【開村祭・ノルマン江戸村】酒づくり

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 7 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月01日〜12月12日

リプレイ公開日:2004年12月06日

●オープニング

──事件の冒頭
 それはとある日の朝。
 冒険者ギルドでは、御存知薄幸の受付嬢が一人の依頼人と話をしていた。
「ジャパンのお酒ですか?」
「ああ。このノルマンで初めての事だから、右も左も判らない。とにもかくにも、人手が欲しい所なんだ。うまくいったら本国にも負けない良い酒が生まれる。まあ、失敗したら来年まで俺も冒険者稼業という所だがな」
 豪快に笑う一人の老人。
 ノルマン江戸村よりはるばるとやってきたジャパンの職人は、そう言いながら依頼書を作成していた。

 さて、ではぶっちゃけどんな依頼か解説しよう。
 最近になって完成し、ひっそりと『開村祭』などというふざけたイベントをやっているノルマン江戸村。
 今回の依頼は、はるばる月道を通ってやってきたジャパンの杜氏(とうじ)である南部老人。
 ワインばかりのノルマンでは、望郷の味を得ることは出来ない。
 その為、ジャパンより米と麹、酒母モトなどを運びこんできたのである。
 ノルマン江戸村の片隅に酒作りの倉を建築し、全ての準備が終ったのはよいが、ここに来て問題が発生したのである。
 
 蔵人がいない。

 通常、酒を作る行程は杜氏一人では成しえない。
 蔵人と呼ばれる働き手がいなくては、まったくといって良いほど話にならないのである。
 ここに来る為に必要な材料と月道運賃、この村での建築費用などを支払ったら、蔵人をジャパンより呼び寄せる予算などなくなってしまったのである。
 という事で、冒険者の出番となったのである。

──そんなこんなで
「では、この依頼を引受けさせていただきます・・・・と、この条件はどういう意味でしょうか・・・・」
 薄幸の受付嬢が、依頼の中の条件の部分にふと気が付いた。
「女人禁制。酒作りの蔵は汚れたものを入れるのは禁止。だから女人禁制ということだ。では頼んだよ・・・・」
 ジャパンの風習なので受付嬢には理解できないが、依頼人の条件である以上はやむを得ない。
「酒作りねぇ・・・・ワインの方が美味しいと思うんだけれどなぁ・・・・」
 そう呟きながら、受付嬢は依頼を掲示板に張付けた。

●今回の参加者

 ea1554 月読 玲(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea1703 フィル・フラット(30歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2389 ロックハート・トキワ(27歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea3173 ティルコット・ジーベンランセ(30歳・♂・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ea4169 響 清十郎(40歳・♂・浪人・パラ・ジャパン)
 ea5840 本多 桂(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5947 ニュイ・ブランシュ(18歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●突然ですが勝負です〜勝ったら酒作らせろ〜
──酒蔵、談話室
 グビッグビッ‥‥。
 次々と開けられていく大量の甕。
 その甕を挟むようにして、依頼人である杜氏の『南部老人』と本多桂(ea5840)が、一升杉升を片手に、飲み比べの最中である。
「ぷはーーーっ。お嬢ちゃん、そろそろ限界じゃないかね?」
 キラーンと瞳を輝かせ、南部がそう問い掛ける。
「くぅぅぅぅぅぅぅっ。良く醸し出されているいい酒ねぇ。あんた、たいした杜氏だわよ」
 おっとどっこい、桂もまだまだいける口。
 その騒動を、他の依頼を受けた冒険者達が固唾を飲んで(一部、酒を飲みつつ)見守っていた。
 さて、一体何が起ったのか説明しましょう。
‥‥‥
‥‥

「駄目じゃ。女子を仕込み樽のある部屋にいれる訳にはいかない。外で飯炊きでもしておれ!!」
 依頼を受けた一行が挨拶に向かったとき。
 南部老人は開口一番そう叫んだのである。
「どうしても駄目でしょうか? 南部さん、貴方の噂はジャパンに居たときにも耳にしています。かなり上質の日本酒を醸し出すって‥‥」
 それは月読玲(ea1554)。
 なんとしても酒作りを手伝いたいという月読玲(ea1554)の言葉に、南部老人も一応耳を傾けた。が、結果はNo。トットトカエレである。
「ふぅん。ノルマンに来て酒を作ろうって言う人の割には了見が狭いわねぇ‥‥それって、たいした腕じゃないっていう事じゃないの?」
 それは本多。
──ビシィッ
 あ、南部老人の顔が紅潮する。
「あーーーん。今なんっつった小娘?」
「対した腕じゃないっていうのよ。こんな依頼、受けなきゃよかったわ」
──ビシィッ
「上等だ。なら、このワシの仕込んだ酒を飲んでから言ってみろ!!」
「面白いわねぇ。飲み比べ? いいでしょう。もし私が勝ったら、ここで酒を仕込ませて貰うわよ?」
 あーー。
 つまり、南部老人は、まんまと『口車』に乗せられてしまったのですな。
 そして冒頭に戻る訳ですわ。

