●リプレイ本文
●一日2杯の♪〜ヒーリングポーション
それもどうよ?
──パリ・冒険者酒場マスカレード
「ふぅん。楽しそうねぇ・・・・」
とニコニコと微笑みつつ、カウンターの中で話を聞いているのはこの酒場のマスターであるミストルディン。
その目の前では、ラシュディア・バルトン(ea4107)が今回行なわれる結婚式に付いての頼み事をしているようである。
「ああ。兎に角、今回の結婚式は無事に終らせてハッピーエンドにしたいんだ。会場その他の情報については、すまないけれど偽情報を流してほしいんだが、どうだろうか?」
と頭を下げて頼み込むラシュディア。
「そうねぇ。報酬次第ね」
「そうか。俺に貴女に払える代償があるとは思えないけど、友人達の幸せな未来の為、どうか、頼む!」
とそれでも頭を下げるラシュディアに、ミストルディンが静かに一言。
「それじゃあ依頼は引受けさせて貰うわね。報酬は貴方自身。それじゃあよろしくね」
と告げると、ミストルディンはカウンターの中を他の従業員に任せて、店の外に消えていった・・・・。
「ふう。これで大丈夫と、それじゃあ俺もノルマン江戸村に向かうとするか・・・・」
と肩の重荷の一つが取れたラシュディアが、ノルマン江戸村へと向かっていった。
「それにしても、今回の報酬が俺自身とは・・・・はぁ?」
いや、自分の事になると鈍いから君。
●君の髪が♪〜 肩から伸びて♪〜
いや、それおかしいから。
──シャルトル地方・ノルマン江戸村
ということで数日後。
ノルマン江戸村は華やかな飾り付けが行なわれていた。
というのも。
この江戸村では久しぶりにおめでたい出来事が起ころうとしているのである。
「・・・・なんで私までひっ張られて来なければいけないのだ?」
そう中央広場を歩きつつブツブツと言っているのは御存知パリ市政官のニライ・カナイ。
「まあまあ。これから俺達の結婚式があるんだし、楽しくパーッとな」
とにこやから告げているのは、今回の主役の一人である無天焔威(ea0073)。
ついに念願のブランシュと結婚式ということになったらしく、江戸村にあるセーラ教会はこのイベントに大忙し状態。
というのも。
この江戸村、婚礼はすべてノルマン神社で行なわれる神前式であり教会で行なわれたことは今まで1度もない。
その為か、教会内部はてんてこまい状態となっていた。
さて。
話を戻す事にしよう。
教会内部では、リーディア・カンツォーネ(ea1225)が神父と色々と打ちあわせを行なっていた。
「では、必要な道具は全て揃っているのですね?」
「ええ。教会としては十分すぎるほどに。5組ほど同時に結婚式を行なっても対処して見せましょう」
とにこやかに告げる神父に、リーディアはニコリと微笑む。
「ではよろしくお願いします。今回は多分4〜5組同時の結婚式となりますので」
「はいはい。では聖歌隊などの準備もありますので、私はそちらの指示を行なって参りましょう。婚礼を行う方々については、のちほど詳しい資料の提示をお願いします」
と告げて、神父は結婚式場となる大聖堂へと向かった。
「ええっと・・・・衣裳がパリから届くのは今日の午後で・・・・披露宴の会場は・・・・」
と細かい段取りを確認するリーディア。
「会場はノルマン邱とその周辺ですね。外にテーブルの配置も終っていますよ。私達は新婦さんたちのお色直しで宜しいのですよね?」
とリーディアに告げているのはガブリエル・プリメーラ(ea1671)。
「ええ。兎に角綺麗にお願いします。場所は?」
「教会の中の部屋を確保してあります和。すでにアーシャ達も準備に入っていますわ」
と告げると、ガブリエルもまた一礼をしてそちらへと向かっていった。
──その頃のノルマン神社
「では、お式の方よろしくおねがいしますねー」
「はいはい。神前での婚礼ですね。場所はこの神社でよろしいのですね?」
と神社の巫女である徳川葵がクリス・ラインハルト(ea2004)に問い掛ける。
