●リプレイ本文
●というわけで〜1600m新馬戦スタート〜
──それぞれの厩舎にて
今回のレースは、それぞれの貴族の元で生まれたまだ若い馬達が主役である。
既にレース馬としてデビューした各馬に負けじと、それぞれが厩務員達の手によって訓練を受けていたらしい。
さて、それぞれの厩舎ではどのような事になっているのか・・・・。
──オロッパス厩舎
「良い馬ですねぇ〜」
眼の前に立っている馬を見つつ、御蔵忠司(ea0901)はそう静かに告げる。
「この筋肉質、足のよさ、毛並み、どれをとっても、いい馬の条件に適しています・・・・これが俺の乗る馬ですか・・・・」
そう呟いている時、奥から厩務員が1頭の馬を引いてくる。
「えーっと、御蔵忠司様ですね。お舘様からお話は伺っています。こちらが貴方の乗る馬『天空のヴァルク』です・・・・」
そう告げられた馬をふと目にする忠司。
(わ、若い馬だ・・・・)
そして真横に立つ、精悍な馬と比較。
「こっちの馬は?」
「ああ、それは『風のグルーヴ』です。まだ放牧から戻ってきたばかりで、未調整なんですけれど・・・・」
(これで未調整? 一体どんな馬なんだ?)
そう思いつつも、今回は『天空のヴァルク』での勝負。
素早く鞍に乗り込むと、忠司はそのままコースに出ていった。
軽快な走りを見せる『天空のヴァルク』。
特に、ダートコースでの粘り強さには輝くものがある。
『風のグルーヴ』に併せ馬をしてもらいつつ、限られたわずかの時間を、忠司は有効に使っていった。
──カイゼル厩舎
「これが『絹のジャスティス』ですか・・・・」
長渡泰斗(ea1984)はカイゼル卿に挨拶を行なった後、今回の馬である『絹のジャスティス』と対面した。
最初の印象としては、確かに良い馬であるという直感的な部分があった。
「良い馬を持つってのは武門の人間にとっちゃあ、名誉な事さ。古今東西問わずにね。・・・・うん、コイツはいい目をしてる。良い馬になると思うよ。全くの勘だがね? 俺の勘は当たるんだ」
「そうでしょう。この馬も、いい血筋を持っていますから・・・・それで、訓練はどのように?」
そう問い掛けるカイゼル卿に、泰斗は空を見上げて静かに口を開く。
「二歳新馬って事はまだまだ先が有るんだろ? 怪我させて再起不能、なんて事にならん様にせにゃあなぁ・・・・」
その言葉に、カイゼル卿も満足する。
そして泰斗は訓練を開始。
無理をしすぎない程度に『差し』脚を鍛え、コミュニケーションを取りつつ、『絹のジャスティス』との親睦を深めていった。
──オークサー厩舎
「こんにちは、帝王・トゥーカィ。わたくしはカミーユ・ド・シェンバッハと申しますわ。なかよくして下さいましね」
(・・・・楽しい)
オーラテレパスで『帝王・トゥーカイ』とコミュニケーションを取るのはカミーユ・ド・シェンバッハ(ea4238)。
「どうですか? なかなか良い馬でしょう?」
オークサー卿のその言葉に、カミーユはにっこりと微笑む。
「ええ。この子も喜んでいるようですわ。それで、この子の仕上がり状況などはどうなっているのでしょうか?」
そう問い掛けるカミーユ。
「私を始め、このレースに参加する全ての貴族の馬達は生まれて1年後には、レース馬としての調教を施す為に、とある場所にて訓練を受けています。私とカイゼル卿の馬は南西ノルマンにある『松五郎老人』の元で。マイリー卿とオロッパス卿は『ミーフォ訓練所』という所に預けています。アロマ卿とディービー卿は『リットゥ』という訓練士の元で初期訓練を行なっているそうですな。えーっと、この子は初期調整は全て終っていますので、あとは厩舎ごとの訓練だけとなっています。体調も万全です」
その説明に、カミーユは一安心。
「私は大掛かりな訓練は行ないません。馬と意志を通じ合うことができるので、スキンシップをメインにしていきますわ。訓練自体は、その松五郎さんという所でして頂いたことを厩務員さんにお願いし増すわ」
そう告げると、カミーユはバックの中から『進化のニンジン』を取り出す。
「これを与えてはいけませんか?」
「ほほう・・・・珍しいモノをお持ちですね。でも、レースに参加する馬には魔法的加護を与えてはいけないとなっています。そのような餌も同じです」
「判りました・・・・」
それを聞いて、カミーユは餌をしまい込む。
そして其の日から、カミーユはただひたすらに『帝王・トゥーカイ』とのコミュニケーションを徹底していた。
──マイリー厩舎
「うわわわををををををををぅはぁぁぁぁぁぁぁぁ」
