『いい女はいないか?』

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月11日〜10月16日

リプレイ公開日:2004年10月13日

●オープニング

──事件の冒頭
 それはとある夕方。
 新人受付嬢は、真っ白く燃え尽きてしまった。
 その横では、いつもの『薄幸の受付嬢』が、一人の依頼人と楽しそうに話をしていた。
 
 さて、それでは何が起こったのか説明しよう。
 其の日の夕方、新人受付嬢は入り口から入って来た依頼人に恋をした。
『あら‥‥素敵な殿方。金髪にショートカット、端正なお顔。身体も引き締まっているみたいですから、冒険者さんかしら? こんな殿方と一緒になれれば‥‥』
 まだ夢見がちな16歳。
 新しく受け付け勤務になった新人さんは、そんな想いを馳せながら、依頼人が自分のカウンターにやってくる事を期待していた。
『私の所に来て‥‥どうしよう。そのまま告白されちゃったりしたら。『貴方のような女性を探していました。結婚してください』なんて‥‥キャッ、そんな事になったらどうしよう。きっとこの方は貴族さんなのかも。そして私を幸せに導いてくれるに違いないわ。でも、そんな事になったら‥‥』
 この間の妄想時間、僅か1秒!!
 高速詠唱よりも早いかもしれない。
 そして依頼人は彼女の前に立つと、にっこりと微笑んだ。
『ああ。ついに決定的瞬間。天国のお父さんお母さん。わたしは幸せになりますから見守っていてくださいね‥‥』
 そして依頼人の方を見つめた瞬間、こんな一言が飛んできた。

「いい女はいないか?」

 彼女に対してのその言葉。
 つまり、彼女は眼中ではないと。
 其の日、新人さんの225回目の初恋は幕を閉じた。
 その間、僅か1分。
 まさに儚い。

 さて、話を戻そう。
「つまり、ダンスパーティーのパートナーをお探しですか?」
 薄幸の受付嬢は、静かにそう告げると、依頼書をさらさらと書きはじめた。
「ええ。出来れば、他にも一緒に参加していただける方を。私が受け取った招待状で4組8名まで参加できますので」

 さて、それでは本当の依頼について説明しよう。
 依頼人は名高くない貴族の息子。
 今回、パリ郊外のとある貴族邱にてダンスパーティーが開かれる事になったらしい。
 そこには様々な分野の人たちが多く集り、そこで自分の顔を覚えて貰いたいと思ったのだが。
 この貴族の息子、実は彼女なし。
 容姿端麗文武共に秀でているのであるが、何故か彼女なし。
 そのため、冒険者ギルドにやってきたという。

「一つ聞いていいですか? 依頼書には男女合わせて7名と書かせていただきますが、もし男性ばかり集った場合とか、男女比率が合わなかった場合はどうするのですか?」
 確かにありえる話。
「女性は最優先で私のパートナーを。残りの方は、まあ変装でもしてうまくやって下さい」
 それだけを告げると、依頼人はそのままギルドを後にした。
 カツカツと新人の目の前を通り過ぎていく依頼人。
「ああ‥‥私の王子様‥‥私を捨てないで‥‥」
 そんな彼女の背後では、新人を励ますような声が聞こえてくる。
「新人さーん。南無南無ですー」
 南無南無ってあんた達。
「うう‥‥南無ありぃ〜」

