サーチ&デストロイ2〜ズゥンビ化した村〜

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 70 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月01日〜10月07日

リプレイ公開日:2004年10月05日

●オープニング

──事件の冒頭
 それは一人の老人の依頼であった。
 いつものような静かな昼下がり。
 受付けカウンターにやってきた依頼人は、途切れ途切れになりそうな声で、受付嬢と話をしていた。

「つまり、ズゥンビに襲われた村から村人を助け出すのですね? どちらかというと、騎士団のお仕事ですが。どうして冒険者ギルドに?」
 その疑問は至極当然。
 其の手の大掛かりな事件は、ギルドでは無く騎士団に回るのが普通。
 騎士団ならば必要経費程度は取られるかも知れないが、彼等は国に仕え、国のために活動している為、確実に依頼を遂行するであろう。
 ならば、冒険者に高額な依頼金を支払う意味が何処にあるのかと。

「実は‥‥騎士団には話を持っていけない事情が‥‥」
 
 では、触りだけ説明しよう。
 今回の依頼にあった村は、ここから南方へ片道2日の場所にある。
 その村は、とある領主の管轄区にあり、今の時期はブドウの収穫もあるため、大勢の人々が集まっているらしい。
 今回の事件は、その領主の御膝元の大森林にある『嘆きの塔』に封印してあったアンデットが徘徊し、その村に襲いかかったらしい。
 そして生き延びた村人達は、今回の事件をなんとか収めてほしいと領主の元に向かったのである。

 昔からなぜか騎士団を良く思っていない領主は、最近になって頭角を現わした冒険者達の実力を高く評価し、今回の一件を冒険者達の手に委ねる事にしたようである。

──ということで
「成る程。騎士団とその領主さんの確執ですか。で、その領主さん‥‥お名前は?」
 そう問い掛ける受付嬢。
「プロスト卿‥‥」
 あ、南ノルマンの好事家領主だ。
 成る程、あの領地なら、そんな事件が起こるのも肯ける。
「判りました。それでは、今回の依頼、冒険者ギルドで公布します」
 そして受付嬢は、依頼書を掲示板に張付けた。
「村を襲ったアンデット退治してください‥‥と。これでいいかな?」

●今回の参加者

 ea1045 ミラファ・エリアス(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea1681 マリウス・ドゥースウィント(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea2789 レナン・ハルヴァード(31歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3124 北道 京太郎(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea6349 フィー・シー・エス(35歳・♂・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●恒例の準備〜今回はいきなり移動の模様〜
──ということで街道
 時間は無い。
 依頼を受けた冒険者一同は、大まかな作戦を組んだ後、急いで街道を駆け抜けた。
 今回の依頼者である南ノルマンの地方領地までは、乗り合いの馬車が出ている。
 それに乗れば、少しでも助けることができるかもしれない。
 藁にもすがる思いで、一行は馬車に乗り込むと、ただひたすら神に祈っていた。

