いつまでも、どこまでも

■イベントシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:21人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月21日〜01月21日

リプレイ公開日:2010年02月02日

●オープニング

──事件の冒頭
「さて。そろそろ出かける時間ですか」
 静かにそう呟きつつ、プロスト伯は自宅から外に出ると、待機していた馬車に乗り込んだ。
 そのまま数日後、プロスト伯はアビスの入り口にやってきている。
 そこにはミハイル教授も待っていた。
「ようやくきたか、随分と遅かったのう‥‥で、全て終ったのか?」
 そう問い掛けるミハイル教授に、プロスト伯は静かに肯く。
「ええ。私は引退です。今、この世界で、私の一番弟子を越える魔導師は存在しないでしょうからね」
 と楽しそうに告げるプロスト伯。
「で、準備は出来たのかい? この先、あんたたちの目的の場所まではかなり厳しい戦いになると思うが?」
 と二人に雇われた冒険者が静かに告げる。
「ええ。よろしくおねがいします。私の魔力は最後までとっておきたいものですから」
「同じく。荷物がかなりあるので、ワシも戦えぬぞ」
「そっちは私達に任せてください。おふたりはどうか、最下層の結界空間の先へ。そこで何をしてくるのですか?」
 と冒険者達のリーダーが二人に問い掛ける。
「シルバーホークのしでかした後始末ぢゃよ」
「穴が開いていますから、それを閉じなくてはなりませんので‥‥」
 と意味深な事を告げる二人、
「まあ、それでは行きましょうか‥‥」
 ということで、二人は冒険者達と共にアビス最下層へと向かっていった。
 そして数日後。
 二人を案内したパーティーは戻ってきたが、プロスト伯とミハイル教授の姿はどこにも無かった‥‥。


──手紙
 私の大切な弟子達へ。
 私は最後の仕事の為にアビスへ向かいます。
 そこで、古き友の行った事についての後始末をしなくてはならないので。
 家にある荷物や書庫は、貴方たちで好きにつかって構いません。
 家の管理は、一番弟子に託しますので。
 
 では、貴方たちが、更なる真理を見られますように。


●もう一つの出来事
──パリ郊外・阿修羅寺院
「で本国からはなんと?」
 瞑想の間で、フィーム・ラール・ロイシィが伝令の青年に向かって問い掛けた。
「本国、ベナレス地下にて『混沌神の申し子』の一体が覚醒を開始しました。八部衆はすべて本国へとの仰せです」
 そう告げられて、フィームはしばし考える。
「判った。では私はすぐに向かうことにする。影衣殿、すまないが例の一件について、可能な限り伝令を頼む」
「はい了解。俺もそれが終ったら本国に戻るので」
 という会話の後、影衣はシフール便で各地に散っていった『パラディン候補生』に手紙を出した。

──────────────────────────
            告

 パラディン候補生につぐ。
 最終審査をとり行うので、希望する者は指定された日時にパリ阿修羅寺院へと合流すること。
 そののち会場へと移動し、審査を執り行うこととする。


                八部衆・摩喉羅伽位 影衣十兵衛

──────────────────────────

 さて。該当するみなさん、貴方はどうしますか?

●今回の参加者

ディーネ・ノート(ea1542)/ クリス・ラインハルト(ea2004)/ ロックハート・トキワ(ea2389)/ ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)/ 薊 鬼十郎(ea4004)/ ラシュディア・バルトン(ea4107)/ リュリス・アルフェイン(ea5640)/ バーク・ダンロック(ea7871)/ 昏倒 勇花(ea9275)/ ラスティ・コンバラリア(eb2363)/ カイオン・ボーダフォン(eb2955)/ ラルフィリア・ラドリィ(eb5357)/ リディエール・アンティロープ(eb5977)/ レイア・アローネ(eb8106)/ レア・クラウス(eb8226)/ サクラ・フリューゲル(eb8317)/ セイル・ファースト(eb8642)/ 鳳 美夕(ec0583)/ 国乃木 めい(ec0669)/ シャロン・オブライエン(ec0713)/ 桃代 龍牙(ec5385

