民に、救済の手を〜領地防衛〜

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:13 G 57 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月26日〜03月07日

リプレイ公開日:2008年04月08日

●オープニング

 ドーマン領は山と森で埋められた領土である。
 かつては隣接するシャトーティエリー領、ラティール領と共にひとつの領地だった。それを先代が兄弟に分けた事から、ドーマン領はラティール領と共に、シャトーティエリー領の属領でありながらも領主を持ち、各々の方針で民を守る場所となった。
 領内には町と呼ばれるものはない。領主が住む場所でさえも村の1つであり、長閑で平穏な暮らしが営まれていた。
 この領内に存在する村は5つ。1つはドワーフ村で名をルー村と言う。鍛冶と採掘が主な収入源で、村人達は皆陽気だ。その隣に位置する村が、ヴェル村。林業が盛んなドワーフ村だが、こちらは人間も共に暮らしている。森の中に在るのはリード村。エルフの村だ。人間だけが暮らしているのはグリー村。そして、領主一家も暮らすドーマン領の中心村、ドーマン村。
 のんびりした生活が持ち味の人情味溢れたこの場所に、1年半近く前、山賊達が根城を構えた。山を我が物顔で支配下に置き、ドーマン村へと続く道を封鎖したのだ。その事で困った領主は、冒険者ギルドに助けを求めた。
 山賊達は冒険者達の活躍あって壊滅したが、その後もこの地は幾つかの事件に脅かされる事となった。
 その原因を。
 領主は知っている。

「叔父上」
 凛とした声に呼ばれて、ドーマン領領主は振り返った。
「‥‥どうした。お前が来るとは‥‥珍しいな」
 颯爽と歩いてくる男は供を1人連れているだけだ。領主は僅かに怪訝そうな表情を見せたが、すぐにそれを微笑へと変えた。
「わざわざ足労頂かなくとも、私から行こうものを」
「端まで視察に行ったものですから。ご心配なさらずとも、供の者達は屋敷の外におります。それよりも叔父上。既にお耳に入れている事とは存じますが、いよいよ危ない」
 その声の響きに、領主は眉を上げる。
「奴らが来ます。推計で200人。しかし奴らは動物も飼い慣らしていると聞く。獰猛な‥‥犬か狼も居るかもしれません」
「‥‥200、か」
「しかし奴らの最大の武器は、騎士や兵士のような多勢による蹂躙でもなければ、強固なる統率力でもない。奴らが個で動く事。そして個が複数となって、強大な力となる事。‥‥奴らは盗賊。人の中に忍ぶは容易い。自然は奴らの味方となるでしょう」
「だが奴らは‥‥入り口の事は知っているのか?」
 歩き始めると、金髪の男も隣に並んだ。
「えぇ、知っているでしょうね。『妖虎盗賊団』。奴らの狙いについて‥‥先日、有力かつ確実な情報を得る事が出来ました」
「それは?」
「あの盗賊を束ねている者が『山猫盗賊団』の生き残りであり、それ故に『地下帝国の遺産』に強い関心を持っているという事実です」
「成程‥‥遺産が狙いか」
 『地下帝国の遺産』。この3領地の地下には、かつて地上の支配を企んだ『地下帝国』の迷宮が存在する。地下帝国と言っても、実際に帝国として名が残っているわけではない。むしろ、この3領地を束ねていた過去の領主達がその名も歴史も抹消しており、名を知っている者など数えるほどしか居ないはずである。その地下帝国が所有していた『もの』を彼ら3領地の領主達が分けて所持し、保管しているのだが‥‥。
「遺産と地下迷宮。どちらも目的だとは思われますが、3領地のどこか1つを集中して狙ってくる可能性も高い」
「時間を掛けてじっくり落としに掛かるという可能性は?」
「奴らは充分すぎるほど待った。これ以上時間を掛ける事は無いでしょう。奴らが時間を掛けた理由のひとつ‥‥。奴らの敵となる者が死んだ今」
「敵となる者‥‥?」
「えぇ。『地下帝国』の『神』。『妖虎盗賊団』を束ねる者の目的は‥‥恐らく」
 自信に満ちた口調で、金髪の男は言い放つ。
「自身が『地下帝国の神』となる事」