‥‥
‥‥‥
「‥‥ど、どうじゃ‥‥小娘‥‥」
 すでにフラフラしている南部老人。
 と、本多はけろりとして飲んでいる。
「まだまだよ‥‥ヒック」
「ふぅむ‥‥いい感じじゃて。ワシの負けじゃい。明日から仕込みに加わってもらうぞ。見ている女子達も、明日からはフンドシに晒し、半纏を着てここに集合じゃ!!」
 そのまま倒れる南部老人。
 いびきをグーカーグーカーと掻いて眠ってしまう。
「それにしても。酒作りの杜氏相手に飲み比べとは‥‥」
 あきれてものの言えなかったランディ・マクファーレン(ea1702)がそう告げる。
「だって‥‥杜氏さんは酒を仕込む最高責任者なのよぉ。お酒には強いかもしれないけれど、普段は利酒(ききざけ)をしなくてはならないから、一気に大量には飲めないのよぉ〜ひっく」
──バターーーーン
 あ、ちなみに本多も限界点。
 あと少し南部老人が潰れるのが遅かったら、本多の負け。
「さて、明日から仕込み開始ということだが‥‥」
 身の前に転がっている酔っぱらい二人と、酒盛りの後。
 それを見ながら、フィル・フラット(ea1703)は頭を抱える。
「その前に、ここの後片付けから始めるとしますか‥‥」
 ロックハート・トキワ(ea2389)が空になった甕を一つ一つ集める。
「酒は飲んでも飲まれるなっていうじゃん。この二人の飲み方は、正しい飲み方だぜ?」
「でも、ここまで飲むのもどうかと思いますけれどねぇ‥‥」
 ティルコット・ジーベンランセ(ea3173)の言葉に響清十郎(ea4169)が続く。
「まあまあ。明日からは過酷な作業がまっているのだから。今はゆっくりと休ませてあげような」
 アニュイ‥‥ちゃう、ニュイ・ブランシュ(ea5947)が皆にそう告げて、其の場は丸く収まった。


●酒作れ〜下準備は万全、作業はここからが過酷です〜
──酒蔵
「‥‥こ、このスタイルはちょっと‥‥」
「私達は女性ですので‥‥」
 本多と月読の女性二人が、南部老人に向かってそう問い掛ける。
 ちなみに上半身は晒し捲きに半纏、下半身はフンドシにズボン。頭にはねじり鉢巻きをして髪はまとめて帽子に突っ込む。
 晒し捲きの為に、実に胸がキツい。
「えーい。ごちゃごちゃ言うなぁぁぁ。仕込みの手順を説明するから、だまって聞いておれ」
 そのまま集った一行に、南部老人は一通りの作業を説明。

1.精米(汲み置きした水で洗うべし。とにかくよく荒い、表面を削りとり、米を小さく磨くべし)
2.甑(こしき)にて蒸し上げる
3.甑より蒸しあがった米を放冷し、用途別に米を分ける
4.蒸米を麹部屋へ移し、麹菌を加えて揉み上げる(床揉み)
5.40時間後に麹の完成。
6.生もと作り。半切りと呼ばれる槽に蒸米、水、麹を入れてよく混ぜる。
 水分がすっかり吸い込まれたら、もとをすりあわせる(もと摺り)
7.大きな樽に入れて,『抱き樽』と呼ばれる、熱湯を入れて密封した樽を入れ、温度を調整(ここから一ヶ月で酒母元が完成)
8.もろみ作り。元に麹と水、蒸し米を入れてもろみを作る。
9.表面に、醗酵した泡が出てきて、泡が小さくなり始めたら(20日前後)完成。
10.酒袋に移し、酒舟と呼ばれる型に並べ、上から重しをして絞る。
11. 絞った酒を別の桶に移し、不純物が沈殿したら綺麗な上澄みを救いとる。
12.甕に移して貯蔵。完成。

