6ガツノハナヨメ〜薔薇の絵心〜

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月26日〜07月01日

リプレイ公開日:2008年07月04日

●オープニング


 6月と言えばジューンブライド。
 ジューンブライドと言えば、女性の憧れの時。
 日々慎ましい生活を送る素朴な娘が、一生に一度とも言える晴れやかな時を迎える日だ。
 或いは、日々豪奢な生活を送っている娘が、自らの主役の日とここぞとばかりに金を掛けさせる日。
 6月に結婚した娘は生涯幸せな日々を過ごせるという話もあって、この月は、あちこちで結婚ラッシュが発生する。

 ここパリでも。
 教会の鐘が鳴らない日は無い。


「いいわよねぇ〜」
 開け放たれた窓から外を眺めつつ、『彼女』は呟いた。
「憧れちゃうわ〜」
「いやだわ、お姉様ったら」
 その窓を別の『娘』が閉め、大仰に溜息をつく。
「あんなの結婚に合わせて無理矢理痩せたに決まってるじゃない。1ヶ月もすれば横にどーん。2倍増間違いなしよ」
「やだもぅ。あたし達がそうなったら、細い小道くらい塞いじゃうじゃない〜」
「もうテーブルの上に座れないわよねぇ〜」
 ひとしきり盛り上がった後、2人はそろりと半分窓を開けた。
 教会に向かう途中なのだろう。花嫁姿の娘が、両親と思われる人々と歩いている。
「‥‥いいわよねぇ‥‥」
「教会で結婚式が?」
「あの格好よぅ」
「お店で『花嫁姿』でお出迎え企画を立てればいいじゃな〜い。ブーケ持ってヴェール被って、イイ感じだと思うわよ〜」
「何か違うのよねぇ」
 首を傾げて室内を見回し、『彼女』は自分達と同じような『娘達』を見つめた。
「『花嫁』の気分を味わいたいのよねぇ‥‥」
『彼女達』はジャイアントだ。しかも外見上どう見ても性別男。筋肉むきむきの『娘達』である。日頃、『気高き薔薇亭』という名の酒場で客を持て成し、笑わせ、時には悩み相談を受けたりして過ごしているが、一応彼らの心は『乙女』である。勿論個人差はあるが、『お姉様』こと源氏名ミナは、人一倍結婚願望が強かった。勿論自分達が異端である事は重々承知しているから人前で真剣に『結婚したいわ〜』など言う事は無いが、女物の衣装や小物に対しても人一倍執着がある。
「あたしはどちらかと言うと〜‥‥そんなステキな格好のお姉様を描いてみたいわ」
「あら、ユキさん。絵なんて描けたの?」
「あたしこう見えても、『女』になる前は絵を描いてたのよ〜」
「あら素敵」
「でも花嫁には花婿が必要よねぇ‥‥」
「必要よねぇ‥‥」
 そこまで言って、2人はにんまり笑った。
「どうせなら、いろんな絵も描いてみたいわ‥‥。ねぇ、お姉様も『いろんな』絵を見てみたいわよねぇ‥‥?」
「えぇ、見たいわ‥‥。聖職者も裸で逃げ出すような絵が見たいわねぇ‥‥」
「普段手厳しい騎士を吊るし上げるような絵もいいわよねぇ‥‥」
「あら、でもその絵が本当に警備兵とかに見つかったらどうするの?」
「勿論、『デビル撲滅の気持ちを籠めて描きました。デビル自体を描くと呪われると聞くので、擬人化しています』と言うのよ」
「まぁ、ユキさんったら。でも、幸せいっぱいの絵の場合はどうするの?」
「勿論、『男女の密着した絵は神の教えに反する事になるので、心苦しいですが男性同士にしてみました』って言えばいいのよ」
「あら‥‥それはちょっと苦しいんじゃないかしら‥‥」
「じゃあ、『これは男性同士に見えるかもしれませんが、実は無性です。天使様同士が仲睦まじくあるのを、この世の平和を願って描いております』って言うのよ!」
「‥‥ユキさん、昔から苦労してきたのねぇ‥‥」
「芸術家が弾圧されるのは世の慣わし。それでも自由に描きたい! 自由に描く為にはいざと言う時の理由が必要! そう心の魂が叫ぶんですわ!」
 ぐっと力を籠めて椅子にダンと足を乗せると、バキッと音がした。
「じゃあ‥‥早速、冒険者ギルドかしら?」
「やっぱりギルドよね? あたし達垂涎の男達が居るって言えば、冒険者よねぇ?」
「でも一応、当局の目を逃れる為に女も募集したほうがいいかもしれないわよ」
「あたし達の楽園の為には止むを得ないわね‥‥」
 2人はひそひそ囁き合うと、にっこり笑って店を出た。


