●リプレイ本文
●パリ〜考える時間こそ戦いの基本〜
──パリ、船着き場
船着き場には、総勢30名の冒険者が集っている。
みな、ここから船で海に向かい、そこで待機している3隻の船に乗り込むのである。
「はい、急いで頂戴ねぇ。もうエリスとグレイスの船は海に向かったのよ!!」
今だに積荷を運びこむ作業をしている水夫達に、シャローン・ギャブレッドが優しく声を掛けていた。
ラグファス・レフォード(ea0261)やイリア・アドミナル(ea2564)、アリス・コルレオーネ(ea4792)に頼まれて、シャローンは大量の煉瓦や板、泥、巨大な空樽などを積み込ませていたのである。
「こんなものを、一体どうするのですか?」
近くにいたラグファスに問い掛けるシャローン。
「相手が魔法支援艦というので、矢や魔法除けに使う壁を作るだけだ」
「戦闘海域までの移動時間があれば、船の甲板全周をぐるりと囲えるだけの防護版が出来るはずです」
そのラグファスの言葉に、イリアが付け加える。
「あ、成る程。でも、この樽の意味は?」
そうアリスに問い掛けるシャローン。
「ホーーッホッホッホッホッ。良くぞ聞いてくれた。これこそ、敵の魔法攻撃から身を隠し、こちらの魔法の出所を解らなくする為の隠れ蓑だ。これさえあれば、この『バイオレット・キャット号』の勝利は間違いない!!」
出ましたアリスの高笑い!!
これが出るということは、この勝負貰った!!
まあ、そんな会話が進むうちに、無事に積み荷のチェックも完了。
一行は船に揺られて河を下る。
河口では、すでに出発準備の整った2隻の船が待機している為、一行は急いで合流すると、荷物の積み込などを手伝っていた。
●いざ出港〜とにもかくにも準備〜
──通常航路上。
ザッバァァァァァァァァン。
激しく波がぶつかりあう。
一行は積み荷の運搬作業を終えた後、甲板上でそれぞれが準備を開始していた。
ラグファスとインヒ・ムン(ea1656)、シクル・ザーン(ea2350)、イリア、シルバー・ストーム(ea3651)、アルル・ベルティーノ(ea4470)といった面々が集まり、中央甲板上で荷物を解体。海水を汲み上げては泥を練り込み、板に塗り付ける準備を行なっていた。
「こことここ・・・・ここには弓を打つ為の穴の開いている板を固定してみては?」
シルバーは自分が射手である以上、そのために安全な場所も欲しい所である。
そのため、板の設置場所を決めているイリアと水夫達の元にやってくると、具体的な説明を行なっていた。
羊皮紙に図面を書き、それについての説明を行うシルバー。
「では、弓用の防護版は両舷に三つずつで、場所はこことここ、それとここ。水夫さん、御願いしますね?」
イリアの指示で、水夫達はさっそく作業開始。
そして甲板上で防護版を作っていた一行も、あとは板を設置して最後にまた泥を塗り固める所まで持ち込んだ。
「・・・・つまり、操帆術っていうのは、全体の状況を見て行なわないといけないのです・・・・」
後部船尾楼付近では、船長のシャローンがインヒに操帆術の簡単な説明を行なっていた。
幸いな事に、インヒは大型船舶については多少かじった程度ではあるが学んでいた。
「つまり♪〜セールコントロールや後尾舵、側舷舵についても〜状況を把握する必要があるのですね♪〜」
インヒがシャローンにそう返答する。
「ええ。小型船舶の場合は、自分で操作する必要が有りますけれど、大型船舶の場合、船長は全ての水夫達に指揮を行なわないとなりません。自分で後尾舵を扱うような事はできないのです」
そう説明すると、シャローンは戦闘海域までの航路を説明。
そのポイントまでの2日間の操船指揮をインヒに任せることにした。
「それでは♪〜、到着までは私が船を扱いますので〜みなさん御願いします♪〜」
「サー・イエッサー!!」
インヒの挨拶に水夫達が威勢のいい声を上げる。
「・・・・本当に大丈夫でしょうか」
船首甲板で、のどかに日向ぼっこをしているのはアルヴィス・スヴィバル(ea2804)。
中央甲板では今だに対雷系魔法の為の煉瓦積みと防護版の設置作業が行われているにもかかわらず、アルヴィスは船首でのどかな魔法研究。
ひなたぼっこに空きたら、進行方向に向かって静かに印を組み韻を紡ぐ。
周囲から集められた精霊力が印により形を為す。
そして前方に向かってアイスブリザードを発動、すぐさま高速詠唱へと印の切替えを行う。
