●リプレイ本文
●動乱の時代
──パリ郊外・阿修羅寺院
静かな秋。
このノルマンにも秋が訪れた。
収穫の季節が訪れ、郊外の畑では大勢の人たちの収穫作業がピークを迎えていた。
乙女たちはこれら収穫物の中からより選られたブドウを用いてワインを作る。
それらはやがて教会や王城へと届けられ、今年の実りへの感謝を捧げられる。
そんな話はどっかに置いておいて。
「フィーム殿。しばし時間を頂きたいのだが」
突然の来訪。
バーク・ダンロック(ea7871)が急務で阿修羅寺院を訪れたのである。
そのまま正門を抜け、フィームのいる瞑想の間へとやってきたバーク。
「どうした? 何か緊急事態か?」
「ああ。じつはとんでもない事が‥‥」
そう告げると、バークもそこに結跏趺坐で座り、そのまま話を続けた。
「俺はイギリスでシャクティ・マンダラを使うデビルに遭遇した。神聖魔法『阿修羅』を使うデビルなんて聞いた事が無い。アスタロト‥‥奴は何者なんだ?」
そう問い掛けるバークにたいして、フィームは頭を捻る。
「我々パラディンにとってデビルは絶対悪にして滅ぼす対象。そんなものに、我等が主神である阿修羅が加護を与えるはずがない‥‥」
「だが、それは存在した。一体どういうことなんだ?」
そう問い掛けられて、フィームはスッと立上がる。
「あの方なら何か判っているかも知れぬ‥‥バーク、ついて来い。剣士の居留地に向かう」
──場所は変わって剣士の居留地
「ふむ。アスタロトか‥‥」
静かに焚火を見つめつつ、マスター・オズが呟く。
「ああ。マスター・オズ、アレはいったい何者なんだ? 俺なりに色々と考えてみた。『混沌に触れて闇に堕ちた阿修羅教徒』『混沌に触れて闇に堕ちた阿修羅神の眷属』『阿修羅教徒や阿修羅神の眷属を取り込んだデビル』。どれも該当するが、どれも確証がない‥‥」
そう告げるバークに、マスター・オズがゆっくりと口を開く。
「先にバークの告げたもののうち、最後の一つはあり得ぬ。デビルの中に対象を取り込んでその力を宿すものは存在せず、付け加えてそのような者に阿修羅は加護を与えぬ。同じ理由で、最初と2番目もあり得ぬはずじゃのう」
「どういう事だ? デビルの中ではクレリックの唱える魔法を使用するものさえいるのだが。同じ理由で神の力を使うことができるのではないのか?」
「いやいや。他の神々については判らぬが、阿修羅は闇に堕ちたものに対して加護を与えはせぬ。戒律違反を犯したパラディンが魔法を使えなくなるように、闇に堕ちた時点で加護は届かぬ‥‥もし可能性があるとするならば‥‥」
そう告げて、マスター・オズはしばし考える。
「アスタロトはまだ完全に闇に染まっていない。その内にわずかながら光の部分が残っている‥‥?」
──ザッ
そのマスター・オズの言葉に。バークが立上がる。
「そんな馬鹿な事が!!」
「ないとは言い切れぬ。阿修羅は3つの顔によって我等を見ている。アスタロトを見ている顔が慈悲の顔であり、その中にまだ我等と同じ心があると見抜いているならば‥‥誰がかアスタロトを改心させなくてはならぬ‥‥あくまでも推測じゃが、そうでなければ答えが出ぬ‥‥」
マスター・オズの告げる通り。
全てにたいして等しく加護を与えている結果、見落としのあるセーラやタロンなどと違い、阿修羅の加護を得られるのは選ばれたもののみ。
阿修羅やその眷族によって常にその行動が見られていると考えてもおかしくはない。
それゆえに、アスタロトに対しても阿修羅が見ている筈である。
阿修羅魔法は阿修羅の目の届かない所では発動すら出来ない。
つまり、アスタロトは阿修羅によって監視されているのであろう。
それでもまだ加護を受けられるということは、そういうことなのかもしれない。
遠い異国の地で、阿修羅魔法と同じ力の魔法を使う種族がいるという噂もあるが、それはまた別の機会に。
