アサシン・ガール〜物語の好きな少女〜

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月30日〜11月04日

リプレイ公開日:2004年11月03日

●オープニング

──事件の冒頭
 それはとある日の昼下がり。
 冒険者ギルドで、サン・ドニ修道院のシスターが受付嬢と話をしてた。
「今回は、物語を作って聞かせてあげるのですか? えっと、『アンリェット』ちゃんでした?」
「いえ、今回は別の子なのです。『プティ・アンジェ』と言う名前です。私の名前『アンジェラス』から取りました。天使のように純粋にという願いを込めまして・・・・。そのアンジェに、物語を聞かせてあげて欲しいのです・・・・」
 
〜おさらいついでに、かいつまんで説明しよう
 ある日、自警団の団長が別の少女達を連れて修道院を訪れた。
 最近になって活発に行動している秘密結社のメンバーとして育てられてきた少女をまた保護、彼女にも普通の人としての生活が出来るように教えてあげて欲しいという事である。
 この子は13歳。アンリエットと同じ様に、一流のアサシンとしての教育を全身に刻みこまれていた。
 そのため、今回もセーラの加護の元、少女を更正するという条件で処罰は逃れたのであった。
〜ということで

「今回の子も、素性がまったく判らなかったのですね?」
「ええ。アンジェは名前も判らなかったのです。それに、今でもシスター達とは打ち解ける様子もなく、冷たい表情で、何もしないのです。ただ『物語』を聞かせてあげると、穏やかな表情になり、ある程度の手伝いもしてくれるのですが・・・・最近では、物語を話すにも、ネタが底を尽きてしまいまして・・・・アンリエットの時のように、あの子も幸せにしてあげたいのです‥‥」
 そのシスターの頼みとあらば、断わる筋合いもない。
「ウッウッウッ・・・・可哀想なアンジェちゃん。この私が最高の物語を・・・・」
──スパァァァァァン
 新人受付嬢の後頭部に、ハリセンチョップをかます薄幸の受付嬢。
「はい、そこまで。あなたは書庫の整理にいってらっしゃい!! ごきげんようシスター・アンジェラス。その依頼は受け付けさせて頂きます。依頼書の作成を行ないましょう」
 そのまま薄幸の受付嬢は、シスターの話をまとめて依頼書を作成すると、それを掲示板に張付けた。

●今回の参加者

 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1671 ガブリエル・プリメーラ(27歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea2816 オイフェミア・シルバーブルーメ(42歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea5066 フェリーナ・フェタ(24歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ロシア王国)
 ea6109 ティファル・ゲフェーリッヒ(30歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea6332 アヴィルカ・レジィ(16歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●またまたでましたサン・ドニ修道院
 パリ郊外。
 セーラ神を奉っているその修道院には、毎日多くの礼拝者達が訪れています。
 そして、貴族を始めとする様々な身分の女性達が、この修道院で礼節や女性としてのマナーなどを学んでいます。

 そこはサン・ドニ修道院。
 『セーラの乙女たち』の学び舎。

──修道院にて
「ご苦労様です。シスター・ラテリカ。シスター・フェリーナもお元気で何よりですわ」
 修道院長のシスター・アンジェラスが丁寧に一行に挨拶をする。
「それに皆さんもようこそ、サン・ドニ修道院へ。あの男の子は今日は諦めたようですわね」
 前回の依頼で果敢にも突入してきたシフール。
 今回は、マッチョの園でなんのその。
「宜しく御願いしますわシスター」
 ガブリエル・プリメーラ(ea1671)が丁寧に挨拶。
「それでは、まずは十字架の授与をさせていただきます。この修道院での規則ですので」
 ちなみに、ラテリカ・ラートベル(ea1641)とフェリーナ・フェタ(ea5066)は前回、前々回で授与は終わっていた。
 懐から十字架を取り出して付ける二人。
 そして横からシスター・レイホウがやってくると、二人に聖書を手渡した。
「それでは、こちらへどうぞ」

