【収穫祭〜】セーラ様にラブソングを〜

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月31日〜11月05日

リプレイ公開日:2004年11月04日

●オープニング

──事件の冒頭
 パリ郊外。
 ブルーオイスター寺院では、収穫祭に行われる『賛美歌合唱祭』の為の準備に大忙しであった。
 ちなみに『賛美歌合唱祭』とは、パリ郊外の大小様々な寺院や修道院が行う『賛美歌の披露祭』。年に数回行われるこの祭りは、毎年秋の収穫祭にも行われ、多くの信者達から絶賛を浴びていた。
 当然、参加者達は神職に付いている身、報酬や賞金といったものは存在せず、ただ純粋に自分達の歌を天に届けようと頑張っているのである。
 そして今年も、『賛美歌合唱祭』の日が訪れようとしていたが・・・・。
 ブルーオイスター寺院の聖歌隊たちが体調を崩し、今年の参加は見送られそうになってしまった・・・・。
 そこで聖歌隊隊長は思いついた!!
 先日、サン・ドニ修道院から奉仕活動にやってきた冒険者。
 あの献身的な奉仕の心。
 隊長は、聖歌隊の補欠を冒険者で補おうと考えたのである。

──という事で冒険者ギルド
「・・・・つまり、歌の上手な冒険者を雇いたいのですね?」
 薄幸の受付嬢は、目の前の『マッチョなクレリック、コールドバーグ神父』にそう問い掛けた。
「ええ。是非、歌の美味い冒険者を。それと、我が寺院はセーラ神に仕える男性の為の寺院。女性の冒険者はお断りさせて戴きます・・・・」
 上腕二頭筋を異様に膨れ上がらせながら、マッチョクレリックは静かにそう告げる。
(・・・・この手の依頼者は久しぶり・・・・うう、恐い・・・・)
 そう心の中で震えながら、薄幸の受付嬢は依頼書を作成すると、そのまま掲示板に張付けた。


●今回の参加者

 ea1559 エル・カムラス(19歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea1872 ヒスイ・レイヤード(28歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ea4190 ガリンシャ・ノード(36歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4251 オレノウ・タオキケー(27歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6561 リョウ・アスカ(32歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)

●リプレイ本文

●やってきましたブルーオイスター寺院
 パリ郊外。
 セーラ神を奉っているその寺院には、毎日多くの礼拝者達が訪れています。
 そして、貴族を始めとする様々な身分の男性達が、この修道院で礼節を始め、様々なマナー、はては騎士見習いとして必要な『献身』の心を養う為に、日夜様々な事を学んでいます。

 そこはブルーオイスター寺院。
 『セーラの漢たち』の学び舎。


●寺院にて〜初めましてとご無沙汰していますと『任務ご苦労』〜
──寺院長室
 質素なつくりの院長室。
 依頼を受けた冒険者一同は、正門を通ったときに一人の神父に挨拶を行った。
 そして、神父に案内されるままに、院長室にたどり着いたのである。
「これはこれはご苦労様です」
 アルバと呼ばれる長白衣を着、その上にチングルムという紐帯を腰にしめている。ストラと呼ばれている襟垂帯を身につけ、その上にプラネタと呼ばれる祭服を纏った、実に荘厳で威厳のある姿。
 そして綺麗に揃えられた髪とも同じく綺麗な髯。
 この寺院の院長である『エドワード・シンプソン院長』が、一行を丁寧に迎え入れた。
「これはご丁寧に。依頼を受けた以上は、しっかりとした仕事をさせて貰う」
 ガリンシャ・ノード(ea4190)が丁寧に返答する。
「シンプソン院長さま、ご・ぶ・さ・た!!」
 色っぽい視線でそう話し掛けたのはヒスイ・レイヤード(ea1872)。
「これはヒスイさん。御元気そうで何よりですが‥‥相変わらずですね、その恰好は」
 ハァァァっと溜め息混じりに告げるシンプソン院長。
「ええ。目的を達成するまでは‥‥それと、コールド神父はご健在でしょうか?」
 その問い掛けに、シンプソン院長は頭を抱えた。
「ええ。相変わらず敬謙なる使徒としての役割を全うしていますよ。もっとも、コールド神父は片寄った部分が有りますが‥‥。今も、冒険者ギルドから冒険者を一人連れて戻ってきた所ですが‥‥」
 はぁ?
「今回の依頼を受けたのは、私達だけではなかったのか?」
 グレートマスカレードに刺繍入りローブ、三味線片手にエチゴヤマフラー。
 とんでもなく奇抜な恰好でそう呟いたのはオレノウ・タオキケー(ea4251)。
「あ、そう言えば、俺達以外にも一人、依頼書を見ていたシフールがいましたねぇ。あの子の事でしょうか?」
 リョウ・アスカ(ea6561)が何を思い出したかの用にそう告げる。
 そして一行は、なにはともあれ聖歌隊達の居る礼拝所へと案内された。

