お嬢様包囲網作戦〜富雄とジュリエッタ〜
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■ショートシナリオ
担当:久条巧
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 43 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月09日〜10月19日
リプレイ公開日:2004年10月12日
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●オープニング
──事件の冒頭
「娘を説得して欲しい!!」
冒険者ギルドの隅々まで響く声で、依頼者は叫んでいた。
「は、はぁ‥‥これは南ノルマンの地方領主殿。今回は娘さんの説得ですか?」
「ああ。これは失礼」
コホンと咳払いしつつ、御存知南ノルマン好事家領主は呼吸を整えると、ゆっくりと口を開いた。
「実は‥‥」
さて、それではかいつまんで説明しよう。
彼の娘が、ある男に恋をした。
親の目を盗んでの忍ぶ恋。
それはいつしか彼の耳にも届くのだが。
相手を知った瞬間、領主殿は猛反対。
いくら説得しても聞き入れてくれない娘は、とうとうその相手と手と手を取り合って駆け落ちという事になってしまったらしい。
(あららららら‥‥また、たむろしている冒険者さんの反感を買いそうな依頼ですこと)
受付嬢の意見もごもっとも。
つい最近、『娘を、冒険者なんてヤクザな職業にさせるわけにはいかん!!』とカウンター越しに叫んだ依頼人もいたのである。
冒険者という生活設計のはっきりしていない輩に、娘を幸せに出来る筈が無いとでも言うのであろう。
なにぶん、今回の説得相手である娘さんの父は『南ノルマンの地方領主』。この前と同じ依頼かと、受付嬢は頭を抱えた。
「よいか、儂は、自分の娘は立派な冒険者と一緒になり、手と手を取り合って、襲いかかる運命と戦うような生き方をして欲しいのだ。それを、なりあがり商人の跡取り息子と結婚だぁ? ふざけるのもいい加減にしろと、わしは娘に小一時間‥‥」
はぁ?
「えーーっと。娘さんのお相手は?」
「ほれ、『ノルマン江戸村』だとかいう変な村を作っている商人。あいつの跡取り息子だ」
ああ、あの成り上がり商人さんですか。
「ふん。変な村で悪かったな。依頼を頼むで。この胡散臭い成り上がり領主の娘に、うちの大事な跡取り息子が連れ去られてしもうたんじゃ。なんとか助け出して欲しいんやが‥‥」
ここで噂の商人登場。
話は更にややこしくなり‥‥。
「あー。貴様のような金儲けしか頭に無い奴の所に、大切な一人娘をくれてやることはできんわい!!」
「それはこっちのセリフや。週に1度は人の家の外にやってきては、『おお、富雄、貴方は何故富雄なの‥‥』とか叫んでいるし、なんや、うちの息子の名前にケチつけとんのか? しばくでほんま!!」
「はぁ?」
「はぁぁ?」
ああ、これは喧嘩になりそうだ。
そこで受付嬢が間に入る。
「判りました。御二方の依頼、一つの依頼として同時に受けさせていただきます」
──そして
ああはいったものの、受付嬢は困った。
依頼報酬は、二つの依頼を一つに纏めたのでとんでもない金額になったが、男女の話に両親が絡むともうややこしい。
「えーーーいっ。これでどうだぁ」
サラサラッと依頼書を書き上げると、掲示板に張付けた。
●掲示板捕捉
追加調査により、判った事実を上げておきます。
・駆け落ちを計画したのは領主の娘である『ジュリエッタ』。
・彼女は、商人の息子である『富雄』を連れ去るように、彼女個人の持つ古い屋敷に逃げていったとの事
・ついでに、富雄の使用人も数名連れていったらしい
・ふたりは、そこで質素で慎ましく住み、説得に来た両親には、武力的排除を行なっているとの事
・敵戦力は、使用人による熱湯攻撃、壊れた家具の投擲、冒険者としての訓練を行なっていたジュリエッタの突撃の3点
以上、健闘を祈ります。
●リプレイ本文
●作戦開始〜優雅な駆け落ちですこと〜
──ジュリエッタ宅
街道に面した小さな建物。
プロスト卿の娘であるジュリエットの住まう、ちいさな屋敷。
周囲は静かな草原地帯。
風がたなびくその場所に、冒険者一行はベースキャンプを設置していた。
「作戦は以下の手順で。チーム分けも同じく。あとは、各員がうまく対処すること・・・・と。しかし、困ったお嬢様です」
レジエル・グラープソン(ea2731)が、作戦の説明を行った後にそう呟く。
「全くです。愛しあう者同士が手と手を取り合って逃避行というのでしたら、まだ浪漫がありますが。最愛の人と屋敷に籠って籠城戦とは、風情も何もあったものではないですね」
手にしたカップでハーブティーを呑みながら、エドガー・パスカル(ea3040)がそう話す。
「全くだ。だが、わしは二人を説得するよりは、両親のほうを何とかしたほうがいいと思うのだがなぁ・・・・」
愛用のウォーアックスの手入れをしながら、ローシュ・フラーム(ea3446)がそう告げる。
「まあ、それもそうなのだが。両親は今回の依頼人。依頼人を説得という訳にもいかないだろう? とりあえずは、ふんわかといきましょう。ふんわかと。自分達だけで何とかというのなら納得もいくのだがな」
ホメロス・フレキ(ea4263)がエドガーの言葉をフォローする。
「でも、二人の気持ちも本物でしょうから、説得も難しいでしょうねぇ」
ダージ・フレール(ea4791)が静かに呟く。
「ダージの言い分も判るけれど、駆け落ちっていうのはこんなに身近でやるものなのか?
