●リプレイ本文
●まずは港町〜船って高いのね〜
──ノルマン北方の港町
大勢の人々が走りまわっている。
港には、大小様々な船が集まり、交易品などの積み荷の運搬を行なっている。
「私はニルナ・ヒュッケバイン、見ての通り神聖騎士です。この度はとある理由で、ここから3日程掛かる小島に行く事になったのです‥‥それでご相談が」
「船の仕事‥‥何でも手伝いますからよろしくお願いします! その島まで船に乗せてください!!」
ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)と夜黒妖(ea0351)の二人は、今回の目的地である島まで、船を調達しようと港で頼み込んでいた。
だが、この時期はニルナ達の向かう島の方角に向かう船が殆どなかった。
幾つか向かってくれるという船もあったのだが、船代が掛かり、しかもべらぼうに高い。
止むを得ず、二人は兎に角走りまわり頭を下げてまわっていた。
「うーーん。ちょっとまっていろ。女将さんに相談してくるから」
その水夫の言葉に、二人は笑顔をみせる。
「これでなんとか‥‥って、女将さん?」
「ええ、今、確かに女将さんっていいましたわ」
頭を捻る黒妖に、ニルナもそう捕捉。
二人の知っている人物で、海の仕事関係で、女将さんとくれば。
「あらあら、どこの誰が無茶なこと話しているかと思えば‥‥」
はい、御存知グレイシー商会のマダム・グレイスでした。
「女将さん、御願いします。貴方しか頼ることは出来ないのです」
瞳をウルウルとしながら黒妖がそう告げる。
黒妖、いつのまにそんな技を。
「あーあー。話は聞かせて貰ったよ。しっかし、どうしてあの島なのかねぇ‥‥」
そう呟くマダム・グレイス。
どうやら、一筋縄ではいかないようで。
「あの島に何か?」
そう問い掛けるニルナ。
「うーーーん。まあ、直接行ってみたほうが早いか‥‥とりあえず船は出してあげる。今日の夕方に出港だから、それまでの荷物の積卸しと港湾監理局での書類作成の手伝いを頼むかな。それと、黒妖‥‥あんたには、別の頼みもあるんだ」
そのまま黒妖の首にガシッと腕を絡み付かせるマダム。
「ななな、なんだよ? 俺に出来ることなら何でもするけれど、夜の伽っていうのだけは勘弁してくれよ‥‥」
──スパァァァァァン
マダムも持ってたハリセンチョップ。
それで激しく黒妖に突っ込みを入れる。
「だぁれがっ。アンタ、たしか『獣耳』の依頼受けていたわよね。あのポーション、何とか手に入れておくれよ」
つまり、グレイシー商会で分析して、商品として販売という事。
「望む所!! 今度こそ‥‥待っていろニッチモ!!」
おお、黒妖が燃えている。
──一方そのころ
「伝承? 伝承っていう程のものかは判らねぇけれどなぁ‥‥」
テュール・ヘインツ(ea1683)とサラサ・フローライト(ea3026)の二人は、他のメンバー達が船の調達を行なっている間、島に付いての話を聞き歩いていた。
「うん。どんな事でももいいんだ、教えてよ」
「頼む」
にっこりとそう告げるテュールと、そっけなくそう告げるサラサ。
「ああ、あの島はなぁ、誰も入ったことが無いんだ」
「誰も入ったことがない? どういうことだ」
サラサが更に問い掛ける。
「島の回りは巨大な渦が彼方此方にあるし、島に至っては断崖絶壁、上陸地点なんて存在しない。海路としても使えないし、あの渦のおかげで漁も出来ない。まあ、言ってしまえば、鳥たちの楽園って所だろう?」
その水夫の言葉をメモするテュール。
「ふぅん。で、伝承は?」
「まあ、この港町の教会には、ジーザスが奉られているだろう? あの島は、ジーザス教徒にとっては『聖地』の一つみたいなものなんだとさ‥‥」
いきなり確信部分かよ!!
