●リプレイ本文
●最悪の依頼〜皆で拳を握ろう〜
──とある村
「これが地図か‥‥」
広げられた地図をマジマジと見ながら、サラサ・フローライト(ea3026)はそう口を開いた。
依頼人である青年の家で、冒険者一行は青年から地図を見させて貰っていたのである。
広げられた地図には、確かに道標となりそうな記号、そして宝を示す文字が記されている。
「地図っていうよりは、暗号の類ですね」
カレリア・フェイリング(ea1848)が目の前の地図を見ながら、自分の用意してきた羊皮紙にそれを書き写している。
「でも。私思いますに、とりあえずは男になる前に真っ当な社会人になるべきだとは思いますが」
無表情のままそう呟くのはナスターシャ・エミーリエヴィチ(ea2649)。
ターシャ先生、いきなり核心ですか。
「え? 俺は真っ当な社会人だけど?」
あーもう、誰か拳で語ってくれい。
そんな青年の言葉は皆で無視。
「貴方のおじいさんは冒険者だったのですよね。それでは‥‥」
ナスターシャはそう告げると、外に聞き込みに出かけた。
「おい、地図の解析はどうするんだ?」
青年がナスターシャにそう問い掛ける。
と、軽く振り向くと、ナスターシャは静かに口を開く。
「まず、貴方の御爺様について調べないとなりませんわ。冒険者であった貴方のおじいさん。その生きざまや功績など、些細な所からもヒントは出てくるのです。これは冒険者としては常識です‥‥いいですか?」
真顔でそう告げられると、青年は何も言えない。
「では」
──ガチャッ
という事で、ナスターシャは外に聞き込み。
「いいですか? これは老婆心から言わせて貰います。家の財産をあてにしないで、しっかりと足を地に付けて、稼いだ金で彼女を迎え入れなさい。男になるために人を頼ってはダメなの。自分で努力して夢を掴み取る、それが男になるっていうものです」
ミカロ・ウルス(ea2774)の説教モード。
「いや、でもさぁ。眼の前にこんな財宝の地図なんかあったらさぁ。正直働く気なんてしないよねぇ」
あ、何か腹立ってきた。
当然、その場の一行も血圧上昇中。
「お前のお爺さんはどんな人だった? ターシャは外に聞き込みにいったが、私はお前から聞きたい」
サラサ・フローライト(ea3026)がそう問い掛ける。
「うちの爺さんかぁ。引退する前は冒険者だったんだよねぇ。最後にデカい仕事をしてさぁ、それで引退して隠居。なんでも腕利きのトレジャーハンターで『シルバーアイ』っていう二つ名も持っているんだぜ」
そんな名前は、一同誰も知らない。
「貴方のお爺さんは一人でトレジャーハントをしていたのですか? 他に仲間とか、パーティーとかは組んでいなかったのですか?」
ルイス・マリスカル(ea3063)が問い掛ける。
「いや、仲間はいたよ。俺も小さいときに遊んでもらったしねぇ‥‥でも、今は何しているか判らないし、何かの専門家とか、タロンの神官とかそんな感じの人だったよ」
まあ、一般的な冒険者パーティーと言う所である。
「今、この家には何もないのか?」
何かを思い出したようにサラサが問う。
「んーっと。遺品は殆ど金に代えるのに処分したしねぇ。冒険者時代の荷物は、何一つ残っていないし。だから、その地図に記されている場所に、爺さんのトレジャーハンター時代の財宝が隠されている訳さ」
なんと短絡的な。
一行はすでに呆れてしまっていた。
ギルドからの依頼である以上、失敗したら自分達の名誉に傷が付く。
だが、その傷程度でこの腹の虫が納まるのならと‥‥多分皆考えたであろう。
そしてナスターシャが戻ってくるのを待つと、一行は目的地である『深き森』へと向かっていった。
●深き森〜あら、宝があっさりと〜
──地図のポイント
光の差さない暗い森。
足元はあちこちがぬかるみ、まさに宝を隠すためには絶好の場所である。
途中、毒蛇やら巨大蜘蛛やら謎の生物(ゴブリン)やら、様々な危険に出会ったが、それらは今の彼等の敵では無かった。
まあ理由は御察しくださいということで。
──ザックザック
ジャンとルイスの二人が、記された場所にスコップを入れる。
2m程掘り返したとき、宝の箱が姿を現わした。
「これで任務完了ですか」
カレリアがやれやれといった表情で話す。
そして宝の箱が掘り出された。
「こ、これで彼女と幸せになれる‥‥」
震える手で箱の蓋を開けようとする青年。
「あ‥‥」
──プス
トラップ作動。
「痛てぇぇっ」
ポイズンダガーですか?