しかも、使用人をゾロゾロと引き連れて」
買って来たおやつを食べながら、ニュイ・ブランシュ(ea5947)がダージに問い掛ける。
ちなみにニュイ、酒場で魔術師の先生が言っていましたよ。おやつは10Cまで、家に帰るまでが冒険ですのでって。
「ここは、この私が!!」
バッと立ち上がり上着を脱ぐと、鍛え上げられた筋肉美を披露し、ポージングするサイラス・ビントゥ(ea6044)。
「我がインドゥーラ黒派仏教『カツドン宗』の僧侶として、二人を無事に説得して見せよう!!」
キラーンと輝く筋肉。
『ああ、そうですねぇ・・・・』
一同は同時にそう呟いた。
●作戦開始〜裏切ったのかメイド達!!〜
──屋敷正面
「私は何があっても富雄と幸せになるのです!! お父様達にそう伝えてください!!」
ベランダから姿を出し、その手にロングソードとミドルシールドを構えたジュリエッタがそう叫ぶ。
かなり鍛えていたのであろう、綺麗なその構えには、一切の無駄を感じられない。
「ジュリエッタさん、こんな近場で駆け落ちとは・・・・。親を説得するのが筋ではないでしょうか!!」
それは陽動部隊のエドガー。
侵入部隊の行動を気付かれないように、大きな声でそう叫ぶ。
「説得できたら、こんなことはしていませんわ!! 私は、御兄様や御姉様達の姿をずっと見てきました。冒険者となって共に手を取りあってなんて、この私には考えられませんわ!! 私は、ケーキを焼いて大切な旦那様をお家で待っている時間を楽しみたいのです。大切な人に何かをしてあげたいのです。愛するもののために剣を振るうなんて、私には考えられませんわ!!」
そのまま近くにある花瓶を威嚇で投げまくるジュリエッタ。
「・・・・言っている事とやっている事が噛み合っていない。無茶苦茶だな・・・・」
ローシュはヘビーシールドを大地に突きたてると、その影でそう呟いた。
「さてと・・・・親から貰った財産で駆け落ちごっこをしているお嬢様とお坊ちゃんを、連れ戻しに来ましたー! 使用人のみなさーんっ!! わたし達、双方のご両親からそれぞれ連れ戻すよう依頼を受けてきてるので、サクっと引き渡しちゃったりなんかしてくださーいっ!!」
リセット・マーベリック(ea7400)が正面からそう叫ぶ。
「駆け落ちごっこですってぇぇぇ。皆さん、やつてしまいなさい!!」
お嬢様の要請で、侍女達はバケツに汲んできたお湯を空からぶちまける。
──ザーーーーーッ
それを真面に受ける事には行かない為、一行はお湯の届かない所まで退避。
「仕方がないですな!!」
サイラスはそう呟くと素早くベランダの下に飛込む。
そして正面入り口に向かうと、扉を激しく叩いた!!
「富雄殿、ジュリエッタ殿。早々にご両親の元に帰るのだ!! 父上が心配しているぞ! 使用人殿もこんな馬鹿げた茶番をやめて、出てきたらどうだ!」
だが、ジュリエッタは聞く耳もたずにな、ベランダから移動した模様。
使用人は上でオロオロとしているが、反応なし。
「仕方あるまい。我がビンドゥ家に代々伝わる説得術、特とご覧に見せよう!!」
バッと上着を脱ぐと、そのまま全身の筋肉を膨張させる。
──ムン!!
ドッゴォォォォンと力一杯扉を殴りつけるサイラス。
その衝撃で、扉は蝶番が壊れて吹き飛ぶ。
そしてその正面では、ジュリエッタが楯を構えて立っていた。
「どうしても私達に帰って欲しいのなら、正々堂々と勝負ですわ!!」
おっと、いきなりタイマンモードに突入!!
