美食家と海賊〜紫貝の宴〜

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 40 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月26日〜05月01日

リプレイ公開日:2008年05月10日

●オープニング


 とある美食家の商人から、ギルドに依頼が届いた。その男は太りすぎて屋敷の外へ出るのも一苦労という事で、使いの者が代わりに依頼を持って来たのだが‥‥。
「ジャイアントムール‥‥ですか」
 しばらく平和を満喫していた海に、最近怪しい気配が漂っている。そこへこの依頼だ。俄かに慌しくなったこのドレスタットで、このような個人の自己満足だけを満たす依頼が果たして受け入れられるかどうか‥‥。
「ジャイアントムールには様々な亜種もございますが、ご主人様が特にとご希望されているのは、『紫色の巨大貝』。この色の貝の肉が一番美味だという事で、又‥‥貝殻は染料や装飾品として使えます。美しい色ほど価値が高いので、出来うるならばより美しい貝を、と」
「しかしこの季節‥‥海底に潜るには、少々早すぎるかと思われますが」
「ジャイアントムールは、浅い浜にもおります。現に‥‥」
 言いかけて、使いの者は一瞬口を閉ざす。それをギルド員が促したので、彼は半歩近付いて声を潜めた。
「海賊共がジャイアントムールの棲息地を知っており、その近くに拠点を築いたと」
「海賊が?!」
「お静かに。‥‥その場所は、沖にある島だという事‥‥。ご主人様は海を渡る商人ですから‥‥いえ、勿論ご本人は海を渡りはしませんけれども、海を巡る情報はそれなりにお持ちです。昨今海賊共が複数海を荒らしまわっており、それについてはご主人様のみならず、他の商人達も頭を痛めている事でしょう。ですから、その島に巣食う海賊共を倒し、かつジャイアントムールを持って帰る‥‥。そこまで出来れば、言う事はございませんでしょう」
 船は用意する、と使いの者は告げる。小船だが海賊共の島には着けるだろうと。
「恐らくジャイアントムールは、その島の近くに居るでしょう。浅瀬‥‥或いは砂浜に居る可能性もあります。凶暴な貝ですので、くれぐれもお気をつけを。又、それに気を取られて‥‥海賊共に首を掻かれぬよう」
 不敵に笑い、彼は『準備金』をギルド員に手渡した。
 食糧、ワイン、ロープ、網、毛布は船に積んである。それに加えて10Gを『準備金』として提供してくれると言うのだ。至れり尽くせりであるが‥‥。
「勿論、『紫貝』と『海賊退治』。どちらも完遂出来れば、きちんと報酬はお支払い致しましょう。しかしどちらかだけという事でしたら、残念ながら報酬は減額させて頂きますので」
「海賊が隠してあるであろう財宝などは‥‥不問となりますが」
「それは関知致しませんよ。‥‥財宝と呼べる物があれば宜しいですな」
 笑って彼は丁寧にお辞儀した。
「‥‥1つお尋ねしたい事が」
 そのまま去ろうとした使いの者を呼び止め、ギルド員は始めからずっと気になっていた事を尋ねる。
「探し当てたジャイアントムールが『紫色』でない場合‥‥その場合は、報酬はどうなります?」
「ジャイアントムールが美味である事に変わりはありませんが‥‥少々価値は落ちる事になるでしょう。多少の減額は覚悟していただかねば」
 それは確率の問題ではないかとギルド員は思ったが、それ以上何も言わずにただ依頼人を見送った。


 借りる船には1人、船員がついてくる。
 その男が島の場所を知っており、又、船から冒険者が下りた時に船に待機して見張る事になるだろう。
 島の大きさは、ぐるりと外周を回って3時間程度と思われる。西には切り立った崖。東には砂浜と浅瀬。北には海賊共の船が泊まり、南は岩が剥き出しになった海岸線が続いている。島の中心部は森のようだが高い山などは無い。
 海賊の規模はおよそ20人程度と思われるが不明。