──礼拝堂
 一行は一旦礼拝堂に案内されると、シスターより十字架を授けられる。
「これを付けていない方をここにお泊めすることは出来ませんので‥‥」
 そう告げると、シスター・レイホウが、側に立っているラテリカに十字架の入った箱を渡す。
 それを受け取ると、ラテリカは ガブリエル、オイフェミア、 ティファル、アヴィルカの順に十字架を授ける。
「主よ‥‥この者に、祝福を‥‥」
 一人一人順番に十字架を受け取る。
 それが終ると聖書の貸与。
 自前で聖書を持っている者はそれを、無い者はここで貸与されることになっていた。
 そして一行は、ようやく修道院内を自由に歩けるようになった。


●プティ・アンジェ〜物語を聞かせて〜
──大部屋
「こんにちはー」
 にっこりと微笑むガブリエル。
 窓辺でじっと外を見ているちいさな天使、プティ・アンジェ。
 その近くに寄っていくと、一行は丁寧に挨拶を始めた。
「あたしはオイフェミア。宜しくね」
「うちはティファルや。よろしゅう頼むな!!」
「私はアヴィルカです。宜しく御願いします」
 オイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)とティファル・ゲフェーリッヒ(ea6109)、アヴィルカ・レジィ(ea6332)が次々とアンジェに挨拶。
 だが、アンジェはにっこりと笑うでもなく、表情一つ変えずに『宜しく』とだけ返答。
(‥‥目つきがまだ危険ね‥‥暗殺者として染み込んでいる知識や技術が、この子を蝕んでいるわ)
 オイフェミアは心の中でそう呟く。
 とりあえず昼食を軽く戴いた後、シスター達は午後の九時課(祈り)までの間、ゆっくりと身体を休める。
 聖歌隊は、まもなく始まる『賛美歌合唱祭』の為の練習を始めた。
(ウズウズ‥‥)
 聖堂から聞こえる天使達の声。
 ラテリカはその声の誘惑に耐えつつ、アンジェやアンリエットとの御話を始めた。
「ラテリカは、アンジェさんと一緒に、お話を作ってみようって思ってるです」
 そのまま座っているアンジェとアンリエットの前で、ラテリカが二人に話し掛けた。
 その後方では、羊皮紙と筆記用具片手に、オイフェミアが他の仲間から話を聞きつつ、必死に絵を書いている。
「でははじまりはじまりー。あるところに、アンジェとアンリエットっていう中のいい姉妹が住んで居ました。アンジェとアンリエットは、どんな色が好きかな?」
 物語の中で、主人公達に着色していくラテリカ。
「赤」
「青」
「アンジェは真っ赤なリボンが、アンリエットは青いエプロンの良く似合う女の子でした‥‥」
 そのままラテリカは二人に物語を話しはじめる。
 と、それまでは表情一つ変える事の無かったアンジェが、物語に食い入るように耳を傾けている。
 何が起るのか? 自分と同じ名前の女の子達の冒険話に、いつしか二人は身を乗り出すように話を聞いていた‥‥。
「と、今日はここまでね」
 ある程度話に区切りが付くと、ラテリカはそういって御話を止める。
「もっと、続き‥‥」
 プゥッと膨れるアンジェに、ラテリカがなだめるように話し掛ける。
「御務めが終わったら、次のお姉さんがまた別の物語を話してくれるわ。私の御話は、またあした。それまで、ちゃんといい子にしていてね」
 そのラテリカの言葉に、アンジェは静かに肯くと、そのままシスター達と一緒に『九時課』に向かった。