「以上じゃ」
「ちょっとまてぃ。この行程だと、どう考えても2ヶ月はかかるぞ。どうやってそれを一週間ちょいで付仕上げるというのだ?」
 そのランディの突っ込みに、老人は静かに肯く。
「作業工程は1〜6、8、9。8と9の行程についてはワシがジャパンで作った『酒母元』を持ってきておるからそれを使う。次の酒を作るのに必要な酒母元も作る必要があるから1〜6の行程も並行して行うわい」
 あ、これはかなりきっつい。
 そんなこんなで、酒作りスタート。


●酒母を作ろう〜つ、冷たい。あ、熱い〜
──酒蔵
 精米作業は冷たい水で行われる。
──ジャリシャリシャリシャリ
 米を砥ぐように丁寧な手付きで精米する月読と本多、響の3名。
 元々ジャパン出身の彼等にとっては、米との触れ合いは朝飯前。
「‥‥こ、零れるじゃん‥‥」
「ワインとはまた違う、難しい酒なのだな」
 ティルコットとニュイがそう呟く。
「‥‥そうですねぇ。何ていうか本当に、久し振りに命のかからない依頼だな‥‥平和だ」
 フィルがそう呟きながら、洗いあがった米をザルに上げる。
「甑の準備はOKだ。急いで持ってきてくれ!!」
 蔵の中では、巨大な甑がもうもうと湯気を上げている。
 その前では、ランディが蒸気の調整について南部老人から説明を受けているところである。
──ガバッ
 上蓋を開き、6人が洗い上げた米を順番に入れていくのはロックハートの仕事。
「ランディ、こっちはOKだ」
「よし、一気に上げる!!」
 ロックハートが蓋をしてから、ランディが一気に薪をくべていく。
 ゴゥゥゥッという音と同時に蒸気の勢いがさらに強くなる。
「おっと、ここの部分を外して‥‥」
 甑の横に有る小さなふたを外し、みぞを掘りこんだ升状のふたを付ける。
 みぞをつたって蒸気が抜け、内部の温度を調整するというものらしい。
 それが全部で9行程行われる。
 
 それぞれ、自分が精米した蒸米を樽に入れる。
「さて‥‥ここからか正念場じゃて」
 南部老人が酒母蔵から酒母を持ってくると、それを各員に配布する。
「入れる量はどれぐらいだ?」
 ランディの質問に、杜氏は静かに口を開く。
「米の量がこれだけなら‥‥、自分達の蒸し上げた米升一つにつき、握りでこれぐらい‥‥最後の加減は儂が見てやる。思う存分やってみろ!! 本国ではきっちりと計って仕事をするが、このノルマン初の酒じゃて。心してかかるがよい」
 その言葉に、各々が少しずつ加減しながら酒母を加える。
 そしてゆっくりとかき混ぜて暫くおくと、ポコッ‥‥ポコッと醗酵が始まった。
「ほう。早速始まったようだな」
 樽の中に出来始める泡。
 それを眺めつつ、ロックハートがそう呟いた。
「さて、樽の状態は逐一確認するとして。次の仕込みに必要な酒母を作るとするかのう‥‥」
 一息入れてから、一行は地獄の仕込みに付き合う事となった。


●酒母の為ならえんやーこーらー〜この酒母は、来年の春につかいます〜
──麹室
 さて、次の仕事は酒母作り。
 半きり槽に、各自の蒸し上げた米を入れる。
 そこに杜氏の持ってきた麹菌と水をいれ、櫂という道具でゆっくりと混ぜあわせてすり潰す。
 黙々とした仕事の為、意識が飛びそうになることもしばしば。
「一重 積んでは父の為‥‥♪ 二重 積んでは母の為‥‥♪」
 つたないジャパン語でそう歌い始めるのはランディ。
「な、何をいきなり?」
 本多が激しくつっこむが、ランかディはあっけらからんと返答。
「昔、ジャパンの僧侶に学んだ歌だ」
「まあ、この作業は暇だからなぁ。儂らも皆で歌を歌いながら仕事をしていたものじゃよ」
 正確には、歌を歌うことで時間を計っていたらしい。が、杜氏の知っている歌は、ジャパンの歌でも杜氏や蔵人たちにしか判らない。
 そのため、一行は自分達のよく知っている歌を歌うこととなった模様。
「主は来たれり♪〜」
 って、賛美歌かい!!
 まあ、ノルマンはジーザス圏。
 国教たるジーザス教の歌ならば、賛美歌程度は歌えともおかしくはないか。
「それなら‥‥まいやひ〜、まいやふ〜、まいやほ〜、まいやはっは〜」
 そのまま賛美歌を奏でるのも何である為、時折ティルコットが音頭を取ってジプシー達の歌を奏でる。
 そんな異様な雰囲気の中、一行は『もと摺り』作業を続けていた。
 摺り終った『もと』は、大きな樽にいれられて熟成。
 そして一行は自分達の仕込み樽に向かうと、南部老人の指示により蒸し米と酒母を調整していった‥‥。