──領地内、街道封鎖地区
「ここから先は馬車の乗り入れを禁止している。すみやかに手前の道を横に抜けてください」
 自警団らしき男が、一行の乗っている馬車を停止させると御者に向かってそう告げた。
──ガチャッ
 扉を開き、荷物を手に冒険者達は馬車から降りる。
 さわやかに流れている風が、微かに腐臭を運んできている。
「聞こえなかったのですか? ここから先は‥‥」
 そう告げる自警団団員の背後から、一人の人物がやってくる。
 レザーアーマーにマント、ノーマルソードを帯剣している冒険者らしき人物。
「その方たちは冒険者です、無礼な真似は許しませんよ。今回の事件を納める為に来てくれたのですから。これはこれはご苦労さまです。あ、本当に随分とご無沙汰していました」
 そう挨拶をしてくるのは、南ノルマンのボンボン貴族、本名アルフレッド・プロストその人である。
「ご無沙汰しています」
「随分と冒険者のスタイルが板についてきましたね」
 ルイス・マリスカル(ea3063)とゼルス・ウィンディ(ea1661)がそう告げながら挨拶を返す。
 この二人は、以前の依頼でアルフレッドを鍛える為に迷宮に連れていったという経緯を持っている。
 また、北道京太郎(ea3124)も、彼の口車に誘われて、フラリと冒険に出かけた事もあった。
 まあ、パリの冒険者酒場で酒でも飲んでいると、時折見掛ける事があるそこそこに変な人という認識でとりあえずOK。
「とりあえず、こちらに‥‥」
 いつもの『アーーッハッハッハ』という軽い笑いはなく、神妙な面持ちで一行を案内するアルフレッド。
 そして一行は、今回襲われた村の手前1kmに作られた最終防衛線にあるキャンプに案内された。
 そこには、傷ついた自警団やクレリックが数名、傷を癒す為に身体を休ませていた。
「なにが起こっているかについては、ギルドで依頼を受けた時点で聞いています。それで、今の状況を教えてください」
 それはミラファ・エリアス(ea1045)。
 真剣にそう告げているのだが、持ち前の『おっとりオーラ』により、幾分穏やかな雰囲気を作り上げていた。
「ああ。それを聞いた時点で、あらかじめ考えてきた作戦を実行するかどうか検討する必要があるからな」
 風烈(ea1587)がミラファに続いて口を開いた。
「とりあえずは村人の避難を最優先で行っていました。先日からは、村の内部でのアンデットの徘徊がさらに多発し、自警団やクレリック達が街道及び近隣の村にアンデットが流れないように物理的閉鎖を行なっているのが精一杯です。定期的にクレリックと共に封鎖空間内部に突入しているのですが、一進一退という所でして‥‥」
 それで話は十分であった。
──タッタッタッタッ
 人が走ってくる音が聞こえてくる。
 突然キャンプに飛込んできたかと思うと、開口一発、嫌な空気を捲き散らした。
「今朝出発した部隊が、全滅した!! 生き残りのクレリックが今到着したがすぐ息を引きとって‥‥教会にまだ、無事な村人が隠れているらしい!!」
 その言葉に、一行は素早く武器を構えて飛び出した!!


●作戦開始〜教会を死守せよ!!〜
──災厄の村
 突撃してすでに1時間。
 円陣隊列で中央突破。
 襲ってくる全ての敵は破壊。
 まさにサーチ&デストロイの名に相応しい作戦である。
 村の人口は約200。
 そこそこに大きな村であるが、今は人の気配を感じさせない。
「周囲の敵を!! この子は私が引き受けます」
 ズゥンビに襲われて瀕死の少女を発見した一行は、まずは其の娘を確保すると、円陣隊列のままズゥンビの殲滅に入る。
 クレリックやリカバーを唱えられる神聖騎士がいない為、手持ちのリカバーポーションを与えようとするルイスだが、既に其の子は死の直前に立っている。
(リカバーポーションでは全く効果はないでしょう‥‥けれど、一時的に痛みは和らげる事はできるかもしれません)
 そう判断したルイスは、手持ちのポーションを少女に飲ませる。
「お姉ちゃんが‥‥お姉ちゃんがね‥‥」
 事切れそうな口調でそう呟く少女。
「大丈夫ですよ。貴方のお姉さんも助けて上げますからね‥‥」
 ルイスが少女の手を取り、そのまま抱しめる。
 その周りでは、集ってきたズゥンビを相手に一行は悪戦苦闘の模様。

