暴走冒険者と素敵な冒険

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 49 C

参加人数:4人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月14日〜07月20日

リプレイ公開日:2008年07月23日

●オープニング


 ラティール領。現在復興真っ只中の領地である。
 領内の出来事に関しては説明すると長くなるので省かせて頂くが、狭い領内のあちらこちらで復興の音が聞こえてくる、明るい場所である事はお伝えしておこうと思う。
 さて、今回私がこの地に出向いたのは、『薬湯、聖女の泉』なる場所についての伝聞を確かめる為である。何でも或る日、『聖女を名乗る方が降りてこられて』、『心と身体を癒す泉が湧き出る場所を指し示し』、『自身は彫像と化してこの地を見守るとお告げになった』という言い伝えがあるのだとか。
 このような『言い伝え』は、古くから伝わるものでは決してない。断じてない。私がこの話を聞いたのはつい最近の事であり、この噂が広まりだしたのもごく最近の話である。であるならば、この『言い伝え』は故意に広められたものに間違いないのだ。
 その真実を確かめるべく、私は件の『聖女の泉』を訪れたのであった。


「あれ〜? ヨーシアさんじゃないですか?」
 薬湯色に染まった風呂桶を見詰める女性に、無邪気な声が飛んできた。
「ほぇ‥‥えーと‥‥どちら様でしたっけ?」
「やだなぁ。パリに居る時にお話したじゃないですか。フェムです。新米冒険者の!」
「あ〜‥‥はい。思い出しました。目が極端に悪い、暴走パラクレリックの方ですね?」
「ですです。聞いて下さいよ、ヨーシアさん。ボク、ちょっと強くなったんですよ!」
「それはおめでとうございます〜。ところでフェムさん」
「はい!」
「私、そろそろお風呂に入りたいので出て行って貰えますか〜?」
 閉め出されて首を傾げるフェムは、一応ヨーシアが出てくるのを待った。だがすぐに、飽きて違う場所へと行ってしまう。
 ヨーシアものんびり薬湯を堪能した後、薬師から香草茶を出して貰い、実に緩みきった表情でそれを堪能する。久々の再会だった2人は2人ともに結構自分勝手だったので、次に会ったのは翌日の事であった。
「ヨーシアさんは、今回は何を書くんですか?」
 酒場などに読み物を張りつけているヨーシアは、その時その時で様々な内容の文章を書いている。以前ヨーシアは、『新米冒険者の日常』という読み物を書いていた。その読み物に協力した者の中にフェムも居たらしい。
 温泉茶屋『有栖亭』(ちなみにこのジャパン語の店名を読める領内の住人は皆無に等しい)で、のんびり『じゃぱん風まんじう』を食べていたヨーシアは、手を振りながら走ってきたちょっぴり小太りのパラを眺めた。
「‥‥フェムさん、太りました?」
「ここに来てから冒険らしい冒険してないですからねー。料理は美味しいし、薬湯は堪能出来るし、毎日楽しいですよ〜」
「フェムさんはいつだって楽しそうですよねぇ」
「えへへー。そんな褒められても何もあげるものはないですよ〜」
