●リプレイ本文
●まずは準備と言うことで〜初日〜
ディンセルフの魔剣を妹の元へ届ける。
すでにその依頼を受けてから、かなりの時間が経過していた。
──パリ・冒険者酒場
「‥‥いないか。此処には居ると思っていたのだが」
そう呟きながら店内をキョロキョロと見渡したのは風烈(ea1587)。
アリアン・アセト(ea4919)と共に、アルフレッド・プロストに会いにやってきたのであるが、どうやら見当違いのようであった。
「あらあら。では、もう一件、心当りの場所がありますので、そちらに向かってみましょう」
そう告げるアリアンの後をついて行く烈。
そして行き着いた先は、冒険者街の中に在る小さな酒場。
最近では、冒険者ウェイトレスが古ワイン愛好家達と一戦やらかしたところで有名。
そのカウンターに真っ直ぐ向かっていくと、アリアンはカウンターの中で静かに昼寝をしている仮面のマスターに声を掛けた。
「お休み中申し訳ありません。ここにお邪魔すれば、南ノルマンのプロスト卿御一家の情報が手に入ると伺ったのですが。」
──パチッ
「ふぁ‥‥あ、ええ。少々お待ちください」
そのまま伸びをして、仮面マスターは店の奥に入っていく。
それから少しして、奥からアルフレッドが姿を現わした。
「これはこれは。烈さんご無沙汰しています。オークション以来ですね。そちらのご夫人は初めてですか。アルフレッド・プロストと申します。酒場の主人兼騎士見習いをしています」
二人に握手しながら、アルがにこやかな笑顔でそう話し掛けた。
「ああ。久しぶりだな」
「初めまして。『聖なる母』にお仕えしておりますアリアン・アセトと申します。この度は、アルフレッドさんに御願いが在ってまいりました」
丁寧に挨拶をするアリアン。
と、アルは何も言わずにカウンターに小さな袋をおき、烈の方に差し出す。
「これって‥‥いいのか?」
袋の中身が、死んだディンセルフの片身の鉱石であることを、烈は瞬時に理解した。
その上で、烈はアルにそう問い掛けていたのである。
「ええ。貴方には私の家が助けられましたからね。それに冒険者ギルドの依頼で、これが必要そうなものを見ましたので。そろそろ来るかなとは思っていましたよ」
スッと袋を烈に手渡すと、アルがそう告げた。
「宜しいのでしょうか? それは貴方がオークションで競り落とした大切なものでは?」
「ああ。分割で良ければ、買い取れるが‥‥」
その二人の言葉に、アルは頭を左右に振った。
「烈さん。人の思い出には値段はつけられません。それに、聖なる母の教えに従い、迷えるものには救いの手を‥‥ですよ。こう見えても私は騎士見習い。先日、ブルーオイスター寺院で洗礼も受けました」
アル、騎士見習いから神聖騎士見習いへとグレードアップ。
しかし、人間、変われば変わるものですなぁ。
もう一人の『ろくでなし青年』にも見せてやりたいよ、ホント。
「それではお預かりします。それと、もし宜しければ、その鉱石の行く末を見守って欲しいのです」
アリアン曰、同行して欲しいという所であろう。
「残念ですが、私には此処を離れられない事情があるのです。そうですね。何か在ったときにはお力を貸せるようにしておきましょう。‥‥実家宛の紹介状を書きますね」
あら、随分とお優しい事で。
「御願いします。あ、マスターにお礼を告げたいのですが、マスターはどこに?」
そのアリアンの言葉に、アルが奥へマスターを呼びにいった。
少し立ってから、マスターが息を切らせてやってきた。
「ハァハァ‥‥どうしました?」
「いえ、この度はご助力ありがとうございました」
「多謝(ありがとう)!!」