「えっと、そうですね。私達はこの神社でお願いします。時間差でですが、教会でも結婚式がありますので、その時はよろしくお願いしますねー」
とにこやかにつげるクリス。
「ええ。この期間は江戸村全てが婚礼会場のようなものですから」
と徳川も告げて挨拶すると、そのまま神社へと引き返していく。
「よし、次の準備ですね」
ということで、クリスは次の準備へと走った。
──その頃の、プロスト宅地下室
静かな空間。
その中では、ラシュディアが巨大な魔法陣を形成している。
そしてその側では、ロックハート・トキワ(ea2389)が無表情で座っている。
「・・・・よし。これで精霊を形成する為の陣が完成と。ロックハート、コアを貸してくれ」
「ん、ああ、頼む・・・・」
と告げて、ロックハートはラシュディアにコアを差し出す。
「それじゃあ、まず精霊の核であるコア。清らかなる水。ミハイル教授の所から借りてきた水のオーブ。これで全てと。始めるぞ」
──パァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン
両手を力一杯合わせて、ラシュディアが印を組み韻を紡ぐ。
低く澄み切った声で古代魔法語を唱える。
「大地と大気、水と炎の精霊王よ。古の習わしに従いて、我、ここに精霊の再生を願う・・・・」
その言葉の直後、コアの回りに水が纏わりつく。
さらにオーブから大量の魔力が発生し、それらは全てコアに導かれ、光り輝く人型を形成した。
そして光の中に水が充満し、やがてそれは安定し女性の姿に変化していった。
やがて儀式は終了する。
魔法陣の中央には、ロックハートと今し方形成された水の精霊のみ。
「ウンディーネ。俺が誰だか判るか?」
そう問い掛けるロックハートに、ウンディーネは静かに微笑んだ。
「もう少し早くてもよかったのにね・・・・」
──ガバッ
刹那。
力一杯ウンディーネを抱しめるロックハート。
そのままウンディーネもそっとロックハートをだきしめると、そのまま彼の耳元で一言呟いた。
「ただいま・・・・」
●このままずっと、ずっと死ぬまでHAPPENING♪
それは不味いだろう?
──鍛冶屋ディンセルフ
ということで、場所と雰囲気がガラッと替わりましてディンセルフ鍛冶工房。
その中で、クリエムが必死にスミスハンマーを振りかざしている所です。
その横では、ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)が彫金作業を行なっていた。
「よし。これで完成と・・・・」
作業机の上に4つの指輪。
金を使ってロックフェラーが仕上げた、大切な店員の結婚式に使う婚礼用指輪である。
恐らくは、これ以上の作品は完成しないだろうというぐらいの出来栄えに、ロックフェラーも満足であった。
「こっちも完成ですね。まあ、お祝いというほどでもないのですけれど、新郎新婦の人数分のセプターです」
とクリエムもまた今回の結婚式の為に様々なものを作っていたらしい。
「これは・・・・」
言葉に詰まるロックフェラー。
それほどまでに、セプターの出来栄えは完璧である。
見ているだけで吸い込まれそうになる美しさ。
まさに芸術そのものであろう出来栄えであった。
「あれ? ロックさん、指輪多くないですか?」
と、机の上の指輪を見ていたクリエムが、そうロックハートに問い掛ける。
──コトッ
と、ロックは机の上に、一輪の金属製の造花を乗せた。
銀を使い大胆に意匠を施して作られた、本物の写しでなくロックなりにアレンジを加えた美しさが織り込まれた逸品である。
「色々一緒に仕事をして・・・・クリエムさんの鉄を見つめる目をずっと見て・・・・その目にいつの間にか惚れていた、その目で俺を見つめて欲しいと思った」
静かに話を始めるロックフェラー。
いつになく真剣な表情である。
「俺は・・・・貴方とずっと一緒に仕事をしていきたい・・・・! 俺の傍に居て欲しい!」
