アサシン・ガール〜妹みたいな少女?〜

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月14日〜10月19日

リプレイ公開日:2004年10月17日

●オープニング

──事件の冒頭
 それはとある日の朝。
 冒険者ギルドで、修道院のシスターが新人受付嬢と話をしてた。
「つまり、その少女に対して、色々と教えてあげてほしいのですか?」
「ええ。本来ならば、それは私達が行うべきなのでしょうけれど‥‥」
 
 かいつまんで説明しよう。
 ある日、自警団の団長が一人の少女を連れて修道院を訪れた。
 最近になって活発に行動している秘密結社のメンバーとして育てられてきた少女を無事に保護、彼女に普通の人としての生活が出来るように教えてあげて欲しいという事である。
 少女はまだ12歳であるにも関らず、一流のアサシンとしての教育を全身に刻みこまれていたらしい。
 事実、内通者からの報告で少女を保護する為にアジトに向かった時も、かなり大勢の団員が傷を追ってしまった。
 本来ならば処罰される筈であったが、セーラの加護の元、少女を更正するという条件で罪は逃れたらしい。

 ところがどっこい、修道院でも少女の行動は目を見張るものばかり。
 他のシスター達に悪影響がでるのではと懸念した修道院長が、冒険者達に助けを求めに来たというところである。

「そうですか。その少女の素性は解らないのですか?」
「ええ。アンリエットという名前意外は全く。他の修道院生達とも折り合いが突きませんし、何よりも感情そのものが欠落してしまっているようですので。なんとかあの子を幸せにしてあげたいのです‥‥」
 そのシスターの頼みとあらば、断わる筋合いもない。
「判りました!! 冒険者に頼む必要はありません。その依頼は私が必ずや‥‥うわぁ!!」
 そのまま口に手を当てられてカウンタへの奥に連れていかれる新人受付嬢。
 代わって『薄幸の受付嬢』がカウンターにやってくる。
「御見苦しいところを御見せしてしまい申し訳けありませんでしたシスター。では、その依頼は掲示板に掲げておきますので、ご安心ください」
 その言葉を聞くと、シスターも安心してギルドを後にした。

●今回の参加者

 ea1333 セルフィー・リュシフール(26歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1559 エル・カムラス(19歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1803 ハルヒ・トコシエ(27歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea2004 クリス・ラインハルト(28歳・♀・バード・人間・ロシア王国)
 ea4957 李 更紗(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

●やってきましたサン・ドニ修道院
 パリ郊外。
 セーラ神を奉っているその修道院には、毎日多くの礼拝者達が訪れています。
 そして、貴族を始めとする様々な身分の女性達が、この修道院で礼節や女性としてのマナーなどを学んでいます。

 そこはサン・ドニ修道院。
 『セーラの乙女たち』の学び舎。

──修道院にて
 激しい通り雨。
 冒険者一行は、依頼人の住むパリ郊外のサン・ドニ修道院へとやってきた。
 途中、この季節特有の通り雨に出会い、一行はびしょ濡れのまま教会に到着。
「あらあら、大変でしたね。取り敢えず先に着替えていらっしゃい。シスター・ベネティクタ、冒険者の皆さんに着替えを渡してあげてください・・・・」
 修道院長のシスター・アンジェラスがずぶ濡れの一行を見て、すぐに着替えを用意させた。
 エル・カムラス(ea1559)も仲間の肩からスカートを翻して着地すると、シフール用のシスター服を受け取る。
 うまく女装しているようであるが・・・・ふっふっふっ。
「ありがとうございます」
 丁寧に挨拶するのはラテリカ・ラートベル(ea1641)。
「荷物はどちらに置けば宜しいでしょうか。ここに来る途中で色々と買い物をして来たものでして・・・・」
 セルフィー・リュシフール(ea1333)が、其の場に居合わせたシスターにそう問い掛ける。
「皆さんの部屋はあらかじめ用意してあります。着替えたら、そこにご案内しますわ」
 シスター・レイホウが丁寧にそう説明してくれる。
「部屋割りなのですが、アンリちゃんの教育に専念したいので、シスター達の部屋から離れた部屋を貸して戴けますか?」
 そう頼み込むのは李更紗(ea4957)。
「そうですわね。シスター・レイホウ、皆さんの部屋割りを変更して下さい。シスター・アスカ、貴方は皆さんを更衣室に。丁度、福祉活動から戻ってきた子達が着替えていますから、一緒に着替えてもらいましょう」
 あ、それって。
「あ、あたしは、後でも結構で・・・・すわ、ほほほ・・・・」
 エル君あやうし。
 そして一行は、そのまま着替えに向かわされた。
 ちなみにエル君も、風邪をひくといけないという理由で、ちょうど戻ってきたシスター達に連行されて更衣室へ。
 そして5分後、黄色い悲鳴と共に、エル君は更衣室から脱出。
 シスター・アンジェラスに連れられて、別の御部屋へ。
 合掌。

