【ウォールブレイク】師匠と壁と宝石と

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月15日〜06月20日

リプレイ公開日:2008年06月24日

●オープニング

「壁を壊したいのじゃ」
 唐突に、標準よりも小さめのドワーフが、作業台に向かってそう言った。
「わしも壊しに行きたいのじゃ〜!」
 叫んでから、作業台に並ぶ指輪を見つめる。
「あぁ、あの壁ですよね」
 香草茶を淹れていた少年が、器をはいと手渡して小首を傾げた。
「僕と同じ見習いの人が、この前の休みに冒険者達に混ざってこっそり掘ったみたいです」
「何じゃと!」
「スコップ10本折れたって怒ってましたけど‥‥何か取れたのかなぁ‥‥」
「ふむ」
 手を止めて、ドワーフは少年へと向き直る。
「その話、もっと詳しく聞きたいのじゃ」
「‥‥え、と‥‥その、彼は怒ってばっかりでよく‥‥」
「うーむ‥‥」
 ドワーフの名はドミル。宝石職人である。6月と言えばジューンブライド。ジューンブライドと言えば指輪。というわけで、毎年彼はこの季節に向けて大忙しだったのである。去年はやむを得ない事情でパリでこの期間を過ごしたドミルだったが、今年は去年と同じ工房を使わせてもらってやはりパリに来て指輪を作り続けていた。と言うのも、彼の繊細なデザインは去年から評判も良く、今年もパリから注文が殺到したからである。彼の作る指輪は、大半が貴族からのものだ。結婚もしないのに欲しがる娘に買い与える親などからの注文もあったが、どのような内容にせよ多忙である事は間違いない。
 だが、それは彼の表の顔である。
 彼は自分の事を『穴掘り職人』と名乗る。彼としては本当はこれを本職としたいくらいなのだ。
 と言うわけで、巷で噂になっている『壁』に彼も興味津々なのであった。
「弟子が『壁から宝石が出るそうですぞ』と言うから、気になっておったのじゃ‥‥。酒場でもドワーフがその話で盛り上がっていたんじゃが‥‥」
「宝石が出たら、お仕事に使えますもんね」
 少年は頷いて見せたが、ドミルの真の目的はそれでは無く。
「壁を掘り続けたら、向こうまで届くんじゃろうか」
「‥‥? ずーっと掘ったら向こう側まで穴が開くと思いますけど」
「その壁の謎を解きたいんじゃ」
「‥‥急に出て来た理由、ですか?」
「この目で見てみたいんじゃ。そこに壁がある理由。‥‥あるはずなんじゃ」
「先生は、『神の与え給うた試練かもしれないね』とおっしゃってました。バフールさん‥‥あ、さっきの怒ってた見習の人の名前ですけど、その人に」
「スコップが折れたのは試練じゃと?」
「僕達は神聖騎士ですから、たくさん試練があるんです」
「ふむ」
 組んでいた腕を解いて、ドミルは再び作業に戻る。
「この仕事が片付いたら、後少しだけなのじゃ。悪いんじゃが、冒険者ギルドに依頼を出してきて欲しいのじゃ」
「分かりました。指輪製作のお手伝いですか?」
「違うのじゃ」
 指輪に花の模様を彫り込みながら、ドミルは告げた。
「一緒に壁を掘りに行く人を募集して欲しいのじゃ。‥‥わしらが取った宝石を狙う盗賊がおるかもしれんから、護衛代わりなのじゃ。勿論一緒に掘るのじゃ」
「分かりました。‥‥僕もお休みが取れたら、一緒に行きますね」
「おぉ、それは楽しみなのじゃ!」
「はい。楽しみです。お師匠さんと外にお出かけするのって初めてですよね? 何だかピクニックみたいで楽しそうです」
「お弁当持っていくのじゃ!」
「はい!」
 小さな工房内で、2人は和やかに盛り上がった。まるで、子供たちの宝探しに出かけるかのように。

 だがそこに何があるのか。
 この時点での2人は、まだ何も知らない。

●今回の参加者

 ea1225 リーディア・カンツォーネ(26歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3502 ユリゼ・ファルアート(30歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb9212 蓬仙 霞(27歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb9243 ライラ・マグニフィセント(27歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb9482 アガルス・バロール(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

