【ドレスタット救援】海賊迎撃・二番艦

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 44 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月19日〜10月28日

リプレイ公開日:2004年10月27日

●オープニング

──事件の冒頭
 それはとある日の昼。
 冒険者ギルドに数名の依頼人が訪れた。
 彼等は皆マーチャントギルドのギルド員。
 間もなく始まる『港町ドレスタット』のウン百年記念の開港祭の為にパリの彼らも色々と忙しい筈であるが、皆、血相を変えてカウンターにツカツカとやってきた。
──バン!!
 そしてカウンターを叩く音と同時に、一人のギルド員が受付嬢に話を始める。
「海賊シーラット団と正面から戦える冒険者を30名ほど。船はなんとかする、だから、頼む!!」

 それでは、かいつまんで説明しよう。
 『竜の背骨』と呼ばれている暗礁海域。
 その周辺の小島を根城としている海賊『シーラット団』による被害が、以前より発生していた。ここ最近はその規模がかなり大きくなり、数多くの商船が襲われていた。
 その為、ノルマンの各騎士団の方でも急遽対策会議を行ったのである。
 その結果、各騎士団より選抜された精鋭騎士たちによる海賊討伐部隊が編成され、港町から討伐任務に出ていたらしい。

 そして数日後、つまり今日。
 その討伐部隊から、伝令がメッセージを届けてくれた。
 シーラット団のアジトに突撃した所、激戦ではあったが、思ったほどの抵抗は感じなかったらしい。
 そして海賊達を締め上げた所、このアジトは囮であり、海賊船3隻による強襲艦隊がドレスタットに向かって航行しているとの事。
 アジトから出るにも、騎士団対処を目的としていた海賊達は操舵部分を狙った攻撃を繰り返していたため、大型帆船は動かす事が出来なくなってしまったらしい。海賊達が逃走用に準備していた小型快速船を使い、ようやく伝令がパリに急を知らせてきたのだ。ドレスタットにも別の船が向かったが、海賊が航行しているのと同じ海域。無事に到着したかは分からない。
 そして、通常は専用船を持たない騎士団がこれから準備して、ドレスタット救援に間に合うか‥‥これも分からない。

「つまり、海賊迎撃ということですね?」
 薄幸の受付嬢が静かに問い返す。
「ああ、船はあたし、グレイス・ガラスの『グレイス・ガリィ号』と」
「私、シャローン・ギャブレッドの『バイオレット・キャット号』を出港させますわ」
 マダムグレイス、シャローン・ギャブレッドの二人がそう告げる。どうやら今回は二人とも参戦の模様。
「そしてもう一隻・・・・あいつの奴が出る」
 そしてグレイスが親指で差している『あいつ』とは。
「しばらく国を離れていたら、こんなことになっているなんてねぇ。このあたしが戻ってきたからには、もう海賊なんて奴等の好きにはさせないからね!! 大型帆船『アイアン・ギア号』の出港準備は出来ているから!!」
 か、カーゴ一家のエリス・カーゴ。
 満を持して参上!!
「判りました。それではこの依頼受けさせていただきます。冒険者の皆さんには、そのまま港に向かっていただきますので、そちらで船の待機を御願いします!!」
 そして。 
 史上最大の作戦が、今始まる。


●今回の参加者

 ea1450 シン・バルナック(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2203 リュオン・リグナート(33歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 ea2731 レジエル・グラープソン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea3677 グリュンヒルダ・ウィンダム(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea4107 ラシュディア・バルトン(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4919 アリアン・アセト(64歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea5644 グレタ・ギャブレイ(47歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea6707 聯 柳雅(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

