●リプレイ本文
●ということでノルマン江戸村
──村長宅
村の方はずれにある小さな建物。
質素なつくりのその家が、この村の創始者にして村長(代理)である商人『信濃屋柾樹(しなのや・まさき)』の邸宅である。
といっても、信濃屋さんは現在、ノルマン江戸村のある領地の領主(実は好事家領主・レナード・プロスト卿)の元へと村の現状報告の為に出向いていた為、彼の妻である『お京』が一行を出迎えてくれた。
そのまま挨拶と詳しい話を受けると、一行はいよいよ『冒険者訓練所』へと向かっていったのである。
──移動中
「この村にくるのは久しぶりだね〜」
「そうね。あの時はまだなにも無かったのに、随分と村らしくなったみたいね」
キャル・パル(ea1560)とニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)はこの村が一番最初に作られたとき、神社を作る為の依頼でここにやってきていたのである。
「まあ、ここで色々と教えるのが今回の依頼や。夜まで講義っていうことはないと思うから、観光してみるのもええかもしれんわ」
ミケイト・ニシーネ(ea0508)が周囲を見渡しながらそう呟く。
「まあ、真面目に講義を受けてくれればよいが‥‥」
腕を組みながら、レディアルト・トゥールス(ea0830)が横を歩いているニルナにそう話し掛ける。
「冒険者という特殊な職業に付きたいという方達が相手ですから、それ相応の覚悟も必要でしょう。まあ、それぞれが自分の得意分野を説明するということでOKでは?」
そのニルナの言葉に、一行も納得。
「自分達の体験したことかぁ‥‥まあ、是から冒険者に成る奴等は、あまり哀しい思いをして欲しくはないな‥‥」
風烈(ea1587)が空を見上げながら、静かにそう告げる。
「そういう体験も含めて、冒険者になっているのでしょう? 辛い思い。愉しい思い。全て心の中に留めておけるのも冒険者ですよ」
ハルヒ・トコシエ(ea1803)が静かに烈に告げる。
その言葉に、『ああ、そうだな』とだけ烈が返事を返した。
「どんな生徒さん達が待っているのでしょうね♪〜」
鼻歌混じりで楽しそうなふぉれすとろーど ななん(ea1944)。
「ボクに出来ること‥‥うーーーん。なんだろうね。シュツルム」
カタリナ・ブルームハルト(ea5817)が愛馬『シュツルム』にそう話し掛ける。
──戦う?
そういう瞳でシュツルムがカタリナに返答したのは気のせいであろうか。
●頭の痛い生徒たち〜反面教師とそうでない人々〜
──冒険者訓練所
はてさて、建物にはいくつかの講義室と談話室、庭に作られた剣術などの訓練場所、乗馬練習コースなど、実に多彩な建物の作りになっている。
信濃屋さんの息子、富雄がケンブリッジに出向いて学園内を見学、その時の知識の一部をここに集めたのである。
規模などはとてもケンブリッジの足元にも及ばない『冒険者訓練所』。
だが、ノルマンでは初めての? 本格的な冒険者育成の場ということで、大勢の生徒たちが集っていた。
そして冒険者一行は、腕章を装備してそれぞれが割り当てられた講義室へと向かっていったのだが‥‥。
──レンジャー講習(講師・ミケイト)
レンジャーを目指す若者たちが集っている講義室。
そこでミケイトは、自分の体験を元に色々な話を行なっている。
「レンジャーて、弓矢で狩りするイメージもある気ぃする割に弓って結構重いは、矢ぁはかさ張るは、消耗品みたいな扱いな上最初回収する事知らんで、大損こいたんや‥‥」
真面目に講習を受けている若者たちに、実際に自分の扱っている装備を付けさせたり、弓の取り扱いも説明するミケイト。
初めて装備する弓と矢筒に、生徒たちはみな悪戦苦闘の模様。
そして一通りの生徒が装備体験を終えると、再びミケイトは話を続けた。
「まあ、実際に装備してみると判るとおり、ほんまに重いんやわ。でもまあ、装備を整えなあかんのは皆一緒や。けどな、うちの場合、初期所持金5Gしかもっておらへんかったのや。でもな、ケチり過ぎんのも考えモンやとは思たわな‥‥」
徐々に言葉が重々しくなる。
哀愁の漂う体験談なども交えつつ、講義は無事に終了。
そして希望者を連れて、郊外での実地研修に向かっていった。
──冒険者説明会(講師・レディアルト)
さて、隣の哀愁漂うレンジャー講習とはうって変わって、こちらはスパルタ模様。
「‥‥貴様らの講師になったトゥールスだ。俺は訓練も講習もしない。説明をする!」
いきなりのこの話し方に、冒険者とは? という初歩中の初歩を聞きにやってきた若者たちの表情は引きつる。
だが、レディアルトはそんなことを気にする様子もなく、淡々と話を続ける。
「まずは、冒険者としての基礎知識についてだが‥‥王都パリの図書館に行ったか?」
その言葉に、誰も返答を返しては来ない。
「成る程。では、冒険者ギルドの役割についてはどうかな? これは実際に冒険者ギルドに行けば説明を受けられる筈だが‥‥」
この言葉にも返答はない。
「この無能ものがっ!! 何たるクソだ! 今の二つの事柄は冒険者となる為に最低でもしておかなければならない事だっ。図書館では実際に役立つ基礎知識を、冒険者ギルドでは、依頼やその他のしくみについて説明をして貰える。この二つは冒険者となる上で必ず必要な通過儀礼だ。この学校での訓練が終ったらとっとと行ってこい!!」