──夕方
 『九時課』の後の休憩の後、シスター達は教会内での労働奉仕を始める。
 修道院内外の掃除洗濯、夕食の為の準備を始め、礼拝にやってきた人々の接待など、シスター達には多くの仕事が待っていた。
 アンジェとアンリエット、そして冒険者一同は建物の外、入り口と正門周辺の掃除に狩り出された。
 皆、手に箒を持ち、落ち葉を掃く。
 アンリエットは手慣れたらしく、サッサッと綺麗に掃いていたが、アンジェは箒を手に、じっと外を眺めていた。
「アンジェ‥‥これはエチゴヤマフラーといって、パリの道具屋で手に入れることができる貴重なものなのです。その店は色んな国に支店があるのだけど、どの国でもそっくりな商人が居るみたいでね‥‥」
 アヴィルカがサッサッと箒で庭を吐きながら、アンジェに話し掛けた。
「うんうん‥‥御話、それで?」
 と、先程までは無表情でボーッとしていたアンジェの瞳に輝きが入る。
「掃除を続けなさい。話はそのまま続けたらしてあげましょう」
 そのアヴィルカの言葉に、アンジェは見よう見まねで掃除を開始。
「その商人の家は、商人兄弟20人衆という大所帯でね。世界各地に兄弟が住んでいて、様々な物品を販売しているのです。このノルマンの商人は『エチゴヤマフラー』というマフラーを、イギリスの商人は‥‥」
 不思議な商人の物語。
 只の商人の物語が、途中から国を守る商人とか、お姫様との大ラブロマンスを演じた商人という、じつに多彩な商人の物語に発展していった。
 そして掃除が終ったとき、その物語も『明日に続く』となったのである。
 それでも、アンジェは満足していた。
 愉しい御話を聞けるのなら、どんな仕事でもやってみようという感じで‥‥。
 そして、その仕事中、オイフェミアは自分達に向けられている妙な視線に気が付いた。
(‥‥シルバーホーク?)
 そのまま視線を辿っていくが、それらしい人影はどこにも存在しない。
(あの子達を監視している何かがいるみたいね‥‥)
 とりあえずはそのまま作業を終えて一同と共に修道院の中へと戻っていく。

──晩の祈り・夕の黙想
 シスター達が全員、聖堂に集っていく。
 これから晩の祈りが始まる。
 冒険者一行、そしてアサシンガールズも、聖書を手に、司祭長の言葉に耳を傾ける。
 そして黙想。
 一通りの流れが終ると、一行はそのまま食堂へ移動。
 質素ながらも、きちんとした食事。
「今日一日の、神の御加護に感謝します」
 当番シスターの言葉と同時に、全員が手を組み、祈りの言葉を唱える。
『今日一日の、神の御加護に感謝します。主よ、私が空腹を覚えるとき、パンを分ける相手に出会わせてください‥‥』
 それが終るとようやく食事である。
 フェリーナはアンリエットの横で、ティファルはアンジェの横で、礼儀作法を教えている。
「アンジェは小食やな。もっと食べなあかんで。もっと食べれば、身体もおっきくなるんやで」
 ティファルが小食のアンジェに向かってそう告げる。
「食べておっきくなったら、いいことあるの?」
 そのアンジェの問いに、ティファルはそっとアンジェに耳打ち。
「ええか? 一杯たべたらおっきくなる。身体も心もおっきくなるんや。おっきいヒトは強いで‥‥ほれ、ガブリエルを見てみい。一杯食べたから、おっぱいまでおっきくなっとるわ」
 その言葉にアンジェはクスクスと笑う。
「‥‥何か、私のことを 言われたような気がしたのですけれど‥‥」
 そのガブリエルの言葉に、アンジェとティファルはクックッと笑う。
「じゃあ、アンリも一杯食べる。ティファルお姉ちゃんも食べようね」
「うんうん。うちも一杯食べてオッパイ大きくって、どういう意味やぁ!!」
 その激しい突っ込みに、シスター達が一斉に二人を見る。
「あ、すんまへん。静かに食べますわ」
 
──自習・講話時間
 食後の休息の後、シスター達は自習の時間になる。
 司祭長や他の年長シスター達は講話の時間を設け、希望者に話を始める。
 一行は大広間に集ると、ガブリエルが物語を始めた。
 オイフェミアは用意した絵を広げ、物語に合わせて次々と絵を披露していった。
「あのね。世界一勇敢な狐の物語をしましようね。それは、ずる賢くて、力があまりないので餌を取る際には騙して取る、森の嫌われものの狐の物語。ある日、巣から落ち、お腹を空かせた一匹の雛と出会った狐は、太らせてから餌として食べてしまおうと優しいフリして連れて帰ったの‥‥」
 アンリエットは正座のまま、アンジェはフェリーナの膝の上にちょこんと座ってじっと話を聞いている。
 そのままガブリエルの物語に耳を傾ける二人。
 そのワクワクするような、それでいて哀しい物語は、オイフェミアの作った絵によって、さらに臨場感溢れる物語となった。

 そして自習時間が終り、一行は眠る前の祈りの時間。
 静かにベットの横で祈りを捧げる一同。
 今回は全員が大部屋に寝泊まりできるようにしてもらったらしい。
 アンジェとアンリエットの二人も、一緒の部屋である。
 二人がトイレに行っている最中に、オイフェミアは昼間自分が感じた事を全て仲間たちに報告。今以上に周囲に対して注意する必要があると、一行は改めて考え直した。
 そして就寝時間。
 静かに夜の帳が降り、静かな眠りに付いた‥‥。


