●リプレイ本文
●時間がない!!
──パリ・王宮内離れの建物
静かな時間。
「お花、綺麗だねー」
楽しそうにそう告げるアンリエットに、クリスもニコリと微笑む。
「今日は調子がいいのですね」
そう問い掛けるクリス・ラインハルト(ea2004)に、アンリエットはうんと肯く。
「このお花はですね、お友達のハーフエルフさんの結婚式に貰った物なのですよ」
と鼻歌混じりに告げると、そのままアンリをベッドに連れていく。
今だアンリエットの容体は芳しくない。
いつまた発作が起こってもおかしくない状態なのである。
それでも最近は、悪鬼こと秋夜が毎日のように看病しているおかげで、多少は元気を取り戻しているらしい。
その秋夜はというと、静かに窓の外を眺めている。
「秋夜さん、一つ教えてほしいのです」
そう問い掛けるクリス。
「ん? なんだ?」
「何処か、住環境の良さそうな隠れ場所はありませんか?」
と問い掛けると、秋夜はいきなり拭き出す。
「なっ!! 何で隠れ場所なんだ? 別に、俺とクリス、アンリの三人で済むのなら隠れる必要はないだろうが‥‥」
と顔を真っ赤にして告げる。
その言葉の意味を理解したのか、クリスもまた耳まで真っ赤になって話を続ける。
「ち、違います!! 私達の住む家ではないのです!! ユーノさんが隠れられる場所が必要になるかもしれないのです‥‥それに‥‥」
そこまで告げると、秋夜もようやく言葉の意味を理解。
「あ、ああ‥‥そいういうことか‥‥シャルトルには、元々シルバーホークが隠れていた建物がいくつもある。信頼できる筋に管理してもらっているから、今でも使える場所はある‥‥必要になったら教えてくれれば、直にでも手配する」
と告げる。
その言葉に、クリスは笑顔で肯くと、そのまま秋夜に後ろから抱きついた。
「えへへ‥‥さっきはどんな誤解だったのですか? 秋夜さんから教えて欲しいのです‥‥」
と意地悪そうに問い掛けるクリス。
「‥‥俺と結婚するか?」
そう告げると、秋夜はそのまま外をじっと眺めていた。
──そんな甘い空間は棄てておいて
ノルマン江戸村。
復興が続き、今では以前のような活気にみちあふれている。
その一角にあるプロスト卿の屋敷に、薊鬼十郎(ea4004)とケイ・ロードライト(ea2499)の二人は訪れていた。
「では、今回のユーノ様の一件については、プロスト卿は関与していないのですね?」
そう問い掛けているのは鬼十郎。
ここに来るまえに、パリでミストルディンの元を訪れていた彼女は、幾つかの重要な情報を入手する事が出来た。
それは、ヨハネス卿の隠し財産についてである。
一介の冒険者では到底届かないような私財を、ヨハネス卿は隠している。
そしてその場所は、ヨハネス卿以外には娘であるユーノしか知らず、そこの鍵も彼女が持っているということである。
ダニエル卿は何等かの方法でそれを見付け出したが、鍵が無かった為にそれを手にする事が出来ないらしい。
それと同じことをプロスト卿にも訪ねてみたのだが、プロスト卿もその話は知っていた。
「まあ、ダニエル卿の暴走については私は一切干渉していない。ヨハネスの遺産については、かなり前に我が家のパーティーの時にそんな話をしていたらしいが。それが何処にあるというのは全く判らないな‥‥」
「まあ、我々はプロスト卿が今回の一件に関与していなかったという事実が確認したかったのです‥‥」
そう告げるケイ。
「それならば安心してくれて問題はない。が、一つ困った事実がな‥‥」
と告げるプロスト卿。
「何かあったのですか?」
「オーガキャンプだが、既にダニエル卿の手のものが向かっていったらしいが」
「それは事実なのか?」
「ああ。先日、ここの前の街道を通っていったのを見ているからな」
そのプロスト卿の言葉を聞いて、慌てて二人はオーガキャンプへと向かっていった。
「ああ、急ぐのでしたらこっちの道を使うと早いですよ‥‥」
とプロスト卿に聞いた回り道で、兎に角一行はダッシュ!!