「くらえっ!! ニャオ・ジャオ・ジィ!!」
 腹の奥からを練り上げ、纏絲勁によりそれを無駄なく繋ぐ。
 身体を滑らかに回し、まるで鞭の如く高速でしなやかな回し蹴りを目の前のズゥンビに叩き込む。
──ビシィィィィィィッ
 烈の最大奥義である鳥爪撃。
 それに、マリウス・ドゥースウィント(ea1681)がオーラパワーでさらに体内のオーラを高めさせた。
 その一撃で、ズゥンビは全身がズタズタに吹き飛ぶ。
「まずはこれ以上、この悲劇が広がらないようにすることです‥‥」
 マリウスも自身にオーラエリベイションを唱え、士気が下がらないようにしていた。
 目の前のズゥンビ達は、数日前まではあきらかに村人だった。
 それが今、ズゥンビとなり、同じ村の人たちを襲っているのである。
 負の力に支配され、束縛された魂を開放する為とはいえ、この戦いは辛いものでしかない。
 マリウスは、目の前で彼に襲いかかってきた女性に向かい、非常な剣を振るう。
──ドシュドシュッ!!
 女性の肉体に、オーラを纏ったマリウスの剣が叩き込まれる。
 裂けた腹腔から内蔵が飛び出し、そして血がポタポタと大地に滴る。
 鼻を付く異臭があたりに漂い、嘔吐感が体内を駆け巡る。
 そして腹腔から大腸をズルズルと引きずりながら、なおもマリウスに向かい、鋭い爪を向かわせてくる。
 その光景は、正に地獄絵図と呼ばれているものであろう。
「こんな事、正気の沙汰じゃない!!」
 レナン・ハルヴァード(ea2789)は手にしたロングソードを、目の前で彼に襲いかかってくる農夫に向かい叩き込む。
 グシャッと頭部がひしゃげる音。
 ざっくりと裂けた頭部から、淡く白い脳漿が流れ出す。
 さらにレナンが返す刀で胴部を切り裂くが、やはりズゥンビと化した農夫は動きを止めない。
 無表情のまま、目をカッと見開いて襲いかかってくるズゥンビ。
 冒険者という職業で無かったら、おそらくは自身も正気を保つことは出来なかったであろう。
「‥‥悪いな‥‥」
──ドシュドシュッ!!
 京太郎も目の前のズゥンビに向かい一閃。
 さらに返す刀で襲ってくるズゥンビを退けようとする。
 恐れを知らず、 恐怖を知ることの無いズゥンビは、生きとし生ける物を襲いつづける。
 死を知らぬ相手と対峙する事がどれほど危険か、京太郎は身を以って知っていた。
「まだだ、こんな奴で怯んでいたら、あいつには勝てない!!」
 京太郎の言う『あいつ』。
 以前の依頼で対峙した、ズゥンビよりも強大な不死の存在『グール』。
 あれがグールと呼ばれるアンデットである事を、この旅の途中で京太郎はレナンから教えてもらった。そしてあの恐怖を知る者として、京太郎は仲間たちに注意を促していた。
──ドッゴォォォォン
 グラン・バク(ea5229)のロングソードがズゥンビの頭部を吹き飛ばす。
 さらに全身に力を込め、力強く大地を踏み抜く!!
 震脚と呼ばれる技で力を集め、一気に剣に全身全霊を込めて。
──ドッゴォォォォン
 横一閃で吹き飛ぶズゥンビ。
「長引くと、ズゥンビ達に囚われている魂に、よけい痛みを刻みこむ。手加減は無用だ」
 コナンの騎士は、マリウスによりオーラを纏わせてもらった剣により、2撃でズゥンビを粉砕した。
「こっちに来なさい!! ほら、此処です!!」
 フィー・シー・エス(ea6349)は、左手に掴んでいるマントを振りつつ、ズゥンビ達を一点に集めるように陽動する。
 その背後では、3人のウィザードが間もなく魔法の完成を待っていた。

