Beef Shock!〜農家の魂を救え〜
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■ショートシナリオ
担当:国栖くらげ
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月25日〜11月30日
リプレイ公開日:2004年12月01日
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●オープニング
冒険者ギルドにやってきた男は、ひどく慌てた様子で係員に取り付いた。
着の身着のままとはまさにこのことであろう。身なりで農夫と一目で解るが、それでも持った鋤と身体中にくっついた飼い葉が事の急を知らしめる。
係員にすがりついた男は乱れた息をそのままに叫んだ。
「おらの・・・・おらの“全て”をっ、救ってくれぇ!」
募集に応じた冒険者たちがやってきたのを確認し、係員は口を開いた。
依頼内容はゴブリン退治と奪還。だが奪われたモノが重要なのだという。
「・・・・ウシ?」
「はい。依頼主の方が大切にしていらっしゃる牛です。農家で牛と馬は欠かせない、一財産ですから」
「そうだでよぅ。おらんとこのめんこい牛さ、小鬼どもに連れて行かれて・・今ごろ腹をすかせ寂しい思いをしてるに違えねぇだよ・・」
来た頃よりは落ち着いた、それでもソワソワした様子で農夫が椅子を揺らした。相当可愛がってたのだろう。牛といえば馬と並んで農家の労働を手助けする最高のパートナーである。開墾、地慣らし、大変な作業を供にした仲間。それをゴブリンに奪われたのだから。
ゴブリンが牛を奪うとなると、考えうるのは食料にするためであろう。そう思うといても立ってもいられず持ち金かき集めてきたのだと、農夫は語った。
「奪われた牛は5頭、ゴブリンが1頭につき1匹ずつついて引いていくのを依頼主が確認しています。さらに他にも数匹いたようですが、全部で10匹にはならないとのことだそうです。これだけの数の牛を移動させるとなると慣れない者にはそれなりに時間がかかると思いますし、追いつけないということはないと思います。ただ移動に際しての保存食は用意したほうがいいと思います」
「おらに出来ることったら協力するべ・・食料欲しいならこんの飼い葉をわけてやるでよぅ。おらんとこの牛さ、みんなこれしか食わんくれぇ美味ぇ飼い葉だで」
いや・・俺達牛じゃないんだが・・という思いを口の中に押し込め、手を組み上目使いに見上げる農夫に、冒険者たちはその申し出を丁重に辞退する。
「牛を無事5頭とも奪還できれば成功です。全くの無傷というのは難しいでしょうけど・・ゴブリンについては、農家の場所を覚えていたら同じことの繰り返しになりますし、可能な限り全滅させたほうがいいと思います。ということで、よろしくお願いします」
何はともあれ、冒険者たちは準備を始めるのだった。
パリから数日ほど離れた距離に位置する農村。その近くには生活の糧を実らせる深い森が広がっている。
鬱蒼とした木々が立ち並ぶ森の中、通り雨に垂れ下がる雫が牛の声で揺らぐ。
5頭の牛のうちの1頭がぬかるんだ土に足を取られうずくまっている。それをはたから急きたてるのはゴブリンだ。その手には縄がしっかと握り締められ、その先に括られた牛を引っ立てるように引っ張っている。
牛は胡乱な目でゴブリンを睨みつけようやく立ち上がった。急かされるのが鬱陶しいからといった感じの図太い動きだ。と、その目が何かを捕らえ今度は引っ張るゴブリンを逆に振り回し、道端の青草に駆け寄る牛たち。
振り回され地面に転がるゴブリンがきぃきぃいうのも何のその、牛は青草を咀嚼し続けている。
だがそうしているのも束の間、口に合わなかったのか草を吐き出すと、牛たちはまたのっそりと歩き始めた。
その様子にゴブリンは納得したようにふむふむと首を上下させたかと思うと、不可解そうに首を傾げたりしながら、また縄を握って牛たちについていくのだった。
●リプレイ本文
「えっと、シモーヌとサントが喧嘩をよくするのですわね」
「んだ。あとプッサンがおっかながりで何かに驚いては迷子になんだべ」
牛の名前を反芻しつつ、ギルドの片隅でセフィナ・プランティエ(ea8539)は農夫から話を聞いていた。牛の特徴などを知っておけばその行動を予測するのの参考になるし、何より牛のことを思いやっているようだ。
牛のことを懸命に話す農夫に、事態をしっかり受け止めるのは他の冒険者も同じだった。
「国元の教会荘園が牧場でね。依頼人殿の気持ちは良く解るぞ・・寒くなってきている、無事帰してやらねばな」
アルクトゥルス・ハルベルト(ea7579)は故郷のことを思い出したのか。冬の農家を知るがゆえの想いが口をついて出る。
「まったくです。大切な生活の基盤を奪うとは、見捨てておけませんね」
「しかし牧畜でも始めようってか? だとしたらゴブリンも平和主義になったもんだが、他人様のを持っていくのは許せんな」
同意するルメリア・アドミナル(ea8594)はその碧の瞳を細め、李 風龍(ea5808)もゴブリンの不道理に拳を合わせた。
冒険者の彼らにも普段の生活がある。生活を掠奪されることに対する思いは普通の人と同じなのだ。
もっともそういう者もいれば、そうでもない者もいるわけで。
遠くジャパンの地からやって来た忍、相麻 了(ea7815)はライフワークからして普通ではないらしい。別の意味で張り切っていた。
「冒険こそ出会いのチャンス、カワイコちゃんにいいとこ見せないとね」
さらりと口にした欲望に忠実なその台詞は誰に向けたものだろうか。年齢的にセフィナ嬢宛てと思しきその台詞は、農夫との会話を終えた彼女には届いていないようだ。
「何がどうであれ、罪の無い牛さんをこんな目にあわせるなんて・・ゆ、許せませんわ!」
燃え盛る音が聞こえてきそうなほどの憤りが、了の声をかき消しているように思われたのは、気のせいだろうか?
