ふらり冒険〜青年更正物語〜

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 80 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月13日〜11月28日

リプレイ公開日:2004年11月17日

●オープニング

──事件の冒頭
 いつものように昼下がりの冒険者ギルドは暇である。
 夕方からはそこそこに忙しくなるのであるが、昼下がりとなると暇な常連客が勝手に御茶会までする始末。
 其の日は、依頼が殆ど来なかったので、受付嬢達は御茶会モードに突入しつつあった。

「あのー、すいません。依頼を御願いしたいのですが」
 受付カウンターに、一人の女性が顔を出した。
「あ、少々お待ちください」
 そう告げると、薄幸の受付嬢がカウンターに駆け寄る。
「御待たせしました。どのような依頼なのですか?」
「実は‥‥」
 
 さて、それではかいつまんで説明しよう。
 彼女は困り果てていた。
 結婚を約束した彼氏が、仕事もせずにプラプラしている。
 毎日の生活は、親の残した財産でまかなっているらしいが、それも間もなく底を付きそうなのである。
 最近は、冒険者であったお爺さんの残した財宝を頼りにして、冒険者にそれを捜してきて欲しいと言いはじめたから堪らない。
 その財宝もたいした物では無かったらしく、最近ではただ町の中をプラプラとする毎日のようである。

「あ、あの青年ですか‥‥」
 詳しくは『優しさだけでは生きていけない』を参照して下さい。
「一つお聞きします。あの人の何処がいいのですか?」
 あ、受付嬢暴走開始。
「優しい所‥‥かな?」
 頬を赤らめて、そう告げる女性。
「それで、今回の依頼内容は?」
「あの人を、一人前の社会人として更正して欲しいのです。あの人のお爺さんは立派な冒険者だったのです。彼にもきっと冒険者としての資質があるに決まっています。彼を冒険者にして下さい」
 その言葉に、唖然とする受付嬢であった。

──そして
(冒険者ねぇ。ギュンター君とどっちが上だろう?)
 そんな事を考えつつも、受付嬢は依頼書を書き終えると、それを掲示板に張付けた。
「冒険といってもねぇ‥‥何処か適当な場所に連れていって、そこで特訓っていう所かしら?」


●掲示板捕捉
 依頼場所:パリを中心した片道7日以内の任意の場所
 調査期間:パリまでの往復15日間の中で、自由に設定(条件は解説参照)
 必要経費:自分持ち、宿泊施設なし(自費)
 食糧  :自費
 その他 :青年は戦闘系スキル0、魔方系スキル0。ナンパ専門6

●今回の参加者

 ea0643 一文字 羅猛(29歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea1679 丙 鞘継(18歳・♂・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea1685 皇 荊姫(17歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea2361 エレアノール・プランタジネット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea2597 カーツ・ザドペック(37歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2774 ミカロ・ウルス(28歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea4107 ラシュディア・バルトン(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4957 李 更紗(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