 ジャイアントムールは凶暴な巨大貝である。水底に棲むが深い場所にも浅い場所にも居る。

●今回の参加者

 ea0045 秦 劉雪(34歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea7929 ルイーゼ・コゥ(37歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 eb7758 リン・シュトラウス(31歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec1529 テレーズ・レオミュール(30歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

水之江 政清(eb9679

●リプレイ本文


 静かな風が吹くだけの、穏やかな日だった。海の上で小船が一艘ゆらりと進んでいる。陽は既に傾き、船上の者達の頬を橙に染めていた。
「しーおーひーがり潮干狩り〜♪」
 そんな中、少々場違いな明るい歌声が流れている。だが楽しげなのは歌声だけで、歌い主ルイーゼ・コゥ(ea7929)の表情はどこか苦笑混じりだった。
「この人数で海賊相手に戦うのはちょっと大変だろうな」
 秦劉雪(ea0045)の呟きにルイーゼは軽く頷いてみせる。
「それだけやありまへんえ。下手うつとこっちが狩られる立場になる寸法の貝やし。『紫以外は価値が下がるが無いよりマシ』て‥‥1個以上採って帰るんは、至難っちゅう事やろ? おっかないわぁ‥‥」
「そんなに大変な貝なのか? ジャイアントムール貝というのは」
 海に入って網を仕掛けて追いやればいいだろうかと考えていた劉雪は、腕を組んで首を捻った。
「そうですね‥‥。マジカルエブタイドを使って水位を下げられれば或いはと思いましたけど、使える人は居ないようですね」
 テレーズ・レオミュール(ec1529)は呟いて、舳先近くで目をきらきらさせている娘へ目をやる。
「‥‥どうしました?」
「海賊島‥‥! 海賊の宝。紫貝。何てロマンチックな響きなんでしょう‥‥!」
 胸の前で両手を組んで、彼女は真っ直ぐに遠くを見つめていた。
「‥‥そうですね」
「今ここで、詩を書きたい。この心踊る冒険を、この手で今この想いのままにっ‥‥ねぇ更紗。どう‥‥」
 海と浪漫を愛する詩人、リン・シュトラウス(eb7758)がくるりと振り返ると、船底で寝そべっていた愛犬蘭々が「わん」と吠えた。
「‥‥そうでした、更紗は別行動中でした‥‥」
 軽く落ち込むリンから目を逸らして、テレーズはふと犬を見て気付く。
「馬は近くの村に預けてきて良かったんですの?」
「そうは言っても犬はともかく馬はこの船に乗らないからな」
「盗られなければ良いんですけれど‥‥。戦闘馬もいらっしゃいましたし」
 ペットもだが、ペットに載せていた荷物も心配だろう。
「あ‥‥。見えてきたようやわ。あれが件の海賊島‥‥やね」
 目の良いルイーゼが真っ先に見つけた島。夕日を浴びて光放つ水面の中で、それは沈黙を保ってそこにあった。


