●リプレイ本文
●まずはご挨拶〜たのむぞ愛馬よ〜
──ドレスタット郊外
今回の依頼を受けた冒険者達は、まずは自分のパートナーである馬の調教を行う為、各自が貴族の元へと移動開始。
──オロッパス卿宅
『私はカイ・ミストと申します。さっそくで申し訳ないのですが、今回の相棒を紹介して頂けませんか?』
イギリス語でそう挨拶をするカイ・ミスト(ea1911)。
幸いな事に、オロッパス卿はイギリス語も話せた為、話はスムーズに進んでいた。
「これが、貴方に御願いする『風のグルーヴ』です。牝馬ながら、いい体つきをしていましてね。我が家にいる他のどの馬よりも、しっかりとしています」
近くで馬の世話をしている男が静かに歩いて来ると、ゆっくりと二人に挨拶をする。
「旦那さま。『風のグルーヴ』はいつでも走れます。馬具の準備はどうしますか?」
『取り敢えず、毛繕いをさせてください』
そう話す厩舎員に、カイはイギリス語で話し掛けるが。
残念なことに、まともに言葉が通じない。
ただ、少しは貴族に学んでいたのであろう、カタコトではあるが意志は通じているようである。
ちなみにカイ、ギルドで通訳を斡旋してもらおうと思ったが、今動ける暇そうなシフール通訳は予想以上に予算が高い。
参考までに上げておくと、現在のカイの全財産なら2日が限度である。
「えーっと。ちょっと待っててください」
そのまま厩舎員は毛繕いの道具を手に、カイの元へと戻ってくる。
まずは毛繕い。
そしてこれからのスケジュールを練り上げ、厩舎員にそれを伝える。
厩舎員も調教スケジュールについては理解したらしく、そのままカイのスケジュールに合わせて色々と準備などをしてくれていた。
──アロマ卿宅
「いい目をしているな‥‥」
目の前で静かに立っている『怒りのブライアン』を見ながら、真幌葉京士郎(ea3190)は静かにそう呟いた。
「ええ。ブライアンは良い馬です。ただ、この子は長距離には強いのですが、短距離にはどうも‥‥」
その言葉に耳を傾けつつ、京士郎は静かに馬の背を撫でる。
「そうか、こいつは『無頼庵』というのか、その名気に入った! 昔、お前が背負う名によく似た二つ名を持つ者がいたという、時は流れ所は変わったが、その名と共に駆け抜け、勝利を掴もう」
どうやら京士郎はブライアンを気に入った模様。
そして体当たりのトレーニングで、京士郎はとにかく無頼庵との絆を深めていくことにした。
──ディービー卿宅
どちらかといえば黒鹿毛色の体毛。
精悍な顔つきの牡馬。
「ねー、リンゴあげていい?」
ガレット・ヴィルルノワ(ea5804)は途中の市場で購入したリンゴを手に、馬主であるディービー卿にそう問い掛けた。
「はっはっはっ。構いませんよ。この子の世話や調教は全て貴方に一任しますから。必要なものがありましたら、厩舎員に聞くといいでしょう」
「わかりましたー」
そのままガレットは厩舎員に付き従い、日夜愛馬である『旋風のクリスエス』の世話を行った。
体長や脚の怪我チェック、厩舎掃除などを行ない、『旋風のクリスエス』の体調を中心に考えたトレーニングを行なっていた。
──マイリー卿宅
「うっうっうわっうわっ!!」
疾風の如く駆け抜ける『最強のキングズ』。
マピロマハ・マディロマト(ea5894)はマイリー卿の元に挨拶に出向いた後、シフール用の馬具を装着した『最強のキングズ』に乗り込んだ。
練習用のダートコース(つまり人通りの少ない街道)を、馬との相性や自分の騎乗技術を知る為に軽く駆け抜けたのだが、まったくもって予想外の出来事にであってしまった。
一通りの走りこみを行ない、マピロマハはマイリー卿の元へと戻っていった。
疲れきった顔のマピロマハを拍手で向かえるマイリー卿。
「はっはっは。『最強のキングズ』を乗り熟せる騎手がいるとは思いませんでしたよ」
「い、いえ‥‥まだまだ‥‥」
流石のマピロマハでも、この馬の制御はかなり難しい。
ダグ(最も遅い常歩から速歩)からキャンター(駈歩)、そしてギャロップ(襲歩)への切り回しが予想外に早い。
参考までにということで、マピロマハが計った速度はというと、200m(1F、1ファロング)を実に11しか数えないうちに駆け抜けた。
体感時間ゆえ正確ではないが、それでも他の馬と比べればあきらかに早い。
自分の愛馬よりも格段早いというのが、マピロマハには驚愕の事実であった。