●裏口〜貴方たちはどっちの味方だね?〜
──屋敷裏にて
屋敷内部に潜入し、富雄の身柄を確保する為にダージとニュイ、レジエルの3名は裏口にやってきていた。
(うまく陽動を続けてください・・・・)
レジエルがそう心の中で呟きながら、あらかじめ下見をしておいた裏口に近づいていく。
そして、ニュイがインフラヴィジョンで内部を調査しようとしたとき。
──ガチャッ
いきなり扉が開く。
そして中から、一人の侍女が出てきた。
手には箒とチリトリ、裏庭の掃除という雰囲気である。
「あら、お客様?」
キョトンとした表情でそう呟く侍女。
「ここに囚われている富雄殿に会いたい」
開き直って、間髪いれずにそう告げるニュイ。
「あらあら、それはご苦労様ですわ。こちらにどうぞ」
そう言いながら、侍女は3人を屋敷の中に案内した。
そしてそのままダイニングルームに通すと、そこでハーブティーを入れはじめる。
「あのー。富雄さんは何処ですか?」
席に付いたままダージが問い掛ける。
「あら、今来ましたわ」
その侍女の言葉の後、扉の向うから着物を来た男性が姿を表わす。
そして一行の顔を見ると、深々と頭を下げた。
「この度はご迷惑を御掛けして申し訳ありません・・・・」
「全くです。こんな騒動を起こして。駆け落ちという選択肢は最後の手段だと思います。もっと他にやることがあったのではないですか?」
レジエルの言葉に、富雄は静かに肯いた。
「貴方のおっしゃるとおりです。本当は、ここにジュリエッタと私の親が来てくれたら良かったのですよ。最後にもう一度、直接話し合いに持っていくはずだったのですから。それなのに、いきなり冒険者に話を纏めさせるというのは、中々考えてきましたね・・・・」
腕を組んで考える富雄。
「一つ尋ねさせて貰う。富雄は、今のこの現状を満足しているのか? 地位も名誉も捨てて、大切な女性と共に生きていくという決意はあるのか?」
そのニュイの言葉に、富雄は力強く返答した。
「当たり前です。彼女と共に生きていくのなら本望。戦って彼女を護れといわれると、腕っ節には自信がありません。けれど、私には知識がある。全てを補っていく自信はあります!!」
ほう。
どこぞの青年に聞かせてやりたいわ。
「ならば、このままでという事は難しいか。外のお嬢様を止めて、そしてもう一度両親との話し合いを行なってみるというのが正しい道か・・・・」
レジエルがそう纏める。
「なら、ジュリエッタを止めて欲しいのですけれど・・・・」
そのダージの言葉に、富雄は頭を左右に振る。
「血が昇ってしまった彼女を止めるには、時間が必要ですよ。まあ、魔法か何かで止めてしまうのが早いですけれど・・・・その後のフォローは私がしましょう」
それで話し合いは終った。
●一騎打ち〜時間稼ぎ〜
──ガギィィィィィン
激しいジュリエッタの打ち込みが、ローシュの楯にブチ当たる。
「またバーストアタックか!! その程度の打ち込みでは、このわしの楯を破壊する事などできんわ!!」
あっさりとその一撃を受け流すと、ローシュはひたすら受けに徹していた。
もしジュリエッタの技量がもう少し上であったなら、彼女のスマッシュEX+バーストアタックによりローシュの武具は粉砕されていたであろう。
だが、彼女がスマッシュを打ちこむ瞬間の癖を、ローシュはあっさりと見破ってしまった。
あとは、ひたすら彼女に打ちこませているだけにすぎない。
「まだ!! 富雄と一緒になるんだから、こんなところで私は負けるわけにはいかないのよ!!」
──ガギィィィィン
激しい戦いが続く中、ホメロスは近くの椅子に座って、すでにナンパして虜にした侍女からハーブティーを受け取っている。
「やれやれ。困ったお嬢さんです。この戦いで、自分の実力というものを知っていただく事にしましょう」
「でもねぇ。中々粘り強いんだよねぇ・・・・」
しっかりとホメロスの横でハーブティーを戴いているのはリセット。
最初はお嬢様を煽りまくっていたのだが、やがてお嬢様が戦闘にのめりこみ、聞く耳を持たなくなってしまったのでティータイムに突入していた。
──ガチャッ
と、奥の扉が静かに開く。
そしてそこからは、侵入部隊の3名と富雄が姿を現わした。
「無事に富雄を捕まえたのですね」
エドガーがそう告げながら3人の所に駆け寄る。
そしてローシュ以外のメンバー達は、富雄からさっきの話をもう一度聞かされた。
「ふむ。ならば、これ以上の戦いは無用!!」
サイラスが二人の間に飛込む。
その行為に驚いたのか、ジュリエッタは剣をサイラスに当たる直前で止める。
「ああああ、サイラスさん、危ないってば!!」
「大丈夫。我がビンドゥ家に伝わる説得術を持ってすれば、刃の一撃程度・・・・」
エドガーの叫びに、にこりと微笑みそう告げるサイラス。。
それは痛いと思うぞ。
「ジュリエッタ・・・・一度家に戻ろう。両親をもう一度説得するんだ。そして晴れて認めさせよう。これ以上冒険者さん達にご迷惑をかけてはいけないよ」
そう説得する富雄。
「でも・・・・」
まさか富雄にそんな事を言われるとは、ジュリエッタも思っていなかったのであろう。
「ジュリエッタさん。二人が本当に愛し合っていて添い遂げたいのなら、その思い両親に伝え了解を得るべきです。それに、貴方の様にに美しい女性には、武器なんて似合わないですよ・・・そう・・・・あなたには花が似合いますよ」
ニッコリと微笑みながらそう告げるのはホメロス。
いよっ、女殺し!!
