【パリ迷作劇場】母をたずねて30里位
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月17日〜07月22日
リプレイ公開日:2008年07月26日
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●オープニング
その日、神聖騎士見習の少年は貴重な休みを貰って荷造りをし、教会を出た。
賑やかな通りを抜け途中の店で土産を見繕って、彼は久しぶりに見る我が家の前に立つ。始めの頃こそ家から通っていたが、すぐに師の下で日々を過ごすようになっていた少年にとって、その1年は今までに無い長い日々であり、大きく成長を遂げたと思える月日でもあった。
「‥‥ただいま」
門とその奥の屋敷に向かって呟く。両親に会うのも思えば久しぶりだ。少しは成長したと思ってくれるだろうか。
決心して1歩踏み出した所で、ふと少年は異変に気付いた。いつも居るはずの門番が誰もいないではないか。
「‥‥あれ?」
門番は門を開ける係でもある。自分で開けてしまって良いものかしばらく考え、しかし居ないものはしょうがないので彼は重い扉を強く押した。
「‥‥うーん‥‥」
庭を通り過ぎる間に彼は幾つもの異変に気付いてしまった。母が煩く言うのでいつも綺麗に整えられているはずの庭の花が曲がっているし、この時期抜いてもすぐ生えてくる雑草が道からにょきと出ている。日中はすっかり暑くなってきたと言うのに、庭に出て涼むような場所も設置されていないし、その上。
「あのぅ‥‥」
玄関の扉が少し開いていて、そっと開いて中を覗いても誰も近くに居ない。曲がりなりにも貴族の家であるマオン家として、これはおかしい。
「‥‥お父さん‥‥?」
だが、廊下に散乱している衣類を見つけて少年は悟った。この光景には見覚えがある。非常に覚えがある。かつて少年が家に居たとき、たまに起こった現象だ。
「まぁ‥‥ジュール坊ちゃま!」
父親を探してうろうろしていると、突然厨房から声を掛けられた。
「え‥‥?」
どちら様と問おうとして、後ろから自らの父親が出てくるのを見たジュールは瞬時に脳内で想像を膨らませる。
「‥‥お父さん!」
「お‥‥おお、ジュール! そうか、今日帰ってくる日だったな」
「お父さん、セーラ様は結婚してからの恋愛は身を滅ぼすとおっしゃっているんだよ!」
「ななな何を言っているのだジュール」
「だからお母さん、怒って家出したんだね?!」
1年前までは考えられなかった息子の言いように、父親はおろおろし始めた。
「ちちち違うとも、息子よ。まぁ聞きたまえ」
「僕は見習だから懺悔を聞いてもきちんとお答えは出来ないよ」
「あの、坊ちゃま。失礼ですが口を挟ませて戴いても宜しいでしょうか」
「うん、いいよ」
「私は今年の春からこちらでお世話になっておりますサーリャと申します。先日、奥方様が使用人を伴われて旅行にお出かけになりましたので、私がお屋敷のお世話を仰せつかっております」
「いいか、息子よ。私はお前の母親一筋だ。断じて若くて肌の色が濃くて艶がある美女だからいいなと思ったりはしてないんだぞ?」
「そっか‥‥。ごめんなさい。早とちりしてしまって」
ジュールは素直に謝り、しかしここしばらく無かったはずの母親の『暴挙』の原因について尋ねてみる。
「それが‥‥お前の誕生日パーティについてな。日頃お世話になっている人や冒険者も呼ぶという話だっただろう。それで、どのような見栄えにするか、場所や食事その他について揉めてしまってなぁ‥‥」
何だかんだで貴族の娘であるジュールの母親はプライドが高い。実に見栄えの良い豪勢なパーティを開こうとして、見えない所には金を使わないでおこうと言った父親と対立してしまったらしい。
