冬のそなた〜エルフの奥様達迷走〜

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月05日〜02月10日

リプレイ公開日:2005年02月10日

●オープニング

──事件の冒頭
 静かな酒場。
 いつものような穏やかな朝。
 これまたいつもの薄幸の受付嬢は、カウンターの向うに集っているエルフの奥様達の相手に困り果てていた。
「えーーっと、つまり、そのヤンとかいう人に手紙を渡せばよろしいのですね?」
「ヤンではないわよ。『ヨン様』ですわ」
「そう。あの美しいヨン様に、私達の真心のこもった手紙を渡して欲しいのですわ」
「ああ。ヨン様。そなたの事を思うと、妾は胸が張り裂けそうぞよ。この冬の寒空の中でも、そなたを思うと胸が熱くなってきて・・・・」
 エルフの若奥様から、はては有閑マダムまで。
 よくもまあ、こんなにエルフの奥方が集ったものだと、溜め息を付く受付嬢。
「判りました。では、依頼をお受けしましょう。それで・・・・そのヨン様というのは何処にいるのですか?」
「それが判っておれば苦労はせぬのじゃ」
「判って居るのは、あの方はブランシュ騎士団の騎士団長を務めていて・・・・」
「日本刀の達人にして復興戦争の英雄!!」
「見目麗しい美形というところであろう。うちの亭主が『実用・夫』とすれば、ヨン様は『観賞用・美形』というところじゃ。夫に対する愛は失ってはおらぬが・・・・ヨン様は別」
 はぁ。
 受付嬢は頭を捻る。
 そもそも、ブランシュ騎士団の団長は『ヨシュアス』であり、ヨン様などという名前では・・・・えーっと。

 まさか・・・・。
 『ヨ』シュアス・レイ『ン』でヨン様?

「あのーー。まさか、ヨシュアス・レイン様のことですか?」
「その通り。わらわ達は愛を込めて『ヨン様』と呼んでおる。では頼むぞよ」
 あああ。まぢですか。
 その言葉に納得して、受付嬢は依頼書を書きあげる。
「この程度の依頼なら、駆け出しさんでも大丈夫ですねぇ」
「それはならぬ。信用があり、実力もある冒険者でなくては、安心して任せられぬぞよ。わらわたちの愛のこもった手紙ぞ!!」
 とは有閑マダムの弁。
 ああ、またややこしい。
 ということで、頭を抱えつつ、受付嬢は依頼書を掲示板に張付けた。

●今回の参加者

 ea1683 テュール・ヘインツ(21歳・♂・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 ea2361 エレアノール・プランタジネット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea2597 カーツ・ザドペック(37歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea3484 ジィ・ジ(71歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea6332 アヴィルカ・レジィ(16歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●難解なる依頼〜入り待ち、出待ちも駄目でした〜
──パリ・冒険者街
 静かな朝。
 ゆっくりと扉を開く。
 目に移る光景は、今までの日常と変わらない日常。
 今日もまた、新しい冒険が始まる。
 だが、其の日の冒険は重い。
「じゃあ、いってくる・・・・」
 扉の奥で、瞳を輝かせて見送ってくれる妻にそう告げると、ジィ・ジ(ea3484)は静かに扉を締める。
「ふぅ。所詮、ワシも『実用・夫』の一人でしかなかったのか・・・・」
 手に握っているのは、妻から『ヨン様』宛に認められた手紙。
 トボトボと共に依頼を受けた仲間たちの元に向かい、ジィは溜め息をついていた。


●一か八かの大作戦〜有名だからこそどこにいることやら〜
──待ち合わせ
 今回の依頼はかなり変則的である。
 何よりターゲットと成る人物がこのノルマンの精鋭騎士団団長と言うこともあり、綿密な打ち合わせを必要とする筈。
 だが、その打ち合わせでも話は纏まらなかった為、一行はそれぞれが手紙を預かり、ターゲットを各個で探し出すという作戦にでた。


──ノルマン江戸村
 一か八かの大ばくち。
 ジィは江戸村に向かう乗り合い馬車をどうにか探し出し、無事にノルマン江戸村に到着した。
 目的は『お忍び』でやってきているかもしれないヨシュアス殿との接触。
「ふぅ・・・・」
 トボトボと肩を落とし、村の中での聞き込みなどを行うジィ。
 だが、これといった情報を得ることは出来ず、ただ静かな毎日を過ごしていった。


──エレアノール
「一体、どこに住んでいるのでしょう?」
 エレアノール・プランタジネット(ea2361)はパリの市街地をしらみつぶしに探しまわっていた。
 ヨン様の家を発見し、出入り商人か家の使用人に接触し、ヨン様の人となりについて聞きまわろうとしていたのであるが、実にその家を見付けるのが難しい。
 ようやく見付けたのはよかったものの、家の正面、裏口すべてに護衛の従士ががっちりとガード。
 その従士に質問をしても、なにも答えてくれず、エレアノールの聞き込みは失敗に終った。
「せ、せめてヨン様の今年冬のファッションスタイルと最近の趣味を教えてくれませんか・・・・」
「・・・・」
 そのエレアノールの問い掛けにも、従士はなにも答えてくれない。
 そのまま家から離れて悪態を付くエレアノール。
 さて、次の作戦はどうなることやら。