そして、騎乗技術には自信が在ったマピロマハでも、この馬を完全に乗り熟すのはかなり難しいと判断。
トレーニング方法は、とにかく自分を鍛え、『最強のキングズ』との相性を高めようという方向になった。
──オークサー卿宅
「初めまして。エルフの白の神聖騎士、ワルキュリア・ブルークリスタルと申します。どうぞよろしくお願いいたします(ぺこり)」
丁寧にオークサー卿に挨拶をするワルキュリア・ブルークリスタル(ea7983)。
彼女の目の前では、乗馬スタイルで馬の手入れをしているオークサー卿が立っていた。
「ああ。よろしく御願いしますね。こいつが貴方の乗る馬『レディエルシエーロ』です」
そういいながら、手綱をワルキュリアに手渡すオークサー。
そのまま手綱を受け取ると、ワルキュリアは『レディエルシエーロ』にも挨拶。
そして脚の状態も見逃さない。
「いい馬ですね。それにしっかりとした脚を持っていますね」
「ふむふむ。貴方にも判りますか。実は、この『レディエルシエーロ』には、『沈黙のサンデー』という馬の血が流れています」
「『沈黙のサンデー』といいますと。今回参加している『静かなるスズカ』と同じ血筋なのですか?」
名前の意味合いが近い感じたワルキュリアの問いに、オークサー卿はにっこりと肯く。
「ええ。サンデーの血筋は特殊でして。この『レディエルシエーロ』のような鹿毛の馬はかなり走りに特化するのですが、『沈黙のスズカ』は最悪な事に栗毛なのですよ。その潜在能力は未知数、名馬か駄馬かというところです。この『レディエルシエーロ』もまた、名馬となる血筋。あとは貴方の腕しだいです」
そう言われると、ワルキュリアも頑張らなくてはならない。
兎に角、ここからの調教にはワルキュリアなりに気を使いまくったらしい。
変な癖を付けない・無理をさせない・怪我をさせない・触れ合う時間を多く取る・速く走ることの楽しさを覚えさせる、この5点に重点おいた調教を心掛けるワルキュリア。
果たして結果は‥‥。
──カイゼル卿宅
「最強の血筋ですかぁ‥‥」
カイゼル卿の元に挨拶に行ったシルフィーナ・ベルンシュタイン(ea8216)は、そのまま今回自分が乗る馬『静かなるスズカ』について問い掛けていた。
「ええ。『静かなるスズカ』の中に流れている血筋『沈黙のサンデー』。私の父の時代、同じ様に馬を競い合った事があったらしていのです。その時のサンデーの勝敗は14戦9勝。ですが、この『静かなるスズカ』は生まれつき体力もあまりなく‥‥」
そう告げるカイゼル卿。
「生まれつきですか?」
「ええ。脚回りや体躯、全身の筋肉などはいい感じについているのですが、あの馬は、まだ自分の走りというものを知っていないのです。それに、なぜか体力もあまりない。まあ、うまく調教してください」
その話の後、シルフィーナは厩舎へと移動。
馬との触れ合いを重点的に、そして『静かなるスズカ』の走りの特性をゆっくりと探り始めるシルフィーナ。
体力については砂地を探し出し、そこでの調教を開始。
そしていよいよ本番を迎えた‥‥。
●レース当日〜エモン・クジョーの『俺に乗れ!!』〜
──スタート地点
レース当日。
スタート地点には大勢の人が集っていた。
とにかく娯楽を求めていた人たちにとって、賭けもできるこのレースは、まさに娯楽の殿堂。
「さあさあ、まだ受け付けは終ってないですよ!! 今の所一番人気は『レディエルシエーロ』。この私の予想屋魂がそう叫んでいます!!」
旅の吟遊詩人エモン・クジョー。レースでは予想屋などやっている‥‥暇なんですねぇ。
さらに、レース中は実況解説もするらしい。
「いい調子だ。そのまま落ち着いて‥‥」
そっと馬体を撫でながら話し掛けているのはカイ。
スタート前のこの喧騒に、自分を失わないようにと『風のグルーヴ』を撫でている。
「ゆくぞ無頼庵、人馬が一体になれば勝利は俺達のものだ!」
京士郎が愛馬『怒りのブライアン』にそう話しながらスタートラインへと向かう。
「よしよし。マイペースマイペース‥‥」
ガレットも『旋風のクリスエス』を宥めつつスタートラインへ。
既に走りは見切った。
あとは本番という感じのガレット。
「うわわわわ、落ち着いて、落ち着いてくださ────ーい」
スタートライン手前で妙に興奮しているのは『最強のキングズ』。
その背中で、マピロマハが必死に手綱を絞っていた。