その怒号に全員がすくみ上がる。
そしてその後の説明も同じ様な感じで、制限時間一杯、レディアルトの叫び声が響いていた。
そして最後に、レディアルトは締めの言葉をこう括った。
「皆に行う説明はここまでだ。聞いてくれてありがとう。貴様らは冒険者になる以上、多くの敵と戦い、血を吐き、涙を流す。これは不可避だ。なぜなら、冒険者は傷つくために存在する。誰かの痛みを見過ごせないから、ここにいるんだろ? 他人の意志や願いのために戦う者は、最強だ。だから、貴様らは世界最強の勇者だ!」 激しいまでの説明会は無事に幕を閉じる。
なおも、明日には別の生徒たちがこの説明を受けることになっているが、おそらくは同じ口調で叫ぶのであろう。
受ける生徒たちに合掌。
──神聖魔法講習(講師・ニルナ)
(‥‥もう少し声を落として欲しいわ‥‥まったく)
レディアルトの講義室の隣、ミケイトの丁度反対側で講義を行なっているのはニルナである。
「私はニルナ・ヒュッケバイン、神聖騎士を職業とし、生業は家庭教師です。皆さん、よろしくお願いしますね?」
澄み切った声。
美形のお姉さんの講習ということもあって、参加者は上々。
「私が基本的な魔法の様々、お教えしますよ?」
そして簡単な神聖魔法の説明が始まる。
途中からは、ニルナの身につけている魔法を実際に披露して、それらの効果的な使用方法を自分の体験を交えて説明する。
「まずは攻撃魔法です、今回使用するホーリーは悪とする者を浄化する神聖魔法では唯一の攻撃方法ですね」
まずはホーリー。
そして補助魔法のグッドラックと、一つ一つを丁寧に教えていくニルナであった。
──ラテン語講座(講師・キャル)
「しふしふーーー」
いきなりそれかい。
ということで、シフール・キャルのラテン語講座でございます。
「ラテン語講座の講師・キャルだよ〜。キャルはね〜、みんなにラテン語とシフール共通語を教えるね〜。ラテン語が話せればクレリックさんとお話出来るし、シフール共通語が話せればキャルたちシフールさんとお話出来るから実際の冒険の旅で何かと役立つだろうしね〜☆」
この異質とも言えるノリの中、一行はキャルの話を聞きつつ、『ラテン語の教本・聖書』を手に講習開始。
‥‥‥‥
‥‥
‥
あ、なんか真面な講習になっているし。
「では、これから外での実技にはいりまーす。みなさんついてきてくださーい」
キャルについて、一行は建物の外にでる。
そしてそのまま江戸村内部をあちこちと移動。
覚えたてのラテン語で買い物を行なったり、人に物を尋ねるなど、悪戦苦闘の時間が過ぎていった。
「あら、キャルさん。しふしふ〜」
「しふしふ〜。徳河さん、ご無沙汰ですー」
キャルに声をかけたのは、このノルマン江戸村の神社の社務所で務めている巫女の徳河葵(とくがわ・あおい)。
「また依頼でここに来たのですね。冒険者って大変ですねぇ」
「そうですか? 色々な体験が出来て愉しいですよ?」
そう返答を返すキャルに、徳河は何かを思い付いて問い掛けた。
「そういえば、冒険者さんたちって、休みは自由ですよね? 今年の年末年始、神社の巫女が少なくて参拝者の相手が足りないのですけれど、ギルドの受付っていつごろから出来るのでしょうか?」
その質問にはキャルもよく判らない。
「うーん。パリのギルドに行った方がいいですねぇ〜」
「そうですか。それでは、そうさせていただきますわ」
そのまま徳河はお辞儀をして立ちさって行く。
さて‥‥年末年始は巫女さん募集の依頼が来る予感。
──戦闘講習(講師・風烈)
「つまり、アンデットやモンスターの中には、魔法やマジックアイテムでしか傷つけられないものも存在するのですか?」
「ああ。あらかじめ依頼の中に説明があるものなら対処も可能だが、実際に現地で調査して始めて判る事もある。いかなる状態にも対処できるよう、冒険に出ていないあいだでも、様々な情報に耳を傾けとおく事も必要だな‥‥」
生徒の質問に的確に答えを返しているのは烈。
実際、自分の体験した事でもあるため、その言葉には重みがある。
「情報はどこから?」
「そうだな。酒場で耳を傾けるのもいい、ギルドの入り口近くにある椅子に座って、依頼人の言葉に耳を傾けるというのもある。そして、様々な分野のエキスパートに教えを乞うというのもある。いずれにしても、重要なのは『人脈』。普段から、大勢の人たちと接するようにすれば、自分にとって有益なことが多いということだな。講義はここまで。このあとは外での実技に移る!!」
一通りの話の後、実技へとシフトする烈。
いい講師やねぇ。
──コミュニケーション講習(講師・ハルヒ)
「冒険には情報収集が付き物です〜。スムーズにこれを行おうとするならば、最低限の身なりをしていなければ信用されませんよ〜」
という事で、ハルヒのスタイリッシュな冒険者講習開始。
ちなみに内容が内容なだけに、集ったのは女性が殆ど、少しだけ男性も混ざっているものの、肩身が狭い思いをしているようである。
ちなみに講義のポイントは次の通り。
・女の子はやっぱり不潔な人は嫌いな事が多いです。
・粗野で野蛮なんてイメージはサヨナラ!
