●リプレイ本文
●まずは準備ということで〜地図の解析から〜
──冒険者酒場
地図を購入した一行は、まずはそれを解析するために冒険者酒場の一角でテーブルを借りていた。
「もう一枚あったら楽だったのだが」
そう呟いているのは北道京太郎(ea3124)。
同じ地図をもう一枚購入しようとしていたのだが、残念なことに同じ地図は無かった。
『怪しいマップ売り』曰、同じ地図は存在しない。この地図がマスターで、写しなんか作ったら信用に関るとの事である。
「まあ、あの商人さんのいうこともごもっともだよねー」
そう言いながら地図を写しているのはアルフレッド・アーツ(ea2100)。
取り敢えず人数分の地図を写してから、皆でそれの解析を行なおうという事になった。
地図に記されているのは不可思議な記号と紋様、そして何かを象徴しているらしい魔法文字列。
「こ、この紋章の形は、猫耳‥‥」
夜黒妖(ea0351)がワナワナと震える手で、地図を睨みつける。
ちなみに猫耳ではありません。
「はいはい。見たところ古代魔法語のようですね。これは解析に時間が掛かりそうですわ」
黒妖の言葉に軽く相づちを打ってから、ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)がそう呟く。
「そのようですね。多少の紋章程度でしたら自信はあったのですが‥‥」
セシリア・カータ(ea1643)もそう口を開いた。
黒妖、ニルナ、セシリア、3名解析不能。
他の仲間たちの解析の手伝いにシフト。
「‥‥魚?」
と、アルフレッドが幾つかの記号を指差しながらそう話しはじめる。
「多分、これって魚を表わしているんじゃないかな?」
「魚かぁ。ということは、それは猫の餌、つまり猫耳伝説がぁ」
黒妖、ちょっと暴走ぎみ。
「成る程。どうやら黒妖は、この手の頭脳労働は苦手のようだな。どれ、俺が少し体術の相手をしてやる」
そう言いながら、京太郎が黒妖を連れて外に出て行く。
「‥‥つまり、『俺にも判らない。あとを頼む』というところかしら?」
ニルナがそう言いながら、もう一人の侍、真幌葉京士郎(ea3190)の方に視線を送る。
「コホン‥‥俺はここで地図の解読を手伝わせて戴く。まあ、心配することはない」
そう言いながら地図をじっくりと読み込んでいく京士郎。
(とはいったものの。異国の紋様なぞ、この俺に判るわけが無い‥‥皆の手前、ああいってはみたもの‥‥)
ということで、重要な情報は、今のところアルフレットの御魚マークのみ。
「魚ですか。確かに、魚の出てくる伝承というのはかなりありますから」
学問万能を納めているリサ・セルヴァージュ(ea4771)が、アルフレッドの言葉から何かを紐解こうと試みている。
「もう少しヒントを捜して戴くと、あたしとしても‥‥」
つまり、ヒントを頼りに何かするタイプです。
「そうだな。リサは、自分の出来る事を頑張ればいい‥‥」
ぶっきらぼうに言い放つのはアリオス・セディオン(ea4909)。
「判っているわよっ!!」
そう言い放ちながらプイッとそっぽを向くリサ。
でも、その表情は真っ赤で照れ隠し。
(あら、この二人‥‥そういう事でしたか)
(ふぅん。幸せそうでいいわねぇ)
横の女性2名がそう感じ取っている。
ちなみに誤解です。
アリオスは何も含んでいません。
そしてしばらくの間、一行は地図と戦いつづけていた。
──夜
すでに酒場には大勢の客が集まっている。
「‥‥ぜ、全然駄目‥‥どうしてこんなに難しいの?」
ニルナがギブアップ宣言。
体力を消耗した京太郎と黒妖も戻ってきて、皆に混ざって解析を始めたらしいが、まったくといってよいほど進展しない。
「とりあえず食事を取って一休みしましょう」
セシリアの提案で、一行は食事を頼むと全員で遅い晩餐となった。
串焼きや煮込みなど、適当な料理を注文し、水がわりの古ワインを手に、適当な会話で盛り上がる。
煮詰まったときは、別の話題で脳を活性化させようという所であろう。