もっと捻るとか、情報を細切れにするとか‥‥ああ、全く。
「聖地ね‥‥ありがとうございました」
ペコリと頭をさげるテュールと、それに併せるように頭をさげるサラサ。
「ああ、良いってことよ。そうそう、ねーちゃんも別嬪なんだからさ、もう少し笑ったほうがいいぜ、はっはっはっ。じゃあな坊主!!」
そのまま船に戻っていく水夫。
「もうすこし‥‥笑ったらだと?」
サラサがボソリと呟く。
「そうだよ。サラサさん綺麗なんだから、もっと笑顔でいたら幸せになれるよ」
そのテュールの言葉に、サラサは少し考える。
そして。
「こうか?」
そう告げて、テュールの方を向くサラサ。
と、突然テュールが真っ赤な顔になる。
「あ、あ、えーーとえーーと、サラサさん、次の聞き込みにいこ!!」
そう話しながら、サラサの手を取り走り出すテュール。
(やっぱり。駄目か‥‥)
それはサラサの心の呟き。
いえいえサラサ、貴方は本当に笑顔の似合う女性ですよ。
ただ、テュールはまだ、どう言えばよいのか判らなかっただけです。
──さらに情報収集
「あの島にはな‥‥魔物が住んでいるのじゃよ」
一人の老人が、海を見ながらそう呟く。
その側では、ジャン・ゼノホーフェン(ea3725)が、静かに老人言葉に耳を傾けていた。
「魔物か‥‥それは、ジーザスに関与している魔物、つまりアンデットの事か?」
ジャンは腰を降ろし、静かに耳を傾けた。
「アンデットか‥‥このワシが冒険者を引退して、どれぐらいになるかのう‥‥あの頃、ワシはジーザスの敬謙な使徒であった。『天罰の地上代行者』の二つ名を持ち、様々な依頼を熟していたエキスパート‥‥それが今では‥‥」
ゴホゴホと咳き込む老人。
「無理をしないほうがいい‥‥」
ジョンはそう告げながら、老人の方を向き直す。
と、遠くから声が聞こえてくる。
「いたいた‥‥御爺ちゃーーーん、まったくこんな所で」
それは一人の女性。
急ぎ足で駆け寄ってくると、女性はそのまま老人を抱き上げると、二人で帰りはじめた。
「待ってくれ、その老人、かなり腕利きの冒険者だったと聞いた。もし宜しければ、あの島に付いての話を聞かせて貰いたい。あの島の魔物、アンデットについて!!」
そう告げるジョン。
「えーっと、御爺ちゃんが腕利きの冒険者?」
そのままプッと吹き出す女性。
「またおじいちゃんの悪い癖がでたのねぇ。ごめんなさい。おじいちゃんは昔、腕利きの漁師だったのよ。冒険者になりたかったらしいけれど、家業を継ぐために漁師になってねぇ。この港町にきた冒険者から色々な話を聞いては、その主人公に自分をあてはめていたのよ。最近はちょっと物忘れがひどくなっちゃってねぇ‥‥」
なんとまあ。
「で、では、あの島にアンデットが出るという話しは?」
愕然としてそう問い掛けるジョン。
「ジーザス様の聖武具の奉られている島に、アンデットが出る筈ないじゃない」
あ、それはそれで貴重な情報。
そのまま二人を見送るジョン。
まあ、よくある事、気にしない気にしない。
──教会では
「これはこれは、お疲れ様です」
ジーザス教の小さな教会。
この教会は港町に建てられている為、出港前の水夫や船長などがやってきては、航海安全の祈りを捧げ、司祭より祝福を受けていた。
「いえ、これも務めですので」
司祭に静かにそう話し掛けるのはウィル・ウィム(ea1924)。
「実は、今日ここを伺ったのは他でもありません。この先にある小さい島について、何かしらの伝承が残っていると思いまして。もし宜しければ御聞かせいただきたいと思い、やって参りました」
そのままウィルは司祭と共に教会の中で話を始めた。
「小さい島ですか‥‥貴方もジーザスの足跡を御捜しで?」
「ええ。あの島には、ジーザスの残した聖遺物が今でも眠っているという話を耳にしました。もしそれが真実であるならば、ひと目でも見てみたいと思いまして」