アリアンと烈が丁寧にそう礼を告げる。
「いえいえ。この程度でしたら構いませんよ。また何かありましたらいつでもいらしてください」
にこやかにそう話す仮面マスター。
「それにしても‥‥おーーい、アル、いつまで待たせるんだ!! 紹介状はー」
店の奥に向かって烈がそう叫ぶ。
「ああ、私が呼んでまいりましょう」
そう言いながら背中を見せるマスターに、アリアンがにこやかに口を開いた。
「いえいえ。ここで待っていれば来ていただけますわ。きっと書くのに時間がかかっているのでしょうから」
そのまま二人はアルが姿を表わすのを待つことにしたらしいが‥‥。
「すまん、もう許してくれ」
仮面マスターがそういいながら奥に引っ込む。
「烈さんも意地が悪いですね」
「アリアンさんこそ」
ホホホッといいながらアルが戻ってくるのをまつ二人。
そして仮面マスターから紹介状を受け取ると、二人は皆と合流するために店を後にした。
──トールギスの鍛冶屋
冒険者街のずっと外れのちいさな鍛冶屋。
トールギスという名の無骨な鍛冶師がいるという。
「ふぅん。いい剣だな‥‥銘はと‥‥」
柄を外し刀身のチェックをしている鍛冶師の横で、フランシア・ド・フルール(ea3047)とグリュンヒルダ・ウィンダム(ea3677)の二人はその作業をじっと見ていた。
「ほう。ディンセルフねぇ。あの爺の孫じゃねーか。って事は、こいつは片身の剣か?」
トールギスの言葉に、フランシアが静かに肯く。
「ええ。色々と事情がありまして。ようやく彼の魂も神の御許へと還える事が出来ました」
手を組み神に祈るフランシア。
「それでですね。ディンセルフの剣の砥ぎ直しと、出来れば柄と鞘を別のものに取り替えてほしいのですが」
グリュンヒルダがそう告げる。
ちなみに剣匠トールギス、この辺りの冒険者は1度はお世話になったかもしれないという穴場の鍛冶師。
グリュンヒルダも噂を聞いてやって来た模様。
「ああ、何か訳ありの剣だろう? 別に構わんよ」
そのまま刀身を磨き始めるトールギス。
そして夕方、無事にディンセルフの剣は全く違う鞘と柄を付けた、新しい剣に姿を変えていた。
「ふう。この町での最後の仕事としてはこんなものだろう」
そう呟きながら、トールギスが剣をフランシアに手渡した。
「この町といいますと、何処かに移るのですか?」
そのフランシアの問いに、トールギスは静かに肯く。
「ノルマン江戸村っていうところにな。ジャパンの刀について色々と勉強してくるのさ‥‥」
そして二人は、トールギスにお礼をすると、其の場を後にした。
──グレイス商会
船着き場の近くにあるグレイス商会。
連日大量の荷が積み降ろされ、多くの人で賑わっている。
「ああ。あとはこのまま河を下ってくれればいい。そのままうちの船が停泊しているから、横付けしてこの証書を渡してくれれば、あとはあの小島まで連れていってくれるからね」
何処かに『ふらりと冒険』にでる一行と話をした後、マダム・グレイスはようやく一息ついていた。
──ドドドドドトッ
と、けたたましい駆け足で走っていくと、そのままグレイスに飛び付き抱きつくエル・サーディミスト(ea1743)。
「グレイスおばさん、お久しぶりだねっ☆元気だった〜!?」
にこやかな笑顔は変わらない。
「おやおや、どこの兎さんかと思ったらエルかい。あたしは元気さ。エルも変わらないようだねぇ!!」
そのままエルの方に向き直ると、マダム・グレイスがそう告げる。
「ディンセルフさんの妹さん、病気なんだよねぇ!! どんな病気なのか症状を教えて欲しいんだ」
そう問い掛けるエル。