●リプレイ本文

●白銀の剣
──ノルマン江戸村・トールギス工房
 ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)の仕事場。
 そこでロックは、一世一代の作業を開始していた。
 友であるラシュディアによって燈された力の炉。
 そこにくべられたブラン鉱石。
 それが溶けるのを、ロックはじっと待っていた。
「あの剣は、竜の宝珠という魔力核を収めるために形に制約を受けていた‥‥なら、収めなきゃいい。剣の素材、ブラン合金そのものを巨大な魔力核に加工し、更にそれを剣に鍛え上げる。‥‥魔力核の剣、それが俺の新カリバーンだ!」
 そう呟くと、ロックは炉の中から溶けたブランを取出すと、そのまま竜の小手を填めた右腕で、月雫のハンマーを降り落とす!!
──ガキィィィィィン
 激しい音が響き渡る。
「心を研ぎ澄まし金属に息吹を込めるのがあの剣の要諦‥‥師匠に最初に習った基本‥‥目と耳だ」
 さらに一撃、また一撃と、一心不乱にハンマーを振り落ろす。
──ギィィィィィン
 火花が散り、プランはやがて冷えて剣の形を成す。
 それを再び炉にくべて、そしてまた打ち続ける。
──キィィィィィィィン
 そんな作業を何百回と繰り返した時、プランからは鈴のような綺麗な音が響きはじめた。
「ふう。大体はいい。あとはいよいよ仕上げか‥‥」
 そう告げると、ロックは完成した剣に最後の仕上げを施しはじめる。
 日本刀の如く綺麗な刃。
 そこまで砥ぎこむ。
 そんなことを繰り返しているうちに、ついに聖剣カリバーンは完成した。
「ほう。いい剣だな」
 丁度姿を現わしたリュリス・アルフェイン(ea5640)が、ロックフェラーに告げる。
「ああ、使って見るか?」
「いいのか?」
「お前なら問題はないだろうさ‥‥持っていってくれ、そして感想を聞かせてほしい」
 そう告げられて、リュリスは自分の腰に差していた剣をロックフェラーに預けると、そのまま出発した。



●すべては希望に
──パリ郊外の森の奥
「ふぅ。色々とありがとうございますです」
 丁寧に頭を下げているのはクリス・ラインハルト(ea2004)。
 大切なアンリエットの魂を救う為、クリスはアンリの中に眠るシルバーホークの魂の分離を実行しようとしていた。
 だが、その為には大勢の人たちの協力が必要であった為、求めに応えた人たちがこの場所に、クリスに協力しようと集まっていたのである。
「で、その眠り姫さんは今どこに?」
 そう問い掛けているのはディーネ・ノート(ea1542)。
「今はまだ眠っています。馬車の中でセイルさんとリディエールさんが見ていてくれています」
 と告げるクリス。
「さて、それじゃあ始めましょうか」
 と告げると、クリスは大地に巨大な魔法陣を作りあげる。
 これは薬師ラビィの作ってくれた『対悪魔用結界魔法陣』らしい。
 6大精霊の力によって、その中央にいる存在に精霊の加護を与え、悪魔に打ち勝つというものらしい。
 それを静かに作りあげると、クリスは魔法陣の中の6つの円を指差す。
「ここにディーネさんで‥‥こっちがラルフィリアさん。ここが松明、こっちが鳥の羽根‥‥で、ここにサクラさん、ここがレアさんです。よろしくお願いします」
 そう頭を下げるクリスに、一行は静かに肯いてその場所へと移動する。
「ラビィさんの詠唱文は?」
 ラルフィリア・ラドリィ(eb5357)がクリスに問い掛けると、リディエール・アンティロープ(eb5977)が馬車から羊皮紙をもって出てくる。
「これがそうですね。それぞれ受け取って目を通しておいてください」
 そう告げて、リディエールがそれらを仲間たちに手渡す。
 その最中にも、魔法陣の中央ではクリスが精神集中をしていた。
「アンリちゃん‥‥大切な僕の子供達、力を貸してくださいね」
 スーッと息を吸い込み、そして吐き出す。
 そして全員が準備を終えると、いよいよ儀式は始まった。
 魔法陣の中央にアンリが横たわる。
 その横に『魂を器から引き剥がす指輪』を填めたクリスが立つ。
 そして静かに空中に印を組み韻を紡ぐと、そのまま言葉を発する。
「偉大なる精霊の王達よ。僕の名はクリス・ラインハルト、指輪と印の契約により力を貸してください‥‥」
──ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
 大気が鳴動を開始、大地に記された魔法陣が輝きはじめる。
「目の前の少女、アンリエットの魂に同化しているデビノマニ・シルバーホークの魂を分離し、あるべき場所へと送りたまえ‥‥」
──ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
 今度はアンリエットとクリスの体が輝きを増していった。
「我が名ディーネ・ノートにより、水精霊王よ、我に力を与えたまえ‥‥」
 ディーネの体が蒼く輝く。
 そしてディーネが足元からゆっくりと凍りはじめる。
 自らの身体にアイスコフィンを施し、精霊の力を宿らせようというものである。
「かの少女アンリエットの中のもう一つの魂を凍らせたまえ‥‥」
──キィィィィィィィィィィィィィィン
 やがてアンリエットの身体が蒼く輝く。