「だってなぁ‥‥。バードを50人呼ぶって言うんだぞ‥‥。王家の祝賀じゃあるまいし、どこの貴族が息子のとりわけ特別な時でも無い誕生日に、50人も用意するって言うんだ‥‥」
「うん‥‥そうだね。僕も‥‥質素なほうが嬉しいかも‥‥」
だがきっと、母親なりに祝いたかったんだろうと息子は思った。
「それで、お父さんはお母さんが帰ってくるまでこうしてるつもりなの?」
「だってなぁ‥‥仕方ないじゃないか」
「追いかけないの?」
息子に言われ、父親は目を丸くする。
「僕思ったんだけど‥‥こんな状態の家に皆さんを招待しても、お客さんのほうが遠慮してしまうんじゃないかなぁ‥‥。だから、他のお客様はお母さんが帰ってきてから後日にきちんとご招待する事にして、冒険者さんはいろいろお忙しいから、冒険者さんだけは予定通りにお招きしようよ」
「で‥‥屋敷の後片付けか?」
「お母さんを追いかけるの」
少年は散らかっている衣類を集めて片付けながら、突っ立っている父親に告げる。
「御者の人達も全員連れて行っちゃったんだよね? 僕、少しなら真似事出来ると思うよ。門番さんや護衛の人達は?」
「あぁ、上の階の掃除をしているな」
「きちんと家の護衛をさせて。留守中に泥棒が入ったら、お母さん怒っちゃうよ」
立派な物言いになった息子に感動しつつ、父親は何度も頷いた。
「馬車と馬はまだ居るんでしょう? みんなでお母さんを探す旅だと思えば楽しいよ。もしお母さんがお父さん見て逃げちゃったら、今度はちゃんとすぐに追いかけてね」
「わ‥‥分かった」
「お母さん、南か北かどっちに居るかなぁ」
母親は大概自分の親の実家がある所へ旅行と称して行っていたりする。
「南だろうなぁ‥‥」
「じゃあ南」
「すまんな‥‥。お前のせっかくの誕生日に‥‥」
「うぅん」
少年は笑顔を父親に向けて首を振った。
「旅をしながら誕生会も楽しいと思う。旅先でとか。青空に野原があって花が咲いてる所なら、うんと楽しいと思うんだ。それにお父さんと旅をした事もほとんど無かったよね。だから楽しみ」
素直に喜びを告げる息子に、父親は何度も何度も頷いた。
●リプレイ本文
●
緑の絨毯が風に揺られてうねる中、二台の馬車が南への道を進んでいた。
「ふふっ、奥様、お可愛らしい方ではないですか。意見を恐れずぶつけ合えるパートナーって、素敵ですよ」
とは、金髪美少年ミカエル・テルセーロ(ea1674)の感想である。少年と言う歳でもないが、人間にとってみればパラは少年少女に見えるというもので、そんなミカエルの頭をばふばふ叩きながら、ガブリエル・プリメーラ(ea1671)も笑ってウインクを返す。
「そぉよ。追いかけろってジュール君に言われて良かったわねぇ。ケンカした後、大人しく帰ってくるのを待つなんて、ダメダメよ?」
返されたのは同じ馬車に乗っていたジュール父。その艶に3度瞬きをした後、2度頷いた。
「イレクトラさーん。疲れたら交代しますね〜」
その馬車の御者を務めるイレクトラ・マグニフィセント(eb5549)に、井伊貴政(ea8384)が声を掛ける。
「あぁ‥‥その時は宜しく頼むよ」
貴族仕様の馬車は実に快適だが、御者席が暑い事に変わりはない。だが、灼熱の太陽が、海の女イレクトラにはよく似合う。綺麗に焼けた肌が、夏の光を浴びて眩しく輝いた。
一方、その後に続いている二回りほど小さな馬車の御者は、ライラ・マグニフィセント(eb9243)が務めている。
「今年はお祝いできますね‥‥。お誕生日おめでとうございます」
馬車の中でシェアト・レフロージュ(ea3869)がジュールに祝いの言葉を述べた。
「ありがとうございます。でも‥‥もう少し後なんですよ。20日です」
「あ、では‥‥お母様とお会い出来たら、丁度ご一緒にお祝いできる頃かもしれませんね」
嬉しそうに両手を合わせるシェアトに、同じ馬車に乗っていたサーリャも微笑んだ。その和やかな雰囲気に、手綱を持っていたライラも自然笑みを零す。