●今回の参加者

 ea1045 ミラファ・エリアス(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea2789 レナン・ハルヴァード(31歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea2843 ルフィスリーザ・カティア(20歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea3260 ウォルター・ヘイワード(29歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea4136 シャルロッテ・フォン・クルス(22歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea4582 ヴィーヴィル・アイゼン(25歳・♀・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 ea5601 城戸 烽火(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●ということで〜彼女の出来ない理由〜
──依頼人の屋敷
 パーティー当日まで、一行は依頼人であるジャンの屋敷に招待されていた。
 パーティ当日の為に、会場を下見に出かけたり、ダンスの練習も兼ねて、一行は当日までの4日間をこの屋敷で貴族生活、つまり『贅沢の限り』をつくして生活していた。
「ジャン様ですか? 仕事もできますし優しい御方ですよ」
「休日には、近くの森まで乗馬がてらに散策していますし、多趣味な方ですわ」
「いくつも縁談は来ていましたけれど。でも、どれもうまく行かないのです」
「昨年は泥棒が屋敷に侵入しまして。ですが、ジャン様がすぐに退治してくれましたわ」
 ルフィスリーザ・カティア(ea2843)は、屋敷の中で働いている使用人達に、ジャンの人となりについて色々と訪ねていた。
「・・・・聞けば聞くほど、素晴らしい方ですわ。あの受付嬢さんが一目惚れするのも無理はありませんね・・・・」
 聞いた話を纏めながら、ルフィスリーザは、屋敷のバルコニーでのどかなティータイム。一つの詩歌を作っていた。
 確かに、普通に聞いてたら『腹が立つ』ぐらいに良くできている人物。
 でも、縁談は全て失敗。
 恋人の噂も出てこない。

「いい風が流れてきますね」
「あら、調子はどうですか?」
 そう言いながら、正面の席に座るのは城戸烽火(ea5601)とシャルロッテ・フォン・クルス(ea4136)。
 つい先程、ダンスパーティーの会場の下見を終えて、出席者の名簿を写し終えたばかりの二人である。
「今の所は良いですね。歌のイメージも固まりましたわ。シャルロッテさんの方は如何ですか?」
 そう問い掛けるルフィスリーザ。
 使用人の一人が入れてくれたハーブティーを静かに口の中に流し込むと、焼きたてのクッキーを一口噛り、一息つくシャルロッテ。
「凄く広い会場でしたわ。すぐ外ではガーデンパーティーの準備も行っていましたし。楽団の方たちがリハーサルを行っていましたわ」
 そのまま名簿に目を通すシャルロッテ。
「列席される方々も、かなりの名士の方たちばかり・・・・。商人ギルドの偉い方々や各地の地方領主さん、その娘さん達。兎に角、大勢の方々がいらっしゃりますわね」
 烽火もルフィスリーザにそう説明する。
 シャルロッテはそのまま名簿をルフィスリーザに手渡すと、静かな時間を満喫しはじめた。
 そして烽火は広間で行なっているダンスの練習に参加する為、二人に軽く挨拶をすると其の場を立ち去って行った。

──屋敷広間にて
「はい、そこでくるりと回って・・・・はい、1、2、1、2、ステップは軽やかに、はい、1、2、1、2」
 パンパンと手を叩きながら、ヴィーヴィル・アイゼン(ea4582)がダンスのコーチを行なっている。
 彼女の目の前では、ミラファとレナン、ウォルターの3名が、必死にダンスの練習を行なっていた。
「・・・・わ、私は体力に自信が・・・・」
 肩で息をしながら、ミラファ・エリアス(ea1045)がそう呟く。
 依頼人がイギリス語をマスターしているのを確認したミラファは、当日、イギリス語で依頼人との会話に挑戦。周囲の人たちに、依頼人が語学に精通している所を見せようと打ち合わせをしていた筈なのに・・・・。
「俺も・・・・戦いなら自信があるのだが・・・・と・・・・」
 ステップがうまくいかず、必死に脚さばきで間に合わせようとしているのはレナン・ハルヴァード(ea2789)。
 ちなみに彼は、依頼人の人脈に『凄腕冒険者』がいるという部分をアピールさせる作戦。
 そして万が一という事も有り、ヴィーヴィルのダンス講習会に参加させられていた。
「ここを・・・・くるっと回って・・・・と・・・・」
 午前中は図書館などで『礼儀作法』について調べていたウォルター・ヘイワード(ea3260)。
 そのまま午後からはダンス講習会に参加し、当日に恥を掻かないよう、必死に特訓を行なっている模様。
「では、とりあえず二人一組になって実際に躍ってみましょう。私はジャンさんと一緒に。あ、ちょうど烽火さんもいらっしゃったようですので、二人一組で始めましょう」
 ヴィーヴィルがそう告げながら、椅子に座ってじっと見学していたジャンに手を差し伸べる。
「一曲、よろしく御願いします」
 丁寧な口調でう告げるヴィーヴィル。
「私のような者で宜しければ、喜んで」
 そっと手を取ると、ジャンも静かに立上がりヴィーヴィルをエスコート。
(あら・・・・どうしましょう・・・・)
 ふと、自分の胸が高鳴りはじめているのに気が付いたヴィーヴィル。
「ふむ。こうですね・・・・」
 ウォルターは烽火と一緒に、ミラファはレナンと組んでの練習。
 二組の目の前では、ジャンとヴィーヴィルの二人が輝くように躍っている。
「・・・・綺麗・・・・」
 烽火も二人の踊りに目が釘付けになる。
「いいなぁ・・・・ヴィーヴィルさん・・・・」
 ミラファの口からも、溜め息が漏れる。
 そして一行は初めて、自分の気持ちが一瞬だけジャンに向いていた事に気かづいた。
「ジャンさん・・・・貴方、ひょっとて天然のナンパ師では?」
「ははは。この私がですか? もしそうでしたら、彼女が出来ずに困る事なんてありませんよ」
 そのジャンの返答で、其の場の女性たちは何故彼に彼女ができないのかを理解した。
 