「私はラルフィリア・ラドリィ。偉大なる地精霊王よ、私に力を貸してください‥‥」
──ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
 次にラルフィリアが詠唱を開始。
 彼女の体が茶色に輝く。
 そして足元から水晶化を始めた。
 ディーネと同じく、自らを高密度の精霊力の塊へと変化させていったのである。
「かの少女アンリエットの中のもう一つの魂から、アンリを護ってください‥‥」
──キィィィィィィィィィィィィィン
 そして今度はアンリの体が茶色に輝いた。

「私はレア・クラウス。偉大なる陽精霊王よ、ホルスよ。私に力を貸してください‥‥」
──ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
 次にレア・クラウス(eb8226)が詠唱を開始。
 彼女の体が金色に輝く。
 そして足元から水晶化を始めた。
 ディーネと同じく、自らを高密度の精霊力の塊へと変化させていったのである。
「かの少女アンリエットの中のもう一つの魂から、アンリを護ってください‥‥」
──キィィィィィィィィィィィィィン
 そして今度はアンリの体が金色に輝いた。
 レアは自信満々に儀式を続ける。
 彼女は自身の守護精霊であるホルスに、この儀式について問い掛けていた。
 そして『間違い無くば、正しき道が訪れる』というホルスの言葉を信じて儀式に参列していたのである。
 やがてレアの体が光の束に変化していく。
 やはり高密度の精霊力を身に纏っているようである。

