華麗なる怪(?)進撃!

■ショートシナリオ


担当:国栖くらげ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月21日〜08月26日

リプレイ公開日:2005年09月03日

●オープニング

 今日も今日とて冒険者ギルドには冒険を求め歩く者と様々な事件、悩みを持ち込む者が出入りしていた。
 そういった人を見ていると、本当に多くの人種が混在しているのがよく解る。やる気に満ちた足取りをする若者。懇願するような目をした老人。かしこまって依頼の手続きを踏む紳士。
「さあ、諸君! この私を世に生ませしめた神に感謝したまえ」
 当然ながら一般とはかけ離れた世界で生きる者もやってくる。真紅の無意味にド派手な衣装、つま先から踵の裏まで磨き上げられた靴、薄く透けて本来の役割を果たしていなさそうなマント。およそ実用的でないファッションが、爽やかな微笑とさえいえる顔つきをした男を装飾していた。
「どうしたんだい、一般人諸君! しっかりと感謝したまえ」
「そのような理由では、なかなか神に感謝などできそうもありませんが‥」
「ふむ。神に感謝しないとは赦されがたいことだが、このような場で説教するのもあれだ。代わりに美しく生まれ出でたこの私に感謝するといい」
 この時点で依頼を受けようとしていた冒険者の半分は消えていた。まぁ依頼人がこんなんである。帰る彼らを責められまい。あとに残った冒険者たちは、よほどの物好きか、この依頼人にも負けないくらいマイペースであるか、はたまた吹き荒れる風のごとき依頼人のお喋りに固まっていたかであろう。
 この場に取り残された‥否、残っていた冒険者たちの前にいた恐ろしく派手な格好をしている人物こそ、今回の依頼人であった。
 さぁ感謝したまえと差し出した少女のような指先、鼻梁の通った顔立ち、肩から流れ落ちる金髪は確かに一般的なラインからすれば美形と称されるであろう。自らを美しいといえるだけの容姿は持っている男であった。
 もっとも、一部の趣味に偏った人間が集まるような場所ではない(と思われる)冒険者ギルドでそんなナルシストな馬鹿者に気を使う人物などいない。
「全く、恐れ多くも私に感謝しても良いと言っているのに。まぁ仕方あるまい。神聖なる美を理解できぬ迷える子羊たちには私から直々に指導を――」
「ええ、指導はもちろん後で受けさせてもらいます。それより依頼の話をしませんと」
「おおっと、そうであったね。諸君。世俗の汚物でまみれた耳を最大限に有効利用してよく聞きたまえ。今回私がここに来たのは言うまでもない‥朽ちてしまいそうな神聖なる美を諸君らに救って欲しいのだよ!」
 さり気なく話を軌道修正させる係員に従い、大げさに両手を広げると、男は全く困っていない表情で苦悩したように話を始めた。