・郊外での冒険でも、防寒など、衣服の正しい知識は必要
この3点に加え、自信のない女性には、特別にメイクの講習も開始するハルヒ。
「ここを‥‥こうして、ちょっとだけボリュームを出すと、ほら。このとおり!!」
以前の私から、これからの私に。
流石はハルヒ、一人の内気な女性を、メイク一つでビジュアル系冒険者へと変貌させていた。
──買い物講習(講師・ふぉれすとろーど)
さて、一風変わった講習といえば、このふぉれすとろーどの講習。
教壇の上には、様々なアイテムが並べられ、一つ一つの価値や使い方を説明している。
「まず、この訓練所を出てから最初にかかるお金と、冒険に最低限必要なアイテムの金額と価値について説明します」
真剣な表情で、ふぉれすとろーどの言葉に耳を傾ける生徒たち。
「まずは冒険者ギルド登録費用、10G」
必要書類を手に、そう話し始めるふぉれすとろーど。
「長期活動に必要な保存食、5c」
次は保存食と水筒。
「命を守る為のネイルアーマー、2G」
うんうん。
「冒険に出る為の勇気‥‥値付けなし」
そして自分の胸に手をあててそう告げる。
「お金で買えない価値があります。買えるものはエチゴヤで買い、装備を必ず行なってください」
あ、これまたギリギリな。
──騎乗訓練(講師・カタリナ)
パカッパカッパカッパカッ
「その調子です。最初はダグ(最も遅い常歩から速歩)でコースを一周。それからキャンター(駈歩)で一周。慣れてきたら、明日にはギャロップ(襲歩)での長距離踏破訓練に切替えましょう」
先頭で愛馬『シュツルム』を駆るカタリナ。
その後ろを、訓練所から借りたノーマルホースに跨った生徒たちが続いていく。
皆一生懸命に馬を操る術を学んでいるが、やや一人だけ、別の目的でこの講習を受けている生徒もいる模様。
「感激です!! あの噂に高い『酔っぱらいバスター』のカタリナさんにお会いできるなんて!!」
ああ、一部では『酔っぱらいバスター』なんていう呼び方されているみたいね、カタリナさん。
パリ冒険者街酒場での一件が、あちこちに噂として流れている模様。
「ええ‥‥っと、もう少し手綱をしっかりと握って、貴方はこのままもう一周、他の人たちは、キャンターで5周してくださいね」
そのカタリナの言葉に、生徒たちは真剣そのものである。
そしてカタリナもまた、シュツルムと共に愉しい時間を過ごしていった。
●一週間という時間が経過〜残ったのはこれだけ?〜
──講堂
はてさて、講義を受けていた生徒たちが、無事に一週間の訓練期間を終える。
希望者はさらに一週間の継続講習を受けることも可能だが、今回は継続するものは皆無。
そして無事に卒業を迎えられたのはたったの5名。
残りは、皆、途中で『俺には冒険者は無理‥‥』というように自信喪失し、訓練所を後にしていったのである。
「今回の卒業により、皆さんは新しく冒険者としての生活を送ることになります。では、是からの皆さんの抱負を語っていただきましょう」
ハルヒが集っている5名にそう話し掛ける。
「まだ見ない遺跡を調査したいですね」
「世界中の不思議を見てまわります」
「ミケイトさんのように一流のレンジャーに!!」
「烈さんを越えて、拳でドラゴンを倒す!!」
まあ、勇気と無謀が紙一重の人もいるようで‥‥。
「ピエールとの甘い生活費を稼ぎますわ」
おーーい。
なんでカトリーヌがここにいるんだぁぁぁぁ。
詳しくは『フラリ冒険〜青年更正日誌〜』を参照。
「まあ‥‥いろいろとあるようですが、頑張って下さい!!」
最後に締めるのはカタリナ。
そして生徒たちは、無事に訓練所を後にする。
これから冒険者としての、辛い生活がまっているのだろうと思うと、講師たちの頬には一条の涙が‥‥流れていたら感動ものなんだけれどねぇ。
〜Fin