夢よ 来たれ〜『狂信者』を討伐せよ〜
|
■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:6 G 66 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月04日〜03月11日
リプレイ公開日:2008年04月13日
|
●オープニング
その場所は薄っすらと雪に覆われ、静かに時を刻んでいるようだった。
「‥‥時は過ぎ、されど其れは新たなる時に過ぎぬ‥‥」
このノルマンを騒がせ‥‥国家存続の危機かとも思われた預言の数々。それに対する対策、施策。そして皆は数々の困難を打破し、ひと時の平穏な時間が訪れた。僅か半年ほど前の話だ。その時はここを拠点に多くの議論も交わされ、人々の出入りも激しかったものだが。
今は、ただ静寂だけが降り積もる。
「夢よ、来たれ‥‥。その新たなる時に、今度こそ平和と安寧を」
その場所の名は旧聖堂。時折冒険者がやって来てのんびりとした時間を過ごす以外訪れる者もいない。‥‥この場所は、パリの中にありながら日々の喧騒とは無縁の時を刻む場所となっていた。
「蒔かれた種が芽生えるよう、花を咲かせ新たなる命を寿ぐように」
雪を踏み、旧聖堂の周りをゆっくり歩く。春になれば‥‥この雪の下から芽が出るだろう。冒険者達がそっと蒔いた種は、この国の平和を祈ってのようにも思える。
「‥‥やぁ、初めまして‥‥じゃないかな。ここはとても良い場所になったね」
声を掛けられ、扉の傍で掃除をしていた女性が顔を上げた。
「いつかここが平和の象徴となればいい‥‥。そう思わせる良い風景だ。話は聞いたよ。『彼』を助けに行くんだってね」
微笑み尋ねるがそれは確認に過ぎない。男は建物を見上げ、再度女性へと目を向けた。
「貴方達がそのように動く事、皆感謝していると思うよ。こう見えて‥‥何かと我々も人手が足りないから」
黒い衣装に身を包んだ男は、女性が持っていた箒に手を添える。
「もし良かったら、私も手伝おう。今回の事は‥‥私も他人事じゃないからね」
「遅いぞ、フィルマン」
そんな風に男が個別に動かなくても、事態は既に急変していた。
「何です、そんな格好で」
マントを払いのけて尋ねたのは、彼の同僚達が皆、騎士の略装を身につけていたからだ。執務室内でそのような格好で居る事は珍しい。
「御前に参る。お前も支度しろ」
「急ですね」
予定に無かった事が組み込まれるのは、大抵悪い話があるという事だ。侍従達が鎧や剣を持ってくるのを見ながら、男は留め金に手を掛ける。
「何の話です?」
「ノストラダムスの事だ。現状、緑分隊に一任されてはいるが、どうも又、あれを担ぐ輩が暗躍しているようでな」
部屋の奥で座っている女性は一言も声を発さない。代わりにエルフの男が説明をした。
「あぁ、話は聞いている。館に居る狂信者達に囚われていたが、まだ捕縛作戦は続行中だったな」
「今は古城に移されているらしい。いや、廃城か。敵もかなりの人数。緑分隊1隊だけでは無理な作戦だろう」
「それについては、城のある領地の騎士団も作戦に参加するようだが‥‥いささか規模が、な」
黒髪の人間の男が難しい顔で告げると、エルフの男は黒衣の男‥‥フィルマンに目をやる。
「目的は、ノストラダムスの捕縛でもある。そこから情報を得る事、過去の過ちを問い質す事‥‥。アガリアレプトにも通じる情報が手に入るかもしれんしな。だが今回、捕縛は冒険者達に一任したらしい」
「その上で、人手不足を埋める為、我々に声が掛かったと?」
そこに集っている面々を見ながら、フィルマンは鎧に掛かっている紐を手に取った。
「そうだ。今動けるのは我々しか居ないからな。それでも10人‥‥。後は冒険者ギルドに使いを出す。緑分隊と連携を段取りする時間を取れるかも微妙な線だがな」