目に見えない超高速の印、紡がれた言葉は圧縮された力のルーン。
そして刹那のタイミングで、アルヴィスはアイスブリザードの連射に成功した。
「・・・・高速二重詠唱によるアイスブリザード。さしずめ、『氷蝕世界(アイスド・アース)』と言った所かな?」」
その光景を見ていたイリアは、自分の合体魔法の事を思い出していた。
(私の『氷河時代(アイス・エイジ)』と、どっちが強力でしょう・・・・)
実際、アルヴィスは自分自身の扱える魔法の強大さについて、まだほんの触りの部分しか理解していない。
高速詠唱との併用は、自分の魔法に大きな可能性を見出せることができるのである。
──ベキッ
中央左舷デッキでは、アリスが水夫達の手を借りて樽の一部を解体していた。
バレルステイーヴ(樽の横板)の一部を切り外し、壊れないようにたがねを打ち込む。
そして底板を外して中に入り込む。
「・・・・いくら大きいといっても。狭すぎる。印を組むのが精一杯だ」
いくら細身のアリスとはいえ、樽の中での詠唱は困難極まる。
止むをえず樽から大きめの木箱に変更すると、アリスは樽と同じ様に穴を開けて、その中での魔法詠唱の準備を行う。
「この広さなら、魔法詠唱にも問題はない・・・・」
得意呪文のアイスコフィンは、相手が見えてさえいればなんとかなる。
ただ問題はアイスブリザード。
発動の瞬間、どうしても片腕が伸び、掌を敵に向けなくてはならない。
そこから発生する魔法ゆえ、うまくタイミングと掌の位置が合わなければ大惨事に繋がってしまう。
「・・・・吹き荒れろ・・・・白夜に舞う、白銀の風!アイスブリザード!」
──ゴゥゥゥゥゥゥッ・・・・バギバギィッ
覗き穴の部分に掌がくるように調節。
だが、少しずれただけでアイスブリザドは穴の一部に直撃、箱を破壊してしまった。
「まだ改良の余地あり・・・・」
アリスは、しばらくの間ただひたすらに魔法の練習を行なっていた。
●海戦勃発〜魂すら・・・・〜
──戦闘海域。
「速度はトップスピードを常に維持!! とにかく敵との間合を考えて!!」
シャローンの指示で、マストが大きくうなりを上げる。
水夫達がランニングギアを力一杯引き、帆の角度を調節する。
『アイアン・ギア号』や『グレイス・ガリィ号』とは違い、シャローンの『バイオレット・キャット号』は高速帆船。積荷搭載量こそ他の船よりも少ないものの、生鮮食糧などの運搬については他の二隻の追従を許さない。
後部船尾楼で指揮を取るのはシャローン。
そして海戦が始まった段階で、指揮がインヒに切り替わった!!
「敵後方を追従する形で♪〜、間合を行っていに♪〜」
そのインヒの指示で、船が大きく傾く。
一定の間合を取りつつ、お互いの船が側舷同士を見せる形で、回りはじめる。
この均衡が破れたほうが、間合ギリギリでの襲撃を受けてしまう。
──ヒュゥッ・・・・ドシュッ
先制で攻撃を仕掛けたのはラグファス。
手にしたロングボウで、詠唱を開始した敵ウィザードを狙う。
その一撃が直撃した瞬間、相手は一瞬怯み精神集中が途切れた。
「いける!! 俺は敵ウィザードの詠唱を阻止する。ウィザードの皆さん、よろしく頼むぜ!!」
ラグファスの叫びと同時に、シャローンの部下達も防護版の影から姿を表わす。
全員が其の手にロングボウを所持、一斉に敵船に向かって矢の雨を降らせた。
「・・・・」
静かに日本の矢を番え、一気に打ち込むシルバー。
的確に敵ウィザードに矢を打ち込むと、次の矢を静かに構える。
その横では、ラックス・キール(ea4944)がヘビークロスボウを構えていた。
──ドシュッ
その一撃を受けたウィザードは、そのまま印を解除してしまう。
「流石、ヘビークロスボウですね」
次の敵を射貫くと、シルバーがラックスにそう話し掛けた。
──ギリリリリリ
と、ラックスは次の矢を居る為に弓を力一杯引いている最中である。
「連射は効かないがな。それに、この矢には全てオーラパワーが付与されている。かなり痛い筈だ」
そのまま射手一同は、味方ウィザード達の詠唱の最中はずっと敵に対しての集中射撃を行ない、ただひたすらに矢が続く限り援護を行なっていた。
敵はこのような襲撃を考えていなかったようである。
防護版の無い船、甲板上で魔法詠唱を行なっていた敵海賊達は、その矢から逃れる為に船室へと逃げていく。
勇猛な海賊はその影でこっそりと詠唱を開始するが、矢から逃れる為に動くと詠唱が解けてしまう。