●2日目〜歌を歌いましょう〜
──起床から
 修道院の朝は早い。
 また日が昇る前から起き、まずは夜間の祈りを捧げる。
 その後、寝具等を片付けてから朝の祈り。
 そして一休みしたのち、ミサ聖祭の時間がやってくる。
 パンとぶどう酒が捧げられ、それが司祭の手を通して信者やシスター達に分け与えられる。
 ミサ聖祭の時間も、アンリとアンジェの二人は静かである。
 そしてそれが終ると朝食、聖なる読書、三時課、朝の労働奉仕と続く。
 労働奉仕の時間、一行は聖歌隊の元で賛美歌を学んでいた。
「はわわわわ〜」
 その天使の歌声に、ラテリカはメロメロ。
「皆さんもご一緒にどうぞ」
 聖歌隊のリーダーが一行を歌の輪にさそう。
「ですが、賛美歌合唱祭の為の練習ではないのですか?」
 そう問い掛けるラテリカに、リーダーは頭を左右に振った。
「私達は、常にセーラさまに届ける歌を練習しているだけです。その成果を合唱祭として皆さんにもお届けしているだけ。その為の練習ではありませんし、なにより心の底から感謝の気持ちを表わしていればよいのですよ、どうぞ〜」
 そのまま聖歌隊に誘われる一行。
 アンジェもその中に入れてもらうと、ガブリエルにフォローしてもらいながらゆっくりと歌を奏でる。
 ちなみにラテリカはというと‥‥。
「はわわわーーーーー。この一体感‥‥(至福)」
 既に歌の世界に溶けこんでしまっている模様。

 そして労働が終り六時課までのわずかな時間も、一行はアンジェに物語を話していた。
「今日はうちがお話したるで。『ブルーメとカッツェの冒険』始まりや!!」
 そのままティファルは静かに話を始めた。
 見習いのウィザードである少女ブルーメはある日師匠の課題である魔法の練習をしていた。
 ところが呪文を間違えてしまい魔法は失敗、その副作用で時間を問わず突然体が小さくなってしまうようになり、しかも小さくなった時には鳥や動物と会話出来るようになる‥‥。
 そのハラハラドキドキの物語に、アンジェとアンリエットの二人はのめりこんでしまっていた。
 やがて六時課の時間がくると、一行は物語を『次回に続く』と切り上げて一緒に御昼を食べる。
 
 そんな愉しい日々が過ぎ行く。
 最後の日。
 全ての御務めを終えて一行は帰路につくこととなった。
 そして修道院長に挨拶を行うと、正門まで見送りに来てくれたアンジェとアンリエットにそっと挨拶をする。
 アンリエットは哀しそうな顔をしていたものの、また来てくれるという約束を守ってくれた皆を温かい目で見送ってくれた。
 だが‥‥。
「やだやだやだ。アンジェ、皆とお別れしたくない!! もっと御話するのー」
 泣きながら我が儘をいうアンジェ。
「アンジェ。私の御話はまだ終っていないですよ」
「そうそう。カッツェもまだ冒険の途中や。まだまだ愉しい出来事が待っているで。でもなぁ‥‥アンジェが我が儘云うと、カッツェも冒険に出れなくなてってしまうんやで?」
 ラテリカとティファルが宥めるようにそう告げる。
「アンジェ。狐の物語を覚えている?」
 そのガブリエルの言葉に、アンジェはコクリとうなずく。
「そう。なら、アンジェも狐みたいに勇気を持ってね」
「そうそう。まだ商人の物語は15人も残っているのです。また今度、ここを訪れたときに御話の続きをしてあげましょう」
 アヴィルカがそう告げたとき、アンジェは涙をじっと堪えていた。
 そしてオイフェミアはしゃがみこんで、アンジェを抱しめた。
「いい? 私達が来るまで、いい子にして待っていてね。私達は優しいアンジェが好きなの。それを約束してくれたら、今度はもっと愉しい御話をしてあげるね‥‥」
 そして一行は別れを告げた。
 さようならではない、『また今度ね』という、未来に繋がる挨拶を。

〜Fin