 というわけで。
 冒険者ギルドに依頼が張り出された。
 曰く。
『素敵な結婚式と題して、絵を描きます。花嫁役は居るので、花婿役を募集します。又、様々な天使と悪魔絵を描いて、この世の平和を祈りたいと思っております。そのモデルとなってくれる方も募集します。
尚、この依頼は一度受けたら他言無用。絵師のどのような要求にも応じてくれる、気高き心の持ち主をお待ち致しております。
依頼人名 ファビオ・アレジ』

●今回の参加者

 ea2499 ケイ・ロードライト(37歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3120 ロックフェラー・シュターゼン(40歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea3277 ウィル・エイブル(28歳・♂・レンジャー・パラ・ビザンチン帝国)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb5977 リディエール・アンティロープ(22歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ec0290 エルディン・アトワイト(34歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ec4355 春日 龍樹(26歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文


 気高き薔薇亭。
 その店を知る者は、『この世の恐怖を凝縮した場所』と言う。
「薔薇との縁も結構なもんだよなぁ。今度は絵か」
 酒場に集まった面々は、簡単に打ち合わせを行う。件の店と縁の深いロックフェラー・シュターゼン(ea3120)の隣で、ふむとケイ・ロードライト(ea2499)が頷いた。
「絵姿を残せるなぞ、滅多に無い機会ですからな。‥‥ただ、些か店の主旨からすると不安な所はありますが」
 主題が結婚式と聞き、彼は白を基調とした落ち着いた佇まいの薫る格好をしている。
「天使と悪魔の絵で平和を‥‥というのは良い心がけですので協力致しますけれども、くれぐれも私の身分は明かされませんよう」
 神父服を着込んだエルディン・アトワイト(ec0290)もケイ同様、店の特異性を承知していたのだが、クレリックである事から自分の活動は隠したいという気持ちがあった。
「『気高き薔薇亭』。お名前はよく耳にしますが、実際に行くのは初めてです」
 穏やかな深い青色のサーコートは、柔らかな印象のリディエール・アンティロープ(eb5977)には良く似合う。何も知らない彼が微笑すると、同じく実態を知らない春日龍樹(ec4355)が腕を組んだ。
「知り合いが行った事があると言ってたな。ジャイアントの店なんだろう? 素敵な人がいたって話だが」
「ジャイアントさんのお店ですか」
 リディエールと龍樹の和やかな会話に、ケイとエルディンは生温い笑みを浮かべる。
「モデルの依頼は初めてだ〜。いろいろ衣装調達しておきたいな〜。義父さん、お小遣い」
「何だか湯水のように使いそうな気がするぞ」
 手を出したウィル・エイブル(ea3277)にロックフェラーが告げた。
 そんな中。
「ステキな依頼ですね〜。ゾウガメとコゾウガメも興味津々な顔です〜♪ がんばりますよ〜♪」
 紅一点、されどあらゆる男子をステキに陥れるという仕掛け人、エーディット・ブラウン(eb1460)が、満面の笑みで皆を見ていた。