●パリ〜情報こそ戦いの基本〜
──冒険者ギルド
「二人組の冒険者崩れで、一人が吟遊詩人ですかぁ? 一杯いますよぉ!!」
 冒険者ギルドの受付カウンターでは、新人受付嬢がアハメス・パミ(ea3641)と何やら話をしている。
 アハメスは、『アイテムスレイヤー』の強奪者割り出しの為に、この冒険者ギルドに足を運んだらしい。
 元々が冒険者崩れなら、ここで情報を選られるであろうと思い立ち、出発前にここにやってきていたのであるが、相手が新人受付嬢なだけに、どうも話が噛み合わない。
「すみませんが、いつもの・・・・ああ、彼女に代わって欲しいのですが」
 アハメスは見知ったギルド員を指差すと、そのまま『薄幸の受付嬢』を指名した。
「せんぱーい。ご指名ですよーー」
 そのままカツカツカツカツと歩いてくると、カウンターで新人さんとバトンタッチ。
「アハメスさん、ご無沙汰してますわ。今日はどのようなご用件で?」
 そう問い掛ける受付嬢に、アハメスは事情を説明した。
「・・・・という訳なのです。教えて頂けませんか?」
 しばし考えた後、薄幸の受付嬢は、ポンと手を叩いて口を開いた。
「確か、吟遊詩人の方はリュシアンとか・・・・相方のレンジャーさんはヨーヘンとかいう名前ですわ。『無謀詩人リュシアンと腰抜けヨーヘン』って、結構有名でしたから」
「成る程。いや、助かりました。ありがとうございます」
 丁寧に礼を告げると、アハメスは急いで船着き場へと向かおうと外に向かった。
「・・・・アサシンガール?」
 と、その途中、張り出されている依頼の報告に気になるものが有り、一旦足を止めるアハメス。
 
 船着き場には、総勢30名の冒険者が集っている。
 みな、ここから船で海に向かい、そこで待機している3隻の船に乗り込むのである。
「・・・・これで積み荷は全てですね。助かりました」
 船に荷物を摘んでいる水夫に頭を下げているのはフランシア・ド・フルール(ea3047)。
 その横では、積み込んだ荷物を確認している聯柳雅(ea6707)の姿もあった。
「ふむふむ。これで矢に対抗する防護版は出来るな・・・・あとは、船に移動してからか」
 そのまま柳雅も船に乗ると、待っていた他の仲間たちと共に一路海へ!!


●いざ出港〜とにもかくにも準備〜
──通常航路上
 ザッバァァァァァァァァン。
 激しく波がぶつかりあう。
 一行は積み荷の運搬作業を終えた後、甲板上でそれぞれが準備を開始していた。
 交易船『グレイス・ガリィ号』は二番艦。前方には『ラム』を装着した『アイアン・ギア号』、そして後方には対魔法用の防護版を装着している最中の『バイオレットキャット号』の雄姿も見える。
 遠く水平線をじっと見つめながら、シン・バルナック(ea1450)は武具の手入れを行なっていた。
──チャキッ
 刃を返し、その磨き揚げられた刀身をじっと覗きこむ。
(・・・・飛んでいきたかった・・・・なのに・・・・)
 鍛冶師『ディンセルフ』の死を、シンは心の底で嘆いた。
 今使っている剣は、ディンセルフの形見の剣。
 それを構えると、近くで同じ様に手入れを行なっているリュオンと、同じく作業をしているレジエル・グラープソン(ea2731)の二人に声を掛けた。
「レジエル、リュオンさん。必ず生きて帰りましょう。私たちの帰りを待つ人たちの所へ!」
 それは、騎士の剣にかけた誓いの言葉。
「そうだな・・・・待っている人たち、そして信じてくれる仲間がいるからな・・・・」
 シンとは友人付き合いの長いリュオン・リグナート(ea2203)が、笑みを浮かべながらシンにそう返答する。
「シン、無理はしないでくださいね、あなたには奥さんがいるのですから」
 甲板横の手摺部分に矢止めの防護版を設置しながら、レジエルはそう呟いた。

「皆さん、食事の準備が出来ましたので、食堂へどうぞ!!」
 静かな口調でそう離しているのはフランシア。
 シーラット団との接触ポイントまでは、フランシアは船内での様々な仕事の手伝いを行なっているようである。
 矢止めの作成から食事の支度、はては水夫達に励ましの言葉や懺悔を聞く・・・・朝夕の礼拝は欠かさない。
 セーラの乙女が乗っているというだけで、水夫達は士気が上がっているのであるから、十分役に立っている。

