【開港祭】〜駆け抜けろ駿馬〜

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月06日〜11月11日

リプレイ公開日:2004年11月10日

●オープニング

──事件の冒頭
「もう一つ盛り上りが欲しい所ですな」
 とある貴族の屋敷での御茶会の席。
 顔馴染みの5人の貴族達に向かって、御茶会の主催者であるアロマ卿がそう呟いた。
「ええ。開港祭が始まりましたけれど、収穫祭のような華やかさがないですね」
 一人の貴族がそう問い掛けた。
「では、一つ提案しましょう。ここにいる6名の貴族の皆さんは、皆、馬が好きな人たちですね。自分の屋敷とは別に厩舎を持つほどの道楽者がこれだけそろっているのですから、一つ、レースなどしてみませんか? 自分の厩舎で生まれ、手塩に掛けて育て上げた名馬を使って‥‥」
 そう告げると、他の貴族達も興味深そうな顔をして見せた。
「それは素晴らしい。で、馬に乗るのは私達ですか?」
「まさか!! そんなときのために打ってつけの人たちが居ますから‥‥」

 ──ということで冒険者ギルド
「馬に乗れる冒険者を6名? あんた方貴族っていうのは、なんでそんな下らない事に金を遣いたがるんだろうねぇ‥‥」
 新米受付の兄さんが、あっけらかーんとした表情でそう問い掛けた。
「まあ、そう言わないでくれ。これも祭りを盛り上げる為。兎に角馬に乗れる奴を6名だ。乗れない奴は、馬小屋の番兵にでもするからな」
 そして依頼書を作りあげると、アロマ卿は受付にサッと手渡して其の場を後にした。
「ふぅん‥‥まあいいけれどねぇ。あの人たちはスポンサーだし、こっちは儲かるし‥‥と。掲示板掲示板!!」
 そのままギルドマスターの了承印を受けると、受付の兄さんは依頼を掲示板に張付けた。

●今回の参加者

 ea1911 カイ・ミスト(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea5804 ガレット・ヴィルルノワ(28歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ea5894 マピロマハ・マディロマト(26歳・♀・神聖騎士・シフール・ノルマン王国)
 ea7983 ワルキュリア・ブルークリスタル(33歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea8216 シルフィーナ・ベルンシュタイン(27歳・♀・ナイト・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●まずはご挨拶〜たのむぞ愛馬よ〜
──ドレスタット郊外
 今回の依頼を受けた冒険者達は、まずは自分のパートナーである馬の調教を行う為、各自が貴族の元へと移動開始。
 
──オロッパス卿宅
『私はカイ・ミストと申します。さっそくで申し訳ないのですが、今回の相棒を紹介して頂けませんか?』
 イギリス語でそう挨拶をするカイ・ミスト(ea1911)。
 幸いな事に、オロッパス卿はイギリス語も話せた為、話はスムーズに進んでいた。
「これが、貴方に御願いする『風のグルーヴ』です。牝馬ながら、いい体つきをしていましてね。我が家にいる他のどの馬よりも、しっかりとしています」
 近くで馬の世話をしている男が静かに歩いて来ると、ゆっくりと二人に挨拶をする。
「旦那さま。『風のグルーヴ』はいつでも走れます。馬具の準備はどうしますか?」
『取り敢えず、毛繕いをさせてください』
 そう話す厩舎員に、カイはイギリス語で話し掛けるが。
 残念なことに、まともに言葉が通じない。
 ただ、少しは貴族に学んでいたのであろう、カタコトではあるが意志は通じているようである。
 ちなみにカイ、ギルドで通訳を斡旋してもらおうと思ったが、今動ける暇そうなシフール通訳は予想以上に予算が高い。
 参考までに上げておくと、現在のカイの全財産なら2日が限度である。
「えーっと。ちょっと待っててください」
 そのまま厩舎員は毛繕いの道具を手に、カイの元へと戻ってくる。
 まずは毛繕い。
 そしてこれからのスケジュールを練り上げ、厩舎員にそれを伝える。
 厩舎員も調教スケジュールについては理解したらしく、そのままカイのスケジュールに合わせて色々と準備などをしてくれていた。