ウィルはそう話を続けた。
「ヨハネによる福音書、第19章の34節、復唱できますね?」
司祭のその言葉に、ウィルはしばし考えた。
「‥‥『けれど、一人の兵士が彼の脇腹を槍で突き刺した。すると、すぐに血と水がでた』‥‥ですね」
まだまだ自分は未熟であると感じつつも、なんとか思い出してそう告げるウィル。
「ええ。聖遺物と言いましても、かなりの数が存在します。福音書第19章40節に出てくる、ジーザスの身を来るんだ布。『聖骸布』とも呼ばれているそれも聖遺物として、何処かに安置されていると伝えられています。そして、今、貴方の復唱した槍。後の調べにより、その兵士の名前まで伝えられています。ローマの兵士長ロンギヌス。その為、ジーザスを貫いた槍は『ロンギヌスの槍』と伝えられています‥‥」
「では、あの島には聖槍ロンギヌスが安置されていると?」
その言葉に、司祭長は頭を左右に振る。
「それが真実なのかは私にも判りません。一昔前には、あの島に『聖槍崇拝者達』が訪れていました。ですが、その者たちが何を見、何を知ることが出来たのかは、私にも判りません。彼等は、いつのまにか居なくなっていたのです‥‥それ以後、あの島を訪れるものはありませんでした‥‥ですので、あの島に本当に『聖槍ロンギヌス』が奉られているのかどうかは私には判りません。もし奉られているのでしたら、それは法皇庁へ報告しなくてはなりませんし、そのまま安置しておく必要もあります‥‥」
その言葉に、ウィルは静かに肯く。
そしてお礼を告げると、ウィルは教会を後にした。
しかし‥‥またしても確信部分かよ。
──最後に
「そこの、へらへらしてないでちゃんと運べ!!」
「いゃあ。これは地でして〜(へら)」
水夫に怒られながらもそう返答しているのは暁らざふぉーど(ea5484)。
グレイシー商会の好意により、一行は船の調達を完了。
その代わりとして人足手伝いを行なっているようである。
「しかし、あの御曹司の依頼もこれで2度目か‥‥運があるというのか、はたまたといった所か‥‥」
そう話しながら荷物の運びこみをしているのは北道京太郎(ea3124)。
「いやいや、それは縁(えにし)があったということですよ〜(へら)」
ニコニコと笑いながら、暁がそう話す。
「そうだな。さて、取り合えずはこの荷物の積み込作業を急いで終らせようか‥‥」
そのまま二人は、黙々と荷物の積み込を続けていた。
●船旅〜なるほどこれは厄介だなと〜
──小島沖合
激しく揺れる船体。
船が港町を出発して3日が経った。
その間、一行はお互いの知りえた情報を交換、まだ見ぬ聖遺物に想いを寄せていた。
だが、その思いは、島の姿を見た瞬間に崩れ始める。
目的地である小島沖に付いたのは其の日の正午。
そして島の光景を見た冒険者一同は、いきなり絶句してしまう。
「‥‥どうやって、あの島まで?」
最初に口を開いたのは京太郎。
それをきっかけに全員が我に返る。
まず、島までの直線距離約5km。この間は巨大な渦と小さい渦が激しくぶつかりあい、激流が発生している。
さらに島全体が切り立った絶壁。
いかにして渦を切り抜け、そしてあの絶壁を上がるかが勝負である。
「方法としては、小舟であのうねりを切り抜けるしかありませんか。となると、馬は連れていけませんね」
ニルナがそう意見を述べる。
「絶壁かぁ。うまく昇っていって、上からロープを降ろし、それを使って上がるしかないですねぇ〜(へら)」
暁の意見には、黒妖も同意。
幸いなことに、黒妖と暁の二人は忍者。
その方法も出来ないことはないが、果てしなく難しいであろう。
と、テュールが甲板からにこやかに戻ってくる。
「ここの水夫さんが、小舟出してくれるって。ただ、荷物は最低限にして欲しいってさ」
グレイシー商会きってのベテラン水夫。