激しく駆け抜ける『全能なるプロイ』。
その背中に乗って、ティム・ヒルデブラント(ea5118)は必死に手綱を絞っている。
「おーーー。早速洗礼を受けてきましたか・・・・」
ようやく止まった『全能なるプロイ』の背中で、ティムはぐったりとしている。
「こ、この馬は一体何者なんですか?」
「どうです? 激しい気性を持ちつつ、自分のペースは崩さない。我が厩舎の『最強のキングズ』に引けをとらない馬です。如何なるコースをも踏破するという意味合いから『全能』の名を付けています」
自慢げにそう告げるマイリー卿。
「今回はデビュー戦ということで、調教は軽めにいこうと思っていたのですが」
「ええ。貴方の望むままにお願いします・・・・今回は他の厩舎でも新人騎手が集っているようですので・・・・」
そのマイリー卿の言葉に、ティムはふと妄想開始。
「・・・・カミーユさんと同じ依頼かぁ・・・・」
──ホワワワワーーーーン
脳内では、今正にレース終盤である。
先頭を走るのは、愛しきカミーユ・ド・シェンバッハ。
その後ろをぴったりとマークして、ティムは走っている。
「もしわたくしを抜くことが出来ましたら、貴方のプロポーズを受けましょう!!」
そう脳内で呟くカミーユ。
「なら手加減はしません!!」
そのまま『全能なるプロイ』に鞭をいれるティム。
見る見るうちにカミーユにおいつき、そして追い越していく。
そしてゴーーーーーーーールっ。
大勢の観客に見守られつつ、ティムはウィニングランの最中である。
そして彼の後ろには、愛しきカミーユ。
「俺と結婚してくれ・・・・」
「はい。貴方とならどこまでも・・・・」
──ホワワワワーーーーーン
と、鼻の下を延ばして妄想しているティムの顔を、ペローーーンと舐める『全能なるプロイ』。
「はっ!! しかし、勝負ですから、真剣に行かないと行けませんね。私情を挟んではだめですっ。勝ちに行きますよっ!・・・・カミーユさんと同じ依頼かぁ・・・・」
──ほわわわーーーん
そして妄想は繰り返される。
──ディービー厩舎
「おやおや、随分と御無沙汰していましたねぇ」
などと呑気な事を言って居るのはディービー卿。
「はい。冒険者という職業柄、色々と忙しくて時間が取れませんでした。ですがもう御安心ください」
ガレット・ヴィルルノワ(ea5804)はにっこりと微笑むと、そうディービー卿に挨拶を返した。
「そうですねぇ。期待して待っていましょう・・・・」
そう告げると、ディービー卿は其の場を後にする。
そしてガレットは『漢・ジービー』の調教開始。
筋肉のつき具合から、『漢・ジービー』の走りの特性を予測。そしてそこを延ばすように、且、語りかけるような調教を行なっていく。
「いいこと、他の馬なんて蹴散らしていいんだからねっ!!」
──アロマ厩舎
「いいこと? 目指すのは優勝のみ。あなたが2番手3番手で満足するなら、話は別だけどね」
厩舎にてアロマ卿に挨拶を行った後、スニア・ロランド(ea5929)は今回騎乗する『怒りのトップロード』にそう語りかける。
『ブルルルルルルッ』
首を振りいななく『怒りのトップロード』の首にスニアは手をそっと当てる。
「いい? 余計なことは考えず、自分の走りで全力を出しなさい。わたしはそのサポートに徹するわ」
それがスニアの調教方針であった。
兎に角意思疎通を重点とし、決して無理はさせない。
馬の特性を知りたかったが、スニアは専門家では無かったため、詳しいことは判らなかった。
だが、この数日間で判ったことが一つ。
「先行逃げきりか・・・・持ち前の闘争心とスタミナがどこまで通用するか愉しみだな・・・・」
『怒りの』血筋における共通点。
化け物じみたスタミナが、どこまでレースに通用するか愉しみであった。
●レース当日〜エモン・クジョーの『俺に乗れ!!』〜
──スタート地点
レース当日。
今回はG1では無い為、それ程大勢の観客はいない。
が、レースが好きで堪らないといった『競馬狂達』が集まり、ちいさいながらもお祭り騒ぎになっていた。
「さて!! 今の所一番人気は『『怒りのトップロード』だぁ!! 彼の卿の持ち馬は全てスタミナが特化している!! 今回のこのデビュー戦でもそこを生かした走りを見せてくれるだろう!! そして二番手は『絹のジャスティス』。賭けの受付はそちらの帽子の男だぁ。オッズは右の掲示板を見やがれ畜生!!」
今回もやけくそ気味になっている予想屋エモン・クジョー。
まあ、好きにしてくださいな。
