暗殺者達の午後〜表〜

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:11〜lv

難易度:やや易

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月27日〜12月02日

リプレイ公開日:2006年12月06日

●オープニング

 珍しく暖かな日差しが注ぐ、昼下がり。
 冒険者ギルドの受付前に、優雅な足取りで1人の男がやって来た。小奇麗な身なりに穏やかな微笑を浮かべ、彼は受付員と話を始める。まるで、世間話を始めるかのように。

「つまり‥‥暗殺者達を捕まえてほしい、と。そういうことですね?」
「えぇ、そうです」
 彼は手に持っていた袋の中から、数枚の羊皮紙を取り出す。
「これは似顔絵ですが、どこまで似ているかは分かりません。我々は彼らをずっと見張り続け、遂に機会を捉えて攻め込んだのですが、数人取り逃がしてしまったのです。我々も捕らえた者達の対処に忙しく、逃げた者を探す所まで手が回りません。彼らが、こちらで捕らえた仲間を取り返しに来ればまだ良いのですが、町中に紛れ込んでしまった場合、恐ろしいことになる可能性があります」
「確かに、暗殺者を野放しには出来ませんが‥‥」
 受付員は、羊皮紙に描かれた顔を見て、小さく溜息をついた。
「まだ、子供ですね‥‥」
「だから怖いのです。彼らには善悪の区別が付かない。何を仕出かすか分かりません。それに、既に何らかの暗殺の依頼を受けている可能性もあります。手遅れになる前に捕まえなくては。今はまだパリのどこかに隠れているのだとは思いますが、余り日数がかかればパリを抜け出てしまうかもしれません」
 そして、男は静かに袋の中から銀貨の入った袋を出して、カウンターへと置いた。
「どうか平穏なパリを保つ為‥‥。よろしくお願いしますね」
 そのまま男は、来た時と変わらない足取りで帰って行く。受付員はそれを見送りつつ、置き去りにされた数枚の子供の絵を見つめた。
「‥‥嫌な時代になったものだな‥‥。本当に」
 彼は軽く首を振り、その羊皮紙をカウンターの内側へと片付けた。
 間もなく訪れるであろう冒険者達に、直ぐにでもこの話をすることが出来るように。

 時が過ぎ、ゆるゆると西の空を緋い太陽が支配し始めた。
 やけに緋い、まるで血の色で染め上げたかのような空が、パリの上に広がる。
 何かが始まる、その幕開けのように。

●今回の参加者

 ea3869 シェアト・レフロージュ(24歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4470 アルル・ベルティーノ(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea5796 キサラ・ブレンファード(32歳・♀・ナイト・人間・エジプト)
 ea8988 テッド・クラウス(17歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb3503 ネフィリム・フィルス(35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb4667 アンリ・フィルス(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

マリー・プラウム(ea7842)/ 時奈 瑠兎(eb1617

●リプレイ本文

「‥‥アサシーン・ガール?」
 どんよりとした曇り空の朝。キサラ・ブレンファード(ea5796)は、冒険者ギルドで思わず受付員に聞き直していた。
「そうか‥‥別件か」
 暗殺者の子供達を捕らえる依頼。一瞬勘違いするのも無理は無い。
「探し人の該当者では無いが、子供の遺体が上がった、か‥‥」
「仲間かしら」
 川に、明らかに殺害された痕のある子供の遺体が上がっていた。発見されたのは、依頼人が来た時間と同じくらい。ではその前に既に殺されていた事になる。逃げた暗殺者の仲間かは分からないが可能性は高い。しかし、依頼人は追撃がかかっている事など何も触れていなかった。
「もし仲間だとしても、そんな風に放置するなんて‥‥許せない。弔いましょう」
 アルル・ベルティーノ(ea4470)とキサラは、子供が発見された場所へと急いだ。