呂 明信(ec2902

●リプレイ本文


 そこに、壁はあった。
「さぁ、壁と戦いましょう!」
 アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)がスコップをリーディア・カンツォーネ(ea1225)とレティシア・シャンテヒルト(ea6215)に1本ずつ分け、自分もぐっと構える。
「好奇心疼くままに未知なる壁に挑む! あぁっ、冒険っぽいです。とっても冒険者っぽいですねっ」
 同じように非力な体で借りたそれを握り締め、リーディアは壁を見つめた。この壁に纏わる謎も気になる所だが、まずは掘るべし! である。
「‥‥まぁ、そこそこに手伝ってみようかな」
 肩を竦めて蓬仙霞(eb9212)が呟き、やる気なさげに愛馬からマトックを下ろした。
「たくさんあるわね」
 それを覗き込んだレティシアに、霞は慌てて首を振る。
「べ、別に実は本気で掘ろうと思ったわけじゃないんだ! エチゴヤで勧められたからつい10本買ってしまっただけなんだ!」
「そんな大声で弁解しなくても」
「あたしも付き合い程度にやるさね」
 壁の近くで捨てられている石塊の中でも小さな物を拾いつつ、ライラ・マグニフィセント(eb9243)は皆へ振り返った。
「レティシアさん、ミルクもらえる〜?」
 ユリゼ・ファルアート(ea3502)は、出発前に市場で買い込んだ盥と果物を馬から下ろしている。同じようにミルクを買い込んでいたレティシアが頷いた所で、突然皆の後ろから巨声が轟いた。
「俺はキャメロットが騎士、アガルス・バロール(eb9482)! 宜しく頼みまする!」
 空気を震わすような声に、壁際で作業していた他の冒険者達が振り返る。それへアガルスは礼をし、壁を見上げた。
「天に届くような美声なのじゃ! 気合も入るのじゃ!」
「僕もがんばりますね。宜しくお願いします」
 ドミルとジュールもスコップを持ち、皆を見回してドミルはひとつ頷く。
「穴掘り開始なのじゃ〜!」
「お〜!」
 振り上げられた採掘道具が、日の光を反射して眩しく輝いた。