 依頼人の男が紹介したいと連れてきたのは、修道女がする被り物を目深に被ったシスターであった。
「諸君、目が潰れても構わないというなら彼女を見たまえ。麗しき我が妹君だ!」
「ぁ‥‥」
 彼女はフードを剥ぐことに、小さな抗議の声を上げた。はらりと、美しい金髪が胸元へ舞い降りる。混じりけのない瞳は、確かに神聖なる美と表現する男の言葉を裏切ってはいなかった。
「ダメです! 見ないで下さいっ。私を、見ないで下さいぃ!」
 ほぅと声を上げたのは誰だったか。冒険者たちがそんなことを気にする前に響いたのは、拒絶の声とくぐもった呻き声。一瞬の出来事で唖然とする冒険者を他所に、女は急いで奪い返したフードを被りなおしていた。
 床に転がっている真紅の塊が係員に手助けされ、ムクリと起き上がる。
「ぐ、フぅ‥しょ、諸君らも見て、解ったであろう? 私の妹は、人見知りこそしないが非常に初心でシャイな性格なのだ」
「ぁぁぁ‥皆さんの前で、こんな、私のような卑猥で醜い顔を見せるなんて‥‥ああっ、皆さんに何と謝ったら良いものか」
「美しさは私にも負けずとも劣らない――いや、私のほうが少しだけ美しいかな?――こんな妹がシャイで人に顔も見せられないとはっ! 美は人に崇められてこそのもの。この悲劇、諸君なら解ってくれるはずだ。いや、解らないはずがない!」
「神よ、どうかお許しください。ああ、それとも、私のような許されがたき容姿を持つ者がこの世に生まれたことが罪なのでしょうか?」
 いや、何かシャイとか、そーいう問題じゃない気がする。ご丁寧に反語表現まで使って美が失われる悲劇を説く男と、フードと悲劇のどん底に顔をうずめ必死に神に祈りを捧げる修道女を見て、いまだそこに残っていた冒険者のは、心から突っ込みを入れていた。ただし、心の中でだが。
「そういうわけで、皆さんには依頼人の方から妹さんが自信を持って人前に出られるように頑張ってもらいたいと思います」
 どういうわけなのかといった問いには全く答えない雰囲気で、係員が冒険者たちを見渡した。気づけば通常の依頼を受けるのには十分な人数まで減っている。状況的に断るには気が引ける。残っていた彼らは係員の視線に頷いた。
「まあ、放っておいても喜劇‥ではなくて、そんなに深刻な状況になるわけでもありませんから、気軽に楽しんできてください」
「私はここから1日ほど離れた修道院で司祭をしている。私の美しさを拝むついでに何か良い方法を思いついたら是が非でも訪ねてきたまえ!」
「ああ。私がせめてもう少し兄様と似ていなかったら苦を味わわずに済んだかも知れないのに。これは試練なのですか? 神よ」

 嵐のように去っていった依頼人とその妹。ぽつりと漏れた言葉は、誰のものだったろうか。
「ていうかあの男、司祭、なのか?」
 一般的な意味での悲劇は、すでに始まっていたのかもしれない。

●今回の参加者

 ea1241 ムーンリーズ・ノインレーヴェ(29歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1556 ゼファン・トゥムル(22歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea1671 ガブリエル・プリメーラ(27歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea1803 ハルヒ・トコシエ(27歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea4078 サーラ・カトレア(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea4107 ラシュディア・バルトン(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea7509 淋 麗(62歳・♀・クレリック・エルフ・華仙教大国)
 eb3361 レアル・トラヴァース(35歳・♂・レンジャー・人間・エジプト)

●サポート参加者

クリス・ラインハルト(ea2004

●リプレイ本文

 何だかんだいってこんな依頼に参加する物好きな(世話好き?)な冒険者はいるもので。
「司祭に必要なのは、外見ではないと思うのですが?」
 数珠をかけた手を胸に、小首を傾げて淋 麗(ea7509)は一人呟いた。誰に聞かせるでもない、ふと浮かんだ疑問。答える者に期待していたわけでもない言葉だったが、冒険者たちは各自で思いを馳せる。
「まぁ依頼人には圧倒されてしまうな。確かに」
「ナルって好みじゃないんだけどね〜。仕方ないわ」
「シスター、別嬪さんなんに、かわいそうやなぁ。ぃよし、何とかしたろ!」
 それぞれ口に出したり出さなかったりはいいのだが、一部論点が微妙にずれていたり、興味外のものが完全に抜け落ちている者も、中にはいるようであった。まぁこんな収入も確定しないようなボランタリィな仕事である。楽しんだほうが勝ち、なのかもしれない。
 冒険者たちが会話もそこそこに歩を進めているうちに、山間に見えた修道院の影は次第にはっきりとその白色を照らし始めていた。