ただ、それでもめげずに張り切る了少年の姿があったことだけは、気のせいではなかったとしておこう。
それぞれの支度が進む中、一部の者はある問題に直面していた。チェムザ・オルムガ(ea8568)もその一人だ。
とある事情により彼は食料や野営道具を十分に買うことができなかったのだ。
「アーティ、オレ、困った・・どうしよう」
「野営のときはあたしのテントの中に入るってことで。あ、チェムザだから安心してるけど襲おうとしたら後が怖いよ〜♪」
「僕は相麻さんのところに入れてもらうことにしましたよ」
カタコトのゲルマン語で、チェムザは表情に乏しい顔を女性に向けた。一応困っているらしい。アーティと呼ばれた女性、アーティレニア・ドーマン(ea8370)とはそれなりに知り合った仲らしく、チェムザは彼女から援助を受けることができた。野営道具を買えなかった飛 小狼(ea8144)も了と先に話をつけておいたらしい。
だが保存食のほうは注意していたアーティも十分用意しきれなかったらしく余裕はなかった。
「保存食は俺が出してもいいんだが、代金について話し合ってる暇はなさそうだな」
風龍の申し出もあったりもしたのだが、結局割高であろうと道中の村で食料を求めることになった。
言葉が不自由な中、協力しあうことでこの問題は解決したようだ。
「難しい、考えるの苦手。皆、助かる。オレ、嬉しいでした・・・・デシタ?」
「嬉しいで止めればいいんだよー」
問題解決したとて異文化コミュニケーション。やはり言葉の壁は大きいようだ。
こうして、準備は着々と進められるのだった。
農村に立ち寄った後、冒険者たちは森の中に足を踏み入れた。
薄暗い木々が覆い、生物の気配も歩を進めると一行の周りのみ静まり返る。が、完全に逃げたわけではないのがルメリアには判っていた。魔法によってそこに多くの息遣いが感じられるからだ。
「ゴブリンの位置は判りますか?」
「いえ、まだ感じられません。ただ道標は残されていますね」
「正確には判りませんけれど、形も残っていますしそれほど離されてなさそうですわね」
小狼が聞くと、彼女が示す先にはベタベタと踏み荒らされた土とくっきり残る蹄の跡があった。セフィナがそれを覗き込んで振り返る。
周囲を歩いていたアルクトゥルスが牛が草を食んだらしい跡も発見し、この跡が例の小鬼と牛のものだとする結論をより強固にする。
「小鬼たちも慣れない牛の誘導に手間取っているようですね。急ぎましょう」
「私も案内の手伝いしよう。森歩きは得意なほうだしな」
先を歩き出すアルクトゥルスについて、冒険者たちは追跡を始めた。
日が真上を過ぎ始めた頃、何度目かのブレスセンサーに全員が足を止めた。それらしき『呼吸』があったのだ。ブレスセンサーでは大まかな距離や数しか判らない。対象の状況確認は元より方向もいたって曖昧なのだ。殺気感知で探すかと風龍は考えたが結局自身で却下した。
(「殺気が出てるか判断するだけで位置が判るほど便利じゃないし、相手も殺気を放っているとは考えにくいしな」)
話し合いの結果、荷物を置いて静かに近づくことにした。
その前に小狼は持っていた飼い葉をセフィナに渡した。農村にある農夫の家でセフィナが貰っておいた物だ。大荷物だったため小狼が大部分預かっていたのだ。
まだ気づかれてないらしく遠巻きながら確認すると、そこにはゴブリンに囲まれ綱に引かれる牛たちの姿が飛び込んできた。特に怪我もなく冒険者たちは胸をなでおろす。
ゴブリンの数は8体、冒険者たちと同数だ。牛さえ解放すればどうにかなろう数である。
「うまく、暴れてくれよ」
了は銅板でできた手鏡を手に、光を反射させ牛の目を射抜いた。
突如の光に驚き、1頭の牛が大きく体を揺さぶると縄を引っ張るゴブリンを地面に叩きつける。
何が起こったのか解らず慌てて牛から離れる小鬼たち。暴れだした牛が完全に落ち着くまで、傍の木陰に滑り込む人影に、小鬼たちは気づけなかった。