「私の名前はサクラ・フリューゲルです。偉大なる月精霊の女王よ、私達に力を貸してください‥‥」
──ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
 最後にサクラ・フリューゲル(eb8317)が詠唱を開始。
 彼女の体が銀色に輝く。
 そして足元から高密度精霊力が絡み付きはじめる。
 ディーネやレアと同じく、自らを高密度の精霊力の塊へと変化させていったのである。
「かの少女アンリエットの中のもう一つの魂を、とこしえの闇へと誘ってください‥‥」
──キィィィィィィィィィィィィィン
 そして今度はアンリの体が銀色に輝いた。
 やがて、松明と羽根から火と風の精霊力を補うと、いよいよクリスの出番である。
 周囲の仲間たちがクリスに向かって手をかざす。
 そしてそれらの精霊力をクリスはその身体に受けていた。
「アンリエットの魂の中に眠るシルバーホークよ。アンリの魂を解放し、姿を現してください」
──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
 やがてアンリの中から黒い霧のようなものがうまれ出す。
 それは人の顔を形成し、クリスと対峙していた。
「おお‥‥クリス‥‥何故私の魂を引き離そうとする‥‥」
「アンリちゃんの身体はアンリエットだけのものなのです。シルバーホークのものではないのです」
「だがどうする? 多くの精霊力によって今、我の魂はアンリノ魂と分離を開始している。が、それも束の間。完全に引き離す術がなければ、やがて我の魂は再びアンリの魂と一つになる‥‥そんなことが判らぬとは‥‥」
 と告げた時、クリスは右手をシルバーホークにむかって差し出す!!
──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
 その手の中には、金色に輝く炎が生まれていた。
「そ、その指輪‥‥魂を引き離す気かっ!!」
 慌ててアンリの中に戻ろうとするシルバーホークだが、幾重もの精霊力によって護られている為、戻る事も出来ない。
「もうこれで終りなのです‥‥全ての精霊とみなさん、最後に力を貸してください」
 そのクリスの言葉の直後、手の中の黄金の炎が巨大になり、クリスの全身を被った。
──キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
「さようならです‥‥」
 そのままクリスはシルバーホークの魂を右手で掴む。
 黄金の精霊力にシルバーホークの魂が焼け付く。
「こんな‥‥こんなばかなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 絶叫を上げるシルバーホーク。 
 やがてクリスの身体もその場に崩れていく。
「ま、まだ‥‥終っていないのです‥‥」
──ガシッ
 地面に倒れる直前、秋夜がクリスを抱きかかえる。
「クリスを頼む。あとは任せておけ‥‥」
 クリスの背後で燃えているシルバーホーク。
 その魂をセイル・ファースト(eb8642)が掴むと、そのまま何かを唱える。
「めい。神の加護を!!」
──パァァァァァァァァァァン
 すかさず柏手を打つ国乃木めい(ec0669)。
「かの悪しき魂を浄化し、安らかなる楽土へと導きたまえ‥‥」
 そしてめいが経を詠みはじめると、今度はセイルの体からソウルウェポンが実体化する。
「シルバーホーク。その魂よ、とこしえの世界へと帰れ‥‥」
──ドゴォォォォォォォォォォッ
 そのままシルバーホークの顔面目掛けて不知火を叩き込む。
 その瞬間、シルバーホークの魂は不知火の頭身に刻印となって封印された。
「ふう。これでおしまいですか」
 ディーネがその場に座り込む。
 と、ラルフィリアやレア、さくら、めい、リディエールも皆、アンリの回りに集まる。
 そしてめいがアンリの様子を確認すると、一言。
「静かに眠っているだけですね。あとは意識がもどったらということで‥‥」
 その言葉で皆、安堵の表情となった。

 長い間、シャルトルを苦しめていたシルバーホークの動乱が、これで全て終幕となったのである‥‥。



●一振りの剣
──アビス第4階層
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉい。うちの師匠見ませんでしたかぁぁぁぁ」 
 セーフティーゾーンと呼ばれているその階層で、桃代龍牙(ec5385)がそう叫ぶ。
「師匠ってだれだぁ?」
「ミハイル教授です。どこに向かったか見ていませんか?」
 そう告げる龍牙に、冒険者達は幾つかの情報を龍牙に告げた。
 そしてそれらの情報を元に、龍牙は地下階層へと向かっていった。