魔法戦は、先手を取ったシャローン達に勝利の女神が微笑んだようである。
──ゴゥゥゥゥッ
敵ウィザードの放ったグラビティキャノンが、ジャドウ・ロスト(ea2030)に向かっていく。
(・・・・くだらん使い方を・・・・)
表情一つ変えず、ジャドウはすぐさま詠唱を開始。
ジャドウの全身が淡い水色に輝く。
瞬時に、彼の周囲に発生して水の結晶は、彼の手前で一枚の鏡を形成する。
──ギィィィィン
アイスミラー。
高速詠唱による、風系魔法以外の絶対防衛。
その鏡がくだけ散ると、ジャドウはグラビティキャノンの『衝撃』にのみ力で耐えぬく。
完全なる防衛に、敵ウィザードは困惑の表情。
(力押し・・・・グラビティキャノンでくるのはいい考えだが、まだまだだな・・・・)
矢の襲撃に加え、ジャドウの見せたアイスミラーによる防衛。
これで敵の士気は完全に低下した。
残った敵ウィザードは後方へと下がり、その向うで詠唱を続ける風系ウィザードの楯となった。
「間合を変えます♪〜 全力で敵船に対して、側舷をねらって・・・・そうです♪〜」
インヒの指示で、敵船の側舷に回りこみはじめる『バイオレット・キャット号』。
と、相手も間合を詰めはじめた。
「どうした、怖じ気付いたのか!! 俺はここだ掛かってこい!!」
素早く甲板を走りつつ、シクルが敵船に向かって叫ぶ。
そしてどまん前で立ち止まると、詠唱のフリをしてみせた。
その瞬間、敵の高速詠唱が発動、一斉にシクルに向かってウインドスラッシュが襲い来る。
すでに距離は30m以内。
一斉に飛んできたウインドスラッシュは5発。
その全てを全身に受けつつも、シクルは傷一つ付かない。
タロンの加護、レジストマジックである。
「距離30♪〜みなさん宜しくおねがいします♪〜」
距離測定をしていた水夫から連絡を受けて、インヒが皆にそう叫ぶ。
その合図を待っていた!!
──ドゴォォォォッ
「水と氷の精霊の名の元、荒れ狂え吹雪、水弾!!」
イリアのウォーターボムが発動。
掌から圧縮された水の球が高速で飛んでいく! その直撃を受けた敵ウィザードは、それでも怯むことなく詠唱を続けていた!!!
──ゴゥゥゥゥゥッ
さらに、同じ敵目掛けてアルヴィスのアイスブリザードが発動。
距離は30m以内ギリギリである。
突風を伴う吹雪がウィザードを襲う。
さらに詠唱直後に刹那のタイミングで発動するアイスブリザード。練習の成果があったのか、ほぼ一つの魔法にも感じられる。
「高速詠唱、氷蝕世界(アイスド・アース)」
その二つのアイスブリザードを受けて、流石に印を解除するウィザード。
──バリバリバリバリッ
アルルの印も完成。敵マストに向かって打ち込むと、マストに穴をあけた。
「雷王姫アルル参上!! 天よりの裁きをその身で受けなさいっ!!」
さらに次の印を組み、静かに韻を紡ぐアルル。
──ヒュゥゥゥゥゥゥゥ
アリスの手に、静かに氷が結晶化する。
集められた精霊の力、それを敵に向けて発動!!
「吹き荒れろ・・・・白夜に舞う、白銀の風!アイスブリザード!」
そのまま敵の風ウィザードに向かってアイスブリザードを叩き込むアリス。
さらに駄目押しといわんばかりに、次の詠唱を開始。
その横では、ジャドウが沈黙を保ったまま敵の魔法を次々とアイスミラーで防衛。
(頭に血が昇ったままか。たいしたことないな・・・・)
他の仲間たちが狙われないように、ジャドウは常に敵の正面で立ち止まる。
足元には、クリエイトウォーターで作り上げた水が、同じくウォーターコントロールで一塊になって留まっていた。
──ヒュウン
いよいよ敵海賊もロングボウを取り出した。
それでいきなりジャドウを狙って矢を放ってきた!!
──バシャッ
眼の前に、ウォーターコントロールで水を持ち上げると、さらに高速詠唱のクーリングで水を凍り付かせる。
瞬時に凍らせた為、完全な氷には凝固していないが、矢の威力を押さえるのには十分である。
──ギィィィン
突き刺さった矢が氷を破壊する。
が、それ以上の事はない。
(・・・・魔法が通用しないと判ると、物理的攻撃に切替えるか・・・・ウィザードとしてのポリシーを棄てたか・・・・)
そのまま哀れみを込めた目で敵を睨みつけるジャドウ。
それだけで、敵の士気は低下する。
──ゴゥゥゥゥゥゥゥッ
敵射手の姿を確認したイリア、アルヴィスの二人は、射手の固まっている場所を二人同時にセット!!