そう告げると、ロックフェラーは机の上の造花を手に取り、そっとクリエムに差し出す。
「・・・・クリエムさん、俺と結婚してくれっ!」
‥‥‥‥
‥‥‥
‥‥
‥
「え? わ、私ですか?」
しばしの間合の後、動揺しているクリエムがそう呟く。
その顔はすでに真っ赤で、かなり困惑している様子である。
「わたしまだ‥‥修行中で、そんなロックさんがどうして私なんて‥‥」
下をうつむきながらそう告げるクリエム。
と、ロックフェラーはそのクリエムの手を静かに握り締める。
「オレにとっては、貴方だけなんだ‥‥本気で好きになった人は‥‥」
その言葉に、クリエムは慌てて立上がると、工房から飛び出す。
──バンッ
と力一杯扉が閉じられると、ロックフェラーは慌ててクリエムの後を追いかけた。
そして扉までたどり着いたとき、その向うからクリエムの声が聞こえてきた。
「私はディンセルフの名前を受け継がないといけないのです。今はまだ修行中で‥‥ロックさんの気持ちは嬉しいですけれど‥‥」
そう告げるクリエム。
「クリエムさんと、ディンセルフの名前、全てを受け入れます‥‥俺もトールギスの名前を、その技術を受け入れます。ですから、お互い修行が終るまで、一緒に歩いていきませんか?」
その言葉と同時に、閉ざされていた扉がスッと開く。
そしてクリエムが静かにロックフェラーの胸許に飛込んでくる。
「いますぐは無理ですけれど‥‥私も‥‥きでから‥‥待っていてくださいね‥‥」
とだけ告げる。
声が震えていたのか、所々ロックフェラーには聞き取れなかった。
けど、ロックフェラーは静かにクリエムを抱しめた‥‥。
──さらにそのころ
「えぇっと‥‥ひいふうみぃ‥‥全部あるかしら?」
眼の前に並べられている大量の招待状。
それは全てユリゼ・ファルアート(ea3502)がクリスに頼まれて作った結婚式の招待状である。
ざっとリストに上がっている名前だけでも、主賓の吟遊詩人ギルドのザンク!!さんとニライ市政官宛。
さらに数名の著名人たちの名前もリストにはあった。
「よしよし。では次は‥‥」
封蝋を施し、さらに手紙にはハーブやドライフラワーをあしらう。
ほのかな香りが漂う素敵な招待状の出来上がりである。
そしてユリゼはそれらをシフール宅配便に頼み込んだ。
「出来るだけ早くお願いしますね」
「はいはい。皆さんの大切なお気持、真心でお届けしてきますからねー」
と告げつつ、シフール宅配便は大空高く飛んでいった。
そしてそれを見送ったユリゼは、次の準備に取り掛かったとさ。
●本気でオンリーユー?
──シャルトル・セーヌダンファン
静かな庭園。
色とりどりの花が咲き乱れるセーヌ・ダンファンでは、今まさに一大イベントの真っ最中であった。
「はいはい。準備はできましたか?」
にこやかに子供達に問い掛けているシェアト・レフロージュ(ea3869)。
今回、ここに保護されている少女達も結婚式に招待していたのである。
シェアトと一緒にラファエル・クアルト(ea8898)も同行し、プロスト城にいるユーノ・ヨハネスを迎えに着ていた。
すでにユーノは準備を終えて、外に止まっている馬車に待機している。
そして、の側には正装しているリディエール・アンティロープ(eb5977)の姿もあった。
大切なユーノを迎えに来ていたらしく、ちょっと緊張した面持ちをしている。
「ふう。どうもこのような雰囲気はなれませんね」
「クスッ‥‥早くなれるといいですわね」
と楽しそうに談笑しているユーノとリディエール。
「はいはい。みんなも早く馬車に乗って乗って‥‥」
と子供達に告げるラファエル。
その光景を見て、シェアトもクスリと微笑む。
「全く‥‥て、なんで笑っているんだ?」
そうシェアトに問い掛けるラフ。
「何かおかしくって‥‥」
と告げるシェアトに、ラフも穏やかな笑みを浮かべて一言。
「‥‥シェアトと一緒にこうしてると、未来の予行?っぽい」
──ポッ!!