 ラシュディア・バルトン(ea4107)が聞き込みを行ったときの周囲の反応は、意外と好意的なものが多かった。曰く。
「あ、知ってる知ってる。あの司祭様でしょ? すっごい美形の」
「でも、性格がちょっと‥ただあんな生き方もできるのかと思うと、逆に納得してしまいますね」
「説法は面白いな。妙に前向きすぎて悩んでいたこととかがバカらしく思えてくるような感じで」
 どうやらあの強烈なキャラは不合理なまでに人を納得させて、一般常識の世界に根を下ろしているようだった。極端でこそあれ自分に自信を持ち、それを周囲に強引であれ認知させている司祭は、自分のことが嫌いだと認識する彼とは対極に位置している。ラシュディアとしてはそれが少し羨ましい。
 目の前にいる司祭は冒険者たちの来訪に笑顔で答え、また自己自賛の嵐を撒き散らしていた。ハルヒ・トコシエ(ea1803)が差し出す水仙の束を手にとってはそれに喜ぶ司祭は正直すごいと思われた。
「ん〜ん、まだ花が咲く時期には程遠いが、なかなか粋なセレクトだね。花言葉は自己愛。それに順ずる物語もあるという」
「お兄さんのファンの子からなんですけど‥えっと、身を滅ぼしちゃうとこまでは、いっちゃダメですよ〜?」
「おおっと、心配は無用だ。一般人諸君! 自分に惚れることで自らの美を失うのは美への冒涜でしかない。寧ろ私はすでに自らに心奪われているからねっ」
「確かに、貴方は輝くばかりに美しいわ。ただ何か、もっと美の高みに届かせることが出来る気もするのだけど」
 胸に手を当て自己に酔いしれる司祭に、ガブリエル・プリメーラ(ea1671)は微笑み思案顔でそれに対応する。別に彼女自身はナルシストが好きなわけでもないが、これも『女』の演技。微笑みの下では司祭を相手する上での計算が始まっている。
 そんな依頼人や仲間の姿に圧倒されつつも、ラシュディアは気になったことを口にしていた。
「え〜と、司祭さんが自分の美についていつごろ気づいたんだ?」
「私の美の歴史についてそんなに知りたいかい? 喜びたまえ! 今なら特別レクチャー付きで一晩語ってもおつりが来るサービス中だ。私に参拝する者がこと多い今日という日は、私のご機嫌は真平らなのだよ」
 何だかよく解らない返答をされ、一応それが承諾であると気づき、青年はさらに情報を得ようと司祭に尋ねる。
「残念ながら妹がいつああなったかは私でもよく解らない。私はこれでもかなり妹に尽くしているつもりなのだがね。先ほどの話ではないが妹が自分自身に恋焦がれて悲しみに落ちぬよう、彼女の周りから顔が映るようなものを全て取り除いたのも、妹への愛がなせる業だろう!」
 シスターがいつ頃から自身を人目に晒すことを恐れるようになったのか。それに明瞭な答えは返ってこなかった。
 冒険者たちに囲まれた司祭の背後、気づかれないようリードシンキングを試みていた麗も肩をすくめた。司祭の言葉には偽りはなかった。彼なりに尽くしているのは間違いなかった。かなり間違った感じで行動に現れているようだが。
 ともあれ、麗の行動はすでに決まっていた。こうなる前より、一僧侶として話すべきことが彼女にはあった。
「そろそろ、ムーンリーズさんとレアルさんのほうも準備できる頃ですし、司祭さんとお話することがありますからお借りしますね」
 ふわりと微笑んで司祭の派手な服を引っ張り懺悔室へと向かう麗。司祭とは別の意味で圧倒されそうな笑みに従い、冒険者たちはいそいそと部屋を後にするのだった。

「あなたは白の司祭である以上、人々のためになることをしなければなりません。聖なる母が貴方を司祭した以上、それは人々への救いを必要とするためです。人々に美を分け与えているなんて回答にはなりませんよ。それに‥」
 その日懺悔室に入ろうとする者は一人としていなかった。