「彼女の父は冒険者を婿にしたいと考えている。冒険者になって名をあげては?」
エドガーが富雄にそう告げる。
「わ、私が冒険者ですか? 私は戦いとかはからっきし駄目ですよ・・・・」
その言葉に動揺する富雄だが、ダージが一つ提案をしてみる。
「いっそ、他国に渡ってみるというのは? 全く知らない国なら、二人で一から頑張らないとならないし、それこそ襲いかかる運命っていう奴と対峙できるでしょう? 商人の才覚のある富雄さんの知恵と、冒険者としての実力を持つジュリエッタさんの力があれば、なんとかなりそうだしねぇ。他国で頑張っている事を定期的に報告したら、そのうち両親も認めてくれるんじゃないかな?」
両者が両親に認められる方法。
ダージなりに考えては見たが、この方法しか思い付かない。
「成る程な。国内ではなく、他国への駆け落ちか。本気ならば、それぐらいやってみるのもいいかも知れないか・・・・」
ニュイがそう呟く。
そしてある程度話が纏まったとき、サイラスが二人に対して静かに口を開く。
「頑張りなさい。貴殿達は貴重な体験をする事が出来たのだ。自由に恋愛できるこの国に生まれてきた事を誇りに思うべきなのである。身分の違いがあっても駆け落ちできる自由がある。故郷では考えられぬことだ・・・・」
サイラスの故郷はインドゥーラ。
厳しい身分制度により、婚姻はもちろんのこと、身分の違う者とは友人付き合いすらままならぬ国である。
「サイラスさん、ありがとうございます・・・・」
富雄は静かにサイラスにそう告げると、ゆっくりと其の場にひざまづいた。
そしてゆっくりと頭を下げると、サイラスの右足を3度、ゆっくりと右手で触れる。
そしてジュリエッタもそれに習い、真似をしようとするが、直に思いとどまった。
「おお・・・・富雄殿、インドゥーラの礼節を御知りのようで!!」
「私は商人です。全ての国についての理解を深めなくてはなりませんから」
そう告げてから、ゆっくりと頭を上げる。
「インドゥーラは、私のような者は触れては行けないのでしたね・・・・」
ジュリエッタの様な者。
その身に動物の皮で作られたもの(レザーアーマー)を身に付けているというのは、宗教上、不浄な存在である。
ジュリエッタも富雄に習い、他国について学んでいたのであろう。
「そこまで出来るのなら、もう止める必要は無いでしょう。まっ、本気で一緒になる気なら、一度や二度連れ戻されたくらいでは諦めず、最終的にはうまくいくよ」
リセットが静かにそう告げる。
そして一行は無事に二人を親許へと帰していった・・・・。
●後日談〜なるほど・・・・〜
さて、この物語には後日談があります。
二人は無事に実家に戻りました。
富雄さんは、今回の体験を元に、『ノルマン江戸村』に新しい施設を作る事を提案、他国や冒険者について学ぶ場所を作りたいという事で『冒険者訓練所』なるものを設立、他国について学んでくる事を親から認めてもらい、ジュリエッタと共に、他国へと旅立ちました。
そして。
──あの屋敷にて
「・・・・どうやら、屋敷には被害はなかったのだな」
ジュリエッタの父であるプロスト卿が、屋敷を訪れていた。
「はい。ですが、入り口の扉は破壊されてしまいまして・・・・」
「いやいや、戦士が突破していったのでしたら、これも納得です」
「いえ・・・・実は、インドゥーラの僧侶さんが破壊しまして・・・・」
「僧侶が破壊だと? インドゥーラの僧侶は、そんな事までできるのか!!」
以後、プロスト卿はインドゥーラの僧侶を『破壊僧』と呼ぶようになったとか・・・・。
〜Fin