【シチュエーション】良い子の定義とは
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■ショートシナリオ
担当:久条巧
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 18 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月18日〜05月24日
リプレイ公開日:2005年05月24日
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●オープニング
──昨年
「お父さん、今度はいつ戻ってくるの?」
少女の父親は交易商人。
いつものように長い航海になる為、船長である父親は少女の言葉に、頭を撫でつつこう答えた。
「いい子にしていたら、すぐに戻ってくるからな‥‥それまで、お母さんと待っているんだよ」
「グスッ‥‥グスッ‥‥すぐ戻ってくるんだよね‥‥」
涙を流す少女を抱き上げると、父親はさらにこう告げた。
「いつまでも泣いてたら駄目だよ。お父さんを困らせないでね‥‥」
「うん。泣かない。いい子にしているから、すぐ戻ってきてね‥‥」
──数週間後
父親は戻らなかった。
彼の乗っていた商船は嵐の中座礁し、海底へと沈んでいった。
冒険者の手によって、彼の遺品である小さな革鞄と、彼が身につけていたロザリオが回収され、家族の元へと届けられた。
「ウッ‥‥ウウウッ‥‥」
むせび泣く母親。
その腕の中で、少女は静かに涙を堪えて笑っていた。
──さらに数週間後
カラーーン‥‥カラーーーン
教会の鐘の音が鳴り響く。
父親の遺品が届けられた直後、母親は病によって倒れた。
届けられた革鞄には、少女の母親の薬と、ちっちゃなロザリオ。
その薬の効果も虚しく、母親は静かに息を引き取った。
「‥‥絶対泣かないもん‥‥」
無言のまま、少女は墓を眺めている。
ただ、涙をぐっと堪え、微笑みつつ母親との別れを行なっていた。
──そして今年
母親の死後、少女はサン・ドニ修道院に預けられた。
そこで、少女はシスターになるべく楽しい毎日を過ごしていた。
あの日、エムロードという少女によって大切なお友達が殺されるまで‥‥。
あの運命の翌日。
少女はいつものようににこにことしながら買い物に出かけていた。
商人ギルドの人たちは、父親の死後、ずっと涙を堪えていた少女を助けてあげたいと、常日頃思っていた。
「やあ、アイちゃん。今日も元気だねぇ‥‥」
買物の入った袋を手渡す果物屋のおじさんが、アイと呼ばれた少女にそう話し掛けた。
「だって‥‥泣いたり悪い子にしていたら、いつまでたってもお父さんもお母さんも帰ってこないんだもん!! だからアイはずっといい子にしているの‥‥早く帰ってこないかなぁ‥‥」
少女は、両親の死、友達の死を否定していた。
──ということで
「む、難しい依頼ですよ、これ‥‥」
「そこをなんとか頼む!!」
商人ギルドの有志による冒険者ギルドの依頼。
それは超難解であった。
「アイちゃんを幸せにして欲しい‥‥」
●リプレイ本文
●ということで〜アイちゃんの為に〜
──パリ、サン・ドニ修道院
今回、依頼を受けるにあたり、アイちゃんと共に行動する必要がある。
そのため、男性2名を覗くメンバーはサン・ドニ修道院を訪れ、そのまま修道院長に面会を申し込んでいた。
そして今回の依頼の関係上、対象であるアイちゃんと一緒に居ることのできるようにと頼み込んでいたのである。
「判りました。商人ギルドの方からも是非協力してあげて欲しいという文書を受け取っていますので、女性の方は特別に修道院内での活動を許可しますわ」
ニコリと微笑みつつ、其の場に居合わせているエトワール・モル(ea2479)とロチュス・ファン・デルサリ(ea4609)、グリシーヌ・ファン・デルサリ(ea4626)、そしてビアンカ・ゴドー(ea8286)に対して、修道院長であるシスター・アンジェラスはそう告げた。
「ありがとうございます」
丁寧にそう告げるエトワール。
「そうね。それじゃあシスター・エトワール。この修道院での生活を少しでも行なったことはありますよね? それでしたら皆さんをお部屋へと連れていく前に‥‥」
そう話し掛けられて、エトワールはニコリと微笑んだ。
「判っておりますわシスター・アンジェラス。それではみなさんこちらに‥‥」
ここ、サン・ドニ修道院では、女性以外の立ち入りを禁止している。
それは例え冒険者であろうとも、依頼という名目でも、男性は一切の立ち入りを禁じられている。
唯一立ち入りの許されているのは、裏にある墓地のみ‥‥。
そして出入りの許されたものも、最初に礼拝堂にて『十字架貸与の儀』というものを執り行っている。