 シャトーティエリー領の領主代行が帰った後、ドーマン領領主は村に居る兵士達を集めた。
 他の2領地に比べ、ドーマン領は兵士の数が少ない。そうでなくとも半数が砦に詰めているし、何かが大挙しようものなら対処のしようが無いのは分かっていた。
「‥‥リン」
 呼ぶと、シフールの青年がぱたぱた飛んでくる。
「急ぎパリに向かってくれ。又寒い時期で悪いが‥‥」
「いえ。慣れていますから。死ぬ勢いで飛んできます」
「その足で、娘にも伝えてくれ。しばらくこちらには帰ってくるな、と」
「かしこまりました」
 冒険者の応援だけで足りるかは分からない。だが、パリ王城の兵士騎士を借りるわけにも行くまい。
 この問題は、3領地だけで片付けなければならないのだ。この地の‥‥悪しき闇は、封じなければならない。
「お前に出来るか‥‥それが」
 呟き、領主は外を眺めた。


依頼:ドーマン領を守れ
ドーマン領には、以下の場所が存在する。

 5つの村、1つの砦、山賊拠点跡地、地下迷宮に下りる入り口(山賊拠点跡地、グリー村、ドーマン村に入り口が確認されている)
 以上の場所を盗賊団から守る事が依頼内容である。盗賊団の壊滅が出来れば尚良し。

 まず民の命を守る事。それが最優先である。

●今回の参加者

 ea1671 ガブリエル・プリメーラ(27歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea2389 ロックハート・トキワ(27歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9927 リリー・ストーム(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3084 アリスティド・メシアン(28歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb8664 尾上 彬(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec0196 テオフィロス・パライオロゴス(36歳・♂・エル・レオン・パラ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

フランシス・マルデローロ(eb5266

●リプレイ本文


「君達冒険者は、本当に天馬が好きだな‥‥」
 半ば呆れたように出迎えられたが、リリー・ストーム(ea9927)は真面目な顔で頷いた。
「ラティールの聖女を名乗っておりますわ。後は、緊急事態であると言う事。他の冒険者達の中には魔獣を連れてくる者もおりますけれど、宜しいかしら?」
「娘なら『まじゅー大決戦ですね!』と喜んだだろうが、民に出来る限り接触させないよう頼む」
「承知しておりますわ」
 ペガサスで一足先にドーマン領にやって来たリリーは、領主から事の仔細を聞く。
「今のままですと、民を守りきる事は難しいですわね‥‥。一部の避難民と戦力の面ですが、他領を頼りましょう」
「他2領も現在警戒態勢に入っているだろう。ドーマンが一番狙われる可能性は高いが、他領に受け入れる余力があるかどうか」
「ラティール領は私が説得に当たってみます」
 灰色の空の中、リリーは飛び立つ。


 馬車で到達した冒険者達は速やかに行動を始めた。
 冒険者達が領主達への挨拶もそこそこに始めたのは、領民の避難である。各々の村を守るのは効率が悪い。そこで、伝令役のシフール兄弟が先に伝令を飛ばしてから村を訪れる。避難の重要性を説き、砦、領外、ドーマン村に分けて避難させるのだ。
 この任に当たったのが、ガブリエル・プリメーラ(ea1671)、レティシア・シャンテヒルト(ea6215)、テオフィロス・パライオロゴス(ec0196)。一見頼りなさげな外見の3人に人々は戸惑ったようだが、テオフィロスが小さいけれど『他所の国のお偉いらしい騎士様』なので強そうだとか、ガブリエルがエルフ独特の美貌を備えながらも姐御肌で人々を指導して行ったりとか、レティシアが
「ぜ〜んぜん怖くないわよ、お姉さんといれば大丈夫よ」
 と怖い表情で子供達に言って回り、『お姉さんのほうが怖いからきっと強いに違いない』と思わせたりして、人々は彼らに概ね素直に従った。
 ともあれ、他領への避難可能かはリリーの報告待ちである。他領に移送予定のヴェル村、ルー村以外の人々を先に避難させる事にした。リード村は砦へ、グリー村はドーマン村へ、旅に不向きなお年寄りや病人も砦へ馬車で運ぶ。女子供も砦というのが基本だが全員砦に入れる事は難しい。
 兵士達と速やかに民を移動させつつ、細くて曲がりくねった道と両脇の森からいつ盗賊達が現れるか知れず、冷や冷やものではあった。