 褒めてはいないのだが、フェムは常に人の言う事を前向きに取る癖がある。
「ここのお湯が、『聖女様の苦労の賜物』と聞いたので、真実を確かめに来たんですけど‥‥何だか良い所なので、いまひとつ押しが弱い気がしてきたんですよね」
「あ、でも聖女様の話は本当らしいですよ? ボクは未熟者のクレリックですから良く分かんないんですけど、ここのお湯に癒しの効果があるのは本当ですし」
 横からヨーシアの『まんじう』に手をつけて、フェムは図々しくヨーシアの横に座った。
「ボクの友達の冒険者仲間、腰痛持ちのナッティも随分良くなりましたからねー」
「腰痛持ちのナッティさん?」
「もう4ヶ月ここに居るんですけど、両手剣で戦うのやめて片手剣の修行始めてるんです。本当はウィザードになりたいみたいなんですけど、ほら。ボク達新米で大した冒険してないじゃないですか」
 大した冒険どころか、とんでもなく酷い結果の冒険しかしていなかったのだが、常時前向きなフェムは全く気にしていない。
「だから、ギルドに登録できないみたいなんですよねー。ある程度、仕事して実力つけた冒険者じゃないと、職業の登録し直しは出来ませんって。ナッティも、ウィザードの師匠いないから大変みたい。ラテン語だけはボクが教えたからできますけど」
「ほえー」
 興味なさそうな声を上げつつ、ヨーシアは3個目の『まんじう』を取ろうとしたフェムの手をぺしりと叩いた。
「でもですね! ボク達、新しい冒険を見つけたんですよ!」
「あたらしーぼーけん〜?」
「そうです! 何でも、ゴブリンが山ほど居る村があるとかで!」
「ゴブリンが山ほど」
 きらりとヨーシアの目が光る。
「詳しくお願いします」
「それもつい最近らしいんですよ! ゴブリン村が誕生したそうなんです」
「ゴブリン村」
「元々ふつーじゃない村だったらしいんですよ。住人の人達もあまり外と交流がなくて、何か胡散臭い場所だったらしいです。あ、この領内の話じゃないんですけどね。でも最近、用があって行った人が、ゴブリンだらけになっててびっくりして帰ってきたって‥‥。これは冒険の臭いがしませんか?!」
「しますね。わきわきしますね」
「なので、そこに行ってみようと思うんですー。ナッティと一緒に。で、ヨーシアさんも来ませんか? 楽しくゴブリン殴りましょうよ!」
「私は冒険者じゃないですよ? でもそうですね‥‥その村の真実には興味があります。『聖女の泉ガセネタかと思ったら、新たなネタ発見! いつの間にか住民が皆ゴブリンに大変身?!』‥‥うん、これで行けるかも」
「ふつーの人はゴブリンに変身しませんよー」
「分からないじゃないですか〜」
「どうせ変身するなら、もっと強くて格好良いのがいいですよね! こう‥‥ドラゴンとか!」
「巨体は衣食住に困りますよ」
 しばらく『そういう問題か?』と店主が問いたくなるような会話が続き、2人はしばし盛り上がった後に、『ゴブリン村』に一緒に行くことを決めた。
「でも冒険は4人以上でやるのが安全ですよ。私、一度パリに戻って人を集めてこようと思います」
「じゃあボク達は冒険の準備をしておきますね」
 