 集合場所である気高き薔薇亭には、思い思いの『花婿衣装』で個々に突撃する。
 では、皆の勇姿をどうぞ。
「髪は7、3分け。今宵の髭も、見事なカール具合ですな」
 背筋を伸ばし素敵な紳士を匂わせつつ、ケイはごく普通に店の中に入った。
「ところで花嫁というのはどちらの方ですかな?」
「は〜い、あたし。ミナで〜す」
「ミナ‥‥殿」
 悩ましげを通り越した破壊力抜群の花嫁衣装をむちむちぴちぴちに着込んだジャイアントが、ブーケを手に嬉しそうに笑う。
「花婿役は1人だけ‥‥とお聞きしましたが」
 その後ろから、やはり神父服のエルディンが入ってきて、ひ弱な自分が選ばれる事は無いだろうと後方を見た。
「えぇ、そうよ。でも勿体無いかしらねぇ?」
「いえいえ、1人の男性を十二分に堪能されれば宜しいかと」
 慌ててエルディンが言った所へリディエールが静かに入ってきて‥‥ミナと目が合った。
「‥‥えと、あの‥‥この方が花嫁役‥‥です、か?」
 密かに前方の2人に尋ねて頷かれたので、しばし固まる。
 その時、扉をのそりと何かが通過した。
「特戦隊参上〜♪」
 のそのそと、体長3mのスモールシェルドラゴンが上に亀とエーディットを乗せて入ってくる。扉を通過する時に甲羅の一部がつっかえたが、斜めになりながら意地でも入ってきた『コゾウガメ君』に拍手を送りたい。彼(?)の飼い主エーディットは、ノルマン王族風花婿衣装だ。曰く。
「リディエールさんも男装して頑張ってますしね〜♪」
 というわけで男装らしい。
「同じく花婿特戦隊ローニン参上」
 にやりと笑いながら、その後を龍樹がからんころんと下駄を鳴らして入った。花を模した呉服に羽織、下駄も花柄と実に和風で目を引くのだが。
「ど‥‥どこだここ?!」
 店内にひしめく女装ジャイアント達の群れに2歩下がった。
「はーはっはっはっ。今更何を言っているんだ、龍樹さん!」
 突然、顔のついた桜の木が宙を舞う。
「俺こそ花婿特戦隊ムコダイコ!」
 ぶら〜ん。天井から下げたロープで体を揺らしながら、どこでもさくらを着たロックフェラーがよく分からない決めポーズを取った。
「えい」
 その近くで同じように天井からロープを垂らしたウィルがロックフェラーのロープを切って、すたんと床に降りる。
「うわぁあああなにをするぅ」
「隠密花婿参上!」
 千早姿でポーズを取ったウィルの背後にロックフェラーが落ちた。
「みんな素敵よ〜。楽しい絵になりそうだわ」
 依頼人ユキが拍手しながらやって来て、皆を見回し自己紹介を始めた。


「よりどりみどりよね〜」
 居並ぶ冒険者達を前に頬が緩みっぱなしのミナは、『お前の為ならマッスルダンディボディを作ってみせるさ!』と叫んだ『どこでもさくら』改め、スターキャップに『愛』と背中に刻まれた甲冑を着ているロックフェラーを早速選んだ。
「あ、でも片方空いてるからあなたもね〜♪」
 と、まだ葛藤している龍樹を掴んで自らの左右に男2人を置く。
 その後もとっかえひっかえ相手を変えてみたものの、結局巨体2人に落ち着いたようだった。
「貴方、もう少しお肉つけたほうがいいわよ〜」
「えっ‥‥いえ、あの私は」
「男の魅力はお・に・く♪」
 今回ばかりは女と間違われてもいいと思っていたリディエールを一目で『男』と見抜いたミナだったが、それ以上何も要求しては来ない。
「助かりました‥‥」
 店内の小道具を使って到底美麗とは言えないポーズを取っている3人を見ながら、リディエールはふと絵を描いているユキが気になった。
「見せていただいても宜しいですか?」
 声を掛けて覗き込むと‥‥。
「‥‥」
「これぞ『戦う男』という感じですね〜」
 一緒に覗いたエーディットは楽しそうだ。亀が羊皮紙をはむはむしようとしたが、察知したユキが素早く亀の甲羅を叩く。
「‥‥あの、この人物は‥‥」
 目を見開き、口を大きく開けて今にも必殺技でも叫びそうな形相の人々が、実に華やかな衣装を着て踊り狂っている姿がそこに描かれていた。
「あぁ、それ貴方」
「髪が逆立っていますけれど‥‥」
「気合入れてる絵よ」
 本人の顔も体型も無視した強烈な絵だが、何故かどれが誰だか分かってしまうのが怖い。色がついたら更に怖い事になるだろう。

「私もこんなムキムキになったら楽しいかもですね〜」
 一応女性体だが他と大差ない自分の絵を見てエーディットが発したが、実際モデルが取っているポーズとは違う絵がほとんどだった。どうやら妄想込みで描いているらしい。
「亀くんまで筋肉質なのですな」
 少女風の衣装を着て更に痛い事になっていたミナと、ウィンブルを被った亀と共に絵に納まったケイは、ささっと描かれただけの絵を見て首を捻った。だが他の絵と違って動きの無い絵になっているし、怖い形相もしていない。
「それはお姉様にあげるのよ。少女の格好、喜んでいたもの。それに亀が子供みたいだって」
 そう言うユキは、絵の中のミナ同様、優しい顔をしていた。