まあ、彼等なら、なんとかたどり着くことぐらいは可能であろう。
「‥‥あの絶壁は昇る必要ないな」
それはジャン。
「何故だ?」
サラサがそう問い掛けたとき、ジャンが絶壁の一部を指差す。
「あそこに空洞がある。海水のぶつかりによって侵食したのかどうかはわからないが、もし、過去にあの島に行ったものがいるというのであれば、あの洞窟らしき空洞を辿っていったと考える方が無難だろ」
物事を現実的に捉えるジャンならではの感覚。
確かに、一行がジャンの指差した場所をじっと見ると、空洞が空いているのを確認できる。
「なら、あそこまで小舟でなんとか行く。そして空洞の中に入ったらまた調査し、上に抜けられる道を捜すということで?」
ウィルが今までの意見を纏める。
そして一行は、次々と準備を開始し、いよいよ小舟に乗り込んだ。
●島につきまして〜いやぁ、これは参りますね〜
──遺跡前
渦も切り抜け空洞に入り、さらに空洞内部で上陸地点を確認すると、明らかに人工物である階段をゆっくりと駆けあがる。
そしてたどり着いた先は島の外れの洞窟。
そこから先、すぐの所に遺跡群が広がっていた。
ここまで簡単に説明すると、たいした事は無いと思うでしょうが、渦を切り抜ける間、サラサは咽が限界になるまでメロディを唄いつづけて皆の心に勇気を振り起こし、力の余っている京太郎やニルナ、暁はひたすら船を扱ぎつづけていた。
テュールと黒妖の二人は荷物をずっと押さえ、ウィルとジャンはひたすら神に祈っていたという。
ちょっとでも間違えたら即ち死亡。
そんな危険をどうにか潜りぬけた一行を待っていたのは、件の遺跡群であった。
かなり古い造りで、彼方此方に崩れた廃墟や神殿の跡が見て取れる。
「とりあえず、魔物の心配はないようだね」
黒妖が偵察から帰還。
周囲には魔物の痕跡は存在しなかったらしい。
「なら、取り敢えず今日は周辺調査とベースキャンプの設営ということですね」
ニルナの提案で、一行はベースキャンプの設営を開始。
そして残った時間は、周辺の調査に当てることにした。
●さて、調査開始です〜この雑魚どもがぁぁぁぁ〜
──遺跡周辺
「あと何匹だ?」
京太郎が刃に付いた体液を振り拭う。
朝一番で遺跡調査を開始した一行。
だが、いざ遺跡に入ってみると、出てくる出てくる巨大な蜘蛛。
一匹だけならいざ知らず、最終的に潰した数はざっと40近く。
それだけでも半日が潰れてしまったのである。
「本能で動いている蜘蛛には、悪意も何もありませんからねぇ」
ウィルがそう呟きながら、無残にも散っていった蜘蛛達の冥福を祈る。
「今ので最後か。やっと休めるね」
黒妖も刀を腰に戻すと、その場に腰を降ろす。
──キィィィィィン
と、少し先の廃墟から、テュールの声が聞こえてくる。
「さーーんれーーーざーーーーっ」
テュールの叫び声と同時に、太陽光が収束し、対象に対して直撃した。
「そっちは、まだ蜘蛛が残っているのか?」
ジャンもゆっくりと座りながらそう呟く。
蜘蛛程度なら、テュールでもそれほど手間は掛からないだろうと。
「いやぁ。蜘蛛じゃ無くて蟻なんですけれどねぇ〜」
暁の声が聞こえてくる。
しかし、その声の雰囲気に(へら)が無い。
つまりピンチ。
「先にそれを!!」
慌てて走り出す京太郎と黒妖、ジャンの3名。
「神よ‥‥」
3名が到着したとき、情況はかなり進んでいた。
サラサがウィルにリカバーを施して貰っている。
「済まない。油断した」
「いえいえ、不意打ちは止むを得ません」
そう話しているサラサとウィル。
そして前衛はというと‥‥。
「この黒死鳥のニルナにこれ程の‥‥クッ」
ニルナが前線より交代。
利き腕にざっくりと咬み傷がある。
一撃でニルナのレザーアーマーを貫通する巨大な牙。
それが、今は暁に向かって襲いかかっていた。
「血が涌く‥‥この感覚‥‥」