「船長さん。ちょっと聞いて宜しいかしら?」
 船尾楼にある船長室の前で、アリアン・アセト(ea4919)はマダム・グレイスに声を掛けていた。
「ああ、なんだい?」
「この船の水夫さん達の腕はいかほどのものでしょうか? アイアンギア号の方は凄腕の方たち、バイオレットキャット号の方は、弓の使い手がかなりいらっしゃいます。こちらの船は、そのような手練れの方は乗っていらっしゃらないのですか?」
 そう問い掛けるアリアンに、マダム・グレイスはにぃぃっと笑う。
「このグレイス・ガリィ号の水夫達は、元は傭兵や冒険者。海が好きで集った猛者ばかりだよ。明日には作業も一段落するから、その時には冒険者の相手でもやらせるさ」
 アリアンは多少なりとも焚き付けることで、水夫達の士気を向上させようと考えていた。
 そしてそれは、どうやらうまくいったようである。
 そのままグレイスは、近くの甲板にいるグレタ・ギャブレイ(ea5644)に話し掛けた。
「よう。調子はどうだい? また相変わらずアコギな金貸しでもやっているのか? ここの水夫がまだ返していないとか?」
 そう悪態を付くグレイス。
「あんたに言われたくはないねぇ・・・・」
 そう告げると、グレタはそのまま話を続けた。
「でも・・・・まさに乗りかかった船って奴だな。不思議な剣にも興味があるし、海賊とその裏を叩いておかないとノルマンで仕事がしにくくなりそうだからな。変な『組織』ってのは嫌いでね」
 そう告げるグレタ。
「確かにな。ただ、その組織の下部がシーラット団だっていう噂が流れているからねぇ。今回の襲撃だって、そっちの関連だって言うけれど・・・・まあ、いいや。取り合えずは目の前の敵っと・・・・」
 グレイスはそのまま水夫達に指示を飛ばす為に歩いていく。
 その姿を見て、グレタは『豪快なおばさんだなぁ』と思ったとか。
 二人とも、似たり寄ったり。

──翌日
 シン、リュオン、レジエルの3人はグレイス・ガリィ号』の腕利き水夫達に手伝ってもらい、実践さながらの演習を行なっていた。
 その横では、グリュンヒルダ・ウィンダム(ea3677)とアハメス、そしてラシュディア・バルトン(ea4107)が、剣戟と魔法の連携について色々と意見交換、そして即実践というハードスケジュールを実行している。
 アリアンとフランシアはいつものように水夫達の手伝い。
 そして静かに日も暮れて、いよいよ明日からはシーラット団との戦闘海域に突入!!