 依頼人達にとってのメインイベントは『結婚式風』の絵を作る事だったわけだが、冒険者達の本番は実はそれではなかった。
「はい。リディエールさん、どうぞ〜♪」
 皆が着ている衣装を『こうしたほうがいいですよ〜』と言ってさりげなく肌の露出を上げてみたりしていたエーディットだったが、リディエールにはにこやかにローブを手渡す。
「ありがとうございます」
 既に実によく似合うエンジェルドレスを着込んでいたリディエールは、素直に受け取ってそれを広げて固まった。
「あの‥‥随分透明度が‥‥」
「これでリディエールさんの魅力全開ですね〜。皆さんちらりずむ炸裂なのです〜」
「いえ、でも透明感が‥‥」
 彼の訴え空しく、エーディットは実によく透けているローブを置いて去っていく。
 一方、遠い目をしているのは龍樹も同じであった。
「何だこの格好‥‥」
 毛皮のマントに菩薩のふんどし。心安らかになる効果があるはずなのだが、全く心休まらない。実に変態っぽい格好だ。
「よし、『天使と悪魔絵』。行くか!」
 気合十分のロックフェラーが、『どこでもさくら』に黒い翼を縫いつけてロープを自分の体に巻きつける。
 出たとこ勝負の寸劇をユキに披露して、好きな場面を描いてもらおうという寸法だ。ロックフェラーは悪魔役。再び翼をつけた桜の木が、店内の上空をひゅーんと飛んでいく。
「あれは悪魔!」
 そこへ、神父服のままのエルディンが飛び出してきて杖を握り締めた。振子のように戻ってくる桜の木目掛けて杖を構え‥‥。
「とぉりゃあああああ」
「ぎゃああああああ」
 かきーん。勢い良く杖を振って、『悪魔』の体に杖をめりこませ、更に押し出すように叩き込む。ロックフェラーの体は再び遠くへ去って行ったが、
「あ、杖が折れてしまいました」
「はい、予備」
 月桂冠に千早、片手にはローズホイップを持ったウィルが、素早く別の杖を出した。
「デビルは即滅殺!」
 新しい武器を手ににやりと笑う神父と、明るい笑顔で鞭をしならせた天使は、くるくる回りながら戻ってくる悪魔にそれを打ち込んだ。
「いたいいたい! マジで痛いって! もうちょっと手加減して、っていうか鞭やめて杖やめて」
「まだまだこれからですよ!」
 すっかりノリに乗ったエルディンが前髪を掴む。ウィルは勝手に自分でぐるぐる巻きになったロックフェラーのロープを切って、そのまま落とした。
「神を敬愛しろ〜。ついでに磔刑だ〜」
 びしびし鞭で叩きながら下駄で踏みつけるウィルの笑顔も、実に怖い。
「えぇい‥‥これぞ悪魔的切り札!」
 緩んだロープの隙間で手を動かし、ロックフェラーはオカリナを掲げた。
「『禁断のオカリナ』ぁ〜っ! これを聞いた者は、たちどころに俺に魅了されるんだあぁ!」
「な、なんですってぇ!」
「じゃ、吹いてみたら?」
 ぴろり〜。
「何だか貴方が蠱惑的に見えてきました!」
「どうだ、この悪魔的オカリナの能力は!」
「最高です!」
「頑張れ神父〜」
「‥‥覚悟して下さいね」
 何やら目の色が変わった神父は、べりっと悪魔の『どこでもさくら』を剥ぎ取った。そのまま自分も何故か脱ぎ始める。そして顔を寄せ‥‥。
「だぁあああああ!」
 その顎に、ロックフェラーは本人曰く『決死の悪魔的奇跡3回転半捻り頭突き』を食らわせて立ち上がった。
「よくもやりやがったな、このドS神父!」
「がんばれ〜」
 どかばきぐしゃ。
 神父はあっという間に倒れ伏した。
「よし! 悪魔が勝ったぞ!」
「待てぃ!」
 ボロボロの悪魔が叫んだ所で、マントを腰に巻いて上半身裸のケイが現れた。
「ゲイ術を理解せぬ輩を成敗。ちょー天使K、参上! とぅ!」
 椅子の上から飛び降りてポーズを決めると、その後ろから青いローブを身に纏ったリディエールがやって来た。天使の額冠を被ってはいるが、体の線どころか脚の線まで見えてしまうその姿に、おろおろ立ち往生している。
「さ、Rも前へ出るのですぞ」
 ケイの姿も充分に恥ずかしいが、こんなに透けているならいっそ脱いだほうがいいのではないか‥‥。無理矢理押し出されて、天使3号は頬を真っ赤に染めた。
「さ、一緒に打倒デビル!」
 素手でロックフェラーに立ち向かうケイと、ひょろりと杖を握り締めて立っているだけのリディエール。
「ん〜‥‥イマイチ迫力ないわねぇ‥‥」
 ユキが呟き、近くに居た者に指示を出す。
「裾切っちゃって」
「わ、私の衣装のほうですかっ?!」
「そこの待機デビル。襲っちゃって。そのか弱い天使」
 いきなり話が回ってきた上にとんでもない事を言われて、皆の過剰な演技っぷりに感心していた龍樹は固まった。
「襲うって‥‥大丈夫かな。素手でも軽く殴ったら飛んでしまいそうだ‥‥」
「殴るんじゃないの。襲うの」
「‥‥」
 ロックフェラーとケイは、素手の攻防を繰り広げている。実に熱い戦いだ。
「お前はもう既に死ぐぼぉっ」
「私の最終奥義見切れますかな?!」
「‥‥がおー」
 心の中で泣きながら、龍樹はリディエールに突進する。そうだ、自分は熊なんだ。熊がエルフを餌にしようとしているんだ、うん、そうしよう。そう思おう。
「悪いのみ〜つけた〜」
 だが、悪魔2号は横から鞭に絡め取られた。
「痛! これ、何かトゲが‥‥。皮膚に直接トゲが」
「てやっ」
 ころりん。悪魔2号はひっくり返される。
「ふぅ〜。あ、君、お茶」
 その上に座って、ウィルは足をぶらぶらさせながら近くに居た者に声を掛けた。
「椅子代わりはともかく、鞭を‥‥」
「次の獲物はこちらですかな?!」
 戦いの末に悪魔1号を倒したケイが構えてみせる。ウィルはひょいと降りて鞭を解きしならせた。
「さ〜、どうしようかな〜。縛って吊ってぐるぐる回転の刑か、縛って巻いてぐるぐるセーヌ河流しの刑か」
「いや、流されたら本気で困る。お‥‥泳げないデビルも居るんだ、中には。多分」
「はい、河流し決定〜」
「いやそれは俺と言うわけじゃなくて」
 どかばき。龍樹も打ち倒され、天使達は喜び合う。リディエールは複雑な気分だったが、今の今まで倒れたままの神父に気付いた。
「エル‥‥エドガーさん!」
「む。いかんですな!」
 諸事情により偽名を使っているエルディンに、ケイがわきわき近付くが。
「コゾウガメさん、そんなに強く引っ張ったらダメですよ〜」
 そのケイの腰のマントを『コゾウガメ』が引っ張った。
「はっ! それは最後の砦! いけませんぞ!」
「コゾウガメさんも皆さんの衣装が気に入ってるですね〜♪」
「そういう問題じゃないよな‥‥」
 倒れたまま龍樹が呟き、リディエールは慌ててオリファンの角笛を出す。その音で一瞬皆の動きが止まった隙に、リディエールはケイを押した。
 こうして、彼らの過激な寸劇は終わった。