「この手の文字は、専門家に解読依頼を出してみるのが早いんでしょうけれど。誰かそういう専門家に御知合いはいらっしゃいませんか?」
リサが皆にそう問い掛ける。
「知合いですか。学者さんには知合いはいませんから‥‥私の知合いですと、グレイス商会の女将さんぐらいしか」
ニルナがそう返答。
「同じく。俺も女将なら顔は利くけれどね。この手の専門家っていうと、学者さん?」
その問いに、リサが肯く。
「そうでしょうね。特に、遺跡発掘とかしている学者さんですと、古代魔法語などに精通しているでしょうから」
その言葉に、黒妖とアリオスが顔を見合わせた。
「あの遺跡の発掘隊だ!!」
「確かに。死者の眠る神殿。あそこの調査隊の人なら」
黒妖とアリオスには心当りがあった。
つい最近、二人はとある騎士の名誉を守るため、死者の徘徊する遺跡に行ってきたのである。
「そんな事があったんですか」
リサ、何となく落胆。
黒妖とアリオスが仲良く話をしているのが、何となく嫌であった。
「えーっと、責任者は確か、ミハイル・ジョーンズ教授だったよね? ちょっと頼んでみるね」
そのまま黒妖は外に飛び出す。
「こんな時間に女性一人では危険だ。俺も付き合う!!」
アリオスがそう言いながら飛び出した。
──そして
「二人でいかせていいのかしら?」
セシリアが静かにリサにそう告げる。
「な、なんで私に?」
カーーーッと顔中を真っ赤にしながら、リサがそう反論。
「だって‥‥ねぇ?」
クスクスと笑いながらニルナに話を振ってみたが、セシリアは直にリサの方に向き直した。
「黒妖‥‥どうして私を誘ってくれないの‥‥」
ああ、男女の中というのは複雑なものでして‥‥って、ニルナと黒妖、君達女性同士だろ!!
そんな皆のリアクションを見ながらも、京太郎と京士郎の二人は、静かに茶を呑んでいた。
「ハーブティーというのも風情があるな」
「ああ。しかし、たまには芽茶とまではいかないが‥‥故郷の御茶も飲んでみたいな」
ノルマンでも飲めると思うけど、高いよ。
──そして
「教授、遺跡の発掘に出かけているみたいだね」
黒妖がそう言いながらテーブルに付いた。
「あら? アリオスは?」
リサがそう問い掛ける。
「そう、それでね、教授の助手の子が、石版の解読専門家なんだって。アリオスがその子の所に交渉に向かっているんだ」
──ピシッ
あ、リサが切れかかった。
「そうなの‥‥」
ニルナの態度もそっけない。
「黒妖‥‥タイミング悪いな」
京士郎のボソリと呟いた一言は、果たして彼女の耳に届いたであろうか。
そして間もなく、アリオスが金髪ショートカットの女の子を連れて戻ってくる。
「紹介しよう。ミハイル教授の専属助手で、石版解析のエキスパート。シャーリィ・テンプル女史だ。明日から彼女も出かけるらしいのだが、無理をいって来てもらった」
アリオスの側には、美少女が一人立っている。
ペコリと頭を下げると、シャーリィは静かにテーブルに付いた。
「では、さっそく御願いする」
京太郎がそう言いながら、自分の地図を彼女に手渡す。
「もし用事が無ければ、同行していただくと助かるのだが」
京士郎がシャーリィにそう訪ねる。
「真に申し訳ありません。明日からちょっと用事が入って居まして」
そう話すと、シャーリィはさっそく解析作業開始。
「あ、皆さんは休んでいただいて結構ですわ。あとは私が引き受けますから。お代は1Gで結構です」
まあ、このまま何もしないよりはマシ。
地図代+解析手数料1G、合わせて2Gの出費となる。
「それでは御言葉に甘えまして‥‥ニルナぁ。一緒に寝ようね」
「プイっ」
あ、まだニルナはすねている模様。
「さて、それでは俺も失礼させて戴く」
「そうだな。明日の朝一番で出かけるとなると、体力を温存しておかないとな」
京太郎と京士郎の二人も、部屋へと向かっていく。
「ふぅん。二人もそんな仲だったんだぁ。衆道院っていう所で鍛えたの?」
衆道院ってなんや?