 最近急速に広まりつつあるレミエラ。まだ不確定要素も多いがきちんと使えれば有効な手立てとなる。だがその為のデメリットも少なくはなく、彼らはまず船で出発する前に幾つか打ち合わせをした。
 レミエラが装着されたアイテムは使用する際に光り輝くことが知られているが、実際はアイテム自身が輝くわけでは無い。装備者の胸の前辺りに光の点が浮かび上がるのだ。その点は紋様になっているが浮かび上がるのは5つの点。その内、使用しているレミエラの数の分、光点は輝く。その光の強さは隠密行動が出来る程度の弱さでは無い。暗闇でもその光を頼りに装備者が周囲を薄っすらと確認出来る程度であるから、町中ならばともかく野外では気をつける必要があるだろう。
 と言ってもレミエラの力を使用しなければ問題ないのだが。
「‥‥1人で大丈夫か?」
 そして実際の作戦。まずは海賊を何とかしなくては貝探しも出来ないだろうという事で、彼らが相談した作戦は。
「はい。更紗も居ますし」
 陽を背に船は島に近付き、途中で彼らは借りた小舟を降ろした。そこにリンが1人で乗り込む。彼女の言う『更紗』はララディだ。冒険好きの飼い主にはひたすら忠実な精霊は、彼らの船とは逆側の沖で待機している。テレパシーも無いから更紗と直接相談するわけには行かないが、どう動くか、それはどの時間かは告げてあった。
 つまり作戦はこうだ。
 まずララディが東から北の沖合い上空に姿を現す。リンは西から北へと回り、ララディの下で楽器を奏でて歌いセイレーンのように見せかける。そうして海賊を沖に誘き出すのだ。
「‥‥うちは船乗りやから、この作戦が成功するかはかなりの賭けやと思うてるんやけど」
 成功すれば綺麗に決まるだろうとは思う。だが誘き出せるかが最大の難関。
「ララディが怖いから出てこない‥‥とかですか?」
「ララディは5mくらいやろ? 大きさ。近くで見ればかなりでかいけど、遠くで見ると随分小さく見えるし‥‥」
「小さく見えるなら、逆に倒せると思って誘き出させれる可能性は高いですわよね」
「後、セイレーンは船乗りにとって鬼門やわ。セイレーンの歌声を聴くと船が難破しよる言うて、皆、船を出したがらんのよ」
 実際のセイレーンならば魅惑の歌に操られて船を出す事もあるだろう。だがリンは人だ。
「‥‥ということは、だ。歌声のする方向からは敵は逃げるという事だな」
「霧がかかってたら尚更やし」
「じゃあ、歌声のする方向から攻撃魔法が飛んだらどうなる」
「ふつーの船乗りはんやったら一目散やわ。せやけど‥‥海賊はんやったらどないやろか」
「時間差が良いと思いますわ」
 テレーズが少し考えて告げる。
「まずララディへ敵が向かうよう仕向ける。ララディが今にも攻撃しそうに見えなければ黙視される可能性もありますから、そこはきちんと。それから敵を挟撃するならば、歌が聞こえて混乱した所を私達が逆側から攻撃する。早すぎても遅すぎても立て直される可能性は高いですから、タイミングが大事ですわね」
「挟撃時の作戦はお話したとおりですけど‥‥。もし、海賊が沖に出なかったらどうしましょう‥‥」
「そこは悩まなくてもいいと思いますわ」
 物事を前向きに考えるテレーズは、あっさりとそう言った。
「船を一隻でも燃やせば放っておけないから出てくるでしょう?」


 実際、海は穏やかで霧や霞も無く、晴れ渡って実に航海日和であった。
 そんな中、小舟はゆっくり島の西を動いていく‥‥波が無い割にはかなり揺れながら。
「あ、そっちちゃうから! こっち漕いで」
「は、はいっ」
 小舟を操縦する知識も技術もないリンが、1人で沖まで舟を動かすことが出来るわけが無かった。ルイーゼの指導の下、彼女は一生懸命に舟を動かす。シフールであるルイーゼが実際に舟を手動で動かす事は出来ないので、リンはその重労働を何とかこなした。
 沖に出て定位置につけば、波もほとんど無い海上でうっかり転覆する危険も高くは無いだろう。変に動くとバランスを崩すので、彼女はじっと待機する。ルイーゼは冬でないことを感謝しながら上空を高く飛んで、皆の待つ船へと戻っていった。
「陽が‥‥沈む‥‥」
 完全な暗闇になれば、恐らく敵は船では出てこない。だから決行するは今。

