【記憶の断片】超魔導少女らじかる☆らしゅ

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月18日〜11月23日

リプレイ公開日:2009年11月26日

●オープニング

──事件の冒頭。
 ガラガラガラガラ
 大量の瓦礫を退ける音。
(ああ‥‥痛い‥‥体が痛い‥‥)
 遠くから聞こえてくる悲痛な叫び。
(体が‥‥動かない‥‥どうして‥‥)
 真っ暗な空間。
 眼の前は、ただなにも見えない。
 瞳をあけているのか閉じているのかさえ判らない。
 いや、それよりももっと深刻な問題がある。
 俺は‥‥私は‥‥僕は‥‥あたいは‥‥生きているのか?

 脳裏を駆け巡る様々な記憶。
 華麗な衣裳を身につけ、派手なパフォーマンスでステージを盛り上げている自分。
 深い迷宮の奥で、摩訶不思議な碑文の解析を行なっている自分。
 街の大きな酒場で、仲間たちと楽しく馬鹿騒ぎしている自分。
 ある迷宮の遥か地下。見た事もない水の妖精と語っている自分。
 犬の着ぐるみと戦い、ボロボロに破れた自分。
 娼館のある部屋で、大勢の全裸美女を侍らしている自分。
 
(ああ‥‥生きててすいません‥‥生きててゴメンナサイ‥‥)
 そんなことを心の中で呟きつつ、意識がスッと途切れていった。

 さて。 
 黙示録の塔の爆破により瀕死の状態で発見され、手厚い看護を受けていたラシュディア・バルトン。
 馬車に乗せられパリに帰還した彼は、イクステンクション行使による精神的疲弊と、頭の外傷によるものか‥‥気が付くと彼は記憶を失っていた。

「俺は誰だ…ここはいったい何処だ?」
 パリの道の真ん中に呆然と立つ彼に、一人の騎士? のような女性が声を掛ける
「あら? ラシュディアくん。こんなところでどうしたの?」
「ラュディア? それが俺の名か?」
 突然の事態に動揺するラシュディア。
 そして彼は、騎士らしき女性に連れられて、『自分探し』の旅を始めるのであった。

●今回の参加者

 ea2389 ロックハート・トキワ(27歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea3869 シェアト・レフロージュ(24歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4107 ラシュディア・バルトン(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea8341 壬護 蒼樹(32歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea9927 リリー・ストーム(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb7983 エメラルド・シルフィユ(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb8121 鳳 双樹(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec0713 シャロン・オブライエン(23歳・♀・パラディン・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec2332 ミシェル・サラン(22歳・♀・ウィザード・シフール・フランク王国)

●サポート参加者

リーディア・カンツォーネ(ea1225

●リプレイ本文

●記憶の切片
──パリの何処かの酒場
 本日貸し切りの札が掛けられている酒場。
 その一角では、ラシュディア・バルトン(ea4107)がテーブルに様々な荷物を並べては、一つ一つを手に取り色々と試行錯誤をしていた。
 あるものを手に取ったときは涙が溢れそうになっていたり、またある女性物の衣服を手に取ったときは何か思い出してはイケナイ事が脳裏を一瞬よぎったり‥‥。
「‥‥お、俺は‥‥一体何者なんだ?」
 頭を抱えてそう呟いたとき。
──ジャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ
 座っているラシュディアの頭上から、熱湯を浴びせているロックハート・トキワ(ea2389)。
──キィィィィィィィィン
 だが、熱湯があたる直前、ラシュディアの全身が青白く輝く。
「‥‥これは御湯か‥‥っててめぇ何しやがる」
 素早く立ち上がり、近くにあった布で身体を拭くラシュディア。
「チッ。熱湯程度じゃあダメか‥‥」
「ロックハートさん何をするんですか!! ラシュディアさんは病気なのですよっ!!」
 そう叫びつつ、急いでラシュディアに近づいていくシェアト・レフロージュ(ea3869)。
「こんなにずぶ濡れになって‥‥急いで着替えたほうがいいですよ」
 そう心配そうに告げるシェアトを見て、一瞬頬を赤く染めるラシュ。
(この女性はどうして俺のことを心配しているんだろう‥‥まさか)
 そう考え、ラシュディアはシェアトを見つめつつしばし思考。
「ど、どうしたのですか?」
「一つ聞いていいか? 君はひょっとして、俺の恋人か?」
「なっ、何てこというのです!!」
「いや‥‥荷物の中にこんな女性用の衣服が。これは君のものなのか?」
 ぷりてぃ☆らしゅスーツを手に取りそう問い掛けるラシュディア。
「違いますよ。それはラシュディアさんの服ですよ。以前、ラシュディアさんが子供達の為にパリの中央広場でそれを着て劇をしていたじゃないですか‥‥」
 そう告げて、シェアトはパリキュアのテーマソングを静かに唄いはじめる。