「えぇ〜い!」
 ガツッ。リーディアが渾身の力を籠めて振り下ろしたスコップは、僅かに壁を抉った。
「え〜〜い〜〜!」
 ガコッ。続く攻撃は、壁にほんのりダメージを与える。
「ふぅ‥‥。つ、疲れますね‥‥」
 汗を拭い、彼女は皆の様子を眺めた。
「充分な水分補給と適度な休憩を取って挑まないと!」
 ぐっと拳を握り、依頼人2人と連れてきたペット達の様子を窺う。
「‥‥す、凄いのです‥‥」
 穴掘り職人と自称するだけあって、ドミルはガツガツつるはしで削っている。そこから少し離れた所でアガルスが。
「ぬああああああああああ!!」
 負けじとスコップを動かしていた。近くで掘っている理由はひとつ。ドミルが『穴掘り職人』だと聞いたアガルスは、
「ドミル殿は穴掘り職人。つまり掘るのは専門というわけか! では、この壁にて勝負をしてみませぬか?」
「おぉ! それは良い考えなのじゃ!」
「この通りの巨漢ゆえ、体力には自信がありまする! 負けませぬぞ!」
「わしも負けんのじゃ!」
 と勝負を挑んだわけなのである。専門の技に自分の力が及ぶのか挑んでみたいアガルスと、こと壁掘りに関しては何でも楽しいドミルは、早速初っ端から全開だ。
「‥‥ジュールさんは‥‥」
 壁と戦い過ぎて水分不足及び空気不足で倒れないか注意しておこうと思いつつ、リーディアはもう1人の依頼人へ目を遣る。
「それにしても、ジュール君と会うのは久しぶりね。姉さん、旅に出てるから私は代理。でもちょっと過保護な視線が無い分、無茶も出来るでしょ?」
 クーリングで凍らせたミルクを盥に入れて、ユリゼはぽんぽんとジュールの頭を叩いていた。
「もう1人の過保護もいるのだがな‥‥」
 その近くで石を組んで土で固め、市場で買い込んだ食材を出していたライラが苦笑する。
「あぁ、今から穴掘りに挑むなら、スマッシュやバーストアタックのコツを教えておこうさね」
「僕も使えるようになりますか?」
「練習すれば使えるとも」
「ライラさん。食材も切ったら凍らせておく?」
「頼むさね」
 ジュールにコツを教え始めたライラを見ながら、ユリゼはペット用餌にもクーリングをかけ始めた。
「‥‥食事が豪華になりそうなのです‥‥!」
 食材を見つめてリーディアは晩御飯を楽しみに思いつつ、上空から舞い降りたペガサスに気付く。
「アーシャ、どうだったの?」
 降り立った人物にレティシアが声を掛けた。
「あの壁の向こうに見たことの無い何かがあると思ったんですけど〜‥‥無かったです」
「‥‥無かった?」
「上っても上っても壁があって〜‥‥途中でそれ以上上れなくなったんですよ」
「何か障害物でもあったの?」
「見た感じ無かったんですけど、壁がぷっつり切れていて、でもその向こう側には行けなくて‥‥。見えない障害物?」
 ともあれ、この時間のペット当番にペガサスを預け、アーシャもスコップで壁を掘り始める。
「空には何も無かったですか‥‥。次元の歪みで繋がってるとか、たくさん物が取れるとか‥‥怪物が埋まってても可笑しく無い位、謎いっぱいですのに」
「リーディア休憩か? 何だ、全然掘れてないじゃないか」
 考え込んだリーディアの背後から霞が声を掛けた。
「スマッシュやバースト教えようか?」
 ぶんと勢い良くマトックを振った霞に、リーディアは慌てて首を振る。
「私は非力ですから、教えて頂けるのは嬉しいのですけれど、その、がーんと手に衝撃がですね、どごーんと来そうな感じが」
 首を傾げる霞の前で、リーディアは振りかぶってスコップを振り下ろした。
 ばきっ。
「あぁ〜‥‥折れました‥‥」
 勢い余って倒れそうになったリーディアを支えて、霞は笑う。
「先は長いんだし、のんびり頑張るといいよ」
「はい、そうします」


「料理が‥‥とっても豪華っ。皆さん凄いです〜っ」
「むふふ〜。結婚したら、アルノーさんはこれを毎日食べられるのですね〜」
 リーディアとアーシャが感嘆の声を上げた。
「アーシャ殿、恥ずかしいさね」
「このイギリス風の料理! まこと懐かしい!」
「ふ〜ふ〜‥‥冷めたかな‥‥。パークスさんも飲む?」
「レティシアさん、お世話していただいてすみません〜」
「パリに来て少し経つけど、こっちは本当に新鮮だなぁ‥‥。料理の味付けが全然違う」
「じゃあこういうのも無かったんじゃない? ライラさんに作ってもらったの。凍らせた蜂蜜入りミルク。果物もクーリングで作った氷で冷やしておいたから、食べ頃よ」
「美味しそうね」
「本当、夏に便利仕様よね、私」
 初日晩の料理は、ライラ特製ノルマン風とイギリス風煮込み料理に、石を組んで作ったかまどで焼いた魚である。それにユリゼ特製クーリングデザートがついて、旅に出ているとは思えない豪勢な晩御飯となった。
 食事の後は見張りを立てて交代に寝るわけだが、ドミルが持って来た酒を振舞い始めたので、夜通し掘るつもりだったアガルスはそれに付き合う事となる。レティシアが傍で皆が連れてきた猫相手に何か歌っていたが、猫達は思い思いにごろごろしていた。