 依頼人は名前こそ公開しなかったが、連絡場所は伝えていた。
 そこへ地味な庶民の服にバンダナ姿で1人の少年が訪ねて来たのは、夕刻前の事。
「ギルドから来た者ですが」
 具体的な話を聞きたいと彼らの家へ上がりこみ、テッド・クラウス(ea8988)は注意深く辺りを窺う。
 どうにも依頼人が怪しいと踏んだ彼は、独自に情報収集をする為、乗り込んでいた。そして、暗殺者たちの今までの暗殺の対象と手口や、依頼人達が攻め込んだという暗殺者のアジトの場所等、言葉たくみに細かく訊いて行く。勿論これは、実際に探索対象の子供達が見つかった時に有利な情報にはなるだろうが、それよりも依頼人の不審さを探る為のものだ。もしも様子がおかしいようなら、ギルドへ許可を取ってから公的機関へ秘密裏に調べるよう通報するつもりだった。
「我々が攻め込んだアジトは、現在厳重に監視中だよ。勿論捕らえたのはほとんど大人だった。連絡も取ってくるだろうと思われたが今の所動きは無いし、下手に近付いて警戒されても困るのでね。そこへ暗殺者が戻るようならば我々で何とかするし、その場合でも報酬はお支払いしよう。それでは駄目かな?」
 穏やかにそう言われては、強固に押し通すわけにもいかない。テッドは、とりあえず暗殺者達の情報だけを手に入れてその場を離れた。物腰は紳士だが、明らかに油断ならない気配を纏っている。その事を幾多の戦いをくぐり抜けて来たテッドは感じ取り、不信感を拭えないまま家を出ようとして。
「あなたに、お願いがあるのだけれど。可愛いお坊ちゃん」
 突然、横手の扉から出てきた美貌の女が。彼に笑いかけた。

 この依頼を引き受けた冒険者は6人。アルルの手伝いで情報集めをしていたマリーと時菜からの情報も得、彼らは二手に分かれて子供の暗殺者達を探し始めた。結局テッドが戻らなかった事は多少不安材料でもあったが、滅多な事は無いだろうと情報収集も含めて探索を続ける。
 シェアト・レフロージュ(ea3869)は始め、広場で歌を披露しつつ集まって来る子供達から情報を得ようとしていたが、あまり成果はかんばしくなかった。そこで翌日は方向転換。キサラと共に裏通りを進み、野良猫に餌をやりつつテレパシーで話しかける。
「この辺りには、居ないようです」
 新しく縄張りを持った子供がいないか尋ねたが、やはり欲しい情報は得られない。しかしそういった作業は地道に続けるものなのだ。ましてや相手は素人では無く、潜伏を得意としているはず。2人は先を進み、そして。
「‥‥あれは」
 路地を曲がった所に、ローブを着、フードを被った人間が2人立っていた。2人は下を向き、立ち尽くしているようにも見える。
「‥‥リシャール」
 片方が呼びかけたその名前。刹那、キサラは素早く彼らに駆け寄った。気配に感づいた2人は慌てて逃げ出そうとして駆け出すが、キサラが追いつくほうが早い。とりあえず片方だけでも捕まえて話をしなければと片方のローブを掴んだ時、男の顔が見えた。
「‥‥キミは」
 それはつい先日、依頼を受けて共に行動した相手の顔。さすがにこんな最近では忘れようはずもない。
「一体、何をしている?」
「お知り合いですか?」
 曇り空なのでシャドウバインディングをかけられなかったシェアトも近付き、その場に近寄る。そしてその顔を見て驚いたように一同を見回した。
「‥‥本当は追っ手を引き付けようと思ったのですが、仕方ないですね」
 そしてもう1人が、少年らしいやや高めの声をそれでも低く落として、小さく呟いた。
「あの名前に反応したという事は、ギルドで依頼を受けた方達ですよね。ご説明します。でもその前に」
 そして2人は路地の片隅に倒れている物へと目をやる。自然、キサラとシェアトもそれを見。
「‥‥ひどい‥‥!」
 そこには、昨日午後からの雨で幾分形の崩れてしまった、死後2日は経っていると思われる子供の姿があった。
「すぐに教会へ。‥‥少しでも早く安らかな場所で、祈りと歌を捧げましょう」
 シェアトがその傍らに膝を突いた後ろで。キサラは黙って後方の路地へと目をやる。僅かにその両眼が細められ。
「キサラさん?」
「‥‥すぐ戻る」
 素早く身を翻してキサラは角を曲がり、風のように立ち去って行った。