その言葉に耳まで真っ赤になるシェアト。
「ははは。それじゃあいこうか。主役が遅れていくと、あとが恐いからなぁ‥‥」
と告げるラフ。
そして馬車は江戸村へ向けてガラガラと走り出した。
その光景を、一人の女性騎士が静かに見送っているのに、ラフは気がつく。
「あれは?」
とシェアトとユーノに問い掛けるラフ。
「コナタさん!! どうしてここに?」
その女性騎士を見て、ユーノが叫ぶ。
「コナタさんって‥‥まさかセフィロト騎士団ですか!!」
シェアトがそう叫ぶと同時に、馬車の後方に数名の騎士の姿が現われた。
「ユーノ殿。お家最高の為、同行ねがっ!!」
──スパァァァァァァァァァァァァァァァン
そう叫んだ一人の騎士目掛けて、コナタが走りこんで必殺の拳を叩き込む。
「ここは私が食い止めます!! ユーノさんは急いで!!」
「ですが一人では!!」
シェアトが叫ぶと同時に、馬車の横を漆黒の風が駆け抜ける。
「あんたは騎士団を止めたのか?」
そうコナタの横に駆けつけたセイル・ファースト(eb8642)が問い掛ける。
「私にとっての主君はユーノ様一人。お家再興ではなく、一人の女性として幸せになってほしい。そう願っているだけだから‥‥」
「上等。シャルトル査察官セイル・フ ァースト、これより敵セフィロト騎士団残党討伐を開始する!! 姿を見せやがれっ!!」
そのセイルの叫びと同時に、影に隠れていたブラックウィング騎士団が姿を現わした。
「大切な婚礼が待っているのです!! 全て生け捕りでよろしくお願いします!!」
そう叫ぶのはセイルと同行していたリスティア・バルテス(ec1713)。
あらかじめ各地の教会を通じてセフィロト騎士団の動きを察知していたリスティア。
シャルトル地方でその動きがあると確認したリスティアは、セイルとブラックウィング騎士団共に先回りをし、セフィロト騎士団を捉える為の作戦を行なっていたらしい。
そして叫ぶリスティアに呼応して、騎士団が攻撃を開始した‥‥。
●慕情‥‥静かに言葉を添えて♪〜
──シャルトル・とある街・トールギスの墓の前で
静かに墓前に花を添える薊鬼十郎(ea4004)とギュンター君。
「私、ギュンター君と夫婦になります。見守っていてくださいね」
そう告げる鬼十郎と、にこやかに墓に向かって話し掛けているギュンター君がじつに微笑ましい。
「うあ、とーる、ぎゅんた、きじゅろとけっこんする。ぎゅんた、ほうせきさいくしになるから、みまもっていて」
その言葉に、鬼十郎の頬からも涙が伝ってくる。
ほんの数年前までは、ギュンター君はトールの死の意味すら判っていなかった。
ただ動かなくなっただけだと、すぐに戻ってくると思っていた。
そんなギュンター君だけれど、大勢の冒険者と触れ合い、様々な経験をしてきた。
そして大切な鬼十郎との出会い、一緒に旅をしてきた時間。
その経験が、ギュンター君をただのオーガではなく、ちょっと人間っぽいオーガに成長させていた。
「そ、それじゃあみんなが待っているから行きましょうか‥‥あ、貴方‥‥」
顔中真っ赤な鬼十郎。
「うあ、あなたってだれ? ギュンタはギュンタ!!」
「もうっ‥‥じゃあいこっか」
いつもの調子に戻った鬼十郎。
そしてギュンター君のてを しっかりと握り、待っていた馬車に駆け乗った‥‥。
●あのー、素晴らしい愛をもうちょっと♪〜
──シャルトル・ノルマン江戸村
「ええっと。直しはこれでよし。次が‥‥」
そこはノルマン江戸村の呉服屋。
その一角を借り切って、明王院未楡(eb2404)と明王院月与(eb3600)の親子が、婚礼衣裳を縫っていた。
未楡がクリスのを、そして月与が秋夜の衣裳を作成している。
ちなみに現在までで2日の徹夜状態、二人ともに疲労困憊の模様。
「ふう‥‥クリスお姉ちゃんの一生一度のハレの席だもん。頑張らなくっちゃ」
と限界を越えてもなお、コツコツと衣裳を作成している二人。
その外では‥‥
「こんどは何して遊ぶの?」