黒妖がクスクスと悪女の笑みで呟く。
『違うわっ!!』
二人同時突っ込み。
そして気まずいまま。、二人は席を立った。
シャーリィは朝までの僅かな時間で地図の解析を行なっていたらしく、朝、一行が酒場に戻ったときには、シャーリィは完成した地図に突っ伏して眠っていた。
シャーリィにお礼を告げると、いよいよ探索の本番となった。
「あの。実は皆さんに忠告が‥‥」
このシャーリィの言葉は、しばらく一行の脳裏に張り付いていた。
●それでは本番〜やっぱり海ですか〜
──ザッバァァァン
激しい波が打ち寄せる。
パリからセーヌ川を船で下り、一行は目的のポイント近くまでやってきた。
船頭に頼み込み、なんとか途中の上陸ポイントで降ろしてもらうと、そのまま眼の前に生い茂る巨大な森林地帯に突入。
なお、船代一人あたり1Gなり。
「し、出費がかさみすぎのような気がします」
セシリアが慎重に周囲を警戒しながらそう呟く。
「ああ。だが、それよりもシャーリィ嬢の忠告が気になるが」
京太郎の言葉に、誰となく肯く。
「たしか『今回の探索にはクレリックは居なかったのですか』だよね。それと、地図の示されている場所が『悪魔の住まう森』だったから?」
ということで地図No15はその森のようです。判りやすい事このうえなし。
「悪魔の住まう森は、ほんの少しだけ伝承が残っていますわ。遥か過去に、一人の賢者が悪魔を使役するための魔法の研究をしていたそうです。ですが、その魔法は失敗し、強大な悪魔を召喚してしまったとか」
リサが静かに話しはじめた。
「その結果、賢者は悪魔に魂を引き抜かれ、研究施設は悪魔の怒りを買って、破壊されてしまったとか‥‥」
そして一行は、森の中に広がっている巨大な窪地にたどり着いた。
すり鉢状にくぼんだ大地。
その中には満面の水を蓄え、魚が泳いでいる。
本の僅かだが、水底に建物の柱らしき砕けた石柱などが見えていることから、伝説はあながち間違いではないようである。
「これが悪魔の怒りか。気を付けたほうがいいな」
アリオスがそう呟く。
その横で、リサがアリオスの服の裾をギュッと掴んでいる。
(正直恐いけれど‥‥アリオス、貴方が居てくれればあたし、恐いものなんてない)
心の中にある勇気を振り絞り、リサはアリオスの顔をそっと見上げた。
「アリオス‥‥あたし‥‥貴方の‥‥」
──コンコンコンコン
突然響き渡るハンマーの音。
「ベースキャンプはこの辺りでいいのか?」
「ああ。二人用テントだが、無いよりはましだろう。アリオス、荷物があるのならテントの中に入れてくれ」
京太郎と京士郎の二人がテントを張りはじめていた。
そして一行は、濡れると不味い荷物をテントにいれると、そのまま探索準備の為の打ち合わせを開始したのである。
「京太郎さーん。これってなんですかぁ?」
リサが水面を指差しながら京太郎に問い掛ける。
「ん? 何かあるん‥‥ウワァァァァァ」
──ザッバァァァァン
足を引っ掛けて水に落ちる京太郎。
「だ、大丈夫ですか!! こんなところに木の根が出ているなんて危ないですね」
うまく引っ掛けたリサ。
その内心はというと。
(あと少しでアリオスとラブラブだったのにぃ‥‥京太郎、その身を持って償ってね‥‥)