●では、あの小島へ!!〜初日から4日目〜
──まずはパリ
 まずは酒場での綿密な打ち合わせ。
 今回の依頼は、青年の彼女である『カトリーヌ』が、ろくでなし青年『ピエール』を冒険者にして欲しいという事である。
 打ち合わせにはカトリーヌも参加していた。
 とりあえず向かう場所は『昔、ゴブリンに襲われた小島』に決定。
 ノルマン近海の小島なら、万が一のことがあっても安全であろうという所である。
 ただ、問題はピエールをどうやって冒険に引っ張りだすかというところであった。
「よう。ご無沙汰。何か変わったことでもあったのかい?」
 楽しそうにそう告げつつ現われたのはピエール。
 と、其の場に居合わせているのがカトリーヌだけでないことに、ピエールは気が付いた。
「ご無沙汰していましたね。ピエールさん」
 それはミカロ・ウルス(ea2774)。
 既にイライラモードに突入しているミカロが、ピエールにニコリと挨拶を返す。
「もぅ! 彼女がお金に困ってるそうじゃないですか! お金を稼いで彼女を迎えに行くって言ってたでしょ! 彼女との結婚、あきらめたんですか?!」
 そう話し掛けるミカロに、ピエールはニヤリと笑みを浮かべる。
「大丈夫。すでに金を稼ぐ算段はついているって。これを見てみなよ」
 そう言いながら、バックパックからある写本を取り出して皆に見せる。
「‥‥ふむ。何かの暗号のようだな‥‥解析は、私にはちょっと理解しかねる」
 一文字羅猛(ea0643)はさらっと見てみたものの、複雑な表現があった為に写本を隣の鞘継に手渡した。
「‥‥ちょっと俺には読めない部分が多すぎる」
 そのままさらに隣の姫に手渡す丙鞘継(ea1679)。
 ちなみにゲルマン語はまだ習いたての為、解析は不可能であった。
「鞘継には難しいかも知れませんね‥‥と‥‥あら?」
 皇荊姫(ea1685)が写本を受け取って解析開始。
 だが、姫もまたゲルマン語は習いたて。
「まだ私も未熟‥‥どうか解析を御願いしますわ」
 さらにお隣のエレアノールに手渡す荊姫。
「ゲルマン語ならお任せです。どれどれ‥‥と‥‥えーっと‥‥うーーっと‥‥んんん?」
 エレアノール・プランタジネット(ea2361)、ゲルマン語達人にして教師。
 その彼女が頭を捻りつつさらに隣に写本をパス。
 判らなかったのではない。
 判ったからこその反応である。
「なんだなんだ? 暗号解読は俺は専門外だ!!」
 写本を受け取りつつそう呟くカーツ・ザドペック(ea2597)。
 そのまま写本を開きもしないで隣のミカロにパス。
「‥‥あ、頭が痛くなってきました‥‥何処かの地図、もしくは何かを隠してあるトレジャーマップか何かを示すものでしょう。ただ、この文書自体、かなり複雑に捻って書いてありますねぇ‥‥」
 そのまま隣、ラシュディアにパス。
「まったく。この手の暗号は、古代魔法語に決まっているだろう? 考古学者のジョーンズ教授とかなら一発なんだろうけれどな」
 ラシュディア・バルトン(ea4107)が受け取った写本の文字の羅列から、古代魔法語を紐解こうとする。
 だが、見た事もないような象形文字が並び、解読できる範囲でも、文章があちこちに飛び回っているのでさらにややこしい。
「済まないが、ここからならミハイル研究所が近い筈。誰かひとっ走り呼んできてくれ」
 ラシュディアもお手上げのまま、ついに殿の更紗に写本が回った。
「‥‥まあ、私には読めないでしょうから無駄なことはしませんわ。それよりも、ピエールさん。この写本には何が記されているのか解って居るのですか?」
 そう問い掛ける李更紗(ea4957)。
 だが、ピエールはその写本を取り上げると、真っ赤な顔で叫んだ。
「こ、これは俺の作った物語だ!! 俺は自分の中に眠っている童話作家としての才能を開花させ、青空マーケットでこの本を売ることにしたんだ!!」
 あーーー。成る程ねぇ。
「‥‥一言、教師して進言しますわ。主語と述語、単語の組み合わせも無茶苦茶、物語のなかのキャラクターの設定もいきあたりぱったりですし、何よりも自己満足の物語ですから、絶対売れません!!」
 あーー。
 何か、昔を思いださせてくれるようなお言葉です事‥‥。
 そんな事は置いといて。
「お、俺の文才は、そこらへんの凡才には理解できない!! カトリーヌ、君なら判ってくれるだろう?」
 そのままカトリーヌも写本を受け取って読んでみる。
 そしてぱたっと写本を閉じると、カトリーヌはピエールに話し掛けた。
「ピエール。現実をしっかりと見つめて。貴方には冒険者としての才能が眠っているの。童話作家なんて夢見がちなことはいわないで。私を愛しているのなら、現実をもっと見つめて頂戴‥‥」
 そう説得を始めるカトリーヌ。
 ピエールがやってくる前に、冒険者達に説得についてのアドバイスを受けていたので、スムーズに話を始めた。
「待ってくれカトリーヌ。君は、このボクに冒険者になれというのかい? 貴方たちも、 このボクに冒険者としての才能があると思っているのかい?」
 その問いに、冒険者一同は頭を左右に振る。
「まあ、誰でも冒険者になれる才覚は持ち合わせている。ただ、それを引出せるかどうかは本人のやる気次第。俺達は依頼を受け、ピエールがやる気を出し、冒険者になる手伝いをするだけだ」
 羅猛が腕を組んでそう告げる。
「では私から‥‥いいですか?」
 荊姫の辻説法モード始動!!
 そこから30分間、みなさんの意識は現実か離れ、荊姫の説法の世界へと引き込まれていったのであるが‥‥。
「あー。すまない。姫さんの説法、ぶっちゃけ判らない」
 子供にも判るような優しい解説付き説法。
 なのに理解できないピエール。
 お前の思考能力はどうなっているのかと、小一時間‥‥。
「まあいいよ。まだ売り飛ばすものは残っているからさ。畑はまだ大量に残っているし、それに‥‥」
「‥‥アイスコフィン」
──ビシィッ
 まだ何かを売り飛ばそうとするピエールにアイスコフィンを唱えるエレアノール。
「まあ、こいつには協調性を始めとする様々な部分のレクチャーが必要になるか‥‥」
 カーツが氷づけのピエールをパンパンと叩きながらそう呟く。
 まあ、それぐらいでは壊れる筈も無い為、誰も止めはしない。
「どうか宜しく御願いします‥‥これ、ピエールが冒険に出るのに必要でしょうから‥‥」
 以前の依頼ででてきた『お爺さんの片身の冒険者道具一式』のはいったズタ袋をカーツに手渡すカトリーヌ。
「まだそれを持っていたということは、多少はやる気が残っていたということですか?」
 以前の依頼でも散々な目にあっていたミカロがそう問い掛ける。
「いえ‥‥実は、真っ先に売り飛ばしていたのですが、私が買い戻したのです‥‥」
 あー。もう。
 そんなこんなで、一行はアイスコフィンで氷づけになったピエールを抱えていざ出発!!


