哀しき名剣〜敵討ち〜

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月09日〜09月14日

リプレイ公開日:2004年09月10日

●オープニング

──事件の冒頭
 いつもの冒険者酒場。
 それは、ある冒険者の言葉から始まった‥‥。
「冒険者ギルドでいい話見つけちまったぜ。ほら、ちょっと前の依頼なんだけど、ある鍛冶屋が作ったっていう名剣。あれを手に入れてな‥‥ほら、こうしてああして‥‥こうしたら、凄い事になるだろ?」
「ああ。あの話か。そういえば、かなり前だけれど、依頼から帰ってきた奴等が、しばらく話していたなぁ。まあ、本当かどうか知らないけれどな‥‥本当なら、それこそ無敵って奴だな」
 それは二人組の冒険者崩れ。
 とある依頼を無事に終え、帰ってきた冒険者が呟いていたという名剣『アンデッドスレイヤー』について、興味深々のようである。
 そして二人は酒場を後にした。
 思えば、悲劇はそこから始まった。

──冒険者ギルド
「‥‥どういう事ですか?」
 受付嬢がキョトンとした表情で問い掛ける。
 彼女の前で話をしていたのはマダム・グレイス。
 御存知『グレイス商会』の女将である。
「あたいの部下が、例の鍛冶屋の島まで生活用品を届けにいったんだ。そしたら‥‥」
 そこでグレイスは下をうつむいて拳を握る。
「あいつ‥‥殺されていた。傷口から察するに、ロングソードか何かで斬り殺されたんた。あいつの作った剣もなにもかも奪われちまって‥‥」
 マダム・グレイスも、その報告を部下から受けたときは怒り心頭だったであろう。
「つまり敵討ちをしたいと? ギルドではそのような依頼は受付けかねます‥‥」
 そうキッパリと告げる受付嬢。
「違う。あたいが依頼したいのは、あいつの打った剣を取り返して、あいつの妹に渡してほしいんだ。あいつの妹は病気でね‥‥この先の小さい村で、いつか兄貴が立派な鍛冶屋になって帰ってくるって信じているから。それに、爺さんと父さんそして兄貴、3人が魂を込めて打った剣を、悪用されたくないっていうのもあるんだ」


──そのちょっと前、自警団詰め所
「これで3軒目か。今回も?」
「はい。とても尋常とは思えません。すっぱりと切断されています‥‥」
 そこはノルマン郊外にある小さな街。
 最近、その街では不思議な盗賊が姿を表わしていた。
 頑丈な壁や門を見事に真っ二つにし、堂々と忍び込んでは金品を奪っているらしい。
「うーむ。いよいよ我々だけでは、今回の事件は解決しづらい‥‥」

──そして再び冒険者ギルド
「‥‥判りました。ではまとめて一つの依頼として受付けます」
 マダム・グレイス、そして自警団団長の2人の話の接点が浮かび上がった。
 それらを纏めあげると、受付嬢は依頼書を掲示板に張付けた。

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea1769 アルタ・ボルテチノ(34歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea3075 クリムゾン・コスタクルス(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3677 グリュンヒルダ・ウィンダム(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea4757 レイル・ステディア(24歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea6349 フィー・シー・エス(35歳・♂・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●ということでパリ郊外〜まずは交渉〜
──普通の酒場
 とりあえず依頼を受けた一行は、各自が鍛冶師の仇を取るための調査などに出かけている。
 とりあえず夕刻、ここに集まってくるようにと打ち合わせをしていたらしく、一行の荷物の置かれているテーブルには、帰りを待つゼルス・ウィンディ(ea1661)と風烈(ea1587)の二人が、静かにメモを見ている。
 どうやらゼルスは、すでに調査を終えて最初に戻ってきた模様。
(盗まれたものの共通点は‥‥全て一人で運びだせる程度の調度品ですか)
 コトッとハーブティーの入っているカップをテーブルに置くと名探偵宜しく、メモの内容を吟味している。
(犯行時間は朝方。壁などが破壊されてから、その調度品の盗まれるまでの所要時間は約10分。連絡を受けた自警団が到着するまでに撤収しているというところですか)
 そのまま犯行の情況を頭の中で分析。
(馬を使っていたりしたという事もなく。素早く活動できる盗賊‥‥ひょっとしたら、ウィザードの可能性もありますか)
 そう考えると、ゼルスはハーブティーを飲み干すと、静かに立上がる。
(奇抜な犯行を行う者ほど、意外と賢い上に用意周到だったりします。見張りの仲間を立てたり、盗品運搬や逃走に使える足を用意している可能性もありますね。もう少し、情報を集めておきますか‥‥)
 そのままゼルスは、フラリと外に出ていった。
「‥‥報告書にはアンデットスレイヤーという記述は無し。となると、報告の行われた後日、酒場かギルドでそんな話をしていたところを聞かれたという所か‥‥」
 冒険者ギルドの受付嬢に頼み込み、以前の報告書を写させてもらった烈。
 それを読み込んでいくうち、かの鍛冶師の溢れるばかりの情熱と強い意志が、烈の魂に響いてくる。
 親子3代がかりで叩き上げた名剣。
 いかなる物質をも切り裂くアイテムスレイヤー。
 命あるものは全く斬ることが出来ないが、アンデットなどの不死者は瞬殺するであろうことから、『アンデットスレイヤー』の異名が付けられたのかもしれない。
「安心しろ。オマエの無念、俺が必ず晴らして見せる」
 そのまま烈も、静かに席を立った。