 そうして、ヨーシアは冒険者ギルドに顔を出した。
 一緒に冒険をしてくれる、非常に心強い者達を求めて。

●登場人物
 ヨーシア・リーリス 20代前半女性 人間 読み物を書いて回っている 戦闘能力は『かくれる』と『にげる』専門
 フェム 20代半ば男性 パラ 前衛系クレリック 目が悪いが好奇心旺盛で落ち着きがない レベル3
 ナッティ 20代後半 エルフ 腰痛持ちファイター 重い物を持つと腰痛が再発する レベル2
 その他いるかもしれずいないかもしれず

●今回の参加者

 ea3692 ジラルティーデ・ガブリエ(33歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ec0720 ミラン・アレテューズ(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ec2418 アイシャ・オルテンシア(24歳・♀・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4801 リーマ・アベツ(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

コルリス・フェネストラ(eb9459)/ オグマ・リゴネメティス(ec3793)/ 磯城弥 夢海(ec5166

●リプレイ本文

 その村は、森に囲まれていました。
 実に胡散臭い事で有名な村でした。
 そんな村が或る日、ゴブリンに占拠されてしまいました。
 でも‥‥本当に?


 3頭の馬が縦に並んで森の間の道を進んでいた。
「昔を思い出すな‥‥。俺も冒険を始めた頃は‥‥」
 ジラルティーデ・ガブリエ(ea3692)が夏の暑い陽射しを受けて眩しそうに眼を細めながら、呟く。
「私、志士になってからパリでは初めてのお仕事なんですよ。紆余曲折ありましたけれど、志士になれて良かったなぁって」
 アイシャ・オルテンシア(ec2418)は楽しそうにフェムやヨーシアと話していた。
「あ、ジラルティーデさん。アーシャは脚が速いですから、勝手に先に1人で行ったりしないでくださいね〜」
「ん‥‥俺がはぐれる所だったか」
「ヨーシア殿。乗り心地はいかがです?」
 ジラルティーデの前にはフェム。ミラン・アレテューズ(ec0720)の後ろにはヨーシアが乗っていた。ナッティはリーマ・アベツ(ec4801)が用意した空飛ぶ絨毯でふよふよ浮いている。
「馬で旅なんて嬉しくて落っこちちゃいそうです」
「それは危険ですね。ナッティさんは腰のほうは大丈夫ですか?」
 リーマに問われ、ナッティは頷いた。彼にとっては実に快適な旅であろう。最も魔力の関係で他の人の助力を請う事も多くなりそうだが。
 そうして総勢7名はのんびりと冒険の旅に向かった。


 コルリス、オグマ、夢海の助言も含めて、皆はパリを出る前にあらかじめ決めていた。
「フェムさんは全員で監視、ナッティさんは労わり、ヨーシアさんは後で探しに行く、という感じでよろしいでしょうか」
「そうだな。ヨーシアには8回ほど逃げておけと言えば大丈夫だろう」
「余裕があれば私がヨーシアさんを守りながら行こうと思います」
 リーマ、ジラルティーデ、アイシャの発言に頷いていたミランだったが、ナッティをどうするかは難しい話だった。
「あたしは‥‥ナッティ殿にもある程度戦って貰うべきだと」
「なるべく武器を持たせず空飛ぶ絨毯の上で大人しくして貰えるようお願いしたほうが」
「でも‥‥冒険者が戦わずに見ているだけというのは、本人としては悲しいと思うのですよね〜」
「そうだな。男なら潔く戦って散るべきだ」
「本人の意思を確認し‥‥その後、戦闘に出るようなら連携を取りつつ戦う‥‥が妥当な線でしょうか」
 戦闘中に腰を痛めて動けなくなっても困るが、冒険者が守られているだけというのも悲しい話だろう。
「しかし‥‥村の住民がゴブリンになった‥‥。廃村になった跡にゴブリンが住み着いたか、元々ゴブリンだったか、襲撃されたのか‥‥」
 ミランが考え込みながら道中テントを張っていると、鍋とおたまを手にしていたジラルティーデが、薪を集めていたアイシャと、早速消え失せようとしていたフェムの首根っこをにっこり微笑みながら捕まえたリーマに近付いた。
「調査組の為にこれを描いたんだが」
「何です〜?」
 バッと毛布の切れ端を4枚開くと、それはデフォルメされたゴブリンの喜怒哀楽集だった。
「あ、これ可愛いですね〜」
「何に使うものですか?」
「言葉が通じなくてもこれで意志の疎通が出来ると思う」
「‥‥どうやって?」
「あ、分かりました。顔の所に持ってきてゴブリンのフリをするわけですね〜? あったまいいですね〜さすが騎士様」
「いやぁ、それほどでも」
 ぽかぽか。盛り上がったジラルティーデの肩とアイシャの後頭部にリーマの鉄拳が入った。
「それで、用途は?」
「これを使ってゴブリンを誘き寄せる! 囮作戦だ」
「‥‥騎士様?」
 リーマの冷ややかな視線を受けて他に用途は無いか考える男の後ろから、ミランがやって来て馬達の世話をし始める。
「騎士が皆そうだと思わないで頂きたいのですが」
「そうですね〜。騎士もいろいろ居ますから」
 かつてナイトだったアイシャが頷く。
 そんな4人を見るフェムの目は何故か輝いていた。実に興味をそそる先輩冒険者達だと思ったのだろう。
 ともあれ皆は交代で見張りをしつつ野営を開始した。