「大丈夫、普通に走ればいいんです。楽しく走りましょう」
そのキングズの横では、興奮しているキングズに影響されないように、必死に愛馬『レディエルシエーロ』を宥めているワルキュリアの姿もある。
そして後方から、とにかくマイペースでトコトコと歩いてくる『静かなるスズカ』。
「君は本当にマイペースだねぇ‥‥」
その背中では、シルフィーナが実に満足そうな感じで、馬なり(馬に任せて)に歩いている。
ちなみに、鞭を振るうことなく馬に全てを委ねる事を『馬なり』、その状態で1F(約200m)走るという意味が『馬なり1ファロング』。
まあ、そんな事は置いといて。
各馬一斉にスタートラインに到着。
そして今回のレースの主催者である6貴族から、アロマ卿が代表として前に出て挨拶。
そしてそれが終ると、各馬一斉にスタートラインにつく。
「それではっ。よーーーい、すたーーーとっ!!」
各馬一斉にスタートしました。
まず先頭を切ったのが『最強のキングズ』。
後方2番手から『怒りのブライアン』、そして『風のグルーヴ』、『旋風のクリスエス』、『レディエルシエーロ』と続く。
『静かなるスズカ』は出遅れ、中段まで2馬身を走る。
「そうだ‥‥今は力を温存するんだ‥‥」
ブライアンにそう話し掛ける京士郎。
間もなく先頭はコーナーに差し掛かります。
今のところ順位に変動はなし。
このまま『最強のキングズ』の独走を許すのでしょうか‥‥。
「‥‥よし、行くぞ!!」
カイが手にした手綱に力を込める。
そのカイのタイミングで、京士郎、ガレットも徐々に前に詰める。
コーナーを越えて最後の直線。この果てしなく長い直線で、果たしてどのようなドラマが待っているのでしょうか‥‥。
ここで、中段より各馬ラストスパーート!!
一斉に間合を詰めはじめたぁぁぁぁぁ。
中段より『風のグルーヴ』が前に出た。
そして『怒りのブライアン』、『レディエルシエーロ』、そして『旋風のクリスエス』が来た!!
これは早い、『旋風のクリスエス』早い!!
正に旋風の如く、『旋風のクリスエス』が走りはじめた!!
一気に『最強のキングズ』の横にたどり着く『旋風のクリスエス』。
おーっと。さらに後方、『静かなるスズカ』も前に出る!!
遥か後方からついに中段、ゴールを目前のラストスパーート!!
「このままです。無理をする必要はありませんよ」
あくまでも馬の馬の走りやすいペースで走るワルキュリア。
貴族の嗜みとして学んだ程度の乗馬技術では、このような本格的なレースでは勝ち目はない。
彼女は、レースを楽しむことにした。
『レディエルシエーロ』後方へ。さらにどうしたのか『静かなるスズカ』、ここでスタミナが切れたのか? 2頭が前方、優勝争いから脱落だぁぁぁぁ。
「スパートしきれなかったのね‥‥貴方はもっと走れる筈なのに‥‥」
悔しいが、『静かなるスズカ』は自分のペースを制御仕切れていない。
もっと実践を積まなくてはと、シルフィーナは手綱を絞った。
ゴールまで200。このまま乱戦でもつれ込む‥‥いや、来ました、まさに王者。その走りからは威風堂々たる力を感じます。
『最強のキングズ』。ここで本領発揮だぁぁぁ。
「さて。いきますよキングズ‥‥栄光は私達の為にのみ存在するのです」
目を細めてゴールを見据えるマピロマハ。
そして最後の追込み、手綱を強く握り、一気にキングズに全てを委ねた。
達人の技巧と天才馬の力が一つになる瞬間。
全ての馬が、後方に消えていく。
ゴォォォォォォォル。
一着は『最強のキングズ』。
そして2馬身差で『怒りのブライアン』、さらに僅差で『風のグルーヴ』、『旋風のクリスエス』。
『静かなるスズカ』と『レディエルシエーロ』はゆっくりとゴール。
レースは終了。
その異様なまでの盛上りに、貴族達も満足であった。
「みなさんにお約束しましょう。このレース、たった1度で終らせるにはもったいない。私達6人の貴族による、全6戦のレースを行ないましょう!! 最強の馬を決める6戦、名付けて『グレード1』。開催日時は後日、改めて発表します!!」
そして表彰式。
トップ、2着までの二人が表彰台に昇る。
「おめでとうございます」
6貴族から賞金の授与。
そして盛大な拍手の中、優勝馬である『最強のキングズ』と、その騎手であるマピロマハは悠々とウイニングランを始めた‥‥。
〜Fin