──自警団にて
「成る程。シスター・アンジェラスには、以前お世話になったこともあります。喜んで協力させて戴きます」
 自警団団長は、フランシア・ド・フルール(ea3047)の差し出した書状に目を通すと、そう返答する。
 ここの街に来る途中、フランシアはサン・ドニ修道院を訪ねていた。
 そこで修道院長であるシスター・アンジェラスに全てを告げると、フランシアはシスターより一通の手紙を預かってきたのである。
「ありがとうございます、自警団長殿。それで、この町に盗賊を誘い出すのに適した場所があるのでしたら、教えていただきたいのですが」
 そのままフランシアは自警団長と話を続けた。
 そして一ヶ所、グレイス商会の倉庫が借りられれば何とかなるという結論に達したが。
「グレイス商会になら、さっきアルタという方が向かっていった筈ですね」
「そうですか。彼が向かっていったのでしたら、そろそろ話は付いている頃ですね」
 その言葉に、フランシアは静かに礼を述べると、ゆっくりと席を経つ。
「ちょっと待って。今回の依頼、なんかすごく嫌な予感がするんです。兎に角気を付けてください‥‥」
 この自警団団長の言葉が、後にフランシアの胸に響くことになる。

──グレイス商会・倉庫
「では、こちらを借りさせて戴く。ご協力感謝する」
 丁寧に挨拶しているのはアルタ・ボルテチノ(ea1769)。
 自警団に、誘い出しやすそうな倉庫を貸してくれる人を聞き出したアルタは、そのまま倉庫の持主であるグレイス商会の扉をくぐった。
 そこで受付けに一通りの説明をしたところ、幸いにもグレイス商会の女将であるグレイス・カラスから話は聞いていたという。
 しかも、真っ先にやってきていたレイル・ステディア(ea4757)とここで合流。
 レイルはあらかじめマダム・グレイスに話を通して貰っていたらしい。
「どうりで、話が通るのが早かった訳だ‥‥」
「倉庫の方は頼む。俺はクリムゾンと合流して一芝居撃たないとならないからな」
 そう話すアルタに、レイルはそう告げると急いで酒場へと戻っていった。
「あの鍛冶師さんの島には、私も1度、仕事で伺わせていただいたこともあります。どうか仇をとって上げてください」
 そして、受付の老人にそう告げられると、アルタは早速倉庫の鍵を預かり、倉庫へと向かっていった。

