●リプレイ本文
●ベースキャンプ〜まずは準備〜
「儂はミハイル・ジョーンズという考古学者じゃ。このノルマンの各地で、古代の遺跡などの調査を行なっているのじゃ」
そう呟くのは依頼人ミハイル・ジョーンズ。初老の考古学者である。
「ミハイル爺ちゃん、また来たにゅー」
それはパロム・ペン(ea2705)。
「では早速打ち合わせといきましょう。大体の地図は前回の探索で出来ているのですよね?」
そう問い掛けるのはエルリック・キスリング(ea2037)。
その言葉に、ミハイル爺は前回の地図を広げて肯く。
「手前広間から右は手付かずじゃな。天井が崩れているから先に進めない。まずはレイス関係と、あとはその先の調査といったところじゃな」
その言葉に肯くと、エルリックはその場にいる二人の僧侶に問い掛けた。
「レイスとは、どういった存在なのですか?」
エルリックの言葉に、アリアン・アセト(ea4919)とノエル・ウォーター(ea5085)は静かに考えはじめる。
どうやら僧侶の持つ知識でも、レイスとなると詳細までは判らないらしく、二人は頭を捻ったまま静かに『申し訳ありません』と告げた。
「アンデットというのはそうそうお目にかかるものではないからのう。それがレイスというと、僧侶といえども専門的な知識が必要になってくるらしいからのう‥‥」
二人のフォローをするミハイル爺。
「咽までは出かかっているんです。以前修行中に何かの教えで学んだ筈なんですけれど‥‥」
アリアンが静かにそう告げる。
「すいません。まだ勉強不足でして‥‥」
ノエルもまた、静かに呟いた。
「で、ミハイルさん。どの辺にレイスが出たっていうんだ?」
そう問い掛けるのはレティシア・ヴェリルレット(ea4739)。
「ここじゃな。この神殿の奥から姿を表わしたのじゃ。手前の彫像が何かの起動スイッチになっているらしくてのう‥‥」
その言葉の後、カーツ・ザドペック(ea2597)がやれやれといった感じで口を開く。
「遺跡の正体が確認出来るまでは、下手に物品を動かしたりするのは止めておけ」
そうはいっても考古学者。
珍しいものなどを調べるのが仕事である以上、ミハイルがその言葉を了承するとは思えない。
「各部屋毎に危険がないと確認できたなら構わないじゃろう?」
そのまま視線をパロムに送るミハイル。
パロムはというと、前回の最後の詰めで失敗したという経験から、今回こそは失敗しないぞという意気込み満タンである。
「まあ、ミハイルさんが聞いてきた情報では、魔法か銀の武器でしかダメージが与えられないのですね? 今回は私が魔法附与を行うので、対処は可能です。それに僧侶の方もいるので、今回は心強いのでは?」
そのツヴァイン・シュプリメン(ea2601)の言葉に、一同は肯く。
「レイスとの会話が可能であれば、話し合いで解決できるのだろうが‥‥」
レイル・ステディア(ea4757)が静かに呟く。
「まあ、それは君達に任せるわい。とりあえず準備が出来たら早速行きたいがよいかな?」
ミハイル爺の言葉に、一同は早速探索の為の準備に取り掛かった。
●遺跡〜帰ってきたぜ死の迷宮〜
──入り口
小高い丘の一部が崩れ、そこにぽっかりと出現した謎の入り口。
大理石や花崗岩などにほどよい彫刻を行い組み合わせたその入り口には、巨大な石版で作られた扉がしっかりと閉じていた。
以前も調査を行なっていたため、パロムが慎重に扉を開く。
──ギィィィィィィッ
かび臭さとわずかに漂ってくる腐臭。
暗い回廊が真っ直ぐに続いている。
「では、隊列を整えましょう」
そのエルリックの言葉に、一同は静かに肯いて隊列を組みはじめた。
〜図解
上が先頭になります。
遺跡内部での灯はノエルとツヴァインが担当。
戦闘時はミハイル爺がランタンを受け取る。
また、必要に応じて各員が松明の準備。
カーツ パロム
エルリック アリアン
ノエル 爺 ツヴァイン
レティシア レイル
〜
入り口に入ると、パロムが今一度地図に記されているトラップと、今日までに他の誰かが侵入したような形跡がないか調べはじめた。
「どうだ?」
カーツが静かにパロムに問い掛ける。
「あ、チョークの印はトラップの起動装置だから触らないでほしいにゅ。今のところは、誰も侵入した形跡はないにゅ〜」
その言葉に、一同緊張の糸が少しほぐれた。
「ということは、レイスの出る神殿までは安全ということですね」
アリアンがそう問い掛ける。
そしてパロムのつけた印に注意しながら、一同は広い空間に出た。
先日の調査では、そこは待合室らしく、左手の通路の先に向かうと神殿が、右の通路から先は天井が崩れて行き止まりになっている。
「で、おっさん、どっちを先に片付けるんだ?神殿のレイスか? 右の通路か?」