 ゴブリン村は、前もって聞いていた場所にあった。
 近くを小川が流れ、小さな橋を越えた先にあるのだが、遠目に見ても村内の様子は窺えない。それもそのはず。こんもりと盛り上がった大地の上に村があり、高めの木の柵が四方を囲み、木製の背の高い門がそびえて見張り台までついている。村と言うより簡素な砦にも見えた。
 アイシャとリーマが村の近くまで偵察に出向き、アイシャはオーラエリベイションを使用して馬の蹄の音を立てないようにそっと村の周囲を廻り、リーマはバイブレーションセンサーを使ってゴブリンがどれだけ居るのかを探る。
『ゴブリンの数は20匹ほどです。特に体の大きいものは居なかったようですから、全部通常のゴブリンかと』
 リーマが敢えてテレパシーで報告したのは、フェムに聞かせてどこかに行ってしまわないようにする為である。作戦はこうだ。囮が敵を誘い出し、狭い所にまで誘ってそこでカタをつける。傾斜があれば魔法で攻撃した後に転げ落ちるという特典もついていたのだろうが、高台の上にある村から降りる細い道以外に付近に坂道は無かった。そこは周囲に木1本生えていない場所だから、攻める側としては身を隠す所もない。
「ところで、アイシャ殿は?」
 なかなか帰って来ないのでミランが様子を見に行こうかと腰を上げた時、アイシャが愛馬に乗って戻ってきた。
「何か‥‥この森いますね」
「何かとは?」
 馬から降り、近くの木に手綱を掛けてアイシャは首を捻る。
「木の上で音がしたので様子を見たのですが、少し近付いてもそこから何も出てくる気配が無くて。動物なら逃げると思うのですけど‥‥」
「それで?」
「ぎりぎりまで近付いても出て来なかったので、帰ってきました。結構粘ったんですけど」
「ゴブリンは木登りできたかな」
「ゴブリンなら飛び掛ってきても可笑しくないと思うんですよね〜‥‥」
 何かが居る。それは彼らを大いに緊張させた。ゴブリンを攻撃する背後から強襲があるかもしれない。
 皆は慎重に森の中を移動し、ゴブリン村の傍の森で村を見つめた。

 フェムは勿論森の中の謎を解きたがったが、ゴブリン退治してからときつく言われ、目の前の強固な村を目を輝かせて見ている。まぁ面白ければ何でもいいらしい。
 森の中の野営地に愛馬達を置き、皆はゴブリン村に向かった。高台の下で待ち伏せ、アイシャとミランが坂道を上っていく。村まで着いて木の柵が2人よりも高い事に驚き、木の門がしっかり閉ざされて外からそっと引いても押しても開かない事に首を傾げた。柵の隙間から中を覗くと、確かにゴブリン達がうろうろしている。かなり動きがせわしない。ぐるりと柵沿いに1周しても、人1人が入る隙間さえ開いておらず、ではどうやってゴブリンが中に入ったのかと首を傾げる。
「‥‥もしかしたら、ゴブリンに襲撃された際、生き残りが外に逃げてこの扉を堅く閉めていったのかもしれないな‥‥」
 ミランが呟き、なるほどそうかとアイシャが門を見上げた。
「ふむふむ‥‥つまり、この中のゴブリンは飢えているわけですね?」
「ヨ、ヨーシア殿! 何故ここに‥‥」
「やはり最前線の状況をこの目で確認しなければ、面白い読み物は書けませんからね!」
 と言いつつ、ヨーシアは懐から保存食を取り出す。
「そーれっ」
 弧を描いて村の中に飛んでいったそれは、落ちる音がする前に中で取り合うような音に変わった。
「飢えた獣の中に入るのは危険ですよぉ〜」
「命懸けで逃げないと、囮が逆に食べられちゃうなんて事も‥‥」
 ぶるぶる震えたアイシャだったが、とりあえずヨーシアには逃げてもらって2人は扉に手を掛ける。高い位置に挿してある木の棒を抜き、2人は扉を力を籠めて引いた‥‥が。
「‥‥あうっ」
 扉の上から何かが降ってきて、アイシャの頭に激突した。
「アイシャ殿!」
 倒れたアイシャを担ぎ、周囲を見回してゴブリンが出てくる気配が無いのを確認し、ミランは素早く一旦村を離れる。
「この盥が落ちてきたようです」
「‥‥門を開けるなという事ですね。でも‥‥村人がそんな仕掛けをする余裕があったのでしょうか」
 ゴブリンが飢えているなら、中にもし村人が残っていたとしても生きてはいないだろう。しかしゴブリン達だって武器があるなら木の柵を壊して外に出たはずだ。
「どうする」
「絨毯に乗って空から中に入る手もありますが、危険ですね」
「仕掛けは作動したんだから、次はきっとだいじょうぶですよ〜」
 ぐるぐる目になっていたアイシャが起き上がって言うが、何せ誰も仕掛けを察知する技術を身につけていない。
「あ。ボク罠とか発見できますよ〜」
 嬉しそうにフェムが言ったが、それは聞かなかった事にされた。
 そして、皆が出した結論は。