 その頃他の人達は何をしていたかと言うと。
「水、食料共に充分にあるみたいですね〜。避難予想人数と備蓄を照らし合わせて、1日の消費量を計算してみましたよ〜」
 井伊貴政(ea8384)が気になっているのは『食』。『腹が減っては戦が出来ぬ』という言葉がジャパンにはあるとか。まさに良質な睡眠食事休息は、日々の活力の為にはひとつとして欠かせないものである。戦いに於いて士気を落とすのは『飢え』。
「お腹が減っちゃうとカリカリきやすいですしね〜」
 食係りとしては、あらゆる食の場所には携わっていたい。保管や監視に手抜かりが無いか、毒物混入の危険を避ける為、日々の食事を作る際も自分が積極的に作成に参加する。穏やかな雰囲気作りを心がけ、敵が動きにくいようにする。
「矢避けの盾なんてたくさんありますかね〜?」
「矢盾は頼むしかないだろうな」
 1日掛かって村の防備強化に努めたのは尾上彬(eb8664)。火事対策に消化手筈計画を立て、燃える物は撤去。とは言え、まず矢避けが木製である。砦と村両方に助勢にやって来たドワーフ達が木板を斜めにして村のあちこちに設置して行ったが、互いの火が燃え移らない絶妙な距離で配してあった。
 獣対策には、冒険者達のグリフォンから体毛をいただき袋に詰めて村の外周に置いておく。これらは兵士達でも出来る事なのでと彬が主に取り組んだのは、周囲の森に罠を設置する事である。敵の襲撃を察知し時間の浪費を図る。それが僅かな時間であっても貴重だ。
 ドーマン村常駐の任についているアーシャ・ペンドラゴン(eb6702)は、柵を手直ししたり資材を運搬したりした。連れてきた馬もフル動員。茜に染まる空をようやく見上げる余裕も出来た頃、シフールが飛んできた。
「リリーさんからみたいです。えっと‥‥ラティール領への避難はダメだったみたいです‥‥」
「こっちはミシェルからみたいだな。これも無理‥‥か」
 以前に作戦の都合上、シャトーティエリー領に仕える者となっている彬は、領主代行にシフール便を出していたのだった。ちなみにパリでもこっそり橙分隊を頼っているのだが、この助力はドーマン領主自身が断っている。最も、素性をばらしているつもりは一切無い某橙分隊員は、『しがない情報屋の給金から何とか捻出してみるよ』と爽やかに肉の塩漬け樽とポーション一式を贈ってくれたが。
 ともあれ、領外への避難が出来ないと言う事で速やかに計画は変更された。ルー村をもう1つの避難場所とし、それが他の者達にも伝えられたのである。

 その頃1人、各村で黙々と作業を行っている男がいた。
 その名はロックハート・トキワ(ea2389)。工作の達人である。
「‥‥出来たのか?」
 作業しながら遠巻きにそれを見たテオフィロスが尋ねた。ルー村が急遽避難先となった為、防衛用の作業を行っている。
「‥‥出来た。‥‥会心の作にはほど遠いが‥‥問題ない」
 大量に大量に設置しているらしいので、テオフィロスは近付かず呟くロックハートを見守った。
「ここをまず踏む‥‥するとこれに引っかかって吊り上げられる‥‥そこへ丸太が飛んできて‥‥飛ばされた先の幹に設置した削った枝に刺さる‥‥その上から‥‥いや‥‥後2、3癖欲しいな‥‥」
 ふむと考え込む達人だったが、この罠は村の中まで入り込んできているらしい。ルー村の中心部に避難した人々はほとんど動けず、しばらく耐えるしかないようだった。それでも入り込む勇者がいた時は、テオフィロスの出番である。
「自由な出入りは空しか無いって事ね」
 ルー村に留まるのは誘導組全員。ガブリエルが言いながらちらとレティシアを見たのは、彼女がペガサスを連れているからだ。空を飛ぶペットを連れた者達は、今回機動性を生かして遊撃や情報伝達、索敵を行う事にもなっている。
 一方同じように空飛ぶ‥‥ただしこちらは魔獣を連れたアリスティド・メシアン(eb3084)とセイル・ファースト(eb8642)は、別々のとある場所に来ていた。『地下迷宮』への入り口がある2箇所である。その入り口を一時的に塞ぎ、敵の侵入を阻止する為だ。ドワーフも連れてやってきた2人は、グリフォンに岩肌を削ってもらったり石を転がしたりしてもらって、何とかその入り口を封鎖した。とは言え、完全ではない。1日では大した事も出来ないだろう。定期的に見に来る必要があったが、その計画は立ててある。
「‥‥夜明けは遠いな」
 闇に染まる気配に空を見上げた。
 いつ来ると知れない敵襲。戦いが始まる。


