或る少年と動物園と橙分隊
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月22日〜07月27日
リプレイ公開日:2008年08月01日
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●オープニング
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彼の名はミロ。人間。9歳。貴族の家に生まれ、何不自由ない生活を送りながらも足が不自由な為に外に出る事も出来ず、全てを斜に見ては使用人に八つ当たりし、自分の未来に何ひとつ希望を見出せなかった少年である。
そんな彼に、冒険者達は人生の厳しさ(?)と楽しさ(?)と想像の自由を教えたと言う。
9歳の少年は、自分の心が内だけに向いていて外に向けられていない事など教えられても理解出来なかった。心が死んでいく事を教えられても、何が生きている事で何が死んでいる事なのかも分からなかった。冒険者達が彼に教えた事は少々難しく、彼はしばらくそれについて考えていた。
が。
「坊ちゃん。れいのブツだ」
彼の専用護衛であるジャイアントがそう言って、彼の自室に入ってきた。
「『岩』か?!」
いつものように窓の外で遊んでいる子供達を見ていたミロは、その声に活き活きとした表情で振り返る。
「いや、卵だ」
「これが‥‥食事で食べたりしない卵か‥‥」
冒険者達が来た事で、ただ1つ。彼が大きく変わったことがある。それは。
「孵化させる、って言ってたな‥‥。どうやるんだ?」
「腹に当てて温めるのが主流だな」
「こ‥‥こう?」
大き目のガラの入った卵を腹にそっと当ててみるミロ。
「服の中に入れたらどうだ」
「うん、そうだな」
ごそごそ服の中に入れ、ミロは緊張した面持ちで護衛を見上げた。
「‥‥つ、潰れないかな‥‥」
「潰れるだろ」
「‥‥潰れたら‥‥どうなる?」
「中身が出てきて阿鼻叫喚の事態だな」
「‥‥どうすればいい?」
「寝る時は布に包んで底が平らな所に置くといい」
ミロは頷き、ベッドの上に置いてあるシーツを傍の卓にのせる。その時、部屋の扉が開いて使用人が入ってきた。
「頼んでおいた冒険者が参りました」
「分かった。通せ」
言われてやって来た冒険者は、一礼して背負っていた袋を床に置く。そして、中から幾つかの『もの』を取り出した‥‥。
●
「分隊長。北海の件ですが」
「あぁ」
パリの街中を、質の良い服を着た一行が歩いていた。帯刀しているが鎧は身につけておらず、一見貴族様ご一行のようにも見える。しかし全員の剣及び刀の柄に、橙色の房飾りがついていた。
「我らが彼の地に赴任すると言う話は」
「しばらく無いな。我々は引き続き、パリ周辺の不穏な動きを取り締まる」
「心得ました」
黒髪の男が頷くと、先頭を歩いていた女性の傍に居た茶髪の男が、ふと空を見上げる。
「‥‥おや、鳥が」
釣られてそれを見た最後尾を歩いていた若い男は、軽く瞬きをした。
「‥‥鳥でしょうか」
「翼がある生き物は全部鳥だって、どこかのエライヒトが言ってた」
「どこの偉い人なのか、貴様の頭をかち割って一度じっくり検分したい所だな」
彼の逆側を歩いていた銀髪のエルフが苦々しく言って、冒険者街のほうへ視線を移す。
「‥‥まさか冒険者がペットを野放しにしたりはすまいが」
「認識用の札でもついていると便利なんだがな」
黒髪の男が呟いて、それから同じように空を仰いだ彼らの上司を見やった。
「いかがなさいますか。あれはどう見てもドラゴンかそれに類するものと思われますが」
ゆるゆると西に向かって飛んでいくそれから目を逸らし、女性は後方を振り返る。
「アルノー。騎士団に連絡を。あれの後を追って何か問題を起こさないか見張りをせよと。山や森に入って他に危害を加える様子無くば、それ以上追う必要は無い。人に慣れているようであれば捕らえよと」
「承知致しました」
若い男が一礼して去っていく。
「フィルマン。お前は‥‥」
次に茶髪の男を呼ぼうとして、女性はその姿を一瞬目で探した。そして、その広い視界の奥に目的物を見つけて軽く息を吐く。