 それよりもやや後の事。
 ネフィリム・フィルス(eb3503)とアンリ・フィルス(eb4667)、アルルの3人は冒険者街を進んでいた。見慣れない子供が1人保護されたらしいという情報をマリーから得たからである。
「どの家でござるかな」
「しらみ潰しで行くしかないさね」
 ネフィリムとアンリは似顔絵を持ちながら市場などを探していたのだが、ジャイアント2人組は結構目立つ。結局見つからなかった為、アルルと行動を共にし、シェアト、キサラ組といつでもテレパシーで連絡が取れるようにしていた。
「この辺りと聞いたのですけど‥‥」
 ブレスセンサーで子供が居るかを確認しようと思ったのだが、生憎ここは冒険者街。冒険者の中には人間の子供と言える年頃ではあるが、立派に仕事をこなしている者もいる。彼らが家に留まっていれば見分けがつかなくなるわけだが。
「ここ、ですね」
 何箇所か訪ねてみた後、彼らは一軒の家にたどり着いた。
「たのも〜」
 アンリが声をかけるが返答は無い。だが、間違いなく中に子供が居る。目配せして、彼らは即座に扉を開いた!
 が。
「ゴーレム?!」
 いきなり2体のゴーレムが彼らの行方を阻んだ。しかも彼らへとその腕を奮って来る。予想もしなかった展開だったが、彼らの体は敵に対しては的確に動く。素早く避けて武器を構えた所で。
「外へ」
 不意に中から少年の声が飛んできた。
「オレは裏からそっちに回る。だからそいつを壊すな」
 ゴーレムの隙間から少年の姿が見える。一瞬、相手に逃げられる可能性があった為に彼らは躊躇したが、外へ出た。その時は追うしかない。説得も無しにいきなり動きを封じるわけには行かなかった。
 彼ら6人は、暗殺者の子供達を捕らえるか倒す依頼を受けている。だが実際に彼らが望んだのは子供達を助ける事。その為に、先に彼らを傷つけるわけにはいかない。
 しばらくの後、3人の前に少年が姿を見せた。
「尾けられてないだろうな?」
 先に問われて彼らはさりげなく辺りを探る。アンリは目を使い、殺気を感知しようとしたが、特に引っかかる所はなかった。
「その様子じゃ、あたしらが何者か分かってるようだね」
 ネフィリムの言葉に頷き、彼はちらりと出て来た家のほうを見やる。
「俺達を殺す為に雇われた冒険者だろ」
「違います。私達は‥‥見せしめに人を放置するような相手は、信用していません。依頼は受けました。けれども私達は、あなたの味方でいたいと思っています」
「とりあえず移動してくれ」
 少年は低く告げた。
「この家には世話になった。‥‥追っ手にここをマークされたくない」
「では二手に分かれて集合場所に向かいましょう」
 アルルの言葉に皆は頷き、決して見つからない方法で、彼らは少年を連れて向かった。

 その日の夕刻。
 一同はこの為にとった宿で顔を合わせていた。先ほど3人が連れ出した少年は、ネフィリムのバックパックの中身を他の2人が分けて持ち、その中に彼を入れてかついで運ぶという荒業で連れて来たのだが、特に具合が悪そうな気配は無い。
「では助けた冒険者達が、あなたの仲間を集合場所に探しにいっているのですね?」
 少年はリシャールと名乗った。彼は4人の冒険者に助けられ、その4人が仲間達を探しに行っているのだと言う。キサラも、リシャールのふりをして追っ手を自分に注目させようとした冒険者と会った話をした。彼らから聞いた内容とリシャールの話す内容はほとんど同じだ。
 暗殺者として育てられ、彼も含めて7人で逃げてきたこと。2人は殺され、後はどうなっているか分からない事。ギルドに依頼を出したのは、恐らく彼らを育成した彼らの組織の誰かだろうという事。
「連絡を取る必要があるでござるな」
 彼らを助けようと決めた者同士が、ばらばらに行動する必要は無い。しかもリシャールが居なくなったと彼らが知ったらどうなる事か。
「私は追っ手と見られる人間を捕らえた」
 キサラが、囮の死体が転がっていた場所を見張っていた人物がいたことを話した。
「何も話す事なく毒を飲んだが」
 彼女が結局誰も連れて来なかった事から、その後の顛末は明らかだ。
「とにかく向こうの人も含めて、皆で話し合いましょう」
 人数が増えれば捜索もしやすくなる。かたと椅子から立ち上がりかけた所で、部屋の扉が開いた。
「戻りました」
 2日ほど姿を見せなかったテッドが入って来て、見慣れない少年に目を留める。紹介されて頷き、彼はその2日の間にあったことを話した。
「指輪を盗んで行ったそうです」
 依頼人との話の後に声を掛けられた女について、彼はそう告げた。
 子供達を殺さなくても、その指輪を取り返してくれれば依頼人達には殺されたと言っておこう。報酬もそれ以上に出す。女が持ちかけた取引に、テッドは取り敢えず乗ったのだが。
「正直、胡散臭いとは思います」
「その話は本当だ」
 そこへリシャールが口を挟んだ。仲間の1人が女の指輪を持ち出し、逃げようと皆を誘ったのだと言う。それに乗って皆は逃げ出し、首謀者の少年はまだ見つかっていない。
「組織の頭の女で、指輪に執着してた。指輪さえ返せばという話が本当かは分からない」
「まぁ疑ってかかったほうがいいだろうな」
「幾つか策はとったほうがいいでしょうね」
 まず子供達の命を守りたい。その為に、彼らは動き続けていた。