──ヒュゥゥゥゥゥゥゥ
 ミラファの魔法が間もなく完成。
「偉大なる水の精霊達よ。その理を今、一つと成さん!!」
──ヒュゥゥゥゥゥ
 さらにイリア・アドミナル(ea2564)の魔法も続いて完成。
「不浄なる者に、水と精霊の怒りを!!」
──シュゥゥゥゥゥゥゥ
 大気が徐々に集りつつある。
 ゼルスの魔法もそののち完成。
「い出よ、大いなる風の加護!!」
 そして3人の魔法がほぼ同時に発動。
 眼の前に集っていたズゥンビ達に向かい、ミラファとイリアの掌から吹雪が襲いかかっていく。
『合体魔法、氷河時代(アイスエイジ)!!』
 その3人の叫びと同時に、ズゥンビ達に襲いかかった吹雪は、ゼルスの発動したトルネードにより、ズゥンビ達と共に空へと昇っていく。
 半径3mの吹雪の円柱。
 そしてそれが収まった時、ズゥンビ達は烈しく大地に叩きつけられる。
 厳密には合体魔法ではない。
 複数の魔法を範囲内の対象に発動させただけである。複数の精霊の理を一つと為す技は、まだ知られていない。
 それでも、この『アイスエイジ』は、ズゥンビ達には効果覿面であった。
「‥‥」
 そしてルイスは静かにズゥンビに向かい切り付けた。
 彼の後ろの少女は、静かに横たわり、胸の上で手を組んでいた。
 もう、その笑顔を見る事は無い。
 少女にとって、今まで生きていた時間は幸せだったのであろう。
 それが、このような形で、無慈悲に奪われていったことに、ルイスは怒りをあらわにした。
 沈着冷静なルイスの攻撃は、激しいまでの怒りに囚われている。
 次々と襲いかかるズゥンビ達に、一行はただ戦いつづけていた。

──そして
 鋭い爪が、ルイスの肩口に突き刺さる。
 全てのアンデットを始末した後、ルイス達は少女の亡骸を大地に戻そうとしていた。
 が、その少女の亡骸も又、負の力により束縛を受けてしまった。
 血が肩から流れ落ちる。
「ルイス!!」
 京太郎が刀を引き抜くが、それをルイスは手で制した。
「ごめんなさい‥‥助けてあげたかったのです‥‥」
 そう呟くと、ルイスは自身の手で少女の首を飛ばした‥‥。

 ズゥンビは感染しない。
 ズゥンビに殺された者がズゥンビとして蘇ることはありえない。
 ならば何故?
 この村の人々は死んだのちズゥンビとなる?

 全ての鍵は、『嘆きの塔』にあると、ゼルスは読んだ。


●教会籠城戦〜いつまで?〜
──教会
 ベースキャンプでの報告によると、この教会に生存者達が籠城している筈である。
 一行は、教会の付近をうろうろとしているズゥンビ達を次々と粉砕していくと、なんとか教会へとたどり着く。
 間もなく夜の帳が降りてくる。
 そうなると、ズゥンビ達はさらに活発になると読んだ一行は、この教会をベースとして戦いを行なおうと考えていたようである。
──ゴンゴン
 扉を叩く音が内部に響く。
 時折、内部から声を潜めても響く泣き声が聞こえてくる。
「大丈夫です。私達はギルドの依頼でやってきました」
 ミラファが扉越しにそう話し掛ける。
「周囲には、今のところズゥンビはいません。私達を中に入れてください」
 さらにイリアが声を掛けた時、扉の向うの閂(かんぬき)が引き抜かれる音が聞こえてきた。
──ガチャッ
 と、扉が少し開けられる。
「急いで中に入ってください!!」
 一人の女性が冒険者達にそう促す。
 そして一行は、教会の中に入っていった。

