●リプレイ本文
●オンリィ・ユー
──シャルトル・プロスト領
そこはヨハネス討伐隊のベースキャンプ。
この場所より街道を進む事で、件のヨハネス領に突入する。
すでにこの街道以外の街道は全て封鎖され、あとは作戦開始のタイミングをじっと待つばかりであった。
──そこの後方の冒険者たちの待機場所
「‥‥はわわわわわ‥‥」
テーブルに付いたまま、クリス・ラインハルト(ea2004)は動揺のあまり素っ頓狂な声を上げていた。
彼女の目の前には、プラックウィング騎士団のアレックス副騎士団長が座っており、クリスたちと話をしていた。
「そ、その話しは本当なのですか?」
「ええ。既に討伐部隊の選抜メンバーが変装して領地に侵入しています。彼等からの報告では、エルハンスト・ヨハネスは自分の屋敷に立てこもり、警備はセフィロト騎士団によってがっちりとガード。さらに周囲からは悪魔の反応が多数確認されているそうです‥‥」
「ようするに、殲滅作戦としては手加減は無用という情況になっているのか‥‥」
そう呟くのは、ラシュディア・バルトン(ea4107)。
「ええ。そういうことになりますね」
「なりますね、じゃないですよっ!!」
バン、とテーブルを叩きつつ、リディエール・アンティロープ(eb5977)が叫ぶ。
「ま、まあ‥‥落ち着いてください」
そう必死にリディエールを宥めるアクエリア・ルティス(eb7789)。
「で、ユーノは何処に?」
「報告では、屋敷の地下にある退避場所だそうです。そこに護衛の騎士を二人付けて」
と告げるアレックスの眼の前に、ポン、と数枚の羊皮紙を投げてよこす『レナード・プロスト』。
「ほら、これがあの屋敷の見取り図だ。地下に抜ける道、その他の隠し部屋の全てが網羅されている‥‥多少は役に立つだろう?」
と呟くプロスト卿。
「役に立つなんてものじゃない。一体こんな地図どこから?」
「シャルトル地方は、元々私が辺境伯だった時代の管轄区だ。万が一の刻も考えて、大抵の城塞の見取り図などはこっちで押さえてある。で‥‥」
と告げると、マスカレードも姿を出す。
「さて、それじゃあニライ殿の所には私が行ってきましょう。ユーノは元々私の補佐官、助命嘆願でよければいくらでもしましょう」
と笑いつつ向かうマスカレード。
「さて、ちょっと待ってくれ。先に俺がニライと話をつけたい‥‥」
と、ラシュディアが呟くと、すぐさまテントから飛び出していった。
──そして、騎士団長詰め所
「どうした? まもなく作戦が始まるが‥‥」
詰め所で最後の打ち合わせをしていたニライが、突然やってきたラシュディアにそう問い掛ける。
「ああ、実は頼みがあるんだが‥‥」
「ん? どうした?」
そう告げると、ラシュディアはテントの中の他の騎士たちをチラリと見た。
「ふむ。全員1度テントから出て欲しい。どうやら私と直接話がしたいらしい」
「ですが、護衛の者は必要かと」
「いらぬ。彼はプロスト卿付き魔導師だ。身分もしっかりしている」
その言葉に、テント内部の騎士たちは退席する。
そして全員がいなくなるのを確認すると、ニライは静かに口を開いた。
「どういうことだ?」
「今回の作戦なんだが。顔見知りの女の子が向こうにいるらしいんで、その子を死体のフリでもさせてこっそり連れ出すのを見逃して欲しいって事だ。自分で言うのもなんだけど、その代償に見合った働きはできると思うな」
そう真剣な表情で告げるラシュディア。
と、ニライはチラリとラシュディアを見て、しばし思考。
「ノ嬢‥‥か‥‥」
うまく聞取れなかったが、ニライが告げた言葉の中に、ユーノの名前があったような気がしたラシュディア。
(しまった‥‥ユーノとリディの事、情報通のニライが知らないわけないなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)
と、心の中で動揺しているラシュディア。
「で、その死体のフリというのは?」
「え? ん? あ、ああ‥‥このクスリを使う。ちょっとツテで手に入れたクスリでね‥‥」
と、ここに来る途中で受け取ったラヴィ製の仮死薬の壷を見せる。
「なるほどなぁ‥‥では、改めて冒険者サイドの作戦を組み立てて持ってこい。話はそれからだ」
「はいはい。そんじゃ、ちょっくらいってくるとするか‥‥」
ということで、シラュディアは皆の元へと戻っていった。
●はい? 憶えていますが。
──作戦開始・ヨハネス領内
ガギィィィンバキッドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォン
激しい戦闘音が市街地に響く。
討伐騎士団の突撃と同時に、市内の彼方此方に隠れていたヨハネス自警団及び義勇軍、セフィロト騎士団の下位騎士などが次々と姿を現わす。
そして素早く討伐騎士団と交戦状態に突入すると、一行を奥の屋敷へと近づけさせないように動く。
それに対して、プラックウィング騎士団は正面から突破。
横道と上空(セイル・ファースト(eb8642)のルーム)からは冒険者達が屋敷へと移動、そのまま屋敷に接近したのだが‥‥。
──ザッ
屋敷の直前で、セフィロト騎士団の騎士が二人、セイル達の前に姿を現わした。
「さてと。ここから先には進ませませんよ‥‥」
「悪いけれど、これって戦いなんだよねっ!!」
威勢よくそう叫ぶ二人の騎士。
「それじゃあ、騎士として、正正堂堂と戦わせて貰うか‥‥」
「そっちが二人ならこっちも二人。文句はないわねよね?」
と、セイルとアクエリアが前に出る。
「いいでしょう‥‥では!!」
「掛かっていきましょう」
と呟くや否や、二人は一気に間合を詰めてくる!!