●海戦勃発〜魂すら・・・・〜
──戦闘海域
「フォアスルー展開!! 速度上げて!!」
 グレイスの指示で船が揺れる。
 前方では、敵の戦隊側面にアイアンギアがラムによるチャージングを敢行!! そのまま一気に畳み掛けている。
 後方ではお互い長距離で間合を取りつつ、旋回しながら魔法戦を行なっているバイオレットキャットの姿も見えた。
 そして『グレイス・ガリィ号』は、敵の第一派攻撃を防護版で受止めていた。
 あらかじめ演習で訓練していた事が、此処にきて役に立っていたのである。
 シーラット二番艦は高速で左舷に回りこむと、大量の矢を『グレイス・ガリィ号』へと打ち込んできた。
 だが、あらかじめ準備してあった防護版に隠れる事でそれを回避。
 さらにフック付きロープを仕掛けてくるが、それも受け付けようとしない。
 フックが引っ掛からないように必死に船を走らせては、じっとタイミングを待っていた。
「・・・・なかなか、間合が取りづらいねぇ・・・・」
 敵船のマスト上空まで移動しようと試みたグレタだが、飛んでいこうとするたびに大量の矢が飛んでくるので断念。
 敵は海戦のエリート、シフールによる上空からの奇襲など予測の範囲内なのであろう。
 グレタはそのまま船に戻り、防護版の影からの魔法攻撃に切り替えた。
 顔半分だけをそっと出し、そのまま詠唱を開始。
──ゴゥゥゥゥッ
 巨大な火の玉が敵船の甲板で爆発する。
 それも1撃ではない。
 他のメンバー達は水夫達と共に敵の牽制、フックを仕掛けられるたびにそれを排除。
 グレタの援護で、少しでも敵の数を減らしていかなくてはならなかった。
──ブゥゥゥン
「空と大地をたゆたうものよ 我が手に集いて鋼を纏い 刃となりて我が敵を討て!」
 ラシュディアのウィンドスラッシュが炸裂。
 フックを仕掛けてくる敵に対して問答無用で真空の刃を叩き込む。
 ラシュディアはフックを仕掛けてくる海賊の腕を目掛けてウインドスラッシュを叩き込もうとしていたが、魔法によるピンポイントアタックのような高度な技は、彼にはまだ制御できない。
 そのような技自体存在するかどうか怪しいのだが、ラシュディアは果敢にもチャレンジ!!
 だが、制御できないのを確認すると、通常の魔法攻撃に切替えた。
 グレタとラシュディア、二人の魔法援護により、敵の士気は少しずつではあるが低下していた。
 海賊得意の『矢による先制→接舷しての奇襲』という構図が崩されてしまっていた。
 魔法兵団は三番艦のようであり、この二番艦にはウィザードの姿は確認できなかった。
「・・・・ふう。あらかた収まってきたねぇ。あとは任せたよ!!」
 敵二番艦が後方に下がりつつあるのを確認して、グレタが魔法の詠唱を停止。
 敵甲板上はあちこちで火がつき、メインマストも炎上。
 敵は火を沈下させる為に人員を裂くこととなってしまっていた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
 ここにきて、冒険者の追撃の狼煙が上がる!!
 シンとリュオン、レジエルの3名は三位一体で敵船にフックを仕掛け、水夫達がそれを固定。
 2本のロープの間に掛け橋を渡すと、いっきに敵甲板に駆け抜けた!!
──ドシュッ!!
 防衛しようとシミターを引き抜く海賊達に、シンの怒りの一撃が叩きこまれる。
「船長は何処ですか!!」 
 オーラパワーとオーラシールドにより強化されたシン。
 次々と襲いかかってくる敵を撃破しつつ、親玉である『ヨーヘン』を探す。
「シン!! あまり無茶をするな」
 リュオンもまた、シンの横で海賊達に剣を振るう。
 後ろ甲板から矢で牽制してくる敵に対してはソニックブームを叩き込み、シンの方に敵が固まらないように必死である。
「リュオンの言うとおりです!!」
 次々と後方から駆けてくる敵に、的確に矢を叩き込むレジエル。
 近接戦に飛び込まれたらリュオンが引き受け、そしてシンが道を開く。
 まさに三位一体の攻防であった。
 その少し前方、船首甲板ではグリュンヒルダとアハメス、フランシア、そして柳雅の4名が乱戦に突入。
「甘いっ!!」
 敵の攻撃をギリギリでかい潜り、フェイントアタックの応酬を叩き込む柳雅。
 シールドで受けられそうなときは、奥義『爆虎掌』を叩き込む。
──ドゴォォォッ
 腹部に爆虎掌を叩き込まれて悶絶する海賊。
──ドシュッ!!
 その横では、グリュンヒルダが日本刀による3連撃を叩き込んでいた。
「まだまだっ!!」
 素早く次の敵にターゲットを絞ると、間合を詰めて斬撃を叩き込む。
「ディンセルブ氏の無念、ここで晴らさせて戴きます!!」
 鬼神の如く襲いかかるグリュンヒルダ。
 そして船首よりすこし後方では、フランシアがアハメスと連携を組んでいた。
 一番見晴らしの良い場所で、アハメスは船全体を見渡す。
 敵の船長を逸早く発見する為だ。
 フランシアもまた、アハメスが対峙する敵に対して『タロンの神罰』を叩き込む。
「助かる」
「これも、彼の者の魂を救う為・・・・」
 と、フランシアが甲板上でうろうろしている一人の少女を発見。
 ボロボロの衣服を身に纏い、おどおどと海賊達から逃れるように動いている。
 ブロンドのショートカット。
 顔立ちは整っており、身に纏っている衣服もボロボロではあるがちゃんとした作りの模様。
 すぐ近くの扉が開かれている所から、どうやら捕虜として捕らえられた子供のように感じられる。
 その姿を見て、フランシアは少女に向かって走り出した。
「フランシアっ!!」
 アハメスがフランシアを追いかける。
 そしてグリュンヒルダと柳雅は二人の所に海賊が割り込まないように、楯となりながら追尾。
 そして少女もフランシアの姿を見て安心したのか、涙で顔中をくしゃくしゃにして走っていく。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
 そしてフランシアに抱きつこうとした時、アハメスはフランシアの腕を取り引き止める。
 そして彼女と少女の間に入りこむと、少女に向かってロングソードを叩き込む。
──ギィィィィィン
「アハメス何を!!」
 フランシアはそう叫んだ後、二人の姿を見て絶句。
 少女はアハメスの一撃を隠していたダガーで受止めると、そのまま左手に持っているナイフをアハメスの胸許に突きたてていた。
「ぐはっ・・・・」
 アハメスの口許から大量の血が吹き出す。
「・・・・ギルドで話を聞いていたときに・・・・気になった報告書が・・・・」
 アサシンガール。
 シルバーホークの下部組織で、そのようなコードネームの少女の暗殺部隊があるという。
 こんな場所で、たった一人だけ逃げてくる少女。それも戦闘のある甲板上で・・・・。
 アハメスがあの報告書を気にしていなかったら、彼女も少女を保護する為に走ったであろう。
「アハメス!!」
 フランシアが倒れそうなアハメスを抱き留める。
 そして少女は手にしたダガーで二人に切りかかっていくが、柳雅とグリュンヒルダが間に入る。
「・・・・シルバーホーク・・・・こんな少女まで毒牙に掛けるとは・・・・」
 グリュンヒルダと柳雅、二人はそのまま少女を無力化するためにに向かって切りかかっていく。
「其の子は更正します!! 瞳の中の悲しみ、私にはそれが見えるのです!!」
 フランシアのその言葉は二人の耳に届いている。
 そして、フランシアの元にアリアンも到着。
「アハメスさん、直に治療しますからね・・・・」
 アリアンのリカバーが発動。
 熟練した手並みのリカバーは、ざっくりと突き刺さったアハメスの傷口を完治させていた。
 専門でのリカバーが、これほどまでに強固なものであるのかと、フランシアもセーラ神の加護の力を改めて見せ付けられていた。