「ああ、エルもあの依頼を受けてくれたのかい。そうだねぇ‥‥」
そのままグレイスは自分の見知っている限りの症状を説明。
途中からエルも腕を組んで考えはじめるが、やがて何か心当りがあるらしく、ポン、と手を叩いた。
「グレイスおばさん、分けて欲しい薬草があるんだけど、いいかな?」
その言葉に肯くと、グレイスとエルは倉庫へと向かっていった。
──騎士団地下牢
静かな地下牢。
ドレスタットを襲撃した海賊のうち、罪の重い者たちが囚われている場所。
アハメス・パミ(ea3641)は、シルバーホークについての情報を得るために騎士団を訪れていた。
それまでは彼等の存在など軽視していた騎士団であったが、海賊襲撃以来、騎士団の動きも活発になりつつあった。
そのため、今までの調査報告などは冒険者でも閲覧することは出来ず、簡単な質問しかすることが出来なかった。
「本格的に騎士団が動きはじめるとなると‥‥私達冒険者の管轄ではなくなりつつあると言うことか‥‥、」
まだ騎士団よりシルバーホークに関与することを禁じられてはいないため、その結論には達するには早い。
が、重要な情報源である『腰抜けヨーヘン』との面会が断わられてしまっため、アハメスは騎士団を後にするしか無かった。
「判った範囲では、プロスト領の塔の結界を切断したのはヨーヘンだった事、シーラットのボスが女性で、捕まったのは影武者だった事‥‥この2点のみか。シーラット自体はかなりあちこちで商船を襲撃していたらしいから、被害にあった商人から何かを得ることはできるかも知れないが‥‥」
そのままアハメスはシルバーホークの事を考えるを止めた。
今は、ディンセルフの剣に関する『誤情報』を酒場にいって流さなくてはならなかったから‥‥。
──情報屋
とかく、冒険者などがうろつく地区には、『自称・情報屋』なるうさん臭い輩が多く居るもので。
北道京太郎(ea3124)も、その胡散臭い情報屋の中でも、得に『情報だけは確か』な奴を探し、密かに話をしていた。
「‥‥ええ。アンデットに滅ぼされた村の話は知っていますわ‥‥」
濡れるような黒髪の女性が、京太郎に対してそう告げる。
妖艶とでもいえる瞳と、濡れたように輝く唇。
全身をぴっちりと覆う黒いスーツにレザーアーマー。
一見するとレンジャーようにも感じられる情報屋『ミストルティン』。その名前は偽名であり、本名は誰もしらない。
「今、村がどうなっているか詳しく教えて欲しい‥‥」
懐から硬貨の入った小さな財布を取り出すと、京太郎はそれをミストルティンに手渡す。
「そうねぇ‥‥値段相応な分は教えますわよ。あのアンデット騒動の後、村にはプロスト卿の領地の自警団達が入り、最後の後片付けを行った。生き残った村人達は、領主が責任を持って彼の領地、まあ、あの地では城下街と呼ばれている所に移り住んでいるらしいですわ。今の村は、人の住まない荒れ果てた土地。アンデットに襲われたという忌まわしさから、人々はあの村を離れました。悲しみの残る村‥‥そう噂されています」
そう告げると、ミストルティンはくるりと踵を返し、京太郎から離れていく。
「ただ、これだけは覚えていてください。私は情報屋。真実に近いものを伝えることは出来ますけれど、真実は貴方の目で確かめてください。百聞は一見に如かず。自分で見る真実の為に、私達は情報を提供するのです」
路地から消えていくミストルティン。
そして最後に、ミストルティンはこう告げる。
「私に会いたければ、冒険者街の噛めんマスターの酒場でどうぞ。『やどり木のハーブティ─』を注文していただければ、お会いできるでしょう‥‥」