──ガギンガギィィィィィィィィン
一人の素早い連撃を、アクエリアは素早く剣で受け流す。
「はっ、早いっ!!」
「当たり前だっ!! 単純な戦闘能力なら、アサシンガールよりこっちの方が強いっ!!」
そう叫ぶセイルも、相手の見えない攻撃をどうにか受け止めるのが精一杯であった。
「ちっ‥‥それなりに強くなっているとは思ったのだがなぁ‥‥」
「そうですね。私達セフィロトと互角に戦える人間なんで、せいぜい3人ぐらいしか知らなかったのですけれど‥‥」
と呟くセフィロトの騎士。
「なら、俺達で5人だな‥‥で、その3人っていうのは、どこのどいつなんだ?」
とセイルが問い掛ける中、アクエリアスは必死に攻撃を続行。
──ガギカギガギカギガキガギガキガギカギカギガギ
全てを受止められ、そして流される。
敵の攻撃もまた、アクエリアは受け止め、そして流していた。
「そ、そのトップ3っていうの、気になるわよねぇ‥‥」
そのアクエリアの言葉には、彼女の正面の騎士が呟く。
「秋夜という武道家を御存知でしょうか‥‥かれには触れる事も出来ませんでした‥‥」
その言葉に、セイルが一瞬頭を捻る。
(秋夜って‥‥悪鬼かよ‥‥)
「で、残りは‥‥」
──ガギガキガキガギガキガギガギガギカギガギガギっ
すかさず剣戟を叩き込むが、全てを受止められるセイル。
「二人目はゼファーという少女。勝てる筈がないし、死を覚悟した‥‥」
その直後、セイルとアクエリアスの二人を除いた冒険者達は邸敷地内部に突入。ここからユーノの避難している地下室へと向かう。
「で‥‥最後の一人は‥‥どこのどいつだ?」
「名前すら知らない‥‥流れの武道家らしい‥‥気迫で押さえこまれた‥‥それゆえに、貴様からは奴等のような殺気も恐怖も感じないっ!!」
──ガギガギガキガギガギッ
更に剣戟が強くなる。
その後、セイルたちはしばしのあいだそこから動けなかった‥‥。
──その頃
屋敷内部に突入したブラックウィング騎士団。
すでに内部は乱戦状態となっていた。
その隙間を抜けるように、クリス達はゆっくりとこっそりとソーッと地下室へと続く階段を降りていく。
(こ、この扉ですね‥‥)
と正面の扉を確認し、仕掛けが何もない事を確認すると、ゆっくりと扉を開くラシュディア。
そこはさらに地下へと続く回廊。
その途中の彼方此方に、部屋らしき扉が繋がっている。
だが、それらには一切目もくれず、一行は真っ直ぐ先へと進む。
その先で、巨大な両開き扉を見ると、ラシュディアはゆっくりと扉を開いた。
「‥‥随分と遅かったじゃないの‥‥」
と室内から声がする。
そこは、ベルフェゴールと名乗る女性が椅子に座っている。
その近くに、石化しているユーノの姿があった。
「き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
その光景を見て、ついに押さえていた感情がプツッと切れたリディエール。
「水よっ!!」
すかさず高速詠唱でウォーターボムを発動するリディエール。
その直撃を受けたベルフェゴールだが、その傷はすぐさま癒されていく。
「第11章。魔王バアルのもたらした災厄について‥‥」
ラシュディアは素早く『赤い本』を取出すと、それを古代魔法語で大きく朗読する。
それにより、ベルフェゴールの動きの一部を鈍らせる事に成功したが、それでもユーノを人質に取られていることに変わりはない‥‥。
「ひ、卑怯です!!」
「戦いの常套手段の一つですよ‥‥どうしますか? 抵抗するのでしたら、この石像、倒しますけれど‥‥」
「ち、ちょっと待った!! 彼女には何も罪はない‥‥だから頼む」
と叫ぶリディエール。
だが、ベルフェゴールは怪しい笑みを浮かべつつ、静かに呟く。
「この子の父親は、自分が強大な力を欲する為に、この子を私にさし出したわ‥‥だから、この子は私のものなの‥‥判る?」
その遠回しな呟きに、ラシュディアはしばし思考。
(‥‥上では突入部隊とヨハネスの部下が交戦状態‥‥こんな所でじっしているほど時間もない‥‥なのに、どうしてベルフェゴールは落ち着いていられる?)