「いましばらく、アスタロトは監視対象とする。可能ならば、マスター・オズの告げるとおりならばアスタロトは改心する可能性もある‥‥というところか」
フィームがそうバークに告げる。
そしてこの件については、全てのパラディン及び候補生に対して伝令が送られた。
●とある魔法の目次録
──パリ市内・ディア・ハート家地下書斎
ちょっとうす暗い部屋。
そこに積まれている膨大な資料。
それらを解読する為に、フォルテュネ・オレアリス(ec0501)がやってきていたのだが。
「助かります。冒険者ギルドなどには依頼の追加申請を御願いしたばかりでしたのに、もう来て頂けるなんて‥‥」
「いえいえ。私は冒険者ギルドの斡旋できた訳ではないのですよ」
そうニコリと告げるフォルテュネに、ウエンディは頭を捻る。
「で、ではどうやってここに?」
「以前ギルドに張られていた依頼がありましたよね? ちょっと気になっていたのですけれど、一緒に動いてくれる仲間の都合がつかなかったもので、それで、今回は私一人で伺ったのですわ」
そう告げられたものの、ウエンディは頭を少し捻って。
「そうでしたか。ではよろしくおねがいしますわ。いまもギルドに依頼は出してありますから、後日その方たちと合流してくださいね」
ということで、フォルテュネは大量の資料を前に、とりあえず何処から手を付けるか考えていた。
雑多に置かれている資料をまず簡単に仕分ける作業から始める。
でなければ、それぞれの資料がどう繋がっているのか検討もつかなかった。
その仕分けが大体終ったのは地下室に入ってから実に3日後。
そして分類した資料の数がじつに5800。
そこからさらに宗教など細かい分類にすると、実に12000は越えるであろうとフォルテュネは推測した。
「さて‥‥それじゃあまず一つ解読していきましょうか‥‥」
と、手近にあった原始信仰についての資料を手に取る。
そこに記されている記号とも文字ともつかない文章と図柄を解読しはじめるが、これがまた実に難攻不落。
古代魔法語なのだろうとは思うが、フォルテュネの知っている文字ではない。
古代魔法語も一つではない。
地域などが違うと意味合いも大きく変わっていく。
そして目の前の文字配列は、フォルテュネのしらないものである。
「こ、これは‥‥無理。どうして? 私に判らないものがあるなんて‥‥」
動揺のまま、フォルテュネは別の書物を調べる。
だが、やはりそこも彼女の知らない世界。
そんな事を繰り返しつつ、一つの石版だけ解読が出来た。
それは『魔力増幅の印』。
魔法陣とブースター作用のある宝石の組み合わせにより、自身の放つ魔法が強化されるということ。
それも幾つかタイプがあり、それらを実践してみる為には、より純度の高い大きな宝石が必要となるらしい。
「とりあえず、これを今度実践してみましょう」
とおおよその文字配列などを羊皮紙に書き留めると、その一冊をウエンディに報告し、フォルテュネはご機嫌に建物を後にした。
●愛の行方
──シャルトル・プロスト領・フロスト城地下立体迷宮
静かに水の流れている音がする。
幾つもの噴水。
そこに横たわっている水の精霊。
そんな彼女を眺めつつ、ロックハート・トキワ(ea2389)は涙を流していた。
「どうして‥‥間に合わなかったのか?」
久しぶりに訪れた彼女の元。
風の噂に、彼女が寂しがっていると聞きつけ、ロックハートはやってきた。
だが、そこには、噴水の中に横たわっている彼女の姿と、ここまで案内してくれた立体迷宮の管理人のみ。
「彼女は、いま、眠りについています。ロックハートさん、これを‥‥」
と告げて、管理人の女性はロックハートに短刀を一振り渡す。
「これは?」
「彼女の魔力の集合体。彼女は眠りの刻に入りました。失われた魔力を取り戻す為だそうです‥‥」
「なら、この短刀の魔力も返す!! それで意識は戻るのか?」
