民に、救済の手を〜砦防衛〜
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 85 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月27日〜03月06日
リプレイ公開日:2008年04月12日
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●オープニング
その砦は、ドーマン領の端にあった。
決して大きな砦ではないが、外敵から領土内を護る要所として重要な場所である。
だが今ここに、ドーマン領始まって以来最大の危機が訪れようとしていた。
「民の誘導はどうしますか」
「多勢で来るならば、この砦を越えねば領内には入れまい。領内に繋がる道は全部で4本。だがそれら全てを封鎖したとしても」
「‥‥『盗賊』に『道』は必要ない‥‥ですか」
彼らの危惧するのはまさしくそれだ。山や森を僅かな人数で抜けてきては、対処のしようがない。
砦は、民を守る最後の砦である。敵が攻めてきた時、防御力に勝る砦に避難させて援軍が来るのを待つ‥‥。その利用法は非常に有効。仮に敵が村々を襲うとするならば、先に砦に民を避難させれば被害は少ない。
だが。
「来る事だけが分かっている敵‥‥。だがその手段も実力も計れない‥‥。嫌な事を思い出す」
「隊長」
「1年半前の山賊団討伐の時の話だ。私達はあの時、山で餓死しかけた。それを冒険者達が救ってくれたのだ‥‥いや、リンも命掛けでパリへ飛んでくれたな。あれが長引けば、ドーマン村さえもどうなったか分からなかった。今度は規模が違う。だが分かっているのはそれだけ。この砦に敵が来るのかも‥‥分からないと言うのに」
「ですが‥‥領主様のお話では、200人もの軍勢が個別に動いたとしても、さすがに全員が山や森を越えてくる事は無いだろうと。ラティールやシャトーティエリーも厳重な監視体制を敷いていますし、そちら側から来ないとなると限定的です。そこを200人もが超えてくるでしょうか‥‥。逆に目立つのでは。無論、モンスターと遭遇する可能性もあるでしょうし」
「分からん。だが、我々は用心し防御を固めるしかないだろう」
隊長は外壁から外を見下ろした。すぐ傍にある森の中に何かが蠢いていても‥‥ここからではほとんど見えない。だが、ひとつだけ自分達に利点があった。それは。
「‥‥雪はまだしばらく溶けんだろうな」
「僅かでも積もっていれば音もしますし足跡も分かりますね。警戒しやすくて助かります」
足を取られるほどの雪は積もっていないが、森の木には少しばかりの雪が積もっている。誰かが木の上にでも乗れば反動で雪が枝から落ちる。そうすれば‥‥敵が潜んでいても分かるだろう。
「雪が落ちるたびに矢を撃ち込んでいてはいざと言うときに足りなくなるでしょうが」
自然と落ちる事もあるからそれはそれで困るが、全く気付きもしない場所から襲撃されるよりはマシだ。
「隊長! 領主様からの伝達です。冒険者の応援を呼んで下さるそうです!」
下のほうから兵士が駆け上がってきて、白い息を吐きながらそう伝える。
「それは助かる」
「それから、ルー村から鍛冶師が来ました。砦の武器などを点検して下さるそうで」
「お〜い、来たのじゃ〜!」
遠くから声が飛んできた。兵士達は顔を見合わせ、隊長は僅かに笑みを浮かべる。
「‥‥ドミル殿か。あちこち忙しく飛び回っていると聞いたが、つくづく危険が好きな方だな」
「ルー村もヴェル村も、必要とあらば砦に詰める人員を派遣する、だそうです。‥‥ドワーフは皆、危険好きなんですかね?」
「いや。それだけ強い思いを持っていると言う事だろう。有難い話だ」
自分達の暮らしを守る為。それが最大の理由だろうが、自分達の為だからこそ発揮出来る力もある。
階段を下りていく隊長から目を逸らし、兵士は森の奥へと目を向けた。
「‥‥本当に、有難い話ですよ、ね」
呟き、微笑む。