冷静に分析をするラシュディア。
「其の子は、ユーノの命はユーノ本人のものだ‥‥」
「契約だから仕方ないでしょう‥‥クスッ」
と笑うベルフェゴール。
「‥‥ベルフェゴール、お前‥‥ヨハネスが潰されるのをじっと待っているんだろう?」
そうラシュディアが呟く。
「あら、どうして?」
「ヨハネスが影で暗躍している時代、お前はヨハネスによって美味しい思いをさせてもらってきた‥‥が、そのヨハネスがもう終るので、その最後を見届けにやって来た‥‥。人質は、その見物の邪魔をされたくないから‥‥違うか?」
そのラシュディアの言葉に、ベルフェゴールはニィッと笑う。
「半分だけ正解ね‥‥のこりの半分は内緒よ‥‥」
と呟いている最中に‥‥。
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
。
突然扉が破壊されたかと思うと、セイルとアクエリアスが室内に突入してくる。
「ふぅふぅふぅふぅ‥‥こっちの状態はどうだっ」
そう肩で息をするセイル。
その右腕は肘から切断されてしまっている。
どうにか左腕で剣を握っているものの、戦える状態ではない‥‥。
「その女が影で暗躍していたのねっ‥‥」
とアクエリアスも告げるが、頭や身体のあちこちから血を流し、立っているのも限界のようである。
「アクエリアスさんっ!!」
クリスが慌てて駆け寄ると、回復薬を飲ませる。
「だ、大丈夫よ‥‥戦えるから‥‥」
と弱々しく告げるアクエリアス。
やがて、建物の天井、つまり1階部分の騒音がおとなしくなるのを確認すると、ベルフェゴールはその場からスッと消えていった‥‥。
●回収‥‥そして
──プロスト領
石化したユーノは、とりあえず布で包んでプロスト卿の用意してくれた馬車に積み込むと、そのまま出発のタイミングをじっと待っている。
全ての行動を、ニライとその配下達に気取られないようにするのは至極至難の技であった。
そしてマスカレードとプロスト領から、もしユーノが元の姿を取り戻せたのなら、ここに逃げているといいと、一枚の地図を手渡される。
そこは『オーガキャンプ』。
プロスト領の中の唯一の安全地帯。
プロスト卿の許可なくては立ち入ることは出来ない為、そこにユーノを匿うといいだろうという話で纏まった。
「で、腕の調子はどうだね?」
と、プロスト卿によって再生された腕を軽く振るセイル。
「ああ‥‥いい感じだ。それよりもプロスト卿、ヨハネスのおっさんの最後はどうだった?」
「騎士団による討伐は完了したよ。死体は燃やされて灰に‥‥領地内で抵抗したものは全て殺害、当分の間、ヨハネス領へと繋がる街道は全て閉鎖となる‥‥」
と告げたとき、プラックウィング騎士団とニライが一行の前に姿を現わした。
「この度の協力御苦労であった‥‥では失礼する」
と告げると、ニライは踵を返す。
「ニ、ニライさん。それだけですか?」
そう告げるクリスに、ニライは振り返りつつ口を開く。
「それだけというと?」
「え、あ‥‥いえ、いいです‥‥」
「ふむ。それとラシュディア、例の少女は無事なのか?」
そう口許に笑みを浮かべつつ問い掛けるニライ。
「ああ、なんとかなった‥‥助かったよ。特例措置済まなかったな」
「なに、冒険者の皆には色々と世話になっているからな‥‥リディエール、頼むから目立つ所にその女性とやらをださないようにな‥‥」
と告げて、その場を立ちさろうとする。
「なーんだ。ニライさん、ユーノさんの事判っていたんですね」
「さあな‥‥大切な友との約束だからな‥‥じゃあ‥‥」
と告げて、ニライはその場を後にした‥‥。
あとは石化の解除だが。
プロスト卿の石化解除でも、ユーノの石化は解除されない‥‥。
一体、彼女に何があったのか‥‥。
全てを知るのは、ベルフェゴールのみ‥‥。
──Fin