なにはともあれ、京太郎は真実の為に歩きだす。
「まあ、10Cならこんなものか‥‥中も確認せずに色々と教えてくれて、助かったということか‥‥」
おっと、京太郎の方が一枚上手。
●妹よ〜静かに眠って下さい〜二日目から六日目〜
──とある村
そこは小さな村。
ディンセルフの妹が住んでいる小さな家に、冒険者達はやって来た。
病気の為、ディンセルフの妹・クリエムは村の人たちにお世話になっているらしい。
冒険者達がやって来た時、お世話役の女性は皆に気を使って席を外してくれた。
「ご無沙汰しています、クリエム殿。ようやく兄君の形見をお持ち出来ました。遅くなりましたこと、心よりお詫び申し上げます。剣に囚われ一度は負の想いに染まっても、兄君の魂は気高さを失っておられませんでした。主は祝福を授けられましょう…」
フランシアは彼女の兄の片身の剣に祝福の口付けを行うと、それを妹クリエムに手渡す。
「すまない、大きな事を言ったが返しにくるのが遅くなってしまったな。俺は剣の奪還について大した事はできなかった」
烈は静かに頭を下げる。
今は謝ることしかできない烈であったが、クリエムはゆっくりと口を開ける。
「頭‥‥を‥‥上げて下さ‥‥い。兄の片身‥‥の‥‥剣を‥‥ありがとう‥‥」
弱々しくそう告げるクリエム。
ベットに横たわっている彼女の姿を見た一行は、半ば絶望していた。
瞳からは輝きが失われている。
クリエルは弱々しく剣を受け取ると、それを静かに抱しめている。
そんな彼女に、アリアンはそっと手を当てる。
リカバーの効果も、病気で衰弱してしまった肉体には効果を及ぼさない。
それは判っているが、聖なる母の教え、そしてアリアン自身が彼女の為にしてあげたいと思ったのである。
「わたくしの力では病は癒せませんが、早く病に打ち勝ち、父祖伝来の技を一層発展なさることをご期待いたしております‥‥」
希望や目的を得ることで、人は強くなれる。
その事をアリアンは信じている。
「そう‥‥です‥‥ね。病気が‥‥治ったら‥‥」
弱々しく微笑むクリエム。
「私達の不注意から、貴方の大切な兄の命のみならず、安らぎの剣を奪われてしまった。本当に申し訳ない‥‥この剣も、貴方の兄の作りし名剣。数多くの戦い、彼の剣なくしては私の命はなかった‥‥改めて、お礼を言わせていただきます」
アハメスがクリエムに頭を下げるが、クリエムは瞳を閉じて頭を左右に振った。
「兄の片身‥‥。ディンセルフ‥‥の‥‥銘の剣が、このパリに‥‥残っています。兄‥‥の意志‥‥は、剣を振る‥‥う人たちに届くと思います‥‥」
そのままクリエムは静かに瞳を閉じる。
「あまり無理をしない方がいいです。今、お世話をしてくれている方を呼んできますから」
グリュンヒルダはそう告げると、家の外に出て行く。
そして入れ違いに、エルが家の中に入って来る。
「お待たせ〜。パリでも屈指の薬師である私の作ったこの薬。これさえ飲めば、病気なんてすぐに良くなるよーー」
薬師というよりは、すでに本草師(本草学の専門家)という感じのエル。
そのまま調合の終った薬を手に、クリエルの元にやってくる。
「ありが‥‥とう。お薬飲んだら‥‥病気は治りますか‥‥」
「うんうん。大丈夫だよ♪〜」
そうにこやかに微笑むエルに、烈がフォローを入れる。
「クリエルはあまり知らないと思うが、エルはパリでも屈指の兎師‥‥じゃない、薬師なんだ。もしその薬が聞かなかったら、エルが責任を持ってクリエルの病気を治療してくれる。人生最愛の兎との友情を捨ててでもな!!」
「そう。兎さんとの友情ってぇえええぇぇぇぇぇっ」