「あぁ‥‥そうですか。それは大変だ」
「勝手に持ち場を離れるな」
「いや、このご婦人が腰が痛いと言うからちょっとさすって差し上げようかと」
背後からやってきたエルフに笑顔でそう答え、茶髪の男は老婦人の腰を摩った。
「貴様‥‥貴婦人の身体に気安く触れるとは、騎士として許し難い行為だな‥‥」
「え‥‥いや、そんな抜刀までして、嫌だなぁギスラン」
道の端で何やら剣呑な空気を醸し出す2人を見つつ、分隊長は残った黒髪の男を見上げた。
「あれは放っておけ。‥‥あのドラゴンは昇って行くように飛んでいた。方角からすると飛び始めたのは冒険者街からではない」
「気になるようでしたら、街の者に話を聞いて‥‥」
その時、2人の耳に異変を感じる音が聞こえた。振り返る2人のほうへ、何かがどんどん近付いてくる音‥‥。
「暴走馬車か」
「止めますか」
「民に被害を出すな」
「承知」
黒髪の男が、物凄い勢いで走ってくる馬と馬車を見据え、時期を見計らって御者台に飛び乗った。一瞬バランスを崩したが立て直して手綱を引く。
だが、かなり走ってから止まった馬車だけではなかった。その向こうから、悲鳴や怒声と共に人々が走ってくるのが見える。否、明らかに逃げている。
「‥‥何があった」
その中の1人を捕まえ問うと、男はぶるぶる首を振って叫んだ。
「貴族の屋敷からモンスターが! モンスターが沸き出てるんだ!」
「ギスラン、テオドール! 民の引率と避難を」
「分隊長は!」
「私は件の屋敷に出向く!」
たちまち混沌と化した道で叫び、分隊長は人々の流れに逆走し始めた。
●
ペットを飼いたい。
ミロはそう両親に告げた。たくさん飼って、いつか‥‥外で遊んでいる子供達に見せてやりたい。そう、彼は自分の希望を告げた。ずっと、外で遊んでいる子達が羨ましくて。いつかその輪に入りたくて。でも、貴族であり体の不自由な自分では、彼らと共に過ごすことなど出来ないだろうと、そう思っていた。でも、『動物達の見学を許可する』という名目なら彼らを招待できるのではないか。ミロはそう考えた。勿論、冒険者に見せられた数々のペットを見たときの感動を、彼らにも教えてやりたいとも。何より、外に出られない自分だから、『外の生き物』が欲しかったのだ。
冒険者が飼いすぎて困っているペットを引き取り、頼んでエチゴヤでペットを買ってきて貰い、ペット用にモンスターを捕らえるハンターに捕ってきてもらい、屋敷は確かに『動物とモンスターの家』と化した。
だが、彼らを育てる人間の数は、彼ら『ペット』の数よりも遥かに少なく‥‥。
そして。
●リプレイ本文
●
その屋敷の周辺は騒然としていた。
「この高貴なる私の推理では、大方どこかの檻から逃げ出したペットね。民草の生活を守るのも高貴なる者の勤めよ」
おほほほと笑うジャネット・モーガン(eb7804)の周囲にも別の意味で人だかりが出来ている。そこへ駿馬からひらりと降りたアニエス・グラン・クリュ(eb2949)がやって来て、近くに見知った人物が居る事に気付いた。
「イヴェット様、フィルマン先生、ご無沙汰しております」
「‥‥お、イヴェットも来てたのか」
ペガサスとやって来たのはファイゼル・ヴァッファー(ea2554)。その後から馬を引いてきたのはユリゼ・ファルアート(ea3502)と、一緒に釣りをしていたシェアトだ。そのバックパックからにゅるりとイールが顔を出したので押し込める。
「わわっ‥‥あの屋敷から出て来たんでしょうか」
スカーフで頭から耳まで隠したアーシャ・ペンドラゴン(eb6702)も騒ぎに通りかかって右往左往している動物を眺めた。
「何さね、この騒ぎは。‥‥一体何があったのさね?」
「とにかくこの騒動は放っておけないわ」
ライラ・マグニフィセント(eb9243)と頴娃文乃(eb6553)も辺りを窺い動き出そうとしたその脇を、七里靴を履いたエレイン・アンフィニー(ec4252)が駆け抜けていく。
「怪我人の方はいらっしゃいますか?!」
真っ先に屋敷内に入った彼女を追って、皆も動き始めた。
●
屋敷内からモンスターが現れた。しかしその表現はあまり正しくない。
「歌声聞こえるでしょう? あっちよ」