 翌日も天気良好。
「それにしたって大きいわね、これ」
 壁を見上げてユリゼは呟いた。
「土砂も酷いし‥‥このままだと、足場が悪いわよね」
 クリエイトウォーターで水を作り、それをウォーターコントロールで動かす。極めて小さな範囲ではあるが、そうやって土砂を浚い、部分的に水を残す。残した部分は泥濘となって逆に作業がしづらくなったが、これは外敵対策でもある。泥濘に残る足跡に、見慣れないものがないか確認する為だ。
「アーシャ、いっきま〜す!」
 スコップを両手に持ったアーシャが、離れた所で手を挙げた。
「たあああああ!」
 それを構えたままの格好で、アーシャは壁に突進する。利き腕を突き出して壁にチャージングを加えたアーシャだったが、衝撃が腕に返ってきた。
「いたたた‥‥」
「両手で持ったほうが良かったんじゃ‥‥」
「お怪我なさったんですか? リカバーを‥‥」
「応急手当で大丈夫さね」
「霞さん、ライラさん‥‥バーストとスマッシュのコツを教えてください〜」
「仕方ないなぁ‥‥。大丈夫、素質さえあれば訓練次第だ。具体的にはB」
「B?」
「バーストスペシャルポイントでキミも今日からみんなの人気者に!」
「何だかよく分からないけど頑張ります!」
 と、大した事ない傷で盛り上がるほど、この日も実に平穏だった。
「ぬああああああああ!!」
 少し離れた所では、今日もアガルスが叫んでいる。
「平和ね〜」
 一仕事終えて、猫の両手を持ってうにょ〜んと伸ばしていたユリゼは、そう呟きながら子猫達を真剣に見据えているレティシアに気付いた。
「昨日も何かしてたみたいだけど‥‥何してたの?」
「しっ。静かに。今からこの子達を仕込むんだから‥‥」
「仕込む?」
「にゃ〜にゃにゃ〜みゃみゃみゃにゃ〜♪」
 真剣な表情で、レティシアは謎の歌を歌い始める。
 声高らかに歌う娘に、他の冒険者達も遠くから覗き込むようにして注目していた。
「‥‥猫語のメロディよ。芸をメロディで仕込むのよ!」
「無理矢理させて大丈夫なの?」
「無理にじゃないわ。これは私とこの子達との真剣勝負なの。こんなに猫がいるんだもの。踊って欲しいじゃない‥‥!」
 ユリゼは愛猫の腕を持って踊らせてみる。
「メロディ、効いてないみたいだけど」
「改良が必要なんだわ。まだ日はあるもの。最終日までには!」
「ぬおおおおおおおおお!!」
「うるさいぞ〜」
 遠くから聞こえてくるアガルスの轟きに、他の冒険者から苦情が飛んだ。
「申し訳ありませぬ!! 地声が大きいのは元からでして!!」
「だからうるさいって〜」
「以後気をつけまする!」
「だから〜」
 そうしてその日も和やかに過ぎていった。


「もう後1本しかありません‥‥」
 前日の晩は、レティシアが何かを囮に狩って来た野鳥が贅沢に振舞われた。肉体労働の活力となる肉の登場に、皆はその晩も大盛り上がりをした。
「おまけに暑いです‥‥ひやぁ!」
「あはは。びっくりした?」
 茹だっていたリーディアの頬に、ユリゼが布を当てる。
「クーリングで凍らせてみたの。気持ちいいでしょ?」
「暑さも吹き飛びます〜。でも‥‥」
 毎日掘り進めて既に4日目。明日にはパリに戻らなければならないというこの時点で、リーディアはまだ1つも宝石を手にしていなかった。
「よし! 20個目〜!」
「霞さんいいですね〜。私なんて又石塊ですよ〜」
 マトックで調子良く掘っている霞は、アーシャに羨ましがられている。それより遠くで掘っているアガルスは、険しい表情に大きな口を開け、無言でスコップを振り上げていた。雄たけびが煩いと言われたので、今にも叫びそうな表情はそのままに声を上げるのを止めたのである。見ている側としては、そちらのほうが怖いわけだが。
「ジュール君、こっちで手当てするさね」
「すみません‥‥」
「マメを潰したりはしてないか?」
 4日目ともなれば、ジュールなどは体力も無くなってバテているのだが、それをライラが上手くサポートしていた。彼女は全日通して皆の体調管理役とも言える仕事を行っている。食事と睡眠は何より体力の温存に必要。皆が万全の力を尽くせるよう、皆の体調を見ながら味付けを変えてみたり、ユリゼに頼んで飲み物に気を配ったりした。
 そんな彼女の働きあって、皆は今日も元気に掘っている。元々体力の無いリーディアやレティシアは休憩も増えたが、リーディアの嘆きをレティシアはしっかり聞いていた。
「虫! 虫が出た!」
「えっ‥‥! モンスターですか?!」
 レティシアの突然の叫びに騒然とする中、さりげなく彼女はオブシダンをリーディアの傍に転がす。
「と思ったら、宝石だったみたい。貴女が掘ったものじゃない?」
「え‥‥いつの間に‥‥!」
 喜ぶリーディアだったが、レティシアの動きに気付かなかったのは彼女だけであった。
「ドミルさん、これ何の宝石ですか?」
 アーシャは掘る度に鑑定をドミルに頼んでいる。
「あぁ、それは」
「おぉ! ダイアモンドが!」
 アガルスが久々に叫んだ。その声に他の冒険者もやって来る。
「ドヴェルグの黄金を使用した所、これが!」
「良い宝石なのじゃ」
「次はゴルデンシャウフェルでトドメの一撃を与えるのだ!」
 その勢いにあやかろうと張り切る人々の中に混ざって、1人暗い目をした男が居た。
 じっと皆を見つめるその姿に、遠くから全貌を眺めていたライラはその姿を目で追った。