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依頼内容:ドーマン領の砦を守れ
領の外から領内に入る事の出来る道は4本。その内の2本はこの砦の前を通っている。砦を越えてから再び2本に分かれる。
他の2本は領の逆側にある為、この依頼で守る必要は無い。
砦は他よりもやや高い場所にあり周囲を見下ろすことが出来るものの、周囲は森に囲まれている。
砦から最も近い村は、エルフ村のリード村で、馬で1時間程度。その次が領主の居るドーマン村で、馬で3時間程度。
砦は外壁の高さ、5m。
外壁の中に入ると厩舎と家が窮屈に並び、内壁。内壁の中は3階建ての塔になっている。
地下は井戸で、地下から外へ抜ける抜け道がある。
塔の最上階には見張り台もある。他の見張り台は、外壁の4隅と外門の脇。外門、内門ともに木製で、跳ね橋はない。
外壁の上は歩けるが、内壁の上は歩けない。外壁の内側には矢を射掛ける穴が開いている。
砦内には40人の兵士と、5人の一般人がいる。一般人は家事を行う。他の作業は兵士達が行っている。
兵士達は領内に入る者のチェックも行っており、その為の小屋が砦の前にある。兵士達は砦周辺の警備も行うが、領内側よりも領の外側へ向かって進む事が多い。
兵士はレベル1から7程度のファイターかナイトのみ。罠や魔法には弱い。隊長はレベル7のナイト。
●リプレイ本文
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「不肖、このケイ・ロードライト(ea2499)。必ずや砦防衛を果たしてみせますぞ」
ドーマン砦に馳せ参じた冒険者達の中で、最もこの領地について詳しかったのは彼では無いだろうか。と言っても彼が知っているのは極一部。
「ケイなのじゃ! どうしたのじゃ? こんな所まで」
「‥‥何故師匠がここに」
騎士らしく名乗りを上げた彼は、砦内で山積みの剣を磨いている小ぶりなドワーフの姿を見て、かくんと膝を落とした。
「お知り合いですか?」
同じくナイトのアイシャ・オルテンシア(ec2418)が尋ね、師弟はこっくり頷く。
砦内はほぼ兵士のみしか居ないと聞いていたが、実際は既に避難してきている人もいるようだった。不安げな顔を見せる人々に、ユリア・サフィーナ(ec0298)がそっと膝をついて微笑む。
「私達が来たからにはもう大丈夫です。神の御心を信じ、強く心を持ちましょう」
彼らの心を平穏に近づける事。それこそが白のクレリックの役目である。そして戦場に於いて、クレリックが出来る仕事は数多い。ジェラルディン・ブラウン(eb2321)も白のクレリック。そこにケイとアーシャのナイトが2人も居るとなれば、一般人でなくとも心強い。
「皆さんにもいろいろお願いする事もあると思いますが、宜しくお願い致します」
丁寧にジャパン式のお辞儀をし柔らかな笑顔を皆に披露するのは、セタ(ec4009)。
「領地防衛組から策は聞いてきた。皆で一丸とならねば、難しい戦いになるじゃろうな」
「皆さんの心の支えになれるよう、頑張りますね」
真面目な表情と喋りに似合わぬ子供っぽい顔つきでフランシス・マルデローロ(eb5266)が言うと、その隣で尾上楓(ec1272)が朗らかに笑った。
それは、緊張と不安に覆われた砦に射す一条の光のように思われたと、後に兵士の1人がそう告げる来訪だった。
●
彼らが一丸となってやらねばならない仕事は山積みである。
まず、砦にやって来る避難民の居住場所、物資を確保する事。
「広い場所で1箇所に集める事が出来るような場所は無いかしら?」
隊長に尋ねたのはジェラルディン。警護の関係で1箇所に集めたほうが都合がいいのだが、そのような広い場所を屋根付で用意するのは難しい。ましてや砦内では。
「塔が最後の砦となるが、避難民全員が入る事は難しい」
いざと言うとき抜け道から逃げるならば塔に居たほうが早いが、大人数では時間もかかるだろう。結局、普段兵士達が寝泊りする部屋が最も広いという事で、その周辺を中心に提供する事となった。
