Naughty Play〜小悪魔寸劇村へようこそ〜
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■ショートシナリオ
担当:国栖くらげ
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 8 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月30日〜06月04日
リプレイ公開日:2005年06月07日
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●オープニング
「村を救って欲しいのです」
妙に体に力が入った座り方をしている女性だった。力みすぎて体が角ばっているように見えるほどだ。
「私のほうからご説明しましょうか?」
「はっ、いいえ。すみません。少々緊張していたもので‥」
女性が最初の言葉を口にしてから続いていた沈黙を破ったのは、ギルドの係員の気遣いであった。少々どころか一瞬気を失っていたんではないかと思われるほど、女性は緊張していた。
「わ、私は白きジーザス教に身を置く者です。問題を解決していただこうと村の教会より派遣されてきました」
できる限り目を合わせないように話す態度にどこか釈然としない気持ちのまま、冒険者たちは話を聞くことにした。
シスターをしている彼女の村で頻繁に事件が起きているらしい。そのような場合冒険者ギルドに解決を頼むこともしばしばあることで、その点は特に何の変哲もない依頼のように思えた。
「事件を起こしているのは、小人のようなものです。汚らしくて醜い姿をしていて、私達とは相容れないような存在なのですが‥ただ」
「ただ?」
「少し前までは、通りがかった冒険者風の方達がそれらを撃退して下さっていたのです」
ふむ、と誰かが息を漏らした。偶々冒険途中で立ち寄った村を救う、そういうことは無くもない話だ。勿論冒険者とて常にただ働きをすることは敵わないのでそれなりの報酬をもらうことをしたりもするのだが。
先を促そうとして、冒険者たちは気づいた。彼らの様子を見ながら、シスターが次の言葉を言いにくそうにしているのだ。
「やはり私のほうから言いましょう。実は‥」
「い、いいえ。これは私からお伝えせねばならないことと思われますので」
喋りだそうとする係員を押し止め、一息ついてシスターは口を開いた。微妙に残念そうなギルド係員が気になるところだが、冒険者たちは彼女の話に集中することにする。
「通りがかりで私の村を助けて下さった冒険者の方達が‥その、何と言いましょう、横暴といいましょうか。村に対する仕打ちが酷くて‥‥」
冒険者の中にも様々な人種がいる。困った人を助けるために冒険者として腕を磨く者、信仰心に駆られ俗世でその修養をする者、世界を観たいという願望を叶えるために各地を転ずる者。そうした中には粗暴な者もいて当然であると言える。
伏目がちに冒険者を伺うシスターの様子を見ると、どうやらそうした典型的な『悪質』冒険者と出会うことが多かったようだ。法外な報酬を請求されたり、請求を断ると酷い脅しも受けたらしい。
「小人を追い払ってもらってもそのようなことばかりだったためか、村の人達は冒険者を毛嫌いしていて今では村に入れることすらも拒んでいるのです」
「しかしこの事件については不審な点がいくつもあります。小人たちは冒険者がいなくなるとすぐ現れ悪さを始める、冒険者たちが訪れるタイミングが良すぎる、これらの冒険者はいつも人が違っていて同じ人が来ることはない、また小人は真昼にしか姿を現さない、と」
シスターが黙ってしまったのに代わって、流れるように話し始めたのは係員だった。
「状況から察するにアガチオンという名の下級悪魔の仕業であるように思われます。この悪魔は小人のような容姿ですが人間に姿を変えることも多く、また人々が嫌がるようなことをするのを楽しみにしています。確証はありませんが通りがかりという冒険者もこの悪魔が嫌がらせのために姿を変えたと考えれば説明もつきます」
確かに事件を起こしても自作自演の狂言で終わらせれば自分たちにとっては安全であるし、村人が冒険者を嫌うように仕向ければ今後自分たちの邪魔になるものがこなくなるという、まさしく悪魔らしい発想による事件だといえる。事実、そういう悪魔の存在を指摘されても心のどこかで冒険者に怯えているシスターの姿を見れば、その企みは上手くいっているといえよう。ただ話したいだけに見える係員の推理もあながち間違いでもなさそうな気がする。
しかしそれは冒険者である彼らにすれば有難くないことでもあった。