最初のうちはウンウンと肯いていたものの、兎が関ると驚くしかないエル。
それでも、クリエルが薬を飲むのを確認すると、一行は無理をさせないように家から出ていった。
「エルさん。お薬をありがとうございます。かなり高価な薬草を用いたのではないでしょうか?」
フランシアがエルにそう問い掛ける。
「うーーん。ボクの作った薬よりも、もっといい薬を皆があげていたからねえ。元々、彼女の病気はそれほど悪いものではないんだよ。調合した薬はその症状を和らげるためのもの。完治はできないよ‥‥」
その言葉に、一行は頭を捻る。
「もっといい薬‥‥そうですね」
アリアンはエルの言葉が瞬時に判った。
「生きるという意志。活力をもたらしたのですわ。兄の剣を其の手に抱き、彼の魂の鼓動を聞き、そして私達の助言が、彼女に生きるという力を与えたのです」
アリアンの言葉。
「なるほど。『病も気から』って奴だな」
烈の言葉に、一行はにこやかな表情を浮かべる。
曇っていた空に、一条の光が差し込むような‥‥。
●兎追いし好事家領主の土地〜7日目から9日目〜
──御存知好事家貴族の古城
「こんにちはー」
古城の裏にある森林で、エルは兎の親子兄弟姉妹従姉妹達と楽しそうに遊んでいる。
以前、ここでの依頼を受けたエルが、偶然出会った兎。
確か親子だったと思ったが、いざ見てみると出てくる出てくる大量の兎達。
「全く、あの姿を見ていると本当に子供のようですね」
グリュンヒルダが兎に囲まれているエルを見ながらそう告げる。
「ああ。全くだな‥‥」
そう返答は返しているものの、京太郎はこの後で向かう『とある村』の事が気掛かりであった。
この領地の城下街に、あの村の生き残った人たちが生活している。
会ってみて話をしてみたいとも思ったが、逆に辛い事を思い出させてしまうような感じがしたらしい。
「あれ? 君は服を着ているんだねぇ?」
と、妙なチェック模様のチョッキを着ている兎をヒョイと抱き上げるエル。
「あ、名前まで書いてあるし‥‥エル?」
確かに、チョッキには『える・さあでぃみすと』とゲルマン語で書込まれている。
「?????」
何故兎のチョッキに自分の名前が?
そんな疑問を持つエルであるが、それは間もなく解決した。
──ガサガサッ
と、茂みから出てきた一人の女性。
「あ、こんな所にいましたのですね。エルったらあいかわら‥‥ず?」
そう呟きながら人間・エルと視線があってしまう女性。
「ん?」
キョトンとしたエル。
と、いきなりその女性はエルに抱きつき頬にキス!!
「ああ。神様ありがとうございます。私の祈りが天に届きましたのね。兎のエルを本物のエルさまにしていただいて‥‥」
「ち、ちょっとまったぁぁぁぁぁぁ」
必死に抵抗するエル。
「あら? 本物のエルさん?」
今度はその女性がキョトン。
「あーー。何やら不毛な事をしているようですが‥‥」
グリュンヒルダが見かねて二人の間に割ってはいる。
「ちなみに貴方はどちらの方ですか? 私達はパリからやってきた冒険者でして。依頼を遂行して休んでいるところなのですが」
「こ、これは失礼。私、ここの領地を納めていますプロスト家の末娘。レイラと申します」
ちなみにこの娘さん、以前に許嫁とかお見合いとかで親と喧嘩し、家宝の武具を付けてとある塔に飛込んだ猛者である。
詳しくは『囁く塔〜お嬢様救出作戦?〜』を参照との事。
「エルさま。ここではっきりとさせていただきます。私、エルさまの事を愛しています。父上のバースディパーティーの時に貴方を見たときから‥‥」
いきなりの告白ターーーイム!!
「ご、ごめんなさい‥‥」
そして、だーい・どーんでーがーえしっ!!