「おい! あれは何だ!」
 ララディが東から北へ向けて動いているのを、島のほうで見張りでもしていたのだろう。船着場のほうで灯りが灯るのが見えた。
「こっちへ近付いてくるぞ!」
「弓で追い払え!」
 船上からは見えないが、船着場の灯りを頼りに矢が飛んで行くのが見える。赤紫色の大蛇はゆるりと向きを変え、そのまま北へと向かって行く。
「‥‥船着場に居るのはざっと15人ってとこやね。後は中‥‥」
 ブレスセンサーで敵の数を把握し、皆は船着場を見つめた。敵が出てくる気配は無いし、船着場に大勢居る状態では船に火をつけることも出来ない。そもそも小舟ならばともかく皆が乗っている船ではこの船着場付近以外に停泊できる場所もないし、挟撃するならば船のほうがやりやすい。土地勘の無い島の中を動くよりも海のほうが小回りが利く。だから彼らはまだ船に乗っていたし、敵が誘き出されるのを待っていた。
「‥‥出てこないな」
 ララディは戦闘を好まない精霊だ。矢の範囲内に入るような愚かな真似はしないし、リンもそのような指示は出していない。だから敵を誘き出す事が出来なければ‥‥。
「こっちが行くしかないか」
「矢の餌食になる事は?」
「ロングボウでぎりぎりという線だな」
 そう言って劉雪がルイーゼを見たのは、彼女がウインドレスの魔法を持っているからだ。だが視線を浴びたルイーゼは慌てて首を振った。
「あきまへんえ。ウインドレスは帆船の動きは止められても、矢は止められまへんし」
「私のアイスブリザードも、矢の範囲外からは厳しいですわね」
 敵の攻撃範囲外から敵を誘き出す作戦。徐々に暗くなっていく辺りを見ながら、彼らは船着場を再度見つめる。
「‥‥誘き出せば、良いのですよね」

 稲妻が突如船を襲った。
 モンスターは離れていったはずなのに攻撃を受けて、俄かに船着場は騒がしくなる。海賊たるもの、船は命にも等しい。全て沈められてしまっては彼らの沽券にも関わるのだ。
 すぐさま彼らは攻撃を受けなかった船2隻に乗り込んだ。そのまま、まだ遠くに見えるモンスター目掛けて進んで行く。その数は15人と変わらず、まだ島内に誰かが残っている事を予感させる。
 そんな彼らの耳に、不意に歌声が聞こえてきた。まさかこんな場所でと耳を疑った海賊達だが、それはモンスターに近付くほどに美しくよりはっきりと響き渡る。
「‥‥セイレーンだ!」
 叫びと共に船を旋回させた彼らだったが、そこに突如後方から稲妻が飛んできた。それに続いて春なのに雪嵐が彼らを襲う。だがもうその時には、敵船の姿ははっきりと彼らにも見えていた。
「敵だ!」
 だがその叫びをかき消すように、彼らの近くから忍び寄るような女の声が聞こえる。
「なぁ、ジャイアントムールってどないして取るん?」
「だ、誰だっ」
 混乱する彼らを嘲笑うかのように、船内のあちらこちらでその声は聞こえては消え、消えてはまた聞こえた。
「奴らだ! 船を狙え!」
 ようやく誰かが叫び、彼らは弓を構えて矢を番える。だが船はすいと遠ざかって行き、それを追おうとした彼らは帆に穴が開いている事に気付いた。次いで、舵を取っていた者が何かに貫かれたような傷みがと訴える。
 海賊達の混乱は、まだ収束しそうにはなかった。

「ご無事ですか?」
「あんたも大丈夫か?」
 小舟で近付いたリンが船に引き上げられ、冒険者達は合流を果たした。ララディは既に役目を終えて上空へと退避している。リンの唱えたムーンアローが2隻の船の航行を難しくし、ルイーゼとテレーズの魔法が敵の混乱を深めた。
「では‥‥近い順に、3人の海賊をっ‥‥!」
 リンが竪琴に宿るレミエラを発動させる。彼女の前で光が点り、光輝く矢は真っ直ぐに敵の船へと吸い込まれるかと思われたが‥‥。
「きゃあっ」
 どすどすどすとそれは彼女の体に刺さって消えた。その痛みに座り込んだリンに慌ててルイーゼがポーションを渡す。
「奴らが混乱から回復する前に、倒しきってしまおう!」
 劉雪が叫ぶが、接近戦では無い為に自分に何も出来ない事が口惜しい。自分の持つ技では距離が遠すぎるのだ。
 闇が降りつつある世界の中で、海賊船に光が飛んでいく。それは様々な色と形を伴って海賊達と船に襲い掛かり、やがてそれもゆっくりと収束していった。