「頭目の狙い‥‥。エミール様ならご存知ではなくて?」
「今回の情報は、兄貴から出たものだ。俺の情報網には無かった」
 ラティール領は再興計画進行中の領地だ。もしも敵襲があれば一溜りも無いが、再興計画出資者のエミールが派遣した兵や傭兵が居るらしい。しかしそれでも外から受け入れるだけの余力は無い。敵襲について情報があれば、とっくに備えもしていた事だろう。だから怪しいと思っていると彼は告げた。
「あいつにこの事を教えた奴だ。『有力かつ確実な情報』。信憑性に足る情報を、どうやって兄貴が得たのか」
「盗賊の一味を捕らえたのかしらね」
「だとしたら尚更信憑性に欠ける。だからこの情報自体が罠じゃないかという気もするんだよな」
 彼は自分の実兄を信用していない。
「本当の理由は、他にあるんじゃないかってさ」
「どちらにしても、叩ける時に叩いておかないと後々面倒ですわ」
 敵襲が本当になければ、それに越したことはない。だが敵が来るのであれば叩く絶好の機会でもある。
「少し、ラティールの兵をお借りしてもいいかしら‥‥?」

 領内は厳戒態勢に入った。
 静かな領内の上空を獣達が飛んでいく。人々は息を詰めて何かが始まり、そしてそれが無事終わる事を祈った。

「来た‥‥!」
 最初に敵が確認されたのは、ドーマン村周辺だった。いや、それよりも早く確認されたのは砦のほうだったが、領内を空から巡回していたレティシアがそれを報告したものの、そちらはすぐに収拾がついたらしい。
 だが攻めてくるまで気付けなかったのは誤算だった。村に属さない小屋なども調べたし、足跡が残っていないかも見て回った。だが領内全てを見るのは不可能だし、雪の積もる森を大人数で越えてくるとは思えなかったのだが‥‥。
「弓兵、前へ〜」
 矢が飛んできたのは夕刻。闇が降りれば正確な位置など狙えないが、光と闇の隙間では逆に敵影も見づらい。兵士達にとって不運な事に、敵は西から攻めてきた。まともに矢など飛ばせるはずもない。
「矢が尽きたら出ますか?!」
「あれは多分陽動だ。矢が尽きてからじゃ遅い!」
 斜めの木板の陰に潜み、セイルは空を見上げた。上空を飛ぶグリフォンは1体。アリスティドのグリフォンは領主館付近に待機している。彬が人遁でシャーに化けたのを確認し、皆は一斉に盾を持って外に出た。降下するグリフォンに向けて矢を射掛ける者は居らず、敵は森の中へと下がって行く。その途中で彬が仕掛けた罠に掛かる者も居たが、敵が森の中へ逃げ込む前にアーシャの剣が敵の腕を切落とした。
「前に出すぎるな!」
「分かってます!」
 この場所を守る為に狂化をしては本末転倒。それを心で強く念じる。
 彬は領主館付近に向かい、敵を探した。妙な動きをする避難民はロックハートが後を追っている。だから今ここに居る冒険者は5人だけだ。アリスティドが襲撃に館内から出てくるのを見つけた瞬間、その屋根の上から殺気を感じた。避けたその隣で兵士が矢を肩に受けてうずくまる。その顔が見る見るうちに土色に染まり、彬は素早く館へと近付いた。即効性の毒矢。そんなものを大量に持っているとは思えない。
「こんな所でお前に会えるとはな」
 敵の言葉に彬はアリスティドの動きを待った。これが首領ならば。
 刺し違える覚悟でも。