♪〜
いつか、約束したよね、あの日、あの場所で♪〜
守って♪〜見せる〜
貴方の、未来♪〜
守って♪〜見せる♪〜
みんなの、愛と、勇気と、希望と、あした♪〜
パリッキュアッパリッキュアッ
♪〜

「う‥‥ウワァァァァァァァァァァァァア」
 絶叫を上げつつ、ラシュディアが頭を押さえてその場に崩れる。
「だ、誰だ‥‥俺は一体だれなんだ?」
 さらに混乱をきたしたらしい。
「おちつけ。俺が今、ラシュディアの全てを説明してやる」
 ラシュディアの両肩をがっちりと掴み、熱い眼差しでそう告げるのは壬護蒼樹(ea8341)。
「あ、あんたも俺の仲間だったのか‥‥」
「ああ‥‥いいか‥‥」
 そう告げて、蒼樹は静かに話を始めた。
 それは全て過去の栄光。
 ラシュディアがかつて『愛と正義の使者ぱりきゅあさん』だったこと、収穫祭でデビルと交えた一戦の話などを、聞き伝えに全て、若干の脚色を交えつつ告げる。
「お、俺は‥‥なんなんだ?」
「落ち着いてください‥‥今は、心を穏やかにしたほうがいいですよ」
 そう告げつつ、自分で調合した香水をテーブルの上に置くと鳳双樹(eb8121)が静かにラシュディアの目の前に座る。
「君は??」
「はじめまして。っていうか、私はラシュディアさんの親友の鳳双樹と申します‥‥」
 丁寧に自己紹介をすると、双樹は静かにラシュディアの前にハーブティーを差し出す。
「これは?」
「前に依頼で偉い人からもらったお茶なんです。すっごく身体にいいそうなんですよ? ラシュディアさんにあげますね」
 そう告げつつ、濃度5倍の『迷茶ムーンロード』を入れてあげる。
「ふぅん。いい香りだな。色は‥‥なんか、澱んだ沼のような色だが‥‥大丈夫か?」
「はい。月道管理局のアデラさんからいただきました」
 そうか‥‥偉い人から貰ったのか‥‥と、信用してラシュディアはそれを手に取り一気に飲み干す。
──★△×■
 何ともよく判らない味。
 例えるなら‥‥すまん、例えようがない味だったらしい。
 そのまま意識が消えそうになったとき、突然酒場の入り口の扉がバンっと開き、セイル・ファースト(eb8642)が突入してくる。
「ラシュ!! 大丈夫か!!」
 そう叫びつつラシュディアに駆け寄ると、手に持ったゴールデンハンマーをいきなり脳天に叩き込む。
──バギドゴォッ!!
 その刹那。
 セイルの眼の前にストーンウォールが発動、セイルの一撃は壁を粉砕しただけで留まった。
「な、なんてことするのです!!」
 そうセイルに叫ぶシェアトだが。
「ああ、い、いやすまん。いや記憶喪失には絶大な効力があると昔から評判の技法だが‥‥ラシュ、魔法で防ぐということは、記憶が戻ったのか?」
「い、いや知らない。高速詠唱なんてしていないし‥‥俺が魔法使えるとは‥‥」
 動揺するラシュディア。
 と、その光景を見ていたリリー・ストーム(ea9927)が、手にクレセントアックスを構えてよろよろとラシュディアに近付く。
「は、ハンマーがダメなら‥‥これならどうかしら?」
「危ないっ!!」
 ヨロヨロとしたリリーが、斧の重さに耐えきれず倒れる。
──ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ
 そのリリーに駆け寄るセイル。
「大丈夫か? リリー」
「ええ、大丈夫よ。怪我はないわ‥‥」
 と呟いている前方では、胴体が真っ二つになったラシュディアと、その光景に絶句している他の仲間たちの姿があった。
「い、急いで教会に!!」
「いや、ここならブルーオイスター寺院の方が近い!! 急いで甦生しないとっ!!」
 蒼樹とロックハートが慌ててラシュディアに毛布を被せて担ぎ、寺院へと走り出した。