ああ、恐ろしい。
そんなこんなで打ち合わせは開始された。
「地図の解析ポイントは、この湖周辺を記していますね。幸いな事に、まだモンスターらしき形跡もなにもないようです。今日は残った時間を使って周辺調査、明日はポイント部分を重点的に調査しましょう」
セシリアが皆にそう話し掛ける。
「了解した。ベースキャンプに残って見張りをする奴もいた方がいいか。京太郎、服が渇くまでここで残っていてくれないか?」
「ああ。そうさせて貰う。残った奴等の護衛でも兼ねるとしよう。あとは二人一組ぐらいで出発してくれ」
京太郎の言葉に、黒妖とニルナはさっそく調査に向かう。
セシリアはトラップに強いアルフレッドと、そして京士郎はアリオスと共に夜ご飯の狩りも兼ねて出発。
「ど、どうしてこう、タイミングが悪すぎるのかしら‥‥」
ワナワナと拳を震わせて、唯一の知識担当であるリサはベースキャンプで待機となった。
「タイミングがどうした? 取り敢えずはあまり遠くに行かないほうがいい‥‥」
(判っています。あたしはアリオスの為に残るのですっ!!)
そう自分に言い聞かせると、リサは湖の底をじっと眺めはじめた。
──黒妖、ニルナ組
「‥‥倉庫だよね?」
「倉庫ですね」
二人はしばらくの間周辺探索を行なっていた。
しばらく歩き回っていたら、ふと、蔦の絡まった奇妙なオブジェを発見。
周辺に気を付けて近寄ってみたら、それが古い作りの石の倉庫である事が判明。
ゴソゴソと荷物を探り鍵開け道具かシーフツールを捜す黒妖。
だが、持っていない。
「取り敢えずは場所を確認。あとは周辺をもう少し調べたほうがよさそうね」
ニルナがそう言いながら付近を見渡し、二人は調査を再開した。
──セシリア、アルフレッド組
「かなり風化していますわ」
セシリア組は黒妖組とは別方向での調査を行なっていた。
周辺にはモンスターの生息している痕跡は見当たらなかったため、二人はその他の気になるものを調べていた。
アルフレットはそんなさ中に野ざらしになっていた白骨を発見。
セシリアと共に調査を開始していたのである。
「大きさは大人の人間程度だね。近くに転がっているのは‥‥錆びてぼろぼろの剣。白骨の近くのコレは、おそらく皮鎧だったもの‥‥かな?」
アルフレッドが慎重に調べていく。
「こんな森の中で人の白骨‥‥まだ、この辺りに話しに出てきた賢者が住んでいた時代のものかしら?」
「そうかもねぇ。この剣に刻まれている文字は古代魔法語みたいだしね。昔はこの剣、魔法の剣だったかも知れないねぇ‥‥」
柄の部分を調べながらそう告げるアルフレッド。
「まだ周囲に何かあるかも知れませんね」
「うん。もう少し調べてみようか」
──京士郎、アリオス組
「このあたりは最悪だな‥‥」
京士郎とアリオスの前方には、大量の瓦礫が広がっている。
かなりの時間が経過していたのであろうそこには、苔が生し、蔦があちこちに絡み付いている。
昔は綺麗な彫刻でも掘りこまれていたのであろう柱や壁は、今は自然に同化していた。
獲物であるウサギを追いかけているうちに、二人はこの場所にたどり着いたらしい。
「京士郎、この瓦礫が何か判るか?」
