●リプレイ本文
●船旅〜現地到着まで〜
──交易船『グレイス・ガリィ号』内
「おっ、エルじゃん。また会ったねぇ!!」
交易商『グレイシー』の女主人であり、この交易商船『グレイス・ガリィ号』の船長でもあるグレイス・カラスが、甲板で仲間の冒険者達と話し合いをしているエル・サーディミスト(ea1743)にそう話し掛けた。
「あ、やっぱり女将さんの船でしたか。先日はどうもお世話になりました」
ちなみに先日というのは、とある小島でのゴブリン退治の物語。
あの一件以来、交易商グレイシー一家は、冒険者ギルドからあれやこれやと仕事の依頼が舞い込んでいるらしい。
本業がどうなっているのかは、あえて問うまい。
「いいってことさ。こっちも仕事だからねぇ。まあ、まんざら知らない仲でもないことだし、この依頼中の皆の食事ぐらいは面倒みてあげるからね。但し、少し甲板掃除とか雑用を手伝ってもらうけれどいいかい?」
なんと、もってきた保存食を減らすことがなくなったようである。
──冒険者一行は取り敢えず喰いっぷちを確保!!
「グレイス船長、済まないがこの書面に目を通して、よろしかったらサインを居ただけないだろうか?」
ツヴァイン・シュプリメン(ea2601)がそう告げながら、冒険者ギルドから発行してもらった証明の書かれた羊皮紙を手渡した。
万が一の時のために、難破船からの積み荷回収に関する依頼人に書いてもらった正式な証明書である。
どうやら、この交易船で運ぶという事も、一筆記しておく必要があるらしい。
「ふぅん。随分と用意周到だねぇ。ほらよっ」
グレイス船長がさらさらとサインをし、それをツヴァインに戻す。
「このグレイス・ガリィ号には、座礁した船の積み荷全てを積み込めるスペースはあるのか?」
そう問い掛けたのはファイゼル・ヴァッファー(ea2554)。
「心配ご無用。ギルドからの報告は聞いているからね。楽勝で運べる筈だよ」
その船長の自信に満ちた言葉に、ファイゼルの心配も吹き飛んだようである。
「よろしく頼むぜ、船長」
そのファイゼルの言葉に肯き、船長は舳先の方へと歩いていった。
「しっかし、随分と依頼主もしっかりしてやがるじゃん」
そう呟きながら、依頼主から預かった積荷一覧を見ているのはジェイラン・マルフィー(ea3000)。
万が一の事を考えて、ジェイランはグリュンヒルダと共に依頼主の元に出向き、積み荷一覧を入手していた。
移動中の食糧などの必要経費については、すべて自腹という事になってしまったが、グレイス船長の好意で食糧関係は無事確保した模様。
「なにかあったのですか?」
そう問い掛けるのはミレーヌ・ルミナール(ea1646)。
ジェイランのもっている一覧に視線を送り、彼方此方についている印を一つ一つ目で確認。
「この印の付いている積み荷は?」
「依頼主曰く、絶対に持って帰ってこいだそうだ‥‥半分以上あるぜ、こりゃあ」
やれやれという口調で、ジェイランがそう呟いた。
「天気予報のお時間でーす!!」
パタパタと皆の頭の上を跳びながらそう叫ぶのはチルニー・テルフェル(ea3448)。
「まもなく通常航路をはずれ、危険海域に突入。前方に雷雲が発生している模様‥‥海が荒れるので注意が必要だとおもいまーす」
当たるも八卦当たらぬも八卦のジプシー占い。
「船長、彼女の話、本当ですか?」
舳先でじっと空を見ている船長に、グリュンヒルダ・ウィンダム(ea3677)がそう問い掛けた。
「そうさねぇ‥‥あと一時間で嵐の中って所だねぇ。皆、船室に入って居たほうがいいわよ、かなり揺れるだろうし、シフールは吹き飛ばされるからねぇ‥‥」
そのまま操舵手に指示を飛ばすグレイス。
「まあ、中に入ってひと息といこうじゃないか。ギルドと交渉して、多少の食糧は調達しておいたわい」
抜かりなくギルドと交渉を終えていたのは
七刻 双武(ea3866)。
先に移動日数などを計算し、仲間たちの食糧を必要経費として出してくれるよう頼み込んでいたらしい。
