●リプレイ本文
本国ノルマンから船に乗り、やってきましたゴブリンに襲われている島。
船内で久しぶりの再会や、一通りの打ち合わせを終えた冒険者一同は、早速村長の元へと赴くと、これからの作戦内容について説明を開始していた。
「鬼退治〜鬼退治〜そういえば、東の国に桃から生まれて鬼を倒した英雄のお話があるんだよ。なんかにているねー」
開口一発、いきなり話の腰を折ったのはエル・カムラス(ea1559)。
「ラス君静かにね・・・・・・」
そうエルを窘めるのはリラ・ティーファ(ea1606)。
なお、ここの島での会話は、戦闘などの重要な事などを含め、すべてゲルマン語で話が進んでいた。
そのため、ゲルマン語が話せないエル・サーディスト(ea1743)には、エレアノール・プランタジネット(ea2361)が重要な部分だけ通訳を行ない、それ以外についてはメルヴィン・カーム(ea1931)が通訳を行なっていた。
「本日は、日没後に小島に正面から向かいたいと思います。その前に、今から潜入組が島に先に上陸し待機、挟撃のような形で、あまり深追いすせず少数迎撃作戦でいきたいとおもいます」
それは今回の作戦の立案者である北道 京太郎(ea3124)。
潜入班はミリランシェル・ガブリエル(ea1782)ただ一人。
島に残って正面から戦う前衛班、及び魔法などによる後方支援班はエル・カムラス、リラ・ティーファ、エル・サーディスト、メルヴィン・カーム、エレアノール・プランタジネット、北道 京太郎、陸奥 みらん(ea3920)。
今から偵察に向かうのはヒスイ・レイヤード(ea1872)。夜間はリーニャ・アトルシャン(ea4159)が偵察を行い、前衛に報告、偵察班と連携を取るという作戦になっていた。
潜入班であるミリランシェルはかなり危険な立場であるが、これも作戦を無事に達成するため。
かくして一同は、作戦開始までの僅かな時間、必要な準備を開始した。
「‥‥相変わらず、2、3匹のゴブリンがこっちの様子を伺っているな」
見張り台に立っていたリーニャは、下で作業している陸奥 みらんにそう話し掛けた。
「どんな感じかしら?」
そう呟きながら、借りてきた乳鉢でゴリゴリと毒草をつぶしている陸奥。
「村長さんの話と変わらない。ただ、あたしたちが来たことに気付いているんじゃないか? 小さい木の楯と棍棒を手にしている。いつでも掛かってこいっていう意思表示でも表わしているんじゃないか?」
そのリーニャの説明が終る頃、陸奥もまた、調合の終った毒薬をワイン瓶に混入、もってきていた保存食の一つにも塗りこんでいた。
●潜入班の事情
「‥‥あれが、ゴブリンたちがこの島にやってきた船ね」
潜伏していたミリランシェルが、島のあちこちを走りまわり捜していたもの。それは、ゴブリン達が使ったと思われる船である。
「どこかの島で奪ったものね。あいつらに、こんなに器用な造船技術があるとは思えないし」
そこにゴブリンの気配がないのを確認すると、ミリランシェルはそっと船に近付いていった。
「退路を断つか。この船を燃やしてしまえば、いいか‥‥」
そのまま夜が来るまで潜伏しようと考えていた時、一匹のゴブリンが船に近付いていくのを確認した。
「見回り‥‥一匹だけか」
木の上に隠れると、そのままゴブリンが下を通り過ぎていくのをじっと待つ。
そして通り過ぎた瞬間!!