暁は既に笑顔が消えかかっていた。
暁の3連撃は、あっさりと躱わされ、逆にその顎がガシッと暁の腕に食い込んでいく。
激痛で武器が腕から落ちそうになるが、気合いで武器は手放さない。
「さーーんれーーーざぁーーーー」
──チュン
テュールのサンレーザー発動。
既にかなりのサンレーザーが蟻を襲ったらしい。
近くには、一体の蟻の無残な死体が転がっている。
「あとは任せろ!!」
京太郎が駆け込むと、必殺の2撃を叩き込む。
──ドシュドシュッ
その2撃で、蟻はほぼ即死状態。
さらに黒妖が駆け込むと、蟻にとどめを刺す。
(こんな蟲けら如きに、名乗りを上げる必要もないか‥‥)
ということで、今回は名乗りを上げられず残念。
そして一行は再度周囲の調査を行うと、ひとまず傷の手当を開始。
そして一休みしたのち、再度調査を開始した。
●今度こそ調査です〜敬謙なる使徒ですから〜
──教会遺跡
そこの遺跡は、普通の遺跡とは異なっていた。
床板に当たる部分が全て1mの石で組み込まれ、そこには何やら文字が刻みこまれている。
さらに中央には小さい台座が組まれており、そこには一本の槍が突き刺さっていた。
「ラテン語表記ですか‥‥」
ウィルが近づいていくと、その文字をゆっくりと読み進む。
「‥‥『次いで、エホバはモーゼにこう言った』‥‥と、聖書の一文ですか」
良く見ると、それにはラテン語による聖書の写しが記されている。
だが、その中央にある小さい水晶体が気になる。
「ニルナさん、これが何か判りますか?」
同じく神聖魔法を使えるニルナを呼ぶと、ウィルがそう問い掛ける。
「聖書の原文、ラテン語による刻みこみ‥‥一枚の石版に一文‥‥水晶体?」
流石に水晶体との繋がりが不明瞭である。
「とりあえず、この上を歩いていいのか教えて欲しいのだが」
京太郎がそう問い掛ける。
「一面に敷き詰められたジーザスの経典。踏みつけになどしたら天罰があたるだろ」
サラサの意見に、京太郎も足を止める。
「まあ、あの中央にある槍を調べてみないと‥‥でも、そのためにはこの石版の謎を解く必要がある‥‥か」
ジャンも持てる知識をフル動員するが、今ひとつ判らない。
「リヴィールマジック行きまーす」
テュールがとうとう魔法発動。
魔法反応は、この石版全ての水晶体。
そしてテュールの魔法発動と同時に、一番手前、テュールの傍の水晶体が輝き、そして消えていった。
「‥‥テュール、今何かしたか?」
サラサはその反応を見逃していない。
「え? 魔法使っただけだよ」
そのテュールの言葉に、サラサは今一度魔法を詠唱。
──プゥゥゥン
と、サラサの近くの水晶体が一つ輝き、そして消える。
「魔法に反応するか‥‥あとは法則性だな」
サラサは一つの結論に達した模様。
「どういう事? もう少しかいつまんで説明してくれないかな?」
黒妖、この手の魔法が関ってくるとお手上げ状態の模様。
「つまり、この水晶体は近くの魔法に反応した。そして私は、この水晶体を対象とした魔法を唱えようとしたのだが、当然水晶体が受け入れることはない。ここからは推測だ。ここは教会。恐らくは、神聖魔法、それもリカバーやホーリーといったものなら、水晶体は反応を示し、光を止めるのではないかと」
そのサラサの推測に、ウィルがリカバーを唱える。
確かに水晶体は反応するが、光は留められない。
「‥‥まさか」
ニルナが慌てて聖書を開く。
そして刻まれた文と聖書の文を比較する。
「石版は完全にランダムに配置されていますわ。ということは」
──ブゥゥン
ニルナがホーリーを唱える。
そしてそれは発動。
手前ではなく、奥の一枚の石版の水晶体が輝き、そのまま光を留めている。
「!!」
ウィルも理解。
次の石版を急いで探し出すと、ウィルもまたホーリーを発動。
同じく離れている一枚の石版の水晶体が輝いた。