 その後、龍樹とロックフェラーが『道具は無いけど鍛冶仕事の図』を披露したり、何故か2人が振袖を着て細工物を作ったり、寸劇の一場面を改めてやらされたり、更に過激にされたり、某聖職者が唇を奪われたりしたが、滞りなく5日間の仕事を終えた。
「これは素晴らしい絵になりそうだわ! 出来たら見せるからまた来て頂戴ね」
「こんなに女の子気分になれたのは初めてだったわぁ。また宜しくね」
 2人に感謝されながら、彼らは家路へと帰って行った。
 だが、ただ1人‥‥。

「ロックフェラーさんとエルディンさんが結婚したそうです〜」
 『華麗なる蝶亭』に、エーディットは来ていた。
「ケイさんは幼女趣味に目覚めたみたいです〜。将来が楽しみですよね〜」
 その足で、彼女は『蜂蜜亭』と呼ばれる酒場も訪れる。
「‥‥と言う事があったんですよ〜」
「もっと詳しく聞かせて下さい!」
「仮名で実録手記を書いて貰えませんか〜? 大人気間違いなしなのです〜♪」

 この世で最も恐ろしいもの。
 それは、女装筋肉ジャイアントでもドS天使軍団でもデビルでも無いのかもしれない。
 げに恐ろしきは‥‥。