「その城の情報‥‥例えば見取り図があれば、それを入手しておく必要があるか。分隊長、それについては?」
皆の注目を浴び、座っていた女性は僅かに眉を上げる。
「あるならば、緑分隊が持っているだろう。我々の今回の任務は、緑分隊の補佐。ノストラダムス捕縛を成功させる為、最善の努力を行う事だ。陽動となるか、或いは一気に攻め込むか。どちらにせよ、ノストラダムス捕縛に向かう冒険者達の動きを阻害する事は許されない。そして、出来れば狂信者集団を壊滅させ、背後関係を洗う」
「欲を掻いては仕損じると思われますが‥‥慎重に事を運んだ結果裏目に出る事もございますな」
「どちらにせよ、これが千載一隅の機会に近い事は変わらぬようだ。これを逃せばもう機会はあるまい」
立ち上がり、女性‥‥橙分隊分隊長は、剣の柄に手をやった。
「我らが王の為、我らが国の為、我らが民の為、失敗は赦されん。皆、良いな。必ずこの任務を全うせよ」
●リプレイ本文
●
決戦前夜。
遠目に見える城を前に、彼らは陣を敷いた。と言っても大所帯。目立つわけには行かないから密集はさせない。
「ホシは多分、2本ある塔の‥こっち側、だね」
各分隊と冒険者達の一部が集まり、最終調整が行われた。ノストラダムス捕縛作戦組が緑分隊の地図を写しバーニングマップをかけた結果、ノストラダムスは塔に居るようだと判明。こちらの襲撃が分かれば移動する可能性もあるが、そこは陽動組の動き方次第だろう。
「つまり‥‥塔から遠い場所で陽動する‥‥そういう事か‥‥」
ウリエル・セグンド(ea1662)が呟き、リュリス・アルフェイン(ea5640)を見やった。
「かち合わないようにしねぇとな。俺達は3陣。地上からの陽動、空からの陽動、そして見つかる事前提の潜入隊だ。どれも捕縛隊が行動しやすいよう動く」
「とりあえず、こっちに注意が向くように派手にやればいいのよね」
レオンスート・ヴィルジナ(ea2206)が大柄な体を窮屈そうにして地図をとんとんと叩く。
「冒険者のウリは機動力と柔軟性なんだから、足並みが乱れないようにだけ気をつけて、後は出来ることをやる‥‥って感じかしら」
「突入、後退、作戦成功時に速やかな行動を行うには、情報伝達が大切です。私がその役目を担いますが、万が一テレパシーが届かず不測の事態が起こった場合は、各隊の判断でお願いします」
潜入組にもテレパシー担当は居る。彼女に軽く頷いて見せて十野間空(eb2456)は皆を見回した。自分に与えられた任務を最大限の力を尽くしてこなす。誰かが失敗すれば崩れるかもしれない。敵の総数は聞いてはいるが、それが全てとは思えないだろうし、デビルが後ろに潜んでいる可能性もある。
「では明朝、一斉に行動を開始する。確かめたい事あれば、それまでに確認してもらいたい。‥‥皆の健闘を祈る」
橙分隊が先にその場を離れ、去って行った。
橙分隊(正確にはその中の1人)の為にファイゼル・ヴァッファー(ea2554)が腕を奮ってみたり、リュリスがあらかじめ燻製肉を買っておいたりして、決戦前夜は密かに豪勢な食事会となった。その中で最終的な調整をして、酒は控えて眠りにつく。
預言騒ぎからどれだけの月日が経ったか‥‥。
ウリエルが寒空の下、毛布に包まり空を見上げてぼんやりしていると、隣に副長が立った。
「‥‥眠れない‥‥?」
尋ねると笑う。気配に気付いたデニム・シュタインバーグ(eb0346)がそっと身を起こして、彼らを見守った。
「長かったね、ここまで」
「ここらで‥‥決着をつける時‥‥だと思う」
「そうだな。彼を救えればと思うけれども」
「当たり前の毎日を守る為、ここで剣を取り血を流す事を誇りに思います」
デニムの真っ直ぐな思いは実に若いナイトらしい。
だがこれが最後と呟くのは、彼らだけでは無いだろう。預言は阻止されたがノルマンにはまだデビルの影が付きまとう。しかし彼を捕らえる事で新たな道が開ければ。それがノルマンの平和に繋がる道であるならば、何よりデビルに利用されたと思われる1人の聖職者を救う為に。