──別の部屋
「男の方を、ここにお泊めする事はできません。とはいえ、ギルドの依頼を受けてしまった以上、貴方だけ何もしないで報酬を得るという事も問題がありますし・・・・」
 説教の後、シスター・アンジェラスはエルの処遇を考えていた。
「こ、ここにこのまま居ては駄目ですか?」
 そう円らな瞳をウルウルとさせて、エルはシスターに哀願。
「では、こうしましよう。貴方には別の場所で奉仕活動を行なって戴きます。皆さんとは別の場所になりますが、ここから歩いて少しの場所に『セーラ神に仕える男性信者』の為の教会、『ブルーオイスター寺院』があります。そこでの雑務を御願いしましょう」
 とりあえずお払い箱はま逃れた為、エルはホッと一息。
 そのままシスターに連行されて、エルは近くの教会へ・・・・

──礼拝堂
 エルが説教を受けている最中。
 その他の一行は一旦礼拝堂に集められると、シスターより十字架を授けられた。
「この前の依頼の時も御願いしたのですが。これを付けていない方をここにお泊めすることは出来ませんので‥‥」
 そう告げると、シスター・アンジェラスが、側に立っているシスター・ユーファに十字架の入った箱を渡す。
 それを受け取ると、ユーファがセルフィー、ラテリカ、ハルヒ、クリス、そして更紗に順番に十字架を授ける。
「主よ‥‥この者に、祝福を‥‥」
 一人一人順番に十字架を受け取る。
 そして一行は、ようやく修道院内を自由に歩けるようになった。


●アンリエット〜感情を忘れた少女〜
──修道院内・談話室
 普段は大勢のシスター達で賑わう談話室。
 そこで、アンリエットは静かに雨を眺めていた。
 栗色のミドルショートカット、まだ幼い少女は、表情一つかえずに、じっと外を見つめていた。
「初めましてぇ。私はラテリカと言います♪〜」
 ラテリカが屈託のない笑顔でアンリエットに声を掛けた。
 声のトーンは歌を歌うようにリズムを付けて。
 少しでもアンリエットに心を開いてもらう為、ラテリカはアンリエットに話し掛けるときはリズムを付けることにしたらしい。
「アンリエットさんがどんなことに興味を持つのか判りませんけれど♪〜、ラテリカは、ラテリカが一番好きな、歌で仲良くなりたいです♪〜。ラテリカは歌っていれば幸せ。えと、その『幸せー』って気分が、ちょっとでも、伝われば良いなって思うですよ♪〜」
 だが、アンリエットは窓の外を向き直ると、そのままじっとしていた。
 仕方なく、ラテリカは静かに歌を紡ぎつづけた。

──修道院長室
「彼女は修道院ではどう過ごしていますか? 抵抗とか嫌がる仕草はどこで出ていました?」
 それは更紗。
 アンリエットと触れ合う為に、更紗は彼女の興味を示した事や気に入らない仕種を取ったときについて、こと細かに聞いている。
「あの子は、どんな事を頼みこんでも動く事はありませんでした。それこそ、ここは集団生活から様々な事を学ぶ為の場。あの子にも、他の子達と同じ様に生活していました。朝の賛美歌、奉仕活動。聖歌隊と共に歌を歌うなどなど。他のシスター達にも、ゆっくりと時間をかけて打ち解けてくださいねと色々と言い含めていましたけれど。普通には生活していました。ただ、それだけなのです。心を開いてくれるでもなく、何か自分から進んで行動するでもなく・・・・抵抗や嫌がる仕種を見せる事もありません。まるで『命令に従う』という感じなのです・・・・」
 それは、正直困り者である。
「判りました。とにかく頑張ってみます」
 それだけを告げると、更紗はその場を後にした。