──アロマ卿宅
「いい目をしているな‥‥」
 目の前で静かに立っている『怒りのブライアン』を見ながら、真幌葉京士郎(ea3190)は静かにそう呟いた。
「ええ。ブライアンは良い馬です。ただ、この子は長距離には強いのですが、短距離にはどうも‥‥」
 その言葉に耳を傾けつつ、京士郎は静かに馬の背を撫でる。
「そうか、こいつは『無頼庵』というのか、その名気に入った! 昔、お前が背負う名によく似た二つ名を持つ者がいたという、時は流れ所は変わったが、その名と共に駆け抜け、勝利を掴もう」
 どうやら京士郎はブライアンを気に入った模様。
 そして体当たりのトレーニングで、京士郎はとにかく無頼庵との絆を深めていくことにした。

──ディービー卿宅
 どちらかといえば黒鹿毛色の体毛。
 精悍な顔つきの牡馬。
「ねー、リンゴあげていい?」
 ガレット・ヴィルルノワ(ea5804)は途中の市場で購入したリンゴを手に、馬主であるディービー卿にそう問い掛けた。
「はっはっはっ。構いませんよ。この子の世話や調教は全て貴方に一任しますから。必要なものがありましたら、厩舎員に聞くといいでしょう」
「わかりましたー」
 そのままガレットは厩舎員に付き従い、日夜愛馬である『旋風のクリスエス』の世話を行った。
 体長や脚の怪我チェック、厩舎掃除などを行ない、『旋風のクリスエス』の体調を中心に考えたトレーニングを行なっていた。

──マイリー卿宅
「うっうっうわっうわっ!!」
 疾風の如く駆け抜ける『最強のキングズ』。
 マピロマハ・マディロマト(ea5894)はマイリー卿の元に挨拶に出向いた後、シフール用の馬具を装着した『最強のキングズ』に乗り込んだ。
 練習用のダートコース(つまり人通りの少ない街道)を、馬との相性や自分の騎乗技術を知る為に軽く駆け抜けたのだが、まったくもって予想外の出来事にであってしまった。
 一通りの走りこみを行ない、マピロマハはマイリー卿の元へと戻っていった。 
 疲れきった顔のマピロマハを拍手で向かえるマイリー卿。
「はっはっは。『最強のキングズ』を乗り熟せる騎手がいるとは思いませんでしたよ」
「い、いえ‥‥まだまだ‥‥」
 流石のマピロマハでも、この馬の制御はかなり難しい。
 ダグ(最も遅い常歩から速歩)からキャンター(駈歩)、そしてギャロップ(襲歩)への切り回しが予想外に早い。
 参考までにということで、マピロマハが計った速度はというと、200m(1F、1ファロング)を実に11しか数えないうちに駆け抜けた。
 体感時間ゆえ正確ではないが、それでも他の馬と比べればあきらかに早い。
 自分の愛馬よりも格段早いというのが、マピロマハには驚愕の事実であった。
 そして、騎乗技術には自信が在ったマピロマハでも、この馬を完全に乗り熟すのはかなり難しいと判断。
 トレーニング方法は、とにかく自分を鍛え、『最強のキングズ』との相性を高めようという方向になった。

──オークサー卿宅
「初めまして。エルフの白の神聖騎士、ワルキュリア・ブルークリスタルと申します。どうぞよろしくお願いいたします(ぺこり)」
 丁寧にオークサー卿に挨拶をするワルキュリア・ブルークリスタル(ea7983)。
 彼女の目の前では、乗馬スタイルで馬の手入れをしているオークサー卿が立っていた。
「ああ。よろしく御願いしますね。こいつが貴方の乗る馬『レディエルシエーロ』です」
 そういいながら、手綱をワルキュリアに手渡すオークサー。
 そのまま手綱を受け取ると、ワルキュリアは『レディエルシエーロ』にも挨拶。
 そして脚の状態も見逃さない。
「いい馬ですね。それにしっかりとした脚を持っていますね」
「ふむふむ。貴方にも判りますか。実は、この『レディエルシエーロ』には、『沈黙のサンデー』という馬の血が流れています」
「『沈黙のサンデー』といいますと。今回参加している『静かなるスズカ』と同じ血筋なのですか?」
 名前の意味合いが近い感じたワルキュリアの問いに、オークサー卿はにっこりと肯く。
「ええ。サンデーの血筋は特殊でして。この『レディエルシエーロ』のような鹿毛の馬はかなり走りに特化するのですが、『沈黙のスズカ』は最悪な事に栗毛なのですよ。その潜在能力は未知数、名馬か駄馬かというところです。この『レディエルシエーロ』もまた、名馬となる血筋。あとは貴方の腕しだいです」
 そう言われると、ワルキュリアも頑張らなくてはならない。
 兎に角、ここからの調教にはワルキュリアなりに気を使いまくったらしい。
 変な癖を付けない・無理をさせない・怪我をさせない・触れ合う時間を多く取る・速く走ることの楽しさを覚えさせる、この5点に重点おいた調教を心掛けるワルキュリア。
 果たして結果は‥‥。