──カーツ
 じっと酒場で座って待つ。
 カーツ・ザドペック(ea2597)は正攻法では会えないことを考え、且、相手が騎士団長という重い役職に付いていることも考慮し、シフール郵便で騎士団の詰め所に手紙を送った。

『現状の状況では打開策がなく、
 このままだと極めて面倒なことが発生する可能性もあり、
 余計なトラブルを回避する為に短時間で構わないからヨシュアスレイン様との接見を希望する』

 その手紙が無事に騎士団長の元に通れば良い。
 あとはじっとテーブルで待つ日々を送っていた。
「カーツ殿ですね」
 そう後ろから声をかけてきたのは一人の従士。
「いかにも。ヨシュアス殿の使いか?」
 そのカーツの問いに、静かに返答を返す従士。
「はい。取り敢えず手紙を受け取りましたので、そのご報告にだけやってまいりました」
 そう告げると、従士は懐から一通の手紙を取り出し、カーツに手渡す。
 文面がヨシュアス殿の直筆であるかどうかは判らないが、その内容は務めて丁寧に、そして簡潔に纏められていた。

 昨今のノルマンに置ける様々な事件。
 それらの処理の為、騎士団を率いている身である以上、今は時間を裂くことが出来ない。
 平穏無事に時間が訪れたときには、ゆっくりとみなさんの手紙を見させて頂きます。直接手渡しと書かれていますので、後日改めて時間が取れれば、その時に受け取りましょう。
 
 そんな内容であった。
「ということです。では、これで失礼します」
「ああ、俺は依頼期間はここにいるから、時間があったら、『貴婦人達』の気持ちも汲み取って受け取りに来て欲しいと伝えてくれ」
 そのカーツの言葉に、丁寧に挨拶を返すと、従士は其の場を後にした。
「ふぅ。やはり一筋縄ではいかないか」
 それもそうだ。


──フランシア
「これはこれは。サン・ドニ修道院のシスター・アンジェラスの紹介状ですね」
 城門入り口でフランシア・ド・フルール(ea3047)は、あらかじめサン・ドニ修道院長に用意してもらった紹介状を入り口の御衛士に見せていた。
「はい。城内教会の司祭長殿にご面会をお願いします」
 正攻法で城内に入り、さらに司祭に全てを打ち明けて教会にて待たせてもらうという事である。
 そのまま城内教会にて手紙を渡し、司祭に事の次第を告げるフランシア。
「そうですね。では、朝の祈りが始まる時刻から、夕の黙想までの時間、この教会に留まることをお許ししましょう。ですが、あの御方もお忙しい身分。ここに必ず礼拝に来るという保障はありませんがよろしいですね?」
 その司祭の言葉に静かに肯くフランシア。
「慈愛神セーラは、どのような身分の方にも公平な慈愛の手を差し伸べます。貴方がタロンの使徒であっても・・・・では、少々お手伝いをお願いしますね」
 最後の部分は少しきつい口調である。
 まあ、このノルマン、国教は『セーラ』。同じジーザス教でも『慈愛神セーラ』の教えが強い。
 だが、フランシアはその言葉に耳を傾けているものの、丁寧に挨拶を返すと、そのまま礼拝堂の片隅に座り、じっと時を待った。
 だが、この期間中、ヨシュアスが礼拝堂に現われることは無かった・・・・。


──テュール
「うーーーー」
 街角で頭を抱えているのはテュール・ヘインツ(ea1683)。
 サンワードによる質問でも、いいところまではいっているかと思いきや、どうやら『ヨン様に似た姿の騎士』が複数存在していたり、ヨン様自身が建物の中に入っている可能性などもあり、サンワードでの『絞り込み』は事実上不可能となってしまった。
 そのため、コンコルド城の近くまで向かい、テレスコープでお城をじっくりと観察、窓の中にヨン様が居ることにわずかの期待を賭けていた!!
 そして賭けに勝った!!