●ディンセルフの魔剣〜解放〜
──船尾楼
「・・・・その剣では、私のオーラソードまでは切り裂くことはできないようですね・・・・」
 船尾艦長室から、呪われしアイテムスレイヤーを携えて姿を現わしたヘン。
 シン、リュオン、そしてレジエルの3人はその姿を捉えると、一気に他の海賊達を蹴散らして船尾楼へと駆け抜けていった。
「クックックッ。アイテムスレイヤー・・・・か。あの鍛冶師ディンセルフの魔剣、これに斬れないものはないわ!!」
 ディンセルブのその叫びと同時に振りおろされる剣の一撃。
 だが、アイテムスレイヤーは魔法の武具ではない。
 シンのオーラシールドはその一撃を受け流してしまう。
「・・・・遅いっ!!」
 その逆方向からはリュオンが攻撃を仕掛ける。
 が、それをー難無く躱わすと、ヨーヘンは体勢を整えた。
 船長の援護に向かおうとした水夫達は、近寄る前にレジエルの矢と、『グレイス・ガリィ号』のラシュディアの放つウィンドスラッシュにより行く手を阻まれる。
「折角の勝負、余計な奴等が水差すんじゃねぇ!!」
 ここ一番のラシュディアのウインドスラッシュが連射される。
 魔力も間もなく限界。だが、ラシュディアの放つ真空の刃は、シン達の元に敵を近寄らせなかった。
「アイテムスレイヤーと私の剣は打った人間は同じ・・・・しかし剣にかける思いは負けないはず!!その剣と私の剣・・・・どっちが名剣か勝負です!!」
 シンが素早く剣を振るう。
「吠えるなっ。この雑魚がぁぁぁぁ」
 そのヨーヘンの姿は、以前フランシア達が見た姿ではない。
 船首甲板付近での戦いも鎮静化し、アサシンガールも当て身を受けて意識を失った。
 グリュンヒルダと柳雅はアリアンから手当を受け、アハメスは大事をとって後方へ。
 そしてフランシアは、シンたちの元に駆け寄ると、魂を込めて声を張り上げた。
「生前、貴方は主に選ばれ得る資格をお持ち方でした。貴方の想いが己が剣を負と為すならば、正と為すのもまた想い―その心をもって、無念も後悔すらも断ち切りなさい!」
 その言葉と同タイミングで、ヨーヘンはシンの胴部に痛烈な一撃を叩き込んだ。
──ギィィィィィン
 と、その直前、ディンセルフの魔剣は鳴動し、シンの胴部にあるレザーアーマー『のみ』を真っ二つにした。
 シンの胴体は繋がったまま・・・・。
 フランシアの声が、剣に閉じ込められていたディンセルフの魂に届いたのであろうか?
「き、切れねぇ!! 俺の剣が切れねぇぇぇぇぇぇ」
 動揺して大振りになるヨーヘン。
 リュオンに向かってその剣を叩き込むも、リュオンも察しているのか、ひたすら剣で『殴られている』だけである。
「所詮、剣に魅入られていた小さい奴か・・・・」
 そのままヨーヘンに向かって剣を叩き込むリュオン。
「た、助けてくれ・・・・」
 腰を抜かしたかのように、ヨーヘンはその場に崩れ落ちる。
 これから起こる恐怖に失禁し、全身をガタガタと震わせていた。
「ここで貴様を殺すのは容易い。が、今までに犯したその罪、騎士団の元で処罰してもらいましょう・・・・」
 そのままヨーヘンを縛り上げると、残った海賊達も観念したのか武器を捨てて降参。