●そんなこんなで最終日〜銘酒となるか?〜
──酒蔵
 無事に次の酒母の仕込みも完了。
 自分達の作った酒も、最後の醗酵が数日後には終る。
 そのあとは老人が酒を絞り、保存用樽に移して眠りに付く。
「これで、今回の全ての作業はお終いじゃて‥‥あとは、春にこの酒が蔵から出てくるのを待つばかりじゃよ」
 そう呟く南部老人が、一行に筆と墨を手渡す。
「これは何じゃん?」
 そう問い掛けるティルコットに、老人はニィッと笑いながら即答。
「樽に名前を付けるのじゃよ。この酒が、お前たちの作った酒じゃ。春には蔵から降ろせるが、その前に‥‥」
 そう告げると、南部老人は樽から柄杓で酒を汲み上げて各自に手渡した。
 まだ絞っていない白い酒。
 醗酵が終りきっていない酒は、どことなく甘い香りと米独特の香りが付いている。
「いい香り‥‥」
 グイッと一口呑みつつ、月読が感激の声を上げる。
 彼女の付けた酒の名前は『月読』。
 まだ生まれていない酒、そして彼女の作った初めての酒。
「‥‥酒は好きじゃない、が‥‥職人の苦労は認めなくちゃならないかな、これは」
 ランディも静かに酒をすすると、そう言葉を濁す。
 ランディの作った樽は二つ。
 一つは洗い袋にて『濁り酒』をつくり、もう一つは普通に絞る。
 名前は『濁酒・親ころし』
「何となく、心に浮かんだ名前をそのまま付けてみたんだが‥‥。問題がなければこれで」
 フィルの命名した酒は『極楽とんぼ』。
 実にフィルらしい名前であろう。
「‥‥あれ? 悲しくないのに涙が‥‥」
 頬を伝う涙が一雫。
 ロックハートは試飲した酒の味に、涙を零す。
「良い酒というのはそういうものじゃて」
 ちなみに酒の名前は『銘酒・中途半端レンジャー』。
 樽にはひらがなで『めいしゅ・ちゅうとはんぱ☆れんじゃぁ』と記されていた。
 しっかし、自暴自棄な名前を。

「よし、この酒は「清酒:無法の星(アウトロースター)』で決定。この程よい端麗辛口が、すさんだ酒場にはよく似合うっていうものじゃん。無法者ややんちゃ野郎にはもってこいな一品に仕上がったぜ」
 ティルコットもご機嫌モード。
 響は静かに樽に名前を記していく。
 その名前は『鶴友の響き』。
 彼がジャパンで飲んだ酒にも匹敵するという意味でつけられた。
 米を洗う際にも、響は磨きに磨いていた。
 その甲斐あってか、淡麗旨口の良い酒に仕上がっている。
 その横で静かに樽に名前をつけているのはニュイ。
 しっかし『清酒・非女装趣味宣言』っていうのは、どうかと思うよ。
 酒の呑口は濃厚甘口と、実にニュイっぽいですな。
 そして殿(しんがり)には、冒頭で一騒動していた本多。
「よし、名前は『大吟醸・飛天抜刀』吟味された材料を作って醸しだす、すなわち杜氏の秘伝『吟醸作り』のさらに上。だから大吟醸。どう?」
「うむうむ」
 そう南部老人は静かに肯く。
 杜氏達の中には秘伝と呼ばれる技法が存在するが、それを地で作り出す本多の技術はたいしたものである。
 只の酒飲みではないというところか?
 そして一行は最後に、倉庫から出ると柏手を打って蔵に挨拶を行う。
 使った道具全てを洗い清めると、いよいよこの村ともお別れである。
「またいつか遊びにこい。お前たちの名前札は大切に取っておく、いい仕事をしてくれたな‥‥礼を言う」
 深々と礼をする南部老人。
 そして一行も礼をすると、パリに戻ることになった。
 冬が来て仕事にあぶれても、一行はこの蔵での仕事を保障されたようなものであろう。
 
 彼等の酒が世に出るのは春。
 その時までは、暫くは。

〜Fin