一行はそのままエトワールに付き従って礼拝堂に向かうと、そこで静かに儀式を行なっていた。
──一方、外の二人は
「随分と遅いな‥‥」
「ええ、本当ですねぇ‥‥」
正面入り口横柵のところで立っているのはホメロス・フレキ(ea4263)とニィ・ハーム(ea5900)の二人。
この正門から先には入ることを許されていない為、二人はここで仲間たちが話を付けてきてくれるのをじっと待っていた。
──テクテクテクテク
と、正面に向かってちっちゃな買い物かご持っている少女が歩いている。
その胸には大きなロザリオを下げ、小さい修道院服を身に纏っている。
「あ、これはごくろーさまでーす。おきゃくさまですかー」
ニコリと微笑みつつそう告げてくる少女。
「ん‥‥ああ、お客様だよ」
「ここの修道院にいるアイちゃんに会いたくて来たのですよ」
子供の口調に合わせるようにそう告げる二人。
「はい、わたしがアイちゃんです。どちらさまでしょうか?」
100万ブラン貨の笑みでそう告げるアイちゃん。
そしてまずはホメロスが、アイちゃんの前にしゃがみこんで話を始めた。
「実はお兄ちゃんたちは、アイちゃんに伝言を持ってきたんだよ」
「でんごん?」
キョトンとした表情でそう呟くアイちゃん。
「辛い事‥‥悲しい事‥‥それは‥‥確かに苦しいです‥‥でも、それから逃げては行けません‥‥」
んーー?
頭を捻るアイちゃん。
「もう‥‥ご両親に会う事は出来ません‥‥それで捕われていたら‥‥ご両親は悲しみます‥‥ですが‥‥泣きたいのなら…好きなだけ泣きましょう‥‥そして‥‥泣ききったら‥‥新たに道を踏み出す勇気‥‥それも持ってください」
──ペチッ
そう告げた瞬間、ホメロスのおでこをアイちゃんが平手でペチッと叩く。
「おとうさんとおかあさんにはあえるんですよ。アイちゃんがよいこでいてくれたら、かならずかえってきてくれるんですよーっ」
ベ──ッと舌を出してそう告げるアイちゃん。
もっと色々という筈だったのに、これではホメロスもなにもいえない。
「まあ、そうですねぇ‥‥貴方のような素敵なレディは‥‥前を見ていた方が素敵ですよ‥‥」
出来れば現実を知ってもらいたかった。
大切な人の死。
それを素直に受止めて、そして前に歩いていく勇気。
それをアイちゃんにも持って欲しかったのである。
「それじゃあね‥‥」
今度はニィ。
「君のお父さんから伝言を預かって来たんだ」
その瞬間、アイちゃんはニィの方を振り向く。
そしてニィはアイちゃんの胸から下がっているロザリオを手に取ると、話を続けていた。
「お父さんとお母さんはね、しばらく帰ってこれないって。良い子のアイちゃんにごめんねって。とても会いたがってた。しばらく会えないから、君がこれからもずっと良い子でいるか、見守る事にしたって言ってた」
じっとニィは、アイちゃんの方を向いて話を続ける。
そしてロザリオを手に取ると、優しい口調で話を続けた。
「それはね、ただのロザリオじゃないんだ。お父さんとお母さんが遠くから君を見る為の道具なんだ。魔法のちからで、どこに居ても君の姿や声を見守る事が出来るんだ。アイちゃんが良い子でいると、お父さんとお母さんは嬉しいって。それが幸せなんだって。今、君の頭を撫でられないけれど、お父さんが昔、頭を撫でていた事、君を愛していた事を思い出して欲しいって。それが君の幸せになる様に、お父さんとお母さんは君を愛していたんだって 」
と、いきなりアイちゃんは其の場から離れていくと敷地の中に走っていった。
「‥‥失敗ですかねぇ‥‥」
「まだいいほうだろうさ‥‥」
そう告げるニィとホメロス。
そして二人は、近くの酒場に移動すると、そこから修道院をじっと見守ることにした。
●翌日〜元気のないアイちゃん〜
──中庭、ハーブ菜園
「うんしょうんしょ」
ちっちゃなスコップで穴を掘るアイちゃん。
その横では、グリシーヌがアイちゃんの手伝いをしていた。
昨日、外から戻ってきて以降、アイちゃんは外にでなくなった。
その代わり、新しく教会にやって来た冒険者達と、アイちゃんは積極的に触れ合っていた。
中庭でも、ロチュスと一緒に庭いじりをしていた時も、ロチュスから色々な話を聞いていた。
「ふぅん。おともだちがいっぱいいたんですかー」
「ええ。でもこの通りおばあさんですから、人間のお友達の中にはもうこの世にはいらっしゃらない方も何人かいます」
優しくそう告げるロチュス。
そしてそっと自分の胸に手を当てると、静かにアイちゃんに語りかけた。
「その方たちは、今、わたくしの心の中に‥‥素敵な思い出と一緒に生きていて‥‥嬉しいことも悲しいことも全てを見ていてくださるのよ‥‥」
その言葉に頭を捻るアイちゃん。
まだ、理解していないのかな?