とアンリエットが玄間北斗(eb2905)に問い掛けている。
みんなが婚礼準備をしている間、北斗はアンリエットの遊び相手だった。
アンリの頭にふわふわ帽子を被せ、北斗が腕を組んで考えている。
「うぅぅぅぅーーーん。追いかけっこで敗北したし。鬼ごっこも負けたし。うーーーん」
本気でアンリと遊んでいた北斗だが。
アンリの身体能力はアサシンガールとしてのもの。
冒険者である北斗と互角かそれ以上ということもあり、ちょっと厄介であったが。
「それじゃあ、あひるさんを探しにいこう」
「があがあ? 探しにいこーーー」
と近くの沼へとレッツゴー。
そのままアヒルを探して右往左往しつつも、夕方までに3匹のカモをゲット。
そのまま紐で繋いで戻ってくるアンリと北斗であったとさ。
●閑話休題
──華仙教大国王都・朱麗殿
「にょ? ちょっと噂を尋ねて右左していたら、こんな所にきてしまったにょ?」
と動揺しつつ呟いているのは鳳令明(eb3759)。
本国である華仙教大国国王・憐泰隆の4人の子供の中に、秋夜(悪鬼の本名)がないかどうかとパリの商業区画で聞き込みをしていた筈であるが、気がついたらこんなところまで足を伸ばしてしまっていた。
「で、話というのはなんでしょうか?」
と無表情に呟いているのは国王副官である完顔阿骨打(わんやんあぐだ)。
「ええっと。国王殿にょ4人の子供のうち、二人が家出中だにょ。その中に、秋夜という名前はないかにょ?」
と問い掛ける令明。
「秋夜ですか? その名前はいませんね。その秋夜という人物が何か?」
「い、いやいや、いないのにゃら気にしなくていいにゅ」
「そう言われると気になるのですがはてさて‥‥秋夜ですか‥‥ひょっとして朧拳継承者の秋夜ですか?」
表情が冷徹になりそう問い掛ける完顔阿骨打。
「い、いや、それは別人にゅ。では確かな情報をありがとにゃ」
と慌てて礼をして退室する令明。
そままおお急ぎで月道管理局へと向かうと、一路パリへともどっていった。
──一方その頃
「え‥‥そっくりさん?」
花嫁の婚礼衣裳の着つけ。
その部屋で、アーシャ・イクティノス(eb6702)がクリスにそう問い掛けている。
「いえいえ、私ですよ。クリス・ラインハルトですよ?」
とにこやかに告げているクリス。
「冗談ですよー。だってこんなクリスさん、初めて見たんですものー」
とアーシャが告げる。
「で、全体的にはどうですか? バランスはおかしくなっていませんか?」
とクリスが問い掛けるが、アーシャがうんうんと肯いているだけであった。
「大丈夫ですね。流石です」
と、側で眠っている未楡と月与の顔を見ながら告げるアーシャ。
「あとは式が始まるまで待っていてくださいねー」
と話し掛けてから、アーシャがそのまま部屋から外に出ていった。
──そのころの冒険者酒場ノルマン亭
「あと、大皿を12と小さいのを24で。サラダの材料は仕上がっていますか?」
厨房は今まさに戦場となっていた。
御菓子屋ノワールのライラ・マグニフィセント(eb9243)が、結婚式の料理を担当、披露宴までもうあまり時間がない為、必死に仕込みを行なっている所であった。
「テーマはジャパン風ノルマン料理。とはいったものの‥‥スープはどうなっていますか?」
と、横でスープの仕込みを行なっていたパンプキン亭のサンディに問い掛けているライラ。
「グローリアスロードのスープですから、なんとか時間が間に合えばいいのですけれど‥‥」
とロックフェラー特製巨大鍋を取出し、仕込みを開始するサンディ。
「スープと前菜はお任せします。メインから先は私が!!」
ライラも気合十分。
「お待たせっ。2日前に釣れたばかりの鯛だよっ!!」
と威勢よく入ってきたのは御存知グレイス商会のマダム。
その後ろからは、アイスコフィンで凍らされている大量の魚が運びこまれた。
「これは‥‥最高ですねぇ」
にこやかに告げるライラ。
「だろう? とっとと魔法を解除しておくれ。まだノルマンの食材は山ほど運んできているんだ。しっかりと頼むよっ!!」