●それでも私は生きている
──ブルーオイスター寺院
「だ、大丈夫ですか?」
 心配そうにブルーオイスター寺院の司祭長にそう問い掛けるシェアト。
「うむ。危ない所であったが‥‥ノルマン秘伝の応急処置で命は助かった‥‥」
 いや、応急処置じゃ無理だろ?
「凄いな‥‥ブルーオイスター寺院は‥‥」
 そう感心するセイル。
 そしてラシュディアの近くでは、ロックハートが心配そうに駆け寄り、何かを呟いている。
「‥‥精霊の民の持つ、水の精霊珠‥‥判るか? ラシュディア‥‥それが何処にあるのか‥‥」
 そう耳元で問い掛けるロックハート。
「せ、精霊球‥‥」
 そう空ろな表情で呟くと、ラシュディアは見た事のない紋様を魔力で空中に書き出す。
 それは、誰も見た事のない魔法公式。
「これか? これがそうなのか‥‥」
「この方式で‥‥精霊球を生み出せる‥‥けど‥‥できるのは‥‥俺だけ‥‥」
 そう告げて、意識が無くなる。
「あまり無理をさせないでください。本来ならば、死んでいるのです‥‥そのショックからまだ立ち直れないだけですから‥‥」
 そう司祭長が告げると、ロックハートはいきなりマントを翻す!!
──フアサッ
 その刹那、ロックハートは『きゅああさしん』の姿に変身していた。
「‥‥忍び寄る、紅の影きゅああさしんッ! ぱりきゅあの名の元に‥‥さくっとしちゃうぞ☆(ウィンク)」
 そう告げた刹那、ラシュディアの意識が戻った‥‥。
「へ‥‥変態かお前‥‥」
──プッツーーーーーーーーーーーーーーーン
 その言葉が、ロックハートの心の何かを叩っ斬った。
「いいか良く聞け。パリキュアのリーダーはお前だ‥‥それを忘れるな‥‥」
「はは。そんなハズはない。俺は男なんだ。そんな女装して変なポーズをして、変な台詞を吐いて‥‥それが真実ならにば、俺は真性の変態そのものじゃないか‥‥」
 そう告げるラシュディアの瞳から、大量の涙が溢れている。
「いいこと、ラシュディア、良く聞いて頂戴」
 意を決したかのように、リリーが真剣な表情でそう告げる。
「貴方は本当は女性なのよ。ある悪魔の呪いで、男性に変身させられていたの‥‥その悪魔との戦いのショックで、貴方の記憶が混乱してしまっているのよ‥‥」
 そう告げたとき、ラシュディアの脳裏に声が届く。
「貴女は平和を守る超魔導少女らじかる☆らしゅ。その指輪をはめると、一時的に呪いが解けるのよ。さあ、本当の姿を取り戻しなさい」
 そう告げているのは、インビジブルリングで姿を消しているミシェル・サラン(ec2332)。
 そして姿が見えないのをいいことに、ラシュディアの手に禁断の指輪を差し出す。
「これで俺の記憶が‥‥いやいや‥‥」
 そう疑いつつも、ラシュディアは静かに指輪を指に填める。
──ヒュンッ
 その刹那、ラシュディアの姿が綺麗な女性に変身する。
 例えようもないゴージャスな美女、超ナイスバディ。
 軟らかな金髪の長髪。
 そのまま変身した自分の身体を確認すると、ラシュディアはパリキュアスーツを身につけようとした。
 が、サイズが全くあわない。
「済まない‥‥服の予備、貸してもらえないか?」
 そう近くにいた双樹に告げる。
「合わないのなら‥‥仕方ないですから‥‥」
 と告げて、双樹の衣服の予備に着替える。
 だが。
 借りてきたのはいいものの、胸とお尻の部分が窮屈でパッツンパッツンになっている。
「さ、サイズが‥‥きつい‥‥」
──ドヨォォォォォォォォォォォォォォン
 その台詞に、双樹の心がへし折れた。
「わ、私はそんなにペタ胸じゃないです‥‥ラシュディアさんの体が‥‥うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
 泣きながら飛び出していく双樹。
「仕方ないですね‥‥では私のを‥‥」
 そう告げて、シェアトが自分のを貸してあげた。
──そして着替えが終って
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
 さらに同じ様な情況が発生し、シェアトもまた泣きながら飛び出していく。
「ま、まあ‥‥取り敢えずは、貴方を知っている人たちに話をききにいきましょう」
 そう告げるリリーと共に、ラシュディアはそのまま街へと出て行く。
「この先に、らしゅ様を知っている人たちがいますから!!」
 そう告げるのは、インビジリングを外したミシェル。
「君は?」
「これは失礼をっ!! ラシュ様、ご機嫌麗しゅう。わたくしはラシュ様の御付の妖精なの。早く元に戻ってね」
 ふぅんという表情で納得するラシュ。
 そしてリリー達に案内され、街の子供達の元へと歩いていくと。
「あーーー、ぷりてぃ☆ラシュだ!!」
「本当だ!! また悪魔と戦ったの?」
 と、まるで打ち合わせをしているかのような会話が飛び交う。
 まあ、そんな余裕もないのだが。
「らしゅ☆は激しい死闘の上、強大なデビルとの戦いに勝利したものの‥‥記憶を失ってしまいましたの。あなたたちの知るらしゅ☆の姿を、彼女に聞かせてあげてくれないかしら? そうすれば記憶が戻るかもしれませんし‥‥」
 そう優しい笑顔で告げるリリー。
「判ったよ!! らしゅの事を教えてあげればいいんだね!!」
 瞳をキラキラと輝かせつつ、子供達はみんなでラシュの冒険譚‥‥というか物語を話してあげた。
(こんなに子供達が真剣な眼差しで‥‥そうか。私は、本当に魔法少女だったのか‥‥)
 いつのまにか、心の中に出来ていたわだかまりがスッと溶けている。
 今までは自分の事を騙していたのだろうと思っていた事が、全て真実であったとラシュディアは理解した。
 いや、そうじゃないんだけど、まだいいか。
「それじゃあそろそろ行くからね。記憶が戻ったら、皆の所にきっと戻ってくるからね」
 そうリリーが告げると、子供達も満面の笑顔で叫ぶ。
「絶対だよ!! 約束だからね!!」
「ええ。判ったわ。きっと戻るからね」
 そうラシュディアが告げたとき、リリーが羊皮紙を取出す。
「みんなの為に、ここでラシュが誓約書を書くからねっ」
 ということで、ラシュは誓約書にサインをする。
 そしてそのまま最初にいた酒場へと戻っていくが。
 そこではすでに双樹とシェアト、ロックハートといった面々が戻っていて、みなで食事をしていたようで。
 