彼らは、戦う。
●
「白の神聖騎士、サクラ・フリューゲル(eb8317)です。宜しくお願い致しますね」
改めてサクラが潜入組の皆にお辞儀をした。
潜入組はリュリスを筆頭にウリエル、サクラ、副長フィルマン、橙分隊員一名が加わって5人。お世辞にも『潜入得意』と言えない者も加わっているが、あくまで見つかる事前提なので問題は無い。
「‥‥薬品配布しすぎだろ‥‥」
皆、自前でポーションやソルフの実を持ってきていたが、出立前に橙分隊がそれらを『一式』皆に配った。その量に呆れつつも仕舞っておき、ロート・クロニクル(ea9519)は橙分隊と地元騎士団の傍に立つ。彼の役目は空からの攻撃隊との連携及び射手封じ。地上からの陽動組の一員でもある。橙分隊や地元騎士団は精霊魔法など使える者が居ないから、彼の魔法は多大な武器だ。彼の護衛役はレオンスートに頼んでいる。魔術師が魔法を最大限に使う為には、自分の身を守ってくれる護衛がどうしても必要だ。
「それにしても‥‥他に方法は無かったのかしらね」
戦うのは嫌いじゃないし、お仕事だから真面目にやるけどと呟いた後で、レオンスートは剣を軽く振って肩をすくめた。
「他、か?」
「強く信じている者ほど、裏切られた時の反動は大きいもの‥‥。時間をかけて内部から切り崩すように出来れば、こんな無駄な犠牲を払わなくても良かったのに‥‥って気はするわね」
「時間はある程度かけただろ。狂信者に働きかけもした。それでも奴らは止まらなかったから‥‥ここが戦場になる」
勿論これが最善であったとは言えない。
「第1の目標がノストラダムスである以上、これ以上遅らせるわけには行かなかったんだろうな」
誰もがノストラダムスに同情的では無いだろう。利用されていたとしても、彼の罪は重い。それは彼をこの城から救った後に始まる。その罪を、彼はどう償うのか。彼を信じて狂信者となった人々を救える道は。
「‥‥そう言えば、それ以降預言は当たってるのかしら?」
「最後の預言の後は聞いてないな‥‥」
近付く城を眺めながら、彼らは明ける闇の中、重苦しく灰色に立ちこめる空の下を進む。
「さぁて‥‥依頼を遂行しに行くとするか」
がしゃりとランスを背負って、ファイゼルは天馬に飛び乗った。その背の武器が、今日はいつもよりも重く感じられる。
「はい! 全力で自分の役割を果たします!」
地上組の布陣は敷かれた。デニムもグリフォンに乗って兜の紐を締め直す。
少年騎士とは違い、ファイゼルにも迷いがある。狂信者討伐。その名の重みは『彼らも利用されているだけ』と感じるからだろうか。2匹のペットが空へと弧を描き始める中、真下では橙分隊がその時を待っていた。空中陽動隊は2名だけだが、本当は2人とも橙分隊と肩を並べて戦いたかったという気持ちがある。しかし傍にいるだけならば誰でも出来るのだ。彼らしか出来ない仕事を果たすべく、2人は城を見つめる。
「‥‥よし、行くぞ!」
眼下の人波が動き始めた。それに添うように彼らも城を目指す。
●
「何だあれ‥‥」
見張りが、空から飛んできたものを見て呆然と口を開けた。
「も‥‥モンスターだ!」
たちまち見張り台から怒声が上がる。それを合図としたかのように、正面の門前に軍勢が押し寄せた。
「城に入れるな! 奴らを追い返せ!」
弓兵が空へ、地上へと矢を放つ。だが空からの襲撃は彼らの思う何倍もの速度で訪れる。たちまち端の弓兵がグリフォンの脚に引っ掛けられた。それは即座に方向を転換し、騎手がランスを構える。風よりも速く突撃され、哀れな犠牲者は槍の餌食となって見張り台を落ちて行った。そのままぐんと上昇したグリフォンと入れ替わるようにして、ペガサスが舞い降りる。その神々しい姿に一瞬動きが止まった弓兵をあしらうように、ペガサスは誰かを乗せたままひらりと城の周りを舞った。