 ジャンは、天然である。
 女性のアプローチを、自然体のまま、無意識にうまく受け流しているだけ。
 それでいて、一緒にいると女性を落ちつかせてしまうという雰囲気を作る才覚すらあるのだから、堪らない。
 もしこれで、彼自身が『女性にモテる』という自覚を身につけたらどうなることか・・・・。

「・・・・ジャンさん。もう少し女性について学んだほうがいいですわ。貴方は自信を身につけると、さらに成長出来ますね・・・・」
 ヴィーヴィルがジャンの耳元でそう告げる。
「成る程。では、その役目、貴方に御願いしてよろしいですか?」
 この台詞、普通の奴が話すと只のナンパ。
 でも、ジャンが静かに語ると、嫌みの無い甘い誘惑となっているところが恐い。
 どれぐらい甘いかというと。

 生まれたばかりの初孫に、初めて出会ったお爺ちゃん。

 これぐらい甘い。
 そんなこんなで、当日までは各員が出来うる限りの努力をしていた模様。
 なお、ジャンの誘惑をヴィーヴィルは気力と根性で耐えぬき、『そういう事は、貴方にとって大切な人を見付けてから教えていただいては?』と返答したらしい。
 そこからの『口から砂糖を吐き出しそうな甘い言葉』の攻勢に、周囲の一行は胸焼けするしていたとかしないとか。


●そして当日〜ま、こんなものでしょ?〜
──パーティー会場
 夜。
 大勢の招待客の中、一行は愉しい一時を過ごしていた。
 当初の打ち合わせどおり、ミラファとジャンは流暢なイギリス語での愉しい会話。
「イギリスは、その気候、樹勢植物がジャパンと少し似ています。秋の紅葉が美しいです。もみじの赤はありませんが、その代わりに、黄色、黄金色を基調とした紅葉があります。麦と、銀杏と…。今、丁度、紅葉の見頃の季節なのです。皆さんに、イギリスの紅葉をお見せしたいですね」
「そうですね。私も以前、仕事でイギリスに渡った事がありますけれど、本当に綺麗な場所ですから・・・・」
 そこに、他の貴族も加わり、其の場は花が咲いたように盛り上がっていた。

「・・・・うん、いい味付けをしている。最高の食材に、手間隙を惜しまず。ここのシェフは再興だな・・・・」
 外の立食パーティーでは、レナンが愉しい一時を過ごしていた。
 周囲の貴族達から声を掛けられ、彼は自分の体験した冒険談を静かに語る。
 その物語に引かれた者たちは、一人、また一人と彼の元にやってくる。
 もし自分に吟遊詩人の様な才覚があったら、更に盛り上げられたろうにと、レナンは少し苦笑い。