 4人の冒険者に連絡を取り話し合った結果。1人は保護。1人は逃げられ後2人が見つかっていない事が分かった。リシャールともう1人をその宿で守り、リシーブメモリーによって子供達の顔を記憶した、シェアト、アルル、似顔絵を持ち歩くグループとに分かれて動く。
「待ちな!」
 市場の裏通りで子供を見たという情報を元に、ネフィリムは逃げる子供を見つけて追いかけていた。それを背後から回り込んだアンリが挟み撃ちにし、少年は行き場を無くして壁に手を掛ける。そこを素早く斧の平で気絶させたネフィリムが、少年を抱えて嘆息した。
「何で人の顔見た瞬間逃げるかねぇ」
「ふむ。何ででござろうなぁ」
 ジャイアントの兄妹は知らないだろうが、彼らはジャイアントという種族そのものを見た事がほとんど無かったのである。驚くのも無理は無いのであった。

「大丈夫ですか?」
 攻撃されてかわした男に声をかけてから、アルルとテッドは逃げ出した少女を追う。
「アサシンガール‥‥では無い、ですよね?」
 思わずテッドは呟いたが、そう思わせるものがあったのは事実だ。少女だからというのもあるだろうが。
 しかし少女に追いつくのに時間はかからなかった。テレパシーで呼びかけるか迷ったものの、アルルはアイスコフィンの巻物をばらりと開く。少女の笑顔に危機感を覚えたからだ。テッドもゆっくりと距離を詰め、不意に少女が服の中から瓶を取り出すのを見た。とっさにそれを叩き落そうとして、僅かに早く口元に運ぼうとした姿のまま、少女は凍りつき固まる。
「間に合い‥‥ましたね」
 ほっとしたように笑い、アルルは巻物を片付けた。

 結局、リシャール以外の4人の内、1人を助ける事は出来なかった。だがそれは予測内だったらしい。リシャールは頷いて彼の形見となった指輪を布に包んで一同に手渡す。
「これはそのまま女に手渡して欲しい。良くない物だと思うから」
 指輪さえ返して貰えればうまく言っておくと告げた女。本当にそれで追っ手がかからなくなれば良いが、念の為に子供の髪や衣服を証拠として提出する。
 そして皆は、1人1人に今後を聞き、それに応じた生き方の提案を挙げていく。暗殺で身を立てない事を条件に、パリを出たい者はパリを出る手続きを取ってやり、保護先に書面をしたためる。精神的に不安定になっている少女だけは、キサラの提案によりアサシンガール保護で有名な教会へ送る事になった。
 ギルドを通して暗殺者組織を調査してもらえるよう頼んだから子供達が狙われる事は無くなるだろうが、それもしばらく後の事だろう。だが、彼らは自由に生きる未来を手に入れたのだ。
「ありがとう、皆を助けてくれて」
 最後にリシャールが感謝の言葉を簡単に告げ、去り行く馬車の中から一同に手を振った。
 
 そうして冒険者達の協力で子供達は命を永らえ、暗殺者の組織を確実に1つ、解散に追い込むことが出来た。この事で不幸な子供は僅かだが減り、パリの平穏な生活も僅かに約束された事だろう。
 しかし。

「ふふ‥‥。やっと戻って来てくれたのね‥‥」
 とある一室で、女はうっとりと自分の指先を見つめていた。
「あたしの大切な大切な‥‥。もう、離さないわ‥‥絶対に」
 その女の薬指には。不気味なほど美しく黄金色に輝く、細かい装飾を施された指輪がぴったりと納まっている。だがよく見ると。その指輪には小さな文字が刻まれていた。         
 ラテン語で一言。
 『人形』と。