気を取られた者が我に返り、空へと弓を引く。その刹那、稲妻の刃が彼を貫いた。呻き倒れる仲間を前に後退りした者にも、光の凶器は飛んでくる。
「くっ‥‥ウィザードがいるぞ! そいつを撃て!」
誰かが叫び、『あそこにいるぞ!』という叫びが戦場を駆け抜けた。だがその時にはもう、正面の門は破られそうになっている。慌てて地上へ向けて矢を放った者達は、再び上空からの攻撃を受ける事となった。
「やはり彼らには明確な指揮者がいませんね」
混乱する敵を見ながら空が呟く。そして意識を集中し、テレパシーを飛ばした。
『城内からも敵は出て来ていますが、正面に気を取られているようです。隠密部隊、準備はいかがですか?』
『いつでも行けるぜ』
『了解。宜しくお願いします』
通信士は続けて捕縛組へと通話を切り替える。
『隠密陽動部隊、今から突入します。そちらの状況はいかがですか?』
問題ないような発言を受け、空は戦場を見渡した。目立つ上空部隊をロートの魔法がカバーし、ロートの周囲ではレオンスートがへにょりと飛んでくる矢を払っている。地上へ降り注ぐ事も覚悟した矢はさほどでは無く、騎士達の多くが盾でそれを跳ね除けていた。
騎士達に混ざって愛雪狼が指示通りに動いているのを確認し、空は部隊の前進と共に動いた。そこへ降ってきた矢を、橙分隊の1人が弾き飛ばす。
「ありがとうございます」
笑顔を浮かべると、彼は小さく頷いた。
「お前がこの作戦の要の1人でもある。落とすわけには行くまい」
そのまま護衛のように傍に付いてくれる事に感謝しつつ、空は戦況を見つめ続けた。
「よし、突入だ」
リュリスの指示で、潜入組は老朽化して壊れかけている城壁を越え、裏口から城内へと突入した。
見つかる事前提とは言え、それが悟られてはならない。慎重に本物の潜入部隊であるように見せかけて、彼らは隙間に隠れた。
「内部の見取り図は無いのですよね‥‥。階段はどちらにあるでしょうか」
この5人の中で最も見つかりやすいのはサクラである。それでも事前にリュリスから『目立たないようにする簡単なコツ』とやらを学んでいた。一朝一夕で何とかなるものでは無いが、少なくとも『それらしく』見せる事は出来るだろう。誰もが音の出る鎧は避け、身軽な格好で来ていた。武器も鞘があるものは布で巻き、無いものは壁や床に擦らないよう注意する。後ろの者が前の者の衣類などを踏まないよう、裾の長い衣装を着た者は裾を紐で括りつけた。
「外の階段は‥‥あっち‥‥。なら、中は‥‥逆か中央だと‥‥思う」
「Nから遠い所を探すか」
彼らはノストラダムスの事を『N』と呼んでいる。万が一の事を考えてだ。
城は思ったよりも大きく、双子塔まである。ならば階段も何箇所かあるだろう。城の基本的な構造についてフィルマンが述べたが、逆に敵が襲撃しにくいよう、その決まり事を裏切る造りの城もあるらしい。正面に近すぎると逆に早い段階で見つかる上に敵も多かろうと考え、彼らは中央に近い階段を見つけてそこを駆け上がった。
上へ上がるほど、喧騒は遠くなる。彼らは誰にも見つかる事なく、そのまま城の最上階にたどり着いてしまった。
「‥‥とりあえず探索だけするか」
あまりに拍子抜けだったが、最上階を隈なく探索してみる。そこは確かに使っている形跡はあるが、今は誰も居ない。恐らく正面の攻撃を防ぐ為に出て行ってしまったのだろう。
「何だ。ついでにここで幹部でも捕まえて制圧してやろうと思ったのになぁ」
「烏合の衆というわけですな」
橙分隊員の言葉に、フィルマンは軽く笑った。
「そのほうが都合はいい」
「でも誰も居ないと‥‥私達の役目も果たせないですよね‥‥?」
サクラの指摘は最もだ。敵も正面だけでは無く、ノストラダムスの塔を警戒し始めるかもしれない。その前に敵と遭遇しておく必要があった。
