●リプレイ本文
●ミッション1〜地図を解析せよ〜
──12月9日
パリ、冒険者街の酒場『マスカレード亭』
「‥‥これでよし。みんなの分の地図はこっちね」
シフールのアルフレッド・アーツ(ea2100)が、テーブルの上で大量の地図を広げている。
今回の依頼人であるカトリーヌから預かった地図を写し、仲間たちに配っている模様。
その地図をじっと見つめ、カトリーヌは溜め息一つ。
「ふぅ‥‥冒険者訓練所では、古代魔法語までは学んでいませんでしたから」
そう呟くカトリーヌに、フェイテル・ファウスト(ea2730)が静かに話し掛ける。
「大丈夫ですー。このパリには、『ミハイル・ジョーンズ』という有名な考古学者さんがいらっしゃいますから〜♪」
その言葉に、一瞬勇気づけられるカトリーヌであるが、それには直に修整が入る。
「ミハイル卿は、今は南ノルマン地方に引越しなされました。写本などの解析が得意なシャーリィ女史も。確か馬車でなら2日程度で南ノルマンに到着する事はできますが、どうしますか?」
フランシア・ド・フルール(ea3047)が皆にそう問い掛ける。
「どうしようかなー。あ、ちょっと酒場のマスターに、この酒場に学者さんが出入りしていないか聞いてくるね」
テュール・ヘインツ(ea1683)がそう話してからカウンターに走っていく。
そして仮面を付けたマスター『ザ・マスカレード』に静かに話し掛ける。
「ねぇマスター。この酒場に学者さんいる?」
「学者ですか。そうですねぇ‥‥」
遠くを見つめながら何かを考えるマスカード。
「没落考古学者でしたらそこのテーブルで飲んでいますが」
うわ、凄い物言いだな相変わらず。
「こりゃマスカレードっ。だぁーれが没落だぁ!! ヒック」
真っ赤な顔の没落考古学者、ロイ・バルディッシュ教授が、フラフラとした足取りでテュールの元へとやってくる。
「初めましてぇ。調香師兼冒険者のテュールだよー。考古学者の先生は、古代魔法語の解読ができますか?」
屈託のない笑顔でそう問い掛けるテュール。
「うむ。自慢ではないが、このロイ・バルディッシュ、このノルマンの考古学者の中でも神聖歴999年度考古学者ギルドのベストバウト賞を授賞した事のある強者じゃて。どんなドラゴンもひとたまりもないわい‥‥」
ああ、激しく酔っ払っているし。
そのままテュールは、ロイ教授を伴って自分達の卓へと移動。
「初めまして。私はシャルロッテ・ブルームハルトと申します。実は、私達は彼女の依頼を受けて、この地図に記された場所に行かなくてはならないのです。ですが古代魔法語は全くといって良いほど理解できない為、解析をお願いしたいのですが」
そう哀願するシャルロッテ・ブルームハルト(ea5180)。
「ロイ教授、なんとか頼みます。貴方に引き受けていただかないと、私達はプロスト領まで向かわなくてはならないのです」
ティム・ヒルデブラント(ea5118)も両手を合わせてそう告げる。
「ふむ。ちょっと水‥‥グビグビっ‥‥ぷはーーーっ。どれ、ちょいとその地図とやらを見せてもらおうかのう‥‥」
そのまま地図を受け取ると、ロイ教授は自分の席に置いてあったスモールザックから、羽根ペン一式と羊皮紙を取り出した。
「ふむふむ。大いなる女性、神々の使い‥‥いや、慈悲深き女性‥‥ふむ‥‥」
さっきとは目の色が違うロイ。
「どうですか?」
「明日の朝まで時間をくれ。ちょっと難しい部分があちこちにあるわい。酔いが醒めたら、なんとか‥‥」
そのままフラフラと、ロイ教授は地図を手に酒場を後にした‥‥。
──12月10日
翌日。
ロイ教授が解析の終った地図を片手に、酒場へとやってきた。
「まあ、この地図はそれほど難しくは無かったが‥‥」
テーブルに付きつつ、ロイ教授が静かにそう呟く。
「何か問題でもあったのですか?」
そう問い掛けるティムに、ロイ教授は解析の終った地図を見せた。
そしてその地図を見た瞬間、一行は硬直。
「‥‥えーっと。ロイ教授、これって‥‥」
そう呟くテュールに静かにロイは肯いてみせた。
「地図はかなり古いものじゃったし、記されている地形は、今のノルマンには存在しない地形じゃて。ワシの持っている歴史の本を紐解いて、ようやく解析したのじゃよ。ほれ、ここが今の『冒険者ギルド』、ここが『教会』。そして財宝の隠されている場所が‥‥ここじゃよ」
トントンと指で地図を叩くロイ。
「ここに侵入するのは、奇跡でもない限りは無理ですわ。カトリーヌさん、どうしますか?」
フランシアがそうカトリーヌに問い掛ける。
「取り敢えず、その場所に向かって見てから考えてみましょう。ロイ教授、色々とありがとうございます」
カトリーヌは静かに頭を下げ、今回の解析手数料を懐から差し出した。
「いやいや。まあ、それほど難しい解析じゃなかったわい。財宝の地図がそんな結果になって残念じゃったろう? 解析手数料も貰ったことだし、この地図の場所にでも時間があったらいってみなされ。ワシの解析したばかりの遺跡じゃが、ワシにとっては興味のない遺跡なのじゃよ‥‥まあ、地図代ぐらいは稼げるじゃろうて」
そのままロイはカトリーヌに地図を手渡した。
そして一行は、解析の終った地図に記されている場所に向かって移動開始!!