●後日談
──あれから数日後の冒険者酒場マスカレード
 ラシュディアの記憶は戻っていた。
 が、以前よりもおもしろい情況になっていた。
 人格が完全に『超魔導少女らじかる☆らしゅ』として定着し、記憶の混乱も収まってしまっていた。
 指輪を填める事で一時間だけ元の姿に戻れる事を理解し、普段は『プロスト卿付魔導師ラシュディア』として活動することにしたようだが‥‥。
 ここに来てこれは誤算!!
「こ、こんなにおもしろい情況になってしまって‥‥どうしたらいいのか‥‥」
 笑いすぎで涙が溢れているリリー。
「やはり‥‥塔の最後を再現すればいいのでは」
 そう告げる蒼樹だが。
「いや、元々のラシュディアとしての記憶は全て戻っている。問題なのは、それらが全て『仮の姿』であったと思うように記憶が刷新されてしまっているということだ。今まで通りの日常に支障はない‥‥」
 ロックハートが冷静に告げる。
 恋人を元の姿に戻す手掛りが掴めたのか、もう無関心のようである。
「それでも‥‥どうでしょう‥‥あのラシュディアさんの姿を見ていると‥‥」
 そう寂しそうに呟くシェアト。
 その視線の先には、普通にカウンターに座って仕事の話をしているラシュディア。
 その姿は、どう見ても今までのラシュディアと一緒である。
 その光景を、皆、複雑な心境で見つめていた。
 ラシュディアの懐には、『ブルーオイスター寺院の甦生治療費請求書』と『子供達との信頼誓約書』が仕舞い込まれていた。

──ジィィィィィィィィィィィィィィィッ

 と、その一連の光景を、ずっと物陰から見ていたわんドシ君。
「こ、これは大変な秘密を知ってしまったワン‥‥」
 そう呟くと、わんドシ君は闇の中に消えていった。

──続く‥‥のか?