──礼拝所
「うっうっうっ‥‥」
 綺麗に磨かれたセーラ像。
 その前で、エル・カムラス(ea1559)は涙を流しながら祈りつづけていた。
「セーラさま。どうして僕はここに居るのでしょうか‥‥」
 確か、ギルドヘ新しい依頼を捜しに行った筈。
 対してめぼしいものが無かった為、ギルドを後にして‥‥そこから意識がない。
「これはこれはエル君。今回も貴方の奉仕の心に感謝します」
 後ろから声をかけてきたのはコールド神父。
 礼服がはちきれそうなほどの筋肉質、綺麗に刈り上げられた髪、綺麗に日焼けした褐色の肌、そしてニィッと微笑むと、口許に輝く白い歯。
 レザーアーマーを装備したら何処かのファイターと見間違えられそうではあるが、れっきとしたクレリックである。
「うっうっうっ‥‥マッチョ神父だぁ〜」
 涙腺が開放され、ドーッと涙が零れ落ちる。
──ギィィィッ
 礼拝所の扉が開かれると、そこから冒険者一団が静かに入ってくる。
「おお、ヒスイではないか。久しぶりだな!!」
 コールド神父が入ってきた冒険者の中からヒスイの姿を確認すると、そのままカツカツと歩いていって力強く抱擁。
 だが、その抱擁をヒスイは素早く回避したため、すぐ後ろのオレノウに抱きつき熱い抱擁。
「うっ‥‥うわぁぁぁぁ。マッチョぉぉぉぉぉ」
 絶叫を上げるオレノウ。
(相変わらずの熱苦しさですね‥‥)
 額から流れる汗を拭いとり、ヒスイが心のなかでそう呟く。
「神父殿。私はこちらです。今回は依頼でやって来ました‥‥って、どうしてエル君がここに?」
 かなり昔ではあるが、ヒスイは1度、エルと共に冒険に出た事があるらしい。
「ウッウッウッ。依頼を‥‥受けさせられたぁぁぁぁ」
 その涙声に、リョウは後ろで目を瞑り合掌。
(南無‥‥)
「まあ、何はともあれ依頼を受けて頂いて助かります。今回の依頼ですが、後日行われる『賛美歌合唱祭』のメインを歌って頂きます。幸い、当日までは数名が回復すると思いますが、彼等にすぐメインを歌って頂くのは無理かとおもいまして‥‥」
 コールド神父が真面目な顔をしてそう告げる。
「判った。まあ、俺達が来たからには安心だ。大船に乗った気分でいてくれ」
 ガリンシャの言葉に、笑みを浮かべて肯く神父。
「そんな大船沈んでしまえーーーーっ」
 というエルの言葉はさておき、一行はまずは十字架貸与の儀式を行った。

 サン・ドニ修道院と同じく、寺院内での生活を送る為の必要な儀式。
 礼拝堂で冒険者一行は、セーラ神へと捧げる詞を告げ、神に祈る。
 その後、神父から十字架と聖書と純白の褌を貸与。
 普通は褌は授与されない筈だが‥‥はて?
 晴れて一行は、寺院での生活を送る事になったのである。