「行動の第一段階は成功、ですかね」
 半ば強引にシスターとのデートを取り付けた男――ムーンリーズ・ノインレーヴェ(ea1241)はややもすれば怪しく見える笑みを浮かべていた。実際怪しいとか言ってはいけない。このデートはシスターに自信を付けさせるための重要なファクターなのだから、多分。
「シスターが自分のこと醜いと思い込んでる原因な‥」
 突然、レアル・トラヴァース(eb3361)が思いついたことを口にする。
「あの兄貴のせいやと思わんか? 小さい頃からずっとあの兄貴の側で育ってきて、めっちゃ恥ずかしかったと思うんや」
「今日くらいは、その兄の奇行を忘れさせてあげたいものですね」
 そんな推測をするレアルに、ムーンリーズも頷いた。あの破天荒な司祭に似ていたら、自分を恥ずかしく思っても仕方ないように思える。
 男たちの前の扉が音を立たのは、そんな話をしていたときだった。顔を覗かせたのはハルヒだ。色々とシスターと話をしたあと、何故かシスターを着飾る役を買って出たのだ。
「もしかして、シスターって物凄い完全主義者なんじゃないかな〜と思ったから、シスター改造計画を発動させちゃいました」
 どうやら彼女は彼女なりにシスターの悲観的な部分を考えていたらしい。もっとも、周りに身なりに無頓着な冒険者しかおらず中々美容師としての実力を出す機会がなかったために、つい手を出してしまった(?)とも言い切れないのだが。
 次はお兄さんのほうですねとか何とか呟いている彼女の後ろでは、ガブリエルがシスターにアドバイスをしている。
「自分の容姿が気に入らないなら、それは仕方ないことだわ。でも、皆気に入らなくても好きになれる自分を目指して四方八方に手を尽くしてるの。貴女は貴女。お兄さんとは違うんだから、あそこまで極端にならなくてもいいから努力なさいな」
「はい‥その、これも神の試練と思って、頑張ろうと思います」
 ウィンクを飛ばしながら微笑むガブリエルに、質素ながら清楚な服装とフードに隠されたシスターの口元も少し和らいだように見えた。
 ムーンリーズが、彼のしうる最高の笑顔でシスターを誘う。
「それではお嬢さん。パリの街の散策へと参りましょうか」

 パリの往来は今日も賑わっている。ムーンリーズはシスターをエスコートしながら街の中を進む。
 店を覗いたり店員に声をかけたりして、声をかけられたら対応は丁寧に。特に女性に対する比率が多いのは気のせいではないだろう。これもシスターに自信を付けさせるための作戦なのだ。もっともシスターを伴ってそうする姿は実に紳士的に振舞っている女たらしに見えるわけなのだが。
「少し、怒っていますか?」
「素晴らしいことだと、思います」
 じっと自分を見つめるシスターの視線に、余裕な笑みで魔術師の男は笑いかけると、返って来たのは賞賛の声だった。
「私では自分がどう見られているか気になって、人前で顔をあらわに堂々とすることは出来ません」
「見えないからこそ気になるということもありますよ」
 遅れて歩を進めていたレアルが追いついてみると、ムーンリーズとシスターの会話は司祭の服装のことになっている。コーディネートがどうのこうの、このデートにかこつけて問題にならない程度の服を探すらしい。レアルにはそんなことはどうでもよかったが、それはシスターに自分の思いを伝えるちょうど良い機会となって訪れることになった。
 レアルはムーンリーズが服を吟味しているのを横目に、シスターに近づいた。
「僕はキミが美しいと思っとる。キミに美しさを感じとる。何でかっていうと、キミの心が美しいからや」
 フードを被った彼女は静かにその言葉を聞いている。
「人の美しさは内面で決まると思っとるんや。僕は。ついでに言うと、親からもろうた顔隠すんは、不孝や。隠すことのほうが、逆に醜いことやと思わへんか」
 レアルの真摯な言葉に、しかしムーンリーズが落ち着いたデザインの服を手にして戻ってくるまで、彼女は黙ったままだった。
 だがその後ムーンリーズに連れられて店を歩き回ったり、一緒にカクテルを飲んだりするシスターの姿に、レアルは少し満足したようだ。彼の目には、目深に被ったフードに隠れた彼女の様子が、少しだけ、自信がついたように映っていた。