もっとも、それについては交渉決裂したらしいが、移動中の愉しみが全くないというのも考えてくれて、多少のワインなどを用意してもらってきたらしい。
「そうですわね。これから始まる仕事の景気付けということで」
ミレーヌの言葉もごもっともであるが、なによりも『船酔い』に対して、皆の気を紛らわせてあげようということもあるのだろあ。
かくして、細かい打ち合わせは船室に戻り、ワイン片手に楽しく続けられた。
●危険海域〜今は波が静かです〜
──危険海域初日
天候・曇
どんよりとした雲と少し高い波。
そんな中、交易船グレイス・ガリィ号は錨を下ろし、船を安定させる。
「今なら多少の作業は出来るはずだな、勝負は1時間。そのころには荒れはじめると思うから、なんとかそれまでにある程度ケリをつけておいで」
グレイス船長の言葉に、冒険者一同は肯き、降ろしてあった小舟に乗り移った。
小舟で座礁している船に近付くと、まずは周辺海域の調査。
噂の魔物が存在するのか、ファイゼルがぐるりと周囲に気を配ってみるが、それらしいものは感じない。
──ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ
深呼吸の後、グリュンヒルダは淡いピンク色の光に包まれていった。
やがてそれが収まると、ツヴァインがもってきていた縄はしごを使い、戦闘のできる『積荷回収班』から入り込む。
グリュンヒルダはあらかじめオーラエリベイションを発動させ、士気を高めていらしい。
「さてと、では調べてみますか」
「そうだな」
アルス・マグナ(ea1736)とエルが二人同時に魔法詠唱。
ブラウンの輝きに包まれた二人はバイブレーションセンサーを発動させた。
二人が少し距離を置いたのは、効果の重複を防ぐためであろう。
「‥‥一人だけいましたわ」
「‥‥こっちも、一人だけか‥‥」
その言葉に、冒険者達は違和感を感じていた。
「確か、取り残された水兵も居たはずだか?」
そのファイゼルの言葉に、エルが困った顔をしてみせる。
「この魔法で感じ取れるのは、まだ一人だけなんです‥‥だから、私とマグナさんは距離を置いて発動させてみたのですが」
お互いの魔法エリアが重なる場所が多くなりすぎないようにとの考えで使用したのであろうが、二人が発見出来たのは一人だけ。
それも範囲が重なった場所の一人だけである。
「で、場所はどこぢゃ?」
七刻双武の問い掛けに、エルとマグナの二人は声を揃えてこう告げた。
『船長室‥‥』
──生存者救出班
ということで、早速作業を開始。
まずは生存者救出班。
メンバーは以下の4名。
エル・サーディミスト
ツヴァイン・シュプリメン
ミレーヌ・ルミナール
アルス・マグナ
早速船長室に向かうと、静かにその扉を開く。
──zzzzzzzz
中からは、いびきを上げて眠っている船長らしき男の姿があった。
室内には喰い散らかした食糧が散乱し、あちこちで腐臭すら漂っている。
「‥‥取り敢えず叩き起こしてみるか」
ツヴァインがそう呟くと、船長の体を揺り動かした。
「うううーーーーむ。一体何者じゃい」
やれやれという表情で目を醒ます船長。
「冒険者ギルドからの依頼で積荷の回収にきただけだ。これが依頼書で、依頼人と担当船舶の許可証もある‥‥異存はあるまい?」
ツヴァインが手にしていた書類を船長に突きつける。
「なんじゃい。やっと迎えに来たのか。で、冒険者ギルドの依頼じゃと?」
繁々と書類に目を通す船長。
「ククク‥‥アーーッハツハッハッ。これでわしも、失業となったか‥‥」
と、突然おおっぴらに笑い飛し、そう叫びはじめた。
「こんなところで、一体何をしていたのですか?」
そのミレーヌの問いに、船長は大きな声で呟いた。
「逃げ延びた水夫に、別の船で迎えに来いと伝えておいたのさ。船は積荷を積んだまま座礁、そのまま行方不明。俺は別の船に荷物を積み込んでから別の国にとんずら。座礁した時点で積荷を処分して遊んで暮そうという算段だったんだが‥‥どうやらギルドにタレコミやがったか‥‥」