──ドゴォッ
木から飛び降り、ゴブリンの背後から必殺のスマッシュEXを叩き込んだ。
フレイルスマッシュを食らい、ゴブリンは一撃でフラフラになる。
「そーれい!!」
──ドゴゴゴゴゴコゴゴゴゴコゴっ
あとはひたすら袋叩き。
やがて息絶えたゴブリンの死体を船に放り込むと、ミリランシェルはそのまま次の獲物を捜しに向かった。
なお、この戦いの最中、ミリランシェルが恍惚の表情をしていたのはいうまでもない‥‥。
──残るゴブリン、あと19体
●そして夜〜月は私の味方です〜
日も暮れて作戦開始の時間。
ふと気が付くと、対岸には大勢のゴブリンたちが集まっている。
神聖魔法ミミクリーにより鴉に変身していたヒスイからの報告で、ゴブリンたちが自分達の集落で戦いの準備をしているという事を皆に告げていたため、冒険者達もすでに戦闘準備はOKであった。
「あとは任せたわー。がんばってねー」
ミミクリーを解除したヒスイが皆にそう告げる。
「やれやれ。後衛のバックアップは任せたからな」
そう呟くと、前衛突撃隊長の北道 京太郎とリーニャが走り出した。
「報告通り、先制魔法いきます!!」
エレアノールが浅瀬を使って走りこんでくるゴブリン達に向かって詠唱を開始。
静かな青い輝きに全身が包まれていくエレアノール。
その姿に、ゴブリン達も一瞬たじろぐ。
──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥッ
そして突き出したエレアノールの掌より、吹雪が舞い上がる。
アイスブリザードと呼ばれる魔法である。
浅瀬にいた5匹のゴブリンは吹雪に巻き込まれ翻弄されていた。
──ザシュツ
「悪いな‥‥」
そのブリザードが収まるや、京太郎が手にした日本刀で眼前のゴブリンを切り捨てる。
「そいやっ!!」
メイン武器をダガー二刀流に切替えたリーニャが、ゴブリンに向かってダブルアタックを炸裂。
血まみれになって其の場に崩れていくゴブリンが2匹。
──あと17匹
「ムーンアローっ」
銀色に輝いていたエルの指先から、月明かりに良く似た輝きの矢が飛び出す。
それはブリザードで弱っていたゴブリンに直撃するが、それでもゴブリンはまだ倒れない。
「あっれ?」
ムーンアローの一撃で止めが刺せると思っていたエルは、倒れずに走ってくるゴブリンに驚いた。
が、やがてゴブリンは青白い光に包まれ、その場に崩れ墜ちた。
「まったく。エルはいつも詰めが甘いんですから」
リラのホーリーがエルに向かってきたゴブリンに発動したらしい。
「だってぇ。浅瀬にいると、シャドウバインディングがうまく使えないんだよー。影がユラユラしてて」
その言葉にはいはいと相づちを打つと、リラとエルは直に魔法詠唱準備に入った。
──あと16匹
「止めだぁぁ」
メルヴィンが手にした鞭をゴブリンの首に絡み付ける。
それを必死に外そうとするゴブリン。
「今だエルっ!!」
メルヴィンの合図と同時に、エル・サーディミストの全身がライトブラウンに輝く。
──フワリ!!