●小さな小島〜5日目から11日目まで〜
──あの小島
 船着き場でマダム・グレイスに頼み込み、一行はいざ件の小島へ。
 船代代わりの労働力。
 それだけでもピエールはヒィヒィ言っていた。
 なによりも体力がまったくないピエールにとって、初めての船旅で初めての水夫としての雑用。
 集団生活など体験したことも無かったのであろう、ピエールは他の水夫達から力一杯扱かれていた。

 やがて小島が見えはじめると、一行は帰りの船がやってくるまでの間、その小島での更正作戦を開始した。
 とりあえずは村長に挨拶を行う一行。
 海岸から少し離れた場所にベースキャンプを設置し、食糧の足りない羅猛とエレアノール、ミカロ、更紗の4名は村の中での食糧の調達開始。
 丙鞘継と荊姫は村の中で聞き込み調査、カーツとラシュディアはピエールを伴って、報告にあった『元ゴブリンの集落』の調査に向かう。
 そして一通りの作業を終えた一行は、静かに夜食を取りつつ、翌日以降のスケジュールを確認し、まずはゆっくりと休むことにした。

──そして翌日より
「‥‥もういいだろう?」
 正拳突きの練習をしているピエールが、講師である鞘継にそう呟く。
 全身から吹き出す汗、こんなにきついことをなんでしなくちゃならないんだと叫ぶが、鞘継はその都度ピエールを窘める。
「‥‥大切な方すら護れない男、腑抜け同然‥‥」
 体裁きの基礎をじっくりと叩き込む鞘継。
 そしてちょっと休憩した後、講師交代。

「ターゲットはあれ。じゃあ頑張って‥‥」
 ミカロ講師によるショートボウの取り扱いかた講座。
 ターゲットを指定して、基本的な使い方を教えて、あとは見ているだけ。
「頑張ってって‥‥そんな無責任な!!」
「教えることは教えました。ターゲットに当てられなければ夕食は無しですから‥‥」
 静かに空を見上げつつ、ミカロがそう呟く。
 放任主義というかなんというか‥‥。
 本人がやる気を見せれば教えるという方針。
 そして次々と矢が消費されていくが、ターゲットには全く当たるそぶりはない‥‥。
 時折ピエールがチラリとミカロの方を見ることがあったが、ミカロは気にする様子もなく空を見上げている。
 そして‥‥。
「ミカロ、ちょっとコツを教えて欲しい‥‥」
 観念したのか、ピエールがそう話し掛ける。
「やれやれ‥‥」
 そう溜め息をつきながらミカロも重い腰を上げるが、目は優しい。
「コツは簡単です‥‥まずは‥‥」
 人に頭を下げて教わるのも、これからの人生に必要な事。
 ミカロは弓の使い方ではなく、それを教えていたようである。

「つまり、。魔法というものはこの世界に存在する精霊達の理をまず理解する事から始まる‥‥」
 ラシュディア講師による精霊魔法講座。
 実技ではなく学問の講習を受けているピエールは、いつものような怠惰な部分はあまり見せない。
 自分の知らないことを学ぶという、初めての体験に心を動かされていたようであるが‥‥。
 3日目には何を教えてもらっているのかちんぷんかんぷん。
 結局、最終日まで精霊の理のさわりの部分すら判らなかった模様。
 