──12月10日〜コンコルド城・城門前
ということで、冒険者ギルドを出発した一行は、地図の印のある場所である『コンコルド城』城門前に到着した。
「隊列‥‥組む必要もなし」
「灯の準備‥‥まだ夕方だしぃ」
「探索の為の人数‥‥入れれば必要かな?」
「索敵要員‥‥前方で、武器を手にした男が二人、こちらを睨みつけていますが」
以上、気持ちだけは地下迷宮のティム、テュール、アルフレット、カトリーヌの4名でした。
「あーー。そこの冒険者。この辺りでうろうろしていると怪しまれるからな。それとも、何か王宮に用事でもあるのか?」
城門を警護している騎士が、一行に向かってそう話し掛けた。
はい、お察しの通り、古い地図に記されていた場所には、現在『コンコルド城』が鎮座ましましています。
「実は、私達は冒険者ギルドからの依頼を受けて、この女性のエスコートを行なっている所です」
フランシアが前に出て、静かな口調でそう説明する。
「ほう。成る程。それで、この場所にやってきた理由は?」
もう一人の護衛騎士がフランシアにそう問い掛けた。
「彼女の持っていた地図に記されている場所に向かうのが今回の依頼。それで地図の解析を行った所、その場所には現在コンコルド城の王宮が建設されてしまっている事が判明したのです」
「真に勝手な御願いで申し訳ございません。この場所にいきたいのですが、どうにか通行許可を頂けないでしょうか?」
フランシアのあとに、シャルロッテが続いて口を開いた。
「うーーむ。いくら冒険者とはいえ、自分達の身分を証明できるものがないことにはなぁ。宮廷図書館とか、絵師の元に行くのであれば別に構わぬが‥‥」
そのまま見せてもらった地図の場所を確認する護衛騎士。
「うむむ、この場所に問題がある。国王の私室のあたりとなると、ちょっと通すことはできませんね。残念でしょうけれど、今日のところは帰ってください。貴方たちの身分を証明できる方の推薦状があれば、それを国王付執事に手渡すことは可能でしょうから。実際に許可がおりるとしてもまだ先の事でしょう」
残念ながら、一行はそのまま冒険者酒場へと逆戻りとなった。
●リターンマッチ〜遺跡に突入して依頼遂行作戦〜
──12月13日、北ノルマン丘陵地帯
翌日、一行はロイ教授から受け取った地図の場所へと向かった。
トレジャーマップは残念な結果で終ってしまったが、ロイ教授から受け取った遺跡の地図でも依頼は十分に熟せると一行は判断。
パリから片道2日の場所にある丘陵地帯へと移動。
そこに立っている古い屋敷廃墟の地下へと、一行は突入したのである。
「この建物は、古くはとある貴族のものでして〜♪。夫が死んだ後、遺産を相続した夫人はこの屋敷で静かに余生を過ごしたという噂が流れていました〜」
フェイテルが建物にまつわる物語を探し出し、それを静かに語っている。
その前方、古いガーヴ(ワイン貯蔵庫)では、ティムとカトリーヌが前衛でやってくるズゥンビをバッタバッタと薙ぎ倒している最中である。
「ハァハァハァ‥‥それで、その夫人の死因とか、貴族の趣味とか、そういった部分についての説明はないのでしょうか?」
ティムが肩で息をしながらそう呟く。
──スカッ!!