「どういう事なのか。教えて欲しいんだけれど〜(へら)?」
暁の問いは、皆も同じ。
「これは聖書を辿っていくのです。私達聖職者は、ジーザスの足跡を辿るという行為を行うことがあります。例えば聖地巡礼。それと、この石版は同じなのです。聖書の中の道をゆっくりと辿っていく。そこに印を付けて、次の道を辿る‥‥」
そのままニルナとウィルは、交互に魔法の詠唱を続けた。
そして全ての水晶体が輝いたとき、一斉に全ての石版が輝き、そして光は消えていった。
但し、中央の台座へと続く一本の道。
その路の部分だけ、石版も消えてしまっている。
そしてウィルはゆっくりと道を進むと、その槍に手を掛ける。
だが、其の手をウィルは放してしまった。
「抜かないのか? それを持って帰らないと、報酬には繋がらないよ?」
黒妖がウィルにそう話し掛ける。
「あれは抜けませんね‥‥抜いてはいけない代物なのでしょうから」
ニルナがそう捕捉する。
「どういう事?」
テュールが近くのサラサに問い掛ける。
「つまり‥‥ジーザスの名において、あの槍は、今は抜くべき時ではないというところか?」
そのサラサの言葉に、ウィルが静かに肯く。
「ここの封印の力はかなり強力です。また、この島自体、モンスターによる侵攻も受けておらず、どちらかというと自然が手付かずのまま。この槍は、来たるべき時の為に、この地で眠っていただくというのが‥‥」
ウィルの言葉に、一行は納得。
「さて、そうなると、どうやってあのボンボンを納得させるかという所か‥‥」
ジャンがそう呟きながら、何か代案を考えている。
「依頼内容をもう一度考えてみると〜(へら)」
暁、何か解決策を発見?
「えーっと、『無事に調査を終えて、真実を伝えてくれたら、そしてその聖遺物とやらを持ってきてくれたら』だったよねぇ。つまり、『無事に調査を終えまして。真実の部分は少しネジ曲げて、聖遺物は噂だけでした』ということにしても、依頼は失敗?(へら)」
あ、それは微妙。
(まあ、この槍については、本物っぽいから、後でタイミングを見て取りに来たらいいしな‥‥)
あ、心の中の暁が悪い事考えている模様。
でも表情は(へら)である。
「まあ、それでいいか」
「同じく異存はない‥‥」
サラサ、ジャン共に了承。
当然ながら京太郎、テュール、ニルナ、黒妖も納得の模様だが。
「‥‥まあ、いた仕方ありませんか。全て真実を伝えると、ここの土地が荒らされてしまう可能性もありますし‥‥」
お堅いウィルも何とか納得。
そして残った時間を一行は他の遺跡廃墟めぐりを敢行。
まあ、モンスターなぞ出ることも無いため、そのまま古代の遺跡で浪漫を満喫という所であろう。
●そしてパリ〜なるほどなるほど〜
──冒険者酒場
そこの席には、依頼から戻ってきた冒険者達と貴族のボンボンが座っていた。
「ふぅん、なるほどねぇ‥‥まあ、この手の話というのは、えてして偽者が多いからねぇ‥‥うんうん、ご苦労様」
サラサとテュール、二人がかりの大冒険譚。
サラサが話を纏め、ひとつの詩として作成。それをテュールが受け取ると、サラサとテュールは二人でそれに曲を付ける。
そして酒場では、サラサがオカリナを奏でつつ、テュールが静かに物語を語る。
いつしか周囲にはギャラリーが出来上がり、終るころには拍手喝采となった。
「では、これは依頼料。大切に取っておきたまえ。また何かあったらよろしく頼むよ、うんうん」
そう告げると、ボンボンは静かにその場を立ちさって行った。
なお、これには後日談があります。
ウィルはこれらの事を教会に報告。
教会では独自調査のために小島に調査隊を送りましたが、そのときには既に槍は姿を消していました。
その場には、見た事も無い紋章の入ったペンダントが一つ転がっていたそうですが、誰もその紋章については判らなかったようです‥‥。
〜FIN〜