 石造りの小さな教会。
 窓はあったものの、そこには椅子やテーブルが立てかけられ、さらに様々な物品で内部に侵入してこないようにバリケードを作ってあった。
 中には、数名の子供達と20歳前後の女性が一人、そして老人が一人だけ。
 疲れているのか、老人はじっと座って動かない。
 さらに女性は妊娠しているらしく、大きなお腹を押さえて静かに座っていた。
「生き残っているのはこの人数だけか? 他の大人達は何処に?」
 烈が皆に問い掛ける。
 と、座っていた老人が、静かに口を開いた。
「助けを求めに、ここから走って行った者が何人もおった。だが、誰一人として、ここに戻っては来ていない‥‥」
 途中でアンデット達に囚われ、無残な姿となってしまったのであろうか?
 その老人の言葉の後、子供達がシクシクと泣き始めてしまう。
「もう大丈夫です。私達が、皆さんをたすけてあげますから」
 ルイスが笑顔でそう告げる。
 その言葉と表情に安心したのか、子供達は静かに眠りはじめた。
「さて、とりあえずは体勢を整える事から始めるとしますか?」
 フィーが一行にそう話し掛ける。
「そうだな。取り敢えずは腹ごしらえ、そしてこれからの事を考えていくか」
 グランがそう呟きながら、どっかりと腰を降ろして一休み。
 そして一行は、食事を取りつつ次の作戦についての詳細を打ち合わせていたのだが‥‥。


●ハプニング+バットタイミング=?
──教会内部
 詳細についての打ち合わせも終り、一行が次の作戦の為に少し休んでいた時。
「大丈夫ですか? 酷い汗ですよ‥‥」
 妊婦が辛そうにしているのを見て、ミルファがそう問い掛けた。
 だが、女性はそのままじっとしている。
 痛みに震え、拳を力強く握っている。
 そしてミラファは気が付いた。
「イリアさん、手伝ってください!! 男の方は少し離れていて!!」
 その突然のミラファの言葉に、一行は唖然とする。
 が、イリアは直にミラファの言っていた事を理解した。
 そして急いでもちまえの『雑学知識』で現状を把握すると、兎に角女性の元に走っていく。
「何です? 何が起こったのですか?」
 マリウスがそう告げながら近づこうとした時、ゼルスがマリウスの肩を掴んで静止する。
 そしてゆっくりと、イリア達の方に声を掛けた。
「大量のお湯と‥‥それと綺麗な布ですね。そこのチビっこ達は、毛布を持って彼女の周りで囲いを作ってあげてください。殿方はお湯の準備を!! お爺さんも手伝ってくださいね」
 そのゼルスの言葉で、一行はようやく理解した。

 Birth‥‥誕生である。

「イリアさん、出産に立ち会ったことは?」
「無いのです。昔おばあちゃんが話していたのを聞いていただけですけれど。ミラファさんは?」
「私も聞きかじり程度です‥‥」
 知識としてはあるものの、実際に子供を取り上げるという行動は初めてである。
 でも、今は二人がやらなくてはならなかった。
 そして教会の隅ではお湯の準備が出来上がった。
 だが、教会の中にある厨房の水瓶程度では、明らかに足りない。
「外の井戸まで25m。汲みに行く間、護衛としてここに残る奴と、直接汲みに行っている者を護衛する奴の二つのチーム編成が必要か‥‥」
 烈が冷静にそう告げたとき。
──ガガガガカガッッッッ
 突然、教会の扉を烈しく引っかく音が響く。
「きやがったか‥‥最悪な状態の時に‥‥」
「彼女達の護衛に付きます!!」
 レナンが剣を引き抜き身構える。そしてフィーもマントとダガーを用意すると、毛布の手前で彼女達をガード。
「時間が掛かりそうですか?」
 そのフィーの言葉に、イリアが静かにこう告げた。
「どうしよう、双子なの‥‥」
 