「全く世話の焼ける事です。宝の箱ですから、トラップが仕掛けてある事ぐらい判りませんか?」
ナスターシャがそう呟く。
「さ、先に言えっ」
「ですから、教えようとしたのですよ。『あ‥‥トラップが仕掛けてあるかも知れませんから私達に任せてください』って」
だから『あ‥‥』ですか。
そのナスターシャの言葉に、冒険者一同は心の中で拍手を送る。
(良い仕事してますね、ターシャ先生)
「見せてみろ」
サラサが青年の傷を見る。
(たいしたことはないか。毒の反応もない‥‥古くて毒が消えたのではなく、ただの脅し?)
そう判断し、青年にその事を告げる。
「罠の解除が終るまで待っていてください」
ミカロがそう告げながら、宝箱の罠解除と鍵開けを行う。
今回は道具を持ってきていなかったが、それでも開く簡単な鍵。
(なんでしょう? このやる気の無い宝箱は。いやな予感がします)
そのまま宝箱を開くミカロ。
と、中からは一枚の古い石版が姿を現わした。
「ここからが本番という所か」
ジャンがやれやれといった口調でそう呟く。
──そして青年の家
一行は手に入れた石版を解析するために、まずは青年の家へと戻ってきた。
本来は石版の発見で依頼終了、はいそれまでなのであるが、自分達の収入がほぼ0となってしまう。
そのため、サラサが依頼人に交渉。
石版解析と宝の回収時、報酬を1割から3割に引き上げる事を約束させた。
ナスターシャは引き続き、外に向かい聞き込み。
残った一行は、石版の汚れを取り除くと、それをマジマジと見ていた。
「さて。この辺りに花畑はあるか? それも季節を問わない奴だ」
ジャン・ゼノホーフェン(ea3725)がそう問い掛ける。
「どうしたのですか?」
カレリアは石版の写しを作っていた。それが終ったので、ジャンにそう問い掛けていた。
「いや、ここの紋様、これが花を意味している‥‥」
あんた、その石版の文字判るのか。
「‥‥古代魔法語か」
サラサの呟きに、ジャンが肯く。
「一つ質問しても良いですか? あなたの両親どうしたのですか?」
カレリアが静かに問い掛けた。
「ん? 去年死んだよ。流行病で。まあ土地も畑も残っているし、家もあるから生活は出来るけれどね」
あっけらからーんと呟く青年。
「すいませんでした‥‥」
カレリアは頭を下げて謝った。
まあ、当の本人は全く気にしていないのが助け船というところか?
「ジャン、他にキーワードは?」
サラサがジャンに問い掛けた。
「花畑‥‥古きを捜す賢者‥‥単語の羅列がうまく繋がらないぜ‥‥」
ジャンもかなり苦悩中。
サラサもそのキーワードを元に、伝承知識などからそれらを紐解く。
ミカロとルイスの肉体作業班は外に出かけると、周辺の調査を開始。
近くには森もある為、先程のジャンの口から出たキーワードを捜しに出た。
遠くでは、ナスターシャが近くの農夫に聞き込みをしている模様。
「なるほど、大変参考になりましたわ。あの青年の家のおじいさんは、それ程の方でしたか」
などと、楽しそうに会話を行なっている。
──そして夜
一行はベースキャンプを設置。
ルイスが途中で森の奥で狩りをしてきてくれたため、其の日は贅沢な晩餐を行う事が出来た。
「森の中には、花畑はあったけど、春夏秋冬全ての季節の花の網羅はしていないぞ」
「同じく。イリスだとかオルキデだとか。開花時期の違う花の全て揃った花畑が何処にあるのだか」
ルイスの言葉に、ジャンが捕捉を加えた。
「ジャンさん。地図にはどんな花が記されているのですか?」
カレリアがそう問い掛けた。
「ああ。判っただけならイリス、オルキデ、フリージア、ローズ‥‥か」
花だけなら、花言葉とかの意味合いも考えられる。
だが、そこに賢者とかが絡んでくると、どうにも判らない事が多い。
「まさかとは思うが」
サラサがなにかに気がつく。
「ミカロ、お前の家は何処にある?」
「何処にって。冒険者街のイリス通りのっぇぇぇぇぇぇぇっ?」
サラサの言葉に、ミカロも気がつく。
「地図の示す場所はパリだ‥‥どういう事だ?」
財宝とかなら、古い洞窟とか深い森とか、そういった所に隠すのが基本。
だが、地図に示されているのは『パリの冒険者街の通り』である。
「実際に行ってみるといいかも知れませんね」
スープを飲み干すと、ナスターシャがそう呟く。
「まあ、あの通りなら、賢者っていうのが住んでいるかも知れないか。そいつが宝の管理人という可能性があるということか」