「その話が本当だとしても、村の人達に証明する手立てはなく、また皆さんをただ連れて行っても追い出されてしまうことでしょう。だからと言って弱き者に救いを与えるために仕えさせていただく身として、村の苦しみを無視することなどできません。神父様と相談して、ここなら何とかしていただけるのではないかと思ったのです」
ただの旅人ならともかく、冒険者然とした風貌の者はすぐに追い返されてしまうらしい。この調子ではいくら真っ当な理由でこの悪魔退治をしようとしても、冒険者というだけで村人の反発を受けることは目に見えている。
村の教会だけは協力してくれそうなのだが、シスターと神父しかいないためそれほどあてに出来そうもないようだ。
「下手に身分をばらさないよう、何らかの工夫をしたほうが良さそうです。あとアガチオンは真昼にしか現れないという性格をしています。人目を避けてどうにかすることも考えたほうがいいかもしれません。ということで、よろしくお願いします」
「な、何かされるなら、小さいですが教会の建物をお貸しします。どうか村を救ってください」
どうやら面倒なことになりそうだと冒険者たちは顔を見合わせるのであった。
●リプレイ本文
ここ最近村の教会は人の出入りが多くなっていた。原因はもちろんあの憎らしい小悪魔たちのせいだった。誰でもいいから話を聞いて欲しいと駆け込んでくる農夫や頭を抱え溜息を吐きながらやってくる老婆もいる。
そんな彼らの周りを飛び回って元気づけるのがアニー・ヴィエルニ(eb1972)の仕事になっていた。来るものを優しく迎えいれ、少しでも救われた気分で帰すのが白の教会の役割であり、聖職につく彼女もやはり自身の役割を忘れず行っていた。
「私はパリの教会より来た巡礼中のものなのです。よろしかったらお話を聞かせてもらえませんか? 今こっちで皆さんとお喋りしていたのです」
教会の入り口には村の外からやってきたという『巡礼者』の話を聞きたくてうずうずしている子供や、少しでも最近の嫌な気分を忘れようとやってきた人たちが集まっていた。
アニーが談話の輪に新しく人を入れているのを尻目に忙しそうに働くのはクリミナ・ロッソ(ea1999)だ。
体格の良い体を右へ左へ揺らしながら、テキパキと家事をこなしていく様は絶対どこかにいそうな母親そのもの。年季の入ったその仕事振りは色々と忙しいであろうシスターへの気遣いでもあった。彼女が少しでも休められるように手を動かしている。ジェラルディン・ブラウン(eb2321)はそんなシスターの傍に座り、一緒にいることにしていた。
「大丈夫。私はあなたの味方よ」
教会の椅子に腰掛けさせ優しくシスターに語り掛ける。この依頼についてから根気よく続けてきたせいか、大分シスターの心も和らいできているようだった。
「私たちは嘘っぱちな、偽の冒険者なんかじゃないから、怖がらなくてもいいわ」
巡礼者という、この村では久しぶりに粗暴でない客人がいることに村人が集まったのは、教会だけではなかった。
村の、ちょうど中央の広場の辺りにはまた別の人溜まりができていた。
「水が取れないって話を聞いたので。ここにありますから順番になってください」
「釣瓶がなくなったそうだね。格安でご奉仕させてもらうよ?」
広場にはちょっとした市が立っていた。ヴィクター・ノルト(eb2440)が新しい釣瓶を片手に村の人と算盤を覗き込む横では、ハルカ・ヴォルティール(ea5741)が人々に呼びかけ列を整え、樋上 蓮(eb2543)が一杯一杯樽から水を汲みだしている。
彼らは商人として村に入っていた。アガチオンの悪戯のせいで村の井戸が使えないことを知った彼らは、井戸の修理道具と一緒に水を商品として持ち込んでいたのだった。もっとも収支を考えてなかったためとんとんな商売ではあるが、目的自体が儲けではないので問題ではなかった。
「村中の卵という卵が全部取られたのさ。ああ、また思い出しちまった‥忌々しい」
「冒険者が助けてくれた? タダでかい? そんな人達ばかりだったらうちの村も安泰なんだけどねぇ」
「五匹から多いときだと十匹くらいで何かすることもあれば、一匹で悪さすることもあるかな。どっちにせよ私達には何もできないけど」
「そう、ですか」
不満を持った人が集まれば自然とその口は緩まる。商人に扮する冒険者たちが少しでも村の事件の話に触れると、村人たちは『小人』への愚痴を次々に口に出していく。さり気なく冒険者の良いところをヴィクターは話題にしたが、それも今の村人たちにはさほど感銘を与えなかったらしく他の多くの不満事に流されていった。
ただ不満や愚痴にこそ、本当の意味で質のいい情報はあるものだ。それに少し話をして村の人々も大分すっきりした顔になっている。また明日もよろしく頼むよと声をかけられ、ハルカは野営をするために荷物を片付け始めるのだった。