アリオスがふと視界に入った瓦礫を手に取って見せる。
それには見た事も無い奇妙な紋様が刻まれている。
「古代魔法語‥‥じゃない?」
「ああ、ラテン語だと思う。1度これを持って戻ってみるか」
そのまま二人は、めぼしい瓦礫を集めると一旦ベースキャンプへと戻っていった。
●真相に近付く〜悪魔の儀式〜
──ベースキャンプ
「確かにラテン語ですね。それも、魔法儀礼の文章のように感じます」
リサは、アリオス達が持ち帰ってきた瓦礫に刻まれている文字をみてそう呟く。
「あっちには倉庫もあったよ。鍵が掛かっているかどうか調べていないから、何とも言えないけれどね」
黒妖の報告である。
「あちらには白骨がありましたわ。それと魔法の剣らしく朽ちた柄も確認しました」
セシリアの報告。
そして詳細を事細かに説明する一同。
そのさ中、リサは拾ってきてもらった瓦礫を集めては、なんとか繋がらないか工夫していた。
「ふぅ。所々欠けている部分はありますけれど、大体これであっているとは思います」
そう呟きながら、リサは静かにラテン語の部分を読み上げる。
「えっと‥‥前にミカエル。我‥‥後に‥‥エル‥‥右手にガブリエル‥‥うーん」
流石に足りない瓦礫が多すぎた模様。
確かにシャーリィの言ったとおり、この場にクレリックがいたら卒倒ものであった。
リサの告げたものが『悪魔の召喚に必要な詠唱の一部』と言われているものであると判るものがその場に居なかったため、それ以上大事にはならない。
「一番気になるのは、その倉庫とやらですわ。明日は倉庫の調査を行なってみる事にしましょう」
セシリアの提案に一同異議無し。
かくして其の日は、京士郎とアリオスの捕まえて来たウサギを焼き、保存食の足りない者たちは保存食を分けてもらい、適当に口の中に放り込んで休むことにした。
●倉庫の冒険〜貴方が宝の守護者〜
──倉庫前
翌日。
倉庫前にやってきた一行は、何かあったときのために戦闘準備を行なっていた。
その間に、アルフレッドが鍵の状態を確認。
トラップなどの仕掛けが無い事をチェックすると、いよいよ鍵開けとあいなった。
「こういう時は、僕達の武器って便利だよね」
ナイフを手にしながら、鍵穴を調べるアルフレッド。
「どうだ?」
京士郎がいつでも飛んでいけるように構えている。
「あと少しで‥‥」
──ガチッ
と、鈍い音が響き、鍵が開かれる。
「準備はいい? 神様に安全のお祈りは? 敵が出てきたときにいつでも薙ぎ倒す準備はOK?」
アルフレッドのその言葉に、一行はゴクリと喉を鳴らす。
──ギィィィィィッ
錆付いた蝶番の音。
重苦しい金属音と同時に、腐った空気の香りが広がる。
そして中では、何かがユラリと揺れていた。
「来る!!」
突然内部から飛び出してきたのは腐った死体。
ズゥンビかと思ったが、彼等の知っているズゥンビより早い!!
──バジッ!!
腐った死体はセシリアに向かって飛び掛かった。
だが、彼女達の周囲にはニルナの作り出したホーリーフィールドが展開している。
加えて、セシリアと京士郎は既にオーラパワーを発動。対アンデット戦を考慮してのスタンバイであったのだが。
──バギィィィィン
ホーリーフィールドが破壊された!!