ジャンの言葉に、サラサが肯く。
そして一行は、野営を建ててから交代で休息を取った。
●パリ〜スタート地点ですが何か?〜
──冒険者ギルド
予定よりも早くパリに戻ってきた一行は、冒険者ギルドの前にやってきた。
「あら? ご苦労様です。まだ依頼終了には早いですけれど?」
薄幸の受付嬢がお使いから戻ってきたようである。
「いや、ここからが本番だ」
サラサのその言葉に、何が起こったのか心配そうな表情をする受付嬢。
「まあ、心配しないでください。もうすぐ依頼は終了します」
ナスターシャのその言葉に、受付嬢は安堵の表情を見せると、ギルドに戻っていった。
そして一行は冒険者街へと向かっていく。
石版の示す通りを抜けて、目的の『古きを捜す賢者』の家を捜す一行であるが、どの家もそれらしい為、難航しそうであった。
──コンコン
と、ナスターシャが一軒の家の扉をノックする。
「うむ、何方かな?」
玄関に姿を表わしたのは、今から遺跡発掘に出かけるミハイル・ジョーンズ教授。
「はい。実は教授に御願いがありまして。『シルバーアイ』から預かっている財宝を、お孫さんに渡していただきたいのです?」
その光景を、一行はあんぐりとした表情で見ていた。
「ナスターシャ、どういう事だ?」
ジャンがそう問い掛ける。
「え? ですから聞き込みの時に、お爺さんの仲間だった学者の一人に、ミハイル教授がいたという事を聞きまして。それで先日の石版を見たときに、この教授も一枚噛んでいるのだなと思いまして。言っていませんでした?」
『聞いてない!!』
一同絶叫。
「ふむ。ちょっと来なさい。時間がないので直に渡すとしよう」
そう告げると、一行はミハイル教授の家の倉庫に入っていく。
そこで古いズタ袋を手に取ると、それを青年に手渡した。
「これが爺さんの遺産‥‥」
そこから出てきたのは古びた鎧一式と剣のみ。
「ミハイルさん。これはどういう事?」
青年の顔が引きつる。
「いつかここにお前が来る事があったらこう伝えて欲しいと言われてのう。『これはワシが始めて冒険者になったときの装備じゃよ。オマエもいつかは大切な人を守る時が来る。その時は、いつまでもプラプラしていないで、立派な男になりなさい』だそうじゃよ」
そのままもう一つの袋をナスターシャに手渡す。
「お前さん達は、この青年に依頼を受けて爺さんの財宝を捜していたのじゃろう?」
コクリと肯く一行。
「なら、これはこれは爺さんから。『孫の道楽に付き合わせて済まなかった』だそうだ」
うわ、金貨入っているし。
「まあいいかぁ‥‥」
その鎧を見て、青年は明るく言い放った。
「御爺さんの言いたかったこと、理解してくれたのですね」
カレリアが嬉しそうにそう告げた。
「これでも売ったら、多少は金になるしなぁ‥‥」
──プチッ
あ、皆が切れた。
──スパァァァァァン
サラサがいきなり平手打ちを叩き込んだ。
「ぶ、ぶちましたね!!」
──スパァァァン
さらに一撃。
「二度もぶった‥‥母さんにもぶたれたことないのにぃ」
──もう一発、スパァァァン
「お前のその手は何の為にある? 人の手は食物を得る事も、誰かを守る事も、金を生み出す事も出来るのに、お前の手はただ彼女を抱きしめるだけなのか? 誰かを縛るだけで何も与えず生み出しもしない、そんな手などいっそ切り落としてしまえ!!」
サラサ爆発。
「そうだなぁ。爺さんの財宝は、冒険者道具一式というところか。なら、我々の任務は、おまえを立派な冒険者にしなくてはならないというところか。ミハイル教授、こいつにちょうどいい遺跡はないか?」
ジャン、中々いい性格しているぜ。
「確かに。おお、そう言えば、ルイスは確か、地下迷宮に何度かいった事がありますよね? そこに行ってみてはどうですか?」
ミカロがルイスに話しを振る。
「(あ、あれは俺でも勘弁だが‥‥)そうだな。魔人の眠る地下迷宮か。かなりの財宝を期待できるだろうな」
ルイス引きつりながらそう話を合わせる。
「い、いや、もう結構。これで依頼は終了ということで‥‥」
青年、荷物を受け取ってそのまま退散。
「あのまま冒険に連れていって‥‥土に返してしまえばいいのです。草花の養分にした方が世間様の為になる気もしますけどね」
うわ、ナスターシャきつい。
そして一行は、そのまま冒険者ギルドへと向かい、依頼終了の報告を行った。
そして酒場に向かうと、気分転換の為にぱーっと愉しい一時を過ごしたそうな。
〜Fin〜