シェアトの歌に興奮して暴れていた馬が落ち着き、泣き喚いていた人々も冷静さを取り戻して行く。その声が聞こえる所までパニックに陥った人を連れて行くのはユリゼ一人では至難の技だったので、近くに居たアーシャや文乃やライラも手伝った。近所の人々も集め、手近な教会へとライラが連れて行く。一人で皆を統率するのも難しい話だったが、歌を聞いて落ち着いた人々を出来る限り移動させる。
ユリゼはスクロールを開き、テレパシーやチャームで。アーシャはオーラテレパスで。文乃はユニコーンのオーラテレパスで動物を宥めて行き、屋敷内へ誘導して檻などに入れて行った。屋敷内でエレインが応急手当を施した人から屋敷で飼われていたペットの総数を聞こうとしたが、彼らも混乱していて話にならない。
「あの‥‥どなたかお手伝いをお願いできませんか?」
怪我をした人に手当てをして行きながら屋敷内を歩いたが、怪我人以外の者とは会わなかった。とにかく水をと厨房に入ると、何かを床でがつがつ食べている音がする。
「‥‥ゴブリン!」
覗き込んで目が合った。何故こんな所にと思った瞬間、それは慌てて逃げていく。とっさにアイスコフィンで固めて眺めると、それは随分小さい姿のように思えた。
「‥‥子供‥‥なのですね‥‥」
一体誰が連れてきたのか。親と引き離されて見世物のようにして売られてしまったのだろうか。エレインはそれを哀れに思いながら、一旦その場を後にした。
「‥‥はっ!」
一方、ジャネットは捕獲用ロープを投げて居た。屋敷近くの外に残っていたペットは全てごく普通の動物だったが、興奮している動物を手懐けるのは骨が折れる作業だ。ホーンリザードと対峙しながら、彼女は餌を見せ付ける。途端突進してきたリザードの体に輪になったロープを通すようにして、力の限り締め上げた。
「やり過ぎたかしら‥‥。まぁ仕方ないわね。これも民草の生活を守る為」
捕らえた獲物(?)を屋敷まで運び、更には暴れ馬を誘導して近くに残っていた民草に網で押さえさせる。しかし誘導とは名ばかりで餌を片手に必死に逃げただけのジャネットだったが、概ね人々にも怪我は無く捕獲に成功したようだ。
「怖くない、怖くない」
「‥‥噛まれてるように見えるんだけど?」
「えへへ〜‥‥これくらい平‥‥」
「ちょっとぉ‥‥倒れないでよ」
アーシャが暴れ犬を手懐けようとしてうっかり噛まれて文乃に助けられたりもしている。ユリゼはファンタズムも使って道を塞ぐ幻影を作っていたが、目に頼らない動物には突破されたりもしていた。
ライラは住民を移動させる途中で、そうやって突破した動物と対峙する事もあったが、牽制した後に鞭で取り押さえ人々を避難させた後で屋敷に連れ帰っている。途中から民を同じように避難させていたテオドールと会い、アルノーが連れてきた騎士団も共にその作業に当たった。
アニエスはイヴェットと共にミロの部屋に来ていた。固く閉ざされた扉を何度かイヴェットが体当たりして壊し中に入ると、ベッドの中に座っているミロと両親とおぼしき2人の男女が居た。
「大丈夫‥‥のようですね」
怪我をしなかった使用人は皆逃げてしまったらしく、屋敷内にはほとんど人が残っていない。しかし両親は動けない息子を守る為に残ったようだった。
「手を借りれば、皆さんも避難できたのでは?」
「卵がっ‥‥あるんだ」
ミロはぷっくり膨れたお腹を抱えるようにして座っている。全ての発端が彼である事を使用人から聞いていたが、とりあえずペットの回収が先だ。アニエスは出て行き、イヴェットは微笑してミロに手を伸ばした。
「それを預かろう。決して死なせはしない。だから君も避難するんだ。いいね?」
一方ファイゼルはペガサスに乗って、空を飛んでいったものを追いかけていた。とは言え、ごく普通の鳥を捕らえるのは野生の鳥と混ざって最大級に至難の技だ。なのでそれは諦めて、首に紐を巻きつけているイーグルに。
「うりゃああ!」
退魔刀で峰打ちを食らわせて半ば叩き落したが、自分も反動で落ちかけてペガサスにしがみつく。
「どう?」
ペガサスを通じて『怖くないわよ』などと伝えてもらっていた文乃も空に上がってきて、首に色付紐が掛かっているものを見つけては宥めて行った。アニエスも箒でやって来て、涼しい日陰に逃げ込んでないか空から見ながら裏地図を頼りに目星をつけていく。日陰に居たのは犬や猫だったが、オーラテレパスや保存食で引き付けて、1匹ずつ屋敷に運んだ。