鞭が首に巻き付いたゴブリンの姿がフワリと中に浮き、上空に向かって『落下』していく。
エルのローリンググラビティにより重力が逆転し、ゴブリンは哀れ『首吊り』状態になった。
やがて魔法が切れると、窒息し、悶絶死を遂げたゴブリンがその場に崩れ落ちていった。
──あと15匹
「そっちには行かせません!!」
浅瀬を迂回して、少し深くなっている所をザブザフと歩み寄ってくるゴブリンたちに向かって、陸奥 みらんがそう叫び、素早く印を組む。
「‥‥春花の術っ」
ちょうどゴブリン達が風下にいるのをいいことに、陸奥 みらんは春香の術を発動させる。
──ザバザバザバァァァァァン
次々と倒れていくゴブリン達。
だが、浅瀬ではないその場所で眠りにつき倒れるという事は‥‥。
「ヴガガガカガガガガカァァァァァ」
大量の海水を飲込み、慌てて目が覚める4匹のゴブリン。
だが、そのときは既に時遅しである。
──スコォォォォォォン
溺れていたゴブリンの頭部に鈍器がぶつかる。
「そーれい!!」
先に潜伏していたミリランシェルが後方から合流、挟撃作戦は成功という所であろう。
──そんなこんなで残り5匹ほど‥‥
ゴブリン達のいる島からはいくつもの煙が立ち上っているのが、冒険者達の目にもはっきりと判る。
ミリランシェルがゴブリン達の船や無人となっていた集落に火を放って来たのである。
やがて森の奥からは、残ったゴブリンたちが飛び出してくる。が、浅瀬には同志達の無残な死体が転がっている。
その光景に、ゴブリン達は一歩、また一歩とあとずさりを始めた。
「‥‥怨むなら、図に乗った自身を恨め、小鬼」
彼方此方に怪我を負っている北道 京太郎が最後の戦いといわんばかりに突撃準備に入る。
そのタイミングでエル・カムラスのシャドウバインディングも発動。ゴブリンの足を封じ込めていく。
運よく抵抗出来たゴブリンも、エレアノールのアイスブリザードの餌食となり、弱っていた所を前衛部隊の集中攻撃により一掃されていった。
当初の作戦期間であった4日のうち、初日の夜半にはゴブリンたちの中で生きているものは存在しなくなっていた。
●残りの日数はバカンスということて
作戦も無事に終了した翌日。
冒険者立ちは迎えの船がやってくるまでの束の間の時間を、バカンスや村の復興に当てることにした。
滞在期間の食事などは村が負担してくれたおかげで、もってきていた保存食に手を付けることも無かった。
ただ一人、陸奥みらんは毒を附与した保存食を廃棄し、新しい保存食を一つ貰っていたようであるが‥‥。
「はい、これで大丈夫です」
前衛である北道 京太郎の怪我を、リカバーで回復しているのはリラ・ティーファ。
「思ったよりも、奴等がアホだったおかげで作戦はうまくいった。まあ、多少傷は負ったものの、魔法とは対したものだな‥‥すまない」
リラに礼を告げる北道京太郎。
無事にゴブリンを殲滅でき、村に平和が訪れた。
だが、エル・サーディミストはじっと海を見つめながら静かに口を開いていた。
「お仕事とはいえ‥‥殲滅しちっゃた‥‥。追い払う、とか……やっぱり、あんまり、殺したくなかったいんだ……」
そう呟いている優しいエル。
そんなエルの頭をそっと撫でながら、メルヴィン・カームが静かに呟く。
「依頼主が殲滅を望んでいるのなら、それに応えるのが僕らの仕事だろ? それに、追い払ったとしても、ゴブリン達はまた別の所を襲いに向かうだろう? ずっと同じことを繰り返していく。それだけ多くの人が不幸になってしまうんだ」
そう呟きながら、エルの肩をそっと抱くメルヴィン。
「でも、エルのそういう所は好きだよ」
‥‥コクリと肯くエル。
「‥‥ふう。イイ気持ち‥‥」
既にバカンスモードに突入しているのはヒスイ。
気持ちよさそうに泳ぎながら、ゆっくりとした時間を満喫しているようである。
「このお魚料理、なんていう名前なんですか」
島自慢の魚料理に舌鼓を打っているのはエレアノール。
次々と出てくる見知らぬ料理。
おもわず『お持帰りできますか?』とでも言い出しそうな雰囲気でもある。
「では、これとこれは村からもっていかれた物なのですね‥‥」
焼け落ちたゴブリンの集落からめぼしいものを集めてきたリーニャは、村長の家の前にそれらを並べ、村長に問い掛けていた。
「ああ。果実を取りに行っていた若者たちが奪われたものじゃな‥‥」
そういわれて、リーニャは残ったものをじっと見る。
実用的でなく、且、価値のないガラクタだけしかそこには残っていない。
「し、収穫なし‥‥とほほほほ‥‥」
ガックリと肩を落とすリーニャ。
──そして4日後
かくして冒険者達は、無事に仕事の依頼を完了し、島から本国に向かって帰っていった。
次の仕事が、恐らくまっているだろうノルマンへと。
〜FIN〜