「いえ‥‥今は、それを貴方が持っていてください。そこに、彼女の意識も眠っています。こちらは意識のない抜け殻。こちらの魔力が戻ったとき、改めて彼女に短刀を持たせてあげてください‥‥」
そう告げられて、ロックハートは愕然とした。
「どうしたら、彼女の本体の魔力は戻るんだ?」
「精霊の民の持つ、水の精霊珠。それを探してください。精霊の民はもうこの世界にはいませんけれど、精霊珠はどこかにある筈です‥‥」
(ムリハシナイデ‥‥ワタシノコトハワスレテイイノヨ‥‥)
管理人の言葉の直後、短刀から意識が溢れてくる。
「黙れ。久しぶりに会いに来たのにそんな姿になっちまって‥‥かならず取り戻す。それまで待っていろ!!」
そう短刀に告げると、ロックハートは短刀を腰に差し、立体迷宮を後にした。
──そして
「精霊珠は好事家の元か、若しくは闇オークションか‥‥かならず探し出す‥‥」
と告げて、ロックハートはパリへと戻っていった。
いまは一つでも情報がほしい。
その為に‥‥。
●黄金の林檎
──ドレスタット沖
ざっばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあん
激しく打ち付ける波飛沫。
それを遠くに眺めつつ、三笠明信(ea1628)は周辺の情況を把握しようと観察していた。
現在の場所はドレスタット沖合。
大型の商船に便乗して途中までやってくると、三笠はそこから小型の船で目的地である無人の島へと向かった。
だが、その島の周囲には広い暗礁があった為、三笠は『空飛ぶ絨毯』で島の近くまで移動。
海底から30mまでは上昇できるので、そこまでは上昇したものの、まだ上は高い。
垂直に切り立った絶壁が周囲を覆っている為、それ以上は島に近付く事が出来なかった。
「あとは、ここからフライしかないか‥‥」
そう考えて、三笠はフライを詠唱した。
だが、その魔法は発動しない。
「どういうことでしょうか?」
何度かチャレンジしても、魔法がまったく発動しない。
その為、三笠は1度ドレスタットへと戻って追加の情報を探すことにした。
──ドレスタット酒場『海鳴り亭』
「ふぅ。話には聞いていましたけれど、すごい島ですね‥‥」
見てきた島についての情報をくれた酒場のマスターにそう告げる三笠。
「そうだろう?」
そう告げる酒場のマスターに、三笠は一杯奢りつつ話をつづけていた。
「それにしても、ちよっと気になる事があるんですよ。あの辺りでは、魔法が発動しないという事はありませんか?」
そう問いかけられ、マスターはしばし思考。
「ああ‥‥そういえばそんな事もあるなぁ。以前調査団がやって来たときも、島の周囲ではまったく魔法が発動しないって困っていたからねぇ‥‥」
そう告げられて、三笠は静かに肯く。
「それと確か‥‥あの島にはほどんど誰も登った事がないんだ。確か月に1度だけ、海面が下がることがある。その刻に五ヶ所だけ、海面下から洞窟が姿をあらわすんだ。そこから入っていけば、島の中には入れるらしいんだが‥‥その月に1度の日っていうのがくせものでねぇ‥‥」
と告げるマスター。
「それは何時ですか?」
「いやいや、知っている人がいるというだけで、港の外れに住んでいる『パティー村亀』というじいさんが詳しいんだけど‥‥」
そう告げられて、三笠はその老人の元を訪れてみた。
──パティー村亀宅
「ふぉっふぉっふぉっ。はじめまして。パティー村亀ですぢゃ」
髭を撫でつつ自己紹介する老人。
「はじめまして。『海鳴り亭』のマスターの紹介でやってまいりました三笠と申します。じつは色々と教えて頂きたい事がありまして‥‥」
ということで、三笠は件の島に上陸する方法を質問した。
「月に1度、月が完全に隠れる日の深夜。島の北方にむかってみなされ。さすれぱ道は開かれるぢゃろう」
そう告げられて、三笠は1度パリに戻ることにした。
もし登れたとしても、次は守護者との戦い。
これ以上の情報はないだろうと‥‥。
──Fin