──食堂
「この料理はここに・・・・そうそう、これはあっちの方に・・・・」
 てきぱきと完成した料理を並べているのはセルフィーとハルヒ・トコシエ(ea1803)、クリス・ラインハルト(ea2004)の3名。
 そして3人の指示でシスター達も、次々とテーブルのセッティングを行なっていた。
 アンリエットとの愉しい日々の為、初日の晩餐は豪勢なものになった。
 セルフィーが自腹を切り、様々な食材や御菓子を大量に購入、更紗の指示の元、次々と料理が作られている。
 もっとも、その更紗も他の料理得意シスター達の協力を得て、どうにか完成という所である。
 ちなみに、この豪華な晩餐は修道院長から許可を得ているらしい。
 これもまた、迷える者を救う為ということで。
 そしてアンリエットも登場。
 愉しい晩餐が始まった。
 いつもの質素な料理ではなく、豪華な晩餐に舌鼓を打つシスター達。
「どう? 美味しいかしら?」
 更紗がアンリエットにそう問い掛ける。
 と、アンリエットは静かに、コクリと頭を縦に振り、また食事を続けていた。
 感情を少しずつであるが、表現してきたアンリエット。

 そして食後は、裸の付き合い。
 このサン・ドニ修道院には小さいながら浴室も存在する。はるか昔からあったものが、神聖ローマによって支配されていた時代に修復され、それがそのまま使用できるらしい。
 それ程広い風呂ではなく、湧かした御湯や水を汲んで来て、浴槽に腰掛けた人の背中から御湯を掛けるという感じで使われている。
 其の日は特別という事で、大量の湯を湧かして浴槽を満たす。
 冒険の最中は水浴びや濡れたタオルなどで身体を清拭してしまう冒険者にとって、この風呂は実に心地が良い。
 アンリエットを風呂に連れて行くと、クリスは手作りのあひるの人形をアンリエッタに見せる。
「ガアガア、こんにちは〜」
 少しでもアンリエッタの気分を解そうとするクリス。と、アンリエットもその人形に興味を示したのか、クリスから人形を受け取ると、じっとそれを見つめている。
「さあ、アンリエットちゃん、こっちにいらっしゃい。身体の洗い方教えてあげるね」
 これまた贅沢品の石鹸を手に、更紗はアンリエットを浴槽から呼ぶと、綺麗に身体を洗ってあげる。
(・・・・更紗さん、胸が大きいな・・・・)
 浴槽で更紗とアンリエットを見つめながら、クリスが心の中でそう呟く。
 そして一通り身体を洗い終えたら、いよいよハルヒの出番である。
「髪を綺麗にしてあげるね」
 肌着のままハルヒは、浴槽に腰掛けているアンリエットの髪を丁寧に洗ってあげる。
「綺麗な髪だね。毎日御手入れしたら、もっと綺麗になるよ」
 流石は美容師、理美容の専門家という事もあって手付きなどはたいしたものである。
 アンリエットも髪を触られて心地好いのか、冷たい表情ではなくゆったりとした表情になっている。
 そして風呂から上がったら、一行はアンリエッタと一緒に歌を歌ったり、色々な事を教えてあげていた。

──エルの日誌
 今日は、修道院での奉仕活動を行ないました。
 優しいお兄さん達が一杯いて、僕は少し安心しました。
 さっそく掃除や洗濯、買い物の手伝いと、色々な事を頑張ってみました。
 夜には質素な食事を、そして礼拝や賛美歌の練習もしました。
 聖歌隊のリーダーは僕のことを気に入ってくれたのか、『今日から俺の事は兄貴と呼んでくれ』と言われました。
 あと2日、僕はがんばります。