「嘘でしょっ!!」
再びニルナが詠唱準備に突入。
黒妖はニルナのカードに回りこみ、腐った死体が襲ってくるのを待ち受ける。
セシリア、京士郎、京太郎は前衛に出る。
アリオスは中堅でバックアップ、アルフレッドは後方撤退。そしてリサは、アリオスの後方で詠唱開始。
──ガギィィィィン
腐った死体は京太郎に襲いかかった。
ズラリと並んだ牙がまるで生き物のように蠢く。
素早く京太郎との間合を詰めると、そのまま噛付こうとしたのであった。
だか、その一撃はぎりぎりの所で刀で受止める。
カキカキと金属を噛み切ろうとする音か響く。
「この化け物がぁっ!!」
京太郎が叫んだ瞬間、腐った死体が刀から牙を放し、もう一度噛みついた。
──ガギィィィン
防戦一方の京太郎。
これもギリギリの所で受止める。
「南無っ!!」
京士郎が手にした刀で左から腐った死体に斬りかかった。
──ズバァァァァン
オーラパワーの附与されている刀が腐った死体の胴部にめり込んでいく。
グチャッとした感触と骨を削ぐ感覚が刀身に響いてくるのを、京士郎は感じる。
「まだまだぁぁ」
そのまま引き抜くと、更にもう一撃を叩き込む!!
──ドバァァァッ
手応えあり。
深々と食い込んだ刀が骨を断つ。
「これでっ!!」
セシリアが間合を詰めると、オーラパワーの掛けられた剣で、右から腐った死体に斬りかかった。
──ズバァァァァン
骨までも分断するセシリアの残撃。
周囲にはその衝撃で肉片が飛び散る。
腐臭を放つそれはあちこちの地面に落ち、さらなる腐臭を周囲にまき散らしていた。
「まだなの? これでもっ」
──ドシュュュュッ
返す刀での逆袈裟斬り。
腐った死体の胸部に深々と剣が食い込む。
「神よ‥‥彼の者に慈悲の光を・‥‥」
ニルナの魔法完成。
ホーリーフィールドは破壊されると読み、ホーリーにて応戦。
腐った死体が白く淡い光に輝く。
ジュュュュッと肉を焼くような音が周囲に響くが、それほど効果はなかった。
「ズゥンビとは勝手が違うのっ!!」
これほどまでに耐性の強いアンデットにはあった事がないのかも知れない。
自分の信じていた神の力が、ここまで無力に近い形で見せ付けられるとは思っていなかったのであろう。
──シュッ
そのニルナの攻撃を無駄にしないため、黒妖がダガー片手に背後に回り飛び掛かった!!
「我はAnaretaの加護受けし『闇』、悪しき魂を屠る黒き牙なり!」
──スパァン、スパァン
黒妖の2連撃が腐った死体に叩き込まれる。
だが、それは表面上の腐肉を削りとっただけ。
内部にはたどり着く事が出来ない。
普通の生物ならそこそこにダメージを叩き込む事が出来たであろう。
だが、アンデット化したことにより、構造がかなり強くなっているのかもしれない。
「こんなにやりづらい相手は始めてだっ!!」
──フゥゥゥゥン
「風よ、静かなる精霊達よ。あたしの呼ぶ声に耳を傾けて‥‥そして、今だけ、その優しさを刃に変えて‥‥」
静かな詠唱が完成。
リサの掌から、三日月の刃が飛んでいく!!
ウインドスラッシュである。
──スパァァァァン
腐った死体に深々と突き刺さる真空の刃。
アリオスはリサの前方で彼女を守る形を取る。
これ以上前衛に出ると、仲間同士で傷つきあう可能性があると判断したのであろう。
──ガシッ
体に食い込んでいるセシリアの剣を、腐った死体ががしっと掴む。
指先に刃が食い込むが、まるで痛覚が無いかのように体から引き抜く。
そして。
──ガギィィィィン
セシリアの肩口にその鋭い牙が突きたてられた!!