空を飛んでいるペットの鳥のほとんどは、特に暴れる様子もなく飛んでいるが屋敷に素直に帰るほどの絆は持ち合わせていないようで、逃げていこうとしている。自由を取り戻した彼らを野放しにしてもどこかに被害が出る様子も無かったので、2人は大き目の鳥だけ捕獲して屋敷に戻った。
●
モンスターが出た。
その叫びは波紋のように広がったわけだが、実際はほとんどモンスターではなかった。確かに熊や狼や鷲が居り、厨房ではゴブリンがまだ固まっていたが、彼らのどれもが子供である。2mを越える蛇が狭いところに逃げ込んでしまった為それを見つけるのに時間を要したが、エレメンタラーフェアリーやウッドゴーレムなども見つかって、飛空系の一部を除いた全てを捕らえ、屋敷内のあるべき場所にしっかりと入れた。
「ね、こんなにたくさんの動物‥‥どうしてかな? 絆を深めないと危険な子もいるのよ」
一通り落ち着いた夕刻、ユリゼがミロに声を掛ける。
「そうですよ〜。動物園計画があったみたいですけど、こんな大事になったんだからご近所さんが怒りますよ」
「そうね‥‥。感謝なさい。このような奇跡は二度とないのだから、次からは気をつけるといいわ」
アーシャとジャネットにも言われ、ミロは黙り込んだ。
「だがそもそも、何故ペットが一度に逃げ出す事態になったのか、その原因は知らないのか?」
「そーいやそーだよな」
イヴェットに問われて両親が口を開きかけた時、屋敷にジャイアントが入ってきた。そして、ロープで縛り付けた使用人らしき男を2人皆の前に突きつける。ミロの護衛だというジャイアントに脅されて震えながら口を開いた彼らの言う事には、ミロ専用使用人である彼らがペットの世話をしていたが、あまりの多さにやってられるかと憤慨。ペットたちの入っていた檻の鍵を全て外して外に逃がした上に、『モンスターが逃げ出したぞ〜』と周囲に叫んで回ったらしい。元々ミロの無謀な命令ばかりを聞いて抑圧されていた彼らはそうする事で気分爽快。他の使用人共々逃げ出したのだが、しっかりそれを見ていたミロの護衛に追いかけられて逃亡に失敗したらしい。こんな大事になるとは思わなかったと言う2人に、『もっと想像力を働かせて行動しろ』とイヴェットが叱りつけ、他の使用人達からも事情を聞いて相違なければ彼らを騎士団の詰所に送る事になった。これだけの騒動を起こしたのだから、貴族一家が元々の原因とは言え彼らには罪を償ってもらう必要があるだろう。
翌日からは、屋敷内外の掃除や片付け、ペット達が壊した柵などの修繕とご近所周りにお詫びのお茶会を開く旨を伝えて回る作業に移った。
「今後も屋敷に住むなら、住民の皆様の信頼を低下させないほうがいいですよ?」
アニエスにそう言われ、また両親も近所と事を荒立てるつもりは全く無いらしく、素直に言われるままに頷く。
しかし貴族が毎日一軒一軒謝罪しながら回るのも可笑しな話である。その代わりを務めるかのようにエレインが周辺の家をお詫びと治療をして回り、屋敷で開かれる茶会に来てもらえるよう頭を下げて回った。
住民達も日が経つにつれ元の生活を取り戻し、使用人達も帰ってきて主人を置いて逃げるとは何事だと護衛に脅されたりもしたが、一応平常通りに生活を始めている。
「使用人との絆からまず築いたほうが良さそうね‥‥」
その様子を見ながら文乃が言ったが、それを築き直す為には課題も残るだろう。
「まぁでも動物園は‥‥志には賛同するけど、ちょっと無計画だったかな?」
「このまま全員飼い続けるのは無理よ、ミロ君」
文乃、ユリゼの言葉にミロは小さく頷く。
「そうですね‥‥。ペットの数に対してお世話をする人が少ないですし、それに‥‥ペットを飼うなら責任を持つ必要があるんですよ」
アニエスは今は連れていないけれど、と自分がグリフォンというモンスターを飼っている事を告げた。
「もし彼女が一般人を襲ったなら、自ら手にかけるつもりでいます。モンスターでなくても、馬も暴れれば危険ですし、ゴーレムも居ましたよね。他のたくさんの動物達‥‥彼らを飼う責任を、貴方は自分に課す事が出来ますか?」