──ドッゴォォォォォン
 激しい音と同時に、扉の閂が落ちる。
「誰が外した!!」
 烈が急いで閂を拾い上げた瞬間、その手に激痛が走る。
「なんだ? 何が起こった」
 すぐさま閂を投げるが、今度はその閂がフワリと宙に浮かび上がり、ぐるぐると回りはじめた。
 さらに扉が開かれると、2体のアンデットがユラリを姿を現わす。
 大きく開かれた口。
 ズラリと並んだ牙が、キチキチと音を立ててぶつかりあう。
「来やがったな‥‥グールだ、気を付けろ!!」
 京太郎の言葉に、一行は全力を持って阻止開始。
 この僅かの時間にも出産は続いている為、イリアとミラファは戦闘には参加不可能。
 ゼルスは1度子供達を教会奥に移動。
 そして子供達の手前で素早く振り向くと、最終防衛ラインとして詠唱開始。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ」
 烈は牽制とばかりに閂に向かって拳3連。
──スカスカスカァァァァァァン
 だが、閂は中空に浮かんでフワフワとその鋭い突きを全て躱わした。
「まさか‥‥ポルターガイスト?」
 レナンが武器を構えそう叫ぶ。
 そして素早く閂に向かって剣を叩き込む。
──ドゴッ
 その一撃は命中したものの、閂に傷が入った程度。レナンの脳裏に浮かんだポルターガイストならば、ダメージを受けてはいない。
「そいつは何者です!!」
 ルイスが目の前のグールに向かって一撃を叩き込みながら叫ぶ。
「銀の武器か魔法しか効かない上位アンデット‥‥やばい香りがする‥‥」
「了解!!」
 レナンがそう告げると、マリウスは素早くオーラを練りはじめた。
 さらに京太郎はもう一体のグールの前に出ると、素早く2連撃を叩き込んだ。
──ドシュドシュッ
 その2撃を真面に受けるグール。
 グランはレナンのサポート。
 すかさず全身の筋肉に血流が注がれる。
 パンプアップする筋肉が、力を集めはじめる。
 振りかざしたロングソードが、風を斬り唸りを上げてグールに叩き込まれた。
──ドゴドゴォォォォン
 吹き飛ぶグール。
 かなりの手傷を負わせているが、グールはゆっくりと立上がると、再びカチカチと牙を震わせる。
「今更ながらこんな時、神聖魔法が使えないことが悔しく思えるよ」
 フィーははそう呟くと、閂がこちらに飛んで来ないか警戒。
──ヒュゥゥゥゥゥゥ
 風がゼルスの回りに集る。
 静かに紡がれた口からは、それらを一つの力へと導く。
 淡い緑に輝くゼルス、そしてその手からは、真空の刃が飛ぶ!!
「ウインドスラッシュ!!」
──スパァァァン
 閂に直撃するウィンドスラッシュ。
 それは閂と同時に、それに憑依していたらしいポルターガイストをも切り付ける。
 だが、痛みを感じないアンデットは引く事もない。
 閂はゼルスの魔法には目もくれず、烈に向かって体当たり。
──ドゴッ、スカァッ
 一撃目は命中するが、2撃目はうまく躱わす。
 だが、その命中の瞬間に劇痛が走る。
「チッ‥‥」
 グールは目の前のグランに向かい攻撃。
 鋭い牙を突きたてるように、グランに向かって襲いかかる。
──スカァン‥‥ドッゴォォォォォン
 その牙の一撃を躱わすと、そのまま反動を力として力強い必殺の一撃を叩き込むグラン。
 これでグールは身体半分ズタズタ。
 それでも襲いかかっていくが、またしてもグランのカウンターアタックが襲いかかる。
──ドッゴォォォォォン
 崩れはじめるグール。
 だが、まだ戦いを続けたいらしく、牙をカチカチと鳴らす。
「正に化け物だな‥‥」
 その横では、もう一体のグールが京太郎に襲いかかった。
──ガキィィィン、ガブッ!!
 一撃目を刀で弾くが、二撃目はそれよりも早い速度で京太郎の腕に噛付く。
 突き刺さる牙が骨まで到達し、劇痛が走る。
「‥‥烈さん!!」
 烈の背後でオーラパワーを発動させるマリウス。
 そのまま烈の拳に付けているナックルにオーラパワーを付与すると、マリウスは再びオーラを煉りはじめる。
「ありがてぇ!! それなら行かせて貰うぜ!!」
 素早く大地を蹴り上げると、その反動で身体を限界までねじり上げる烈。
 そしてそれが戻るタイミングで、自身の技を最大限に発揮する。
「砕け散れ!! ニャオ・ジャオ・ジィ」
──ドッゴォォォォォン
 その激しいまでの一撃を受ける閂。
 亀裂が入り、後方に吹き飛んでいく。