──その頃のオーガキャンプ
「‥‥」
静かにオーガ達を見ているユーノ。
「とりあえず無事でよかった‥‥」
つい先程、ペガサスで到着したリディエール・アンティロープ(eb5977)は、オーガキャンプの中央でチビオーガ達に囲まれているユーノを見てひとまずはホッとした。
「リディエール様。どうしてここに?」
「事情は追って話しますから、とりあえず私に付いてきてください」
そう告げてユーノの手を引くと、そのままペガサスの後ろに彼女を乗せた。
「逃げるのでしたら急いだほうが良いですよ。つい先日ダニエル卿からの連絡員がここを訪れています。まもなくここに到着するという話ですから、急いでここを離れてください」
そう告げるアーメット卿。
──ガササッ
と、オーガキャンプの裏手から、突然鬼十郎とケイが姿を表わす。
「よかった、間に合ったか!!」
「急いで離れてっ。もうすぐそこまで騎士団が来ているらしいから」
そのケイと鬼十郎の話を聞いて、リディエールは急ぎ裏道から逃げ出す。
「さて。アーメット卿に進言させて頂くが。ダニエル卿の目的はともかく、オーガ・キャンプに騎士団が押し入ったとなると、貴殿の預かるオーガ軍の面々が不安に駆られ、離反することも。ヨハネス領復興という功績をより完璧にするために、見過ごしてはならぬと想いますが?」
「ええ。そうですね。ダニエル卿の暴走については、とあるルートからこっちにも連絡は来ています。まあ、少し静観していましょう」
とニコニコと告げつつ、その場に座るアーメット卿。
その光景に、二人は何が起こるのかちょっと不安になっていた。
──その頃の、ホワイトフェザー騎士団
「ふむ。つまりプロスト領内での戦闘は止めて欲しいというのか? 一介の魔導師風情が」
そう、目の前のラシュディア・バルトン(ea4107)に告げるダニエル卿。
なんとかプロスト卿経由で手をまわしてきたラシュディアが、どうにかダニエル卿率いる騎士団に合流したのはつい一刻ほど前である。
「ああ。それに、お前たちの求めているユーノ・ヨハネスはもうこの世には存在していない。俺はこの目で彼女が大悪魔の生贄にされていたのを見た」
その言葉に、ホワイトフェザー騎士団がザワつき始める。
「その言葉は事実かね? もし偽証行為ならその罪は重いが」
「ああ。事実だ。まあおれが確認したときは既に瀕死の状態で、悪魔との戦闘のドサクサで死体は見てないが、現場にいた人間の所感としてほぼ死んでいるだろう‥‥」
その言葉に、ダニエル卿はしばし考える。
「それにだ。アンタ達が彼女を探すその動きは冒険者の間で噂になるくらいだから、セフィロトに筒抜けで、お前達はきっと尾行されていて奴らに利用されているよ」
さらに騎士団がざわつく。
「まあいいでしょう。その言葉が事実かどうか、直接オーガキャンプに向かうとしましょう。たかが魔導師に、我々の行進を止める権利はないのですから」
「なら、こっちの人の書面なら、あんたたちの行進は止められるのか?」
そう後ろから話し掛けてきたのはセイル・ファースト(eb8642)。
「なんだね? 貴様は」
「通りがかりの冒険者だが。昨日まではな」
そう告げると、セイルはダニエル卿にその書面を手渡す。
「こ、この封蝋は王家執務官のものでは?」
慌てて封蝋されている書面を広げて内部を確認する。
「ああ。本日付けで任務に付かせてもらう事になった。シャルトル方面査察官のセイル・ファーストだ。先任のファースト査察官の引き継ぎで、俺が行う事になったが」
ニィッと笑いつつそう告げるセイル。
「担当市政官はニライ・カナイ‥‥推薦者はストーム卿とプロスト辺境伯、ブランシュ騎士団ギュスターヴ・オーレリー‥‥国王の認証いりで‥‥そんな馬鹿な!!」
慌てて書面を破り棄てようとするダニエルだが。
「国王の認証入り書面を破るのか‥‥たいしたものだな」
と呟くのはセイルと共に到着したエメラルド・シルフィユ(eb7983)。
今回の一連の事件を丸く納めるべく、エメラルドはニライにバックアップを要請。
丁度同じ時期にセイルからも色々と尋ねられていた為、今回のような奇策にでたのである。
実際にセイルが査察官になる為には本来は難しい手順が必要である。
が、冒険者として国に協力体勢を取るという条件と、過去の実績からそれらは免除。