「油断しきった相手を捕まえるのは、結構楽なものなのね」
教会の裏口でシーツで作られたミノムシのようなものを引きずり込みながら、クリミナは感慨深い面持ちをした。ちょっと乱暴に引きずられている『ミノムシ』はぐねぐねと暴れ、くぐもった叫び声を上げている。訝しげにその様子を眺めるジュリアン・パレ(eb2476)と神父にクリミナは上品そうに微笑んだ。
「ちょっと『小人』を引っ掛けようと、シーツを干して悪戯しにくるのを待ち伏せしましたの。そしたら見事、というわけね」
「‥さすがです」
心中どうだか知らないがジュリアンが落ち着いた声で労いの言葉をかける。神父も出来た人で、シーツで簀巻きにされたアガチオンを見ても一応表情は崩さなかった。
「これで悪魔たちを呼び寄せる『囮』も手に入ったことですし、明日にでもお願いできますか」
「ええ。協力致します。ミサの間は窓も閉じるので、外で多少の音がしても村人は気づかないと思います」
明日、この教会でそれなりに名のあるクレリックを招いてのミサが行われる。ミサの後には村人の悩みを聞くための時間まで設けられているため、村人はほぼ間違いなく教会に集まるだろう。それが冒険者たちが考えた作戦だった。
「村人が一箇所に集まればアガチオンの動きを特定しやすくなりますから、お願いします」
「村の人達に化けて紛れ込んでも、見慣れない人がいることになりますからすぐに解るでしょうしね」
ひょっこりと表のほうから顔を見せたアニーが、ジュリアンに同意する。元々それほど大きな集落でもない。冒険者たちも大分村人と打ち解けて、相手が村人であるかそうでないかくらいはわかるほどになっている。
準備は全て整った。もう一度冒険者たちは確認を取り合うと明日の大舞台に備え、各自動き始めるのだった。
「夕食を受け取るときにジェラルディンさんから報告は聞いています。アガチオンを誘き出す、いい歌が出来ました」
仲間と合流してにっこりしながらそういうと、レイム・アルヴェイン(ea3066)は肩に下げたバックパックを地面に下ろした。彼は村に入る前にアガチオンを誘うための歌を作っていたのだ。
冒険者以外の格好を考えていなかったレイムは村に入ることなく、村の外で歌のネタを探していたのである。そして村人が教会に集まった今、ようやく村に入れるようになったのだった。
冒険者たちは村の畑に来ていた。悪戯をしたら目立ちそうな、村人たちが留守の間に狙われそうな場所ならアガチオンが来るだろうと考えたのだ。
畑を見て、視界も開けていて誘き出すのにも適していそうだ、と思ってからふとジュリアンは気づいた。
レイムを呼びに行ったアニーの姿が見えない。自分たちと別行動をしている三人の冒険者の他に、ヴィクターがスクロールの力で姿を消しているのは知っているのだが‥
「アニーさんなら、彼女が見つけた『いい場所』に待機していますよ」
「そういうことなら問題ないでしょう。早速一曲お願いしようかしら」
今度は縄でぐるぐる巻きにした小悪魔をレイムのバックパックの傍に置くと、クリミナは二人に頷いた。
愚かなアガチオンを謡う声が、レイムの口から流れ出す。ジュリアンが周囲に警戒の目を光らせると、クリミナは姿が見えない子悪魔の仲間たち宣言した。
「さあ、『仲間』をいじめた冒険者はここですわよ? 出ておいでなさい」
「どうやら教会のほうに一匹いるみたいだね」
ミサが始まり、しばらくして耳障りな金切り声が蓮の耳に飛び込んできた。どうやら教会の辺りで何者かが大声を出しているらしい。サウンドワードに紡がれる声が彼に行く先を教えてくれた。
「ミサを邪魔しようって魂胆なのかな」
「どうだか解らないけど‥」
走り出したハルカを追って蓮が教会の脇まで来たとき、そこでは一匹のアガチオンが窓にへばり付き雄叫びを上げる姿があった。
静かに片付けたかった彼らにしてみれば厄介なことをしてくれている。ハルカは蓮に目配せをすると、しじまをもたらす韻を唱え、力を導く印を結んだ。
途端、うるさいほど耳に響いていた声が消え失せる。サイレンスにかかったアガチオンは当然、声が出なくなったことに驚いて呆けた顔で首を傾げた。
「これで捕獲は成功、かな?」
先手を取られた挙句、何が起こったか解ってない小人にしてみれば一瞬の出来事だったのかもしれない。さらに影に縛り付けられる頃には、エルフのウィザードが巻き起こした暴風が悲鳴を上げることも許さず沈黙したままの小人を地面に叩きつけていた。
合わせて二匹では村人のいっていた数には程遠い。蓮が再び音の声に耳を傾けると、彼が示したほうへハルカはまた走り始めた。