とマダムに告げられて、ライラはフルパワー状態に突入した‥‥。
──さて、さらに別の場所では
(拝啓、愚兄様、結婚おめでとうございます♪)
突然脳裏に響く懐かしい声。
「ぶっ!!」
結婚式を目前に、のんびりと部屋でくつろいでいた無天に届いたテレパシー。
ちなみに送り主は無天の弟である氷凪空破(ec0167)。
「てっ、てめえ、何処にいるんだ?」
と周囲を見渡すものの、どこにも姿は見えない。
まあ、すぐ近くから送っていることは明白なのであるが。
(とゆーわけで、子供ができたら実家に顔出してくださいねー。せめて兄さんの子に代々、志士である氷凪の家を継いでもらいますので…ああ、僕はまだ術の研究したいので家継ぎたくないのでちなみに戻ってこなかったら兄さんの居場所、父に密告しますのであしからず)
とテレパシーを送る氷凪。
「んーーーー。まあ考えて置くけれど‥‥無理じゃないかなぁ‥‥」
とにこやかに告げる無天。
まあ、その言葉を聞いて少し安心したのか、氷凪はそのままノルマン江戸村から立ちさって行こうとした。
──スタスタスタスタ
その氷凪と入れ代わりに村に到着した令明と、令明に同行してきた完顔阿骨打。
「にゅぅぅぅぅぅぅぅ。これは計算違いだにょぅぅぅぅぅ」
げっそりとやつれた令明。
その横では、完顔阿骨打が村の中を見渡している。
「ちっ‥‥ここまで辿りついていたか」
同じく一仕事終えてやってきたセイルが、完顔阿骨打の姿を見てそう呟く。
「まあ、ここに秋夜がいると聞きましてね‥‥」
「その事なんだが、少し時間をくれないか?」
そう話を切り出したのはセイルであった。
「ふむ。まあいいでしょう‥‥で、何か聞きたい事があるようですね?」
「ああ。奴の犯した罪について聞かせて欲しい」
──ちょっと省略
セイルはしばし考え込む。
月道の強制突破、その時に殺した警備員達。
詳しい話を聞くと、秋夜の体得した朧拳があまりにも危険すぎるものである為に、その技を封じようとした者たちとの戦いによって起こってしまった悲劇である。
現在、秋夜と同じ技を体得しているものが数名いるという事と、秋夜自身が変わりつつあるという報告を『国を通じて』受けていたため、完顔阿骨打自ら訪れたらしい。
「‥‥その罪も、ここで犯した罪も、必ず生きて償わせる。俺が責任をもって」
そう告げるセイル。
「ですからお願いします。大切な婚礼なのです‥‥」
同行していたリスティアも頭を下げる。
「まあ、頭を上げてください。秋夜についての罪状と処遇が決定したので、それを届けに来ただけです。秋夜は今後10年、単独で華仙教大国に出入りする事を禁止します。もし来るのであれば、信頼の置ける監視者と共にということで。これが貴国との話し合いの結果ですので‥‥」
と告げると、完顔阿骨打はセイルに赤い布を手渡す。
「これは?」
「彼の失くしていたものです。婚礼祝いに手渡しておいて下さい」
と告げると、完顔阿骨打もその場を後にした。
「にゅぅぅぅぅ。これでおいらの仕事は終ったにょ」
とその場にへたりこむ令明。
「ああ、よくやったよ。秋夜だけでなく、クリスにとっても最高の結果を持ってきてくれたな」
そう告げられて、令明は少し照れた模様。
「ま、まあ‥‥それじゃあおいらも結婚式の準備をしてくるにょ」
そう告げて、スタタタタと走り去っていく令明。
「ということだ。クリスを泣かせるようなことはするなよ?」
と、セイルが物陰に隠れていた秋夜に呟く。
「大丈夫だ。その布を持ってきてくれたということは、華仙教大国での罪は殆ど償える‥‥」
と赤い布を受け取り、それを頭に巻いた。
「で、そいつは?」
「ん? ああ、英霊布という代物だ。元々俺が使っていたものでな。この国では力を発揮できないが、華仙教大国にもどればかなりの力を得ることができる筈‥‥」
と告げて、そのまま婚礼の準備に向かう秋夜であった。
●いや、そこはちがうだろう?