ブランシュ騎士団ギュスターヴ・オーレリー卿とある方の推薦であり、略式にシャルトル方面限定の査察官という形になった。
エメラルドはその補佐官という立場になっているらしい。
「ダニエル卿には後日、正式にセフィロト騎士団残党の討伐任務について頂きます。その際には事情を知って居る冒険者と共闘というかたちになりますが、それは構いませんね?」
ニィッと笑いつつ告げるエメラルド。
現時点で、この場所でもっとも指揮権が高いのはセイル。その次が副官であるエメラルドということになっている。
その下であるダニエル卿は拳を握り締めて、しずかに肯く。
「貴殿の進言、しかと了解した‥‥ホワイトフェザー騎士団はこのシャルトルより撤収する‥‥」
踵を返し、そう告げるダニエル卿。
「一つ付け加えさせて頂くが。このシャルトルでは、あまり迂闊な行動を取らない事だ。各地域の騎士団はもとより、大勢の冒険者がこの地を訪れている。貴様達よりも、この地は彼らに愛されているのだ」
そう告げるのはレイア・アローネ(eb8106)。
「もしこの地を、己の私利私欲のために血で濡らす事があったら、その時は貴殿の命で全てを清算させて貰う!!」
そのレイアの言葉に、ダニエルは真っ青になって立ちさって行く。
その後ろ姿を、一行はしばし眺めていた。
「さて‥‥こんな所か。まあこの地位も一時的なものだし‥‥」
と呟くセイル。
「あとは、リディエールだけか」
●そして
──プロスト領・プロスト城
「とりあえず、ユーノ様は行政手腕もあるですから、何処か施設の管理をお願いし、優秀な冒険者を補佐に置くのは良い手だと思うのです。補佐は薬草師とか最高だと思うのです」
にっこりと微笑みつつ、そうクリスがユーノに進言する。
「まあ、それはそれで問題がないか? 彼女が生きている事になるのか、死んでいることにするのか、そこから始めないとどうしようもないだろう?」
マスカレードがそうクリスに呟く。
「まあ、事情は先程すべてお話ししたとおりです。一時的にですが、ユーノを匿ってもらえませんか? 彼女は何も知らずに巻き込まれた被害者です‥‥」
そのリディエールの言葉に、マスカレードも肯く。
「それに貴方も彼女には借りが沢山あるでしょう? 後顧の憂いがなくなったらサン・ドニ修道院へ移動して頂く事を考えていますが、今後の事は改めて、ユーノやニライさんと相談しましょう。それまでよろしくお願いします」
「またここでご迷惑をお掛けしてしまうかとおもいますが」
リディエールの言葉に、ユーノがそう続ける。
「部屋は今まで通りの所で。離れだから外から誰かがくることはない。執事に話は付けておくから、今まで通りに自由にしてくれて構わない。俺の知り合いの冒険者は出入り自由にしておく‥‥これぐらいでいいか?」
そう告げるマスカレード。
「ありがとうございます」
そう涙声で呟くユーノを、リディエールはそっと抱しめる。
「もう、貴方を一人にはしません。どんな事があっても私が護ってみせます」
「リディエール‥‥」
そのまま抱き合う二人。
‥‥‥‥
‥‥‥
‥‥
‥
「で、実際の所、クリスはあの悪鬼と結婚するのか?」
そんな『ラブラブモード突入、ここは俺達の愛の結界モード』の二人をほっておいて、マスカレードがクリスにそう問い掛ける。
「えええええええええ。そそそそんなまだだってわたしなんかが秋夜さんのおおおおおよめさんばなんててててててて」
明らかに動揺しているクリス。
『‥‥俺と結婚するか?』
出かける前に秋夜に告げられた言葉が脳裏をグルグルと駆け巡る。
「ふぅ‥‥どいつもこいつも羨ましい事で‥‥俺の春はいつくるんだ?」
そんな呟きをするマスカレードであったとさ。
●そして後日談
無事にユーノはプロスト城にて匿ってもらう事に成功。
セフィロト騎士団の動きに関しては今だ水面下である為に情報がまったくない。
それでも、シャルトル地方で起きてきた様々な事件は、少しずつ収束へと向かっていった。
あちこちの愛の行方もまた、収束へと‥‥向かっているのか?
──Fin
「あの‥‥私も結婚‥‥しあわせになりたいですが‥‥」
そっと手を上げつつ、鬼十郎が横に座っているギュンター君に呟く。
「うあ、きじゅろ、ぎゅんたとけっこんする?」
おいっ!!
ギュンター君、結婚意味わかってないだろ?
「けっこん、どこでうってる?」
やっぱりかよ。