 絨毯が村の上をふわふわ飛んでいた。なるべく高い所を飛んで眼下の様子を窺う。
 村の中でわめきながら走っているゴブリンは少数で、後は座り込んでいたり倒れていたりしていた。村の所々に穴が開いていたり、木の柵の内側に尖った枝が差し込んであったり、家の屋根に弓座が置かれていたりしている。弓からはロープが下がっていて、それは土の上を這うようにして伸びていた。
「この村‥‥」
「変、ですよね‥‥」
 村の中に生えている木には果物が生っているが、その木の下にゴブリンが1匹倒れていて、幹に1匹張り付いている。よく見ると、何か粘々したものが幹についているようだった。
「ゴブリン村‥‥と言うよりも、ゴブリン地獄村ですね‥‥」
 リーマが小さく息を吐く。上から見るとよく分かる。ここは村とは言えない。ゴブリンを飼う為の囲いだ。まるで何かの実験場のようにも見える。
「どうします?」
「哀れだが‥‥飢えたゴブリンを助けるわけには行かないと思う‥‥」
 このまま放っておくか、領主か地方騎士団に連絡して何とかしてもらうしかないだろう。自分達がゴブリン退治の為に村に入っても同じ目に遭うだけだろうし、門を開けて誘き寄せてもどんな仕掛けが発動するか分からない。
 3人の娘は一通り上空から見て、そのまま皆が待つ所へと降りて行った‥‥のだが。