「もう1回降りるか」
彼らはいささか手を抜いて階段を下りて行く。そして、窓から塔が一瞬見えるような場所で走ってくる足音を聞いた。そのまま通り過ぎようとする敵の横手で、わざとリュリスは剣を壁に当てる。
「何だ、今の音は!」
重装備をした者達は、振り返ってそこに侵入者が居るのを発見した。彼らは『しまった!』というような顔をしている。
「敵だ! 敵が侵入してきているぞ!」
1人が叫んで走り去ろうとした。残りは迎撃する為に武器を構える。
「ちっ。ばれちゃあしょうがねぇ‥‥。来いよ! ガチで全員ぶっ潰してやるぜ!」
「セーラ様の名において‥‥サクラ、行きます!」
城内の広いと言えない廊下で槍を構えた者達を見て、侵入者達は薄っすらと笑う。刹那、金属がぶつかり合う高い音が辺りに響いた。
●
戦況は常時味方が有利のように思えた。
時にはさして強くないゴーレムまで出てきたが、たちまち騎士達によって倒されて行く。
見張り台は制圧され、城へと入る門も壊された。乱戦は続き、城内から矢が降ってくる事もあったが、それらはロートがストームで一部吹き飛ばした。
「‥‥あまり強くないわね」
横手から飛び掛ってきた敵をかわして一合切り結ぶ。それで敵の実力は判断出来た。弱いのに無理に重装備をしている者も居て、そういう者は足を出して転ばせればそれで終わる。『あまり強くない』とレオンスートは述べたが、それは彼らに優しい言葉に過ぎない。
「弱いな」
戦況を見るのは空だけでは無く、後衛の役目でもある。ロートは上空から城内の敵へ突撃している陽動組をちらと見、ほとんど総崩れになっている前方の敵を見た。
「後は、不利を知った奴らが『N』を人質に取ろうと考えるより先に‥‥だよな」
ロートの視線は空へと移る。その空は先ほどから上空を見上げていた。彼らの最重要任務。その成功を示す合図を待っている。ロートとレオンスートも見上げ、その視界をすいと鷹が旋回した。
「‥‥来たわね」
レオンスートの呟きと同時に空はテレパシーを飛ばした。
『繋がった! ‥‥こちら、目標確保。あたい達は、今から脱出に移ります!』
その返事に彼は笑みを浮かべる。
ノストラダムスを確保すれば、後は一気に勢いに乗るだけだ。捕縛組が脱出に成功した旨が届くと騎士達は城内に突入し、夕方までに制圧された。
敵は弱かったが実際は無傷というわけには行かなかった。城内から物を落としてきたり追い詰められた鼠のように飛び掛ってくる者も居た他、終盤にはウィザードも出てきて魔法を撃ちまくっていた。その中で最も危険だったのは空陽動組の2人だっただろう。ボロボロになっていたが、それでも彼らは橙分隊の前に笑顔で現れた。
「皆、力を尽くして戦ってくれた事、感謝する。‥‥特に愛獣と共に戦った2人は、彼らを褒めて休ませてあげて欲しい」
当然ペットもボロボロになっている。分隊長の言葉にデニムは感激して礼を取り、ファイゼルは張り切って頷いた。
「それから貴女も」
潜入組は敵と遭遇した後はひたすらがむしゃらに働いていた。敵をばったばったと薙ぎ倒し、逃げてくる敵まで捕まえて倒しまくった。殺してはいないが、敵が『悪魔を見た』と震え上がるほどの働きだった‥‥らしい。
「城内は大変だったでしょう。よく休んで疲れを落として下さい」
「は、はい‥‥」
何故かサクラの手を取って分隊長はにっこり笑った。『あ〜、いつもの癖が出た‥‥』と分隊員達が首を振る後方で、ファイゼルは『あぁぁぁ』と叫んでいる。
ともあれ戦いは終わった。ノストラダムスは速やかに護送され、騎士団は膨大な数の捕縛者と少数の戦死者の処理と城内整理に追われている。冒険者達もそれを一部手伝い、キリの良い所で切り上げてパリへと戻って行った。
後日、旧聖堂を1人の男が訪ねた。
それは、彼の願いと夢を果たす、最初の1歩となる出来事となるのだろう。恐らくは。