 やがて、会場が静かになる。
 そして、甘く静かな歌声が、会場に響きわたる。

♪日の祝福を両の手に
 月の優しさを魂に
 星の瞬きを瞳に宿し
 華の都に降り立つは
 未来を照らす開拓者♪

 ルフィスリーザが、楽団の許可を得て歌を披露する。
 その歌声に合わせるかのように、楽団も静かに曲を奏でる。
 そして歌が終ったとき、一部の招待客から是非自分専属の歌姫にという申し出もあったようだが、ルフィスリーザは『私はジャン様のお人柄を聴き、是非唄にしたいと思いまして・・・・申し訳ございません』と、丁寧に断りを入れていた。

「どうかなされましたか?」
 壁際で溜め息を付いている女性に声を掛けていたのはシャルロッテ。
 このようなパーティーでは付き物の『壁際の花』に、静かに声を掛けていた。
「ええ・・・・」
 そう言いながらも、その女性の視線の先にはジャンが立って、楽しそうに話をしている。
(あら、あの方もやっぱり隅に置けないようですね)
 クスッと笑いながら、シャルロッテはその女性の手を取ると、そのままジャンの元へと向かっていった。
「ジャン様。こちらの女性が、貴女と御話をしたいそうで・・・・」
 丁寧にそう告げるシャルロッテ。
「そうでしたか。それでは、あちらに参りましょう。美味しいワインと料理がありますし、何より今宵は良い月が出ています・・・・。月の精霊達も、貴方のその美しさをより輝かせてくれるでしょう・・・・」
 そのまま顔中を紅潮させている女性の手を取ると、そのままジャンは外へと歩いていった。
「ふぅ。奥手という訳ではないのですけれどねぇ・・・・」
 そう呟くと、シャルロッテは静かに会場を散策。

 やがて、楽団の準備が整うと、いよいよダンスパーティーの始まりである。
 静かな曲が会場に流れる。
 ヴィーヴィルは、壁の花となっていた貴族の娘さんと共に輪の中に入る。
 ウォルターはルフィスリーザをエスコート、静かに、そして回りの人たちの中に溶けこむように踊りを始める。
 そしてジャンは烽火と共に。
 綺麗にドレスアップされた烽火を見て、会場の紳士達は静かに声を上げている。
 そして、その烽火に対しては、もう一つ、別の視線もあった。
 それは、ジャンにエスコートされているという事実をやっかんでいる、女性達の嫉妬の視線。
(ああ・・・・この視線・・・・痛い・・・・)
 苦笑いしながら、烽火とジャンも静かにダンスの輪に入る。
 ジャンのエスコートで、烽火はなんとか踊りを続ける。
 そして一曲終り、そのままジャンと烽火は輪の中から外れていくが、直にジャンの回りには女性達が集っていく。
(さて、私の御役目はおしまいですね・・・・)
 そのまま壁に向かう烽火であるが、紳士達が彼女の元にやってきては一曲と誘う。
「ええ。私で宜しければ・・・・」
 そのまま紳士にエスコートされて、烽火は再び輪の中へ。

 そして愉しい一時が過ぎ、一行は無事に依頼を完了。
 パーティーの中で、ジャンの知名度は少しではあるが高まった模様。
 一行はそのままジャンに別れを告げると、静かにパリへと戻っていった。


●パリ〜せめて夢の中ででも〜
──冒険者酒場
「はい、ご注文の串焼きとウサギのシチュー御待たせしました。こちらはワインですね・・・・え? また古ワインですかぁ? うちとしても、そればっかり飲まれても困るのですよぉ。他の注文もおねがいします・・・・」
 忙しそうな酒場の娘さんの声を横に、一行は静かに『貴族生活』の余韻にふけっていた。
「あのような生活、毎日していたら堕落してしまいそうですね・・・・」
 ミラファが静かにそう告げる。
 それでも、日夜様々な体験をしている冒険者としては、たまにはあのような生活も悪くないと、恐らくは全員が思っていたであろう。

〜Fin