 そして流れはここで変わった。
 次々とグール達に攻撃を仕掛けていく冒険者一行。
 マリウスのオーラとゼルスの魔法により、数分後には閂もグールも完全に動きを止めた。
 そしてその直後、扉の外では教会に向かってゆっくりと歩いてくるズゥンビ達の姿が見えてくる‥‥。


●朝〜新しい誕生〜
──教会内部
「‥‥可愛いですねぇ」
「そうですね‥‥」
 疲労困憊のミラファとイリア。
 二人の手伝いにより、早朝、双子の女の子が生まれてきた。
 教会前方では、すでに戦いどおしで限界に達していた一行が崩れるように壁に凭れかけて座っている。
 そのさらに前方では、大量のズゥンビの死体が転がっていた。
「ハァハァハァ‥‥何体戦った?」
「さあな。ズゥンビだけでも30ぐらいだろ? 」
 烈とグランがそんなことを呟く。
 ゼルスは周囲にアンデットの姿が無い事を確認すると、子供達を屋外に連れ出した。
 実に、子供達にとっては一週間ぶりの光である。
「‥‥もう、この村にはアンデットはいない」
 見回りから戻ったルイスと京太郎、マリウス、レナンの4名が残って身体を休めている一行にそう告げる。
 実に、アンデットに襲われてから10日目の朝の事であった。


●そして〜帰り道にちょっと寄り道〜
──嘆きの塔
 全ての元凶である『嘆きの塔』。
 その場所にやって来た一行は、目の前の信じられない光景に愕然とした。
 塔の正面にある『封印されし扉』。
 ルイスの知る限りでは、その扉は古城の地下迷宮に作られた各階層を繋ぐ階段に作られているそれと同じものである。
 故に、扉の内部である塔からは触れる事も叶わない。
 しかも、この扉は外部からも封印処理が施されていたらしく、普通の人間では開ける事もできないであろう。
 その扉が、真っ二つに切断されていた。
 バーストアタックなら砕け散るところであろう扉は、綺麗に真っ二つになっていたのである。
「この塔といい、アンデットといい、一体この領地はどうなっているんだ?」
 レナンの呟きに、ルイスが静かに口を開く。
「実は、この領地には様々な伝説がありまして‥‥」
 古城の地下迷宮掃除をしていたときに領主から聞いた物語を説明するルイス。
 そして烈とゼルスは、切断された扉をみて驚愕している。
「この切り口‥‥まさか奴等か?」
 烈の言葉に、ゼルスも肯く。
「またシルバーホークですね。彼等は何を目的としているのでしょうか?」
 自身に問い掛けるようにそう告げるゼルス。
 そして塔内部にアンデットが残っていない事を確認すると、一行は領主の元へと向かっていった。

──帰りの道中・南ノルマン地方領主の元へ
 一行は、無事に村人の殲滅をした事を領主の元に向かい報告した。
「今回の依頼で、村は壊滅。生き残った人々はどうなるのですか?」
 そのイリアの問いには、領主は彼の領内で引越しして貰う事となると告げた。
 当然、今回の失態がどこにあるのか調査した上で、それを行った者に対してはジーザス教会へと突き出すという約束をしてくれた。
 その言葉を聞くと、一行はやるせない気持ちのままパリへと戻っていった。
 ただ、最後にあの戦いの中で生まれた子供の笑顔が、一行の荒れつつある気持ちを穏やかにしてくれた。


〜Fin