 敵二番艦は、沈黙した・・・・。


●解放された剣〜これからの事〜
──グレイス・ガリィ号
 保護された少女は、全ての武器を取り上げられて部屋で眠っている。
 一行は、全ての海賊達を敵二番艦の倉庫に閉じこめると、そのまま一路ドレスタットへ曳航することになった。
「・・・・これが、アイテムスレイヤーねぇ・・・・」
 柳雅は剣を手に取ると、トントンと自分の手の甲を叩く。
 不思議な事に、その剣は刃引きれているかのように切れる事はない。
 しかも、あの戦いの後、アイテムスレイヤー自身の切れ味も鈍っているのである。
 かなり無茶な使い方をされたのだ。
 普通の剣なら切れ味が鈍って当然といえば当然。
 そして剣を受け取ると、グリュンヒルダはグレイスに深々と頭を下げる。
「・・・・大変遅くなりました」
 元々は、ディンセルフの仇をという意味合いでグレイスが出した依頼。
 長き時間をかけて、ようやく剣はグレイスの元に届いたのである。
「それで、本来でしたらその剣を妹さんの元に届けてあげたいのですけれど・・・・」
 フランシアのその言葉に、マダム・グレイスがニコリと微笑む。
「私はもう少し仕事があるし、このあとパリに戻らなくちゃならないんだ。みんなはドレスタットで少し休むといいよ。剣に関しては・・・・そのうち、皆さんに御願いしましょう。それまではグレイス商会で責任を持って預からせてもらうよ・・・・そうだねぇ。どこか『ふらり冒険』にでも出かけるときに、届けておくれ」
 その言葉に、一行は深々と頭を下げた。
 アサシンガールの処分は、他の子供達も保護されている『サン・ドニ修道院』へと預けられる事になり、一行はようやく憑き物を取り払ったかのようなすがすがしい気分になった。
「これも、神の加護・・・・」
 フランシアは、静かに手を組むと、神に礼を述べていた。


●ドレスタット帰港〜派手にいきましょう!!〜
──ドレスタット沖
 無事にシーラット団の襲撃を阻み、一行は敵海賊を撃破してドレスタットに凱旋。
 沖合では、最悪シーラットの襲撃があるやもしれないと思った商人達が、それぞれの船を並べて湾前に船の要塞を築いていた。
 だが、『アイアン・ギア号』を始めとする冒険者達を乗せた船団の姿を確認すると、ひとつ、またひとつと港に戻っていった。
 そして颯爽(さっそう)と一行の乗った船も港に入っていく。
 船着き場では、大勢の人たちが一行を暖かく迎えてくれた。
 いよいよ開港祭。
 冒険者達は長い船旅から解放されると、そのまま街に向かって歩き出した・・・・。

〜Fin〜