厳粛な雰囲気を打ち破る音が掻き消える。ざわつく教会の中を沈めるようジェラルディンは語りかける。
「皆さん、神に仕える者達がこの村に棲みつく悪魔に裁きを下しています。祈りを捧げましょう」
『名のあるクレリック』の言葉に神父やシスターが従う。その姿に村人たちも静かに祈りを捧げる。今救いをもたらそうとしている者たちが誰なのかを知らずに。
「祈りましょう。彼らのために」
「キリのいいところで出てきましたね」
レイムが一曲歌い終わったとき、畑の近くの林からアガチオンたちがその醜い体を表に晒した。数は三匹。何か悪さをしようとしていたのだろう。小石や木の枝を大量に抱えていたり、どこかしらで拝借してきた縄を肩にかけたりしている。中には数羽の鶏を捕らえ、持ち歩いている者もいる。
小人たちは仲間が捕らえられていることに気づくと、一斉に冒険者たちに向かって手に持った物を投げ始めた。どうやら仲間がいるのもお構いなしらしい。
「悪戯する気が失せるようにしたのですが、ちっとも衰えていないようです」
「大して痛くはないけれど。ただ畑に物を投げ入れるとは無粋ですわね」
ちょうど頭の上辺りに飛んできた鶏をキャッチし、レイムが苦笑する。彼のメロディーの効果は長続きしなかったようで、石や木の枝は元より、どこの家のとも知れない鶏までも冒険者に降り注いでいた。ジュリアンが外套で飛んでくる物を叩き落すのを確認すると、神への裁きを成就するためクリミナはネックレスを握る。
それは一瞬の隙だった。冒険者たちの目が囮の小悪魔から離れた瞬間、レイムが掴んだ鶏が暴れ出し、小人に姿を変えると捕らえられた仲間を冒険者から引き剥がした。
投げつけられた鶏の一羽は悪魔が成りすましたものだったらしい。冒険者たちの顔に焦りの色が浮かんだ。このままでは折角集めた悪魔たちを囮共々取り逃がしてしまう。仲間が戻ってくれば用はないとでもいうように、アガチオンたちは早々と背を向け林のほうに駆け出している。
だが、その逃亡は叶わなかった。
「『聖なる母』の御名においてお仕置きなのです!」
「少し狙いが甘かったけど、まぁこんなもんかな?」
囮の一匹を引きずりながら逃げるアガチオンの足を聖なる光が焦がしたのと、畑を抜けて林に駆け込もうとしていた悪魔たちが轟音に叩き戻されたのが、ほぼ同時。
今の今までレイムのバックパックの中に息を潜めていたアニーと透明な伏兵として悪魔たちを待ち伏せていたヴィクターによる奇襲攻撃だった。逃げ切れるはずだったアガチオンたちにはあり得ない状態、これでまた冒険者たちの前に立たされることになった。囮を助けに行った仲間は足を撃たれて動けないし、自分たちも一部が爆発に巻き込まれて怪我を負っている。
アガチオンたちが混乱しそうになっているのを他所に、冒険者たちは体制を立て直し、すでに次の行動に移っていた。たった一人、神聖騎士が一気に距離を詰め悪魔の前に立ちふさがり、他の冒険者たちは魔力が篭った言葉を唱和させる。
爆音に『呼ばれ』て来た蓮とハルカが包囲に加わり、最後に白い光が熾ると、この村の悪魔が起こした事件に終幕が訪れるのだった。
「私たちは、ほんとは悪魔を退治にしにきた冒険者なのです」
真摯な表情で謝罪をするシフールに、村人たちは何もいわなかった。小人退治をした翌日、冒険者たちが旅立つそのとき、アニーは村人たちの前まで飛んで行って真実を口にした。
「ほんとのこと黙っててごめんなさいでした。でも‥」
「そっから先は言わんでいい」
ぶっきらぼうにそう返され、一瞬胸が苦しくなる。アガチオンがこの村で何をしてきたか。それは全て説明した。だが、それは被害を受けた本人にしてみれば、推測という名の作られた事実のように思えてしまうのかもしれない。今でもこの村の人たちは冒険者を、自分たちを恐れているのだろうか?
「言わんでいいよ。どうやら私らは悪い夢でも見てたようだ。人を、冒険者を一面でしか見ておらんかった。それも偽のモノを本物だと信じてな」
「村の人達としっかり話し合いました。神父様と私が、勝手に冒険者ギルドに依頼をしたことも。私も最初とても怖かったんですけど、冒険者の方は悪い人達ではないということも」
シスターはジェラルディンとクリミナのほうを眩しげに見た。道中も、教会でも冒険者と共に行動したためだろう。今ではシスターが一番信頼を寄せてくれているように感じられる。
彼女がいる限り、次から村に訪れる冒険者が邪険にされることはないだろう。村人たちの顔がそれを信じさせてくれた。
「ありがとう御座いました。これからはいつも通りの格好で構わないので、次この近くに来たときは是非寄って行って下さいね」
シスターの声が後押ししてくれるように冒険者たちの背中に届いた。