各馬一斉にスタートラインに到着。
そして今回のレースの主催者である6貴族から、代表であるアロマ卿が前に出て挨拶。
そしてそれが終ると、各馬一斉にスタートラインにつく。
「それではっ。よーーーい、すたーーーとっ!!」
各馬一斉にスタートしました。
まずは先頭、『天空のヴァルク』。
いきなりハイペースで先行しました。
続く二番手には『漢・ジービー』と『怒りのトップロード』が並びます。トップとの差1馬身。
そして4番以降は『全能なるプロイ』、『絹のジャスティス』、『帝王・トゥーカイ』と続きます。
全体的にハイペースなレース展開となっています。
──ほわわーーーん
「カミーユさん・・・・このまま俺がゴールしたら・・・・」
おっといきなり妄想モードのティムでした。
残り1200m
依然順位は変わらず。
「このまま逃げきれれば・・・・頑張って下さい!!」
『天空のヴァルク』にそう言い聞かせつつも、手綱を振る忠司。
そしてその後方では、白熱のデットヒートが展開されつつあった。
「前方の馬・・・・この私の『怒りのトップロード』より速いなんて・・・・でも、どこまでスタミナが続くかしら・・・・それにしても・・・・」
スニアは真横をぴったりと走る『漢・ジービー』を見てそう呟く。
安定した走りでペースを崩さないガレット。
「いいよ、その調子・・・・君は強い子なんだから・・・・」
馬との一体感を目の前で見せ付けられ、スニアにも焦りが見え始める。
残り800m
順位に変動あり。
「・・・・どうした? なにがあった?」
ここにきて『天空のヴァルク』、まさかのペースダウン。
『漢・ジービー』と『怒りのトップロード』が次々と『天空のヴァルク』を追い抜く!!
「故障? いえ違うわ・・・・でも勝機ですね?」
そのままグイッと腰を持ち上げ、ペースを上げるカミーユ。
「カミーユさん・・・・ここにきて勝負ですか・・・・良いでしょう?」
そのカミーユの腰が上がるのを見て、ティムもペースを上げる。
残り400m
さらに順位に変動・・・・。
「ここからが勝負です!!」
いきなり加速を開始する『絹のジャスティス』。
その追込みの強さは、現在G1で活躍中の『レディエルシエーロ』にも匹敵する!!
次々と順位を落としていく『天空のヴァルク』を抜き、目の前の『全能なるプロイ』にターゲットを絞る。
「後方から? させるかぁぁぁぁ」
さらにティムも鞭をいれる。
前方では、さらに激しいデットヒート。
「トゥーカイが直後ろに? 一体いつのまに?」
「ようやく『漢・ジービー』が目前なのに・・・・どうして?」
まさに鬼神の如く走り出した『帝王・トゥーカイ』。
「スニアさん・・・・貴方は騎手としては少しウェイトに問題がありますわ・・・・ガレットさんは、馬の特性を知りつつも、それを生かしきれていないですわ・・・・でも『帝王・トゥーカイ』は、私とお話ししていたのですから・・・・」
そして『帝王・トゥーカイ』が『漢・ジービー』と『怒りのトップロード』を追い抜く!!
その差じつに首一つ。
そして・・・・。
──そして
「ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉるっ」
トップは『帝王・トゥーカイ』。
そして二着は首差で『漢・ジービー』が勝利をもぎ取った。
1着:『帝王・トゥーカイ』
2着:『漢・ジービー』
3着:『怒りのトップロード』
4着:『全能なるプロイ』
5着:『絹のジャスティス』
6着:『天空のヴァルク』
そしてカミーユはウィニングラン。
馬にまたがり観客達に手を振りつつ、愛馬『帝王・トゥーカイ』の首を優しく撫で上げた。
「面白いですねぇ・・・・では、『帝王・トゥーカイ』も来季のG1候補に・・・・」
「ありがとうございます。さしずめG2という所でしょうね。でも、まだG2は『帝王・トゥーカイ』だけですがどうしましょうか?」
「では、G2に相応しい馬達を選んでいきましょう。皆さんも虎の子の馬達がまだ多くいらっしゃいますね? その子たちをレースに出して、優勝したらG2に」
「ほほう。さしずめ『未勝利戦』というところですか?」
「ええ。今回のレースの馬達は次からは『未勝利戦』というランクに。全く新しい馬は『新馬戦』というタイプに・・・・」
「そう言えば、南ノルマンからプロスト卿も参戦したいとか。なんでも、ジャパンから馬を買いつけたとかで・・・・名前は確か『春麗』とかいいましたか?」
なにやら波乱を含むレースの予感。
〜Fin