──酒場にて
「では、手筈通りに‥‥」
 無事に場所の確保の終った一行は、最後の打ち合わせを行なっている。
 既に変装したレイルとクリムゾン・コスタクルス(ea3075)は、別の席で囮としての情報をばらまいている最中。
 場所の確認も終ったため、一行はそのまま裏から回りこんで倉庫街へと移動。
 しばらくしてから、やはり変装したフィー・シー・エス(ea6349)がレイル達の元へと向かっていくと、そのままゆっくりと話を始める。
「ご主人様。例の荷物は、借りた倉庫に運んでおきます」
 うやうやしく礼をしながら、クリムゾンにそう話し掛けるフィー。
「例の? マダム、それは『九月期の入荷分』ですか。ならば、自警団に護衛を御願いしなくてはならないのでは?」
 レイル、最近はこの手の仕事が多いのか、慣れた様子である。
「それには及びません。ここの自警団に護衛などしてもらったら、そこに宝物があると言いふらしているようなものですわ。グレイス商会の倉庫でしたら安全は約束されています。自警団の護衛など必要ありませんわ」
 そこに件の自警団団長登場。
「ここに居ましたかマダム。何故我々の護衛を断わるのですか?」
 迫真の演技の自警団団長。
 あんた、ここをクビになっても食べていけるよ。『アサギリ座』にでも入ってみては?
「ここの自警団の護衛は信用ならないそうで。それではマダム、後日の取引きを愉しみにしています。それでは‥‥」
 レイルもまた迫真の演技。
 そのまま酒場の2階へと消えていった。
「フィー。それでは荷物を倉庫へ。ああ、自警団の方たちの腕は信用しています。けれど、万が一の場合、今回の取引きで動くお金を貴方たちが保障していただけますか」
 そのままフィーは、外に止めてある荷物運搬用馬車を倉庫へ移動させる。
 ちなみにグレイス商会から借りたもの。
 荷台には、しっかりと固定されている『積み荷』が乗せてあった。
「お金で済むのでしたら‥‥いったいいかほどで?」
 団長に耳打ちするクリムゾン。
「なっ!! 20プラチ‥‥わ、判りました。流石にそのような金額、自警団としては‥‥」
 そのまま団長も外に撤収。
 クリムゾンは皆の立ち去った後で、酒場にいる人たちの気配を感じ取っている。
(今外に出ていった人が二人組‥‥一人は残ってこちらの監視、さて、思ったよりも手練れのようですわね‥‥)
 まあ、そこまでが限界。
 それでも、クリムゾンの方を監視している男が立ち去るまで、クリムゾンはずっと商人の女性の如く、他の客達との会話を楽しんでいた。


●ということで囮作戦〜魂を開放して下さい〜
──グレイス商会・倉庫
「‥‥」
 静かに箱の中でじっとしているのはクリムゾン。
 適材適所ということもあり、クリムゾンは情報収集などの任務ではなく、こうして倉庫の外に置いてある箱の中で待機していた。
 倉庫の中の囮の荷物横には、烈も忍び込んで待機。
 そして倉庫の彼方此方に他のメンバー達も待機。
 あとは夜明けに奴等がやってくるのをじっと待つだけである。

──キィン!!
 突然激しい金属音が響く。
 正面の鉄の扉が分断されると、そこから二人の人物が内部に侵入しようとした。
「こ、これを売り飛ばせば、しばらくは遊んで暮せますね?」
「ああ。最近は自警団もうるさいからな。ほとぼりがさめるまで外国にでも行くとするか‥‥」
 と、突然一人の脚が止まると、背中に背負っていた剣を引き抜く。
──プツッ
 それはあらかじめ仕掛けてあった罠。
 アルタが仕掛けていたロープトラップだが、あっさりと発見される。
 と、突然二人は踵を返して走り出した!!
「成る程‥‥囮という事か‥‥」
 そう吐き捨てるように叫ぶと、盗賊の一人が印を組み韻を紡ぐ。
「しまった!!」
 クリムゾンが慌てて叫ぶと、そのまま盗賊に向かって走り出す。
「逃がすかっ!!」
 すかさずアルタが手にした弓を引くと、剣を手にした盗賊に向かって弓を引く。
──キィィィン
 だが、放たれた矢は剣によって受け流されてしまう。
「何だと!!」
 さらにグリュンヒルダ・ウィンダム(ea3677)と烈、レイルも飛び出す。
 ゼルスは魔法詠唱開始したが、速度が間に合わない!!
 距離が縮まる前に、敵盗賊の魔法が発動!!
 盗賊の全身が銀色に輝いた瞬間、冒険者達は闇に包まれた。
「まさか!!」
 夜行性の生活習慣のあるフィーでも、魔法の闇の中となると勝手が違う。
 そのまま闇の空間から一行が抜け出したとき、既に盗賊の姿は無かった。
「かなりの手練れ‥‥畜生っ!!」
 拳を力強く握り締めると、烈はそのまま走り出す。
「ブレスセンサーでは、近くの対象が反応します‥‥駄目です」
 ゼルスも肩を音しながらそう呟く。
 そして残った一行は、倉庫の中で震えているフランシアに気が付いた。
「どうしたのです?」
 そうグリュンヒルダが話し掛ける。
「あの剣は‥‥駄目、強い怒りと思念‥‥殺された鍛冶師の強い心が負の力になって‥‥みんな殺される‥‥」
 剣に宿る思念に囚われたフランシア。
 そのままグリュンヒルダがフランシアの肩を抱き上げると、そのまま皆の元へと戻り、逃げた盗賊を追いかけた。

