●リプレイ本文
●涙に濡れた墓碑〜プティ・アンジェ〜
──修道院・墓地
そこは小さなお墓。
墓碑には、『Petit Ange』と刻まれている。
そこにそっと花を捧げると、クリス・ラインハルト(ea2004)は静かに口を開いた。
「今、アンジェちゃんにしてあげられるの、これだけ・・・・ごめんなさい・・・・です」
其の場には、今回の依頼を受けた冒険者達全員が揃っている。
そして、皆、アンジェの為に、綺麗な花を一つ一つ捧げていく。
そして最後に、黙祷。
──カラーン・・・・カラーン・・・・
教会の鐘の音が鳴り響くと、一行は静かに墓碑から離れていった。
パリ郊外。
セーラ神を奉っているその修道院には、毎日多くの礼拝者達が訪れています。
そして、貴族をはじめとする様々な身分の女性達が、この修道院で礼節や女性としてのマナーなどを学んでいます。
そこはサン・ドニ修道院。
『セーラの乙女たち』の学び舎。
──院長室
「これはご苦労様です。では、早速ですが、着替えて頂いてからエムロードの所にご案内しましょう・・・・」
院長室で一行を待っていたのはちょっと疲れた感じの院長、シスターアンジェラス。
「真に申し訳ありません。私は『黒』の信徒ですので、礼拝に参加する場合でも形だけになりますがよろしいでしょうか?」
スターリナ・ジューコフ(eb0933)が丁寧な口調でそう問い掛ける。
「構いませんよ。形だけでも、参加して頂ければそれで結構です」
同じく礼を欠かないように、丁寧にそう告げるシスター。
そして一行は着替えの部屋へ向かうと、早速他のシスター達に手伝って貰って着替え開始。
「・・・・ノリアさんは着替えないのですか?」
着替えをしているさ中、ティファル・ゲフェーリッヒ(ea6109)がそう問い掛けた。
「あたし? あたしはこのままでいいよ。是だって立派な修道院服だしねっ!!」
ちなみにノリア・カサンドラ(ea1558)の修道院服は『タロンの使徒』カスタムバージョン。
まあ、ここはセーラの乙女の園であるが、同じジーザスの宗派であるし、なにより神に使える者である以上は問題なしということか。
「はぁ・・・・これから大変そうですわね・・・・」
そう溜め息を尽きながら呟くのはスターリナ・ジューコフ(eb0933)。
「駄目だよぉ。これからエムロードに会うのに、大変だなんていっちゃあ!!」
そうスターリナを窘めるのはルーチェ・アルクシエル(ea7159)。
「違いますわ。大変なのは、『この服を着て生活する』という事ですわよ」
そんなやり取りの中、クリスは着替え中のノリアとルーチェの方をちらちら。
(うう・・・・噂のノリアボンバーだけかと思ったら、ここにもボンバーがいたです・・・・)
ちなみにクリスはペタ胸。
まあ、そんなこんなで一行は恒例の『十字架貸与』の儀式を終え、シスター達の生活している寄宿舎へと移動。
窓一つ無い小さな部屋に、一行は案内されたのである。
●脅える少女〜なにも見えないここがいいの〜
──部屋
「どうして窓の無いこんな部屋に閉じこめるのですかっ!!」
部屋に入って早々に、クリスがシスターに問い掛ける。
「閉じこめたのではありませんよ。何度もここから出してあげようとしたのですが、窓のある部屋は恐いからここがいいって・・・・最近はこの部屋ではなんとか『眠る』事も出来るようになったので、仕方がないのですよ・・・・」
外からなにかが来る恐怖。
それに脅えているのであろう。
「でも、こんな所にいたら身体を壊してしまいます。やっぱりお日さまの当たるところで、日向ぼっこしないと駄目ですよ」
「そやそや、最高やでぇ!! お日さまの光、草の匂い。天気のええ日は、木陰でのんびり日向ぼっこや!!」
ルーチェとティファル、二人の『ひなたぼっこ同好会?』がそう力説。
「まあ・・・・取り敢えずご挨拶だね。こんにちはエムロード。私はクリス、クリス・ラインハルト。宜しくねっ!!」
「うちはティファルや。よろしゅうなっ!!」
両手一杯に抱えていたお菓子をどさっとエムロードの前に置くティファル。
そのままどっかりと腰を降ろすと、お菓子を 一つ手に取り、エムロードに差し出す。
「ここのお菓子はうまいで。なんちゅうか、作り手の熱い思いっちゅうのが伝わってくるんやなぁ・・・・」
エムロードはなにも言わず、じっとティファルの方を見ている。
「ん? くわへんのか? うまいで?」
モグモグとお菓子を食べ始めるティファル。
その横で、他のメンバーも次々と挨拶を行う。
「自分はルーチェ。よろしくねっ!!」
にっこりと笑いながらそう告げるルーチェ。
「私はスターリナです。宜しくお願いしますね」
同じく、丁寧に頭を下げてそう告げるスターリナ。
そしてノリア・・・・って、まだこの部屋に入っていないし。
ノリアは部屋の外で、エムロードの様子を伺っていた。
「・・・・いきなり会っても、また脅えさせるだけだろうからなぁ・・・・」
このメンバーで唯一、エムロードと面識のある存在。
ただ、その面識が『戦い』という、今のエムロードに見せてはいけない側面であった為、今、ノリアと会うことはその当時の記憶を呼び覚ますだけてあろうと考えた。
そのため、少し様子を見てから会う事にしようと、ノリアは決断。とりあえず食堂へとダッシュ!!