いきなり愛が終った模様。
そんなこんなで一行は、一日をゆっくりとプロスト領にて休むこととなった。
●悲しみの残る村〜10日目からパリ帰還まで〜
──廃村
静かに風の吹いている村。
人の住んでいる形跡もなく、ただ風が拭きぬけている村。
アンデットの襲撃により、この村の人々の殆どが死んでしまった。
生き残った者たちは、プロスト領城下街へと引越し、悪いイメージしか残っていなこの村には、生きとし生けるものは何一つ存在しない。
「生き残った者は城下街で健在。ただ、心の中には、今尚癒されぬ傷跡があるか‥‥」
京太郎が静かに呟く。
「まあ、そう気を落とすことはない。俺達は、生まれてくる命を守り通すことが出来た。それだけでも十分じゃないか」
ポン、と肩を叩きながらそう告げる烈。
二人は、この村で起っていた惨撃を納めた張本人達。
「ああ。そうだな‥‥」
「ということで、教会にいくぞ」
そのまま一行は教会へと向かう。
あちこちが壊れているものの、建物自体はしっかりと残っている。
烈と京太郎の二人は、教会内に入ると、そのまま十字架の前でひざまづき、静かに祈りを捧げる。
この村で死んでしまった者たち、死者への冥福を祈る。
そして烈は懺悔室へと入っていく。
アリアンが隣の部屋にはいり、静かに烈の懺悔に耳を傾ける。
「この村が滅んでしまった事実に、俺は干渉している。ある依頼を失敗し、その時に回収できなかった剣により結界が破壊された‥‥それだけならまだしも、ある組織と戦うために、この村に出たズゥンビ達を仮想敵として戦ってしまった‥‥自分の事だけを考え、死者の魂を冒涜する結果となってしまったことを許して欲しい‥‥」
心の中のわだかまり。
ディンセルフの剣が無事に戻ったことにより、烈は心の中の全てを吐き出していた。
「貴方の懺悔の心。神の耳にも届いています。悔い改め、そして生きている者たちのために生きるのです。さすれば、神は汝の罪を許し、王国へと導いてくれるでしょう‥‥」
聖なる母に仕えしアリアン。
その言葉に、烈の気持ちも安らいだ。
そして次にアハメスも入る。
自分達のちょっとした言葉で、ディンセルフの命が奪われ、その剣により大勢の命が奪われてしまったこと。
「死んでしまったものの意志に耳を傾けなさい。貴方には、其の手で助けられる大勢の者たちの命もあるのですよ‥‥」
それらの罪を全て告げ、アリアンの言葉によって癒されるアハメス。
そして一通り村の中を見てまわる京太郎。
「強き剣‥‥か‥‥」
強さは武具ではなく、己の技量である。
その事が念頭にあるため、京太郎はディンセルフの魔剣にはあまり興味が無かった。
だが、たった一振りの剣の為に、ここまで情勢が変化するというのも、剣の持つ強さなのであろうと改めて思った。
それでも、京太郎は己の技量を信じていた。
●パリ〜最終日〜
──冒険者街のちいさな酒場
無事に依頼を終えた一行は、静かにティータイムと洒落込んでいる。
「‥‥久しぶりのパリの食事だぁ!!」
「地方の料理も色々と趣があっていいですけれど。やっぱりパリの食べなれた料理の方が口にあいますね」
エルとグリュンヒルダの二人はティータイムならぬランチタイム。
今回の冒険、エルは保存食を殆ど持っていかなかったし、グリュンヒルダも消費するであろう予想数以下しか持っていかなかった。
もっとも、二人とも途中の領地や村の酒場で普通に食事を取るという荒業を使ったため、消費したのは移動中の分だけ。
エルに至っては、その移動中の食事すら村や領地で買い込むという方法で空腹を凌いでいた。
「それにしても、これで無事一件落着だな」
「ああ。あの滅んだ村‥‥やがては別の土地から人が訪れ、また小さな村を作りあげるのだろう‥‥」
木のカップに入っているワインをぐいっと飲み干すと、京太郎が烈の言葉に相づちを打つ。
そしてウェイトレスにワインの追加を頼むと、静かにこう呟いた。
「あの村は‥‥このノルマンの縮図のようだ‥‥」
その言葉の真意をどう汲み取ったのか。
一行は静かに肯くと、話題を変えることにした。
さて、この物語には後日談が付きます。
冒険者酒場でたむろっていた一行の元に、クリエルよりシフール便が届きます。
実は烈がこっそりと手渡した一通の紹介状。
それを頼りに、クリエルは南ノルマン・プロスト領へと身を寄せることになったそうです
病気の方も回復に向かい、今はプロスト領の鍛冶師の元に通って鍛冶の何たるかを学んでいるそうです。
いつか、兄を越えた名剣を打ち出す日がくるでしょうが、それはまた次の機会で‥‥。
〜Fin