●トレーニング〜歌は肉体から〜
──朝
 寺院での生活はかなり厳しい。
 戒律に束縛され、沈黙と孤独のうちに、神と共に生活する場である。
 朝は3時すぎには起床。
 夜間の祈りを捧げ、寝具などの片付け作業を行う。
 身だしなみを整えると、次は朝の祈り。
 それが終ると、引き続きミサ聖祭が始まる。
 そして質素な朝食を取り、朝の聖なる読書。
 三時課と呼ばれる祈りの時間を迎え、そして労働奉仕が始まる。
 日課の内容はサン・ドニ修道院となんら変わりがないのは、ここもセーラ神を奉っている寺院だからであろう。
 そして労働時間。
 寺院にて生活をしている神父達は寺院内の清掃や礼拝者達のお相手など、皆が自分の出来る事を積極的に行なっているが‥‥。
 聖歌隊は、この時間に歌の練習などを行なえるよう院長に許可を貰っていた為、冒険者達はそのまま庭へと出ていった。

──中庭
「噂ではとんでもない寺院だって聞いていたのだが、対した事はないな‥‥」
 そのガリンシャの問い掛けに、エルが静かに呟いた。
「普段の生活は普通以上にまともなんだよぉ‥‥だから、ウッウッウッ‥‥」
 泣き声が静かに響く中、コールド神父が姿を表わす。
 上半身裸の涼しげな恰好。
「さて、諸君。歌の練習を始めよう。まずは正しい発声練習を行うまえに、基礎体力を付けることとする!! 是から寺院を出て走りこみを敢行する。諸君は私の掛け声に合わせて腹の底から復唱するように!!」
 その神父の言葉に肯くと、一行はさっそく走りこみ開始。
 寺院正門を抜けて、そのまま畑横のあぜ道をひた走る。
「セーラの教えを知ってるか〜い!!」
 いきなりコールド神父が叫び出す。
『セーラの教えを知ってるか〜い!!』
 慌てて復唱する一行だが、あまりにも突然の為声がバラバラである。
「悩める者には愛の手を〜」
『悩める者には愛の手を〜』
「其の手に掴める幸せは〜」
『其の手に掴める幸せは〜』
「他人に施す幸せだ〜」
『他人に施す幸せだ〜』
「祈りなさい」
『祈りなさい』
「祈りなさい」
『祈りなさい‥‥はぁ』
 そのままひたすら走りこみ、徐々に声にテンポを付けていく一行。
 やがて寺院に戻ったら、ちょっと休憩の後、腹筋、背筋、腕立て臥せと、とても合唱に必要とは思えない筋力トレーニングが続いた。
 すでにエルはグロッキー状態。
 ガリンシャとリョウはファイター故に体力には自信あり。
「まだまだぁ!!」
「そうですね。この程度のトレーニングは、戦士としての基本です!!」
 とまあ、余裕綽綽な表情の二人。
 ヒスイはここの寺院出身。この手のトレーニングは基本中の基本らしく『慣れ』ていた模様。
 だが、問題はこのご一行。
「神父さま、もう駄目ですぅ〜」
「お、同じく‥‥こんなトレーニング、いきなりは無理である!!」
 エル&オレノウのバードチーム、ギブアップ。
 今回の依頼でもっとも適しているバードなのに‥‥。
「よろしい!! ではこれより礼拝堂へ向かう。6時課の時間だ!!」
 祈りの時間なので特訓は終了。
 だが、この後、午後の特訓、食後の特訓と、とにかく体力づくりの特訓が続いた。
 夕食の後の自習時間は、皆で歌の歌詞を考えたり、実際の賛美歌を歌うなど、本格的なトレーニングが開始された。
 そして就寝の時間。
 エルは、部屋の隅で毛布にくるまってじっとしていた。
 話によると、以前ここで奉仕活動をしていた時は、毎晩、神父が添い寝をしてくれたらしい。
 寂しくないようにとの配慮であるが、上半身裸のフンドシマッチョに一晩中抱きつかれ、それが3日も続けば、マッチョ恐怖症にもなろう。


●そして賛美歌合唱祭〜弾けました怒られました?〜
──合唱祭会場
 あの後、一行は日夜トレーニングを続けていた。
 無事に賛美歌も完成し、いよいよ披露となる。 パリ郊外の様々な寺院や、ちょっと離れた地方領主の元の修道院など、さまざまな場所から聖歌隊が集っている。
 皆、セーラの使徒として務めを果たしている。
 そしていよいよ、ブルーオイスター寺院の出番である。
 奇跡的に回復した他の神父達は後ろで合唱のみ。
 冒険者一行はそれぞれが専門のパートを務めることとなった。