──その頃
「このくそじじいども、何か言いたい事はあるか?」
 アビス最下層にて、ロックハート・トキワ(ea2389)がミハイル教授とプロスト伯にそう告げている。
 二人を助け出す為に。大勢の冒険者がここにやってきていたのである。
「ふぅ。死ぬかと思った」
「全くですね。でもまあ、なんとかなるものでしょう?」
 数多くの魔物と戦っていたミハイル教授たちの元にたどり着いたリュリスご一行。
「ですが、あまり無茶をなさらないでください。私も夫も、心配しますから」
「そだ。みはいる、ぷろすと、しんぱいだ」
 慌てて同行してきた薊鬼十郎(ea4004)とギュンター君がそう告げる。
「とりあえず、ここか先は手伝ってやるから、あとでプロスト伯に頼みがある」
 そう告げるロックハートに、とりあえずプロスト伯は静かに肯いた。
 そしていよいよ、ここからが本番であった。
 そこから別の回廊に入ると、さらに枝分かれした通路を進む。
 やがて広い空間に出ると、そこに安置されている一振りの剣にたどり着く。
「では、私はこれで‥‥」
 リュリスにそう告げるラスティ・コンバラリア(eb2363)。
 ここに至るまで、リュリスとの幾多の連携を決めてきた。
 長年連れ添った冒険者道士の連携。
 それが最後に実践できて、ラスティは幸せであったのだろう。
「ああ。それじゃあな‥‥」
 そう告げるリュリス。
「で、カイオン、お前は何処まで付いてくるんだ?」
 そうカイオン・ボーダフォン(eb2955)に告げるリュリス。
「あんたの唄を完成させるまではね‥‥まあ、ここに来る前に色々と手筈は積んでおいたし。リュリスという冒険者は、このアビスで死んだことにしておいたから‥‥」
 とにこやかに告げるカイオン。
「なるほどねぇ。さて、それじゃあミハイル教授、とっととやってしまうか」
「うむ。では‥‥」
 と告げて、ミハイル教授は魔剣ジャックス・エナーの縛鎖の解放を始める。
 その後ろでは、プロスト伯とラシュディア・バルトン(ea4107)、ロックハートが静かに見ている。
 ここの縛鎖を開放したら、その次はいよいよ最終関門、シルバーホークの生み出した異世界への結界破壊だから。
 だが、縛鎖の解放を行なっているうち、最後の一条の鎖になったのだが、それがミハイル教授にも解けないということが判明した。
「これはどういうことだ?」
 とリュリスが問い掛けると、ミハイル教授は一言。
「使命剣でもないかぎりは厄介なものだということぢゃ」
 ふむ。
「ならば、これの出番か」
 そう告げて、リュリスは腰に下げているカリバーンを引き抜く。
 それを静かに構えると、素早く鎖に向かって一撃を叩き込む。
──パキィィィィィィィィィィィィィィィィィン
 甲高い音と同時に、鎖が切断された。
 そしてカリバーンを腰に戻すと、リュリスはジャックス・エナーの鞘に手をかけて持ち上げる。
「オレもお前も存在を否定された者。けどな、構うことねえ。そんな鎖引き千切ってオレと行こうぜ。否定を覆しオレ達が存在し続けることを高らかに叫ぶんだ。だから、オレを選べ!」
 そう叫びつつ、リュリスはジャックス・エナーを引き抜く。
 その刹那、リュリスの全身をどす黒い何かが走りぬける。
(人の子よ‥‥我が力を欲するのか‥‥)
 そうリュリスには聞こえた。
「ああ。一緒に行こうぜ兄弟」
 その言葉に答えるかの如く、リュリスの手にジャックス・エナーは馴染みはじめた。
 そしてそれを腰に戻すと、ゆっくりと仲間たちに告げる。
「さて、爺さん達の手伝いをしてやるぜ‥‥案内してくれ」

──そして
 さらに複雑な迷宮を潜り抜けて。
 たどり着いたのが地下最下層のこの部屋。
 ある一ヶ所の壁に、真っ黒く渦巻く何かが存在していた。
「まあ、取り敢えずそこの結界を閉じるのが先ぢゃが」
「これだけ大勢だと、意外と早く閉じられると思うが」
 とミハイル教授に続けてプロスト伯が告げる。
「ラシュディア。結界と解放第4章その3、何分かかる?」
「ああ、ちっょと待ってくれ‥‥19分で」
 いきなり話を振られて、ラシュディアは素早く頭の中で演算。
「10分だ。その後でまだ仕事があるからな」
 と告げると、素早く印を組み韻を紡ぐプロスト伯。
「了解。全員その扉の向こうで待機していてくれ」
 素早くラシュディアもイクスティンクションの詠唱を開始。
 その力でシルバーホークがフォーチューンソードで作り出した『異世界への通路』を破壊しようというのである。
 本来ならば、プロスト伯一人で破壊し、ミハイル教授が後始末をするという算段であったが、ラシュディアもいるのならば、安全性が高くなる。
『5‥‥3‥‥1。発動!!』
──ゴゥッッッッッッッッッッッッッッ
 やがて二つのイクスティンクションにより通路はこの世界から消滅、そのフィードバックによりラシュディアとプロスト伯の身体はイクスティンクションの炎に焼かれていく。
 が、その炎をリュリスのジャックス・エナーの発する風によって吹き飛ばした。
「ほほう。たいしたものぢゃな」
「まあな。では戻るとするか?」
 リュリスに促されて、そのままアビスの外へと向かう一行。
 その道中で、プロスト伯はロックハートのために地下立体迷宮にいるウンディーネとの契約を解除。
 すぐさまロックハートが契約を執り行うと、そのままアビスの外に出た一行は、それぞれが自分の帰る場所へと向かっていった。



