●リプレイ本文
●異端者たち
──シャルトル・ノルマン江戸村・プロスト卿自宅
「どうしても、ここ以外には考えられませんでした」
クレア・エルスハイマー(ea2884)が書庫でのんびりと書物を読んでいるプロスト伯にそう問い掛ける。
炎の精霊との契約の為、クレアはダンディ・ドッグを探す必要があった。
その為のヒントを、他の仲間たちと一緒にパリの王宮図書館や冒険者ギルドの書庫などで探した。
だが、結果として、絶対というものはどこにもない。
古い報告書の中で、プロスト伯が過去にダンディドッグと接触したという記述があったため、最後の望みを賭けてここにやってきていたのである。
「まあ、そうでしょうねぇ。パリ及びノルマンでは、ほとんどダンディドッグの発見報告はありませんから」
「ですが、プロスト伯は見た事があるのですよね? 御願いします。私をそこに導いてください!!」
そう頭を下げるクレア。
「しかたありませんね。まあ、いいでしょう。ここまでたどり着いて、あの報告書を見つけただけでもたいした物ですから‥‥」
と告げると、プロスト伯は地下室へと向かう扉を開き、その奥の階段を降りていった。
「ダンディドッグとの契約。いいですか? その方法は一つです。貴方はダンディドッグを力でねじ伏せなくてはなりません。炎の精霊は、より強いものに従います‥‥そして、私の『召喚』するダンディドッグはそんじょそこらのものとは一味も二味も違いますから‥‥」
と告げつつ、地下室にやってくる二人。
そしてプロスト伯は、そこの床に巨大な魔法陣を形成する。
「これは‥‥送還の魔法陣ですか?」
「まあ、その一種ですね。いずれ貴方も使えるようになるでしょうけれど‥‥では召喚しますので‥‥」
と告げ、プロスト伯は静かに印を組み韻を紡ぐ。
やがて魔法陣の中央にダンディドッグが姿を現わすと、クレアに対して敵対意志を見せた。
「どうやら、本気で相手をしなくてはいけませんね‥‥いいですわ、掛かっていらっしゃい!!」
そのクレアの啖呵と同時に、ダンディドッグは襲いかかっていった。
──そして
衣服のあちこちが焦げ落ち、皮膚も焼けている。
痛みで立上がる事すら出来ないものの、クレアはどうにかダンディドッグを力でねじ伏せたのである。
──キィィィィィィィィィィィィィィィィィン
そして気がつくと、クレアの掌にあった精霊の友の契約印が変化し、精霊契約印へと姿を変えていた。
(契約は成された。力弱きものよ、より我等を学び知るがいい。その時は、我スルトスの名において最上位精霊との契約を行なおう)
そう脳裏に声が響く。
「あははっ‥‥ありがとうございます‥‥」
にこやかに掌の紋章に呟くクレアであった。
●悲劇の引き金
──シャルトル・プロスト領・とある夫婦の家付近
「‥‥一体どういうことなの‥‥」
ディーネ・ノート(ea1542)は、訪ねていた家がなくなっていることに驚いている。
先日、異端審問で連れ去られた夫婦。
彼女達を救う為に、ディーネ達はプロスト領にやってきていた。
そしてまずは夫婦の家の近所や酒場で聞き込みをしようと思ったらしいが、まず、その家が無くなっている。
どうやら最近になって取り壊されたらしく、そこには残骸だけが放置されていた。
「あ、あの‥‥すいません。ここにあった家は‥‥」
近くを通りかかった人にそう問い掛けるが、その人は下を向いたまま一言だけ告げて去っていった。
「異端審問管たちがやってきてこんなにしちまった‥‥」
「こ、ここまでするものなの? 異端って審問官って‥‥」
ふと、全身が震えている自分に気がつく。
何かに脅えている自分。