●では早速〜音楽は人を幸せにします〜
──エムロードの部屋
なにはともあれ、一行は荷物を置いてエムロードと一緒の時間を共にする事になった。
♪〜
クリスが懐から横笛を取り出し、静かにそれを吹き鳴らす。
部屋の隅でエムロードは膝を抱えて下を向いて座っている。
笛の音に耳を傾けているかどうかは、よく判らない。
(出番かな?)
ティファルはそう心の中で告げてから、ゆっくりとエムロードの横に座る。
──ビクッ
一瞬身体を震わせたエムロードに、ティファルはエムロードと同じ姿勢をとって話し掛ける。
「エムロードちゃん、見てみい。楽しそうに躍っているで。うちらはな、エムロードちゃんの力になりたいんや。哀しい顔を見たくないんや。どんなことがあっても、うちらがエムロードちゃんを守ったる。うちらは『冒険者』なんや・・・・約束は守るで!!」
その言葉に、暫くはじっとしているエムロード。
だが、30分程したとき、エムロードはゆっくりと頭を上げた。
目の前では、綺麗に踊りを躍っているルーチェとスターリナの姿があった。
「さあ、一緒に踊りましょう!!」
本当ならば、踊り子の綺麗な衣裳で踊りたかったルーチェ。
だが、ここサン・ドニ修道院の厳しい戒律で、修道院服以外の服装での院内の行動は禁じられていた。
それでも、修道院服を綺麗になびかせつつ、ルーチェは躍っていた。
そしてその横で、ルーチェの動きとシンクロして躍っているスターリナの姿があった。
「綺麗・・・・」
表情一つ変えずにそう呟くエムロードの方に向かうと、スターリナがそっとエムロードの手を取る。
「さあ、私達が教えてあげますわ」
そのままスターリナとルーチェに導かれて、エムロードは静かに舞を踊り始める。
──それからしばらくして
「おやや〜。もう打ち解けたんだ。そろそろ夕御飯だよ。ここで食べ良いからって許可を貰ってきたよ」
ノリアがそう告げながら、一行の為に食事を運んできた。
一行もその部屋で一緒に食事を取ると、取り敢えずは一休み。
だが、エムロードはずっとノリアの方を見て警戒している模様。
(ふぅん・・・・まあ、仕方ないかぁ・・・・)
そう心の中で呟きつつ、ノリアもゆっくりと立上がると、静かに舞い始める。
「おっととととっ・・・・」
その姿に、クリスは慌てて竪琴を手に取ると、ゆっくりとノリアの踊りに合わせて曲を奏でる。
そしてしばらくの間、ノリアは踊りつづけた。
その踊りは実に華麗。
これがあの『殴りクレリック』かと思わせるほどの華麗なる舞である。
「・・・・本当に、楽しそうに舞うのですね・・・・」
ルーチェが楽しそうにそう呟く。
「ふぅん・・・・まあまあね・・・・結構ね・・・・かなり良い線いっていますわね・・・・」
スターリナがちょっと悔しそうにそう告げる。
そして曲が終ると、汗を吹きながらノリアがエムロードの横に座った。
そして、にっこりと微笑んで静かにエムロードに話し掛けた。
「踊りって踊られてこそ幸せなんだろうなって。踊り手の意志がそこに無ければ踊りではないし、踊りそのものの意志が感じられないものは踊りとは言えないんじゃないかって。それは多分人生だって一緒。踊りが一緒に踊る人や伴奏、観客がいて成り立つのと一緒で、いろんな人の意志や気持ちを汲んで、楽しくしっかり生きることに意味があると思う。あなたは・・・・、どう? このまま生きる意志を感じられない人生を送るつもり? あなたにはあなたしかできないことがあるのよ?」
その言葉の後で、まあノリアは立ち上がる。
今度は全員が舞を踊り始めた。
「エムロードちゃんも、一緒に教えてもらおうねっ」
唯一踊れないクリスが、エムロードの手を引く。
相変わらず無表情であるが、エムロードはコクリと肯いて踊りの中に加わっていった。
●覚醒〜心の中の秘められたキーワード〜
──エムロードの部屋
翌日。
一行はそれぞれ思い思いの方法でエムロードと接していた。
物語を聞かせ、声真似で幾つかの動物達の真似をして興味を引き付けるクリス。
ルーチェとスターリナは、エムロードの手を引いて少しずつ踊りを教える。