避難民の速やかな砦内への誘導、食料、薪の在庫確認と積み増し、寝食の準備を兵士達も含めて皆で分担し、同時に見回り、夜警に冒険者も加わる事、ルー村、ヴェル村に砦内補強や木材加工の為の人材を派遣してもらえるよう要請する事などを隊長に伝える。当初、リード村にも要請をという話があったが、フランシスが領地防衛組より『砦にはリード村全員が避難する』と伝えた為、彼らが避難して来るのを待つことになった。
ドワーフ2村に関してはドミルが請け合う。彼らは自分達の場所を守る事に燃えていて、のんびり避難しているつもりは無いようだった。
「内部の全体構造も把握したいのじゃが」
フランシスに言われ、兵士が砦内を案内する。皆が気にしているのは、やはり井戸のある地下から外へと繋がる抜け道だ。その辺りの土や壁を念入りに調べ、最近ここを使った事は無いという話も聞いて検分する。ケイは別口でドミルに井戸の水脈を見てもらう事にした。敵が井戸を枯らしたり毒を入れたりしないか。砦にとっては生命線ともなる井戸である。近場に水脈が露出する場所があれば危険という考えだが、向きや場所など一昼一夕で分かるものではない。ただ、方角的にはリード村の井戸と同じ水脈だろうという事で、その間の柔らかな地盤を探すことになった。ユリアは銀無垢のスプーンを井戸水に浸して毒の気配が無いか見たが、即座に反応が見えるならば兵士達は即死しているだろう。元より井戸のある地下に出入り出来る人は限られている。常に見張り番を置くくらいなのだから。
領地防衛組もだが、砦防衛組の冒険者達も複数の物資を提供しようと持ってきていた。領主はこれらを一旦預かるものの、後日返却すると言う通知を彼らに行っている。
「エルディンさんが積んできた荷物、又持って帰るの?」
今ここに居ない冒険者から借りた馬を前に、楓が首を傾げた。そこにはどんと保存食が載っていたからである。
ともあれ彼らは精力的に働かなければならなかった。午後には避難民達が到着するが、それまでに下地を作っておかなければならないからである。物資を片付け、砦内外を点検して現在の状況を確認し、避難民を受け取って定位置に案内すると、もう日が暮れてしまっていた。
「邪なる盗賊達が平和を壊す為に攻めてきました。皆さんの平穏な日々を守る為に、兵士達は断固として戦うでしょう」
ジェラルディンが外壁の上に立って避難民に説法する。現状の悪い事は全て盗賊団が原因だと言う事にしてしまい、矛先が兵士や領主に向かないようにする為だ。後は毅然かつ慈愛の笑顔を見せる事で、民の支持を保つ。高台に立って説法したのだから、自信に満ちた態度を取らねば逆に不安がられるだろう。リード村から来たエルフ達は何も言わなかったが、他村から来た人間の中には不安を訴える者も居た。ジェラルディンは知らないが、グリー村の者達は過去に2度も不幸な目に遭っている。怯えきった女子供達から彼女は真摯な表情でその話を聞いた。
「必ずや善処します。いつか貴方達の不安も取り除かれる事でしょう」
言うだけならタダという考えからだが、クレリックの言葉は絶大だ。彼女達は安堵して頷く。
逆茂木を提案したのは楓だった。外門左右、見張り台付近、門前、領外への道の左右に出来る限り設置して行く。皆も手伝って行うが、これは避難民受け入れ作業と同時に行われていた。砦に来た2日目以降も外で作業を続ければ危険度は増すと判断された為、出来る限りの範囲である。砦前の小屋も空にし、初日夜はばたばたしながらも夜警も勤めた。
装備の手入れと弓矢、松明の準備も揃い、砦のあちこちに火攻め対策用の水瓶を備えたのが2日目。何かと木を使う事でエルフが良い顔をしないかもしれないとユリアが説得に当たっていたが、彼らは緊急事態というものが分かっているらしい。2日目の午後には大体の準備は揃った。短い準備期間では出来る事に限界があるが、外から来る敵に対して出来る限りの事はした。
後は‥‥中。