 海賊船と海賊を捕縛した上で、皆は即座に島へと向かう。海賊が隙をついて逃げないよう武器も全て取り上げ括りつけて、冒険者達は急いで上陸した。
 海賊達に聞いて、島にはまだ幹部クラスが残っている事は分かっている。ブレスセンサーで位置を確認し、彼らは一気にその小屋まで攻め上った。
「こっちに来い!」
 扉を開けざま劉雪が叫ぶと、敵は既に察知して武装していた。それへとすかさずトリッピングを仕掛け、敵の注意をひきつけたところで彼の近くに居た敵の1人が氷の塊と化した。何かを喚きながら向かってくる敵にリンがムーンアローを飛ばす。指定は『盗賊のボス』。それは真っ直ぐに奥の扉の向こうへと吸い込まれていった。
「敵の頭はこの奥です!」
 皆に注意を促した後、向かってきた敵にスリープを掛ける。
 残った敵に劉雪がナックルを嵌めた拳で鋭い当たりを食らわせ、皆は素早く奥の扉を開いた。
 部屋で逃げる準備をしていた海賊の頭は、劉雪の放ったレミエラの力によるソニックブームで不意を付かれ、そのまま転倒させられて軽く殴られただけで何も反逆できずに終わった。

 幹部連中も縛り上げて、皆はジャイアントムールの場所を尋ねる。勿論すぐには答えてくれないから、アイスコフィンで固まっている仲間を示して脅す。リンは、
「教えてもらえれば罪が軽くなるよう口添えしますから‥‥」
 と真剣な表情で告げたが、常時嘘を吐いて過ごすような海賊達にはそのような言葉は通じなかったのである。
 その後、リンのイリュージョンで宝の幻影を海賊に見せて、隠し場所の位置を大体把握した皆は、すぐさまそこに向かった。宝を置いてある小屋には平凡な武器も多かったが商船を狙って戦利品としたのだろう、それなりの価値のアイテムや商品なども置いてあった。持ち主が分かれば返してもいいし、武器などは売り捌けば彼らの足しになるだろう。
 ジャイアントムールの居る場所も教えてもらったので、皆は一旦船へと戻った。
 そして、そこで愕然とする事になる。

「船が‥‥」
 皆が乗ってきた船が居なくなっていた。だが居ないのは船だけではない。海上で捕まえたはずの海賊達も姿を消していたのだ。彼らは海賊だから、捕らえて縛り上げただけではそれを抜ける方法も知っているのだろう。見張りも居なかったのだから逃げ放題。傷は負っていたが動けないほどでは無いので、彼らは使えない自分達の船ではなく、冒険者達が乗ってきた船を使って逃げてしまったのだ。
 船着場の隅で息も絶え絶えになっていた船員を助け起こし、皆は事情を聞いた。とにかくジャイアントムールどころでは無くなったが、夜の海で敵を追える自信は無い。それでも皆は傷の少ない海賊船を使い戦利品と海賊の幹部を乗せ、すぐさま出航した。

 結局、逃げた海賊達はすぐには見つからなかった。依頼主の情報網を使って海賊達がイギリスにまで逃げていた事を突き止め(船には印も入っていたから捕まって当然だったかもしれない)たらしいが、それも後日の話だ。
 海賊の幹部達は引き渡され、ジャイアントムールの棲息地だけが伝えられた。事実上、その島の海賊達は壊滅したことになるから、依頼主達はその島の調査をし放題だ。海賊の話では紫貝も居たそうだから、依頼主が手勢を集めれば何とか手にする事が出来るかもしれない。
「紫貝、食べたかったです‥‥」
 海を見つめてリンが呟いた。
 船員には感謝されたし依頼主の使いの者も特別何を言うでは無かったが、それでも完遂出来なかった悔しさは残る。
「そやね。今度‥‥機会があったら食べような?」
「砂浜近くの浅瀬にも居ることは分かったし、今度は自分達で取りに行けるかもしれないしな」
「何事も、成功の裏には失敗がつき物ですわよ。くよくよしないで次に行きましょう」
 それでも皆は、ドレスタットの港で静かに落ちる夕日を眺めるのだった。