それが何か、ディーネにはまだ判らなかった。
「バリのミストルディンさんの情報網にも、夫婦がどこに囚われているか判りませんでした‥‥。それにプロスト伯でも‥‥」
そう告げるのは、一緒に夫婦を助けるべく同行していたサクラ・フリューゲル(eb8317)。
「そうなの。どうしたらいいのよ‥‥もうっ!!」
焦りから苛立ちはじめているディーネ。
と、建物の残骸の近くで、一緒にきていたレイア・アローネ(eb8106)とエメラルド・シルフィユ(eb7983)が何かを見つけた。
「二人とも。ちょっといいか?」
そうサクラとディーネを呼ぶエメラルド。
「手練れだね‥‥それもかなりの」
「ええ。この建物、ただ破壊しただけではないよね?」
レイアとエメラルドの二人は、残骸となった家に何か残っていないか調べていた。
と、その建物の残骸が、どうやら素人ではなく専門家による破壊らしいという所まで確認できたらしい。
「専門家ですか?」
そうディーネが問い掛けると、静かに肯くレイア。
「建物を破壊する。それに使われていた斧や鉈だが、戦闘用のバトルアックスの振り回しと同じ角度、同じ軌跡でうちこまれたあとが幾つか残っている。基礎の石組みもそう、ハンマーで粉々にされていて、さらに地下室がないか確認する為に、床下を執拗なまでに掘り起こされている。解体の専門家ではなく、戦いの方‥‥という所だな」
そう告げると、エメラルドが別の場所から出てくる。
「家財道具も何もかも残っていない。まるで痕跡を全て消そうとしているみたいだな」
「どうして? 何故ここまでする必要があるの?」
エメラルドの報告を聞いて、サクラがそう叫ぶ。
「見せしめでだな。異端宗教に関与するとこうなるって。付近の人たちに恐怖心を植え付けるのも、彼等のやり口だから」
エメラルドが吐き棄てるように告げる。
「じゃあ‥‥もう‥‥」
溢れてくる涙を拭うことなく、ディーネは酒場へと走る!!
そして勢いよく入り口の扉を開けて飛込むと、精一杯の大きな声で叫んだ。
「誰か、あの空き地に立っていた夫婦の事を知りませんか? どんな些細な事でもいいんです!! 御願いですから教えてください」
そう叫ぶディーネだが。
酒場で飲んでいた近くの人たちは、皆、ディーネから目を背けてしまう。
その動きが、ディーネには腹立だしかった。
「どうしてですか? あの夫婦が可哀想だとは思わないのですか!!」
そう叫ぶディーネの肩を、エメラルドが後ろから掴む。
「ディーネ、もういい。彼等には、護らないといけないものがあるんだ。異端に関与すると異端と疑われる。異端審問官ににらまれて捕まえられたら、もうその疑いははれることはない‥‥」
その言葉に、酒場の方から一言。
「そのお嬢さんの言うとおりだ‥‥どこで聞き耳を建てられているか判らん。あの夫婦については聞かないでくれ‥‥」
そう告げられて、ディーネ達は建物の外に出ていった。
●月の歌声が聞こえる
──パリ市街
静かに音楽を奏でているのはクリス・ラインハルト(ea2004)とリル・リル(ea1585)の二人。
竪琴とリュートを奏で、精霊界でアナイン・シーが歌った歌。
その歌詞を求めることが、二人に課せられた使命。
「この曲は『一つの歌』と呼ばれている曲です。どなたか以前この曲の詩を耳にされたことのある方はいらっしゃいますか?」
そう叫ぶクリス。
その横では、リルが力強くリュートを奏でつづけている。
やがて、旅の吟遊詩人から、その曲を知っている歌姫がいると教えられた。
そして二人は、その歌姫に出会う為に、件の酒場へと向かっていった。
──そして
酒場で二人は、話にでてきた歌姫と出会った。