 依頼最終日の夕刻。
──ファサッ
 美しい長髪をなびかせて、窓の奥を『ヨン様らしい』姿の騎士が通り過ぎる!!
「は、は、発見!! ヨン様を発見したぁぁぁぁぁぁ!!」
 そしてその瞬間、ヨシュアスは確かにテュールの方を振り向いた!!
──どっしぃぃぃん
 慌ててバランスを落とし、昇っていた木から落ちるテュール。
 そして一目散にコンコルド城へと向かっていくが、騎士団員の入ることの許された区画に立ち入ることは不可能。
 当然ながら、騎士団長との謁見なども無理であった。
「うううう・・・・それならば!!」
 城の近くの家の軒下に陣取って、テュールは入り待ち・出待ちの体勢でヨン様待ち伏せするのであった。

──ザァァァァァ
 静かに雨が降る。
「寒いよ・・・・なんでこんなことしなくちゃならないんだよ・・・・」
 数日後、風邪を引いてしまったらしく、意識が朦朧としてくるテュール。
「早く依頼を終らせて・・・・温かいスープが欲しいよ・・・・パトラッ・・・・」
 夢うつつに何かを呟くテュール。
 そしてとうとうダウン。
 手にしていた手紙が路上に散乱し、テュールは意識を失った。

 意識が戻ったのは近くの宿屋である。
「・・・・気が付いたかい?」
 そう話し掛けてくる宿屋の女将。
 近くに置いてある温かいスープを手に取ると、テュールはそれを素早く咽に流し込む。
「女将さん、どうしてボクはここに?」
 そう問い掛けるテュールに、宿屋の女将は静かに口を開いた。
「どうしてって・・・・近くの軒先で熱を出して倒れていたところを、騎士団長さんが助けてくれたんじゃないかい。あんた冒険者なんだろ?」
 そしてテュールは途切れ途切れの記憶が蘇る。
 消え行く意識の中、ヨシュアスに抱きかかえられていた記憶を。
 そしてテュールは荷物のなかから、手紙が無くなっていたことに気が付いた。
「ない!! 大切な手紙がない!!」
 慌てて探すテュールだが、女将が静かに話し掛けた。
「これかい? 騎士団長宛の手紙だろう? 大切なものだから、ちゃんとしまっておかないとと駄目だよ・・・・」
 そう告げて渡された手紙を確認するテュール。
 あと少し頑張れば、手紙を渡すことが出来たのに・・・・。
「なんなら、ここには騎士団長付きの従士の方もいらっしゃるから、彼に渡してもらうように頼んだらどうだい?」
 もう時間は残り少ない。
 最後の賭けに、テュールは出た。


──アヴィルカ
「・・・・今日は駄目なのか・・・・」
 コンコルド城の謁見の間。
 以前、先祖の遺産に関する書面が自宅で発見され、アヴィルカ・レジィ(ea6332)は謁見の間でヨシュアスに出会ったことがある。
 が、其の日は、書面も何もない状態での来訪であったため、入り口のところから奥には入ることが出来なかった。
 そもそも、この謁見の間、冒険者でも『先祖が活躍し、その遺産に関する書面があったとき』にしか入ることは許されていない。
 それ以外では許可の得られない場所である以上、一般の貴婦人達がここに来ることは出来ないのである。
「・・・・図書館で、色々と調べてみますか・・・・」
 城内を歩き、宮廷図書館を訪ねるアヴィルカ。
 そのま途中で数人の騎士と出会い、その都度色々と騎士団長の人となりを聞き、どうにか『ヨシュアス・プロフィール』成るものを作成。
 それを元に、ヨシュアス騎士団長の行動パターンを分析しては見たのであるが、この数日間、どうにも捕まえることは出来ない。
「この時間、今のスケジュールを予測し、ヨシュアス殿の行動を考えると・・・・あの2階廊下のあのあたりとーつつーーーーっと」
 と、指差し確認するように二階廊下を指差すアヴィルカ。

──ドキッ
 と、その指先を、数人の騎士を従えて颯爽と歩くヨシュアスの姿を確認!!

「よ、ヨシュアス様!! 私は冒険者のアヴィルカと申します。依頼で御夫人達の手紙を預かってまいりました!! どうかお受取りください!!」
 その言葉にヨシュアスは振り向く。
 そしてすぐさま一人の騎士に指示を飛ばすと、そのまま城内に消えていった。
──数分後
「騎士団長から、お手紙を預かってきてくださいと伝えられました。本日は多忙の為、後日読ませて頂くとのことです。御夫人達にはそのようにお伝えください」
 それは先程指示を受けていた騎士。
「本来でしたら『直接』という事でしたが、貴婦人達の気持ちを無駄にしたくはありません。よろしくお願いします」
 そう告げながら手紙の把を騎士に手渡すアヴィルカ。
 どうにかこうにか手紙を渡すことは出来たものの、直接手渡しではないことに罪悪感を覚えていた。


●家路〜渡せなかった手紙〜
 冒険者酒場で一行は合流。
 無事に手紙を渡せたのはテュールとアヴィルカだけである。 
 が、どちらも直接ではなく、間接的にである。
 取り敢えずの祝杯を上げ、冒険者達は報告書を提出してトボトボと帰っていく。
 そしてジィも、渡せなかった妻の手紙を握り締めて、ゆっくりと家路に付くのであった・・・・。
 

〜Fin