レザーアーマも貫通し、その先端はセシリアの肩の肉を深くえぐり取る。
「くっ‥‥きゃぁぁぁぁ」
セシリアの絶叫。
必死に牙を抜こうと腐った死体の頭を掴む。
一端は離れたと思ったら、さらにもう一度牙を突きたてようと襲いかかった。
だが、それは寸前で躱わす。
そのまま腐った死体との間合を取るセシリア。
アリオスは急ぎ詠唱を開始、セシリアにリカバーを施そうとする。
「貴様、婦女子に対してっ!!」
──スパァァァァァン
京太郎の素早い2連撃が炸裂。
「これで決める!!」
さらに京士郎が大きく構えると、力任せの一撃を叩き込んだ。
大気を切り裂く音が周囲にビシビシと響く。
──ドシュュュッ
腐った死体の右肩から一気に胴部に刃が食い込む。
そしてそれを引き抜くと、止めとばかりに唐竹割り!!
──ズバァァァァァァァン
真っ二つに分断される腐った死体。
しばらくはヒクヒクとしていたが、それもやがて止まった。
「かなり深い。一応はリカバーを施しておくが、あまり無理はしないほうがいい」
アリオスのリカバーで傷を癒すセシリア。
「すいません。まさか、これ程までに強いとは予想外でしたので‥‥」
申し訳なさそうに呟くセシリア。
アルフレッドは倉庫の奥を目を凝らしてみる。
「だ、誰か灯つけて‥‥」
リサがアルフレッドの背後から灯を灯す。
「朽ちたチェストが大量にありますわね」
「かなり腐敗しているものもあるね‥‥どれ」
アルフレッドが慎重に内部に潜り込む。
「形が残っているものだけ持っていく?」
アルフレッドが外で待機している一行に問い掛ける。
「そうですね。使えないものや形の無いものは持ってこなくてもいいです」
ニルナがそう返答。
「そっかー。じゃあ、殆ど駄目だぁ!!」
魔法物品でもない限り、この長い時間を原形を止めたまま保つのは無理だったのであろう。
それでも、少しだけの装飾品と一振りの剣、奇妙な武具を手に、アルフレッドは戻ってきた。
──そしてベースキャンプ
静かな夜。
アルフレッドが持ってきた宝を皆で鑑定する。
装飾品の類は、美術的価値が殆どないとニルナ、セシリアが鑑定。売り飛ばしに決定。
一振りの剣と奇妙な武具が残った。
「こ、これはぁぁぁぁ」
その奇妙な武具を黒妖が手に取る。
「それは?」
──シャキーーン
右手に装着する『鉄の爪』。
まさしく黒妖の求めていたものである。
「お、俺これでいい。これ貰っていい?」
黒妖喜びのあまり、右手で構えを取る。
「まあ、俺達には無縁のものだ。使える奴が使えばいい」
京士郎の言葉に、黒妖がにこやかな笑顔で素振り。
──バキィッ‥‥パラパラ‥‥
と、その素振りの衝撃に耐えきれず粉々にくだけ散る鉄の爪。
「あ‥‥俺の爪がぁ‥‥鉄の‥‥うぁぁぁぁぁぁ」
黒妖絶叫。
「と、言うことは、この剣もか?」
アリオスが鞘から剣を引き抜‥‥けない。
「中で錆びているか? どれ」
京士郎が鞘を手に。アリオスが柄を手に。
──バギッ
錆びた刀身が出てきたと思ったら、あっさりとくだけ散る。
「装飾品だけでもいいとするか。まあ、多少は金になるだろう」
アリオスがそう話す。
そして一行は食事を取り、明日からの旅にそなえて眠ることにした。
●そしてパリ〜思ったよりも報酬あった?〜
──冒険者酒場
帰り道は大森林地帯を縦断する形となった。
途中、巨大な蛇や蜘蛛、ゴブリンコボルトオークといった類の化け物達と戦闘に突入。
毎日が戦いの旅であったらしい。
ようやくパリにたどり着き、商人ギルドに装飾品を持っていく。
鑑定料だのなんだのと差し引かれても、今回の旅は十分に懐が潤った模様。
愉しい酒場での一時を迎えていた一行は、再びあの『怪しい地図売り』がやってくるのを愉しみに待っていた。
〜Fin〜