「まずは基礎!! 兎に角走る!!」
 基礎体力の強化には、まずは走りこみ。
 更紗は、掃除洗濯などの家事作業及び基礎体力をとことんピエールに叩き込んでいた。
「そ、掃除なんて結婚したらカトリーヌがやってくれるだろう‥‥なんで男の俺が!!」
「甘い!! そんな甲斐性無しは女の敵!! カトリーヌは貴方に精一杯の愛情を注いでくれているのに、あなたがそれに答えない理由はないのよっ!!」
「もし家事から逃げようとしたら‥‥またアイスコフィンかけますからね」
 監視役のエレアノール。
 ちなみに最終日までにピエールがエレアノールのアイスコフィンにより固められたのは、実に7回。
 ほぼ一日一回はアイスコフィンで凍結させられてしまっているという、実に困ったものである。
 それでも懲りずに逃走を試みるというのは、やっぱりピエールの根性の無さを示しているのであろう。

 そんなピエールだが、カーツはピエールから女性の扱いかたについて色々と教えてもらっていた。
「つまり、女性は大切に優しく扱うわけ。心の底から惚れ込んだ女性になら、自分の全てをかけても幸せにしてあげないとっていう気持ちになるじゃない。それを態度で示せば、最初はみむきもしなかった女性も好意に思ってきてくれるものなのさ‥‥」
 フムフムとカーツはピエールの言葉に耳を傾ける。
 ちなみにカーツは、羅猛と共にピエールに実技講習を行なっていた。
 二人がかりの実技講習ともなると、ちょっとでも油断をすると傷だらけになってしまう。
 怪我は荊姫のリカバーにより強制回復、さらに訓練続行という超スパルタモードでの特訓であったらしい。
「もし、自分の事を好きといってくれる女性が出来た場合は‥‥」
「さっきと同じさ。自分に出来ることを全てぶつける。自分もその女性の事を好きならば、尚更、精一杯努力すれば良い!!」
 グッと拳を握り締めて力説するピエールだが‥‥。
(なら、お前のカトリーヌに対する愛情はどうなんだ?)
(その言葉だけで人生を渡ってきましたね‥‥)
(所詮は口だけ、机上の空論か‥‥)
(なら、お前が実践で示してみろ)
(お前の全ては金だろ? 金で幸せを買うんじゃない!!)
 以上、食事中の皆さんの心の中の言葉でした。
 
 
 そして最終日全日。
 荊姫があらかじめ調べてくれた場所に向かう一行。
 ちょっと離れた場所にある小さな島に、流れてきたコボルトが住み着いてしまって村人が困っていたらしい。
 それの退治を引き受けると、ピエールの冒険者デビューが始まったのだが‥‥。


●パリ〜最終日に到着したけれど〜
──冒険者酒場
「お待たせしました。カトリーヌさん、ピエールさんは貴方にお返しします」
 エレアノールが心配そうに待っていたカトリーヌにそう話し掛ける。
──ゴトッ
 アイスコフィンにより凍り付けになったピエール。
 ちなみに何が起ったかというと、最終日のコボルト退治、ピエールは腰を抜かしたままブンブンと剣を振回すだけ。
 飛んできた矢が頬を擦っただけで失神してしまうという、実にお粗末な結果となってしまったのである。
 依頼を出してくれたカトリーヌに申し訳なくて顔見せできないというので、エレアノールが凍結して持ってきた模様。
「まあ、冒険者としての気質というのは人それぞれだから‥‥」
 羅猛がゴホンと咳払いをしつつそうカトリーヌに告げる。
「つまり、私達は出来るだけのことはやってきました。けれど‥‥これ以上は限界です‥‥」
 ミカロがそう報告する。
「いえ、ピエールが無事に戻ってきてくれただけでも十分です。ありがとうございます」
 氷づけのピエールを抱しめてカトリーヌがそう告げると、カトリーヌは氷つげのピエールを担いで酒場の外に出て行った。
「えーっと‥‥彼女の方が、冒険者の素質があるような気がするのは気のせいでしょうか?」
 剛腕のカトリーヌの姿を視線で送りつつ、荊姫がそう呟いた。

 今回の依頼で皆が学んだこと。
 それは、今までさんざんグーたらしてた社会適応ゼロのぷー太郎が、たかが一回、二回の怖い目や他人に諭されたくらいで『更正』なんかするわけがないという事。
 エレアノールはあらかじめ予測がついていた為に、それほど落胆はしない。
 もっとも、誰も落胆していないというのも、何か凄いような気がするが。

 さて、ピエールとカトリーヌ。
 この二人の物語、これで終わるはずもないのですが‥‥。
 それはまた、別の機会にて‥‥。

〜Fin