「良い‥‥誕生日にしようじゃないか」
長閑な田園風景の中、急ぐこともなく馬車は南へと足を進めていく。
●
昼はミカエルの地図が指し示すバーニングマップ、夜はシェアトが星を見上げ、馬車の進むべき道を導いて行った。
ジュールの母親が南にある町にいる事は間違いないようで、そこから動く気配も無い。シェアトがジュールの異母兄レオンに送ったシフ便は、滅多に集まることの出来ない家族の為に、その誕生日を共に皆で祝おうとのお誘いだったが、レオンはジュールが前もって言っていたように、やはり来ることが出来ないようだった。
「仕方ないです。お兄さんは秋に結婚しますから、準備に忙しいんだと思います」
「結婚?!」
少々大袈裟な反応をしたのはライラである。そんなライラにそそとシェアトが近付いた。
「そうなんですか。それはおめでとうございます」
ミカエルに言われてジュールも嬉しそうに笑うが、
「ライラさん‥‥お母様にはお話しました? お料理の腕を奮われたい人の事」
背後からシェアトに言われてライラは一瞬硬直していた。
「その‥‥シェアト姉‥‥ま、まだそういう話でもないし、その‥‥」
「レオンさんのご結婚は、お母様はご存知ですか?」
「はい、知ってます。シャトーティエリーの貴族の娘さんだって言ってました」
「だそうですよ、ライラさん」
「‥‥まぁ‥‥近いうちに言うさね‥‥」
「来れないのは残念だけど、その分私達が歌って盛り上げるわ。50人分‥‥はちょっと足りないかもしれないけど、ほら」
野宿をする為に、皆は馬車の近くに薪を集め、その準備を行っていた。ゆるやかにやってくる夜と沈み行く昼の光が混ざり合う空の中に、小さな光がぽつりぽつりと見える。
「その分は、星が歌ってくれるわ。夏の星は‥‥賑やかよ」
ガブリエルが指し示す空を見上げ、夏の風を感じるその夜は、皆で決めたジュールの為の星空演奏会。彼ら以外の歌い手と観客は、満天の星空と風に揺られて音を奏でる野草達。
皆のペットの囲まれて嬉しそうなジュールだったが、野営の準備はきちんと行っていた。
それを感慨深く見守りながら、ミカエルは隣に行ってテント張りを手伝う。
「少し見ないうちに随分逞しくなられましたね‥‥」
もたつく事なく手順通りにテントを設置するジュールに、ミカエルはそう声を掛けた。
「え‥‥そうでしょうか」
「はい。去年はまだ子供‥‥という気もしましたけれど」
「早く大人になりたかったんです。早く、追いつきたかったから」
何に、とは言わない。だがその横顔も子供から大人に変わっていく過程である事が見て取れた。
「僕は、最近は‥‥巡礼の旅に出ていたんですよね」
「巡礼の旅ですか?! どちらまで?」
「モン・サン・ミシェル修道院まで」
「うわぁ‥‥」
少年は感嘆の声を上げる。神聖騎士見習である彼にとって、巡礼の旅に出る事は憧れでもあった。
「興味がお有りなら、後で旅の間つけていた日誌などでも読まれますか?」
「はい、読みたいです!」
たちまち少年の笑顔になったジュールに、ミカエルは巡礼の話を分かりやすく話し始めるのだった。
前もってライラが用意して馬車に積んでいた食材を下ろし、更に彼女は魚を釣りにイレクトラと共に川に出かける。
「明日は僕も釣りますね!」
ジュールの笑顔に送られて、母子は川で釣り竿を振った。
「一緒に釣りか‥‥。何だかライラが子供の頃に戻ったみたいで懐かしいさね」
「そんなしみじみ言われても‥‥な!」
竿をぐっと引き魚を釣り上げるライラを、イレクトラは嬉しそうに見ている。その視線が恥ずかしくてライラは目を逸らした。
「ジュール君がさっき言っていたさね。釣りはライラが教えたそうじゃないか。たまに師と出かけると言っていたさね」
「あぁ、ベルトラン殿か。楽しんでくれているなら、何よりさね」
人数分の魚を釣って戻ってきた親子だったが、更にイレクトラは獲物を狩りに森へ出かけていった。ライラは貴政と一緒に夕食を作り始める。