──カイゼル卿宅
「最強の血筋ですかぁ‥‥」
 カイゼル卿の元に挨拶に行ったシルフィーナ・ベルンシュタイン(ea8216)は、そのまま今回自分が乗る馬『静かなるスズカ』について問い掛けていた。
「ええ。『静かなるスズカ』の中に流れている血筋『沈黙のサンデー』。私の父の時代、同じ様に馬を競い合った事があったらしていのです。その時のサンデーの勝敗は14戦9勝。ですが、この『静かなるスズカ』は生まれつき体力もあまりなく‥‥」
 そう告げるカイゼル卿。
「生まれつきですか?」
「ええ。脚回りや体躯、全身の筋肉などはいい感じについているのですが、あの馬は、まだ自分の走りというものを知っていないのです。それに、なぜか体力もあまりない。まあ、うまく調教してください」
 その話の後、シルフィーナは厩舎へと移動。
 馬との触れ合いを重点的に、そして『静かなるスズカ』の走りの特性をゆっくりと探り始めるシルフィーナ。
 体力については砂地を探し出し、そこでの調教を開始。
 そしていよいよ本番を迎えた‥‥。


●レース当日〜エモン・クジョーの『俺に乗れ!!』〜
──スタート地点
 レース当日。
 スタート地点には大勢の人が集っていた。
 とにかく娯楽を求めていた人たちにとって、賭けもできるこのレースは、まさに娯楽の殿堂。
「さあさあ、まだ受け付けは終ってないですよ!! 今の所一番人気は『レディエルシエーロ』。この私の予想屋魂がそう叫んでいます!!」
 旅の吟遊詩人エモン・クジョー。レースでは予想屋などやっている‥‥暇なんですねぇ。
 さらに、レース中は実況解説もするらしい。

「いい調子だ。そのまま落ち着いて‥‥」
 そっと馬体を撫でながら話し掛けているのはカイ。
 スタート前のこの喧騒に、自分を失わないようにと『風のグルーヴ』を撫でている。
「ゆくぞ無頼庵、人馬が一体になれば勝利は俺達のものだ!」
 京士郎が愛馬『怒りのブライアン』にそう話しながらスタートラインへと向かう。
「よしよし。マイペースマイペース‥‥」
 ガレットも『旋風のクリスエス』を宥めつつスタートラインへ。
 既に走りは見切った。
 あとは本番という感じのガレット。
「うわわわわ、落ち着いて、落ち着いてくださ────ーい」
 スタートライン手前で妙に興奮しているのは『最強のキングズ』。
 その背中で、マピロマハが必死に手綱を絞っていた。
「大丈夫、普通に走ればいいんです。楽しく走りましょう」
 そのキングズの横では、興奮しているキングズに影響されないように、必死に愛馬『レディエルシエーロ』を宥めているワルキュリアの姿もある。
 そして後方から、とにかくマイペースでトコトコと歩いてくる『静かなるスズカ』。
「君は本当にマイペースだねぇ‥‥」
 その背中では、シルフィーナが実に満足そうな感じで、馬なり(馬に任せて)に歩いている。
 ちなみに、鞭を振るうことなく馬に全てを委ねる事を『馬なり』、その状態で1F(約200m)走るという意味が『馬なり1ファロング』。
 まあ、そんな事は置いといて。