そのまま一気にアイスブリザードを叩き込んだ。
「純然たる氷の世界よ!!」
「偉大なる水の精霊よ!!」
「彼の敵を、生きとし生けるもの全てを凍り付かせ」
「その大いなる腕(かいな)で、彼の敵を抱しめよ!!」
二人同時のアイスブリザード。
さらにアルヴィスは高速詠唱も加え、イリアのアイスブリザードに自分の魔法を重ねたのである。
『合体魔法、幻夢氷雪嵐(アイスストーム)!!』
即興ながら、いいタイミングで重なりあう。
もしイリアが高速詠唱まで持っていけば、この技は完成だったであろう。
合わせて3つのアイスブリザード。
さらにブリザードか終りかかったとき、その氷の世界を一条の稲妻が突き抜けた!!
「ライトニング・サンダーボルトォォォッ!!」
──バリバリバリバリッ
さらにタイミングを合わせた雷王姫・アルルのライトニングサンダーボルトが炸裂。
まるで生きているかの如く、ライトニングサンダーボルトは飛竜のように敵に向かって一直線に襲いかかる。
敵射手はその身を凍り付かせ、さらに稲妻による一撃を受け、其の場で意識を失っていく。
「・・・・敵ウィザードほぼ沈黙♪〜。接舷しますよ突撃よろしく♪〜」
インヒの声で、水夫達が帆を操る。
敵三番艦に高速で接近すると、そのまま船体を横に並べる。
かなり難易度の高い操帆術だが、水夫達はそれを難無く熟していった。
そして接舷した瞬間、水夫達はフック付きロープを敵艦に次々と投げ込み、船を横に固定した。
そうなると、あとは水夫の仕事。
「お待たせしました。シクル見参!!」
腰の鞘からクルスソードを引抜き、シクルが敵船に飛び乗る。
そして次々と抵抗する海賊達に正義の鉄槌を叩き込むと、船長らしき人物のいる船尾甲板へと走り出した!!
「もう諦めてください!! 貴方たちの仲間の船は既に降伏しています!!」
そのシクルの言葉に、敵船長は怯むことなくショートソードを引き抜くと、そのままシクルに斬りかかった!!
──ガギィィィン
激しく叩き込まれた一撃をシクルはソードで受止める。
「ならば!! 貴様だけでも道連れにっ!!」
そう叫びながら、敵船長はそのままパワーチャージ。
鍔迫り合いから一気にシクルを床に付き倒した。
「とどめだっ!!」
素早く剣を振りかざした敵船長。
──ドシュドシュドシュッ
だが、その腕は振りおろされなかった。
ラグファスとラックスの放った矢、さらにインヒのムーンアローが敵船長に突き刺さったのである。
血を流しながら、其の場に崩れた船長。
「ふう。助かりました・・・・」
そのままシクルは船長をロープで縛り上げると、甲板上で抵抗を続ける海賊達に聞こえるように叫んだ。
「あなたたちの船長はご覧の通りです。まだ抵抗を続けますか? その時は私達も容赦しません!!」
その叫び声を聞き、一人、また一人と武装放棄。
そして敵海賊は全員投降した。
この戦いの勝利の鍵は、ウィザード達の最大の弱点である『詠唱中の精神集中』。
そのタイミングをこちらが握り締めたのが勝因であろう。
──敵船
静かに敵船に乗り込むと、一行は海賊達を縛り上げた。
ウィザード達には念入りに猿轡をかませて詠唱も出来ないように。
そして、水夫を手分けして敵船と『バイオレット・キャット号』に分乗させると、一行は『アイアン・ギア号』、『グレイス・ガリィ号』と並び、一路ドレスタットへと向かっていった。
●ドレスタット〜守りきりました〜
──ドレスタット沖
無事にシーラット団の襲撃を阻み、一行は敵海賊を撃破してドレスタットに凱旋。
沖合では、最悪シーラットの襲撃があるやもしれないと思った商人達が、それぞれの船を並べて湾前に船の要塞を築いていた。
だが、『アイアン・ギア号』を始めとする冒険者達を乗せた船団の姿を確認すると、ひとつ、またひとつと港に戻っていった。
そして颯爽(さっそう)と一行の乗った船も港に入っていく。
船着き場では、大勢の人たちが一行を暖かく迎えてくれた。
いよいよ開港祭。
冒険者達は長い船旅から解放されると、そのまま街に向かって歩き出した・・・・。
〜Fin〜