──ノルマン江戸村・ノルマン亭再び
「いやいや。ワシは弟子なぞ‥‥」
と食事を取りつつ呟いているのは御存知ミハイル教授。
その正面では、ガチムチの桃代龍牙(ec5385)が頭を下げている。
「教授、そこをなんとか。俺としても色々考えてみたんだが、永久就職と弟子入り、どちらかかしかないと思う、そんなわけで不束者だけどよろしくお願いしても良いか?」
そう告げる龍牙に、ミハイル教授も腕を組んでしばし思考。
「うーむ。プロストの所にも数多くの弟子がついているし。もうワシらの時代では無いことは理解している‥‥よし、いいじゃろう。弟子入りを認めよう」
──パン
と手を叩きつつ、そう決断するミハイル教授。
「そうか。それはよかった。それじゃあ近いうちに引越しの手続きを取るから、よろしく頼みます!!」
と告げて、龍牙はエプロンを付けて厨房へと移動。
「ち、ちょっとまつんじゃ? 何をしている?」
「婚礼の料理ですが。中華担当なので‥‥と、急がないとライラさんにどやされてしまうので‥‥失礼します」
と告げて、仕込みに入る龍牙であった。
「ふう。まあ楽しそうぢゃからよしとしておくか‥‥」
ということで、ミハイル教授の所にも新たなる弟子がやってきたようで。
●愛・憶えていますよね?
──そして結婚式会場
「それではこれより、合同結婚式を執り行います‥‥」
静かな教会で結婚式が始まった。
「いくつもの神が降りますこの江戸村で。一つの神にとらわれることなく、つまりは人前式として結婚式を行う事に、みなさん異議はありませんね?」
進行を行なっているのは今回の責任者の一人である国乃木めい(ec0669)。
「ではこれより順次、式を執り行います‥‥」
その言葉と同時に、まずはクリスと秋夜の二人が式場に入ってくる。
「クリスおねーちゃんきれいなのー」
「きれいねーしあわせ──」
とセーヌダンファンの子供達の大はしゃぎ。
(もう‥‥あんまりはしゃがないでって‥‥恥ずかしいから‥‥)
と心の中で呟きつつも、ふっとい秋夜の腕を掴んだまま、静かに進んでいく。
続いて入ってきたのはリディエールとユーノの二人。
異種族であるにも関らず、あえて神に結婚を誓う二人。
「それじゃあ参りましょうか‥‥」
と告げるユーノに、横に立っていたリディエールは静かに肯いた。
まあ、ここのカップルは大体こんな感じで。
リディエールがドレスであったらまさに悲劇というか喜劇であったろうが、本日はおめでたい席なので。
そして次が無天とブランシュ。
いつになく静かにしているプランシュの横を、無天がリードしている。
「綺麗だよプランシュ‥‥」
「ばっ!! 馬鹿なこと言わないでってばっ!!」
──ドゴォッ
と、横に立っている無天に軽く肘を入れる。がそれもまた手加減されている。
そのまま静かに前へとすすむ二人であった。
「うあ、ひとがいっぱい!!」
と、最後に登場したのはギュンター君。
「しーつ。ギュンター君、さっき話したでしょう?」
「うあ、そうだ。ぎゅんたしずかにする‥‥」
とそれっぽく鬼十郎をリードしていくギュンター君。
その光景を、参列者はみな微笑ましそうに笑っていた。
「それではまず、秋夜とクリスから宣誓文を‥‥」
と人前式としての宣誓が始まる。
うれしそうに告げる二人。
楽しそうに告げる二人。
照れ隠ししつつ、必死に告げる二人。
なにがなんだかわからないけど幸せにすると誓う二人など、幸せの形は様々のようです。
そしてそのあと、結婚式はつづがなく進行し、披露宴が始まりました。
村人を始めとする大勢の人々、結婚する仲間たちを一目見ようと遠くから集まってきた大勢の仲間たち。
そして今までにお世話になった冒険者ギルドの受付嬢や街の人たち。
みんなの笑顔が、今日結婚する皆に祝福を与えてくれました。
さて。
そして全てが終り、新しく夫婦となった人たちは静かに馬車でバリへと向かいました。
そこで待つ新しい生活。
今までちょっと違う、大切な人との時間。
それをゆっくりと確かめあうように‥‥。
──Fin