「ライラさーん。香草焼きできましたよー」
貴政はライラを凌ぐ料理の腕を持っていたので、さくさくと料理を仕上げていく。ライラは『食卓の賢人たち』という写本も参考にしながら、パーティ用料理も作り上げて行った。本当は下拵えにもじっくり時間を掛けたい所だが、旅先ではそう上手くもいかない。
「米があれば美味しいジャパン料理を振舞うんですけどねー。秋になったら是非いろいろ振る舞いたいものですー」
のんびりとした風情ながらも料理の手さばきだけは素早く、貴政は出来上がった料理を器に移して行った。
イレクトラも獲物を狩って帰ってきており、それらの調理も手早く済ませる。
「さて‥‥楽しい誕生日になればいいですねー」
●
今にも降りそうな星空のもと、皆はジュールの誕生日を祝った。
父親やサーリャも同席し、食事に舌鼓を打ちつつ和やかに談笑する。父親は母親と出会った若い頃の話でノロケてみせたりし、ガブリエルが川で冷やしてきた果物を食後に食しながら、ワインなどで喉を潤す。
サーリャがシェアトから借りた涼風扇をゆっくり扇ぐ中、ガブリエルとシェアトが立ち上がった。
シェアトが歌い姿を現したムーンフィールドは、月の柔らかな光を受けて露が弾いて広がるように優しく微かな光を放つ。その球体の中で、彼女はガブリエルを見た。
「ガブリエルさんとは本当に久しぶり‥‥。本当に素敵なんですよ。しなやかな強さを持った‥‥華やかで優しい音色で」
「ありがと、シェアトさん。でも今夜の宴の奏者は私達だけじゃないわ。星を仰げば空から音が降ってくる。永遠に終わらない大合唱よね」
「はい」
変わりゆく面差し 伸びゆく背丈
陽を受けた若木のようなあなた
地から見上げ ただ祈る
煌いて 伸ばした手が 天に届く様
「‥‥ライラお姉さんは歌わないんですか?」
誰もが聞き入るシェアトの歌とガブリエルの横笛。その高く澄んだ音が空へとゆるやかに昇っていく様を感じながら、ジュールはライラにそう尋ねた。
「歌‥‥歌? あたしに振るのさね?!」
突然の事で驚くライラだったが、イレクトラの優しい眼差しを受けて少し考える。
「船乗りの子守唄で良ければ歌うが‥‥」
「ほら、あんたも歌いな」
「えっ‥‥僕、はそんな‥‥皆さんの前でお披露目するような声でもなく」
げし。ガブリエルに蹴られてミカエルは輪の中央に飛び出てしまった。
「船乗りの子守唄か‥‥。あたしも一緒に歌うとするかな」
懐かしそうに目を細めたイレクトラも立ち上がり、母子は明るいが穏やかな気持ちになれる子守唄を歌い始める。
「あ‥‥僕も歌いたいです」
「なぁに子守唄だからね。覚えるのは簡単さね」
ジュールも立ち上がってイレクトラから歌を教わり、ミカエルもそれに倣って貴政をちらと見た。
「んー‥‥僕も、歌はダメなほうなんですけどねー」
「そこは気合と勇気で歌うさね。多少音が外れたっていいさ。歌は、心で歌うもんだ」
イレクトラの言葉にガブリエルとシェアトも頷く。
そして、皆は父親やサーリャも混ざって歌を歌った。
満天の観客と草花に見守られながら、幾度も心を奏でる。
誕生日プレゼントは、その翌日ジュールに手渡された。
「僕が使っていた物なので、ぴかぴかではありませんが‥‥ジュール君は遊んだことありますか?」
「あ、はい‥‥でも苦手で」
「きっとお兄様とやってみたりしても楽しいですよ。考え事をする時にとても役立つ遊戯です。‥‥僕とも少しやってみましょうか?」
ミカエルからは大理石のチェス。
「これは身を隠す能力を高める。こっちは炎から守る力を持っている」
「わぁ‥‥こんなに貰ってもいいんですか?」
「神聖騎士として活動していくと、その内役立つときも来るだろうさね」
イレクトラからはワイルドシャツとイフリーテリング。
「時期的にはまだ早いんだが‥‥冬の寒さから守ってくれるだろう」