 冒険者たちがこの修道院に集うのも、今日が最後になっていた。修道院を照らす太陽が傾き出す頃にはここを後にしなければならない。
 そんな中やっぱりこの人は絶好調だった。
「今日はありがたいことにこの美に溢れる私をさらなる美の頂へと昇華させるべく、諸君が血の一滴も惜しまぬ努力をしてくれるそうだね!」
「はぁ。自らの色彩感覚と流行の斜め前方を行き過ぎる服装、それが神への冒涜だと感じてない様は恐ろしいですね」
「申し訳ありません‥私も精一杯努力はしたのですが、説得するには体力が持ちませんでした」
「そんなに褒めてもより美しくなるだけだよ、一般人諸君! 例え葉っぱ一枚を身に着けたとて私の美はなお磨かれるのだからね」
「褒めてはいないと思うんだが‥」
 ムーンリーズの溜息とともに吐かれた嫌味も気にせず、司祭は胸を張る。シスターがデートに出ている間説教を受け続けていたにも関わらず元気な姿に、麗は賞賛すら贈れようと思った。冒険者としても実力者である彼女が貧血で倒れる中、余裕シャクシャクで自分の美に酔ってしまったのだねといっていた司祭はどんな体の構造をしているのだろうと本気で考えてしまう。
「セーラ殿は、何故彼に祝福を与えているのでしょうか?」
 聖職者らしい問いに答えるものはいなかった。静かに様子を見ていたシスターにも答えられない。恐らく加護を与える白の神ですらも返答に困っているに違いない。
 そんな麗の想いなど他所に、司祭改造計画(?)は順調に進められていた。
「これは勝負です。勝負なんです! さあ、お兄さん。いけるとこまでいっちゃいましょう!」
「この機能美、司祭としての落ち着いた雰囲気。こういう服装が一番貴方を輝かせるわ」
 いっちゃってるのは彼女ではなかろうか? 一部の者にそう思われてしまうほどハルヒの頑張りようはすごかった。『美容師としての狂化条件』とやらを満たしてしまったらしい。本来司祭の服装のセンスをせめて普通のラインまで引き下げようとする試みだったのだが、彼女の中では完全に司祭美化計画に取って代わっていた。
「一般人諸君のセンスも悪くはない。この絶大なる美の前ではこの地味な色使いも艶を帯びて私を彩ってくれるのだからね」
 ガブリエルもムーンリーズも、やや疲れたように苦笑した。こういった手合いに褒め続けるのも楽な仕事じゃない。麗のこともあるし、普通の冒険のほうがまだ楽なのかもしれない。精神的に。
 黒いシックな貫頭衣の裾をひるがえし、シスターに目配せすると司祭は無駄に爽やかな顔を見せた。
「諸君らには頑張ってもらったと思う。妹のことも含めてね」
「そもそもシスターに関しての依頼だったような気ぃするんやけど‥」
「そろそろ諸君ともお別れだ。報酬もしっかり払わせてもらったのでね」
 突っ込みは司祭には届かなかったようだ。それどころかさらなる突っ込みどころにラシュディアが一抹の不安を覚える。
「その報酬についてなんだが、もしかして」
「この私の美を拝めることが報酬に決まっているとも」
 さも当然という微笑みをする司祭に、冒険者たちはかなり溜まりきっていた溜息を吐き出した。まぁ想像しなかったわけでもない。この司祭がまともなことをいうところを想像するほうが難しい。ちょっとした息抜きになったからいいかと考えてしまってるラシュディア当たりは、その意味でかなり毒されてしまったのかもしれないが。
 そんな彼らに慌てるように、司祭を押しのけ小さな影が前に出た。シスターである。
「あの、皆さんには色々と助言を頂いたり、パリへ連れて行ってくださったり本当にお世話になりました。まだ私にはこのフードをとることは、出来ません」
 はぁと一息。冒険者たちの落胆の吐息ではなく、意を決した一人の女性の深呼吸。
「ですが、いつか皆さんの前でこのフードを取れるよう、神の御前で誓います」
「私もいつの日か我ら兄妹の美でこの修道院を満たすことを誓おう! 一般人諸君」
 結局依頼としての報酬は、シスターの手から僅かながら渡された。彼女が用意できた金額は、ここまでの行き帰りに必要な分にしかなっていない。しかし、それでも冒険者たちは満足なのかもしれない。
 はっきりと、言葉少なに紡がれた誓いが、シスターが彼らに与えられる最大の報酬だったのだから。