 一方時間を置いて、ルー村も敵襲を受けていた。
 最もこちらは。
「‥‥やる事ないわね」
「綺麗に嵌まっていくわよね〜」
「油断は禁物だぜ」
 ロックハート作、多重構造罠を受けて自滅していく敵を村の中心部から見守るだけである。たっぷり時間を掛けて仕掛けただけあって見事だが。
「でも、賊が撤収すればそれでいい。深追いも禁物だ」
 テオフィロスに言われて兵士達も頷いた。あの危険地帯を抜ける気は言われなくても無かっただろう。
「他がどうなっているのか気になるな」
 あ〜れ〜と目の前で落とし穴に嵌まった敵から目を逸らし、彼は村の逆側の様子を見に行った。だがそこも光景は変わらない。
「でも変ね。始めから矢が飛んで来なかったわ」
 手近に倒れている者をそろりと捕まえて、ガブリエルはリシーブメモリーを掛けた。それはその者が盗賊になった時の記憶。他の者にも試してみてもそれは同じだった。
「こっちは囮だったみたいね。最近盗賊になった奴らばかりだわ」
 怪我をして動けなくなった敵は戦意喪失して項垂れている。逃げた者は放っておいて、捕らえた者達だけを1箇所に集めた。
 敵は200名と聞いている。だが貴政や彬の話では、数ヶ月前は100名を超える程度の集団だったのだと言う。つまり残りは寄せ集め。それを囮にこちらを攪乱する狙いがあるのだろう。
 レティシアが即座に様子見で空を飛んでいった。

 敵は領民に化けている。
 以前から数人が入り込んで間諜の役目をしているだろうと皆は踏み、炙り出しをしていた。間諜ならば必ず外と接点を持つ。それを追って、ロックハートはヴェル村にほど近い場所で敵と遭遇した。人は10人。だが犬が20頭ほど居る。湯浴みで体臭も消したし充分距離を取っているが、風向きによっては犬の鼻は誤魔化せないだろう。聞き耳で途切れ途切れに聞こえてくる話によると、無人のヴェル村付近を一時的な陣としているらしい。時折来る偵察の目に触れないよう、敢えて村内には入らず潜んでいる。白い布を掛けたテントで寝泊りし、火を使った跡は残さない。非常に用心深い連中だ。
(「何っ‥‥?!」)
 続いている会話を聞いてロックハートはルー村へ目をやった。この話は必ず持ち帰らなくては。
 慎重に帰り道とは別の道を帰っていくと、行く手から来る気配に気付いた。向こうも気付いたのか、殺気が走る。
「ここまで偵察とは大胆だな‥‥!」
 1人を除いて後は雑魚。そう判断し、ロックハートは武器を構えた。
「‥‥っは、上等だ‥‥死にたい奴だけかかって来い‥‥!」


 ドーマン村に馬車が到着した。
 アリスティドのスリープで屋根の上の敵を寝かせてから拘束した頃には、他の敵も捕らわれるか逃げるかしていた。起こして聞いてみると、屋根の上に居た敵はシャーを知っているが首領ではないらしい。リシーブメモリーもムーンアローも反応が無かったが、その男を見たセイルは首を傾げた。どこかで見た覚えがある。
 馬車から降りた者達は『ラティールから援軍としてやってきた』と真剣な表情で告げた。
「それはお疲れ様です〜」
 にこやかに貴政が労ってスープを渡したが、彼らは悠長にしている暇は無いと言う。すぐにでも敵が再び来るだろうと。
「あれ‥‥。でも、リリーさんも一緒のはずですよね? リリーさんはどうしました?」
「先に行くように言われたのだ。後から集めて行くからと」
「鎧が随分簡素だね」
 アリスティドが指摘して魔法を唱える仕草をする。明らかに身を引いた彼らに、彬が黙って捕らえた男を連れてきた。
 その時。
「私の居る所、常に正義と勝利あり!」
 それはやって来た。降る雪を溶かす如く情熱的な叫び声を上げながら、何かが大挙してくる。
「リリー‥‥」
 夫は見た。男共を従えながらペガサスに騎乗してランスで敵に突撃している妻の姿を。
「援軍が到着しましたわ!」
「‥‥じゃ、こいつらは?」
「どちら様かしら」
 というわけで馬車でやって来た者達は捕らえられ、魔法に掛けられる事となった。

 結局、100人近い者達がこの期間に捕らえられた。そのほとんどは盗賊になって日の浅い者達で、正面から来た者達は全て囮である。
 砦は別として領民は皆無事で、兵士は2人死亡した。リード村は焼き討ちに遭っており、消し止めたものの再興には時間がかかるだろう。彬とロックハートが捕らえた雑魚ではない敵は、リリーも見覚えがあった。彼らが何者なのかは近いうちに分かるかもしれない。
 そして。

「リリアだな」
 パリ郊外の家に、男達が訪れる。
 それは、新たな始まり。