彼女はアナイン・シーの告げた曲を奏で、それを静かに歌っていた。
その歌詞はどこか異国のもので、クリスとリルには判らなかった。
だけど、それがどんな意味を持っているのか、何を訴えたかったか‥‥それだけは伝わってきた。
いつしかクリスとリルの二人は、無意識のうちに、その歌を紡いでいた。
聞いた事のない歌詞。
だけど、心の中からそれが次々と溢れだし、二人はそれを曲に乗せて歌いつづけていた。
──キィィィィィィィィィィィィィィィィィン
そして気がつくと、二人の掌にあった精霊の友の契約印が変化し、精霊契約印へと姿を変えていた。
(お疲れ様‥‥これで契約は終りです。まだ力弱きものは最上位の精霊との契約は行なえません。今はまだ、その契約印を用いて己を磨いてください‥‥)
そう何処かから声が聞こえてきた。
「アナインシーさん。ありがとうです」
「契約が終ったのー。これで精霊さんともお友達なのー」
そう呟いてリュートを奏でるリルリル。
と、その音に導かれて、リルの回りに月の精霊ブリックルが姿を表わし、音に合わせてゆらゆらと揺らめいていた。
●太陽の差す場所
──シャルトル・未探査地域
人の踏み入らぬ人外の世界。
陽精霊との契約の為、八代樹(eb2174)とレア・クラウス(eb8226)、鳳美夕(ec0583)の三人は訪れていた。
やがて、一行は石柱によって形成された古い遺跡にたどり着く。
そしてそこで陽精霊ホルスと出会った。
──フワサッ‥‥
一瞬、何かが上空を横切った。
それは、金色に輝く巨大な鷹であった。
「小さきものよ、出迎え御苦労である!! 我はホルス。偉大なる王バハムートの命により、君達がここに来るのを待っていた。我と契約を行うならば、その掌を空に掲げよ!!」
そう二人の脳裏に声が響く。
それと同時に、レアと八代は紋章の刻まれている手を空に向かって掲げる。
──キィィィィィン
やがて、二人の掌にあった精霊の友の契約印が変化し、精霊契約印へと姿を変えていた。
(まだ君達は未熟。なれば、より強い力を付けよ、学べ。ならば我は、貴殿らと戦う大いなる翼となろう)
そう脳裏に響いてから、やがて太陽の光は静かに収まっていった。
「さて、それじゃあ次に向かいましょうか‥‥」
と告げて、美夕達は1度パリへと戻ることにした。
●大地の王
──シャルトル・プロスト城地下立体迷宮
シャロン・オブライエン(ec0713)とラルフィリア・ラドリィ(eb5357)、タチアナ・ルイシコフ(ec6513)、そしてパリに向かう途中で合流した美夕の4名は、ティアマットとの契約の為に、プロスト城地下立体迷宮にやってきていた。
やがて一行はティアマットと出会うことが出来た。
「ほう。我が力欲するか‥‥だが、まだ我の力を扱うには、貴様達は小さくて弱い。より力を付けよ!!」
そうティアマットが叫ぶと、二人の掌が熱く感じられる。
──キィィィィィン
やがて、二人の掌にあった精霊の友の契約印が変化し、精霊契約印へと姿を変えていた。
「未熟なりしもの。より知識を得よ‥‥その時は、我は貴様たちの牙となろう」
そう告げる。
「ティアマット!! 俺は阿修羅神の加護を受けしもの。俺でも、精霊と、ティアマットと盟約を結べるのか?」
そうシャロンが叫ぶ。
「戦神の加護を受けしものよ。我は神々の武具となろう‥‥だが、まだ貴殿では我を扱うには未熟。より高みを目指すがよい。その時は、わが牙を剣となそう‥‥」
そう告げてから、ティアマットの牙が抜け、大地に落下して突き刺さる。
やがてそれは、漆黒の一振りの剣となった。
「これが‥‥大地の剣」
そう呟いてシャロンが柄に手をかける。