──台所
「うんしょうんしょ」
食事当番はシスター達による交代制。
幼いアイちゃんも、当然皆と一緒に食事を作って居る。
其の日の夜の食事を運ぶのはアイちゃんの仕事。
グリシーヌもそれを手伝いつつ、アイちゃんに話を聞かせていた。
それは古いお友達の話。
愛するが故、その死を認められない人。
そして、その方の元に戻ったものの、受け入れられずにさまよう魂。
それはアイちゃんの今を暗示している。
そしてそれが、アイちゃんのことであることが判ったらしく、下を向いたまま黙々と仕事を始めてしまった。
「判って頂けましたでしょうか‥‥」
そう問い掛けるグリシーヌ。
だが、アイちゃんはプイッと横を向いてトコトコと行ってしまった。
──夜・寝床にて
食事の後の自習時間。
アイちゃんはエトワールの連れてきたにゃんこと戯れ、すっかりご満悦。
そして眠る前の祈りを終えると、そのまま寝床に入っていく。
エトワールも一緒にそこに横になると、アイちゃんに静かに話を始めた。
「これからお姉ちゃんのいうことを良く聞いてね‥‥」
そう告げると、エトワールは静かに話を始める。
ご両親は既にアイさんの所に帰ってきていること。
「御姿が無くなってしまいましたからわかりにくいかもしれません‥‥けれど例えば、アイちゃんがお父様に頭を撫でていただいた感触を思い出す時、姿は見えませんが、その思い出した感触こそが、お父様は『ここ』にいらっしゃられるということなのですよ‥‥」
そう告げつつ、エトワールはアイちゃんの胸元に手をかざしてそう告げた。
寂しかったり、辛かったり、悲しい時は
もう、ご両親も帰られてますから泣いていいのですよ‥‥
そう告げたかったエトワール。
だが、アイちゃんはそのままエトワールに背中を向けると、静かに眠ってしまった。
●そして数日後〜おわかれのじかん〜
──修道院入り口
楽しかった時間が終り、冒険者一行は修道院を後にする時が来た。
様々なアプローチにも関らず、アイちゃんはいつも笑顔で居るように『必死に頑張っている』んだという事を、改めて確認できた。しかし両親のことになると、アイちゃんはすぐそっぽを向いてしまう。
そして最後。
一通りの挨拶を終えた冒険者達。
ビアンカはアイちゃんをそっと抱しめると、静かに話を始めた。
「嬉しい時は嬉しい顔をするのは当たり前だよね。だから、悲しい時は悲しい顔をしないと、悲しいことという現実に対して失礼なのよ」
優しい口調でそう告げるビアンカ。
「だから、嬉しい時は嬉しい顔をするぐらい、悲しい時は悲しい顔をした方が良いわよ。周りが心配しても、それは当たり前のことでぜんぜん悪くは無いから‥‥」
そう告げ終ったとき、ビアンカ、そして冒険者達の耳にアイちゃんの言葉が聞こえてきた。
「‥‥わかっているもん‥‥でも。かえってきてくれるってしんじているもん‥‥おとうさんも、おかあさんも、おねえちゃんたちも‥‥だから、あいちゃんはないたりしないもん‥‥」
そう告げると、あいちゃんはそのまま入り口にむかって走り出した。
「ないたらわるいこだから‥‥わるいこのとこにはてんしさまもこないんだもん!!」
──ドン
入り口で待っていたホメロスにぶつかるアイちゃん。
そのまま何処かに走っていったのですが。
ホメロスはアイちゃんが自分にぶつかったとき、其の手が彼女の頬を触っていたことに気が付いた。
その手には、僅かながら哀しい涙がついていた。
〜Fin