「名前つけてる子、いる? 自分で毎日餌をあげて話かけて世話をして‥‥。絆を深めるってそう言う事よ」
「まぁどっちにしてもね。動物園計画を進めるならアタシも協力できる事はあるかもね。動物の習性や飼育のやり方とか、まずペットの主人であるミロ君が知っておかないと駄目じゃない?」
「うん」
文乃の言葉には、ミロは深く頷く。
「そうですね‥‥。動物やモンスターが好きなら、生態を研究する学者さんを目指すのも良いかもですね」
一歩も歩けなくても、出来ること。学者の道もあるのだと言われ、ミロは考えこんだ。
●
茶会が始まった。
まず始めに両親とミロから今回の事について謝罪の言葉があり、冒険者の助言もあって飼うペットの数を減らすという話が出た。アーシャが冒険者やエチゴヤに売ったりオークションに出したり、普通の動物については一般人に買い取って貰えるかもと話し、その売上金は今回動物が暴れて被害が出た家や人に渡したり、動物園計画に充てたりしてはどうかとあらかじめ告げている。
ライラ特製のウーブリやガレットが運ばれ、香り豊かな香草茶とジャム、果実を詰めたパイも食卓を飾った。ミルクや水に果汁を混ぜ、ユリゼが魔法で凍らせる。そんな夏に最適な菓子が出た上に、ユリゼは釣り上げたイールを焼いて出した。
「フィルマンは知ってる? ジャパンでは夏に食べると元気が出るんですって」
「それは是非食べないとね。君のお手製だし」
「お手‥‥別に焼いただけよ」
なんてやってる2人の横で、イヴェットがもりもりイール焼きを食べたりしていたが、その姿に皆も食事に手をつけ始める。
「あぁ‥‥イヴェット卿には肉料理も用意したさね」
「お心遣い、ありがとう。貴女の料理はいつも美味しいですね」
「はぁ‥‥それにしてもよく食べるねぇ‥‥」
文乃が呆れながらもイールに手を伸ばし、そこにエレインがやって来て橙分隊の1人1人に感謝の気持ちを伝えた。貴族のお詫びの場である茶会にブランシュ騎士団橙分隊員がぞろぞろ5人も居るのだから、参加した住民達の中には逆に緊張する者も居たようだ。そんな風に和気藹藹をやっている女性陣をファイゼルは遠目に見つつ、食事を運んだりしている。更に、『至高の存在たる私が居ては皆緊張するでしょう』と茶会に参加せず、外の高台で民に『安心しなさい。もう大丈夫よ。この騒ぎを鎮めた世界一(略)』などと言っているジャネットにも飲み物を運ぶファイゼルだった。
「まぁこういう失敗を積み重ねて男は大きくなっていくもんだ‥‥」
イール焼きをつんつんしているミロに近付いてそう言っていると、そこにイヴェットがイール焼きを持ってやって来た。
「今回は裏方だったのだな」
「そりゃまぁ‥‥冒険者じゃ男は俺1人だったしなっ」
「あれとかこき使っても構わないぞ」
あれ呼ばわりされた男はユリゼの横で楽しそうにしている。
「これは食べたか? ライラ殿曰く『秘伝のたれ』で味付けされているらしい」
2人の視界の先ではライラがアルノーに給仕して、笑顔で何か言われて赤くなっているのが見えた。そこへアニエスが寄って実に良い笑顔をしながら明るく何か言っている。それを聞いて赤みが120%増になったライラが慌てて手を振りながら何かを言い返す中、
「お疲れ様って言ってるんですからっ! 何か返してくださいよ〜」
「『馬子にも衣装』」
「それどーいう意味ですかぁっ」
その手前をアーシャとギスランが通って行った。
「‥‥パリはいつでも賑やかだな‥‥。このイール、北海の岸でもよく捕れるらしい。今度食べに行ってみないか? ファイゼル」
「へっ‥‥? 俺と?」
「勿論仕事でな」
何か企むように笑う女に、ファイゼルは目をぱちくりして‥‥そして笑った。
「‥‥ありがとな、花」
傍に佇んでいたエレインに、ミロがそっと言葉を投げかける。
「いいえ。ミロさんの心にも素敵な花が咲きますように」
そう言って微笑んで、ふと思い出したように彼女は付け加えた。
「‥‥そうです。ミロさんさえ良ければ、私の生徒さんと一緒に遊びに来てもいいですか? 動物園をお作りになるなら、その時にも」
柔らかな音で尋ねる彼女に、ミロはそちらを見ずに小さく頷いた。
「うん‥‥待ってる」