眼の前に現われた透き通った女性を切り付けたカトリーヌだが、武器はその身を傷つけずにスッと抜けていく。
「気を付けてください、その女性はレイスです。触れられると精気を奪われ怪我を負います。それに魔法の武具以外では傷つくことはありません!!」
流石はセーラの乙女・シャルロッテ。
「主よ、彼の者に裁きを与えん」
──ブゥゥゥン
漆黒の球体を生み出し、それをレイスへと飛ばすフランシア。
「初めに言葉がおり‥‥言葉は神と共におり‥‥言葉は神であった‥‥」
そのままブラックホーリーが命中すると同時に、フランシアは聖書より『ヨハネの福音』を唱え始める。
聖書の力か、はたまたブラックホーリーの効果か、レイスは突然苦痛にその身を歪める。
「月よ。彼の敵を、黄昏の彼方へと誘いたまえ‥‥」
フェイテルのムーンアローも発動。
レイスの胸許に深々と突き刺さり、レイスはさらに身体を反らす。
──そして
ティムに向かって跳ね上がると、レイスはそのまま襲いかかっていく。
──ブゥン
その手をすばやく躱わし、体勢を整えるティム。
「最悪ですね。私達には、レイス傷つける武具はありません。ですが‥‥」
──ブゥゥゥゥン
ティムの言葉に続き、シャルロッテとフランシアは詠唱開始。
そして二人同時に、ブラックホーリーとホーリーを発動させた。
『全ての者は彼を通して存在するようになり‥‥彼を離れて存在するようなものは一つもない‥‥彼によって存在するものは命であり、命は人の光であった‥‥そして光は闇の中で輝いているが、闇はこれに打ち勝ってはいない‥‥とこしえの眠りにつきなさい‥‥Amen(まことにそうでありますように)』
二人の言葉が力となったのかは定かではない。
が、レイスはそのまま力を失い、其の場で消滅した。
「魔法の武器がない以上、僕やアルフレッドさんじゃレイスには勝てないよ〜」
そう嘆くテュール。
「そっか‥‥建物の内部だから、サンレーザーも駄目か」
アルフレッドのその言葉に、テュールはコクリと肯く。
「魔法の武器が全てではないですわよ。自分に出来る精一杯の事をすれば、それでいいのです。私は冒険者訓練所で、武闘家の講師にそう学んできました」
カトリーヌがニコリと微笑みつつ、テュールとアルフレットにそう声を掛けた。
そして一行は、いよいよ屋敷の最深部へと到達する。
●最深部の部屋〜邪悪なる者〜
──小部屋
薄暗く、カビと埃の匂いが漂う小さな部屋。
そんな部屋に一行が足を踏みいれたとき、真っ先に気が付いたのは匂いの中に微かに混ざっている腐臭。
といっても、ここ数日のものではない。
もう何十年と経過した‥‥まるでミイラのような、そんな感じの感覚。
「フェイテルさん、ここの屋敷の主人の死因はまだ聞いていませんでしたよね?」
ティムが目の前の空間をじっと凝視しつつ、静かにそう問い掛ける。
後ろではフランシアとシャルロッテ、テュールが魔法詠唱開始、アルフレッドはロングボウをセット。
カトリーヌとティムは盾を構えつつ、前衛として後方をカバー。
「確か〜♪真理を探求するために様々な魔術を研究して〜♪そのために命を捧げて♪〜」
目の前の空間。
小さな部屋全体にはびっしりと魔法文字が記され、魔法陣が作りあげられている。
部屋の中心に描かれている巨大なサークルの中には、明らかに『異質』なる紋章が記されていた。
その中央で、『異質なるそれ』は、ゆっくりと鋭い爪をカチカチと鳴らし、冒険者達に襲いかかっていく‥‥。
「室内に魔法反応なーーーしっ。いっちゃえーーー」
テュールの言葉に続き、二つのホーリーが螺旋を描くように『異質なるもの』の肉体に命中する。
さらにティムが手にしたスタッフを構え、切り込んでいく‥‥。
●パリへ帰還〜未知の存在の正体は〜
──冒険者酒場『マスカレード』
「グール?」
無事に依頼を終えた一行は、手に入れた財宝を換金して分配するために酒場にやってきていた。
屋敷の地下にいた最後の魔物について、様々な説を唱えていたところ、シャルロッテが一つの結論に達したようである。
「はい。外見的特徴から察しますに、恐らくはグールかと思われます。ですが、完全にそれとは断定できません‥‥」
静かにハーブティーを呑みながら、シャルロッテがそう告げる。
「もしグールだとすれば、あの場所に記されていた『巨大な樹』の形の変形魔法陣はなんだったんだろうねー」
テュールがごそごそと羊皮紙を取り出すと、其の場にゆっくりと広げた。
それには、地下の魔法陣らしき『巨大な樹』が記されている。
樹の中には、10個の紋章と、それを繋げる道。
その紋章には古代魔法語らしき文字が記されていたが、どうも細かく写し取ることが出来なかったようである。
「どうも読み取れない文字が多いですね♪〜。所々の単語の意味もさっぱりでーす」
フェイテル、持ち前のラテン語知識を、記されている文字を比較し解析。
と、幾つかの文字はラテン語と同じであるにも関らず、まったく異なる文字配列も存在している事に気が付いた。
「何か判ったことはないのですか?」
フランシアのその問いに、フェイテルは諦め顔である。
「まあ、それでも依頼は終了しましたし。皆さんも無事でなによりです。心からお礼を言わせて戴きます。ありがとうございました」
カトリーヌが其の場の一行に深々と礼を告げる。
と、どこからともなく彼氏であるピエールがやってくると、カトリーヌはそのまま今回の報酬の全てをピエールに預けた。
「はい、ピエール。今月の生活費よ。来年からは、頑張って働いてね(はあと)」
「判った。愛しているよ、カトリーヌ」
と、そのまま立ち去ってしまった。
「彼がピエールですか。神の新王国の住人として相応しいカトリーヌにとっては、彼は大切な男性なのでしょうけれど」
ピエールは『資格なし』。
それどころか、カトリーヌにとっては悪影響の存在でしかないとフランシアは判断。
まあ、それについてはまた後日という事で。
〜Fin