●二日目〜聖歌隊と一緒に〜
──礼拝堂
 朝の御務めを終えて、冒険者一行はアンリエットと一緒に賛美歌の練習を始めた。
 というのも、朝の礼拝のあとの練習の時、ラテリカが聖歌隊の歌を聞いてメロメロになってしまった為。
 その荘厳かつ厳粛な歌声に魅了されたラテリカは、いつかあの中で歌いたいという気持ちが芽生えてしまったようである。
 元々歌が好きだった為、アンリエットにも歌の楽しさを教えてあげていた。
「んー。アンリエットさんもお歌を好きになって下さると、とっても嬉しいですー♪」
 そして午前中はラテリカと一緒に歌の練習。
 午後からはセルフィーが用意してくれた顔料と木炭、それと羊皮紙を使って御絵描きを楽しんでいる。
 昨日よりも穏やかな表情のアンリエットを見ていると、一行は少しずつ幸せな雰囲気を楽しみはじめていた。
 とても、目の前の少女が『暗殺術』の達人として育てられたとは思えない。
 どうみても、何処にでもいる少女に見えるのである。
 そして夜。
 愉しい晩餐の後、昨日と同じ様に皆で入浴。
 愉しい時間は瞬く間に過ぎていった。

──エルの日誌
 奉仕活動も2日目になると、色々と学ぶ事がありました。
 洗濯は辛かったですけれど、お兄さん達のフンドシやフンドシやフンドシやフンドシ・・・・。
(ここからは涙で濡れていて判別不可)
 

●最終日〜心の中でありがとう〜
──修道院にて
 楽しかった2日間も無事に過ぎ去り、いよいよ最終日。
 いつものように朝の礼拝を終えて、一行は残った時間の全てを、アンリエットと共に過ごすようにしていた。
 歌の練習や御絵描、少しずつではあるが、アンリエットは更紗達が家事手伝いをしているのを真似しようとしていた。
 掃除、洗濯。
 この修道院では皆、共同作業である。
 アンリエットもクリスや他のシスター達に混ざって、少しずつではあるが『自分から』御手伝いをし始めた。
 午後には、ハルヒがアンリエットの髪を散髪する。
 綺麗なリボンをちょこんと結び、可愛いお嬢様の出来上がりである。
「よく似合うねアンリ。もし髪をとかして欲しくなったら、いつでも来てあげるからね・・・・」
 そう告げるハルヒに、アンリエットは頭のリボンをチョンチョンと突きながら、にっこりと微笑んだ。
 3日目にして、初めて笑顔を見せてくれたのである。

 そして夕方。
 アンリエットとお別れの時間。
「アンリは、まだ幼いですから。もっと色々な事を教えてあげてください。ここでは共同生活が第一になってしまう所がありますけれど、他のシスターさんたちも、この子は本当の妹のように扱ってあげてくださいね」
 セルフィーがシスター達にそう頼み込む。
 学問全般からはじき出した彼女なりの答え。
「また遊びにくるからね・・・・」
 決してさようならとは言わないラテリカ。
 そっとアンリエットの手を取ると、それをギュッと握り締める。
「うん・・・・」
 以前のような、冷たい表情でそう呟くアンリエット。
「ちゃんと髪をとかすのよ? 乱暴にしていたら駄目ですからね」
 お姉さんのようにそう告げるハルヒ。
「うん・・・・」
 やはりアンリエットの反応は冷たい。
「じゃあ、またね・・・・」
 ギュッとアンリエットを抱しめながら、クリスがそう告げる。
「うん・・・・」
 そう呟きながらも、アンリエットは少しだけ抱しめかえす。
「いい? 少しずつでいいから、お姉さん達の御手伝いをするのよ? 約束ね」
 その更紗の言葉に、アンリエットは静かに頭を縦に振る。
 が、その肩がプルプルと震えていた。
「また・・・・また遊びに来て・・・・アンリを一人にしないで・・・・」
 ポロポロと涙を流してそう呟くアンリエット。
「必ず来るからね。お姉さん達、約束するから・・・・」
 いつしか皆も涙を流していた。
 そしてアンリに見送られながら、一行は修道院を後にした。

──そしてパリ
「・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
 酒場で泣いているのはエル。
 どうやら、修道院での奉仕活動が大変だったのであろう。
「フンドシが、マッチョがマッチョがお肉が兄貴が漢がぁぁ。うわぁぁぁぁぁぁぁん」
 な、何があった!!

〜Fin