レティシアがそう問い掛ける。
「そうじゃなぁ。皆、元気じゃて、先にレイスを退治してもらおうかのう」
「えーっと、ということは、左の回廊ですね」
ノエルが左を指差してそう問い掛ける。
「あ、おいら先にいくにゅ。ちょっと気になることがあるにゅ」
そのパロムの言葉で、一同は隊列を整えてから左の回廊に入っていった。
●神殿〜扉手前の死体はというと〜
──左回廊
「このあたりは致死性のトラップが大量にあるにゅ。慎重にいくにゅ」
パロムの指示で、一同に緊張した空気が流れ込む。
と同時に、腐臭が正面より漂ってくる。
「‥‥なんだ、この匂いは‥‥」
服の袖やマントなどで鼻を覆う冒険者達。
「この先に盗掘者の死体があったにゅ。この前の調査のときに入ったらしくて、トラップで即死にゅ」
──コツーン
そのパロムの言葉と同時に、前方より何かの足音が聞こえてくる。
すかさず戦闘態勢を整える一同。
パロムは後方へ、エルリックとカーツが前方に出て武器を構えた。
「さてと、噂のレイスのお出ましか?」
カーツが両手に武器を構え、ニヤリと口許に笑みを浮かべてそう呟く。
「援護いきます」
「同じく!!」
アリアンとノエル、そしてツヴァインが詠唱開始。
やがてランタンの灯に照らされたそれは、腐りかけた死体であった。
ズゥンビと呼ばれる『活死体』。それがゆっくりと歩いてきたのである。
「あああ、こ、この前の死体だった盗掘者にょ。死んで成仏できずに、彷徨っているにょ」
そのパロムの言葉と同時に、アリアンのレジストデビルがカーツに、ノエルのグッドラックエルリックに対して発動。
ツヴァインのバーニングソードはノエルのカバーに入ったレティシアの持つ『矢』に対して発動。
「こいつはレイスじゃないのか」
「そうだにゅ、盗掘者だったのにゅー」
そのパロムの言葉に、僧侶シスターズ(ノエル&アリアン)は同時に何かを思い出した!!
「ズゥンビです!! 生物に向かって襲いかかってくるアンデットです」
二人同時にそう叫ぶ。
「なら!!」
カーツが飛込んでダブルアタックを叩き込む。
──ドガガッ
それは深々とズゥンビの体にめり込んでいく。
「こんな所で遊んでいる暇はありません!! 不浄なるものよ、闇に帰れ!!」
エルリックもそう叫びながらショートソードを振りかざす。
──ドシュッ
その一撃を真面に受けても、ズゥンビは怯む様子はない。
「ならばっ!!」
レイルが後方から前に出た。
そしてレイピアを片手に、そしてもう一方の手で首から下げていた十字架を天高く掲げる。
──ブゥン
ズゥンビも黙ってはいない。鋭い爪でカーツに向かって襲いかかっていくが、カーツはそれを難無く躱わしていく。
「いきます!!」
後方のレイルの全身が淡い黒に輝く。
そしてその光はズゥンビに向かって飛んでいった。
──ブジャッ!!
光はズゥンビの左腕に直撃。その一撃でズゥンビの腕がくだけ散った。
そのまま一気に間合を詰めて、エルリック、カーツ、そしてレイルの3人でズゥンビはやがて完全に破壊された。
「‥‥こんなのが出る神殿。パロム、この死体は、この間見た奴だっていってたな?」
そのカーツの言葉に、パロムはひたすら肯く。
「そ、そうだにゅ。間違いなく死んでたにゅー」
そのパロムの言葉に、カーツはちよっと引っ掛かった。
「アリアン、ノエル。死体はこんなに簡単にズゥンビとやらになるのか?」
その言葉に、二人は思案。
「魔法などによって生まれることがあるというのは聞いています」
「けれど、私達の仕えるジーザス教の教義では、死体をアンデットにするようなことはありません」
アリアンに続いてノエルもそう告げる。
「だが、俺の知る教義では、死体からアンデットを生み出す奇蹟も存在する」
レイルの言葉に僧侶シスターズは口を閉じる。
白と黒。
同じジーザス教でありながら、教義が違っている。
レイルはその奇蹟は使えないものの、そのような奇蹟が存在することは知っている。
「この神殿自体にも、なにかそういった力があるのかも知れないですね。カーツの心配も判ります」
エルリックのその言葉に、ツヴァインも肯く。
と、ノエルが手にした十字架を掲げ、死体に向かって祈りを捧げる。
「セーラ神。‥‥どうかこの者の御霊が迷う事なきよう聖なる光で指し示し給え‥‥」
そしてノエルの祈りが終ると、ふたたび隊列を整えて一行は先へと進んでいった。
──石の扉前
通路の先は一枚の扉で塞がれている。
その扉には古代文字が掘りこまれ、様々な彫刻も施されていた。
「汝、神を信じるならば扉を抜けよ。神に祝福されなき者は、死の扉となるであろう‥‥この扉に記された言葉じゃて。この先に、件のレイスが待ち受けておる」
その言葉に、一同は早速戦闘準備に入る。