●試練
──インドゥーラ・アジーナ大寺院
 静かな室内。
 瞑想の間と呼ばれるその部屋では、アジーナ大寺院の最高責任者であるマカヴァーン・ディアスが結跏趺坐にて静かに座っている。
 その前には、つい先程インドゥーラにたどり着いたばかりのバーク・ダンロック(ea7871)が座っている。
「報告はノルマンのフィームより届いておる」
「はっ。アスタロト本体を見失ってしまいました‥‥」
 全てを包み隠さず報告するバーク。
 それらの話をじっと聞きつつ、マカヴァーン大僧正は静かに瞳を開く。
「彼のものは地獄に本体を持つ存在。ゆえに地上にあるかりそめの肉体を破壊しなくてはならず、それだけではなにも解決せず‥‥」
 と告げるマカヴァーン大僧正に、バークは静かに肯く。
「もし可能であれば、一人でも多くのパラディンと阿修羅僧を世界各地に派遣し、アスタロトを改心させる必要が‥‥」
「そうだな。ではその件、八部衆に話を通しておく。バークは引き続き各地の巡回と報告を」
 そう告げられて、バークは頭を下げて外に出る。
「さて、忙しくなってきたな‥‥」
 そう告げてから、バークもまた別の国に出かける準備を開始した。

──インドゥーラ・地下迷宮
「こ、こいつは参ったねぇ‥‥」
 目の前の巨大な化け物を相手に、シャロン・オブライエン(ec0713)がそう呟いている。
「やーねぇ。それでもどうにかしないといけないじゃない」
 昏倒勇花(ea9275)もそう告げてシャクティを構える。
 その横では、かなり疲労している鳳美夕(ec0583)の姿もあった。
 パラディンへとなる為の最終試練、その為にこのインドゥーラに再びやってくると、先発隊と共に『混沌の申し子』の封印にやってきていた。
 周囲を阿修羅僧によって取り囲まれ結界を施すと、あとはこの中で申し子を破壊するのみ。
 パラディン達の攻撃を受けてかなり消耗している申し子だが、候補生の攻撃など微塵にも感じていないように感じ取れる。
 それだけ実力差が生じているということだろうが、美夕は魔法により申し子に向かってダメージを叩き込むと、さらにシャロンと勇花の連携攻撃が決まりはじめる。
 そしてそこに美夕の攻撃も加わり、どうにか戦いつづけた。

 そして3日後。
 戦いは3昼夜続き、ようやく混沌神の申し子は倒された。

──そして
 
 無事に修練を終えた一行。
 最後にアジーナ大寺院にて転職の儀式を執り行うと、あとの結果は後日伝えると告げられた。
 そして再び3人はノルマンへと戻り、阿修羅寺院にて結果をじっと待っていた。
 フィーム・ラール・ロイシィからパラディンへの正式配備が決定したのはシャロンと鳳美夕の二人のみ。
 昏倒勇花は惜しくも今回はなれなかったものの、1年間フィームの元で補佐を行う事でパラディンとなることが認められるという報告を受けた。
 あたらしいパラディン。
 これから先、彼女達にどんな試練が待っているのか、それは寺院に保管されるであろう報告書をじっと待つことにしよう。



●旅立ち
──ノルマンの何処か
 静かに風が駆け巡る。
「この向うだったよね?」
「そうだ。ふねがまってる。まっくす、りゅーど、あいすまん、みんなまってる」
 そう告げるギュンター君。
「二人だけじゃないのが実に口惜しいけれど‥‥」
 とギュッと拳を握る鬼十郎だが。
 今まで、いつも一緒にいた。
 ギュンター君の回りには、いつも仲間たちがいた。
 だから、これからの旅も寂しくはない。
 最愛のギュンター君と一緒だから。
 このノルマンを離れて、遠く異国へと向かうけれど、新しい仲間が大勢いるから。
「ああん。、ギュンター君待ってよ!! 一緒に行こう?」
 と走っていくギュンター君に告げる鬼十郎。
 彼女にとっても、新しい旅が今から始まるのであった‥‥。


──So Long