「え‥‥こんなに薄いのに? 魔法が掛かってるんですね」
「ジュール君。実り多き未来になるようにな」
ライラからは北風のマント。
「‥‥何時か正装されて、素敵なお嬢さんをお連れになる時を、楽しみにしています」
シェアトは水鏡の帯を手渡し微笑んだ。
「‥‥僕は‥‥」
「すぐに答えを出さないで下さいね。まだ、時間はあるのですから」
この子供が10歳のときから見守ってきた。少しずつ逞しく成長していく姿が、眩しくて寂しい。それでもいつまでも姉として居たいから、彼の出す答えを待っていたい。いつかは彼も‥‥シェアトやライラから巣立って行ってしまうのだろうが。
ガブリエルからは極上の歌と音。貴政からは極上の料理を貰い、翌日馬車は出発した。
時折川で釣りをする時はミカエルも参戦して横で真似をして竿を持ち、ガブリエルはペット達の世話をし、シェアトは扇で扇ぐ。
そして、馬車は目的地へと到着した。
●
ガタンと馬車が勢い良く屋敷を飛び出して行く。
「うわー‥‥凄い豪快な動きですねー」
貴政がそれを見てのんびり感心したが、父親は立ち尽くしている。皆が貴族の屋敷を訪れ、父親が母親と会った瞬間、彼女は凄い勢いでその場を出て行ってしまったのである。慌てて追いかけたが、そのまま馬車で去って行ってしまい父親は途方に暮れていた。
「何やってるの、追いかけなさいよ。貴方じゃなきゃ、捕まえられないわよ?」
ガブリエルに激励されて、父親は馬車に乗り込む。慌てて御者席に乗ろうとしたジュールを抑え、イレクトラが手綱を持った。
「あ。あたし達も追いかけてみましょ」
暴走馬車が2台、町を出て野に囲まれた道を走って行く。
だが父親は必死だった。道中皆から指導や意見も貰っていた。自由奔放な彼女を止める手段はそう多くない。
「おまえを〜〜〜あいしてるぞぉおおおおお〜!」
あらん限りの声を出して、父親は叫んだ。
母親も交えての星空パーティは、町の中の屋敷の庭でという事もあって、体全身で感じるような星と風の歌は聞こえてこなかった。母親と母親の親族はある程度体裁の取れるパーティを望んだし、貴政やライラの出番も無かった。ジュールは星空パーティがどれだけ素晴らしかったか母親に説明したが、母親はこう息子に告げる。
「貴方の良き事が私の良き事とは限らないのよ」
それでも、かつては息子を自分の価値観だけで動かしていた母親だから、彼女は彼女なりに成長したと言えるだろう。
ジュールはもう、はっきりと貴族の立場というものを理解していた。
「皆さん、ありがとうございました」
母親と父親を同じ馬車に乗せて帰る帰り道。
ジュールは皆にひとつひとつ宝石を渡した。聞いてみれば、実はれいの『壁』に何回か通って掘って見つけた物ばかりらしい。それを綺麗に知り合いの宝石職人に頼んで研磨してもらって、彼は今日の日の記念として皆に渡したのだった。
冒険者には本当に感謝しているから、自分が力を出して得た物を渡したかったのだと彼は呟く。
「僕は、皆さんが居なかったら‥‥この12歳の誕生日を、今とは全く違う日として迎えていたと思います。家族もみんなバラバラで、僕も未来に希望が持てないままだったと思うんです。だから、冒険者さんは本当に僕にとって、誰よりも大切な人たちです。今もこうして皆さんと繋がっていられる事が本当に嬉しい。僕も‥‥皆さんと同じように、誰かを救える人になりたい。なります」
パリへの帰り道も穏やかな旅となった。
母親とワイン片手に語るイレクトラ、ジュールと一緒に野草摘みに出かけるミカエルやシェアト、広がる夏の野でペット達を遊ばせるガブリエル、口煩い母親の為にも出来うる料理を作る貴政とライラ。
その夏の思い出は、皆と過ごしたからこそ特別な日となっただろう。
澄み渡った星空に包まれて皆で歌った。それはきっと、どんな贈り物よりも心に残って、彼自身を伸びやかに育てて行く。