前衛の武器は総てツヴァインによりバーニングソードが施され、ノエルがさらに全員にグッドラックを唱える。
アリアンはレジストデビルを後衛に対して施し、準備完了。前衛の3名に対しては、レイスとの交渉があるためレジストデビルは唱えない。
そしてアリアンはディテクトアンデットを発動。
「この扉の向う‥‥5m程に一体‥‥話に出ていたレイスでしょうね」
その言葉に、前衛は静かに肯く。
そしてパロムが扉を開けると同時に、神殿の中に飛込んでいった。
そこには、あたかも神殿の守護者であるかのように、レイスが一体たたずんでいた。
「宗派は違うが私も神に仕える身、何か言いたい事、伝えたいコトがあるなら話して下さい!!」
エルリックがそう叫ぶ。
そしてエルリックとレイスとの話し合いを、カーツとレイルは息を呑んで見守っていた。
だが、レイスはなにも語ることなく、無表情のままエルリック達の元へと飛んでいく。
「なるほどねぇ。エルリック、交渉決裂じゃん!!」
レイスの行動をじっと見ていたレティシアの脳裏に、ある事がよぎった。
このレイスは、神殿の信者や神官だったのかもしれない。それが何等かの理由により死に、レイスとしてこの神殿の守護者として『囚われている』のかもしれないと。
「止むをえん!!」
素早く剣を構えると、カーツ、エルリック、レイルの3人はレイスに向かって走り出した。
それは激しい戦いであった。
レイスは接触するだけで相手の肉体に苦痛を与える。
まるで精気を吸い取られたかのように、触れられた場所は激痛と同時に焼け付いた。
だがエルリック達も只ではすまさない。
カーツのダブルアタックが唸りを上げる。
エルリックは常にレイスの意識を自分に向けさせ、その攻撃はオフシフトで躱わしつづけるる
その間に、レイルは至近距離からブラックホーリーを発動させる。
後方ではアリアンとノエルがホーリーで支援。 ミハイル爺とパロムの二人はツヴァインの後ろに隠れる。
そしてレティシアは、その戦いのさ中、二人の乙女たちを護っていた。
──そして
激しい戦いは終了した。
レイスに触れられた傷はノエルとアリアンがリカバーで癒してくれる。
その後一同はひと息いれて、周囲を観察しはじめた。
「古い神殿様式ですわね。ジーザス教のものではありませんわ」
「神殿に奉られているのは‥‥竜ですね‥‥竜信仰、あたしは聞いたことないなぁ‥‥」
アリアンとノエルが神殿を見ながらそう呟く。
「確かに。こんな偶像崇拝なんて、俺も聞いたことがない」
レイルもまた、正面の壁に刻まれている竜のレリーフをじっとみながらそう告げた。
(‥‥こっちは金目のものはなしか‥‥。まったく金に鳴らない依頼じゃん)
レティシアもまた神殿内部を見渡してみたが、彼のお目にかかりそうなものは見当たらない。
そしてパロムとミハイル爺は、正面のレリーフ前に有る彫像を調べている。
「この前は、これが動いたんだにょ。ちょっと待つにょ」
そう告げると、パロムが彫像の仕掛けを調べる。
──カチッ
と、パロムが何かを作動させる。
「今の音は?」
「これにょ」
そう告げたパロムの言葉と同時に、壁のレリーフの一部が動く。
そこは小さな通路になっていた。
「そんな仕掛けがあったのですか‥‥」
残った者たちも、ふたたび隊列を組みなおしてその通路に入っていった。
●隠された部屋〜何の部屋?〜
──小部屋
そこは小さな部屋。
今はそこにはたいした物は残ってなさそうである。
「たいした物はないじゃん。ミイラ化している死体と、その回りの砕けた石版とかだけじゃん」
レティシアがそう告げながら石版の残骸を丁寧に広い集めていく。
「ん?」
と、ミハイル爺がミイラが手に抱いている石版をゆっくりと取り上げる。
「古代魔法語だな」
ツヴァインが静かにそう付けながら、ミハイル爺の横で文字を読みはじめる。
「また随分と難解だな。海と竜、財宝?」
そうツヴァインが告げているさ中、ミハイル爺はミイラの首から下がっているペンダントをそっと外す。
「ふむ。『来るべき刻の為に、我等が大いなる遺産を封印すると。そこは海の底、竜の神殿にあり』じゃな。流石に儂でも、これは難解過ぎる」
そのまま石版をバックパックに丁寧にしまい込むミハイル爺。
そして一通り内部を調べてみたが、それ以上目を引くようなものは発見できなかった。
そのため一行は、その日の調査を終えてベースキャンプへと戻って英気を養った。
二日目の調査は右回廊の掘り起こしから始まった。
無事に掘り起こし、その先を慎重に調査してみても、そこは人が住んでいたような跡しか存在しない。
そのため一同は、調査を終了しパリへと帰還した。
後日、血相を変えて冒険者ギルドにミハイルが飛込んでいった。
どうやら石版の解析が終ったらしいが、それはまた後日の話である。
〜FIN〜