だが、それはびくりともせず、大地に突き刺さったまま。
「さらば‥‥小さきものたちよ‥‥」
そう告げて、ティアマットは大地へと沈んでいった‥‥。
●風の守護者
──プロスト領郊外・6柱の封印塔
これはプロスト城を中心とした森林エリアに点在している塔。
この中の一つが通称『風の塔』。
ここに、ラシュディア・バルトン(ea4107)とリスター・ストーム(ea6536)の二人は足を踏みいれていた。
「しっかし‥‥色気もなにもない所だな‥‥」
そうブツブツと呟きつつ、リスターは次々とトラップを解除していく。
「まあな。だが、ここに風の精霊がいる事は確かだからなぁ‥‥」
と階段を昇りつつ呟くラシュディア。
やがて塔の最上階にたどり着くと、二人は塔の上から周囲を見渡した。
どこまでもつづく大森林。
静かにたなびく風。
そしてリスターには見える、全裸の美人のねーちゃんたち。
それが風にのってフラフラと飛んでいた。
「ぐふふっ‥‥へい彼女。俺といい事(盟約)しないかい?」
そう告げた刹那、精霊達がリスターの周囲に集まってくる。
「あ、ああ‥‥これはハーレム。夢にまで見たハーレムだぁ‥‥ああ‥‥」
いままでに味わった事のない快楽に身を任せていくリスター。
それを横目に、さらに放置しつつ、ラシュディアは近寄ってくる無数の影を眺めている。
「ラシュディアよ。よくここに来た。我は風の精霊ヴァルキューレの一人ブリュンヒルデ。貴殿と盟約を結ぶものなり‥‥」
そう告げて、ヴァルキューレはリスターの掌に口付けをする。
と、紋章が輝き、形を変えていく。
「あ、ああ‥‥ずいぶんとあっけないな‥‥」
「そうではない。精霊が貴殿を認めたのだ‥‥それを受け入れたまえ」
と、上空から声がする。
そこにはバハムートがゆっくりと飛んでいる。
さらに側にはアナイン・シーとスルトスが、塔の横にはティアマットが対峙し、次々とラシュディアとの盟約を執り行った。
「ち、ちょっと待て‥‥これはどういうことだ?」
「貴殿は我等が盟王であるレナードの弟子。その実力を我等は認めただけにすぎず‥‥だが、我等の力、この世界では具現化できず。我等の眷族に力を借りるがよい‥‥」
と告げて、精霊達は次々と姿を消していった。
「ふう。堪能堪能‥‥」
と、リスターもようやく事を終えてラシュデイアの元に戻って来る。
「で、何か変わったのか?」
そう告げるリスターに、ラシュディアは掌を見せる。
そこには、今までより複雑になった紋章が刻まれている。
「ほほう。精霊契約印かぁ。これがあると精霊を自在に召喚できるっていうあれだね?」
「ち、ちょっと待て、なんでお前に判る?」
と、狼狽してリスターに問い掛けるラシュディア。
「だってほら‥‥な?」
と、リスターも右肩を見せる。
そこには、風の上位精霊契約印らしきものが記されていた。
「これが精霊契約印‥‥て、ちょっとちがうな‥‥これはなんだ?」
「精霊との愛人契約印じゃないか? グフフフッ」
と愉しそうなリスター。
「まあ、そういうことにしておこう。この一件は奥さんに報告するからそのつもりで‥‥」
と階段を降りはじめるラシュディア。
「ち、ちょっと待った。なあラシュディア、僕達友達だよね!!」
とご機嫌をとりつつ階段を降りるリスター。
そして一行は、静かにパリへと帰還していく。
新たに契約を結んだものたち。
だが精霊達は気まぐれ、君達の呼び掛けに応じないこともあります。
でも、精霊を怨んではいけません。
彼等は何者にも束縛される事のない存在です。
君達の手にある契約印は、そんな彼等からちょっとだけ力を借りる為のものですから‥‥。
──Fin