 各馬一斉にスタートラインに到着。
 そして今回のレースの主催者である6貴族から、アロマ卿が代表として前に出て挨拶。
 そしてそれが終ると、各馬一斉にスタートラインにつく。
「それではっ。よーーーい、すたーーーとっ!!」

 各馬一斉にスタートしました。
 まず先頭を切ったのが『最強のキングズ』。
 後方2番手から『怒りのブライアン』、そして『風のグルーヴ』、『旋風のクリスエス』、『レディエルシエーロ』と続く。
 『静かなるスズカ』は出遅れ、中段まで2馬身を走る。
「そうだ‥‥今は力を温存するんだ‥‥」
 ブライアンにそう話し掛ける京士郎。

 間もなく先頭はコーナーに差し掛かります。
 今のところ順位に変動はなし。
 このまま『最強のキングズ』の独走を許すのでしょうか‥‥。

「‥‥よし、行くぞ!!」
 カイが手にした手綱に力を込める。
 そのカイのタイミングで、京士郎、ガレットも徐々に前に詰める。

 コーナーを越えて最後の直線。この果てしなく長い直線で、果たしてどのようなドラマが待っているのでしょうか‥‥。
 ここで、中段より各馬ラストスパーート!!
 一斉に間合を詰めはじめたぁぁぁぁぁ。
 中段より『風のグルーヴ』が前に出た。
 そして『怒りのブライアン』、『レディエルシエーロ』、そして『旋風のクリスエス』が来た!!
 これは早い、『旋風のクリスエス』早い!!
 正に旋風の如く、『旋風のクリスエス』が走りはじめた!!

 一気に『最強のキングズ』の横にたどり着く『旋風のクリスエス』。
 おーっと。さらに後方、『静かなるスズカ』も前に出る!!
 遥か後方からついに中段、ゴールを目前のラストスパーート!!

「このままです。無理をする必要はありませんよ」
 あくまでも馬の馬の走りやすいペースで走るワルキュリア。
 貴族の嗜みとして学んだ程度の乗馬技術では、このような本格的なレースでは勝ち目はない。
 彼女は、レースを楽しむことにした。

 『レディエルシエーロ』後方へ。さらにどうしたのか『静かなるスズカ』、ここでスタミナが切れたのか? 2頭が前方、優勝争いから脱落だぁぁぁぁ。

「スパートしきれなかったのね‥‥貴方はもっと走れる筈なのに‥‥」
 悔しいが、『静かなるスズカ』は自分のペースを制御仕切れていない。
 もっと実践を積まなくてはと、シルフィーナは手綱を絞った。

 ゴールまで200。このまま乱戦でもつれ込む‥‥いや、来ました、まさに王者。その走りからは威風堂々たる力を感じます。
 『最強のキングズ』。ここで本領発揮だぁぁぁ。

「さて。いきますよキングズ‥‥栄光は私達の為にのみ存在するのです」
 目を細めてゴールを見据えるマピロマハ。
 そして最後の追込み、手綱を強く握り、一気にキングズに全てを委ねた。
 達人の技巧と天才馬の力が一つになる瞬間。
 全ての馬が、後方に消えていく。

 ゴォォォォォォォル。
 一着は『最強のキングズ』。
 そして2馬身差で『怒りのブライアン』、さらに僅差で『風のグルーヴ』、『旋風のクリスエス』。
 『静かなるスズカ』と『レディエルシエーロ』はゆっくりとゴール。

 レースは終了。
 その異様なまでの盛上りに、貴族達も満足であった。
「みなさんにお約束しましょう。このレース、たった1度で終らせるにはもったいない。私達6人の貴族による、全6戦のレースを行ないましょう!! 最強の馬を決める6戦、名付けて『グレード1』。開催日時は後日、改めて発表します!!」
 そして表彰式。
 トップ、2着までの二人が表彰台に昇る。
「おめでとうございます」
 6貴族から賞金の授与。
 そして盛大な拍手の中、優勝馬である『最強のキングズ』と、その騎手であるマピロマハは悠々とウイニングランを始めた‥‥。

〜Fin