──賛美歌詠唱♪〜
『私達の全てを お献げします
 私達は日々主を愛し 全てをお委ねします』

 天使の合唱が静かに響き渡る。
「おとめマリア母として生まれししみどりごは、
 真の神 この地上を彷徨い 愛の手を振りまく♪〜」
 まずはヒスイが前に出る。
「『神に栄えあれかし』と、御使いらの声すなり、
 地なる人も伝え この世界に 広まるであろう
 いにしえの古き御言葉は今ぞ人となりたもう。
 待ち望みし主の民よ 今こそ その手で♪〜」
 スッと下がり、再び合唱。

『私達の全てを お献げします
 私達は日々主を愛し 全てをお委ねします』
「セーラ その優しき眼差しに 〜
 セーラ 我が筋肉は震える〜
 セーラ その御許で〜
 セーラ 鍛え上げられし筋肉は〜
 セーラ 揺るがぬ愛へと変わる〜」
 後方、合唱の影でそう歌うのはパート担当のオレノウ。
 前に出ないのは、最後のトリの為。
 しかし、いきなり雰囲気が怪しくなる。

『私達の全てを お献げします
 私達は日々主を愛し 全てをお委ねします』
「神様を信じてる、僕はそう思うよ‥‥。
 きっと僕らが出会えたのは神様の祝福があったのだから‥‥。
 それはきっと神が夢の途中でくれた大切な愛の宝物なのだから♪〜」
 続いてリョウが前に出る。

 人前で歌うというのは練習中でも体験していたが、実際にこれだけ大勢の信者達の前で歌うとなると、流石に緊張。
 音程は外さなかったものの、顔が真っ赤になっている。

『私達の全てを お献げします
 私達は日々主を愛し 全てをお委ねします』
「我が悩み知り給って。そは主セーラのみぃ
 我が悩み知り給って。主に栄光あれ‥‥ウッウッ。
 ボクの悩みは おお主よ
 我が身のピンチだ おお主よ
 行く手は知らねど おお主よ
 主は知って御願い おお主よ♪〜」

 前に出て、涙声でそう訴えるエル。
 実際は自分の窮地を助けて欲しいと哀願しているのだが、その涙と歌詞が、信者達の心を打った。

『私達の全てを お献げします
 私達は日々主を愛し 全てをお委ねします』
「輝く陽を仰ぎ、煌く星月を眺め、紫染まりし空の下
 その時いつも思いしは、ただ一つ
 祈り捧げしは、ただ一つ
 讃えしは、我が主。
 たとえ、筋肉な神父が褌を身につけているのを見ても
 その神父に褌をつけさせられても‥‥多分♪〜」
 ガリンシャが前に出て、拳を握りつつ声を張り上げた。
 この辺りからテンポが代わり、妙にノリのよい曲に鳴りつつある。
 そして聖歌隊が身体を左右にゆすりつつ、手拍子でリズムを刻みはじめたとき!!
──ドガッ
 合唱している神父達が左右に移動。
 その中心からグレートマスカレードと刺繍入りローブを身に纏い、三味線片手に颯爽と登場するオレノウ。首に巻いているエチゴヤマフラーが悩ましい。
「祭壇で両手をついてぇ。無心に祈っている。
 やっぱり御許に召されるんだな〜♪
 逝ったきりなら幸せになるがいい〜
 戻る気になりゃリバース掛けよう〜♪
 せめて少しは涙ながさせてくれ
 御許で逢えるとぉ〜 解っていてもぉ〜〜♪」
 最後のシーンでは、首に巻いたマフラーを手に取り客席に向かって投げつけた。

『私達の全てを お献げします
 私達は日々主を愛し 全てをお委ねします‥‥』
 テンポがいきなり戻ると、全員で合唱。
 そして静かに礼をすると、そのまま退場。

「はっはっはっ。いい。実に良かったよ!!」
 拍手でそう話し掛けたのはコールド神父。
 だが、一行は、最後のトリの部分でお客が『完全に引いていた』のを肌で痛感していた。
 そして一行は、そのまま依頼終了の報告を院長に告げると、ブルーオイスター寺院を後にした。

 なお、コールド神父はしばらくの間、聖歌隊のリーダーから降格されたということを皆には伝えておこう。
 そしてシンプソン院長の元に、次回以降はしばらく賛美歌合唱祭に参加しないで欲しいという連絡があったのも、その直後である。

〜Fin