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避難民達は概ね静かに待機していた。不安を口に出せば、それは波紋のように広がる。だからジェラルディンは出来る限り彼らの傍に居て話を聞いてあげたり励ましたりしていた。楓が、『故郷の味おむすび‥‥じゃなくて麦むすび』を笑顔で配布して何とも言えない表情になった人には明るく笑って見せたり、アイシャが可愛く振舞ってみたりして士気を低下させないよう心がける。
「実は私、悩みがあるのですが‥‥」
そんな中、どこか暗い表情でユリアの前に1人の避難民が立った。
「ではお聞き致しましょう。どうぞこちらへ」
度々そうやって1人ずつ話を聞く事もある。ユリアは兵舎を離れて近くの建物へと案内した。
「あの抜け道はどうも怪しい。出口周辺の土も踏み固めた跡があったしの」
「私もそう思います。抜け道の蜘蛛の巣の掛かり具合が‥‥」
その部屋は、冒険者が相談する場所のひとつとしても使っている。ユリアの後に避難民が入ってきたので一瞬彼らは口を閉ざしたが、すぐにセタが立って椅子を引いた。
「どうぞ、エルディンさん」
「どうも遅くなりまして」
始めから避難民の1人と称してやって来たエルディン・アトワイト(ec0290)は、他の冒険者とも接触は避けている。何故なら。
「避難民の中に、何人か動きが活発な者がいます。そのほとんどはここ1年の間に村にやって来て住み着いた者達です」
素早く彼は他の避難民から聞いてきた話を伝えた。彼らは始めから、避難民の中に盗賊団の一味が混ざっているのではないかと考えている。エルディンはそれを探る為に敢えて避難民としてこの砦にやって来たのだ。
「後は動きはありませんが妙に暗い目をした者、比較的新しい民だが人々を纏めようと明るく振舞っている者など怪しいと思われる者を挙げておきます」
「全員が本物の民なら良いのですけど」
ユリアが嘆息し、アイシャが皆の為にあまり美味しくない香草茶を淹れた。
「いや、案じるべきは民だけではないぞ。セタと話し、ひとつの結論が出た所じゃが」
「それは何でしょう?」
尋ねるユリアに、(茶の所為もあって)苦い顔をしながらフランシスは皆の顔を見回す。
「兵の中にも敵がおる。でなければ、使われたはずの無い抜け道を使用した形跡が残っているはずも無いからの。それもつい最近というわけでも無い」
「外に出、中に入った。或いは中に入り外に出た。どちらかは分かりませんが、可能性としては留まっている事を考えたほうが宜しいかと」
「しかも恐らく1人。あの人の良さそうな兵士達の中に、敵が潜んでいるというわけじゃ」
●
それは、アイシャが兵士達と夜警をしている時に起こった。近くから音が聞こえたのである。雪をこするような‥‥。
「弓を」
とっさに兵士に弓を借り、それを音の方へと向けた。正直下手だが当たらなくて構わない。それは暗い森の中に吸い込まれて行き、しばらくの後にうめき声が上がった。
「敵襲!」
叫ぶと同時に手に持っていた松明を掲げながら剣を抜く。松明は夜である他に野犬対策の意味もあった。だが兵士達と砦内へと素早く引き上げる。外で戦う利点は無い。
たちまち森の中から矢が飛んできた。盾は無いが何本かは剣で弾き、後は鎧が弾くのに任せる。アイシャの隣で腕に矢が刺さった兵士が呻いたが、それをとっさに引き摺るようにして夜警組は門の中に逃げ込んだ。
「敵兵を近づけてはならんぞ!」
外壁の内側に潜んでいたフランシスが弓を引き絞る。弓兵が彼の合図で一斉に矢を放った。
「これ‥‥何かの毒じゃないかしら」
呻く兵士を預かったジェラルディンが呟き、解毒剤が無いか他の兵士に尋ねる。不安げに兵士を見るアイシャへ楓が駆け寄った。
「三つ編ペア、奇襲に出ますね」
「みつあ‥‥あれ。いつの間にっ」
綺麗な銀髪をおさげにされてしまったアイシャが楓に引き摺られるようにして去っていく所へ、セタも合流する。ケイは数人の兵士と共に避難民の集まる部屋へ出向き、声を掛けて回った。突然の攻撃に混乱して騒ぎになるのが一番困る。そしてそれに内通者が呼応して蜂起でもされたら。