「何のつもりさね?」
 その日の晩。
 霞の拾得物を入れた袋に手を掛けた男に、ライラが静かに声を掛けた。その声を合図にランタンに灯りが点く。
「宝石が欲しいんですか? 代わりに鞭をたっぷり差し上げます!」
「縄だろ」
 宝剣を突きつけるライラの横に立ちアーシャが男を指差したが、後方に立っていた霞に突っ込まれた。
「周りに仕掛けを施しておいたんだが、それを解除して来るとはな。ただの盗賊か、それとも冒険者か」
 一見盗賊のようにも見えるが、男が背負っている剣はどこでも手に入れられる代物ではない。
 結局皆に囲まれた男は、覚悟を決めて武装を解き平伏した。
「理由を教えて貰おうか?」
 聞かれて男は告げる。冒険者として働いているが、妻子6人を養うだけの稼ぎが無い事。運悪く昨年のデビル襲撃で家を失い、一家は仮住まいで何とか暮らしている事。博打にも手を出したが逆に借金を増やし、一攫千金を夢見て壁に挑んだが、用意したスコップ15本を全て折ってもほとんど何も手に入れる事が出来なかった事。
「もうこうなったら、一家心中しか‥‥!」
「そんな事を言ってはいけません!」
 リーディアが嗜める。
「本当の話なのさね?」
「何もかも売り払って残ったのはこの剣だけだ!」
「まぁ、貧しいのは確かみたいだな」
 霞は袋を手に取り、別の袋に半分中身を入れた。
「数だけで大した事ないけど、売ればある程度タシになるんじゃないかな」
「そういう事なら、俺も入れよう!」
 夜間にアガルスの声が轟き、他の冒険者達も集まってくる。結局、幾つか宝石を得た者は1個ずつ袋にそれを入れ、霞は袋を男に手渡した。
「それとこれとは別で、やはり盗みを働こうとしたのは悪い事さね」
「そう言えば、ブランシュ騎士団の人がこの辺に来てるって言ってました」
 ユリゼに守られて遠目にそれを見ていたジュールがそう告げ、皆は顔を見合わせる。
 結局男は騎士団に引き渡されたが、男は皆に何度も頭を下げて去って行った。


 そして皆は予定していた日程を終えた。
 水志士なのに魔法が使えないという霞にユリゼが魔法を教えてみたり、近況や壁の話で皆で盛り上がったりしつつ帰り道を行き、アガルスはドミルと宝石の個数を数えあったらしい。結果はお察しである。
 何事も無く無事パリに着いた皆に、ドミルが酒場に行こうと皆を誘う。
 パリの喧騒の中、冒険者達の長い列が楽しげに酒場へと向かって行った。