「はーっ、はっはっはっ」
「何奴!」
 居残ってフェムの首根っこを捕まえ、切り株の上に座っているナッティを労わり、今にも村を覗き見しに行きそうなヨーシアを彼女が持っていたロープで縛って捕獲していたジラルティーデは、突然聞こえてきた笑い声に振り返った。振り返って‥‥動きが止まる。
「あれ、ジャパンの衣装ですよね?!」
 1人嬉しそうなのはフェムだけだった。じたばたもがくのをしっかり捕らえたまま、ジラルティーデは他の皆をちらと見る。
「‥‥気のせいかもしれませんが‥‥衣装が似合っていない気がします」
 ナッティの感想に、ヨーシアは大きく首を振った。
「あれは間違いなく変態さんだと思います!」
「それは多分禁句だ」
 そこには。
 ずらりと5人の男が並んでいた。色とりどりの巫女服を着て。
「我々は巫女レンジャー! 悪しきゴブリン達を解放しようとは不届き千本! 退治してくれよう!」
「ちょ、待っ‥‥って言うか、その桃色の衣装着た人! それ、うちの馬ですから!」
 正確にはアイシャの愛馬なのだが、1人が暴れる馬に跨って嬉しそうにしており、もう1人はミランの愛馬の手綱とナイフを持っていた。
「実に美味そうな馬だ」
「人の馬を食うな!」
「とにかく! たいじっ‥‥」
 号令を掛けようとした男が馬から落ち、アイシャの愛馬はさっさと逃げ出す。しばらく『巫女レンジャー』なる男達は騒然となったが、そこに絨毯に乗っていた3人が帰ってきた。
「‥‥私の馬を返して頂けませんか。野営地に置いてあったとは言え、無断借用は盗人と同じです」
「盗人扱いされては適わん。良かろう」
 素直に食糧にされそうだった馬は返却され、5人の男は仕切り直しだと立ち上がった。
「そんな事より、あの村をゴブリン村にしたのは貴方達ですか?」
 リーマが先に問いかけ、男達は頷く。
 彼らの話はこうだ。彼ら『巫女レンジャー』はその村に住んでいた。レンジャーたるもの、日々罠の発見設置に精進するものだと邁進し、村を丸ごと罠村と化して日々罠と戦っていた。或る日、ゴブリン達が近くの村に出没したと聞き、これはいかんと出動。ゴブリン達を退治したが奴らはそれを逆恨みし、群れを成して自分達を追いかけてきた。そこで罠村に閉じ込め、奴らが反省するのを待っているのだと言う。
「だが奴らめ。一向に反省せず近付くと襲い掛かる始末だ」
「‥‥それは飢えてるからでしょ‥‥」
「とにかく、邪魔をする奴は許さん!」
 男の1人が手に持っていた物を突然投げつけた。とっさにジラルティーデが前に出、両手を広げる。
「ジラルティーデさん!」
 庇われたリーマの目前で、彼はとても幸せそうな微笑をきらきら浮かべながらゆっくり崩れ落ちた。
「‥‥言っただろう‥‥俺はお前の盾になる、と」
「初めて聞きました」
「後は‥‥任せた」
 がくと倒れたジラルティーデの上には、鉄製の鍋が転がっている。
「えーとですね‥‥。邪魔をするつもりでは無いのですが、やはりゴブリンにも多少のゴブリン権が欲しいと言いますか、どうせなら一思いに斬ってあげたほうがいいと言いますか」
「あれでは、モンスターが人をいたぶるのと変わらない。人がモンスターを必要以上に虐げて良いという理由にはならないかと」
 戻ってきた愛馬を撫でながらアイシャに言われ、ミランに詰め寄られて男達は後退した。
「貴方達は、自分達の罠が上手く発動しているのが楽しいだけなのですね?」
 にっこり。リーマが微笑んで男達を見回す。指摘されて男の1人が持っていた槍を彼女に突きつける。
「恐れ入りますが、少しじっとしていて頂けませんか?」
 その笑顔に男達が見とれている隙に。
「死にさらせー!!」
 瞬時に狂化したリーマが、近くに居る味方もものともせず、高速詠唱グラビティーキャノンをぶっ放した。


 結局。
 門は開かれ、男達が用意してあった檻に生き残りのゴブリン達は入れられた。皆はゴブリンを気絶させて檻ごと地方騎士団の所まで運んだ。あの惨状を見た後ではゴブリン達を殺す気にもなれなかったのだ。だからと言って解放するわけにも行かない。結果は同じかもしれないが、ゴブリンが実に酷い目に遭った事は伝えてその地を去った。
「やれやれ‥‥酷い目に遭ったな」
 いろんな傷と疲れを癒す為、皆は『聖女の泉』に寄って薬湯にのんびり浸かった。
「‥‥ジラルティーデ殿」
「薬湯は体にいいと聞くし体調管理も冒険者の仕事だ。他意はないぞ?」
 笑顔の騎士様に、同じ湯に浸かっていたミランの鉄拳が飛んだ。

 その後、彼がどうなったのか。
 それは、ヨーシアの読み物にも書かれていない。