「どうですか?」
階段を上がってユリアも外壁の上から外を見つめた。広い場所での戦いに彼女は無力だが、楓に預かってもらっていた装備を身につけて後から上ってきたエルディンは戦う気満々のようである。
「気をつけるのじゃ。弓の使い手がおるぞ」
互いに矢が飛ぶ中、味方の弓兵の数人が既に倒れていた。攻める側が圧倒的に不利な中、的確に当てていく様はこちらから魔法を撃てる状況とは言えない。ではとエルディンはグッドラックを弓兵に掛け、ユリアは再び降りて砦内を見回った。
「何をしてるの?」
敵の動きを止める為、真っ先に楓が声を上げた。その脇を風のようにセタがすり抜けていく。素早い動きは彼の持ち味。敵へと小太刀を振るって壁際へと追い詰めていく。それを敵が跳ね返し懐から何かを取り出した所へ、アイシャが剣を突き付けた。
「投降して下さいね。私の剣は我流ですから、普通の騎士様と同じと見ると痛い目に遭いますよ」
「貴方は‥‥副隊長ですね」
井戸のある地下は暗くて寒い。松明を掲げて楓はその顔を照らし出した。
「隊長と仲良くしていたように見えました」
「命乞いはせぬ」
男は井戸に皮袋を入れようとしていた。地下の見張りは全て殺されており、彼の意図は明白である。
「だが‥‥1人でも死なぬ」
「伏せて!」
セタの叫びと共に男は身を乗り出した。アイシャの剣に斬られながらも男は袋を投げ捨てる。身を引くアイシャの頭をかすめるように飛んだ袋を、とっさに楓が受け取った。だが緩んだ口から洩れた粉が辺りに飛散する。とっさにセタは頭につけていたうさバンドでその粉を叩き落した。慌てて他の2人も井戸に木蓋を被せ、防寒服を脱いで粉を叩く。それから男へと振り返るが、既に彼は絶命していた。
ジェラルディンも又、不審な動きをしていた男を追っていた。門番に何かを話しているのを見、門番が動くのを見てそれへと駆け寄る。あまり使いたくは無いがコアギュレイトで門番の動きを止めると、もう1人の門番が槍を構えた。
「意外と敵が多いのね‥‥!」
逃げようとする男をコアギュレイトで止め、彼女はとっさに近くにあった水瓶を向かってくる門番へと転がす。
「ご無事ですかな?!」
そこへケイが飛び込んできた。太刀を構え直して水瓶を避けてバランスを崩した男に向ける。持っていたロープでまず彼を、コアギュレイトで止まっている者達は縄梯子とロープを繋げて縛り上げた。
「慈悲を持って裁くから、他にお仲間が居るなら教えて貰えないかしら」
「知らん! 俺は金を貰っただけだ!」
「この様子ですと、他にも居そうですな。目星を付けていた者全員を探してみましょう」
そうして2人が3人を連れて戻ると、既に2人ほど捕らえたユリアとエルディンがそこに居た。
ユリアは、今まさに火を付けようとしていた避難民を。エルディンはこっそり馬を解き放とうとしていた者を見つけたのだ。
「貴女のような美しい方がこのような罪に手を染めるとは‥‥」
ぺらぺらと説得(?)するエルディンは放っておいて他の者を‥‥と動こうとした時、地下に行っていた3人が戻ってきた。
結局、敵は外から矢を撃つだけで砦内まで攻めて来なかった。
それもそのはず。砦内には10人もの内応者が居たのである。抜け道を通って中に入ってくる者さえおらず、最初から敵は砦内で騒ぎを起こしてから動くつもりのようだった。結果的に外の敵には逃げられたが、敵の策のひとつは失敗に終わった事だろう。10人の内8人は金で買われた者で、副隊長も盗賊だった事に隊長はかなり落ち込んでいた。
その副隊長が撒いた粉は、避難民のエルフとドワーフが調べてくれた。粉末の毒草と鉱物毒で、一旦水に溶ける事でいずれ風に乗って毒を広める事もあるらしい。
その後、楓が箒に乗って周囲を見回った所、リード村が燃えているのを見つけた。
砦を守り人を守り彼らは役目を果たした。
だが、人の心を守っていくのは、これからの話となるだろう。