「筋がいいわね。実は私、そろそろ弟子をとろうと思っていたの。精神面はともかく、素質は十分のようだし・・・・。決めたわ。弟子一号はあなたに決定。拒否権は認めないわよ」
そうエムロードに微笑むスターリナ。
「資質あるの・・・・私・・・・」
と、エムロードの声のトーンが変わっていく。
「ええ」
「弟子・・・・私が弟子・・・・『拒否権は認めない・・・・』」
そのまま下を向いてそう告げるエムロード。
その雰囲気に、一行はなにか嫌な空気を感じ取った。
「yes Myruler・・・・」
一瞬、エムロードがそう告げたかと思ったら、また先程のような笑顔で踊りを踊り始めた。
「今・・・・なにか・・・・」
クリスが竪琴を奏でつつも、横で踊りの準備をしているノリアにそう問い掛けた。
そして、ノリアは感じ取っていた。
あの一瞬だけ、エムロードは『アサシンガール』に戻っていた・・・・。
●そしてお別れ〜また踊りを躍って〜
──礼拝堂入り口
最終日。
楽しくエムロードと過ごしてきた一行だが、依頼もこの日の正午でお終い。
皆自分の私服に着替えると、エムロードに最後のお別れを告げている。
「少しの間だったけれど、楽しかったよ。また来るからねっ!!」
入り口まで見送ってくれたエムロードに、クリスがそう話かける。
「恐い思いをしたらいつでもうちらを呼んでや。エムロードちゃんのために、うちがヘブンリィライトニング叩き込んだるわ!!」
ティファルがそう告げる。
「一枚引いてくださいませんか?」
ルーチェが懐からカードを取り、それを丁寧にシャッフル。
そしてパラッと広げると、それをエムロードに見せてそう告げる。
エムロードが引いたカードは『法皇』。
「そのカードには、エジプトの神様『オシリス』が記されているの」
「オシリス?」
「ええ。それは良き忠告者が現われたり、思いやりっていう事が記されているの。でもね・・・・」
そう告げつつ、ルーチェがカードを元に戻す。
「あくまで占い、占いは未来を決定付けるものではなくて、自分の未来を拓くための道しるべに過ぎないのよ。運命は自分で切り開く為のもの。カードが示した通り、エムロードは『忠告者』を探したり、思いやりを大切にしたらいいと思うわ・・・・」
その言葉に、エムロードはにっこりと微笑む。
そして最後にスターリナがゆっくりと口を開く。
「鷹の始末が出来たら、あなたを迎えに来るわ。私の弟子をやめるどうかは、そのときまでに決めておきなさい。・・・・助けが必要なときは、いつでも私をお呼びなさい。どこにいようと、必ずあなたの元へ駆けつけるわ」
そう告げて、スターリナは自分の首に下がっていた銀の十字架を外すと、それをエムロードに付けてあげる。
「拒否権は認めないわよ? 弟子を自分好みに仕込んで、弟子のために命をかけるのは、師匠の特権ですからね」
こうして、一行は無事に依頼を果たし、パリへと戻っていった。
●そして〜悲劇は再び〜
──冒険者酒場『マスカレード』
「え? 今日は肉仕入れてないからいつものは出せない? うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
店内で絶叫を上げつつウェイトレスに力一杯アッパーカット(ノリアボンバーではない)を叩き込んでいる酔っぱらいノリアと、その横で楽しそうに食事を取っている一行。
サン・ドニ修道院から戻ってきた一行は翌日、質素な食事に耐えきれずに冒険者酒場『マスカレード』に集っていた。
「でも、昨日の占い・・・・巧くいきましたねっ!!」
クリスがルーチェにそう話し掛ける。
でも、ルーチェは浮かない顔。
「でも・・・・法皇はもう一つの側面を暗示しているの。オシリスの側面『命の掌握』、法皇の側面『孤立無援』『親切心があだとなる』・・・・これが気になるのよ・・・・」
そう告げたとき、酒場の入り口の方から入ってきた漢達が、こんな事を告げていた。
「今朝のあの事件、聞いたか?」
「ああ。サン・ドニ修道院のシスター殺害事件。犯人らしき少女はそのまま逃走したっていう奴だろ・・・・あれって最近噂の・・・・かなぁ・・・・」
──パサッ
ルーチェの掌からカードが一枚零れ落ちる。
それは、仮面を付けて微笑む『愚者』であった・・・・。
〜Fin