の続きは翌日へと持ち越される。


●2日目・第三階層〜巨大な封印魔方陣〜
──入り口
 先日の疲れを『パーティーの残り物』で癒し、一行はいよいよフロアの調査を開始。
 だが、そこでとんでもない事態に気が付いた。
 先日は、ただひたすら戦いに集中していたため良く解らなかったが、この第三階層、天井や床一面に至るまで、細かく古代魔法語が刻みこまれていたのである。
 あまりにも膨大なため、まずはフロアの大きさなどを調査。
 第二階層より一回り小さく、そしてフロア以外には、中央にの床に付けられた扉しかない。
 その扉には、今までにない封印処理が行われている。
 この階層にはあとはモンスターが居ないため、一行は全員で手当たりしだいにメモを取り、その解析作業を開始した。
「先に行っておくが、封印処理が施されている。勝手にあちこちの札を剥がしたりするなよ」
 レイル、アルに対して先手を打つ。
「あーー。大丈夫。そんなことはしないつもりだからね‥‥」
 そのままアルも、壁や床の文字をじっと見ている。
「この封印は神聖魔法処理でしょうか? 精霊を記すルーンはどこにもないですね」
 そのゼルスの言葉に、レムやガブリエル、そしてレイルの3名が頭を縦に振る。
「タロンではないな‥‥セーラの封印処理か?」
 そのガブリエルの言葉に、レムは肯く。
 が、その処理パターンや儀式方陣など、レムにはまったく判らない。
 この封印自体、かなり高位のものなのであろう。
「‥‥古の魔人か‥‥」
 突然、アルビカンスがそう呟く。
「魔人だと?」
 ピクッと眉を動かす岬。
「何ぃ。アルビカンス、文字の解析ができたのか!!」 
 ルイスも驚きの声を発揮する。
 と、ファサッと髪をかきあげ、アルビカンスが話を続ける。
「俺って、天才だし‥‥」
 口許に笑みを浮かべ、そう告げる。
「どの辺が魔人?」
 レムのその問いに、アルビカンスがある文字を指差す。
「この辺が魔人だな」
 いやいや、一般の人には判らないって。
 だが、レムにはニュアンス的に理解。
「あーー、成る程。そういう解読。なら、ここの地下の封印、なんとなく理解したー」
 あ、レムが解析終った模様。
「説明をよろしく頼む」
 ガブリエルがそうレムに頼み込む。
「では、かなり複雑なので触りだけ。確か、ここの迷宮って、かなり昔の魔導師の研究施設だったよね? その魔導師の呼び出した魔人を封じるために、ここには全部で10階層もの立体封印を施したみたい。でも、その封印処理のときに逃げきれなかった人たちが、ここの封印に巻き込まれて外に出られなくなった。ズゥンビやアンデットはおそらくその類で、蟲達は、建物の老朽化による崩れた隙間から入り込んだみたいだね」
 お、レム、良い線いってる。
「ここが第三階層。レム、一つでも封印処理が解かれた場合はどうなる?」
 そのレイルの問いに、一行は一瞬沈黙。
「第一、第二階層は最後の要。でも、本当に恐いのは、この第三階層の封印。これが外されると、連鎖的に次々と封印が解かれていくみたい。かなりの時間は掛かるけれどね。まあ、中央の封印符を剥がしたりしない限りは大丈夫」
 そのレムの言葉に、一行はとっさに中央を見る。
 ちなみにアルは、そのレムの会話をじっと聞いていたため、余計なことはしていない。
 中央の封印は無事の模様。
「今回は大丈夫か」
 レイル、安堵の表情。
 と、突然封印が燃え上がる。
「何だと!!」
 慌てて駆け寄り、燃え上がる封印符を消そうとする一行。
 だが封印符は燃え落ちた。
 そして回廊の全ての文字が輝きはじめる。
「レム‥‥ここの解析間違っていますよ」
 ゼルスがそう告げる。
「嘘?」
 慌ててレムがそゼルスの示した文字を指差す。
「第一階層、第二階層の封印は第三階層の封印の固定ですね。それと、第4階層以下は6大精霊封印です‥‥」
 その言葉の直後、文字の輝きが全て消える。
 そしてフロア全体を冷たい気配が漂い始める。
「レム、第4階層以下の構造はどうなっているのかおしえて欲しい」
 岬が咄嗟に、扉に向かって構えを取ると、レムにそう問い掛けた。
「各階層に一体の魔人‥‥で、再下層には‥‥う、解析不能」
 おっと、レムここにきて失敗。
「なら、ここは逃げの一手しかないな」
 流石のレイルも、この気配にはちょっと押され始める。
「取り敢えず第一、第二階層の封印を再起動させれば、上にはこれない‥‥」
 なんで、そういう重要な部分だけ解析成功するのか、アルビカンス。
 そして一行は急ぎフロアを駆けあがる。
 各階層の封印の扉に、第三階層に記されていた方法で魔力を注ぎ、そして全ての階層の封印を再起動させると、一行はしばらくの間、地下迷宮へと続く扉の前で待機していた。

 そして翌日、それらが何事も無いことを確認すると、事の顛末を領主に報告。
 しばらくの間は、地下迷宮の掃除を断念するということで話は纏まった。
 そして一行は、後ろ髪引かれる思いながらも領主の元を後にし、一路パリへと帰還していった。
 
〜Fin〜