そして彼らの緊張が解かれ安堵したその瞬間に、全てが決壊する。
「ミレーユ、シモーヌもデュフィもこちらですわ!」
セフィナが呼びかけとともに一掴みの飼い葉を振りばら撒くと、その懐かしい匂いに牛たちが一斉に反応する。
当然ゴブリンたちも気づくが、牛は囲んでいるゴブリンを薙ぎ払い、セフィナに向って駆け寄った。
「ぇえと、どなたがどなただか判りませんけれど、もう大丈夫ですわ。ひもじかったでしょう」
飼い葉与え牛たちを落ち着かせるように少女が語り掛ける。逆にゴブリンにしてみたら落ち着くどころの話ではない。暴れ牛に驚き声に仰天した挙句、牛にはねられるは蹴飛ばされるはである。
完全に浮き足立ったゴブリンたち目掛け、砲弾が如く飛び掛ったのは小狼だ。了も孤立しないよう注意しつつ斬りかかる。
巨体に似合わぬフットワークで突き出された小狼の護拳が小鬼の胴に突き刺さると同時、了の刀が武器を持つ小鬼の腕を斬り上げる。
「こちら側は任せてください。後ろにはいかせません」
「我が心、既に空なり。その身斬り伏すに、感慨なし・・」
ウィザードの女性を守るよう立ち塞がる小狼と、生来のものなのか普段と違う了の眼光は、ゴブリンにはどう映っただろう?
「ってことで、ぶった斬りジプシーアーティちゃん登っ場ぅ☆」
あくまでも明るい気合で飛び出すアーティに、アルクトゥルスも魔法の韻律を奏でる。
小狼と対極に位置取りアーティがソードを躍らせると、牛の打撃から立ち直ったばかりのゴブリンは斬撃にたたらを踏む。さらに追撃と言わんがばかりにチェムザが飛び込んでくる。
「悪いヤツ、オレ、怒った。オマエたち、倒す」
群れに突っ込んだ大男は大上段から刃を振り下ろす。手にした斧で受けることも敵わず、ゴブリンの血が大地に叩きつけられた。
だが大きく振り抜いた剣は大きな隙を生じさせた。動きが止まったチェムザにゴブリンたちが武器を振り上げた。一撃目は皮鎧の上から打ち付けただけだが、二撃目の斧が男に襲い掛かる。
苦悶に顔を歪めたのは、しかしゴブリンのほうだった。短い悲鳴をあげ顔を押さえている。
手を突き出したアルクトゥルスがしたり顔をする。寸での所でブラックホーリーを放ったらしい。
「致命傷にこそならんが、援護としては十分だな」
「『怒りの風よ、雷となりて敵を貫け』」
続く言霊に戦場を駆け抜けたのは光の轍だった。数匹の小鬼がそれに轢かれ、雷撃にその身を硬直させる。
「卑しき小鬼よ。雷撃の前に散りなさい」
ルメリアはそう言うと再び詠唱を始めた。
こうなってしまえばゴブリンは弱者だった。奇襲に生傷を作り、獲物の牛は冒険者たちのその向こう。
耐えかねた1匹が冒険者たちの隙を突き、逃げ出そうとする。
だが、包囲から足を踏み出した瞬間その足が六尺棒で払われる。どこにも穴はなかったのだ。一人立つ僧兵が六尺棒で転がる小鬼を打ち据えると、鼻先曲がった小鬼は必死の形相で包囲の中に逃げ戻った。
さらに風龍は包囲に完全に蓋をすると、リカバーでチェムザの痛みを癒す。
冒険者たちの囲みは、ゴブリンのそれとは比べ物にならないほど硬く、その包囲網が狭まるのも時間の問題だった。
チェムザが放った衝撃波が最後の2匹を伏せさせると、冒険者たちは快哉の声を上げるのだった。
夕暮れの朱の空の下、一行は新たな道連れとともに農村へ歩いて行く。
同行者たちは少女や冒険者たちから飼い葉をもらってはご機嫌な様子でのんびり歩く。その様子に巨人の剣士も飼い葉を食べては妙な表情を作って笑顔と突っ込みを誘う。
日が落ちる前には農村に着くだろう。着いたらあの農夫が喜ぶ姿が見られるだろう。農夫に飼い葉について聞いたら喜んで教えてくれるだろう。きっと。
様々な期待と共に平和な農家にショッキングなこの出来事は日常のように終わりを告げるのだった。