悪事はできないものだなと、船長はあきらめ顔。
かくして船長は無事に助け出し、一旦交易船『グレイス・ガリィ号』に戻って船長の身柄を拘束、積み荷の積み込作業に向かっていった。
──荷物回収班
一方そのころ。
「竜骨から砕け掛かっていて、このレベルの浸水‥‥下の積荷から急いだほうがいいか」
「そうだな。兎に角、おいらとあんたは積荷のチェック、それから運びだしに入ったほうがよさそうじゃん」
そう打ち合わせを行なっているのはグリュンヒルダとジェイランの二人。
なお、荷物回収班のメンバー達は以下の5名のメンバーであった。
グリュンヒルダ・ウィンダム
ファイゼル・ヴァッファー
ジェイラン・マルフィー
チルニー・テルフェル
七刻双武
積み荷のリストの写しを全員に配布すると、グリュンヒルダとジェイランの二人は積み荷の中身をチェックしはじめた。
その上で、重要度の高いものをリストアップし、七刻双武とファイゼル、軽いものはチルニーが甲板まで運びだす。
甲板では先の生存者救出班が待機、上げられた積み荷を順次小舟で交易船へと送りはじめた。
「‥‥この中から、腐った匂いがするよ?」
チルニーがそう呟きながら、クルクルと踊りはじめた。
全身が金色に輝き、それが収まってからチルニーは発動したエックスレイビジョンで中身を見る。
──フツフツ
どうやら元は生鮮食品。船員達の食糧関係の何かなのであろうが、既に原形は止めていない。
「うわわわわわわ、フツフツしてる、フツフツしてるよー」
慌てて離れるチルニー。
「そっちの積荷はもっていかない奴だからね」
グリュンヒルダがチルニーにそう告げる。
「さ、先に教えてよーーーっ」
そう呟きながら、チルニーは一旦外に脱出。
フツフツしていたのは醗酵していた『何か』であった模様。
「しっかし、随分と色々なモノを運んどるようじゃのう」
七刻双武がファイゼルにそう告げる。
「ああ。この中身が調度品で、さっきの積荷が絵画だったか。依頼主の性格が伺える」
あくまでも積み荷に関しては知らぬ存ぜぬといった口調のファイゼル。
と、外に荷物をもっていったとき、ふと周囲の変わった気配に気が付いた。
──ピーーーッ
高らかに警戒の合図である口笛を吹くファイゼル。
その音と同時に、甲板上にいた全員が警戒を始める。
「何かあったのですか?」
エルが魔法詠唱の準備のために、そうファイゼルに問い掛けた。
「空気が‥‥変わったな‥‥グレイス船長に聞いてくれ。これからの天候がどうなるか」
そのファイゼルの言葉に、外で新鮮な空気を吸ってリフレッシュしていたチルニーが伝令で飛んでいった。
その直後から、周囲の波が高くなりはじめる。
船が大きく揺れ軋み、ギシギシと下層から音が聞こえてくる。
「嵐が来るようだってー。皆急いで作業の手を止めて、撤収だってさー」
そのまま同じことを船倉で作業しているグリュンヒルダとジェイランに柘植に行くチルニー。
「そっちのリストの荷物は?」
「大体終ったじゃん。あんたの方は?」
ジェイランがそうグリュンヒルダに問い掛ける。
「そうだな。重要度の高いものは大体終ったところか。ここらで撤収したほうが潮時というところか」
そう告げると、二人は重要度の高い最後の積荷をもちながら船倉を後にした。
●嵐の後〜そこにはなにもありませんでした〜
嵐が来るのを察知した一同は、一旦積み荷の積み込を終えると、交易船『グレイス・ガリィ号』で安全な海域まで移動。そこで嵐が過ぎ去っていくのを待つこと2日。
嵐が過ぎ去ったのを確認してから、再度、座礁している船のあった危険海域まで向かってみた。
だが、そこには船の残骸が彼方此方に浮かんでいるだけで、船は存在していなかった。
かくして一同は、無事に積み荷の回収を終えると、本国ノルマンへと帰還したのであった。
なお、最初に積み荷を積んで強行突破しようとした船長の処分については、あえて語る必要もあるまい‥‥。
〜FIN〜