──そして
 道筋に点々と血が零れている。
 クリムゾンはあのまま盗賊を追いかけたまま。
「フランシアの言葉が気掛かりだ‥‥それにクリムゾンも‥‥」
 レイルのその呟きに、一行は血の跡を追いかけた!!
 やがて前方を先程の魔法を使った盗賊が走っているのを見ると、アルタがショートボウを構えて矢を放つ。
「おまえだけでもっ!!」
 放たれた矢は盗賊の脚に突き刺さる。
 そのままもんどりうって転がる盗賊。
 そして一行は盗賊に追い付くと、そのまま剣をかざして降伏を申し出た。
「人間、その程度の傷では死にはしない‥‥ここで殺してやってもいいが‥‥お前を裁くのは俺達じゃない‥‥法の下に裁かれるがいい」
 レイルの言葉に、盗賊は降伏した。

──そのころ
「ハァハァハァ‥‥」
 全身が血まみれになっているクリムゾン。
 盗賊の攻撃に対してオフシフトで躱わしていたクリムゾンだが、段々と盗賊の剣の切っ先が鎧を切り裂いていった。
 反応速度は盗賊の方が上。
 そしてついにクリムゾンの柔肌を剣が捕らえた!!
 報告にあった剣なら、肉体が傷つけられることはない。
 だが、その切っ先はざっくりとクリムゾンの肉体を切り裂いていった。
 そして斬られた瞬間にザワッとした感触。
「ば、馬鹿なっ。報告とちがうじゃん!! 生身の人間は切れない筈じゃねーのかよっ」
 激痛に耐えながらも、必死にロングソードを構えるクリムゾン。
「あ、ああ。最近は、何でも切れるようになってねぇ‥‥まあ、さしずめ鍛冶屋の怨念が宿って呪いの剣にでもなっちまったって所か?」
 そう吐き捨てると、盗賊はそのまま走り出した。
「悪いな。人は殺したくないんでね」
 そう呟くと、盗賊は素早く建物の影に消えていった。
 そして入れ違いにグリュンヒルダ達も合流。
 だが、時は既に遅かった‥‥。


●そして〜事の顛末〜
 捕らえた盗賊は自警団本部に突き出される。
 フランシアも翌日には落ち着きを取り戻し、クリムゾンの傷も手当を受けた。
 盗賊の自白により、島の鍛冶師やこの街で盗んだものを隠していたアジトに案内させると、今までに盗まれたものは大方回収することができた。
 ただ、鍛冶師の叩き出した『アイテムスレイヤー』とブランらしき鉱石については全く判らない。
 アイテムスレイヤーはそのままもう一人が持ったまま消息を断ち、ブランらしき鉱石は『裏オークション』と呼ばれる盗品のオークションに流れてしまったらしい‥‥。

──そして妹の元
 一行は家の前で待っていた。
 中にはフランシアと烈の二人が入り、事の顛末を隠すことなく話した。
「お前の兄貴の打ち出した剣は、俺達が必ず取り返す!! だから‥‥俺達を信じて待っていてくれ!!」
 力強く力説する烈。
「半ばで凶刃に倒れたとはいえ、兄君は主の祝福を受けるに相応しい立派な方でした。今はその無念さ、そして自らの打ち出した剣が悪に染まったことによる後悔の念ゆえ、兄者の魂は剣に囚われています。でも、私達が必ず、貴方の兄者の魂を救ってみせます。そしていつしか主の御許にて、鎚を振るう日が来るでしょう‥‥復活の日の、その時まで。死を嘆くのではなく糧とし、あなたも兄君に倣い己が道にて向上なさい。主は、それをお望みです。私達は、ジーザスの名の元に、貴方の兄者の魂を救い出すことを誓います!!」
 流石はフランシア。
 そう告げると、二人は妹に頭を下げると、家を後にした。
「急がなければ‥‥妹君の病も深刻です。残された時間は少ししかありません‥‥」
 フランシアのその言葉が、一行の心の中に深く突き刺さった。


〜To be continue